They say ”All’s fair in love and war.”
「なぁ、栗ぃ~。」
「なぁってば~。」
「くーりーはーらーさーん!」
と栗原の周りでじゃれついているのは神田だ。もうとっぷりと日も暮れて、夕食も終わって、風呂にも入り終わって、そしてゴールデンタイムのテレビがすべて終了した頃。
さっきまで大人しく横になってテレビを見ていた神田は、ニュース番組になるなり興味を失ったらしく、そして退屈し始めたようだ。もちろん、ただ退屈しているだけでない事はそのじゃれ具合から明らかである。
だが栗原はと言えば。
「今日はダメだ。」
と、まったく相手にしようとしない。
「栗・・・冷たい・・・。」
「うるさい、する事がないんなら、はやく寝ちまえ!」
結果、神田は一人でトボトボと布団を敷いた部屋へと向かったのだった。
「なぁってば~。」
「くーりーはーらーさーん!」
と栗原の周りでじゃれついているのは神田だ。もうとっぷりと日も暮れて、夕食も終わって、風呂にも入り終わって、そしてゴールデンタイムのテレビがすべて終了した頃。
さっきまで大人しく横になってテレビを見ていた神田は、ニュース番組になるなり興味を失ったらしく、そして退屈し始めたようだ。もちろん、ただ退屈しているだけでない事はそのじゃれ具合から明らかである。
だが栗原はと言えば。
「今日はダメだ。」
と、まったく相手にしようとしない。
「栗・・・冷たい・・・。」
「うるさい、する事がないんなら、はやく寝ちまえ!」
結果、神田は一人でトボトボと布団を敷いた部屋へと向かったのだった。
そして、夜が明けようとし始めた頃・・・。
ビービービービービー
ビービービービービー
と、部屋の外でけたたましくサイレンの音が鳴り響いた。
神田と栗原が住んでいるアパートは防衛庁の借り上げだ。全部の部屋が同業者で埋め尽くされていて、そして基地からの専用線と非常サイレンが設置されている。
そのサイレンが赤い回転灯とともに鳴り響いているのだ。
そして、
ジリジリジリジリジリ
非常を告げる警報とともに部屋の電話が鳴る。
「はいっ、神田ですっ。」
飛び起きて受話器を先にとったのは神田だった。
「・・・・・・・・・了解!」
と受話器を置いて栗原のほうを振り返る。
「栗、百里基地訓練非常呼集!0400iタイム、デフコン3!」
と、栗原のほうはもうすでに起きて制服に着替え始めているところだった。そして
「あいよっ。」
と、神田の方に制服を投げてよこす。
「先に出てるぞ。」
と着替え終わった栗原は車の鍵を持って飛び出していく。アパートの駐車場に停まっている車のうち、出て行った車はまだ一台もない。呼集を知らせる警報が鳴ってから二人が家を出るまでのスピードはトップクラスだった。
同じアパートの別の部屋からは、ドタバタと何かをひっくり返す音や、ヒステリックな叫び声や子供の泣き声が聞こえている。
こういう時こそ、同業者同士で暮らしているのが良かったと思える日はない。何も説明する必要もなく、お互いその時に何をするべきかがわかっているからだ。
「忘れ物はないかい?」
「おう。」
「んじゃ、行くよ。」
車が走り出してしばらくして、
「訓練だよな?」
と栗原が神田に確かめるように訊ねる。
「ああ、そう言ってた。」
「はん、予想通りだな。」
「ん?」
「いや、何でもない。今回も本番じゃなくて良かったって事よ。」
「まぁ、どっちにしろ俺らにゃ一緒だ。命令されたら、出てって闘うだけよ。アラートで上がる時だってそうだろうがよ。」
対領空侵犯措置として二人が上がっていくとき、それはまぎれもなく実戦に違いない。UNKNOWN機のほとんど貨物機であったとしてもだ。
「神さんにとってそうでも、この国にとったら大違いだよ。」
「わかんねぇけどな。俺がそう思えるのは、生きるのも死ぬのも栗と一緒だからかもしれんが。」
「おや、真面目な顔してそんな事を・・・。」
「だってよ、好きなヤツと一緒だぜ?幸せじゃね?」
と神田が言うのに対して、
「出勤前にそーいう話をするんじゃないよ。」
と、栗原はそう言いながら、胸ポケットに挿していたレイバンを顔にかけた。もうすぐゲートだ。
「お、照れてる、照れてる。」
「照れてない!」
