Next Day
「めずらしいな、お前からなんて。」
「明日もまたこうやって神さんに触れられるって保障ねぇだろ?」
言いながら唇を求めてくる。
そうやって己の方から神田を欲する時の彼は非常に強欲だ。
通り一遍の絡み合いを、まだ足りないというように舌を絡ませてきて、そして強請る。
美しい、と神田は思った。
だがそれは死の翳りのある美しさだ。
そんな彼に惹かれて、そして今こうしてそれを求めてしまうのはおそらく神田自身にもその兆候があるからなのだろう。
「神さん、素敵だ。…ねぇ……」
そして恐ろしく卑猥な言葉を唇で形作る。それをそのまま受け入れて、神田は栗原の体を引き寄せてやった。
互いに性を貪りあって、そのすべてを味わい尽くす。
最後はお互いにすべてを出し尽くして、力尽きたように絡み合ったまま眠りについていた。
「明日もまたこうやって神さんに触れられるって保障ねぇだろ?」
言いながら唇を求めてくる。
そうやって己の方から神田を欲する時の彼は非常に強欲だ。
通り一遍の絡み合いを、まだ足りないというように舌を絡ませてきて、そして強請る。
美しい、と神田は思った。
だがそれは死の翳りのある美しさだ。
そんな彼に惹かれて、そして今こうしてそれを求めてしまうのはおそらく神田自身にもその兆候があるからなのだろう。
「神さん、素敵だ。…ねぇ……」
そして恐ろしく卑猥な言葉を唇で形作る。それをそのまま受け入れて、神田は栗原の体を引き寄せてやった。
互いに性を貪りあって、そのすべてを味わい尽くす。
最後はお互いにすべてを出し尽くして、力尽きたように絡み合ったまま眠りについていた。
高鳴るサイレンの音で二人は目を覚ます。
窓の外に、回転する赤色灯が鮮やかで、まだ夜は明けていない。飛び起きて時計を確かめると夜中の3時、情事の余韻すら味わう暇もなく、二人は手早く服を身に着けると部屋を飛び出していく。
こうなる事ははじめからわかっていたのだ。
それは今が訓練でも演習中でもなく、「緊迫した状況」だったから。
いつかは始まるであろう交戦状態、その矢面に立たされるのが戦闘機乗り。
部屋を出る寸前に、ふいに神田が前を行く栗原の腕を強引に掴んでそしてその体を引き寄せた。
「愛してる。」
抱きしめて、荒々しく口付けをして、そしてそれだけを告げると今度は神田の方から先に部屋を出る。
そうやって言葉で感情を告げるのは初めての事で、
…そしてそれが最後になるのかもしれなかった。
車を走らせて基地へと向かう。
もう既に警戒態勢が敷かれていて、二人もすぐに緊急発進の体制をとった。窮屈な耐G服に身を包み、ヘルメットを手元に置いて待機につく。
列線に並んだ戦闘機は、整備員の手によって次々と兵装が換装を受けている所だった。機銃の実弾を内蔵し、鈍く光る誘導弾が搭載されたそれは、いつもと違う静かでそして不気味な雰囲気と光を放っていた。
窓際でそんな愛機の様子を見ていた神田は、いつの間にか栗原が傍にいて、そしてそれがいつもより近い距離でいるのに気付いた。
「死相が出てるぜ、神さん。」
「お前こそ、夕べのありゃ何だよ。」
「さぁ、本性が出ちまったかな。」
こうやって軽口を叩きあっていられるのもあと何日間だろう。いや、何時間か何分か、上からは何の状況も伝えられては来ない。
ただ、「待機」していろと言われるばかりだ。
和平交渉、協調会議と言った平和的解決努力の裏でこうやっていつでも応戦できる構えを見せている。砲艦外交とも言われかねないが、相手だって弾道弾をこちらに向けながら会議の席についているのだ、お互い様だろう。
「何も今日明日出撃があるって訳じゃねぇだろうに。まだ『お話し合い』で何とかなるかもしれねぇし。」
「昨日もそう言ってただろ、お前。」
交渉が決裂して3日目に入っていた。そして今朝未明、つまり呼集がかかる少し前に相手方の空母が軍港を出航した事実を衛星が捉えた。
「もし今日がその時ってんなら…。」
ふと神田が言う。
「何でぇ、その時なら?」
「いや、もうちょっとお前と楽しんどきゃ良かったって思っただけさ。」
「よく言うぜ、さんざヤったろうがよ。」
