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    <title>あなたの文章真面目に酷評します@wiki</title>
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    <description>あなたの文章真面目に酷評します@wiki</description>

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    <title>酷評お願いしますAAAA</title>
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    <description>
      　　　一
      
　覗いた先は暗闇だった。少女は手探りでハンド・ライトを見つけ出し、スイッチを入れた。もはや暗闇でなくなった収納の中で、少女は記憶を探り始めた。
　日本では珍しいアップライト型の掃除機を持ち上げたところに、それはあった。小さな台だが十分届くだろう。ハンド・ライトを脇にはさみ、両手でしっかりとそれを抱えて、ゆっくりと足を進める。ドアはまだ影も見えない。少女は生まれて初めて、自宅の廊下の長さを意識した。それでも、進むことをやめる気持ちはなかった。
　だいじょうぶ。きっと神様が味方してくれる。何といっても、今日は特別な夜なのだから。

　　　二
      
  真っ暗で誰もいないリビングに、時を刻む音だけが響いていた。時刻はもう午後七時を回っている。急がなくてはいけない。
  ツリーの組み立ては済んでいる。足りないものは一つだけ。カーペットの上に灯りを滑らせて、金色の輝きを探す。空き箱と包装紙の山の中から、掌ほどもある星を拾い上げると、少女はツリーに目を向けた。
  一呼吸し、右足を持ち上げ、少しずつ踏み台の上に体重を移していく。左足で床を強く蹴り、くるむように台を抱える。揺れはすぐに収まった。手の中の感触を確かめながら、ゆっくりと体を持ち上げる。ふだんなら天井が見えたのだろう。しかし、今日は違う。少女が目にするのは、果てのない星空だ。
  二年前のクリスマスに、彼女は魔法使いになった。父がくれた黒い魔法の珠。それがあれば、ボタン一つで家の中は宇宙に変わる。家族三人で星々を数えながら過ごした奇跡の夜を、彼女は今でも鮮明に思い出すことができた。
  眼前のひときわ目立つ星は、シリウス。Ｗの形をした星々は、カシオペア座。東の地平線に見える星の群れは、プレアデス。父と同じ名前を持った星。
  時計の音が、聞こえた。
  一度目を閉じて、息を止める。ゆっくり吐き出す。また吸って、吐き出す。針が刻んだ音に耳をすます。一つ。二つ。三つ。目蓋の裏の光が消えたことを確認してから、少女は再び目を開けた。今の彼女はツリーよりも背が高い。軽く身を乗り出して、その頂に星を結びつけた。
　――完成だ。

  
　　　三
      
　時を刻む音だけが、少女に世界が停まっていないことを教えてくれる。八時だ。
  50インチのプラズマテレビの下で、ハードディスク・レコーダーが小さなうなり声を上げたのを、彼女は聞き逃さなかった。今年出荷された、父の会社の新商品だ。動いているか不安になるくらい静かだと、テレビでお笑い芸人が言っていた。それが冗談だと彼女は知っていた。その機械は父の代わりに、母の出演する番組を一年中追いかけていた。
  音に促されるように、少女はテレビを点けた。シリウスよりも眩しい光が、少女の顔を照らす。いつもの安っぽい音楽の後に聞こえてくる、いつもの母の声。遠いのに、近い音。近いのに、とても遠い声。よそ行きのおかしな声と感じていたはずの声。それが『いつもの声』になったのは、一体いつのことだったか。
  チャンネルを変える。画面を覆う母の姿は一瞬で消え、黒い街灯に照らされたロンドンの下町に入れ替わった。『クリスマス・キャロル』。一目でわかった。去年と同じ番組だ。
　去年の今日は、一日中テレビを観ていた。いい子にしていれば、クリスマスには奇跡が起こる。その日、テレビが教えてくれた。今年の自分はいい子にしていた。言いつけを破ったことはない。留守番は慣れたものだし、買い物も一人で行ける。運動会に急に行けなくなったと言われたときだって泣かなかった。もちろん自分は、あの可哀そうなティムではないけれど。足が悪いわけでもないし、お金がないわけでもないけれど。けれどそれでも、奇跡が起こるこの日を、一年もの間待ち望んで来たのだ。
  ドアのチャイムが鳴る。クリスマスの精霊がやって来た。

　　　四

　目が覚める。眠っていたようだ。あわてて時計を見ると、午後十時。頭を振って、眠りに就く前のことを思い出す。
  訪ねてきたのは宅配便のおじさんだった。雪で遅い時間になってしまってすまないと、謝られてしまった。キッチンの引き出しから取り出したハンコを、送り主の名前を見ないようにしながら押す。別れ際の「メリー・クリスマス」。待っていた言葉をくれたのは、顔も知らないおじさんだった。少女はその日初めて、声を上げて泣いた。
  午後十一時。また泣き出したくなる気持ちを抑えて、少女は食卓へ向かった。灯りはもう必要ない。星空の下で、少女はケーキの蓋を開けた。いちごとチョコレートで彩られた真っ白な生クリームのケーキ。薄暗い食卓の上で、それだけが確かな色を持っていた。少女はキャンドルを取り出し、メレンゲで出来たサンタを避けるようにしながら、白い世界を次々と侵していく。家族と同じ数だけ伸びたキャンドルを見て、少女は微笑んだ。椅子の上で立ち上がり、父の手つきを思い出しながらマッチを擦ると、鈍い輝きが誰もいない食卓を照らし出した。赤。青。黄。色づき始めた三本のキャンドルが、今度こそ奇跡を呼び起こす。
  指先の熱を堪えて、少女は赤色のキャンドルに火を灯した。明るい光の中に現れた、シャンメリーの瓶。中央の大皿にはロースト・ターキーが王様のように鎮座している。山盛りのジンジャー・ブレッドは甘い匂いで周囲を満たし、彼女を懐かしい景色で包み込んだ。
  匂いが消えた。食卓の上の料理も消え失せ、少女は再び暗闇に包み込まれた。今や少女を照らすものは、星々のか細い光だけだ。
  もう一度マッチを擦り、青色のキャンドルに火を灯す。光を取り戻した世界の中心を貫くのは、少女が飾り付けたクリスマス・ツリー。その頂からは金色の星が少女を見下ろしている。その真下には、朝から出かけたっきりの父の姿があった。
  少女は歌い出したくなる気持ちを抑えるために、宅配便の包みへ視線をやる。最後のキャンドルに火を灯そうと、少女はマッチ箱に右手を差し入れた。
