K2戦車「黒豹」(XK2)


▼健国60周年記念パレード(2008年)で行進するK2戦車

性能緒元
重量 55.0t
全長 10.0m
車体長 7.5m
全幅 3.6m
全高 2.5m
エンジン MTU MB-883ka500 12気筒ターボチャージド・ディーゼル 1,500hp
最高速度 70km/h
航続距離 430km
渡渉深度 1.2m(シュノーケル使用時4.1m)
武装 55口径120mm滑腔砲×1(40発)
  12.7mm重機関銃×1(3,200発)
  7.62mm機関銃×1(12,000発)
装甲 複合装甲(車体前面、砲塔前面)
乗員 3名(車長、砲手、操縦手)

1995年7月から基礎研究が始まり2003年より正式開発がスタートした、K1系戦車に変わる韓国軍新型主力戦車。試作1号車(機動試験用)及び2号車(射撃試験用)が、慶尚南道進永でADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)によってテストされていた。2007年3月2日には続いて製作された運用試験車両1~3号車が公開された。今後軍の手によって運用試験が2008年末まで行われ、2011年から量産が開始される。生産数は680輌の予定だ。愛称は「ブラックパンサー(黒豹、ハングル読みでファクビョ)」。コンポーネントの国内生産率はプロトタイプでは77%程度だが、現代ロテム社での量産段階では98%まで高まるという。K2は陸軍の最精鋭である第20機械化師団と首都機械化師団に真っ先に配備され、両師団がこれまで運用していたK1及びK1A1は他師団のM48戦車を置き換える形で配備転換されるだろう。韓国はK2の評価について、ドイツのレオパルド2やフランスのルクレールなど各国の主力戦車を上回る高性能戦車としており、輸出(特にトルコに対して)に大きな期待を寄せている。朝鮮日報の報道によれば、価格は1輌83億ウォン。開発費は2,000億ウォンに達するという(基礎研究費も含まれるかは不明)。

K2は自動装填装置の導入により、乗員数が車長、砲手、操縦手の三名になっている。自動装填装置の採用において、ルクレール戦車が装備しているベルト式(日本の90式戦車と同じタイプ)と露T-80戦車が装備している回転トレイ式が検討されたが、装填速度が速く構造も単純なベルト式が採用された。砲弾搭載数は40発とK1A1戦車よりも大幅に増加しており、そのうち16発が自動装填装置の弾倉に収納される。主砲は140mm滑腔砲の搭載が計画されていたが、結局韓国WIA(World Industries Ace)社製の55口径120mm滑腔砲が採用された。これによりK2はレオパルド2A6等と並ぶ世界トップクラスの火力水準になった。砲弾には各種徹甲弾、榴弾の他に、自動追尾砲弾(STAFF:Smart Target Activated Fire and Forget)が搭載される予定。この砲弾は砲発射型ミサイルの一種でミリ波レーダーを内蔵しており、装甲車輌の弱点である頂部や遮蔽物に隠れた敵兵を効果的に攻撃する事ができる。特に空中のヘリコプターに対しては、致命的なダメージを与えるだろう。副武装は主砲同軸の7.62mm機関銃と車長ハッチの12.7mm重機関銃を装備している。

車載電子装備は高度なものが搭載されている。車長用にはK1A1が装備している韓国型車長パノラマサイト(KCPS:Korea Commander,s Panoramic Sight)の発展型が搭載されている。KCPSは3倍/10倍切替式で、レーザー測距器と夜間用の高解像度赤外線センサーを装備しており、車長が補足した目標情報を砲手に渡しながら360度全周を捜索できるハンター・キラー能力を有している。恐らくKCPS発展型は、フォーカル・プレーン・アレイを使用した640×480以上の解像度を持ち、中・長波赤外線を併用して目標の詳細な画像識別機能を持つ第三世代の赤外線センサーを搭載しているだろう。砲手用にはやはりK1A1が装備している韓国型砲手照準サイト(KGPS:Korean Gunners Primary Sight)をベースに、ロックオンした目標を自動で追尾するシステムなどが追加された発展型が搭載されるものと思われる。これらの先進システムによりK2はある程度の行進間射撃能力を得る事に成功している。操縦手はハイビジョンの電子光学視察システムを見ながら運転する。またINS(Inertial Navigation System:慣性航法装置)とGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)を連動させた高度な位置情報システムや敵味方識別装置を装備し、車輌間情報システムの搭載で僚車とリアルタイムで情報を共有して共同交戦能力を飛躍的に向上させるだろう。またデジタル訓練システムも採用されており、戦車兵の効率的な訓練と費用の削減を実現している。

