「睫毛の先」(2005/11/21 (月) 21:40:40) の最新版変更点
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<88title/no.30>睫毛の先
ビューラーで根元から毛先へカールさせる。
繊維入りの下地をつける。
マスカラを「だま」にならないようつける。
マスカラ液が乾く前にコームで梳き、もう一度重ねづけする。
乾いた上からさらに透明マスカラをつけると、クマにならない。
阿呆みたいに口をポカンと開けたまま、神田が俺を見ていた。
俺の手順を魔法か何かでも見るみたいに。
「栗、キレー」
言葉までガキに戻ってやがる。俺は笑って、赤い口紅を引いた。
あ、クソ。ちょっと歪んだ。ティッシュで拭き取ってもう一回。
金髪のカツラを付けて、ブラシで整えて、
「どうだ?美人だろ」
振り返ってあだっぽく笑みを作ってやると、神田の顔がだらしなく垂れ下がる。
「うん。栗すんげー綺麗!!」
そうか、そうか。素直な返事だ。うんうん。俺は色白だから金髪も不自然じゃないし。
俺以上にジェーン役に適した奴はいないしな。
化粧のやり方は、子供の時に母親の見てて覚えてたし、せっかくだからとことん究めてやれ。
こんな祭りに馬鹿騒ぎしないでどうするんだ、って昔の俺からは考えられないことだ。
神田に出会って、俺もこう思うようになった。たいした成長だよ。
思わずひとりで感慨に浸っていると、いきなり神田の怒声が聞こえた。
「こらー!!踊り子さんには触れないで下さい、って言ってんだろ!!!」
気がつくと目の前に、男どもの群れ。何を期待しているのか、俺を輪になって囲んでいた。
阿呆らし。
情けないぞお前ら。紛いモンでもかまわねーってか?
女に餓えたこいつらが、急に哀れに思えてきて、つい、
「さあて、誰があたしを満足させてくれるの?」
しなを作って、髪を掻き上げる仕草で誘って。ウィンクのサービス付き。
とたんに怒号と勢いで挙手をしてくる奴らに、ますます哀れみが増した。
おい、鼻血出してんじゃねーよ神田……。
出番前の直前。舞台の袖で神田とふたりきりだった。
神田はターザンのカッコして、まだ笑っている。
「五月蠅いよ、鼻血小僧」
「いやー、お前があそこまでノってくれるとは思わなかったんで……ゲホッ」
挙げ句に噎せてるし。
「そんなにあたしって魅力的?」
ちょっとむかついた俺は、神田の首に腕をからませ、腰を密着させる。奴はそのまま固まったままで。
こんなんで引っかかるんだから、男って莫迦だよなあ。
「神田さんはどっちがスキ……?」
あたしと……クリハラ。
裏声の誘惑を神田は凝視したままで。
上目使いで見つめて、グロスで光ったくちびるを、舌先で少しだけ舐める。ほら、顔がこんなに近く。
まばたきを繰り返して、見つめ合う。もう少しで睫毛が触れるほど。
神田の緊張が手に取るように判って、可笑しい。
何も言えなくて、俺を凝視したまま。
そして俺は右手を神田の顔の前に翳し、目を覆った。いつもの声で囁く。
「神田はどっちがスキなんだ?」
俺と彼女と。
どっちも俺だけどな。
自分でもなんでこんな質問してんだろうと、不思議だ。
こんなの莫迦じゃないか。自分に自分で嫉妬してる?
やっぱり女がいいとか、言ったらブチのめすけどな。
なあ。
ねぇ。
どっち?
視線はまだ神田に向けていて、けれど意識は内に跳んでいたから気づかなかった。
奴がいきなり暗幕を捲って、ふたりの体に巻きつけて、キスを仕掛けて来るとはね。
「ば、莫迦野郎!メイクが崩れるだろうが!!」
下半身に脳みそが入った単純男の口を抑え込み、必死に防衛に出る俺。そして何かが
腰に当たった。
げ。こ、こいつ反応してやがる。
紛れもなくそれは、奴の御子息様で。
こっんの大莫迦がぁぁぁあ!!!