  マッチ箱を見つめる。手の甲が隠れるくらいまで指を送り込んで、奥を探る。添えた左手を離し、右手を軽く振ると、箱は吸い付くようにその動きを追いかけてくる。右手を抜き、箱を目の高さまで持ち上げる。何もない。膝をついて、床の上を手で探る。ハンド・ライトのことは忘れていた。
  時計の針がうるさい。午後十二時三十分前。時計は少女の願いに構うことなく、今日という時間を終わらせようとしていた。

　　　五
      
　午前零時。凍りついた時間の中で、最後の火が消えた。ケーキは涙で滲んで見えない。星の名前も思い出せない。輝くものは全て消え失せ、取り戻すことはできそうにない。少女は遂に暗闇に飲み込まれた。
  動くことをやめた世界で、電話の音だけが鳴り響いている。    </description>
    <dc:date>2011-11-24T01:00:06+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/66.html">
    <title>酷評お願いします0628</title>
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    <description>
      　この玩具のような列車がふうふう息を切らしてよじのぼっているのは、ヒマラヤ連峰のはしっこに続く、それ程標高のない――また有名でもない――とある山だった。はるか昔、このあたりで採れる紅茶の葉を目当てにしたイギリス人たちが鉄道を通し、ついでのことに、この辺鄙な土地にある、この国にしては比較的ゆるやかな登りでのぼりつける山頂に保養所やら療養所やらを開いた。当時はそれなりに人が訪れて栄えたものの、現在ではすっかりさびれはてている。気軽な旅行の目的地にするにはあまりにもヨーロッパから離れすぎているし、いまどき探検行に出ようとするものもおらず、第一この登山列車の沿線から上れる位置には、シェルパを雇ってのぼるような高峰はなかった。ジープを使ってもっと北まで入り込まなければ、このあたりに有名な山はないのだ。大戦前ののんびりした時代に、本国から放り出されて植民地にひまをもてあまして死ぬほど退屈している金持ち連中くらいしか、わざわざこんな辺鄙な場所で休暇をすごそうという変わり者がそれほど多いはずがなかった。
　ウゴリーノは、昔から休暇のたびに多少行き慣れていた山歩きを、この機会にすこし本格的にやってみようと思って、便の少ない不便な鉄道を延々と乗り継ぎ、このインドの山奥までやってきたのだった。たった一人で、暇はあるけれども金はなく、またヒマラヤの高峰を制覇するには程遠い素人のウゴリーノは、なんということもなくただ友人がこれもアジアへ旅行したさいの心覚えに教えてくれたこの路線の名前をたよりにここにやってきたのだった。友人の言う辺鄙で不便で退屈だという目的地は、ウゴリーノの今の心にぴったりかなっていた。彼はまず何よりも、日常の環境から遠く離れて、退屈と言うことをしてみたかった。若い彼の両頬は健康そうに日焼けして輝いていたが、心中はもう少し複雑だった。考えねばならぬことは多く、日常の雑事に気をとられずに、一人になることが今は必要だった。この休暇に山歩きを目的にしているのも、これは彼の貧乏根性と言うべきで、本当は登山などしてもしなくてもよく、本当は旅そのものが目的の旅、日常から離れることを目的とした旅なのである。
　
　ウゴリーノはぼうっとカップをもてあそびながら、もう一方の手で、金茶の巻き毛に取り巻かれた額を小さく掻いた。彼の前には、三ヶ月、少なく見積もっても二ヶ月という時間が開けていた。これほど長い期間を何もせず過ごすのは、ウゴリーノには初めてのことだった。はっきりした予定というほどのものは何もなく、ただ例の何となくぼんやりとした目的地があるばかりだった。気が向かなければ、直ぐに引き返して他の国に出向いてもいいし、別に山など登らなくても誰もかまいはしない。
　旅に出てから四日という時間は、ウゴリーノを既にきまりきった長年の習慣から切り離し、妙に高揚した気分にさせていた。ましてや故郷からこれほど離れた異国の地に来ていれば。長い移動に感じる筈の疲労も、若く頑健なウゴリーノにはそれほどのことでもなく、むしろ旅の高揚を更に持ち上げるのに役立った。インドはすべての点で、彼の知っているいかなる場所とも異なっていた。それが面白くもあったし、少々疲れもしたが、これから先の旅程を考えると思い煩うべき数々の事柄にもかかわらず、妙に心は踊った。
　
　
　
　汽車は汽笛をぴいっと鳴らしながら原住民の集落を横切り、ウゴリーノはまた窓枠にぶつかるカップを押さえた。古ぼけた車体はもうだいぶんがたが来ていて、床のワニスなどはもうとっくの昔にはげ落ちている。ウゴリーノの座る二人がけの座席は、もうひとつ、同じ形の座席と向かい合わせになっていた。座面は、元は赤いびろうどだったものがすっかり毛がすりきれ日差しに色あせて、今は白茶けたなんとも言いがたい色になっている。窓枠はがたがた鳴る重い鉄枠で、ふちに近いところが茶色っぽく変色して全体にくすんだ、分厚い透明ガラスがはめこまれていた。ウゴリーノがカップと文庫本を放り出しているテーブルも、黒い鋳鉄に木板を嵌め込んだものだった。こちらはニスがはげるどころか、どうやら木の芯が腐っているようで、黒っぽい辛気な色をして表面はささくれていた。
　実に実に、百年以上前にイギリス人たちがこの鉄道を敷いた時以来、この客車は部品一つ取り替えられていないに違いない。ウゴリーノは足下に置いた大きな荷物の上に足を載せなおしながら、呆れたような、感心したような面持ちで、ぐらついている窓から外を見下ろした。当然冷房などあるはずのない車内の、むっとする熱気を逃がすために、車内の窓はほとんどが開け放たれている。時折あらわれる短い隧道をくぐる度に、黒煙が窓から入ってきて閉口する。既にウゴリーノの日によく灼けた顔は、幾分か煤で薄汚れているようだった。
　恐ろしいほどの狭軌の鉄道は、今では数も少なくなった、原始的な機関車に引っ張られていた。玩具のような小さなタンクに、やたらせわしげに煤混じりの煙を吐き出す短い煙突をせせこましく押し込めた、ウゴリーノの見たこともないような古い型の機関車が、三両ほど繋がれたこれも玩具のような客車を、ぽうぽうと煙を威勢良く吐き出しながら、のんびりとした調子で引っ張っていく。ウゴリーノの乗っているのは一等で、これは彼の他には退役軍人らしき老人とその連れの老婦人が乗っているきりでがらんとしていたが、後ろに繋がれている二両の三等客車は、それなりに人が詰め込まれていた。大声でがやがやとなにかしゃべっている黒い顔の家族やら、窓から身を乗り出して、道を行く知り合いに何事か怒鳴っている近隣の農夫らが、賑わしく元気よく、天井の低い客車にひしめき合っている。
　