K2の装甲はフランスのルクレールのようなモジュール式の複合装甲で、損傷した場合でも容易に新しい装甲と交換できる。複合装甲の具体的な内容は不明だ。また砲塔上部など、一部には爆発反応装甲が装着されている。ミリ波レーダーで探知した敵対戦車ミサイルを擲弾で迎撃するアクティブ防御システムの装備も開発されており、K2に装備される予定。このシステムはADDを中心に三星タレス社などが開発したもので、ロシアのKBM社(旧SKB)の技術援助を受けた。KBM社は2001年頃からアメリカ、ドイツ、韓国等の国々に同社のアクティブ防御システムであるアレーナ(Arena)を売り込んでおり、K2に装備されるものもアレーナの設計技術を利用したものだと言われている。開発は2006年から120億ウォンを投入して始まり、2011年までに実用化する予定。アレーナは敵ミサイルを探知するミリ波レーダーとそれを迎撃する擲弾、自動制御システムから構成される。レーダーは戦車の後方以外の全ての範囲(上面を含む)を常に探査しており、秒速300mの速度で接近する敵ミサイルに0.1秒で反応して迎撃する。小銃弾等の小さすぎる目標や速度の遅い目標、戦車自身から発射されるものは目標として認識しない。また安全を確保するために戦車のハッチが開いている場合、擲弾は発射されないようになっており、擲弾発射時は周囲の味方歩兵に対し警告音と警告灯によって危険を知らせる。アクティブ防御システムの問題は、自ら電波を出す事で敵に存在を知らせてしまう点と取得価格が高くなる点で、このため世界的にはまだ普及していない。車内にはNBC(Nuclear,Biological,Biological:核・生物・化学)防護装置を完備しており、これまでのK1系戦車に装備されていた個人防護タイプではなく、車内に与圧をかけて外気が侵入しないようにするタイプが装備されている。

試作車には出力1,500hpの独MTU社製MB-883 12気筒1,500hpディーゼル・エンジン(UAE仕様のトロピカル・ルクレールと同じエンジン)とレンク社製自動トランスミッションが搭載されたが、量産型には斗山インフラコア社(旧大宇総合機械)がライセンス生産したMB-883エンジンとS&T大宇社(旧大宇精密工業)製の電子制御式トランスミッションが搭載される予定。エンジンはMTU社から受けた技術情報を元にADDと斗山インフラコア社が共同で国産エンジンの開発を行なっており、このコピーエンジンは2010年頃からK2戦車に搭載される予定だ。またAPU(Auxiliary Power Unit:補助動力装置)として三星テックウィン社製のガスタービン・エンジン(100hp)も装備されており、冬季のエンジン始動が楽になっている。足回りには全油気圧サスペンションが採用され、車体を前後左右に傾斜させる姿勢制御機能と半自動地形判断機能を有し、路上最大速度は70km/hに達するという(路外では50km/h)。K2は朝鮮半島の地形を鑑みて渡河能力が重視されており、シュノーケルを用いれば水深4m以上の河川を渡る事ができる。

