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Fragile Eternal


 「神さん、8時だぜ。」
 「あ?…あぁ。」
 「どしたい、ぼーっとして。待機終了だ、お疲れさん。」
 睡眠不足なのか疲れからなのか呆けている神田の肩を、栗原はそう言いながら軽くたたいた。
 と、その時二人の居る部屋の扉が開いて、Gスーツに救装品をつけてヘルメットを小脇に抱えた一団が入ってくる。
 そこはアラートハンガーで、丁度アラート待機の上下番のタイミングだった。
 そう、二人はアラート明けなのだ。
 それも、本日二回目のアラート待機だった。




 この所日本国の領空には彼我不明機の往来が激しかった。日本が同盟国と共に推し進めている新防衛大綱に基づく防衛施策が気に入らないのだろう。
 それに抗議するかのように連日連夜、領空侵犯スレスレの航行機が出現する。
 そのほとんどは冷やかし、というよりも国家間での揺さぶり行為の一つなのだろう。領空スレスレに近づいてきて、わずかに踏み入ったかと思うと、アラートであがってきた自衛隊機に自らの国籍マークを見せ付けるようにしてそして飛び去っていくのだ。
 そんな事がかれこれもう2週間程続いていた。
 今の所はそうやって追い払えば出て行ってくれるだけで、明らかに際どい状態になりかけた、というような報告は航空総隊隷下の各方面とも上がってきてはいない。だが、上空に上がり、実際に領空侵犯機を目視したパイロット達は知っているのだ。
 侵犯機がフル装備で武装した状態で往来している事を。
 そして、それに立ち向かうべく上がっていく自分達の愛機が、模擬弾と威嚇用の信号弾しか積んでいないという事ももちろん…。
 そんな直視したくない現実と、一日平均20機は超えようか、という全航空団をあげての対領空侵犯措置体制でも対処するのにギリギリの状況という事実とが、この2週間じわりじわりとファイターパイロット達を蝕み、肉体的精神的疲労の極地へと追い詰めつつあったのだ。
 それはもちろん、ここに居る百里基地のパイロット達、そして神田や栗原にとっても例外ではなかった。
 実際の任務も辛かった。5分待機で最初にアラート勤務についた者が、任務終了後そのまま予備待機につかなければとても人員が間に合わなかった。そして酷い時には繰り上がり組の30分待機、2時間待機までもが出撃していき、さらに予備待機のグループがその日のうちにまた出撃していかなければならない事態にまで陥る日もあった。
 それでもまだ、2つの飛行隊でその任務を分け合っている分、2日に一回はなんとか通常勤務という名の「休養」にありつけてはいたのだったが。
 「…悪ぃ、ちょっとだけ寝ててもかまわねぇか?」
 アラート格から飛行隊に戻って、ようやく身に着けていた窮屈な装備を解く。それから汗に汚れた飛行服を着替えるためにロッカールームに向かう。そこで完全に緊張の糸が切れたのか、神田は栗原にそう尋ねて部屋の隅の長椅子にゴロリと横になった。
 「あぁ。隊長にバレそうになったら起こしてやるよ。」
 めずらしく栗原はそれを咎めない。いや、もとより今の飛行隊に、そうやって束の間の休息をとろうとするパイロット達を咎める雰囲気はなかった。
 いや、パイロット達だけではない。機体を酷使すれば当然整備員も同じだけ忙しい状況に見舞われる。特に整備関係はアンスケジュールの連続で、その主任クラスになるといつ寝ているのかさえわからない有様で、実際にショップの中も格納庫も、寝られそうな場所があれば絶えず誰かがそこで仮眠をとっている状態だった。
 だから神田が寝入ったのを見て、栗原はせめてそこに毛布でもかけてやろうと辺りを見回したが、訓練用に大量に積み重ねられていた筈の官品の毛布さえもとっくに出払っていて、仕方なく自分が着ようとしていたジャンパーをとってそのまま寝ている神田の肩口に着せ掛けた。
 そしてそのままロッカー室を出る。
 「栗原さんっ。」
 「栗原さーん。」
 と、そこへアラートの相方だった西川と水沢が寄ってきた。
 「連続上番、お疲れ様でした。」
 「コーヒー出来てますよ、煎れてきますね。」
 この二人は最初に神田・栗原組とあがった後、予備待機から外れて結局そのまま勤務から外れた。けれどそれは真夜中過ぎの事だったので、結局は家に帰ることもできずにそのまま飛行隊か営内に臨時に設けられた仮眠室で夜を明かした筈だ。
 「おぅ、西川も水沢もお疲れさん。夕べはちゃんと眠れたか?」
 飛行隊の隅のいつもの席に落ち着いて、栗原は報告書を広げる。神田と同じく、ほとんど一睡もしていない筈の彼だったが、眠気を訴えることもなく、そのまま黙々と仕事を始める。
 「いえ、栗原さんこそお疲れじゃないですか?」
 「何だったら、それ俺らで仕上げますんで、仮眠室にでも…。」
 そんな栗原を気遣って二人はそう声をかけた。
 けれど、それに向かって栗原は不敵な笑みを浮かべながら答える。
 「なに、アラートなんて上がって降りるだけだろ?…訓練に比べりゃどって事ねぇだろうよ。それにナビなんてドンパチがなけりゃやる事も少ねぇし、神田に比べりゃ気楽なもんだ。」
 と、「気楽だ」と言った栗原の言葉が全くの冗談だという事は、同じファントムに乗る二人にはすぐにわかる事だったが、それでも見かけによらず意外にタフで気丈な栗原が言う事だから、おそらく心配することもないのだろうとそれ以上は何も言わなかったのだが…。
 報告書を書き上げた栗原が、それを飛行班長の元に届けようと席を立った時だった。
 その上体が大きく揺れて、そしてそのまま崩れ落ちる。
 「栗原さんっ。」
 「栗原さんっ!」
 慌てて傍にいた西川と水沢がその両側についてそれを受け止めてくれたお陰で、地面に叩きつけられる事はなかったものの、栗原の顔は多少青ざめていて、報告書を挟んだバインダーを持つ指先もわずかに震えている。
 「いや…、すまねぇ。平気だ。ちょっと睡魔が来たかな。」
 ふ、と栗原はそう言って笑う。
 だが、さしもの気丈な彼にもそれが限界のようで、
 「…これ、出したらさ、仮眠室に連れてってくれるか?何かあったらすぐ起こしてくれていいからよ。」
 それを聞いた二人は、すぐにそれに応じた。
 「おい、水沢、4号隊舎行って空き部屋確保してこい。」
 「あいさー。」




