<88title/no.73>栗
晩秋の日差しも傾きかけた時刻、アパートに戻った栗原を出迎えたのは
コタツの上にこんもりと盛られた栗と、その前で思案顔の神田だった。
コタツの上にこんもりと盛られた栗と、その前で思案顔の神田だった。
「神さん、何それ」
「栗」
「んな事みれば分かるって。どうしたの?」
「貰った」
「誰に」
「大家のおばさん」
「栗」
「んな事みれば分かるって。どうしたの?」
「貰った」
「誰に」
「大家のおばさん」
そういえば数日前、外れかけた雨戸を直す手伝いをしたのを思い出した。
そのお礼という事なのだろう。
そのお礼という事なのだろう。
「そいで、どうしてそんな顔をしているんですか?」
「う、うーん・・・どうやって食べようかなって」
「う、うーん・・・どうやって食べようかなって」
深刻な顔とは裏腹の単純な答えに、栗原は小さく笑った。
「イガと皮を取って、あく抜きをして、それからでないと食べられないよ」
「ええ?そんなにめんどいの?」
「ええ?そんなにめんどいの?」
肩を落とす。
「俺、小さい頃、生で食ってたぜ。裏山に野生の栗の木が生えててさあ」
「ゴリラなら生でも大丈夫でしょ」
「て、てめ」
「ゴリラなら生でも大丈夫でしょ」
「て、てめ」
待ちきれない神田に幾つかの栗を茹でて与え、残りは栗ご飯にしようと
流しで渋皮をむくのに悪戦苦闘していると、後ろから嘆息の声が上がった。
流しで渋皮をむくのに悪戦苦闘していると、後ろから嘆息の声が上がった。
「栗、うめえーーーぇ」
スプーンと空になった栗の皮を投げ出す音がしたと思ったら
後ろからきつく抱きしめられた。
後ろからきつく抱きしめられた。
「神さん、痛いです」
「もっと栗くれ」
「駄目。栗ご飯の分がなくなっちゃうでしょ」
「じゃこっちの栗」
「もっと栗くれ」
「駄目。栗ご飯の分がなくなっちゃうでしょ」
「じゃこっちの栗」
握っていたナイフをすっと取り上げられて、気が付いたら神田の膝の上に
抱きかかえられていた。しょうがないな、という顔の栗原に気づかない振りをして
頬を両手で挟んでキスをした。
抱きかかえられていた。しょうがないな、という顔の栗原に気づかない振りをして
頬を両手で挟んでキスをした。
「・・・栗ってさあ、何であんなにとげがあるんだろうね」
「食われたくないからじゃないの?」
「まー、苦労して食べるだけのことはあるんだけど」
「結局それかよ」
「・・・・この栗も、苦労しただけの事はあった」
「食われたくないからじゃないの?」
「まー、苦労して食べるだけのことはあるんだけど」
「結局それかよ」
「・・・・この栗も、苦労しただけの事はあった」
分かりやすいなあ、この男。
「見た目はすっげえトゲトゲで、近寄りがたくて・・・。でも、中身は凄く、おいしい」
「どんな味だった?」
「んー・・・甘い」
「どんな味だった?」
「んー・・・甘い」
神田の腕に力が入った。
「甘くて、ちょっと刺激的・・・かな?」
「お気に召しましたか」
「うん・・・だから、やっぱり俺以外には、トゲトゲで居てくれないと困る」
「お気に召しましたか」
「うん・・・だから、やっぱり俺以外には、トゲトゲで居てくれないと困る」
エプロンの紐が解かれて、床に落ちる軽い音。
「ごめん・・・こっちの栗、食べたくなった・・・駄目?」
「こっちはデザートだよ。食後にどうぞ」
「こっちはデザートだよ。食後にどうぞ」
鼻にキスをして、栗原はすばやく立ち上がった。
神田のお茶碗には、多めに栗を入れてやろうと思いながら。
神田のお茶碗には、多めに栗を入れてやろうと思いながら。
2004.12.27 OnyX