ソン・ウォンイル級潜水艦(KSS-II? > 214型)


▼1番艦「ソン・ウォンイル」(SS-072)
▼2番艦「ジョン・ジ」(SS-073)

性能緒元
水中排水量 1,860t
全長 65.3m
全幅 6.3m
喫水 6.0m
主機 ディーゼル・エレクトリック/AIP 1軸
  MTU 16V-396ディーゼル 2基(6.24MW)
  シーメンス Permasynモーター 1基(2.85MW)
  HDW PEM燃料電池 9基(306kW)
水上速力 11kts
水中速力 20kts
連続潜行時間 13日
最大潜行深度 400m
乗員 27名

【兵装】
対艦ミサイル UGM-84Lハープーン / ハープーン用発射管 4門
魚雷 K731「白鮫」533mm長魚雷 / 魚雷用発射管 4門(16発)
機雷    

【電子兵装】
レーダー SPHINX-D(Iバンド) 1基
戦闘システム ISUS-90  

ソン・ウォンイル級潜水艦(214型/Type214)はチャン・ボゴ級潜水艦(KSS-I/209型)に続いてドイツのHDW(Howaldtswerke-Deutsche Werft)社から購入した最新鋭輸出用潜水艦。韓国での導入事業名はKSS-II。本級はフランスとスペインが共同提案していたDCNI社のスコルペン級(S-80型)を蹴って採用された。スウェーデンもゴトラント級(A-19型)を提案していたが、コックムス社がHDW社と合併したため提案は取り下げられた。またロシアからは借款返済の一部としてキロ級(877型)3隻も提案され、1999年にモスクワを訪れた金大中大統領(当時)が導入する意向を表明していたにもかかわらず、蓄電池性能と潜行能力、通信能力が不十分という理由で2001年10月にこの提案を拒否しロシアを落胆させた。ロシアはキロ級が採用されれば、続けてより高性能なアムール級(1670型)を売り込む魂胆だったという。当初採用はHDW社が絶対的に有利と見られていたが、韓国側は2000年9月から22回にも渡って両社に入札を繰り返させHDW社とDCNI社の価格競争を煽った。このためHDW社はかなり低い入札金額を提示し、おかげで韓国は同型を購入したギリシャよりも安い額で214型を導入する事が出来たという。

ソン・ウォンイル級の建造はこれまでチャン・ボゴ級を建造してノウハウを得てきた現代重工が、新たに蔚山に建設した214型専用造船所で行っている(ノックダウン生産)。順調に行けば年1隻のペースで建造を行う予定。現在6番艦まで予算が認められており、3~6番艦は就役を早めるために国外で建造すると報道されたが、正確には国外(ドイツ)からライセンスを受けて韓国国内で自主建造するという事のようだ。契約金額は3隻で1兆2,700億ウォン。このソン・ウォンイル級の契約金はギリシャの同型(パパニコリス級)の契約金の約70%だという。1番艦「孫元一(ソン・ウォンイル)」(SS-072)は2006年6月9日に進水し、2007年1月29日から約1年に渡る公試が行なわれた後、2007年12月29日に就役した。潜水艦、特にAIP機関搭載潜水艦の建造には極めて高い技術が必要とされる。パキスタンはアゴスタ90Bを自国建造しようとしたが、仏DCN社の支援があったにも関わらず仏人技術者11名が死亡する爆発事故を起こし建造は非常に難航した。またインドも独1500型4隻を国内建造する計画だったが、技術的問題から2隻で中止になった。ブラジルやアルゼンチンも独製潜水艦の国内建造を企図したが、いずれも途中で中止されている。これらの国々は第三世界の中でも比較的工業技術の進んでいる部類に入るが、それでも潜水艦の建造は難しい事が分かる。韓国がHDW社の支援を受けながらも自国建造を行えた事は、造船大国である事を差し引いてもある程度評価されるべきであろう。

ソン・ウォンイル級(214型)はドイツ海軍が採用した212A型とは異なり、あくまで輸出用として209型の設計を流用・発展させたもの。209型との最大の違いは、長時間の潜水活動が可能なAIP(Air Independent Propulsion:大気非依存型推進)機関を採用している事だ。従来の通常動力型潜水艦は蓄電池性能の関係上最長でも3日程度しか潜行できず、頻繁に浮上して水上航行用のディーゼル機関を駆動し蓄電池に充電をしなければならなかった。これは隠密行動を主とする潜水艦にとって致命的な弱点で、そのため各国は大気(空気)に依存しない推進方式の研究を進め、スターリング機関や燃料電池機関、クローズド・サイクル・ディーゼル(CCD)など各種のAIP機関を開発した。海上自衛隊もスターリング機関を搭載した「そうりゅう」級(2,900トン型/16SS)を建造した。

