メニュー
Wiki内のメニュー

共同企画

ファントム無頼サイト(一部女性向)


   …ジャンル替:Idd.(三国志大戦)

公式



上に行く程最近追加したリンク先様になります(現在増やし中)。
「様」を勝手に追加。不備があれば「編集」タブから入って作業をしていただけると助かります。

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

モーニング・ムーン


 それは、夏の始まり頃の事だった。千歳の夏は始まりが遅く、そして終わるのは早い。人々はほんの少しの夏気分を味わおうと躍起になる。
 それはここ、千歳の航空隊でも同じことで、夏になればやれ花火大会だ、やれ水泳訓練だ、と精一杯の行事をこなす。
 そんな花火大会の日のことだった。
 基地をあげての花火大会で、そこには基地司令以下名だたるVIPが顔をそろえ、そして基地隊員は勤務に支障をきたす人員を除いて全員参加が達せられていた。
 「いつまでもブウブウ言ってんじゃないの。」
 と伊達は隣に居た栗原の頭を軽く小突いた。
 グラウンドでバーベキュー、しかも大した花火でもない、そんな飲み会に出なきゃならないくらいなら、部屋で寝てた方がマシと言い張っていた栗原だった。
 それを今回は隊長から厳しく咎められて、伊達には「必ず連れて来い」との厳命が下っていて、なだめすかしつつも半ば強引に伊達は栗原をその場に連れ出してきていた。
 「なんで俺がこんなくだらない事に参加しなきゃいけないんだ。」
 無理やりに勧められた席に、それでも整備班の若い士長が気を利かせて持ってきてくれた料理や缶ビールにまったく手をつけないわけにもいかなくて、栗原はビールを片手に伊達相手に愚痴っているところだった。
 「なんでか知りたいか?」
 「別に。」
 「まぁ、そう言わずに聞けよ。超VIPが来基してるのさ。とあるところの方面隊司令官ドノが避暑にさ。昼過ぎにYS-11が来てただろ?」
 「あぁ、知ってる。俺らを押しのけて着陸した奴だろ?」
 面白くもなさそうに栗原は答えながら、また一口ビールを口に含んだ。
 「その司令官がお前に会いたがってる。」
 伊達がそう言うと、
 「は?なんでよ?」
 と栗原はその時はじめて伊達のほうを振り向いた。
 栗原の瞳は、理由をちゃんと説明しろ、と無言の威圧の光を放っている。それをまともに受け止め切れなくて、伊達はそこから顔をそらす。栗原の秀麗な顔はその目尻が幾分下がっているために柔和な印象も与えるが、そうやってするどい眼光を放つとそれだけで壮絶だ。
 伊達は一瞬顔をそらしたが、ふっと自嘲気味に笑うともう一度栗原の方を向き直って言った。
 「まぁ、お前みたいな可愛いボウヤを好きな変態ジジイも居るってことさ。」
 伊達の言葉を栗原はすぐに理解していた。
 「・・・ふさけんなよ。俺もう25だぜ?」
 17・8歳の頃ならいざ知らず、いや、その手の男共を手玉にとっていた時代もあったが、今更自分がそんな対象にされるとは思ってもいなかった栗原だった。実際そこには、探せばそれなりに見栄えのいい1士や士長の18・9歳の若い隊員がいる筈である。それが何故自分を?と不思議に思う。
 だが、そう言って伊達を見つめる栗原の顔は、そこら辺にいる、「ただ若くて良い顔立ちをしている」隊員達とは明らかに違う造りをしているのも確かだ。普段それを見慣れている伊達までもが、その大勢の人間の中に居る栗原を見て、それが確かにそこに埋没してしまう造形ではないことを認めてしまう。
 たまたま基地が出している隊内新聞に載った栗原の顔を見て、わざわざまかり越して来たと噂されているその某司令官の気持ちもわからなくはなかった。
 『25だぜ?』と言った栗原の言葉に、それでもまだ十分にイケル年齢だぜ?と言いたくなるのを伊達はぐっと堪える。その代わりに、栗原の頬をペチペチっと軽く叩きながら、
 「普通、25の男はこんなスベスベしたほっぺはしてないのよ、宏美ちゃん。」
 とそう言って、そして伊達はまた栗原から
 「うるさいっ。」
 と軽いストレートを食らう事になるのだが・・・。




