チュンムゴン・イ・スンシン級駆逐艦(KDX-II)


▼1番艦「チュンムゴン・イ・スンシン」(DDH-957)
▼2番艦「ムンム・デワン」(DDH-976)
▼3番艦「テジョヨン」(DDH-977)。本艦からハープーンに変えてSSM-700Kが装備されている。

▼4番艦「ワン・ゴン」(DDH-978)。本艦から艦橋前のMk41 VLS 16セルが左に寄せられ、国産VLS用のスペースが空けられた。
▼5番艦「カン・カムチャン」(DDH-979)
▼6番艦「チェ・ヨン」(DDH-981)

性能緒元
満載排水量 4,800t
全長 154.4m
全幅 16.9m
喫水 4.3m
主機 CODOG
  GE LM2500ガスタービン 2基(53,640馬力)
  MTU 20Vディーゼル 2基(8,000馬力)
速力 30kts
航続距離 12,000km/17kts
乗員 185+101名(最大380名)

【兵装】
対空ミサイル RIM-66スタンダードSM-2MR BlockIIIA Mk41 VLS = 32セル
対艦ミサイル(前期型) RGM-84DハープーンBlock1C Mk141 4連装発射筒 = 2基
対艦ミサイル(後期型) SSM-700K「海星」 4連装発射筒 = 2基
対潜ミサイル(後期型のみ) K-ASROC「赤鮫」(開発中) 国産VLS = 32セル ※巡航ミサイルと共用
巡航ミサイル(後期型のみ) 「天龍」(開発中) 国産VLS = 32セル ※対潜ミサイルと共用
Mk45 mod4 62口径127mm砲 単装砲 = 1基
魚雷 Mk46 mod5 324mm短魚雷 Mk32 3連装発射管 = 2基
近接防御 RIM-116B RAM Block1 Mk49 21連装発射機 = 1基
  ゴールキーパー30mmCIWS 1基
ヘリコプター スーパーリンクス哨戒ヘリコプター 2機

【電子兵装】
2次元対空捜索レーダー AN/SPS-49(v)5 1基
3次元多目的レーダー MW-08 1基
火器管制レーダー STIR-240 2基
航海レーダー AN/SPS-95K 1基
戦闘システム KDCOM-II  
電子戦システム SLQ-200(v)5K SONATA  
チャフ・フレア KDAGAIE Mk2 4基
データ・リンク・システム KNTDS  
IFFシステム AN/UPX-27K  
ハル・ソナー DSQS-21BZ  
曳航ソナー SQR-220K  
対魚雷システム SLQ-261K TACM  

KDX計画の第2段階(KDX-II)として開発された韓国国産の駆逐艦。スタンダード長距離対空ミサイルを装備する、韓国海軍初の本格的エリア防空艦である。設計開発は1996年から現代重工と大宇造船海洋で行われ、おそらく仏タレス社の協力を得たものと思われる。1番艦「忠武公李舜臣(チュンムゴン・イ・スンシン)」は巨済島の大宇玉浦造船所で建造され、2002年5月に進水して1年程試験を行った後、2003年末に就役した。2番艦「文武大王(ムンム・デワン)」は現代重工で建造され、以降大宇造船海洋と現代重工で交互に建造が行われている。1隻の建造毎に両社で熾烈な受注合戦が繰り広げられ、その度に入札価格を引き下げが行われたために6番艦は200億ウォンも安くなっているという。韓国海軍は2020年までにチュンムゴン・イ・スンシン級を13隻(12隻+予備1隻)建造したい意向だが、今のところ予算は6隻分しか認められていない。

チュンムゴン・イ・スンシン級は広範囲の防空を担うエリア防空艦として、アメリカから1998年のFMSで導入したRIM-66スタンダードSM-2MR BlockIIIAと、そのランチャーであるMk41VLS(Vertical Launching System:垂直発射システム)を装備している。本来スタンダードSM-2はイージス・システムに対応する長距離対空ミサイルとして開発されたが、BlockIIIAは非イージス搭載艦のために用意されたタイプ。スタンダードSM-2は慣性航法装置と母艦からの指令で目標の未来位置へ飛んで行き、目標に接近したところで母艦からのレーダー照準波に誘導されるセミアクティブ・レーダー・ホーミングに切り替わる。チュンムゴン・イ・スンシン級はスタンダードSM-2用管制レーダーSTIR-240を2基装備しているので2目標に同時対処できるが、目標の緒元を得るMW-08レーダーの探知距離がミサイルの射程距離より短いため(約100km)、遠距離での交戦時にはSTIR-240のうち1基を目標追跡に用いるので1目標にしか対応できないと言われている。SM-2 BlockIIIAの最大射程は約140km。リムパック2004で1番艦「忠武公李舜臣」は、113km先の標的をスタンダードSM-2で撃墜(直撃)する事に成功している。SM-2 BlockIIIAはSM-3のような弾道弾迎撃能力は無い。韓国海軍は2000年に1億5,900万ドルでSM-2ブロックIIIAを110発発注している。