2007年3月に一般公開されたK2の写真を見ると、それまで公表されていた試作車輌とは幾つか異なる点が存在する。一番目に付くのは車体前面の形状で、垂直な面が追加された。砲塔側面の発煙弾の装備方法も変更されおり、一列に6発並んでいたのが2個組3列となっている。砲身脇に装備されていたレーザー警戒システムの受信機は砲塔上に移され、数も4個から2個に減っている。試作車で防盾上にむき出しに装備されていたカメラ類も覆いが付けられた。また車体前面の中央にあった操縦手用カメラはヘッドライト脇に移された。同時に公開されたK2の動画を見る限り、搭載されると目されていた擲弾でミサイルを撃破するハード・キル方式のアクティブ防御システムではなく、ソフト・キル方式のものが装備されたようだ。ソフト・キル方式のアクティブ防御システムとは、煙幕・妨害弾を射出する事で敵ミサイル発射器の光学系照準システム(レーザーを含む)を妨害するタイプの事で、北朝鮮が多数保有している9M14マリュートカ(NATOコード:AT-3 Sagger/サガー)や9M111ファゴット(NATOコード:AT-4 Spigot/スピゴット)などの対戦車ミサイルには有効だと思われる。同系の防御システムはロシアが開発しており、シトーラ1(Shtora-1)と呼ばれるタイプがT-90戦車などに装備されている。砲塔後部にある砲弾挿入ハッチは、試作車では左側に設置されていたが、今回公開された試験車輌では右側に移されている。

【2007年7月16日追記】
トルコ陸軍は次期主力戦車について、外国から直接輸入するのではなく、外国の既存の戦車をベースに国内開発する事を決定し、パートナー企業を募集する入札を行っていた。最終選考に残ったのは、独クラウス・マッファイと韓国の現代ロテムの二社であったが、2007年6月20日、トルコ防衛調達局の防衛産業部局は次期国産戦車開発の協力企業として現代ロテム社が選考されたことを発表した。契約総額は2億3000万ドル。現代ロテム社は、トルコのオトカ社を中心とした開発グループに開発支援と技術移転を行い4両の試作戦車を生産することになる。K2戦車をベースとした戦車は2012年に生産開始の予定で、生産台数は250両になる見込みであるが、これに関する契約は別途結ばれる事になる。関連する契約総額は最大で10億ドルになる可能性も有るとのこと。

【2007.12.16追記】
K2用の国産トランスミッションのデモンストレーションが2007年12月12日に慶尚南道昌原のS&T大宇(旧大宇精密工業)で行なわれた。このトランスミッションはADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)が2005年4月から開発を始めたもので、2010年頃にK2に搭載される予定。ADDの関係者によれば「このクラスとしては世界で初めて前進6段、後進3段の自動変速を可能にした」そうで、「変速時の衝撃を顕著に減少させ」「完全デジタル制御、自己診断機能を採用する事で運用性が向上している」という。

【2008.11.23追記】
韓国軍関係者は2008年11月19日、約600輌の導入を計画しているK2戦車のうち、まず第一段階として100輌を生産するための予算144億ウォンを韓国国会に要求したと述べた。韓国軍が段階的にK2を導入するのは、韓国経済の低迷と、今後の技術的発展を後期生産型に取り入れる為だと分析されている。これに関連し、韓国防衛事業庁のチェ部長は同月17日の国防委員会において、今回要求した144億ウォンは、2011年度に45輌、2012年度に60輌を生産するための着手金だと説明した。

【2009.05.07追記】
国防改革2020で計画されていた2個軍団へのK-2の配備が、費用削減のため1個軍団(300輌)に減らされる事になった。

▼射撃訓練中のK2
▼K2戦車の後部
▼砲を仰角一杯まで上げたK2戦車
▼K2戦車の砲塔前端部

▼K2戦車の砲塔の装甲及びERA(ADDによるCG)
▼55口径120mm滑腔砲と自動装填装置及び弾倉部
▼55口径120mm滑腔砲
▼K2戦車の自動装填装置の弾倉部
▼自動装填装置の弾倉部(左)と砲への装填の様子(右)
▼K2戦車に搭載される国産トランスミッション(左)とエンジン(右)

▼K2戦車の試作車体
▼K2戦車の火力試験車
▼渡渉試験を行なうK2戦車
▼火力試験を行なうK2戦車
▼低温度試験を行なうK2戦車

▼韓国のミリタリー誌に載ったK2発展型のCG

▼第20機械化歩兵師団と共に渡河訓練を行うK2

【参考資料】
軍事研究(株ジャパン・ミリタリー・レビュー)
朝鮮日報
中央日報
PowerCorea
DefenseNews.com-S. Korea Emerges as Major Industry Partner for Turkey
Turkish Defence News-Turkey set to forge major S. Korea defense deals
など


2009-05-17 01:23:44 (Sun)

最終更新:2009年05月17日 01:23