俺は奴の耳を力いっぱい引っ張ってやった。
「痛てー!!! く、栗、……タイム!!」
涙目になる奴の顔を見て情けなくなる。
あんな定番の誘惑でフラフラするんだから、こいつの莫迦さ加減が頭に痛い。
舞台係の「本番ですよ~」の声が掛かるまで、俺はずーっと耳を引っ張っていた。当然だろ。また襲いかかられちゃ敵わない。
で、劇の出来はというと……まったく散々な目にあった。
神田はタヌキバヤシとコントをするし、日頃の恨みをぶつけるかのように司令は俺をいびるは、どこから聞きつけたのか、ジョーイの乱入。
悪ノリしてジョーイは俺にキスしてきて、それでまた大乱闘。
舞台なんてモンじゃなかった。
オマケにアレだろ。
<総隊『いざなみ』××-5。コックドピストル(CP)発令。時刻…………>
やりやがった!!!
なんでこんな日にやるんだ、と誰もが思ったね。
全部終わったあとは、もうヘトヘトで、さすがの体力莫迦たちも死体のように転がっていた。
別に呼集といっても、いつものフライトと大して変わりはないが、気力の問題だ。気力の。
疲れきった体を無理矢理起こして、官舎に帰って。
風呂に入って、飯喰って、酒呑んだらすぐにイッちまうなぁ。
フラフラしながら帰った部屋。
当然のように上がりこんできた神田は、勝手知ったる何とやらで、風呂の支度を始めた。
食事は途中で定食屋に寄って済ませてきた。俺は台所に這っていき、冷蔵庫を開ける。
とにかくビールだ。ビールを呑まないと。
「あー!!栗狡いぞ!」
ビール瓶を持ってグラスを探してたら、神田に取り上げられてしまった。
「風呂入ってからだろうが」
「やだね。俺は呑むぞ」
もう早く呑みたいのと、眠たいので、俺の機嫌は最低だった。
「だったら早く風呂入ってこいよ。もう沸いてるから」
俺はその時点で気づくべきだったんだよ。奴の魂胆を。
普段になく世話を焼く神田に、俺は不自然さを感じることもなく、素直に風呂に行った。
疲れていたからだ。
湯船につかり、目を閉じて何も考えなかった。
あ~至福。極楽。天国よ。
下手をするとこのまま眠り込んでしまいそうだ。
掬ったお湯で顔を洗うと、指の先がキラキラしている。
基地で一応、化粧落としで洗ったんだが、まだ残っていたらしい。なかなか取れないモンだな。
って考えていると、ガラッと風呂のガラス戸が開いた。
「く~り。一緒に入ろう!」
すでに用意は万端と、全裸で神田が入ってくる。
「出て行け」
間髪入れずに言い放って、俺は冷たい視線をくれてやった。
「この狭い風呂で、大の男がふたりも入れる訳ないだろうが」
「大丈夫。大丈夫」
適当なことを言って、掛け湯を簡単に済ませた神田が、無理矢理湯船に入ってくる。
俺ひとりなら充分な湯量が、ふたり分の体積に敵わずあふれ出した。ああ、勿体ない。
膝を折って、向かい合わせに座り込んで、ガキじゃないから身動きも取りづらい。
「おい、俺はゆっくり入りたいんだよ」
半ば諦めたものの、釘は刺しておかないと学習しないからな。この莫迦ゴリラは。
「だって、俺も疲れてるんだぜ。ちゃっちゃと風呂入って、ビール呑みたいの」
「じゃあ、その手は何だよ。その手は!?」
背中を抱き込もうとする奴の手を、ピシャリと叩いた。こんなところ絶対にゴメンだ。
「違うって~!そんなんじゃないから触らせてよ」
「そんなんじゃないって何だ?他に何かあんのか?今日もからかったぐらいで……」
思い出したら、また頭痛がしてきて、結局その隙に、俺は奴の腕んなかに収まっていた。
俺の肩にあごをを乗せた神田が、ぽつりと言った。
「今日の栗、すんげー綺麗だったんだ」
そりゃそうだろう。俺ほどの『美女』はちょっとやそっとじゃ見つからんぞ。
