P-3C対潜哨戒機「オライオン」(韓国)


▼韓国海軍のP-3C

性能緒元
重量 27,890kg
全長 35.61m
全幅 30.37m
全高 10.27m
エンジン アリソン T56A-14(4,910shp)×4
最大速度 760km/h
哨戒速度 380km/h
航続距離 7,670km
上昇限度 8,630m
武装 AGM-84対艦ミサイル「ハープーン」
  対潜魚雷、対潜爆雷
  小型爆弾など
乗員 12名(有事21人搭乗可能)

アメリカがL-188エレクトラ4発旅客機をベースに開発した長距離対潜哨戒機。韓国海軍は最終生産型のUDIII仕様を1995年までに8機導入し、第6小艦隊(航空)の第613飛行隊に配備している。韓国海軍はP-3C用の機体洗浄施設を浦項(ポーハン)航空基地に1997年に建設しており、この施設では最大16機のP-3Cを洗浄する事が可能だという。

P-3CはユニバックAN/ASQ-114(v)デジタル・コンピューターを中心に構成されたA-NEWシステムにより、各センサーからの情報を迅速かつ大量に分析する画期的な対潜哨戒(AEW)機である。原型のYP-3Cは1968年9月に完成し、量産型は1969年9月からアメリカ海軍に配備された。以後、コンピューター処理能力を強化したUD-I、AGM-84ハープーン対艦ミサイルの運用能力を付与したUD-II、航法通信装備を強化したUD-II.5と改良が続けられ、1984年からはIBM製AN/UYS-1プロテュース音響信号処理システムを搭載したUD-IIIが登場し、韓国はこのUD-III仕様を導入した。

韓国海軍では8機のP-3Cでは継続的な領海の監視には不足であると認識しており、1996年には8機の追加調達を行うことを決定していた[1]。ただし、P-3Cは韓国向けの生産を最後に生産ラインが撤去されて新造機購入は不可能となっていたため、中古のP-3Bを購入してP-3C水準にアップグレードする方式を採用する事となった[2]。韓国では中古のP-3BをアメリカのFMS(Foreign Military Sales:対外軍事販売)により8機調達し、最初の2機は米ロッキード・マーチンが再生作業を実施し[3]、残りの6機については2005年から韓国航空宇宙産業(KAI)が主契約社となって米L-3 Communications Integrated Systems社、EDO社などと共に改装に着手した。契約総額は4億9600万ドル。改装後の機体はP-3CKの名称が付与される事も決定された。P-3CKの「K」は韓国で能力向上作業が実施された事を意味する[9]。

改装では1960年代に製造されたP-3Bに対して、一度機体を分解して各部品の疲労チェックや再整備を実施。その際主翼や垂直尾翼の換装・補強が行われ各部の疲労度に応じた改修が施され機体寿命の延長が実施された[2]。同時にアビオニクス、各種センサー、航法装置、地上支援システムが一新され、新たにLink-16対応のデータリンク装置が搭載された[4]。上記の改装によってP-3CKはP-3C UD-3に相当する水準の機体として近代化される事になる。

P-3Cが洋上での哨戒任務に重点を置いていたのに対して、P-3CKは監視が難しい沿岸部や港湾での哨戒任務での能力向上を図ったのが特徴である[5]。これは、沿岸部からの北朝鮮小型艇の接近を探知してその浸透を阻止する狙いがある。P-3CKはALR-95捜索用レーダー、光学・赤外線センサー、ESM(Electronic Support Measures)装置、磁気検出装置などの充実した哨戒用センサーが装備され、沿岸部での目標探知能力はP-3Cの五倍に向上している[5]。ALR-95捜索用レーダーは港湾に停泊中の艦艇や地上で動く陸上標的も探知することが出来るとされる[8]。対地攻撃も可能なAGM-84LハープーンBlock II空対艦ミサイルの運用能力が付与された事により、近年脅威度が増している北朝鮮の沿岸砲や地対艦ミサイル陣地を射程外から攻撃することが出来る様になった。

情報化への対応も改修の重要な課題であり、リアルタイム戦術情報伝送システムの搭載により、海軍のFFX(次期フリゲイト)や対潜ヘリコプターや海軍司令部、また空軍のF-15KKF-16E-737早期警戒機などとの間で戦術情報の共有が可能となっており、P-3CKが探知した目標の情報を共有して速やかな対処を行い得るため、韓国軍の共同作戦遂行において重要な役割を果たすとされている[5][8][9]。

P-3CKは、当初の計画では2007年からの韓国海軍への引渡しを予定していたが、EDC社が担当していたEMS装置について、アメリカ政府による韓国への輸出許可が中々下りなかった事によって導入が遅れることになった[4]。最終的に、EMS装置の提供に関する問題は2010年初めに解決され[6]、2010年2月23日にはP-3CK 1~3号機の韓国海軍への引き渡し式典が浦項の第6航空戦団で開催された[8]。残りの機体は6月までに海軍に引き渡される予定[6]。

韓国海軍は2010年末までに8機のP-3Cと8機のP-3CKによる長距離哨戒機16機体制を整え、独自の情報収集、領海の監視、偵察能力を強化する事を目指している[7]。

【参考資料】
[1]DCN 海上情報「P-3Cオライオン対潜哨戒機」
[2] e Miltary News!!!「40歳になった航空機が最新哨戒機として復活」
[3]The Korean Times「Navy Planes Fail to Get US Sensor」(2010年1月17日)
[4]The Korean Times「Delivery of P-3 Maritime Surveillance Aircraft Delayed」(2008年7月6日)
[5] KDN自主国防ネットワーク「海軍、機動部隊航空戦力P-3CK引き渡し」
[6]The Korean Times「Navy Planes Fail to Get US Sensor」(2010年2月22日)
[7]The Korea Herald「Navy aquires upgraded patrol planes」(2010年2月23日)
[8]聨合ニュース「海上哨戒機8機を年内戦力化、北海岸砲も打撃可能」(2010年2月22日)
[9]国防日報「海軍、性能が改良されたP-3CK初めての受領」(2010年2月23日)


月刊航空ファン(文林堂)
別冊航空情報 世界航空機年鑑2005(酣燈社)
朝鮮日報


2010-03-02 22:50:06 (Tue)

最終更新:2010年03月02日 22:50
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