パエク型哨戒艇(PGM? > アシュビル型)


▼7番艇「白鴎58号」(PGM-358)

アッシュビル級(白鴎51号(パエク51号)性能緒元
基準排水量 225t
満載排水量 245t
全長 50.1m
全幅 7.3m
喫水 2.9m
主機 CODAG 2軸
  GE LM-1500ガスタービン 1基(13,300馬力)
  カミンズVT12-857-Mディーゼル 2基(1,450hp)
速力 40kts
航続距離 1,700nm/16kts
乗員 25名

【兵装(アッシュビル級/白鴎51号(パエク51号)】
対艦ミサイル RGM-66DスタンダードARM/単装発射筒 2基(ミサイル4発搭載)
50口径3インチMk34単装速射砲 1基
近接防御 ボフォース 60口径40mm単装機関砲 1基
  M2 12.7mm重機関銃 4挺



■''パエク級/PSMM MK5型)性能緒元''
満載排水量 268t
全長 53.7m
全幅 7.3m
喫水 2.9m
主機 CODOG 2軸
  TF-95ガスタービン 6基(16,800馬力)
速力 40kts
航続距離 2,400nm/18kts
乗員 32名

【兵装(パエク級/PSMM MK5型)】
対艦ミサイル RGM-66DスタンダードARM/単装発射筒 2基(前期型)
RMG-84Aハープーン / Mk141連装発射筒 2基(後期型)
50口径3インチMk34単装速射砲 1基(前期型)
  オットー・メララ 62口径76mm単装速射砲 1基(後期型)
近接防御 KCB 30mm連装機関砲 1基
  M2 12.7mm重機関銃 2挺

【電子兵装(パエク級/PSMM MK5型)】
対水上レーダー AN/SPS-58 1基(前期型)
  HC-75 1基(後期型)
火器管制レーダー AN/SPG-50 1基(前期型)
  W-120 1基(後期型)
光学照準システム Mk35 1基
戦闘システム Mk1200  
チャフ・フレア RBOC Mk33 2基

1970年代、韓国海軍は北朝鮮海軍がソ連から多数導入していた205型高速ミサイル艇(NATOコード:Osa/オーサ)の脅威に晒されており、東海(日本海)上で放送船(政治宣伝用)が沈められるなどの被害も発生していた。また、1960年代から70年代にかけては北朝鮮工作船による韓国沿岸部への浸透作戦も相次いでおり、沿岸警備艦艇の整備も喫緊の課題であった。当時の韓国海軍は小規模で、北朝鮮の高速艇に対応できる艦艇も殆ど有しておらず、北朝鮮が多数保有するミサイル艇や魚雷艇や小型高速艇に対して、これらの艦艇に対処可能な海軍戦力の構築が望まれていた[1]。

その様な状況下において、1974年に勃発した第四次中東戦争でイスラエル海軍のサール3/サール4級ミサイル艇がシリアとエジプト海軍のソ連製ミサイル艇を圧倒したことは、韓国海軍にとって海軍戦力の整備方針を決める上で重要な参考事例となった[1]。アラブ連合軍のミサイル艇は戦争中に55発のP-15「テルミット」(SS-N-2「スティックス」)SSMを発射したが、イスラエル艦艇の電子妨害装置やチャフの散布によって1発の命中弾も与える事はできなかった。逆にイスラエルのミサイル艇部隊は、対艦ミサイルと砲撃により戦争中にアラブ連合軍のミサイル艇を含む12隻の艦艇・船舶を撃沈している[1]。

イスラエルは1967年の第3次中東戦争においてイスラエル駆逐艦「エイラート」がソ連製対艦ミサイルP-15「テルミット」によって撃沈された「エイラート事件」後に行った戦訓や情報分析から、P-15「テルミット」は中高度を亜音速で飛来するため比較的発見が容易であり、元々大型艦艇に対する攻撃を前提として設計されているためレーダー波反射率の低い排水量500トン以下の小型艇を探知する能力は十分では無いことを突き止めていた[1]。これを踏まえて、イスラエルでは小型のミサイル艇に十分な能力を有する電子妨害装置やチャフ発射装置を搭載すればP-15「テルミット」の攻撃を防ぐことが可能であると結論付けていた。第四次中東戦争の実戦結果は、イスラエルの読みが的中した形となった[1]。

第四次中東戦争の戦訓は、イスラエルと同じくソ連系ミサイル艇戦力と対峙していた韓国にとって参照すべき事例であり、韓国海軍ではミサイル艇戦力の構築に向けて動き出す事になった[1]。ただし、1970年代初めの韓国では重工業化政策が徒についたばかりであり、国内造船業が自力で韓国海軍の要求に応じたミサイル艇を建造する事は困難であった。

