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ファントム無頼サイト(一部女性向)


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<88title/no.55>爪

 帰宅して、スーツの代わりにいつもの部屋着のスウェットに着換えようとしたら奇妙に指先が裏の布地のボアの部分に引っ掛かった。
無理に引っ張ったら着れることは着れたが、よく見てみると人差し指の爪が斜めに裂けてぶら下がっていた。

「栗~、『爪切り』・・・知らないか?」
ストーブで幾分暖まった部屋に、明日の分の食糧を買い込んで来た為に自分より遅く帰って来た栗原に向かって、勇気を出して聞いてみる事にした。
自分はと言えば台所に立ったまま、食事の用意をしながらドアの方を振り返ることも出来ずに声を掛ける、へたれ振りで。
「はぁ?、いつもの所に在る・・・だろう・・・。」
いつものように玄関先に荷物を放り出している事が音で分かる。
普通に返って来た言葉が末尾に行く程、不安を滲ませて語尾が濁る。
「お前また失くしたな!!」
多分、睨まれているだろう気配を背中にビリビリ感じながら、どうする事も出来ずに口ごもる。
「何本目だと思ってるんだ、この馬鹿!
 いい加減、使ったら元の場所に返せと口酸っぱくなるほど言ってるだろうが!!」
実は『爪切り』を失くすのは今まででも幾つもあって、後から何故か台所の棚の上に置いてあったり、プラモデルの部品を切る事に使って、そのままプラモの箱の中に混ざっていたりと、兎にも角にもよく失くす。
当然の如く発見出来なかった物も数知れず・・・。
その場合ほとんど原因は俺で、挙句捜しているその日のうちに決して出てこない!と言うのが定番だった。
その為に栗には本当に「使ったら元の場所に戻せ」といつも言われてはいるんだけれど、結局今回も失くなってしまった。
実は栗原が帰って来るまででも、ご機嫌取りの食事の支度の途中に心当たりはほとんど探したので今から探す事も或る意味無駄だった。

 栗がいい加減、怒る事にも疲れたのか、あからさまに人に分かるように大きな溜め息をひとつ吐いた。
「買ってきた物全部、冷蔵庫に入れとけ。」
言われるまま作業をしながら、栗の動きを盗み見ていると何やら押し入れの襖を開けて、出張用に置いてあるカバンの中を漁り始めた。
台所で立っていると栗が何かを持ったまま近付いて来た。
「ほら。」
差し出された物はミニタイプの『爪切り』で。
「あんな中に予備を入れてあるのか?」
「馬鹿、旅行用の携帯版だよ。今回もどうせ今日のうちには出てこないんだから、それ使っとけ。切れ味は保障しないけどな。」
「あ、ああ、手の指だから十分いけると思う。」
そう言いながら爪の裂けた指ごと、右手を差し出した。
「なんだこれ?」
「スウェット着る時に引っ掛かったから、無理に引っ張ったら千切れたんだよ。」
「お前なぁ・・・。
 これは『爪切り』と言うよりも『やすり』の方が良いんじゃないのか?」
出した手を掴まれて、しげしげと眺められても素直に頷くことが出来ない。
栗の言っている『やすり』と言う物は、女性などが持っている可愛い物とはあからさまに違っていて、普通なら工具を削る時に使うような大きな物で、もっと詳しく言ったら鉄製の『金やすり』と呼ばれる類の物だ。
普通はそんな物で爪は削らない、削るのは鉄だ。
ある日並んだスーパーのレジで、ディスプレイされた爪の手入れ用品の中に楕円形でぺらぺらのピンクやブルーのパステルカラーの物が並んでいるのを見付けて、それだけが使用用途がはっきりと分からなかったのでしげしげと眺めた挙句、それが『紙やすり』だと知った時の俺の驚きを誰かに知って欲しい。
確かに栗はそれを使う。
ある時(勿論、スーパーで『紙やすり』を発見して帰った日だ)、何でそんな物を使っているんだと聞いたらこの男は。
「近場に在って、普通の物より楽に削れるから。」
そう、あっさり言ってのけた。
大層、気に入ってはいるらしく専用で一個持っている。
持っているんだから借りれば良いと思うかもしれないが、問題は使用する時だ。
確かに爪を切った後の仕上げにも使っているが、普段使う場面が本人知ってか知らずか栗にとって異様に腹が立った時に、それも深く静かに怒っている時に登場するアイテムとして、隊内でも有名で。
はっきり言って和やかな日常で余り見たい代物でなく・・・気付いたら断っていた。
「良いんだよ、ついでに手の爪全部切っとこうと思ったんだから。」
ついでに話替えも含んで、台所で急に食べたくなって作った芋の煮っ転がしを菜箸の先に突き刺したものを余った左手で差し出したら、そのまま素直に食いついて、親指と人差し指で丸を書かれた。
「ま、いいけどな・・・。
 ところで神田、今切らないんだったら『爪切り』返せ。」
「え?」
「いくら短時間でも、失くす時は連続で失くす!それがお前だ!」
そう言って『爪切り』はあっさりと俺の前から、いつも置いてある場所に放り込まれた。
「ここに置くから、使って済んだら俺に即返せよ!。」
「はい・・・。」