からかうように言う神田に、少し語気を強くしてそう言って、栗原はアクセルを踏み込んだ。基地への最後のカーブをスピードをあげたまま突っ込んでいく。
普通の腕なら曲がりきれないそのカーブを栗原は巧みなコーナーワークで曲がりきってみせる。運転は完璧だが助手席にいるほうはたまったもんじゃない。
「く・・・栗、安全運転、安全運転・・・。」
そんな事をしながら、飛行隊にたどり着いた二人を待っていたのは真っ暗なショップだった。昨日から泊り込みの当直が一人、指揮所からの無線情報を壁にはめ込まれたガラス板に書き込んでいるのが見える。
「おはよー。」
「あ、おはようございますっ。現在、状況を確認中です!」
「了解、準備してくるわ。」
と、当直に出勤を告げてそのまま飛行服に着替える。早く来たものから順に搭乗できる体勢を整えていく。
「2番機が来ないねぇ・・・。」
というよりも、二人が来るのが早すぎるのだ。
結局飛行隊全体の体勢が整ったのはそれから20分近くもたった頃で、そして二人の任務は予想通りの1番機、敵が発見された時に最初に要撃に向かう重要な役どころだ。
2番機が西川と水沢。妥当なところだ。2機編隊で上がってく予定だ。
そして・・・、
「くそっ、次が来たら4ソーティ目だぜ?何回出撃させる気だよ。」
3回目の出撃から無事生還してきた二人に、まだ交代は告げられない。一緒に上がっていた盟友2番機は2ソーティ目に撃墜されて、しばらくは復帰してこない。
「だったら、あんなに張り切らなきゃいいのに。」
出撃回数が増える原因を作ってるのは他ならない神田じゃないか、と言わんばかりに栗原はため息まじりだ。
「だってよ、撃墜されて見学組なんて、俺は嫌だしよ。」
「そりゃ・・・俺もやだけど。けど、このまま交代が来なきゃ、機体のほうがかわいそうだぜ?休ませてやらなきゃな。」
「な~に考えてやがんだ、飛行隊長は・・・。」
と、二人がそんな会話をはじめた頃、ようやく二人の居るアラート格に伝令が交代を告げにきた。
「えらくモノモノしい格好してんのね。」
伝令は完全に武装していて、小銃まで携行している。おまけに体にまとった偽装網には枝や葉っぱまでくっつけている手の凝り様だ。
「今、基地全体このスタイルですので。」
と伝令の若い隊員は当たり前のような顔をしてそう言う。
ずっと飛び続けていた二人には防空戦の状況がどうなっているかを把握していても、基地全体がどうなっているかなんて情報は知らされていない。
「・・・え、これって基地全体で訓練やってんの・・・?」
とマヌケな受け答えをした神田に、伝令は
「今日から演習ですので・・・。」
と呆れ顔でそう答えた。
「栗・・・知ってたのか?」
「だーから、昨日は早く寝ようって言ったでしょーが。」
と、地上に居ることの安心からか緊張感のかけらも感じられない二人のやりとりに、
「とにかく!今基地内は厳重警戒態勢なんです!裏門付近からゲリラが侵入したという情報も入っています!この格納庫付近も危険地帯になっていますので、許可されたもの以外は近づけません。」
と伝令は一つ一つ諭すように説明し始めた。
「って、まてよ。じゃあ交代はどうやってここに来るんだ??」
「交代機は通常の格納庫から発進しますので、・・・えーっと、お二人にはここで警戒態勢が下がるまでここで留まっているように・・・と。」
「な~んだってぇ~。」
「以上、終わり。それでは戻ります!」
ぴしっと敬礼をした伝令は仕事を一つやり遂げた満足感にひたりながら、格納庫を出て行った。もちろん小銃を手に、腰を低くしている。一番目立つ芝生部分を横切るときはもちろん匍匐前進だ。そして、薄暗くなりはじめた景色に同化して見えなくなった。
ビービービービービー
ビービービービービー
と、部屋の外でけたたましくサイレンの音が鳴り響いた。
神田と栗原が住んでいるアパートは防衛庁の借り上げだ。全部の部屋が同業者で埋め尽くされていて、そして基地からの専用線と非常サイレンが設置されている。
そのサイレンが赤い回転灯とともに鳴り響いているのだ。
そして、
ジリジリジリジリジリ
非常を告げる警報とともに部屋の電話が鳴る。
「はいっ、神田ですっ。」
飛び起きて受話器を先にとったのは神田だった。
「・・・・・・・・・了解!」
と受話器を置いて栗原のほうを振り返る。
「栗、百里基地訓練非常呼集!0400iタイム、デフコン3!」