Mk45 mod4 127mm速射砲は、それまで54口径だったMk45の砲身長を62口径まで延長し、陸上への艦砲射撃を重視した新型砲である。この砲はロケット推進式のEX-171 ERGM(Extended-Range Guided Munition:長距離誘導砲弾)を使用すると最大射程が117kmにも及び、砲弾に内蔵されたINS(Inertial Navigation System:慣性航法システム)とGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)により精密砲撃が可能。また通常砲弾を使用しても50kmという在来127mm砲の倍近い射程距離を有している。強大な北朝鮮陸軍と対峙する韓国ならではの装備といえよう。チュンムゴン・イ・スンシン級は韓国のWIA(World Industries Ace)社がライセンス生産したMk45を装備している。ただし同社が製造した砲身を装備していた2番艦「文武大王」が、2007年5月28日の射撃訓練中に砲弾が破裂して砲身が大きく裂けるという暴発事故を起こしており、同社の製造技術に問題がある可能性も指摘されている。近接防御火器はクァンゲト・デワン級ではゴールキーパー30mmCIWSを2基装備していたが、チュンムゴン・イ・スンシン級ではゴールキーパーを1基に減らし、新たにRAMが1基加えられた。RAMはRolling Airframe Missile(回転弾頭ミサイル)の略で、サイドワインダーAAM(Air-to-Air Missile:空対空ミサイル)のロケット・モーターとスティンガーSAM(Surface-to-Air Missile:地対空ミサイル)の赤外線シーカーを組み合わせた、低空目標迎撃ミサイル。射程距離は約10kmで、Mk49 21連装発射機は韓国のS&T大宇社(旧大宇精密工業)でライセンス生産されている。短魚雷の3連装発射管はステルス性を得るために、上部構造物内に収められている。

チュンムゴン・イ・スンシン級の前期タイプ3隻は艦橋前の32セルのVLSにスタンダードSM-2対空ミサイルだけ装備していたが、後期タイプ3隻はVLSを64セルまで拡張し国産の巡航ミサイル「天龍」対潜ミサイル「赤鮫」を追加装備する予定。VLSの左側32セルはスタンダード用のMk41で、右側に増設される32セルのVLSは「赤鮫」のコールド・ランチに対応する新型が装備される。「天龍」は射程約500kmの対地精密誘導巡航ミサイル。「赤鮫」はK745「青鮫」短魚雷にロケット・ブースターを装着したもので、投射距離は約10km。1、2番艦はハープーン対艦ミサイルを使用しているが、3番艦からは国産のSSM-700K「海星」が搭載される。短魚雷も国産のK745「青鮫」になるものと思われる。

2次元捜索レーダーはクァンゲト・デワン級に装備されているものと同じAN/SPS-49(v)5で最大探知距離は450km。MW-08は仏タレス社製の3次元多目的レーダーで、約100kmの最大探知距離と16目標の同時追跡機能を有しスタンダードSAMに射撃緒元を提供するが、スタンダードSAMの最大射程距離より探知距離が短いのがネックだ。MW-08は低空域の目標探知能力が低く、海面上を超低空で飛来する対艦ミサイルの探知距離は15~20km程度にしか過ぎない。またMW-08は上方角度以上は走査外で死角となっており、ハイダイブ型のミサイルを捕らえられない。火器管制レーダーはクァンゲト・デワン級に装備されていたSTIR-180の発展型であるSTIR-240を2基装備しており、スタンダードSAMと砲の管制を行う。STIR-240の最大追尾距離は240km。戦闘システムはイギリス海軍の23型フリゲートにも搭載されているBAeシステムズ社製のSSCS Mk7をベースに、三星テックウィン社が改良したKDCOM-IIを搭載している。KDCOM-IIは対空ミサイルや対艦ミサイル、砲などの武器や各レーダー、ECMなどの電子戦システムを統合的に管制し、情報分析と評価を行って効率的に攻撃を行うことが出来る。また目標の戦術情報はデータ・リンク・システムを通じて、ほぼリアルタイムに僚艦と共有する事ができるが、旧式なために耐ジャミング性が低く接続できるユニット数も少ない。ハル・ソナーは独アトラス・エレクトロニック社製のDSQS-21BZ中周波ソナー(探知距離約30km)を装備している。曳航ソナーは韓国STX造船製のSQR-220K(韓国型)超低周波ソナーを装備している。しかしチュンムゴン・イ・スンシン級はクァンゲト・デ・ワン級と同様RAST(Recovery Assist Secure and Traverse:ヘリコプター発着艦支援装置) が装備されていないため、夜間や悪天候下での搭載ヘリコプターの運用は出来ない。SLQ-261K TACM(Torpedo Acoustic Counter Measure:対魚雷用音響妨害手段)はADD(Agency for Defense Development:国防科学研究所)が韓国用に改修した対魚雷システムで、ソナーで探知した敵魚雷に対し自動的にデコイを射出する。