ソン・ウォンイル級が搭載しているAIPはPEM(重層電解質半透膜)燃料電池方式と呼ばれている。燃料電池は燃料と酸素の燃焼を化学的に行わせて発電させる方法で、PEM方式はドイツのジーメンス社が開発したシステム。燃料には水素を、酸素には液体酸素を使用している。電極は多孔質のカーボン・シートで覆われ一方を水酸化カリウム水溶液に、もう一方をプラチナ触媒を介して酸素ガスに接し、水素原子の陽子を陽極から陰極に移動させる事で発電を行う。燃料電池は蓄電池と違い燃料と酸素を絶えず供給すれば継続的な発電が可能で、通常の内燃機関の発電効率が20~30%程度と低いのに対して、燃料電池は70%以上と極めて高い。化学反応により生じる真水は潜水艦内で有効に使用する事ができる。また騒音の発生が少なく低音運転が可能で、放熱も少なく熱による被発見率も低いなど長所が多い。1基の燃料電池セルは40×40cmの大きさで、0.725ボルト、650アンペアの電気を発生させる。ソン・ウォンイル級はこの燃料電池モジュール(冷却装置や電極接点などを含めたシステム)を9基搭載しており、最大で300キロワットの出力を発揮できる。ソン・ウォンイル級はこのAIP機関により最大13日間の連続潜行(速力8kts以下)が可能。韓国ではLGイノテック社がドイツからの技術移転で燃料電池をライセンス生産している。

PEM方式の問題点は燃料である水素の貯蔵方法だが、液体水素は沸点が低く(-235度)保存に適さないため、ジーメンス社は安定性と貯蔵効率のいい水素吸収金属を使用している。水素と液体酸素が漏れ出した場合、爆発や火災、金属の腐食を引き起こすため燃料電池は危険性が高い。そのため特別な燃料タンクや防護システムが必要で、通常のディーゼル潜水艦と比べて15~20%も建造費が高くなり、保守点検にかかる手間も大きいという(日常の整備には建造技術に等しい技術レベルが要求される)。また運用においては地上に特別な燃料貯蔵タンクや化学設備が必要で、こういった陸上支援設備も含めるとかなりの投資を行わなければならない。ドイツ海軍の212A型は液体酸素のタンクと配管を耐圧船殻の外に配置して漏洩事故に備えているが、ソン・ウォンイル級(214型)は内殻内の船体中央下部に配置している。

ソン・ウォンイル級の船体の特殊鋼は韓国国産のHY100高張力鋼で、これは日本のNS110高張力鋼よりも劣るが、ソン・ウォンイル級の潜行深度はチャン・ボゴ級の350mから原潜並の400mまで増大した。戦闘システムはISUS-83の改良型であるISUS-90を採用し、低周波音波の探知と分析能力、約300目標の同時追跡能力、魚雷誘導能力がアップしている。ISUS-90はこれらの情報分析と処理、魚雷管制を自動で行う。またチャン・ボゴ級には魚雷の再装填装置が無かったが、ソン・ウォンイル級はこれを装備しており迅速に再装填が可能になっている。魚雷は航走距離50km以上といわれるドイツ製のDM2A4の搭載を予定していたが、予算不足のために国産のK731「白鮫」533mm長魚雷が採用された。 なお国産開発の「白鮫」は満足いく性能を発揮できないようで、韓国は2007年末に新型の長魚雷の開発を決定している。ソナーは側面のフランク・アレイ・ソナーと低周波曳航ソナーを装備する。ソン・ウォンイル級が装備している捜索レーダー「SPHINX-D」はLPI(Low Probability of Intercept)モードを有しており、敵のESMに探知されずに周囲を捜索できる。潜望鏡は非貫通型。

AIP装備のためかソン・ウォンイル級の船体下部はかなり角張った形状となっているが、セイルの基部は上構の外形に沿って整形されており、乱流による雑音の発生を抑える構造になっている(212A型と同等)。潜舵はセイル前方上構上端部に装備されており、セイルに潜舵を装備している212A型とは異なる。船尾の舵は212A型のようなX字配置ではなく、通常の十字配置。