と、栗原のほうはもうすでに起きて制服に着替え始めているところだった。そして
「あいよっ。」
と、神田の方に制服を投げてよこす。
「先に出てるぞ。」
と着替え終わった栗原は車の鍵を持って飛び出していく。アパートの駐車場に停まっている車のうち、出て行った車はまだ一台もない。呼集を知らせる警報が鳴ってから二人が家を出るまでのスピードはトップクラスだった。
同じアパートの別の部屋からは、ドタバタと何かをひっくり返す音や、ヒステリックな叫び声や子供の泣き声が聞こえている。
こういう時こそ、同業者同士で暮らしているのが良かったと思える日はない。何も説明する必要もなく、お互いその時に何をするべきかがわかっているからだ。
「忘れ物はないかい?」
「おう。」
「んじゃ、行くよ。」
車が走り出してしばらくして、
「訓練だよな?」
と栗原が神田に確かめるように訊ねる。
「ああ、そう言ってた。」
「はん、予想通りだな。」
「ん?」
「いや、何でもない。今回も本番じゃなくて良かったって事よ。」
「まぁ、どっちにしろ俺らにゃ一緒だ。命令されたら、出てって闘うだけよ。アラートで上がる時だってそうだろうがよ。」
対領空侵犯措置として二人が上がっていくとき、それはまぎれもなく実戦に違いない。UNKNOWN機のほとんど貨物機であったとしてもだ。
「神さんにとってそうでも、この国にとったら大違いだよ。」
「わかんねぇけどな。俺がそう思えるのは、生きるのも死ぬのも栗と一緒だからかもしれんが。」
「おや、真面目な顔してそんな事を・・・。」
「だってよ、好きなヤツと一緒だぜ?幸せじゃね?」
と神田が言うのに対して、
「出勤前にそーいう話をするんじゃないよ。」
と、栗原はそう言いながら、胸ポケットに挿していたレイバンを顔にかけた。もうすぐゲートだ。
「お、照れてる、照れてる。」
「照れてない!」
からかうように言う神田に、少し語気を強くしてそう言って、栗原はアクセルを踏み込んだ。基地への最後のカーブをスピードをあげたまま突っ込んでいく。
普通の腕なら曲がりきれないそのカーブを栗原は巧みなコーナーワークで曲がりきってみせる。運転は完璧だが助手席にいるほうはたまったもんじゃない。
「く・・・栗、安全運転、安全運転・・・。」
そんな事をしながら、飛行隊にたどり着いた二人を待っていたのは真っ暗なショップだった。昨日から泊り込みの当直が一人、指揮所からの無線情報を壁にはめ込まれたガラス板に書き込んでいるのが見える。
「おはよー。」
「あ、おはようございますっ。現在、状況を確認中です!」
「了解、準備してくるわ。」
と、当直に出勤を告げてそのまま飛行服に着替える。早く来たものから順に搭乗できる体勢を整えていく。
「2番機が来ないねぇ・・・。」
というよりも、二人が来るのが早すぎるのだ。
結局飛行隊全体の体勢が整ったのはそれから20分近くもたった頃で、そして二人の任務は予想通りの1番機、敵が発見された時に最初に要撃に向かう重要な役どころだ。
2番機が西川と水沢。妥当なところだ。2機編隊で上がってく予定だ。
そして・・・、
「くそっ、次が来たら4ソーティ目だぜ?何回出撃させる気だよ。」
3回目の出撃から無事生還してきた二人に、まだ交代は告げられない。一緒に上がっていた盟友2番機は2ソーティ目に撃墜されて、しばらくは復帰してこない。
「だったら、あんなに張り切らなきゃいいのに。」
出撃回数が増える原因を作ってるのは他ならない神田じゃないか、と言わんばかりに栗原はため息まじりだ。
「だってよ、撃墜されて見学組なんて、俺は嫌だしよ。」
「そりゃ・・・俺もやだけど。けど、このまま交代が来なきゃ、機体のほうがかわいそうだぜ?休ませてやらなきゃな。」
「な~に考えてやがんだ、飛行隊長は・・・。」
と、二人がそんな会話をはじめた頃、ようやく二人の居るアラート格に伝令が交代を告げにきた。
「えらくモノモノしい格好してんのね。」
伝令は完全に武装していて、小銃まで携行している。おまけに体にまとった偽装網には枝や葉っぱまでくっつけている手の凝り様だ。
「今、基地全体このスタイルですので。」
と伝令の若い隊員は当たり前のような顔をしてそう言う。
ずっと飛び続けていた二人には防空戦の状況がどうなっているかを把握していても、基地全体がどうなっているかなんて情報は知らされていない。
