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「DISTANCE~千歳~」(2012/10/15 (月) 20:21:07) の最新版変更点
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***DISTANCE~千歳~
それは神田が千歳基地についた日の昼過ぎの事だった。
神田の任務は司令をファントムで千歳基地に送り届けて、そして3日後にまた百里に連れて帰る事だった。なぜファントムなのかと言うと、その千歳への行程がそのまま司令の年次飛行の時間消化に当てられているという無茶苦茶な計画によるもので、つまり千歳にいる3日間、神田は特にする事もなくフリーなのだ。
朝イチで百里を発って千歳についたので、基地の見学も午前中にしてしまってたし、民航のターミナルに行って忘れないうちにと早々と栗原と飛行隊への土産も買った。
そして、もう既に退屈しはじめていた。
さすがにこの時間からすすき野の繰り出すのも気が咎める。同期や知り合いがこの基地に居なくもないが、みんな仕事中だ。遊んでくれる相手もいなかった。
仕方なく、宿舎に割り当てられた幹部隊舎の一室で昼間からゴロゴロとしている。
普段は外来用に誰も使っていない部屋だから、そこにはベッドとロッカー以外何もなかった。テレビすら娯楽室まで行かないと見られない不便さだ。二人部屋だが、申し訳程度の間仕切りで仕切られた隣のベッドも誰か他の宿泊者が来るという様子もない。
「ヒマだぁ~~~~~。」
と神田が大きな声で言ったその瞬間だった。
ジリジリジリジリジリ
と、廊下の方で内線電話の鳴る音が聞こえた。
このフロアには神田の他に人が居ないのか、誰も電話に出る様子がない。
「・・・なんだ、誰も出ないのかよ。」
仕方なく、神田は起きて行って電話に出る。もしかしたら自分宛の電話かもしれなかった。
予感は的中で、神田が電話に出ると、
『神田2尉ですか?部隊からお電話です。このままお繋ぎします。』
と電話口の誰かがそう言って、内線の呼び出し音の後、聞きなれた声が神田の耳に届いたのだった。
『よお、神さん。何やってた?』
声の主は栗原で、幾分からかうような響きがあった。おそらく神田がそうやって限りなくヒマしてることを予想してかけてきているのだろう。
「・・・何も・・・。退屈で死にそうだよ、栗ぃ~。」
そうやって神田が泣きつくと、電話の向こうでクスクスと笑う声がした。
「笑うなよ、ホントする事ねぇんだぞ?5時まで外にも出れねぇしよ。」
『だって、おっかしいんだもん。ヒマなら寝てればいいのに。夜遊びに備えてさ。それかテレビでも見てれば?』
「テレビもねーんだもんよ、この部屋。千歳のBOQもひでぇもんだ。」
『おまけに日当たり悪くて、廊下はギシギシ言って、食堂まで遠いだろ?』
「あれ、何で知ってんの?」
『だって、俺そこに住んでたもん。』
と、そこまで話していて、ようやく神田は栗原が以前千歳の所属だったことを思い出したのだった。どうりでやけに土産のこととかターミナルの場所だとか詳しい筈だ。
「ひっでぇ、何もないって知ってんなら、そうと教えてくれりゃあいいのによ。」
『だって面白くないじゃん?まぁ、寂しくなったら電話して来いよ。1600でこっちもフライト終了だからさ。』
「・・・・・・。」
『おい、こら神田。電話で黙り込むな。』
「栗・・・、訓練がてらこっちに飛んで来たりしない?」
『・・・アホか。新人のお守りしながらそんなマネできるか。それに・・・。』
「それに?何だよ。」
『俺が千歳なんかに行った日にゃ、塩まかれて追っ払われるのが関の山。』
アハハハと笑ってそう言った後、栗原は、
『まぁ、ゆっくりして来いよ。夜にはたんまり遊べるんだろうからさ。』
そう告げて受話器をおいたようで、神田の耳元にはツーツーという発信音だけが響いていた。
そんな電話があったから、神田は栗原が気になって仕方なくなっていた。
別に、会いたくてたまらない、だとか恋焦がれて眠れないとかそういった意味ではなくて。栗原は千歳でいったい何をやらかしたんだろうと。
もしくはどんな生活をしてたのか、とか。誰とどんな会話をしていたのだろう、とか。そんな些細なことが気になり始める。
伊達と一緒だったのは知っているが、伊達も栗原も決して千歳時代のことを語ろうとはしなかった。別に何かを隠している様子でもないのだが、それとも他だ単に思い出したくないだけなのだろうか。
この幹部隊舎だって二人部屋なのだ。栗原がここに住んでいたというのなら誰が隣のベッドに寝ていたというのだろう。
受話器をおいて、また部屋に戻ってベッドにゴロリと横になってそんな事を考えているうちに神田はウトウトし始め、そしていつしか深い眠りに落ちていたのだった。
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