　大体この国は人が多すぎる。ウゴリーノはまたぼんやりと思い、黒煙を吐き出す前方に向けていた目を、周囲の風物に向け直した。汽車は山間部の細い道を走っていた。山岳鉄道を通す技術がまだ十分でなかった時分、イギリス人達は随分と工夫して、この狭軌鉄道を元からある山道の上に通したらしい。こんな山の上にもいくつもの集落があり、かなり多くの人間がそこで日々の生活を営んでいた。登山列車の軌道は人々と山道を共有している以上、錆びたレールは、汽車の通らない時間には人間や山羊の引く荷車を載せたり、車輪つきの荷台で遊ぶ子供等のすべり台になったりしているものらしい。今もひっきりなしに鳴らす汽笛を聞いて、枕木の上に敷いた筵をみすぼらしい商品ごと抱えあげて脇にのけるのにおおわらわな老人がはるか向こうに見える。一日一本の汽車が走るその横を、荷車に大量の荷を積んだ老婆がこともなげな顔をしててくてくと登っていく。目も眩む高さの崖っぷちにへばりつくように建てた小屋に、何をしているのかきせるをふかしながらのんびりと座り込んでいる痩せた男がいる。頭の上に壷を載せた女たちが列車と行き違う。わっと叫びながら子供たちが列車を追い越して、道の端にある大岩によじ登って機関車の男たちに駄賃をねだる。
　その道の向こうは遙かな絶景だった。カトマンズの高地が遙か彼方に白く空と溶け合い、切り立った尾根は永遠の氷河を載せて、アジアの激しい太陽に高々ときらめく。こんな彼方を走る汽車の窓からでも認められる大きく裂けたクレバスの黒い淵。空の青よりなお青い、宝玉のように輝く聖なる湖。白々と輝く山肌に埋め込まれたトルコ石は、太陽の輝きを地上に映したように燦々と輝いていた。低速で走る汽車は、狭く赤錆の浮いた線路の直ぐ脇に生える、小さな珍しい花の花弁に触れることさえ許してくれる。窓の外から聞こえてくるがやがやと人のしゃべり合う声と相まって、この光景はウゴリーノに異国に、彼が生まれ育ったヨーロッパから遙かに遠く離れたアジアの地、旧約にうたわれたガンガーの岸辺に来ているのだという感慨を深く抱かせた。    </description>
    <dc:date>2011-06-28T19:14:11+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/65.html">
    <title>酷評願います</title>
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    <description>
      ――僕は生まれが雪国で、昔はこの辺りに住んでいたのですよ。小学校に上がって二年ばかりして関東へ
越してしまいましたけれどもね。
　珈琲を啜りながら彼はそんな風に言った。
　――いつだったかの冬休み、不思議なものを見ましてね。
　　◇
　冬というと車の排気ガスのにおいが思い出されます。零度前後のよく冷えた排ガスのにおい。あれは僕
にとってはスケートリンクの上を通る氷上清掃車のにおいでした。それまでたくさんの人が滑ってずたず
ただった氷の表面が、清掃車が通ると新品同様にツルツルときれいになります。まるで新雪を踏むような
心地で、僕のような子どもたちは先を争って氷の上へ滑り出したものです。
　ここらで一番近かったリンクは××山の山中にある湖が凍りついてできる天然のものでね。もう今はなく
なってしまったが、よく滑りに連れてってもらいました。ある日、僕らが丁度着いた時分が清掃の
時間だったことがありました。湖面からみんな引き上げてしまって、誰もいなくなった湖の上を、貸し靴
屋の小父さんが運転する清掃車がゆっくりと周り始めていました。
　僕は湖を前にして、もう滑りたくて滑りたくて、焦れてじっとしていられないほどでした。しかし父は
僕を荷物の上に座らせて、スケート靴のひもを締めにかかりました。
「あまり遠くへ行くんじゃないよ」母親が傍らであれこれ言っていました。
「氷に穴が開けてあっても近づいてはだめだよ。万一落ちたら心臓麻痺を起こすから」
　僕は半分聞き流すようにして頷きながら、力強い父の手が足をぎゅうと締めつけるのに耐えていました。
靴に体重を預けたときにも足を捻ってしまわぬために、どんなに痛くとも我慢してこれをしっかり結ばね
ばならなかったのです。
「さあできた。いっといで」
　丁度結び終えたあたりで、清掃も済んだようでした。ぽんと靴を軽く叩かれたのを合図に、僕は湖面に
飛び出して行きました。磨かれたばかりの湖面の氷は澄みわたること真水のごとく、子どもの目にはガラ
スよりも透明でした。
或いは底が見えやしまいかと、僕は湖の真ん中を少しすぎたあたりで立ち止まり、足元を覗き込んでみま
した。
　底はまったく見えませんでした。ただ黒々と深い暗闇が漠と広がって在ります。そもどこからがその闇
で、どこまでは確実にこの透明な氷があるのやら、それさえ判然としません。よくよく目を凝らすと、浮
き上がろうとしたところをそのまま氷に閉じ込められたものでしょうか、かすかでちっぽけな空気の珠が
そこここにぷくぷくとついていました。
　そうして闇は深く深く、まるで夜そのもののように氷の奥にたまっておりました。
　僕は途端に恐ろしくなりました。自分がまるで足下に夜空を踏んで立っているような、一歩踏み外せば
底のない中空を果てまで落ちてしまうような気がしたのです。凍てついた泡の珠も深過ぎる夜から逃げ損
ねた星かに見えました。「万一落ちたら心臓麻痺を起こすから」という母の言葉が思い出されました。思
えば僕はそのとき生まれて初めて、確実に起こりうる現実として、己が死ぬということを明確に知ったの
だと思います。
　僕はその晩熱を出して、夜半に大層浮かされました。夜が明けると熱も下がってけろりとしていたんで
すが、両親は心配してちょっと養生しなさいとどこにも連れ出してくれなかった。精々が縁側でほんの少
し雪遊びをさせてくれる程度でね。もちろん僕は気に入りませんでしたよ。特にその日は科学博物館へ連
れて行ってくれる約束だったのに、突然反故になって大いに不満でした。
　博物館にはプラネタリウムにロボットに惑星模型に恐竜のホネに、といろんなものがありましてね。入
り口のホールのところに飾ってある、魚を模した絡繰り仕掛けの宇宙船だとかが僕は大好きで、見に行く
のを楽しみにしていたんです。
　それでも両親の判断は正解だったようで、夕方からまたぞろ熱が出始めて、僕は朦朧とするはめになっ
た。ずっと母親がついて看病してくれていたんですけれども、食事の用意などしなければならないから一
度外すことになった。心配ないよ、すぐに戻るからね。何かあったらすぐ呼びなさい、と言い置かれたの
に頷いたことは覚えています。
　その後はすぐ眠ってしまったんでしょう。
　ふと気がつくともう部屋は真っ暗になっていましたが、母親はまだ戻っていませんでした。母が気を利