 「あのー、栗原3尉、よろしいですか?」
 とそんな二人に一人の隊員が遠慮がちに声を掛けてきた。どこかで見た顔だと思ったら、基地司令の副官付きだ。
 「司令がお呼びですので、メインシートの方にお願いできますか?」
 そう言う副官の態度は恭しくはあったものの、明らかに強制的でもあった。彼とてそれが仕事でもあり、責めるわけにもいかないのだが、
 伊達が「ホレ、来たぞ。」という意味の目配せをするのを栗原はきつく睨みつける。
 それでも、
 「あぁ、じゃあ行くよ。」
 と仕方なく言って栗原は立ち上がった。
 メインシートにはその変態ジジイとやらも居るのだろう。どうせこんな公の席ではどんなに下心があったとて、大した事はできないだろう、と。どうせなら目一杯愛想を振りまいて酌のひとつもしてやっても悪くはない、と栗原は思った。
 まだ酔っているわけではない。相手がそこまで挑戦的に自分を欲してきているのなら、それに対しては同じ心意気で臨んでやんわりと、かつ徹底的に撃退しておく、それが彼の処世術でもあったし、護身術でもあったからだ。それに、名前を売っておくのも悪くはない、とまだ若い彼は考えた。
 「俺も行こう。」
 と、伊達も立ち上がった。
 なんだかんだ言ったところで栗原が心配なのかも知れなかった。だが好奇心もあったと言えば嘘になる。
 だが、気のきかない副官付きはそんな伊達に、
 「あ、いや伊達2尉は・・・・。」
 と断ろうとする。だが、伊達に
 「るせぇ、邪魔はしねぇよ。だまって案内しろ。」
 とすごんだので、結局二人でメインシートに乱入することになった。
 メインシートにはこういった席にありがちなメンバーが配置されていて、基地司令、副司令、そして例の方面隊司令と、その他1佐クラスの各群の司令だとか、隊長クラスが顔をそろえている。その他にも司令以下そのVIP達の奥様方もそこに顔をそろえていて、奥様方は奥様方で集まって話を盛り上がらせていた。
 メインシートに連れてこられた栗原は、そういう場を嫌っているにも関わらず、やけに慣れたようすで、不思議なくらい嫌そうな感情を感じさせない。それどころかソツなく酌などしながら笑顔さえ見せている。
 それを見て伊達は、そういえば母親は芸者をしていたとか言っていたな、とそんな事を考えながら、それならばそれで放っておいても大丈夫だろう、と話し相手を探し始めた。正直こんな所に着いてきたのは、栗原が心配だったからだ。
 そしてそんな伊達の方もソツなく奥様方の輪の中に入って行っていた。女扱いには自信のある伊達だ。多少の年の差に目をつぶればそこにあるのはそこそこ着飾った花の群れには違いなかった。
 それでも気になるのか、伊達はずっと栗原の居る方向に神経の一部を集中させていた。すると、しばらくして。
 「あ、ですから、私の一存ではそんな事は・・・。」
 と、困ったような栗原の声が聞こえてくる。
 ちらっとその方向を盗み見ると、栗原はその例の司令官とやらの隣に座らされていて、そして上機嫌なその司令官と、さすがに困り果ててというよりも営業用の笑みが凍りつこうとしている栗原を交互に見てニヤニヤしている基地司令の姿があった。
 「いやー、それ程おっしゃるのであれば、今すぐにでも命令を・・・。」