どうせ死ぬときは一緒だ、と平時の頃にはよく口にした台詞だったが、もうそれを口にする事はなかった。
隣に並んだ栗原の肩が触れてくる。自然な動作だったが確かな温もりを感じた。
もどかしい感情と体の奥底から付き上がってくるような衝動。けれど、その焦らされているようなキワドイ感覚が、まるで栗原からの甘く淫らな束縛を受けているようで神田は不思議な安心を覚える。
「俺がムチャしそうになったら、止めてくれよな、栗原。」
「今更何言ってんだか。好きにすりゃいいさ。それに、どうせ…俺は。」
言いながら、窓の外に向けていた視線を外し、そして栗原の視線は神田を捕らえた。
「…俺はもう、神田の傍でしか生きていけないんだ。」
栗原がそう告げた瞬間…、
窓の外に、回転する赤色灯が鮮やかで、まだ夜は明けていない。飛び起きて時計を確かめると夜中の3時、情事の余韻すら味わう暇もなく、二人は手早く服を身に着けると部屋を飛び出していく。
こうなる事ははじめからわかっていたのだ。
それは今が訓練でも演習中でもなく、「緊迫した状況」だったから。
いつかは始まるであろう交戦状態、その矢面に立たされるのが戦闘機乗り。
部屋を出る寸前に、ふいに神田が前を行く栗原の腕を強引に掴んでそしてその体を引き寄せた。
「愛してる。」
抱きしめて、荒々しく口付けをして、そしてそれだけを告げると今度は神田の方から先に部屋を出る。
そうやって言葉で感情を告げるのは初めての事で、
…そしてそれが最後になるのかもしれなかった。
車を走らせて基地へと向かう。
もう既に警戒態勢が敷かれていて、二人もすぐに緊急発進の体制をとった。窮屈な耐G服に身を包み、ヘルメットを手元に置いて待機につく。
列線に並んだ戦闘機は、整備員の手によって次々と兵装が換装を受けている所だった。機銃の実弾を内蔵し、鈍く光る誘導弾が搭載されたそれは、いつもと違う静かでそして不気味な雰囲気と光を放っていた。
窓際でそんな愛機の様子を見ていた神田は、いつの間にか栗原が傍にいて、そしてそれがいつもより近い距離でいるのに気付いた。
「死相が出てるぜ、神さん。」
「お前こそ、夕べのありゃ何だよ。」
「さぁ、本性が出ちまったかな。」
こうやって軽口を叩きあっていられるのもあと何日間だろう。いや、何時間か何分か、上からは何の状況も伝えられては来ない。
ただ、「待機」していろと言われるばかりだ。
和平交渉、協調会議と言った平和的解決努力の裏でこうやっていつでも応戦できる構えを見せている。砲艦外交とも言われかねないが、相手だって弾道弾をこちらに向けながら会議の席についているのだ、お互い様だろう。
「何も今日明日出撃があるって訳じゃねぇだろうに。まだ『お話し合い』で何とかなるかもしれねぇし。」
「昨日もそう言ってただろ、お前。」
交渉が決裂して3日目に入っていた。そして今朝未明、つまり呼集がかかる少し前に相手方の空母が軍港を出航した事実を衛星が捉えた。
「もし今日がその時ってんなら…。」
ふと神田が言う。
「何でぇ、その時なら?」
「いや、もうちょっとお前と楽しんどきゃ良かったって思っただけさ。」
「よく言うぜ、さんざヤったろうがよ。」
どうせ死ぬときは一緒だ、と平時の頃にはよく口にした台詞だったが、もうそれを口にする事はなかった。
隣に並んだ栗原の肩が触れてくる。自然な動作だったが確かな温もりを感じた。
もどかしい感情と体の奥底から付き上がってくるような衝動。けれど、その焦らされているようなキワドイ感覚が、まるで栗原からの甘く淫らな束縛を受けているようで神田は不思議な安心を覚える。
「俺がムチャしそうになったら、止めてくれよな、栗原。」
「今更何言ってんだか。好きにすりゃいいさ。それに、どうせ…俺は。」
言いながら、窓の外に向けていた視線を外し、そして栗原の視線は神田を捕らえた。
「…俺はもう、神田の傍でしか生きていけないんだ。」
栗原がそう告げた瞬間…、
非常事態を告げるサイレンと、緊急発進を指示するアラームとが同時に鳴り響いて、それに何かを答えようとした神田の言葉を、その轟音の中に飲み込んでいった……。