「あんまり綺麗すぎて、知らない女みたいだった。そしたらさ、あんなふうに近づいて来て、どうしようかと思ったよ。まるで浮気してるみたいで」
神田の様子がいつもと違うことに、俺は口を挟めず、黙ったまま聞いていた。
「どっちも同じ栗なのに、女の栗はどっちがいいかって訊いてきたろ。訳判んなくなっちまってさ。顔見てたら栗の顔じゃないしな」
俺の不安が神田にも伝染してたことに気づいて。
「栗の声で同じこと訊かれたとき、やっぱり栗じゃないと駄目だって思った。栗原以外に俺と飛ぶ奴はいない」
だから反応したってか。
………莫迦は俺だよな。
俺以外に神田が選ぶわけ無いじゃないか。
勝手に疑って、やきもち焼いて、ひとりで拗ねて。莫迦は俺だ。
神田の背中に手を滑らして、耳元で済まない、と謝った。
悪かった。俺が悪かった。変なこと言った俺が悪かった。お前が自由に飛ぶためには、俺が必要だ。
「いいぜ、化粧してても栗は栗だって覚えたから。もう、間違わねぇ」
「しつけ方をひとつずつ覚えさせれば、ゴリラも利口になるしな」
わざと茶化した返事。それだけでこいつには充分伝わる。
神田。お前はいつも俺の不安を、俺の気づかないうちに悟ってしまう。だから手放せない。
俺が俺であるために、お前が必要だと気づかされる。
「やっぱり栗はスッピンの方がいいや」
「落ち着かないからか?」
首を傾げた俺は、グイっと顔を近づけられた。
「ほら、こうやったときに睫毛が当たりそうになるだろ」
「それがどうした」
「痛そうで怖いんだよ」
なんか長いしトゲトゲしてそうだし、って………お前なぁ、それだけかよ。
ってまた脚に当たってるぞ、脚!!
だ~か~ら~、こんなところでサカるんじゃない!!
は~。やっぱり最初からしつけ直さないと駄目かねぇ。
でも、まあ。明日は休みだ。
「神さん、とりあえず上がってビール呑ませてくれ」
それだけは絶対に譲れないからな。
結局ビールは呑ませてもらったものの、ジョーイの悪ふざけの件が尾を引いて。
明け方近くまで俺は、奴に付き合わされたのだった。
Happy End ?
注:呼集コード「いざなみ」は創作による仮称です。実際の団体、人物とは関係ありません。
2003.kaoruco
<88title/no.30>睫毛の先
ビューラーで根元から毛先へカールさせる。
繊維入りの下地をつける。
マスカラを「だま」にならないようつける。
マスカラ液が乾く前にコームで梳き、もう一度重ねづけする。
乾いた上からさらに透明マスカラをつけると、クマにならない。
阿呆みたいに口をポカンと開けたまま、神田が俺を見ていた。
俺の手順を魔法か何かでも見るみたいに。
「栗、キレー」
言葉までガキに戻ってやがる。俺は笑って、赤い口紅を引いた。
あ、クソ。ちょっと歪んだ。ティッシュで拭き取ってもう一回。
金髪のカツラを付けて、ブラシで整えて、
「どうだ?美人だろ」
振り返ってあだっぽく笑みを作ってやると、神田の顔がだらしなく垂れ下がる。
「うん。栗すんげー綺麗!!」
そうか、そうか。素直な返事だ。うんうん。俺は色白だから金髪も不自然じゃないし。
俺以上にジェーン役に適した奴はいないしな。
化粧のやり方は、子供の時に母親の見てて覚えてたし、せっかくだからとことん究めてやれ。
こんな祭りに馬鹿騒ぎしないでどうするんだ、って昔の俺からは考えられないことだ。
神田に出会って、俺もこう思うようになった。たいした成長だよ。
思わずひとりで感慨に浸っていると、いきなり神田の怒声が聞こえた。
「こらー!!踊り子さんには触れないで下さい、って言ってんだろ!!!」
気がつくと目の前に、男どもの群れ。何を期待しているのか、俺を輪になって囲んでいた。
阿呆らし。
情けないぞお前ら。紛いモンでもかまわねーってか?