「・・・え、これって基地全体で訓練やってんの・・・?」
とマヌケな受け答えをした神田に、伝令は
「今日から演習ですので・・・。」
と呆れ顔でそう答えた。
「栗・・・知ってたのか?」
「だーから、昨日は早く寝ようって言ったでしょーが。」
と、地上に居ることの安心からか緊張感のかけらも感じられない二人のやりとりに、
「とにかく!今基地内は厳重警戒態勢なんです!裏門付近からゲリラが侵入したという情報も入っています!この格納庫付近も危険地帯になっていますので、許可されたもの以外は近づけません。」
と伝令は一つ一つ諭すように説明し始めた。
「って、まてよ。じゃあ交代はどうやってここに来るんだ??」
「交代機は通常の格納庫から発進しますので、・・・えーっと、お二人にはここで警戒態勢が下がるまでここで留まっているように・・・と。」
「な~んだってぇ~。」
「以上、終わり。それでは戻ります!」
ぴしっと敬礼をした伝令は仕事を一つやり遂げた満足感にひたりながら、格納庫を出て行った。もちろん小銃を手に、腰を低くしている。一番目立つ芝生部分を横切るときはもちろん匍匐前進だ。そして、薄暗くなりはじめた景色に同化して見えなくなった。
「・・・栗、ハラ減った。」
伝令が帰ってから、神田が最初に言い始めたのはそんな事だった。
「我慢しなさいよ。そのうち運搬食くらいくるんじゃないの?」
「これだったら、飛んで戦闘やってた方がマシだ・・・。」
「ここにゃ、何にもないしねぇ。」
「運搬食なんて、絶対待ってても来ないぞ。俺達は忘れられるんだ。きっとそうに決まってる。」
「神さん、考えすぎだ。そうそう警戒態勢が上がり続けるとも思えん。」
「いや、絶対演習が終わるまで忘れられるに決まってる。そして終わって通常体勢になった頃、この格納庫で餓死した栗と俺が発見されるに違いないんだ。」
「・・・どうやったらそんな極端な発想に陥れるんだ、お前は・・・。」
「どうやったら、そんなに落ち着いていられるんだ。」
「まぁ、ちったぁ落ち着いて考えなさいよ。それに、一緒に死ねりゃあ本望でしょうが。」
「・・・そんな最期はいやだ・・・。」
さっきと言ってることが違うぞ・・・と思いつつ、栗原は地上無線を手にする。
とにかく本部と連絡をとって状況を教えてもらわないと、神田がいつ暴走するかわからないからだ。
「おや、駄目らしい・・・。」
だが、そのチャンネルも聞こえてくるのは雑音だけだ。地上無線への妨害電波がひどすぎて連絡をとれる状態ではないらしい。
「ほらな、やっぱりだ。ちゅうことで・・・。」
と扉のほうに向かう神田を、栗原はあわてて押しとどめた。
「どこへ行くんだ、神さん!」
「ここを突破する。」
「はぁ?」
「要はゲリラにも警備隊にも出くわさずに向こう側へ抜ければいいだけだろ?」
神田の言葉に栗原は心の中で、冗談じゃない!と叫んだ。それをもし発見されれば間違いなく不審者の仲間入りだ。基地にとっても不審者、ゲリラにとっても不審者。
訓練とは言え、ゲリラ相手の警備に興奮してる輩に見つかったら何をしでかすかわからない。空砲だって、至近距離で撃たれたら風圧で怪我のひとつもするだろう。
けれども。
「行くぞ、栗。」
きっぱりはっきりそう言われて、
「おう。」
と栗原はいつものクセでそう返事してしまった。
理由や場所がどうあれ出撃することには変わりないのだ。神田が行くというのなら、栗原もそれに従わないわけにはいかない。多少の後悔はありつつも・・・。
「11時の方向・・・、距離200メートル、1個分隊程度。」
「お、乗ってきましたな、栗原さん。」
「向かっていくんじゃないよ、逃げるんだよ、神さん。」
植え込みの陰に隠れながら、半分冗談のようにそう囁き合う。
「よし、10メートル先の木まで一気に抜けるぞ。第4匍匐用意。」
匍匐したところで、オレンジの飛行服なら200メートル先からでも丸見えだろうに、と栗原は思いながらも、言われるままに匍匐の姿勢をとる。まだ分隊の注意はこの格納庫側に向いていない。気づかれる事はないだろうという算段もあっての事だが。
「前へっ。」
合図と共に全身する。予定通りに二人が木までたどり着いて、その陰に身を隠した時だった。
パンッ、パンッ!
