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「A Wet Nightmare」(2012/10/15 (月) 20:23:15) の最新版変更点
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***A Wet Nightmare
夜なかなか寝付けないでいた日の朝の目覚めはサイアクだ。神経が昂ぶっていて半覚醒の状態が続いているからだろう。
だから、ちょっとした物音にもすぐ反応してします。
その日、神田の目を覚まさせたのは、廊下で鳴り響いている電話の音だった。
それも内線の音ではなくて、外からかかっている呼び出し音だ。
誰か出ないのか?
と、しばらくそれが鳴り止むのを待っていると、呼び出し音が止まる。
けれど、5秒程おいて、またけたたましく鳴り始めたその音に、神田は仕方なく外来隊舎のベッドから起き上がった。
ドアを開けて電話のところまで行き、受話器をとる。
「外来、神田2尉です。」
神田がそう名乗ると、
『神田か? ・・・俺だ。』
と、今一番神田が話をしたくない相手の声が聞こえてきた。
「・・・・・・。」
『俺だ、伊達だ。』
「お前とは話したくない。」
神田の声は不機嫌だ、そのまま受話器を置こうとするのを察して、伊達は慌てた声で思い止まらせる。
『待てよ、昨夜の事は謝る。ちょっとからかってやろうと思っただけだ、度が過ぎた。』
「・・・そんな事を言うためにわざわざ電話してきたのか?」
神田の声は幾分落ち着いてきている。けれど、いつもの彼のような陽気なトーンではなかった。
『そ、そ。お前をからかった事がバレると、後が怖ぇからよ。』
「・・・。」
伊達の言葉を信じていいものかどうかを、神田は考えていた。その言葉を信用しないのであれば、それは栗原を信用していない事につながる。
おそらく、ここ千歳に来る前であれば、否、あの写真の中の栗原を見つける前であれば、それを疑う要素は神田の中に何一つ存在してはいなかった。
けれど、神田は知ってしまったから。今の栗原の持つ雰囲気と人格が、神田と出会った事によって形成されていったものであるとするなら、あの写真の中に居た栗原は、おそらく彼の「本質」なのだろうと。
そして、伊達は神田よりもその事を良く知っている筈だと。
『なんだよ、おい。お前、まだ怒ってんのかよ。』
色々と考えあぐねて黙り込んだ神田に、受話器から伊達の声が響く。
「あぁ、いや、怒ってないさ。・・・別に、お前と栗原がどういう関係だったかとか、そんな事、俺は別に・・・。」
『何だと?神田、お前何言って・・・。』
「写真を見たんだ・・・。」
『写真って・・・。待て、神田、切るなっ・・・。』
伊達がそう叫ぶのも虚しく、神田はそこで受話器を置いてしまう。
そして、あてがわれた部屋に戻ると、ベッドの上に座り込んだ。
目覚めがよくなかったにも関わらず、眠ろうという気にもなれなかった。
目を閉じると、脳裏に栗原の姿がちらつくのだ。
何をバカな事を考えているんだ、とでも言っているかのような、いつもの冷ややかな表情の栗原が居て、そしてそれを押し退けるようにして、写真で見た栗原の姿が現れる。
その無表情な目が、じっと自分を見つめているようで、気味の悪い思いがして、神田は閉じていた目をあける。
必死でそれを打ち消そうと、今の栗原を想像しようとしても、それは何度も失敗に終わった。
「栗原・・・会いてぇ・・・。」
手近にあった固い枕を手にとって、それを抱きしめる。
百里を出てから、まだ丸一日ほどしか経って居ない。それなのにこれ程の喪失感を味わっている。神田にとっては初めての事だった。
今すぐにでも、任務の事など忘れて、ファントムを駆って百里まで飛んで行きたかった。そして、神田は会って確かめたかった。今存在している栗原が、確かに自分の知っている栗原だという事を。
それから今の自分のくだらない想像をすべて白状してしまって、いつもの様に呆れた様な、そして子供をあやすような口調で「馬鹿な奴だ。」と、言って貰いたかった。
栗原には、神田が安心して甘えていられる存在であって欲しかった。
あの写真の中のような、不安定で掴みどころのない存在ではあくて。
けれど、枕を抱きしめて目を閉じると、また不意にその不安定な表情の栗原が脳裏をよぎる。そして神田に向かって告げるのだ。「神田は俺の何を知っているの?全部理解してるつもりでいるの?」と。
「お前じゃないっ、お前じゃ駄目なんだっ・・・。」
そう叫んで、神田は無意識に手にしていた枕を乱暴に壁に叩きつけた。
枕は軽い音を立てながら壁にあたって、そのまますとん、と床に落ちた。
その音で神田は我に帰る。枕を拾いに行こうと、その落ちた方向を見ると、またそこに昔の栗原の幻が見えた。
壁に叩きつけられ、崩れ落ちた格好のままで神田を見上げている。無表情なまま、けれどその瞳の中にだけ僅かな怒りの感情を見せて。そしてその興奮からか唇だけが妙に赤い。
そんな光景が、神田をいつにない残虐な気分にさせる。
このまま消えないのならば、屈服させてやる、と。
壁際まで枕を拾いに行って、そして今度はそれをベッドの上に投げつけた。
そして、ベッドに座りなおして目を閉じると、そのまま夢魔に誘われるかのように怪しい夢の世界へと落ちていったのだった。
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