 そう言っていたわりに二人とも晩飯喰って、和んでしまったら『爪』の事なんてすっかり忘れていた風だったのだけど。
風呂から出て見ると、先に出ていた栗がコタツの上にビールを置いて待っていた。
「神田、手ー出せ。」
「へ?」
「手。」
「何でだ?」
「爪切ってやる。」
「・・・ああ?」
そう言われて思い出したものの人に爪を切って貰った事など、もう思い出す事も出来ない程幼い頃の話で、「切ってやる」と言われて、はいと差し出せるはずも無く。
「何で?」
「・・・嫌な事思い出したから、俺の私的な気分の問題で切らせろ。」
「いや、そう言われても・・・。」
どうしても手を出しそうも無い俺に痺れを切らしたのか、諦めたように口を開いた。
「神田さぁ、聞いた事無いか?『夜に爪を切ると親の死に目に会えない』って言う話。」
「何だ?それ、俗説か?。」
「さぁ、多分昔は明かりが暗かったから、夜に爪を切ると危ないって意味もあって言い伝えられたんだと思うけどな。」
「『夜に笛を吹いちゃいけない』とかの類かな。」
「それもそうだろうな。でもそれは『人買い』の話だろ。
 でも、なんだかその事を思い出したらお前に爪切らせるのが物凄く嫌な気分になったんだよ。」
「へ~人買いねぇ。」
「俺の記憶が間違って無けりゃな。」
お前の記憶が間違っていた事なんてあるのか?と思いつつ、『爪』から栗の意識が離れる事は無いようで。
「で、切らせろと。」
「そうだ。」
「俺は親の死に目に会えなさそうか?」
笑って誤魔化すようにそう言ってやっても、至極まじめな顔で返事が返ってきたので今度こそ諦める事にした。
「不安要素は除けるだけ、除くんだよ。」
言われた時の俺の顔を見て諦めた事を察知したのか、そう言い切ると有無を言わせず、俺の両手を一気にさっきの携帯用の『爪切り』を使って切ってしまった。
その上、いつの間にやら『やすり』も登場していて俺の『爪』は自分の手をまったく使わず整えられていた。
「すげーな、何か。」
出来上がった『爪』をひらひらと眺めている内に、栗はさっさと『爪切り』を出張用のカバンに戻してしまった。
そんなに不安かい!と突っ込んでやりたいが、『爪』まで切ってもらった身としては余り強くも出られず。
その時にふと思いついた考えを口にしたら物すご~く嫌そうな顔をされた。
どうせ、俺はファントム乗るしか能が無いよ。
それでも言った台詞を撤回する気も無く、いつかやってやると心に決めた夜。
言った台詞は、これだったんだけれど。
「今度は俺が栗の『爪』切ってやるよ。」

2004.01.31 かずえ




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