かせたものか、庭の石灯籠のろうそくが点いているようで、窓の外にぼんやり甘い灯りがともっていて、
障子の影が敷布団の上にざあっと広がって落ちていました。
　僕はしばらくその灯のあたりを見るでもなしに眺めていたんですがね。
　ほんのわずかに開いた障子の隙間に、突然ぬっと現れたものがあったんです。
　それは金色のうろこをびっしりつけた、何かの胴のように見えました。錦鯉のようでもありましたが、
大きさがそんな比じゃあありません。堅そうなうろこの一枚一枚が子どもの僕の手のひらよりも大きかろ
うと思われたほどでしたから。
　それが一ぺんにゅうっと通り過ぎてしまって、そしてもう一度戻ってきました。そのとき障子に映った
影は、確かに大きな魚の影でした。
　僕はびっくりしてすぐには動けなかったんですが、影の主の方は僕が見ていることを知ってか知らずか、
何度もそのあたりの中空をくるくる泳ぎ回るようにしていました。僕は気づかれないようにして、そうっ
と布団を這い出て障子の隙間に目をつけて、外を覗いてみたんです。
　そこにはでっかい魚が一匹、三十センチもつもった庭の雪の上を悠然と泳いでいました。昔のガレー船
のオールの先のような太くて平たいひれを動かして。
　魚はしばらく庭をくるくるしていましたが、突然ぐいと尾びれを動かして石灯籠に近づきました。そう
してぐるんと灯籠を囲んでしまうと、ふっと灯籠の灯りが消えました。
　あっと思ったときには、魚の喉元というか、えらのあたりが中からすうっと明るく照って、やがてみえ
なくなりました。魚は灯籠の灯りを喰ってしまったんです。
　ぱくぱくと口を開閉したのち、魚はすっと泳ぎ去って行きました。僕はあわててそこらにあった上着を
引っ掴み、庭に出ていた自分の靴を突っかけて魚を追って飛び出しました。
　魚は中空をぐいぐい泳ぎながら、街頭の灯りもぱくぱく飲み込んで行きます。    </description>
    <dc:date>2011-05-08T10:14:25+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/64.html">
    <title>酷評お願いします　　AAA</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/64.html</link>
    <description>
      　使われなくなって久しい旧校舎の一角にある、薄暗い体育倉庫のなかで、人の姿をした一組の動物が交わっている。
体育用具の放つ独特な臭いと、動物共が放つ激臭が混ざり、混沌としたその空間に、畜生の浅ましい息遣いと鳴き声が
響き、微睡んでいた少年は目を覚ました。
　生来の不器用さと人見知り、そして奇特な性格から、孤独な学校生活を送っていた少年にとって、休み時間に訪れる
この場所は、殺伐とした日常に平穏を与えてくれるオアシスだった。
　そこへあらわれた一組の男女は、知性ある人間とは思えない、傍から見れば獣めいた、とても汚らわしくみえる行為
に耽り、跳び箱の影から覗く少年の存在には気づいていない。
　僕の憩いの時間を台無しにし、あまつさえ聖なる学び舎で肉欲に溺れようなんて、破廉恥な輩は一体だれだ？
　もっとよく見ようと、跳び箱の影から心持ち、少年は身を乗り出した。
　さあて、こんな場所で性欲を発散させるお下劣な男はダレ――ってウソ、秀才君？　とすると、女ノコは当然――
うん、やっぱり委員長だ。へえ、しかし意外だな、あの品行方正なお二人がね……。で……何をやってるんだろう？
　「ん……ん…んっん」
　少年の眼前で、二人は抱き合い、口づけを交わしていた。時折、傍らに置かれたパックから得体の知れない内容物を
掬い取っては、口移しで相手に食べさせている。その内容物はとてつもない臭気を発散させていた。先天性の臭不全の
所為で、少年はその異様な臭いに気づくことは無かった。
　「っん、ああ、おいしい……。ケンチャンの言うとおり、タンパク質を十分に摂取するだけで、こんなにも芳香で濃
厚なモノになるなんて」
　「必要な要素を取り込めば取り込むほど、果実は毒々しく実っていくもんさ。それに、ただ質がいいってだけじゃな
いよ？　僕と美咲を紡ぐ真実の、いや永久の愛という隠し味があるからこそ、ただの嗜好品が、至高の一品へと変わる
のさ」
　至高の一品だって？　あのどす黒いモノが？　一体なんなんだろ。ここからじゃ良く見えないな、もうちょい近づく？
でも見つかっちゃうと困るしなあ。あーあ、せめて匂いが分かればいいのに。
　「ふふ、嬉しい。ケンちゃんたら、いつにもまして雄弁ね。じゃあ、次は私のを食べてえ」
　少女は、その所有者に相応しく、可愛らしい装飾の施されたパックから内容物を口に含むと、まるで芳醇なワインを
楽しむように、しばらく舌で転がしてから、口づけを交わした。少年には分からない激臭を、辺りに漂わせながら。
　うわ、またやってる。それにしても口移しだなんてなんだか気持ち悪いなあ。普通に食べればいいのに。でもすごく
気持ちよさそうな顔してる。そんなにいいもんなのかな？　今度僕もやってみようかな、パトラッシュ相手に……うへえ、やっぱやめよ。
　「っん、ああ、いい、おいしいよ美咲。でもね――これ、何だと思う？」
　彼は口の中から何かを取り出すと、美咲に突きつける。人差し指の腹に乗った、小さな残骸は、消化不良のグロテスクな肉塊だった。
　「あ、だめ、見ないでえ」
　「いや、そんなわけにはいかない。見てごらん、皮、というよりも皮だったもの、と言ったほうが適切かな。これは
君の不実の証だよ。そもそもあの偶然の出会いから――」　
　なにか口から出したけどよく見えないや。なんなんだろ。それに不実って？　なんかもう色々と訳ワカメ。つうか
突然だけどうんこしたい。やばい。早くで照ってくれないかなあ。
　「そんな、不実だなんてひどいわ。さっきの言葉はウソだったの？」
　「さっきの？　ああ、僕らを繋ぐ赤い糸――「違うわ、私たちを紡ぐ永久の愛、よ」
　「ああ、いやパターンを変えただけで、意味は一緒だよ。しかし意外だな、君が愛なんていう曖昧な概念に固執するなんて」
　「何が言いたいのよ。ねえ、私を愛してないの？」
　「馬鹿だなあ、もちろん、愛してるよ。僕が殊更に歯の浮くようなセリフを言ったのは、人間には少なからず、
短絡的なある種の連想癖があるからなんだ。例えば、ある人が好意を寄せる相手の好物がカレーだったとする。
するとその人は、好悪の区別に関係なく、カレーを好きになるものなんだよ。つまり、好きな人が好むものは、
例外なく好きになるものなんだよ、それが一時的な錯覚に過ぎないとしてもね」