女に餓えたこいつらが、急に哀れに思えてきて、つい、
「さあて、誰があたしを満足させてくれるの?」
しなを作って、髪を掻き上げる仕草で誘って。ウィンクのサービス付き。
とたんに怒号と勢いで挙手をしてくる奴らに、ますます哀れみが増した。
おい、鼻血出してんじゃねーよ神田……。
出番前の直前。舞台の袖で神田とふたりきりだった。
神田はターザンのカッコして、まだ笑っている。
「五月蠅いよ、鼻血小僧」
「いやー、お前があそこまでノってくれるとは思わなかったんで……ゲホッ」
挙げ句に噎せてるし。
「そんなにあたしって魅力的?」
ちょっとむかついた俺は、神田の首に腕をからませ、腰を密着させる。奴はそのまま固まったままで。
こんなんで引っかかるんだから、男って莫迦だよなあ。
「神田さんはどっちがスキ……?」
あたしと……クリハラ。
裏声の誘惑を神田は凝視したままで。
上目使いで見つめて、グロスで光ったくちびるを、舌先で少しだけ舐める。ほら、顔がこんなに近く。
まばたきを繰り返して、見つめ合う。もう少しで睫毛が触れるほど。
神田の緊張が手に取るように判って、可笑しい。
何も言えなくて、俺を凝視したまま。
そして俺は右手を神田の顔の前に翳し、目を覆った。いつもの声で囁く。
「神田はどっちがスキなんだ?」
俺と彼女と。
どっちも俺だけどな。
自分でもなんでこんな質問してんだろうと、不思議だ。
こんなの莫迦じゃないか。自分に自分で嫉妬してる?
やっぱり女がいいとか、言ったらブチのめすけどな。
なあ。
ねぇ。
どっち?
視線はまだ神田に向けていて、けれど意識は内に跳んでいたから気づかなかった。
奴がいきなり暗幕を捲って、ふたりの体に巻きつけて、キスを仕掛けて来るとはね。
「ば、莫迦野郎!メイクが崩れるだろうが!!」
下半身に脳みそが入った単純男の口を抑え込み、必死に防衛に出る俺。そして何かが
腰に当たった。
げ。こ、こいつ反応してやがる。
紛れもなくそれは、奴の御子息様で。
こっんの大莫迦がぁぁぁあ!!!
俺は奴の耳を力いっぱい引っ張ってやった。
「痛てー!!! く、栗、……タイム!!」
涙目になる奴の顔を見て情けなくなる。
あんな定番の誘惑でフラフラするんだから、こいつの莫迦さ加減が頭に痛い。
舞台係の「本番ですよ~」の声が掛かるまで、俺はずーっと耳を引っ張っていた。当然だろ。また襲いかかられちゃ敵わない。
で、劇の出来はというと……まったく散々な目にあった。
神田はタヌキバヤシとコントをするし、日頃の恨みをぶつけるかのように司令は俺をいびるは、どこから聞きつけたのか、ジョーイの乱入。
悪ノリしてジョーイは俺にキスしてきて、それでまた大乱闘。
舞台なんてモンじゃなかった。
オマケにアレだろ。
<総隊『いざなみ』××-5。コックドピストル(CP)発令。時刻…………>
やりやがった!!!
なんでこんな日にやるんだ、と誰もが思ったね。
全部終わったあとは、もうヘトヘトで、さすがの体力莫迦たちも死体のように転がっていた。
別に呼集といっても、いつものフライトと大して変わりはないが、気力の問題だ。気力の。
疲れきった体を無理矢理起こして、官舎に帰って。
風呂に入って、飯喰って、酒呑んだらすぐにイッちまうなぁ。
フラフラしながら帰った部屋。
当然のように上がりこんできた神田は、勝手知ったる何とやらで、風呂の支度を始めた。
食事は途中で定食屋に寄って済ませてきた。俺は台所に這っていき、冷蔵庫を開ける。
とにかくビールだ。ビールを呑まないと。
「あー!!栗狡いぞ!」
ビール瓶を持ってグラスを探してたら、神田に取り上げられてしまった。
「風呂入ってからだろうが」
「やだね。俺は呑むぞ」
もう早く呑みたいのと、眠たいので、俺の機嫌は最低だった。
「だったら早く風呂入ってこいよ。もう沸いてるから」
俺はその時点で気づくべきだったんだよ。奴の魂胆を。
普段になく世話を焼く神田に、俺は不自然さを感じることもなく、素直に風呂に行った。
疲れていたからだ。