 それから栗原が目覚めたのは、それから随分とたって正午をまわろうかという時だった。
 はっとして飛び起きた彼の目に最初に映ったのは、その隣におかれた事務机で訓練計画案と訓練報告書のフォーマットにせっせと何かを書き入れている神田の姿だった。
 「あー、起きたのか?栗。いいから夕方までもっかい寝ちまえ。その間に俺が仕事仕上げとくからよ。」
 その気配に神田が振り向いて、そしてそう言って書きかけのフォーマットをヒラヒラとさせた。
 何よりもそこに神田が居る事に驚いた栗原だったが…。
 「…カッコ悪いトコ見せちまった。」
 と、ぼそっとそうつぶやく。
 気障でクールで有能、という部分をいつでも身にまとっていたい彼にとってそれは余りうれしくない出来事なのだろう。特に、神田という相棒の前では。彼のその弱い部分や危うい部分、他人に頼る場面なんて見せたくもないのだ。
 「あぁ、カッコわりぃよな。普通は倒れる前にてめぇで都合つけるもんだろ。子供じゃねぇんだから。」
 栗原に向かってそう言い放つ神田の声は少し怒っているようにも感じられた。
 「何だ、その言い方。別にいいだろ。誰に迷惑かけたってわけでも…。」
 「バカ野郎っ。」
 言い返そうとする栗原に神田は声を荒げる。
 「そうじゃねぇだろ?何で栗は今更になって俺に遠慮してんだよ。キツイならキツイって言えばいいだろ。俺より先に寝たいなら寝りゃいいし、たまには俺より後に起きたっていいだろうがよ。そんな無理ばっかりしてて、今更俺の前でまでカッコつけようとするなよ!」
 いつになく、そう、いつになく神田の態度は荒々しくて。いつもなら栗原に圧倒され気味の彼が、今日はめずらしく本心で栗原にぶつかっていた。
 神田の苛立ちは栗原の知らない所にあった。
 二人一緒にファントムを駆るようになってから、次第に栗原の受け持つデスクワークの割合は増えていて、そして神田はそれに気付く由もなかった。それ程に栗原はソツなくすべてをこなしていたからだ。けれど、その分、栗原は一旦空に上がれば、完全に神田を信用しきっていて、戦闘行動を取る際の一切の判断をすべて神田を信じてまかせきっている。
 栗原にとっては、それでフィフティー・フィフティーと思っていたのかもしれなかったが…。
 神田はこの2週間の常軌を逸した勤務状態になって初めて栗原の仕事量の多さに気付いたのだ。それに栗原はかけがえのない自分の相棒だ。自分だってもちろんデスクワークくらいその気になれば出来るわけで、どうしてそれを栗原ばかりに押し付けられるだろう、と。
 「悪い、怒ってるわけじゃねぇんだ。」
 最後に神田がそう言うまで、栗原は呆然としたように何も言わなかった。
 神田がそんな風に、感情的になる事はあっても、それはいつも自分以外に向けられての事で、どちらかというとそれを冷静に止める役目だったからだ。
 僅かな間だったが、沈黙したままの静かな時が流れた。