タタタタタタタタタッ!
と空砲特有の軽い銃声が鳴った。
そして、
バリバリバリバリバリ!
と銃を見立てた爆竹の音が鳴り響く。
二人に向かってではない、おそらくどこかげゲリラ役が発見されて、それへの応戦がはじまったのだ。
「は・・・始まったみたいね・・・。」
「どうするよ?神さん。ああなると、ここからは動けませんぜ?」
「すまん、栗、何も考えてなかった・・・。」
「ったく・・・。」
と、半ば予想できていた事だけに、呆れながら、だが何とか打開策を出そうと栗原は周囲に視線をめぐらせた。
「お、いけそうだ。神さん、左30度、掩体がある。」
栗原が指差した方向には一人用の竪穴型の陣地が作られていた。通称タコ壷陣地だ。作られたまま使われてはいないらしく、入り口は開いたままで、その片隅に上からかえる偽装網が丸めて置かれている。
距離は約20メートル。
「なんとかたどり着けそうか、栗?」
「次に銃声が聞こえた時に走って飛び込めば、なんとか。」
「じゃあ、タイミングはまかせるわ。Goの合図でそこまで走るからな。」
「りょーかい。」
伝令が帰ってから、神田が最初に言い始めたのはそんな事だった。
「我慢しなさいよ。そのうち運搬食くらいくるんじゃないの?」
「これだったら、飛んで戦闘やってた方がマシだ・・・。」
「ここにゃ、何にもないしねぇ。」
「運搬食なんて、絶対待ってても来ないぞ。俺達は忘れられるんだ。きっとそうに決まってる。」
「神さん、考えすぎだ。そうそう警戒態勢が上がり続けるとも思えん。」
「いや、絶対演習が終わるまで忘れられるに決まってる。そして終わって通常体勢になった頃、この格納庫で餓死した栗と俺が発見されるに違いないんだ。」
「・・・どうやったらそんな極端な発想に陥れるんだ、お前は・・・。」
「どうやったら、そんなに落ち着いていられるんだ。」
「まぁ、ちったぁ落ち着いて考えなさいよ。それに、一緒に死ねりゃあ本望でしょうが。」
「・・・そんな最期はいやだ・・・。」
さっきと言ってることが違うぞ・・・と思いつつ、栗原は地上無線を手にする。
とにかく本部と連絡をとって状況を教えてもらわないと、神田がいつ暴走するかわからないからだ。
「おや、駄目らしい・・・。」
だが、そのチャンネルも聞こえてくるのは雑音だけだ。地上無線への妨害電波がひどすぎて連絡をとれる状態ではないらしい。
「ほらな、やっぱりだ。ちゅうことで・・・。」
と扉のほうに向かう神田を、栗原はあわてて押しとどめた。
「どこへ行くんだ、神さん!」
「ここを突破する。」
「はぁ?」
「要はゲリラにも警備隊にも出くわさずに向こう側へ抜ければいいだけだろ?」
神田の言葉に栗原は心の中で、冗談じゃない!と叫んだ。それをもし発見されれば間違いなく不審者の仲間入りだ。基地にとっても不審者、ゲリラにとっても不審者。
訓練とは言え、ゲリラ相手の警備に興奮してる輩に見つかったら何をしでかすかわからない。空砲だって、至近距離で撃たれたら風圧で怪我のひとつもするだろう。
けれども。
「行くぞ、栗。」
きっぱりはっきりそう言われて、
「おう。」
と栗原はいつものクセでそう返事してしまった。
理由や場所がどうあれ出撃することには変わりないのだ。神田が行くというのなら、栗原もそれに従わないわけにはいかない。多少の後悔はありつつも・・・。