　何を言ってるんだろうこの人は。愛がどーのこーの、そういうのはもっとロマンてっくな場所でやってもらいたいね。ああ、漏れそう……。
　「よくわかんないけど、私のこと愛してるって、信じていいの？」
　出したくない、出したくないのに……！
　「もちろんだよハニー。僕の心には、君という大きな楔型が打ち込まれていて、他の人間が入り込む僅かな隙間もありゃしないよ」
　「うれしいわ、ダーリン」
　ああ……もう……出しちゃってもいいよね？　パトラッシュ……。
　世に在る恋人同士によく起こる、痴話げんかのはての愛の嵐は、常識から照らすと異端なるこの二人にも例外なく
適用され、情熱に突き動かされるまま、ひしと抱き合い、熱烈な接吻を交わし始めた。しかし、場所柄さえ良ければ
微笑ましいといえる恋人たちのひとときは、少年の股間から放たれる、人間の生理現象が生み出す最も大きな音によって、ぶち壊された。
　「え……？　だれか、居るの？」
　「あれは僕らにとって馴染み深い音色だな。だれだ、そこにいるのは！」
　二組の双眸が、闖入者の隠れているほうへ向けられる。こうなっては仕方ないと、観念した少年は、おずおずと姿をあらわした。
　「えっと……その……」
「おや、君はワタライ、くん、だったかな？　うん、そうだ、渡り会うと書いて度会。いやはや、君のアイデンティティには
相応しからぬ名前だと思っていたが、そうでもなかったようだねえ」
　「やだ、どうしよう。ねえ、どうしようケンちゃん」
　「落ち着け、美咲。大丈夫だよ、渡会君は話の分かる人さ。渡会君がここで見たことを言うとは思えない。
だって、彼が僕らを敵に回すとは思えないから。そんな得にもならない、返って今よりもさらに悲惨な日々を
送る原因を彼が自ら作るとは思えない、思えないよ、ねえそうだろ、渡会君？」
　まるで蛇のような、偽りの微笑みの下に隠された毒牙に、少年は今まで感じたことの無い、異質な恐怖を感じた。
だめだ、逆らっちゃ――蛇ににらまれた蛙のように縮こまった少年は、ただうなずく事しかできなかった。
　「ほらね？　渡会君は人見知りがちな性格から誤解されやすいようだけど、本当はとても心の広い、優しい気質の持ち主なんだよ。
だから、たとえ誰かに脅されようと、僕らの秘密について、決して口を割らないよ、そうだろ？　ワタライ」
　少年はオウムのようにうなずく。蛇の逆鱗に触れたくないがために。
　「ああ、よかったわ。一時はどうなるかと思ったけど。信じていいよね、渡会君？」
　「おいおい、言わずもがななことを言うんじゃないよ美咲。もちろん、渡会君は僕らの信頼を裏切るような真似はしないよ。
……でも、もし裏切ったら……許さないよ？」
　少年の萎縮した反応に満足したのか、彼は連れを伴い、この場を去った。今にも泣き出しそうな少年を残して――。


　それからというもの、これまで執拗に少年の周りに蔓延っていた陰湿ないじめの影は消え、
依然より平穏な日々を過ごせるようになり、オアシスを求めてさまよう事も無くなった。
しかし、その人間性ゆえか、大きな障害の無くなった今でも、少年は孤独だった。
　いいんだ。一人は慣れてる。でも――と、少年は折りある毎に思うのだ、一体、彼らは何を食べていたのかと――    </description>
    <dc:date>2010-08-22T21:51:54+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/63.html">
    <title>酷評お願いします一</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/63.html</link>
    <description>
      はじめまして。 
のそのそ書いてますが最近これでいいのか的なノリになってきたので
皆さんの批評を頂いてみたいと思います。 

http://hebigamimi.jugem.jp/    </description>
    <dc:date>2010-07-13T09:52:30+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/62.html">
    <title>酷評お願いします５</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/62.html</link>
    <description>
      　しかし彼の耳は生き延びて、男が怒鳴るその声をはっきりと聞いた。けれどもそれが自分に向けられている
気がまるでしなかった。
「どうや、思い知ったか！」
　男は自分の目の前で今は無様に圧倒されている、全ての腹の立つ、自分に恥をかかせた人々や物事に
向かって、そう怒鳴りつけた。
実際のところ彼らの顔や一つ一つの出来事はほとんど忘れてしまっていたが、先の彼の拒絶をきっかけに、
漠然と、常に自分の人生がうまくいかなかったことを思い出して、自分をこんな風にしてしまった、自分を
この場所まで導いてきた全てのめぐり合わせというものが、ふと強烈に憎くなったのだった。
　しかし今の自分には金があり、酔いに酔ってこれ以上ないほどに強くなっている。男には今度こそ自分を
抑えつけてきた目に見えないものを、逆に捻じ伏せてやれる、そのような自信があった。
「馬鹿にしやがって、畜生」
　男は口汚く吐き捨てると、興味を失った彼の身体を他所へ放り投げた。どさりと地面に崩れ落ちるのと
同時に彼は息を吹き返したが、最初の呼吸は蛇腹の空気入れを踏んだような音がした。心臓の動きに合わせて
鼓膜が震え、巨大な機械が何かを断絶するような音が繰り返し聞こえる。男の手が離れてしまっても絞めつけ
られていた喉はゆっくりとしか開かないので、すぐには楽になれなかった。
　嘔吐（えず）くような咳の音が深夜の路地に響く。
「……どうするんや」
　ぐったりと地面に横になって息を整えている彼に向かって男は言った。今まで通りすがりの人間のことなど
忘れていたくせに、酔っ払いは脈絡なく先の諍（いさか）いを蒸し返すのだった。
　彼が施したお粗末な看病やポケットティッシュの礼に男が差し出した得体の知れない現金を
受け取るか、否か。
「……受け取ります」
　彼は咳が出ない隙を見計らって早口に言った。
「そうか、それでいい」
　男は彼がよろよろと壁を伝って立ち上がるのを手伝い、そのまま手をとって重ねた紙幣を握らせた。これで
満足だった。すると自分の思い通りになってくれたこの優しい人とこれっきりになってしまうのが途端に惜しく
なって、何か約束をしたくて堪らなくなった。酔っ払いは自分の欲望に対して素直なものなので、先ほど自分が
首を絞め殺そうとした相手を脅すのではなく、しみじみと懇願した。
「俺は敵が多いからな、これを受け取ったら、あんただけは俺の味方になってくれよ」