 とそう言っているのは媚顔の基地司令だ。
 「失礼・・・。」
 タバコを取り出して、少し席を外しますといった仕草で、伊達は奥様方の輪をのがれて、さりげなく全体の会話が聞こえる場所に陣どった。
 大方の予想どおり、栗原をいたくお気に召したのか、某方面隊司令官がそのまま栗原をお持ち帰りしようと画策しているらしかった。それを基地司令に交渉しているらしい。二人ともかなり酔っていて、会話はその場のノリでかなり適当になっていて、そして栗原の静かな怒りに気づいてもいない。
 「けっ、バカ共が。幹部の異勤命令なんて幕長にしか出せんだろうがよ。」
 と伊達は小さい声でつぶやく。それでも。
 「お~い、紙とペン持ってこい!赤エンピツもだ。」
 と言いだした基地司令に伊達は一抹の不安を感じていた。
 異勤命令は出せなくても、長期の臨時勤務命令くらいなら基地司令の名前でいくらでもきれる。酔ったイキオイでも、公文書として花押の一つも書かれてしまえば、明日にでも栗原は売られていくかもしれないのだ。
 「畜生っ。」
 ペンを手に白い紙に向かっている基地司令を栗原は冷ややかな表情で見つめていた。その肩にはもう既に、栗原をさらっていこうとしている男の腕が回されていた。
 栗原にとってそれはどうでもいい事なのかもしれなかった。それを軽蔑しながらも、そうやって自分が売り買いされる事に対して恐れているでも怯えているでもない。ただそんな状況を使って、利用できるものは利用してやろうと、そんなしたたかな考えさえも栗原の表情からは伺えた。
 だから、伊達がそうすることに栗原は何の感慨も抱かないのかもしれなかったが・・・、それでも伊達はそれを止めずにはいられなかった。
 「ちょっと待ってくださいよ、司令。」
 と、伊達は近づいてきて基地司令がペンを握っているその右腕を押さえた。
 「そいつは、俺の大事な相棒なんだ。北の空を守る大事な戦闘機乗りの一員でね。勝手に持ってかれちゃあ、国防の任が果たせねぇ。冗談はそれまでにして貰いましょうか?」
 「・・・貴様・・・。」
 酔ってはいてもそこは一つの基地を預かる司令の貫禄で、不躾な乱入者を睨みつける。だが、伊達のほうも負けてはいない。
 「明日もフライトなんでね。そろそろ相棒を連れてってもいいですかね?」
 とそう言って、今度は栗原の肩から手を離さないまま成り行きを見ている超VIPの方面隊司令へと伊達は近づく。
 「と、言うわけで、相棒を放して貰えますかね?一応、俺そいつの教育係も仰せつかってるんで、明日の勤務にひびかねぇように寝かしつけてやるのも俺のツトメなんで。」
 「自分のしてる事がわかってるのか?」
 酔いは醒めないまでも、泥酔はしていない。方面隊司令の方も伊達の行為には我慢がならないようだった。だが、それも自分の暴君っぷりを棚に上げての話でもあったのだが。
 「・・・注意や処分なら、また後日指揮系統を通じて、謹んでお受けしますよ。とりあえず今日のところは相棒は返して貰います。」
 と、半ば強引に栗原の腕を掴んで立たせ、そして伊達はそのまま
 「では、失礼します。」
 とそこだけ丁寧にそういって、わざわざ不動の姿勢から敬礼までして栗原を連れてその場を脱出したのだった。