そのため韓国では、同盟国のアメリカからの対外軍事援助を利用して沿岸哨戒用の高速艇を導入することになった[1]。アメリカ海軍のアッシュビル級哨戒砲艇のベニシア(PG-96→PGM-96)を購入することが決定し、1971年10月15日、米カリフォルニア州サンディエゴで韓国海軍への引渡しが行われ「パエク(Pae-Ku:白鴎の意)51号」と命名された[2]。

アッシュビル級哨戒砲艇は、東南アジアなどの沿岸部での海上警備任務や沿岸の海上交通の監視・制御などの運用を前提に米タコマ造船所で開発された沿岸哨戒艇[3]。PG-84型とPG-94型の二つのタイプがあり、合計17隻が建造されヴェトナム戦争では沿岸哨戒任務に従事した[3]。アッシュビル級は基準排水量225t、満載排水量245t、全長50.1m、全幅7.3m、喫水2.9m[4]。船体は重量軽減と整備補修の簡略化の目的から主船体は軽合金を、甲板室には軽合金と強化樹脂構造を採用している[5]。主機はCODOG(Combined Diesel Or Gas turbine)方式でスクリューは2軸。巡航時はカミンズVT12-857-Mディーゼル 2基(1,450hp)を使用し最高16ktsで航行。高速航行時にはGE LM-1500ガスタービン 1基(13,300馬力)を作動させて最高速力40ktsを発揮する。航続距離は16ktsで1,700nm。乗員は25名[4]。

米海軍籍時代の兵装は、50口径3インチMk34単装速射砲1基、ボフォース 60口径40mm単装機関砲1基、M2 12.7mm重機関銃4挺であったが、韓国海軍での就役を前にミサイル艇への改装が実施され、艦尾にスタンダード艦対艦ミサイル発射筒2基(搭載ミサイルは予備を含めて4発)が搭載された[4]。

韓国海軍は導入したパエク51号の運用試験の結果がおおむね良好であった事から、アッシュビル級を開発した米タコマ造船所に韓国海軍での試験運用の実績を反映させた改良型の発注を行った[1]。アッシュビル級は巡航時にディーゼルエンジンを使用し、高速航行時にガスタービンを使用するCODOG方式であったが、韓国海軍では北朝鮮高速艇に対抗するにはさらなる加速性が求められるとして、兵装強化と合わせて改良を求める事となった。タコマ社がこの要求に応じて開発したのがPSMM MK5(Patrol Ship Multi-Mission Mk5)型ミサイル艇である[4]。韓国が発注したPSMM MK5型は、アメリカのタコマ造船所で建造された前期型3隻(52、53、55号)と、韓国タコマ造船所(現在の韓進重工)で建造された後期型5隻(56~59、61号)に分かれる。

PSMM MK5型は加速性向上のため機関をCOGAG(Combined Gas turbine And Gas turbine)方式に変更している[1]。6基のTF-95ガスタービンにより合計出力16,800馬力を発揮し、停止状態から30秒で最高速度40ktsに達する優れた加速能力を確保することに成功した[1]。

アメリカで建造された前期型は、対艦ミサイルと艦載砲については白鴎51号と同じRGM-66DスタンダードARMと50口径3インチMk34単装速射砲であったが、韓国で建造された後期型はRMG-84AハープーンMk141連装発射筒2基とオットー・メララ 62口径76mm単装速射砲に換装されている[1]。オットー・メララ 62口径76mm単装速射砲は、砲弾発射速度がMk34の40発/分から85発/分と倍以上になっている[1]。近接火器としてはKCB 30mm連装機関砲1基と12.7mm重機関銃2挺が装備されている。対艦ミサイルに対する妨害装置としてRBOC Mk33チャフ・フレア発射機2基が搭載されているのは、前述した第四次中東戦争の戦訓によるものである[1]。

PSMM MK5型の兵装は北朝鮮のミサイル艇を完全に上回る装備であり、特にハープーンは1978年に導入した韓国海軍念願の長距離対艦ミサイルで、これにより北朝鮮のミサイル艇を射程外から圧倒する性能を得ることが出来た。