チュンムゴン・イ・スンシン級はステルス性を重視しており、RCS(Radar Cross Section:レーダー反射断面積)軽減のために独IABG社の協力を得て設計された。そのため上部構造物は側面が船体と繋がり、10度の傾斜を持つ先進的な艦型となっている。船体外板にはレーダー波吸収塗料が使用されているようだ。これによりチュンムゴン・イ・スンシン級のRCSは1,200tのポーハン級コルベットよりも小さくなっている。また煙突から排出される赤外線を抑制するための努力も払われている。これは赤外線誘導型の対艦ミサイルを意識したもので、米DAVIS社が大宇造船海洋、現代重工と契約を結んで、煙突からの排気に冷たい外気を混ぜて冷却するIRSS(赤外線抑制システム)をチュンムゴン・イ・スンシン級に組み込んだ。また排気管自体にフロンガスを送って、ガス・タービン使用時の高熱を押さえるシステムも備えている。推進方式は巡航時にディーゼル、高速時にガス・タービンを使用するCODOG方式を採用している。ガス・タービンは米ゼネラル・エレクトリック社製のLM2500を三星テックウィンでライセンス生産したもの、ディーゼルは独MTU社製を装備している。上部構造物はクァンゲト・デワン級と同じように、重量増加を避けるためアルミ製になっている。満載排水量は4,800tと発表されているが、実際には約1,000t多い5,700tのようだ。なお、本級は韓国海軍艦艇の中で初めて女性兵士専用の寝室及びトイレが設けられ、今後の本格的女性兵士乗艦時代に備えている。

2007年5月28日、DDH-976「ムンム・デワン」が鎮海沖で射撃訓練中、Mk45 mod4 62口径127mm砲の膣発事故を起こした(詳細は下記)。
2009年4月13日、合同参謀本部はDDH-976「ムンム・デワン」を海賊対策としてソマリア沖に派遣した。
2009年4月17日、ソマリア沖に派遣された「ムンム・デワン」が、海賊に襲われているデンマーク商船を救助した。
2009年5月4日、ソマリア沖に派遣された「ムンム・デワン」が、海賊に襲われている北朝鮮貨物船を救助した。
2009年5月6日、ソマリア沖に派遣された「ムンム・デワン」が、海賊に襲われているパナマ船籍のタンカーを救助した。

■DDH-976「ムンム・デワン」の膣発事故について
2007年5月28日、鎮海沖でMk45 mod4 62口径127mm砲の射撃訓練を行っていたチュンムゴン・イ・スンシン級2番艦「ムンム・デワン」が膣発事故を起こし、127mm砲の砲身が裂けた。幸い人的な被害は無かった。「ムンム・デワン」が装備していた127mm砲は米ユナイテッド・ディフェンス社(現BAEシステムズ社)が開発し、韓国WIA(World Industries Ace)社が砲身を輸入してライセンス生産したもの。海軍当局によれば、調査では運用上の問題は無かったという。砲弾を製造した伊シメル社はこの事故について「砲弾の設計及び生産に全く問題は無く、砲弾保管中に発生したサビが砲身内自爆の原因である」と、暗に韓国海軍の運用・管理能力の低さを指摘した(2007年9月21日韓国連合ニュース)。またBAE社も砲身の開発・製造に問題は無かったと発表している。これに激怒した韓国側は第3者機関に公正な分析と調査を依頼するとしているが、製造会社から補償を引き出すのは極めて困難だろう。事故を起こした「ムンム・デワン」は8億ウォンをかけて6月に裂けた砲身を交換し、現在は通常通り任務に就いている。

1番艦 忠武公李舜臣(チュンムゴン・イ・スンシン) ROK Chungmugong Yi Sun-shin DDH-975 2003年12月就役
2番艦 文武大王(ムンム・デワン) ROK Munmu the Great DDH-976 2004年10月就役
3番艦 大祚栄(テジョヨン) ROK Daejoyoung DDH-977 2005年6月就役
4番艦 王建(ワン・ゴン) ROK Wang Gun DDH-978 2006年11月就役
5番艦 姜邯賛(カン・カムチャン) ROK Gang Gamchan DDH-979 2007年10月就役
6番艦 崔瑩(チェ・ヨン) ROK Chae Yeon DDH-981 2008年1月就役

▼ヘリコプター発着甲板と格納庫。甲板の円盤状のものは、ヘリのフックを引っ掛けるための着艦支援装置の蓋。
▼前期型(DDH-975~977)の前部VLSはMk41 16セルのみ
▼4番艦「ワン・ゴン」(DDH-978)に試験装備されたK-ASROC用の韓国国産VLS(右の4セル)

▼艦橋。海自の護衛艦では考えられないほど木材が多用されている。
▼機械管制室
▼兵員室のベッド(左)と個室トイレ

▼SPY-1Fを装備したKD-II型(韓国のミリタリー系雑誌に掲載された妄想図)

【参考資料】
世界の艦船(海人社)
艦載兵器ハンドブック改訂第2版(海人社)
朝鮮日報
Grobal Security
PowerCorea


2009-05-09 02:50:30 (Sat)

最終更新:2009年05月09日 02:50