　彼は黙って肯いた。打算のために従順な姿勢を見せているわけではなかった。
　暗がりで、一方向からさ青(お)い光が強く差しており、血塗れの男が彼を置き去りにして目紛るしく立ち振る
舞う、これは映画だった。
　その中で流れる時間に対して自分が無力であることを、彼は既に思い知らされている。だから最早賢しらに
ものを考えて疑ったり抗ったりしない。
　そうして彼はただ子どものように光る方へ吸い込まれてしまっているだけなのだ。
　そこで行われたことのいくつかは次第に忘れられるが、あるものはたとえ記憶の中で姿形が溶けて
しまっても、いつまでも彼に残り続ける。    </description>
    <dc:date>2009-11-28T01:31:12+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/61.html">
    <title>酷評お願いします４</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/61.html</link>
    <description>
      　小銭の鳴る音の後そこから現れたのは、分厚い紙幣の束だった。
　彼が再び目を剥いて驚いている内に、男はそれを無造作により分けて勢いよく突き出してきた。
「どうもありがとう。少ないけど、持っていって下さい」
　男は相変わらず愛想の良い酔っ払いだった。
　彼は油断していたところを突かれて口ごもり、だらしなく腕をぶら下げて立ち尽くしていた。けれども
ぼんやりと男の身なりを眺めていると、野暮ったいズボンと、掠り傷に砂の粒が入り込んだ運動靴とに札束が
全く馴染んでいないことに気がついて、面倒事になりそうな予感がした。そもそもこの男からこんな金を
受け取る謂れはないのだ、と彼は自分に言い聞かせ、都合のいいことを考えてにやつかないように歯を
喰いしばった。
「そんなつもりじゃなかったんです。本当に、結構なんで」
　社交性というものが乏しい彼には碌な断り方が思い浮かばず早口でそれだけ述べた低い声には、自分の中で
芽生えたかもしれない欲から目を離そうと意識し過ぎる余りに、迷惑そうな気色が隠されるどころか男に
向かって強く押しつけられていた。ただし相手の目を見てそんな態度で物を言う度胸など彼にはなかったので、
頭を下げているとも見えるように深く俯いている。
「…おい」
　男はその声で一瞬にして彼を恫喝した。反射的に彼が怯えた目で窺うと、たった今まで男の表情から
溢れていた愛想や親しみといったものが、いつの間にかふつと完全に消え失せていた。ぞわりと気味の悪い
こそばゆさが身体の中心から湧き上がり一斉に全身へ行き渡ったのと同時に、彼は自分がどうしようもない
失態を演じたのだと直ちに理解した。
「俺が受け取れって言うたんやから受け取れ。逆らう気があるんやったらかかって来い」
　低く唸るようにそう言うや否や、男は小刻みに二発突き出した拳をわざと彼の目の前で止めて一々反応する
のを面白がった後、うまく勢いのついた三発目を確実に鳩尾へ叩き込んだ。彼は力の加えられた方へ数歩
後ずさり、打撲の強烈な痛みと喉が詰まって酷く噎せ返ったせいで、訳が分からないまま蹲って地面に手を
ついた。頭に血が昇って異常に熱い。汗で湿った手のひらに尖った小石がへばりつく。
　彼は真っ赤な顔で吐くように咳き込みながら、生身の人間に一発殴られただけでこうも動けなくなるもの
なのかと自分の弱さを思い知り、驚いていた。
「情けないなぁ」
　男はまさに彼が考えていたのと同じことを言った。しかしいざ指摘されると、決して自分を誰かに
打ち勝てるほど強いと認識していたわけではなかったのに、堪らなく恥ずかしく、悔しかった。屈辱という
のはもっと志の高い人間のものだと彼は思い込んでいたが、案外原始的な感情なのかもしれなかった。
「立てよ」
　男が彼の前髪を力任せに引っ掴む。これで全身を吊り上げられては堪らないと彼は思わず男の腕を押さえ
込み、自分の足でよろよろと立ち上がったが、その瞬間に手を振り払われ、気付くと背後の塀に突き
飛ばされていた。
「……人のこと舐めとったら、ぶち殺すぞ」
　男の両手が彼の首を捕らえ、叫ぶ間も与えず握り締められた。腹の大きな二本の親指が喉仏に食い込み、
彼に強い吐き気を催させる。彼の息を止めるのは首の背面から突き上げてくる方の指だった。
　すぐ近くで眠っている人々がいるのに、自分が殺されそうになっているのを知らせることができないという
ことが、彼は俄かに信じられなかった。けれどもこんな呻き声では誰も目を覚まさない。自然と顎が開き、
ぐったりと舌が伸びて言うことを聞かない。
　彼の目の前では、街灯にさ青（お）く照らされた男の顔がある。今度の喧嘩では思い通りに暴力を振るい、
相手を捻じ伏せることができたので満足そうに、歯を剥いて笑っている。歯や目玉の表面、額から湧き出す
血潮といったあらゆる男の体液が、きらきらと繊細な光を反射している。光のせいで小さく震えるような
血潮の流れさえ目でとらえることができるようになっている。
　彼は男の息から酒の揮発する感触を皮膚に受けながら、それらから目を離すことができずに、むしろもっと
細かいもの、どうでもいいものを追ってしまうのだった。目蓋を圧迫する赤紫色の腫れ物が外側へいくに
つれて淡い虹色になっていく様子だとか、頬についている何かを押しつけた跡のような古い傷だとか。
“こんな夜中に意味もなく外を歩き回ってるような奴は、刺されようが殺されようが文句なんか
　言われへんのや”
　なぜか彼はいつか子どもの頃に父親が新聞を広げながら言ったことを、頭の中で繰り返し思い出していた。
死ぬかもしれないという目に見えない可能性だったものが、いよいよ彼を現実に覆い尽そうとしていた。
もうよく分からなくなってくる。
　“こんな夜中に意味もなく外を歩き回ってるような奴は、刺されようが殺されようが文句なんか言われへん”
ということは、自分が死んでしまうのは仕方のないことだったのか。
　けれども今もし彼が口を利けたなら、阿呆のようにみっともなく、死ぬ、死ぬと泣き喚いているに違い
なかった。こんな得体の知れないものが怖くない人間などいない。死ぬことを望んだり喜んだりするのは単に
負担から逃れられることに対してそうしているのだ。生きている人間と死んだ人間の境目をわたるときこそが、
人の過ごす時間の中で最も恐ろしい瞬間である。
　いつの間にか彼の視界は白い光が溢れかえって、もう男の血塗れの顔もぼんやりとしか見えなくなっていた。    </description>
    <dc:date>2009-11-28T01:27:23+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/60.html">