 そして・・・、結局それ以上その会場に居られるわけもなくて、でもまだ酒も飲み足りなくて伊達は会場にあった缶ビールを数本掻っ攫って、そして栗原の住むBOQにその夜はそのまま居ついていた。
 基地内の飲み会の度ごとにお世話になっている部屋だ。伊達も配属されたばかりの頃は同じ隊舎に住んでもいたし、勝手知ったるといった感じだ。
 「良かったのか、伊達。あんな事して。」
 丁度ビールが途切れたところで、栗原がそう切り出す。もちろんさっきのメインシートでの件についてだ。
 「いいんだよ、それにどうせもう・・・。」
 と、言いかけて伊達は言葉を切る。
 だが、それに気づかない栗原ではなくて。
 「やっぱ、あの話は本当なんだ?」
 割愛の話は栗原も聞いていた。伊達はおそらくそのまま空自を去るだろうと。
 「いずれちゃんと言おうとは思ってたけどな。」
 とそう言って、伊達は更に続ける。
 「まぁ、お前の事が気がかりだったけど、今日の見ててちょっと安心したさ。結構世渡り上手そうだな、お前。」
 栗原がお偉いさん方相手に見せた意外とも言える人あしらいの上手さが、伊達をそう言わせていた。栗原がこの世界で生き残っていけるかを伊達は出会った頃から常に心配し続けていたから。
 「だから、子供扱いするなって言ってるだろ。・・・寝ないんなら先に寝るよ。飲み足りないなら他所でどうぞ。」
 そう言って、栗原は自分のベッドに潜り込む。
 「あぁ、おやすみ。」
 「それと、寝るなら隣のベッドで寝ろよ。俺のトコに入ってくんなよ。」
 と、言ってから栗原は寝る態勢に入っていた。
 そんな栗原を見てから、
 「やれやれ・・・。」
 独り言のように伊達はそう言って、部屋の隅に手洗い台に向かう。そのついでに、寝る態勢の栗原のために部屋の電気を消して常夜灯をつけた。
 手洗い台の鏡を覗き込む。
 部屋に備え付けの鏡は余り出来のいいシロモノではなくて、そして長年使われているせいか、あちこちがくすんでいて、そして隅になるにつれ鏡面が微妙に歪んで映るようになっていた。鏡越しには、栗原の眠るベッドがうつっていて、寝息を立て始めた栗原の顔もそこに映し出されている。
 歪んだ鏡面は・・・、栗原のその寝顔を妖艶にうつしだしていた。
 鏡越しのその貌は、口の端が歪んで誘い込むような怪しい微笑をたたえてて、そして形の良い細い眉が目配せするように時折上下する。
 それに魅せられて、そしてハッとして、伊達がベッドの方を振り返ると、そこにはいつもと変わらない、だが寝顔のせいか幾分あどけない表情の栗原がいた。
 だが再び鏡越しに見つめると、やはりそこには誘いをかける表情が写っている。
 そして、自分の表情を鏡で確かめると、そこには焦燥感に駆られた一人の男が映し出されていた。
 それを振り切るように伊達は首を横に振ると、手洗い台から、夏とは言え夜には冷える水道の水を出して、両手ですくってその顔を洗った。
 洗い立ての顔をまた鏡に映して、それでもまだ消えない飢えたような顔を見て、伊達は自分で自分に向かって、自嘲気味に言った。
 「ヤベェよ、お前も。辞めるの正解かもな・・・。」
 と。
 そして振り返ると、栗原はベッドの右半分を空けるようにして眠っていた。
 来るなと言いつつ、そうやって入り込む隙を見せている栗原に、伊達はやはり不安になる。起こさないようにそっとその空いたスペースに滑り込んで、そして伊達は眠れない夜を過ごすのだった。
 その寝顔を見ながら夜明けまで。
 おそらく、伊達にとって基地の中の飲み会はこれが最後で、こうやってここで眠るのも最後だろうと、そう思いながら。
 一度だけ、思いを抑える事ができずに、その額に軽く唇を押し付けたが、気づかれないように本当に触れただけですぐにそれを離した。
 窓を見上げると、もう空が白くなり始めていて、それでもまだ紫色をした夜明け特有の幻想的な空の色を見せている。消えきらない月の光と、一番明るい恒星の光だけが、その空に輝いて神秘的で・・・。
 「栗原・・・。」
 そのいつか消え行く妖しい美しさを、伊達は栗原と重ね合わせていた・・・。




| 新しいページ | 編集 | 差分 | 編集履歴 | ページ名変更 | アップロード | 検索 | ページ一覧 | タグ | RSS | ご利用ガイド | 管理者に問合せ |
@wiki - 無料レンタルウィキサービス | プライバシーポリシー