214型は韓国海軍のほかにギリシャ海軍も3隻(パパニコリス級/Papanikolis)発注している。韓国では2008~2010年に3隻就役する予定だったが更に6隻を追加建造し、ソン・ウォンイル級は2020年頃までに合計9隻就役する事になった。これは朝鮮半島統一後をにらみ、中国や日本など周辺国の海軍力に対処する戦略兵器として、韓国海軍がイージス艦などの水上戦闘艦艇より潜水艦を選んだため。これにより韓国海軍はチャン・ボゴ級、ソン・ウォンイル級、KSS-III(次期潜水艦)で潜水艦18隻態勢を目指す事になる。

2006年11月15日の朝鮮日報の報道によれば、ギリシャ海軍は214型(パパニコリス級/Papanikolis)に重大な欠陥があるとして、独HDW社からの1番艦受け渡しを拒否しているという。欠陥は船体が50度も傾いて一部で水漏れし、また潜行中にAIPシステムが正常作動せずスクリューの騒音も大きい、というもの。ギリシャ海軍が発注した1番艦はドイツ国内で建造された。ギリシャのマスコミは運用実績が全くない艦を購入した政府を批判している。HDW社は「問題はあるが深刻ではない」としているが、ギリシャに対して契約履行が遅れた場合(引渡が遅れた場合)違約金を払うよう契約を修正する事に合意した。ドイツ海軍研究所は「ギリシャは金をせびる為に、小さな問題を不必要に大きく扱っている」と非難している。(両者の意見の相違は埋まらず、最終的に独ティッセンクルップ・マリン社はギリシャ向け214型潜水艦4隻全ての契約をキャンセルすることとなった[7]。)

韓国海軍筋の情報によれば、韓国海軍も同様の欠陥がないかどうか、進水したばかりの1番艦「孫元一」(SS-072)を調査しているという。ギリシャ海軍と韓国海軍の214型には100トン程度の排水量の差があり戦闘システム等は異なるが、船体の基本構造は全く同じ。もし問題があった場合、HDW社が何らかの責任を負う事になるだろう。2007年1月末に行われた「孫元一」の潜行試験では特に問題は無く、乗組員はほっと胸を撫で下ろしたという報道が韓国連合ニュースで伝えられている。

【2008.12.02追記】
韓国国会予算政策処が2008年11月4日に発刊した「2009年度予算案分析」内で、防衛事業庁が独HDW社と締結した214型潜水艦6隻(第二次生産分)の一括購入仮契約は不合理的で、予算の浪費であると否定的な見方を示した。予算政策処によると、HDW社はトルコやパキスタンなど複数の国と214型の購入交渉を進めており、今後販売価格が下がる可能性があるという。

1番艦 ソン・ウォンイル(孫元一) ROK Son Won-il SS-072 2007年12月29日就役
2番艦 ジョン・ジ(鄭地) ROK Jeon Gji SS-073 2008年12月2日就役
3番艦 アン・ジュングン(安重根) ROK An Jung-geun SS-075 2008年6月4日進水。2009年12月1日就役[6]
4番艦 キム・ジャジン(金佐鎮) ROK Kim Jwa-Jin SS-076 2013年8月13日進水[8]
5番艦 - - - -
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7番艦 - - - -
8番艦 - - - -
9番艦 - - - -

▼航行する「ソン・ウォンイル」セイルは水流の乱れによって発生する雑音を抑えるため、滑らかに整形されている
▼蔚山沖を航行する「ジョン・ジ」

▼「ソン・ウォンイル」の後部。船尾の舵は在来型と同じ十字配置。
▼セイル上に並ぶ潜望鏡やレーダー。奥から3番目がESMアンテナ。
▼【参考】建造中の214型の艦首部分

▼ソン・ウォンイル級の装備

【参考資料】
[1]世界の艦船2009年4月号(海人社)
[2]軍事研究2001年2月号(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
[3]朝鮮日報
[4]中央日報
[5]PowerCorea
[6]聯合ニュース「海軍最新鋭214型潜水艦「安重根」、あす就役式」(2009年11月30日)
[7]世界の艦船2010年4月号「海外艦艇ニュース-ドイツがギリシア向け214型潜水艦をキャンセル」(海人社)
[8]聨合ニュース「韓国潜水艦「金佐鎮」が進水 2015年実戦配備 」(2013年8月13日)


2013-09-07 05:03:41 (Sat)

最終更新:2013年09月07日 05:03