    <title>酷評お願いします３</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/60.html</link>
    <description>
      　その瞬間、街灯の柱の陰から、倒れ落ちる最中の人間の半身が光の下に突然ぬらりと現れて、しかし
その身体は化け物じみたでたらめな身のこなしでやがて平衡を取り戻した。
　弾かれたように彼は短く声を上げ、息を呑んだまま剥き出しの目でその男に見入った。旋毛を向けるように
項垂れていた男が鬱陶しそうに右目を拭い上げたとき、割れた額から湧き出した血潮がその顔中をべったりと
濡らしていたからである。
　男はよろめきながら大股で踏み込んできて、立ち竦んだ彼は瞬く間にわずかな距離をつめられてしまった。
近付くと酒の揮発する感触が分かるほど男は相当に酔っていたが、やたらに陽気らしく、すいませんと言う
声は愛想が良かった。
「血が目に入って前が見えへんかって」
　そう言った側から男は手のひらで目蓋を擦り、しきりに瞬く。違和感があるのは、そこに鬱血してできた
赤紫色の腫れ物が目を圧迫して半分隠していることにも原因があるのだろう。額の他にも同じような腫れ物や
その上の小さな切り傷が顔中に散らばっていた。
「何か拭くものを持ってませんか」
　ふくもの、と彼は気が抜けたように繰り返し、ポケットに駅前で受け取ったままにしていたティッシュが
あることをゆっくりと思い出していた。恐る恐る手を伸ばしてそれを渡してしまうと、男は嬉しそうに礼を
述べて、本当に目や口の周りだけ拭って全く見当違いのところを止血のつもりで押さえていた。
　しかし手応えがないことに気付いたのか、&quot;酔っているのとあちこち痛いのとでもうどこから血が出て
いるのか分からない&quot;と彼を笑わせたそうに独り言をいって、斑点のついた紙で生乾きの指を拭った。彼は
この後自分が何を求められるのか予感してどうしてもそれを拒絶したかったが、その方法を思い浮かべている
暇はなかった。
「悪いけど見てもらえませんか」
　そう告げて、血を拭う為に彼が与えた紙を、男が同じ意図で差し出したのが先だった。彼は緊張で動悸さえ
感じていたが、怪我人の切実な頼みを断ることはできなかった。けれども男の目つきに痛みなど読み取れず、
自分の臆病さをからかってにやにやといやな笑いを浮かべているだけのように思われてならなかった。彼は
むしろ、だらだらと血を流す紫色に腫れ上がった顔をまだ何度でも殴られる光景や、その手に受ける感触が
独りでに想像されて、腹を立てる余裕もないほどに寒気立っていた。
　身体を震わせて拳をきつく握りしめると、寒さで感覚が麻痺した手の皮が乾いて引きつっていた。
　それを覚悟に男からまだ使っていない紙を受け取って引き出し、ここですね、と言いながら分厚く重ねて
血潮の溢れ出る額の傷口に触れる。白い紙は見る間に赤黒く滲んで貼りついてしまい、到底この量では追い
つきそうになかった。ぐっしょりと濡れた紙片から血潮の鉄の臭いが立ち昇り、彼の喉の奥をくすぐって軽い
吐き気を催させる。
「……あの、救急車呼びましょうか、それ縫わなあかんような怪我やと思うんですけど」
「いや、そこまでしてもらわんでも大丈夫です、朝になったら自分で病院行けますから。それにしても世の中
　腹の立つ奴もおればこんないい人もいてるんやなぁ」
　男は自分が四人を相手に喧嘩をして、最初の一人は倒したがその後押さえつけられてひどく殴られた挙句頭を
壁に打ちつけられて、こんな怪我を負ったのだということを興奮して喋りたてた。
　大丈夫なわけがない、と言い放ちたくなる。下らない話を聞いている内に、男が本当にただの酔っ払い
なのだと彼はいよいよ思い知らされて、あの気味の悪さが完全に醒めかけていた。
　この男の半身が何もない所から突然現れたときには、ひとつの完成された光景を踏みにじった人間の末路を
見る覚悟さえあったのに。彼はこれ以上男に構うのが煩わしくなった。
　翻弄されるほどの恐怖というのは、安全な所から眺めると、非常に面白いものである。それはある種の
人間がどうしようもなく惹きつけられて執拗に抉り出そうとしてしまう、陰気な好奇心の対象だった。
　そのように感じられるのはこの男のおかげだったが、光に曝されて不気味な気配がさっぱりと抜け落ちた
この人に、これ以上感情を揺さぶられはしないだろうと彼は思った。夢中になっていたものを台無しにされた
ことも確かだったので、もうどこかで勝手に行き倒れてくれ、他の人間に何とかしてもらえ、と当たり
散らしたい気になっていた。
「……そうですか」
　彼は相槌を打つふりをして自分の仕事についての男の話を断ち切り、できるだけ残念そうに、もう
行かなければならないのだと告げた。
「あぁ急いでるんですか、でもちょっと、待って」
　男は彼が歩き出そうとするのを察知し、その前に腕を掴んで止めた。危害を加えるつもりではないと
分かっているのだが、この男に腕を一本押さえつけられたことに、彼は未だに胸騒ぎを覚えずには
いられなかった。
　しかしポケットを探る為にその手はすぐに離された。    </description>
    <dc:date>2009-11-28T01:22:34+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/59.html">
    <title>酷評お願いします２</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/59.html</link>
    <description>
      　夜が更けて一層空気が冴え渡っている。
　彼はこの辺りにひと塊りだけ残っている昔ながらの木造家屋の壁や門構えの間を猫背気味に、腹の底に力を
込めるようにして歩いていた。木の素材が光を吸って地面は暗く、ぽつりぽつりと植えられている街灯が頼り
だった。そこは人が擦れ違えるだけの狭い路地で、民家が少しずつせり出したり引っ込んだりしているのに
沿って伸びているので、わずかに曲がりくねっていて先が見えなかった。そのせいで奥行きの距離感が
つかめず、いつもここを通るときにはとても長い間歩き続けているような気がした。
　真っ直ぐ進む他にやることもないので、やはり彼は自分が書くものについて考えずにはいられなかった。
　今まで何度も別の映像を言葉に置き換えてきたが、まともな結末を与えられたものは一つもなかった。
きちんと終わりを迎えるべきであるし、終えられないことを情けなく思う気持ちはあったが、しかし
そのことで鬱々としてしまうのはどうしてなのか。