湯船につかり、目を閉じて何も考えなかった。
あ~至福。極楽。天国よ。
下手をするとこのまま眠り込んでしまいそうだ。
掬ったお湯で顔を洗うと、指の先がキラキラしている。
基地で一応、化粧落としで洗ったんだが、まだ残っていたらしい。なかなか取れないモンだな。
って考えていると、ガラッと風呂のガラス戸が開いた。
「く~り。一緒に入ろう!」
すでに用意は万端と、全裸で神田が入ってくる。
「出て行け」
間髪入れずに言い放って、俺は冷たい視線をくれてやった。
「この狭い風呂で、大の男がふたりも入れる訳ないだろうが」
「大丈夫。大丈夫」
適当なことを言って、掛け湯を簡単に済ませた神田が、無理矢理湯船に入ってくる。
俺ひとりなら充分な湯量が、ふたり分の体積に敵わずあふれ出した。ああ、勿体ない。
膝を折って、向かい合わせに座り込んで、ガキじゃないから身動きも取りづらい。
「おい、俺はゆっくり入りたいんだよ」
半ば諦めたものの、釘は刺しておかないと学習しないからな。この莫迦ゴリラは。
「だって、俺も疲れてるんだぜ。ちゃっちゃと風呂入って、ビール呑みたいの」
「じゃあ、その手は何だよ。その手は!?」
背中を抱き込もうとする奴の手を、ピシャリと叩いた。こんなところ絶対にゴメンだ。
「違うって~!そんなんじゃないから触らせてよ」
「そんなんじゃないって何だ?他に何かあんのか?今日もからかったぐらいで……」
思い出したら、また頭痛がしてきて、結局その隙に、俺は奴の腕んなかに収まっていた。
俺の肩にあごをを乗せた神田が、ぽつりと言った。
「今日の栗、すんげー綺麗だったんだ」
そりゃそうだろう。俺ほどの『美女』はちょっとやそっとじゃ見つからんぞ。
「あんまり綺麗すぎて、知らない女みたいだった。そしたらさ、あんなふうに近づいて来て、どうしようかと思ったよ。まるで浮気してるみたいで」
神田の様子がいつもと違うことに、俺は口を挟めず、黙ったまま聞いていた。
「どっちも同じ栗なのに、女の栗はどっちがいいかって訊いてきたろ。訳判んなくなっちまってさ。顔見てたら栗の顔じゃないしな」
俺の不安が神田にも伝染してたことに気づいて。
「栗の声で同じこと訊かれたとき、やっぱり栗じゃないと駄目だって思った。栗原以外に俺と飛ぶ奴はいない」
だから反応したってか。
………莫迦は俺だよな。
俺以外に神田が選ぶわけ無いじゃないか。
勝手に疑って、やきもち焼いて、ひとりで拗ねて。莫迦は俺だ。
神田の背中に手を滑らして、耳元で済まない、と謝った。
悪かった。俺が悪かった。変なこと言った俺が悪かった。お前が自由に飛ぶためには、俺が必要だ。
「いいぜ、化粧してても栗は栗だって覚えたから。もう、間違わねぇ」
「しつけ方をひとつずつ覚えさせれば、ゴリラも利口になるしな」
わざと茶化した返事。それだけでこいつには充分伝わる。
神田。お前はいつも俺の不安を、俺の気づかないうちに悟ってしまう。だから手放せない。
俺が俺であるために、お前が必要だと気づかされる。
「やっぱり栗はスッピンの方がいいや」
「落ち着かないからか?」
首を傾げた俺は、グイっと顔を近づけられた。
「ほら、こうやったときに睫毛が当たりそうになるだろ」
「それがどうした」
「痛そうで怖いんだよ」
なんか長いしトゲトゲしてそうだし、って………お前なぁ、それだけかよ。
ってまた脚に当たってるぞ、脚!!
だ~か~ら~、こんなところでサカるんじゃない!!
は~。やっぱり最初からしつけ直さないと駄目かねぇ。
でも、まあ。明日は休みだ。
「神さん、とりあえず上がってビール呑ませてくれ」
それだけは絶対に譲れないからな。
結局ビールは呑ませてもらったものの、ジョーイの悪ふざけの件が尾を引いて。
明け方近くまで俺は、奴に付き合わされたのだった。
Happy End ?
注:呼集コード「いざなみ」は創作による仮称です。実際の団体、人物とは関係ありません。
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