パエク級/PSMM MK5型の性能は北朝鮮の高速艇に対応するのに充分なものであったが、実際に運用を開始すると想定していなかった問題が明らかになってきた。まず、加速性能向上のために導入したCOGAG方式であるが、これは巡航時も高速航行時もガスタービンを使用するので、燃費の面で問題が生じた。その燃料消費量は、排水量200トン台の小型艇なのに、燃料消費量は排水量1,500トン級のフリゲイトに匹敵すると評された程であった[1]。また運用上の問題としては、手本としたイスラエル海軍とは異なり韓国海軍は北朝鮮の浸透作戦に備えてはるかに広い海域を哨戒・監視する必要があったが、パエク級/ PSMM MK5型は必ずしも哨戒任務に適した艦艇ではなかった。燃料消費量の多さだけでなく、長期間の哨戒任務に従事するには船体が小型に過ぎた[1]。パエク級/ PSMM MK5型は高価なガスタービン・エンジンを多数搭載しており建造費用が高額のため、短い航続距離を補うために多数を建造するという手段を取る訳にも行かなかった[1]。

韓国海軍はパエク級/PSMM MK5型のさらなる建造を希望していたが、実際の運用により上記の問題が判明した事もあって、調達は8隻で終了することになった。

韓国海軍では、次世代水上戦闘艦としてパエク級/PSMM MK5型で効果が証明された76mm速射砲やハープーンSSMを搭載したより大型で30日程度の哨戒任務に従事できる艦艇を調達する方針を決定した[1]。これが後のウルサン級フリゲイトとして実現することになる。そしてウルサン級と組み合わせてハイ・ロー・ミックス運用を行う沿岸哨戒用艦艇として、安価で大量建造に向いたチャムスリ型戦闘艇が開発され、同級は90隻以上に上る大量建造が行われ韓国海軍高速艇の主力を構成することになった。

パエク級は韓国が国産化した初の近代的な水上戦闘艦艇であり、その調達は必ずしも当初の目論見通りには行かなかったものの、得られた教訓はその後の海軍整備計画に大きな影響を与える事になった、

韓国海軍で運用されたパエク級は艦の老朽化が早く、また搭載しているガスタービン・エンジンの信頼性が低く慢性的に故障が発生していたため(同様の問題は、PSMM MK5型の改良型を導入していた台湾海軍でも発生していた。)、その退役は早く、既に9隻とも退役済みである。

1番艇 白鴎51号(パエク51号) 旧米海軍PGM-96 Benicia PGM-351 米軍向けに建造されたアッシュビル級。1969年12月20日米海軍就役。1971年10月15日韓国海軍に再就役。1998年退役。
2番艇 白鴎52号(パエク52号)   PGM-352 米タコマ社で建造されたPSMM MK5型前期型。1975年3月就役(退役済)
3番艇 白鴎53号(パエク53号)   PGM-353 米タコマ社で建造されたPSMM MK5型前期型。1976年2月就役(退役済)
4番艇 白鴎55号(パエク55号)   PGM-355 米タコマ社で建造されたPSMM MK5型前期型。1976年2月就役(退役済)
5番艇 白鴎56号(パエク56号)   PGM-356 韓国タコマ社で建造されたPSMM MK5型後期型。1976年2月就役(退役済)
6番艇 白鴎57号(パエク57号)   PGM-357 韓国タコマ社で建造されたPSMM MK5型後期型。1977年就役(退役済)
7番艇 白鴎58号(パエク58号)   PGM-358 韓国タコマ社で建造されたPSMM MK5型後期型。1977年就役(退役済)
8番艇 白鴎59号(パエク59号)   PGM-359 韓国タコマ社で建造されたPSMM MK5型後期型。1977年就役(退役済)
9番艇 白鴎61号(パエク61号)   PGM-361 韓国タコマ社で建造されたPSMM MK5型後期型。1978年就役(退役済)

▼(参考)米海軍のアッシュビル級「Marathon (PG 89)」。武装は砲兵装のみ。(C)NavSource Naval History
▼スタンダード艦対艦ミサイルを発射するアッシュビル級哨戒砲艇「ベニシア」(PGM-96)。後の「白鴎51号」(PGM-351)。(C)NavSource Naval History

【参考資料】
[1]e MILITARY NEWS「北、西海で挑発すれば。韓国海軍の戦闘システム」(月刊ミリタリーレビュー2008年12月号)
[2] NavSource Online:Motor Gunboat/Patrol Gunboat Photo Archive「Benicia (PG 96) ex-PGM-96」
[3]Global Security「PG 84 Asheville」
[4]Jane's Fighting Ships 1980-1981(Captain John E. Moore, RN (Jane's Publishing Company, London, 1980)301頁。
[5]近代世界艦船事典「アメリカ アシュヴィル級哨戒砲艇」


2010-08-31 22:47:27 (Tue)

最終更新:2010年08月31日 22:47