　はじめからこれは自分の執着心を慰めるための作業に過ぎないのではなかったか。そう割り切ってしまう
ことができないのは、中途半端なものを嫌がる性質のせいだけではない。ものを書くときに働くあの勘を
燻らせておきたくなかった。
　結末さえあれば自分の書くものは何か意味のある作品になるに違いないと思い込んでいた。だから小説で
身を立てたいだとか、書いたものを人に評価されたいとかいう浅はかな展望を未だに捨てられないのだった。
けれどもあんなものは小説と呼べるような代物ではないと分かっている。はっきりとした展開も主張もない、
ある個人の妄想をありのまま書いたものを誰が面白いというのだろうか。
　彼は苛立って力任せに歩きはじめていた。何となく息苦しくなって、きつく噛み締めていた奥歯を
ぎこちなく緩めて喉の底から溜め息を吐く。しばらくして、この程度の薄っぺらな期待は誰でも持っているし、
それをさも深刻そうに思いつめるほど自分の野心の強さをさらけ出すことになりそうだと思い直した。これは
彼には結論の出せない、考えても生活の妨げにしかならない類の論題だった。
　彼は頭を切り替えるために、深くゆっくりと瞬いた。
　そのときふっと風が通り過ぎて、二月の深夜の寒さと空腹を堪えようと俯いていた彼の鼻先を、何か白い
ものが掠めていった。
　それは紛れもなく彼への誘惑だった。
　彼は惹きつけられるままに立ち止まり、そして見上げた。
　すぐ先にある家の、頭の高さほどの塀の内側から、ぽたぽたと点を置いたように花をつける梅の枝が
零れ出て、ちょうどそこに寄り添う街灯にさしかかり、その光のさ青（お）い陰に、梅の白い花が染められて、
枝は透明な骨のように、物凄くされているのを。
　彼は自分と梅の木の間の数歩の距離がこの光景を成しているのだと感じて、自分が&quot;けれども彼女らが
ここで永遠に立ち尽くすだけの存在になれないことは、一瞬彼女を通り過ぎた幸せがもたらした悲惨である&quot;と
書いたことを思い出した。そして彼女がそうするはずであったように、彼もまたすぐに再び一歩
踏み出していた。    </description>
    <dc:date>2009-11-28T01:18:39+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www6.atwiki.jp/kata/pages/58.html">
    <title>酷評お願いします１</title>
    <link>http://www6.atwiki.jp/kata/pages/58.html</link>
    <description>
      ※井伏鱒二「夜ふけと梅の花」をもとに書いたものです。

&quot;ふと振り返ると、両側から押し迫られて狭く薄暗い、これまでやって来た道のりの先だけが針の穴のように
わずかにひらけていて、明るい海が見えた。とても鮮やかといえるような景色ではなく、咽返りそうな白い光の
中にあらゆる境界が溶け込んでいて、うっすらと埃を被っているようであり、眺めているとこちらの意識まで
ぼんやりと濁ってしまいそうである。
　この光景に懐かしさを感じられるほどの経験など彼女にはなかったが、どうしてなのか、これらをもうじき
手放さなければならないことが酷く耐え難く思われた。もちろん彼女は行く。行かないということに現実として
耐えられるはずがなかった。
　けれども彼女らがここで永遠に立ち尽くすだけの存在になれないことは、一瞬彼女を通り過ぎた幸せが
もたらした悲惨である&quot;
　彼はもうこれ以上書くことなどできないくせに、しつこく黒い芯で紙を突いて、何かの拍子にこの続きを
思いつけるつもりでいた。布団の中で腹這いになっているので頭は火照るのに、白い紙の上へ晒した指先
だけが冷え固まっている。
　これは子どもを生むことを恐れる若い女が、自分の娘を当たり前に慈しみながら二人で坂道を上っていく
という幻を見る話なのだが、幻から覚めた彼女がどこに居るのか、何を思っているのかという件になると、
彼の目の前は真っ暗になるのだった。
　彼が書くためには映像が必要だった。それは光景を見渡せる全体像であったり、人物の視野だったり、
映像でありながら聴覚や触覚そのものであったりするのだが、これらの別々のものが、既にあった時間の
ように、目蓋の端辺りできちんと流れていくのだった。
　この映像のようなものを彼は放っておくことができなかった。映像の原形はふいに思い浮かんだり、
眠っているときの夢であったりするのだが、一旦その存在を意識すると、忽ち完成させることに偏執して
しまうのだ。それは際限なく映像を繰り返していく内に作中の人物と一体化し、いつか経験した自分の感覚で
肉付けしていくという終わりのない作業のはじまりだった。
　彼は偏執から逃れるために、何とかして再現可能な形でこの映像を頭の外に取り出さなければならなかった
が、逆に映像が彼にそう要求する力を感じることもあった。
　そこで彼はごく自然に書く（文字にする）という手段をとった。そのまま映像にすれば良いのかも
しれなかったが、あの光景をそっくり作り上げるために何をするべきなのか分からなかった。けれども映像を
自分の言葉に置き換える作業では、彼は自分の持つ勘を働かせることができた。使いたくない言葉を切り捨て、
ふさわしいものを選び取る基準を持っていた。段階を踏むと現れるささやかな仕掛けを考えることができた。
　しかし筋道を立てて書きはじめるわけではないので、いつもこうして映像がぶつりと途切れてやむなく
終わる。形が残って再び辿れることが分かると彼の執着は慰められて、敢えて思い出さなければ意識に上って
独りでに繰り返したりしなかった。
　低い天井に吊り下げられた蛍光灯から、じりじりと虫の鳴くような音が聞こえる。夜中の二時を回って
目蓋も半分に垂れ下がっているのだが、彼はそれ以上に空腹感が耐え難くなっているのに気付いた。痛いのでは
ないけれど、本当に飢えているとしか言いようのない辛さだなぁと言葉の妙に感心する。こんなときに限って
家の中に腹が膨れるようなものは何も残っていなかったので、彼はやけになって、このまま朝まで空腹を抱えて
やり過ごすよりは、どんなに寒くても今すぐコンビニにでも出かけていって温かいものを食べて満足したい
気になった。
　まだ面倒臭がる気持ちも多分にあったが、彼は自分でも驚いたことに、それから床に転がっていた眼鏡を
かけてのろのろと身支度をはじめていた。    </description>
    <dc:date>2009-11-28T01:14:28+09:00</dc:date>
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