 「俺、他人に甘えるのに慣れてねぇもんでさ。」
 と、沈黙を割って栗原はそうつぶやいた。
 甘えるとか頼るだとか、そんな事はまったく無縁だった生活が彼をそうさせていた。彼にとっての「人に頼る」ことは神田に絶対の信頼を置いて命を預ける事とは違うのだろう。
 「なら、俺がリハビリしてやるよ。甘えていいんだぜ、おもいっきり。俺にはさ。」
 神田の言い方は非常にストレートで、まるで肉親にでも言うかのようにそう告げる。その表現の仕方が余りにも自然でそして優しくて。
 栗原も無下に却下するはなかったのだが…。
 「いや、今度からはちゃんとそうするよ。」
 神田のストレートな表現には慣れっこだったけれども、甘えろと言われて、すぐにどうやってそうすりゃいいんだ、と栗原は苦笑しながらそう答えた。
 「…とりあえず、報告書のフォーマット作りと今日の日報は俺にまかせて、ゆっくり寝ちまえ。」
 それは神田としては一番栗原を安心して眠りにつかせるための言葉だったのだろうが…。
 「えぇ?いやそれはいいっ。俺が作るっ。」
 それを聞いて、栗原は再び険しい顔で神田の方を見た。
 「何でだよ、寝ちまえって言ってるだろ。」
 「そんなモノ、俺の名前で提出されたら堪らんっ。いいから後で仕上げるから置いておいてくれ。」
 「後っていつだよ。また黙って残業する気かよ、栗。明日も待機なんだ、寝ろ、寝ちまえ。」
 言いながら、神田は手にした用紙を机に伏せて、そして栗原の居るベッドへと詰め寄る。
 「何だっ?うわっ、何するんだ神田っ。」
 彼にしては珍しく激しく動揺している栗原を、その肩を掴むようにして、神田はベッドに押さえ込んでいた。
 「寝かしつけてやろうと思ってさ。」
 「あほか。同じ上に乗られるなら、カワイイお嬢さんの方がいいっ。お前なんかに乗られてたまるか。俺の上から退けっ。」
 そんな栗原の抵抗があって、
 「なにおぅ。俺だって同じ押し倒すならキレイなおねーさんのがいいに決まってんだろ。イヤならおとなしく寝ちまえ、んで目ぇ閉じろっ。」
 けれど神田も言い返す分においては負けてはいない。
 そうやって、少しの間じゃれあうように縺れあっていて、そしていつしか栗原はそれ以上神田が何も言わずとも、ふっとその力を抜いてベッドに体を委ねた。
 そして瞳を閉じる。
 そのまましばらく神田は栗原の傍らに寝息を確かめるように横になっていたが、やがて身を起こしてそのベッドの傍らから、手を伸ばしてその髪を撫でた。
 「俺にはお前が必要なんだよ。ずっと、これからずっと…。」
 いつ終わるとも知れない戦いの日々の中で、お互い掛け替えのないその絆を、確かめ合いながら、深め合いながら。
 せめて束の間の安息を。
 互いが幸せであるように、と。
 そして神田はいつもよりも遥かに気合をいれて、その手にした書類をやっつけ、そして栗原がいつ目覚めてもいいように、とその書類に決済をもらうべく上司の元へと奔走したのだった。




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