「11時の方向・・・、距離200メートル、1個分隊程度。」
「お、乗ってきましたな、栗原さん。」
「向かっていくんじゃないよ、逃げるんだよ、神さん。」
植え込みの陰に隠れながら、半分冗談のようにそう囁き合う。
「よし、10メートル先の木まで一気に抜けるぞ。第4匍匐用意。」
匍匐したところで、オレンジの飛行服なら200メートル先からでも丸見えだろうに、と栗原は思いながらも、言われるままに匍匐の姿勢をとる。まだ分隊の注意はこの格納庫側に向いていない。気づかれる事はないだろうという算段もあっての事だが。
「前へっ。」
合図と共に全身する。予定通りに二人が木までたどり着いて、その陰に身を隠した時だった。
パンッ、パンッ!
タタタタタタタタタッ!
と空砲特有の軽い銃声が鳴った。
そして、
バリバリバリバリバリ!
と銃を見立てた爆竹の音が鳴り響く。
二人に向かってではない、おそらくどこかげゲリラ役が発見されて、それへの応戦がはじまったのだ。
「は・・・始まったみたいね・・・。」
「どうするよ?神さん。ああなると、ここからは動けませんぜ?」
「すまん、栗、何も考えてなかった・・・。」
「ったく・・・。」
と、半ば予想できていた事だけに、呆れながら、だが何とか打開策を出そうと栗原は周囲に視線をめぐらせた。
「お、いけそうだ。神さん、左30度、掩体がある。」
栗原が指差した方向には一人用の竪穴型の陣地が作られていた。通称タコ壷陣地だ。作られたまま使われてはいないらしく、入り口は開いたままで、その片隅に上からかえる偽装網が丸めて置かれている。
距離は約20メートル。
「なんとかたどり着けそうか、栗?」
「次に銃声が聞こえた時に走って飛び込めば、なんとか。」
「じゃあ、タイミングはまかせるわ。Goの合図でそこまで走るからな。」
「りょーかい。」
「こんな事なら格納庫でおとなしくしてりゃよかったよ。」
計画通りに首尾よくそこに飛び込んだ二人だったが、状況は何も変わっていない事に気づく。入ったはいいが、出るに出られないのだ。なかなか旨く作られたタコ壷で、上から偽装網をはってしまえば、夜のうちはそこに穴があることすら気づく者も少ないのだろう。
「・・・誰のせいかな・・・?」
「・・・は・・・はは・・・俺?」
暗がりでほとんど見えないが、栗原の目が冷たく光っているであろうことは神田には容易に想像できた。笑ってごまかせるとも思えないのだが、とりあえず笑うしかない。
「わかってるんなら、いい。」
「栗、怒ってない?」
「・・・俺も悪ノリしたんだから、同罪だろう。バカな相棒にゃ付き合うもんじゃねぇな。」
「そっか・・・、怒ってないなら良かった・・・。」
と、神田は安堵の息を漏らしたのだが・・・。
「・・・神田、お前は何をしようとしてるんだ。」
その次の瞬間、またもや栗原の冷たい声を聞く羽目になった。
それもその筈、そう広くもない場所でお互いの体がくっついてしまうのは仕方がないが、神田はそれを通りこして腕を栗原の腰にまわして引き寄せようとしているのだ。
「だって、昨夜おあずけくらわされたもんで・・・。」
「そんなもの、おあずけのうちに入るか!所構わずくっつくな、節操ってもんがないのかねぇ。」
「いいじゃんかよ、何も、やろうって言ってるんじゃないんだし。」
「当たり前だ、バカ!」
「くっつくくらいいいいだろ?」
「どうせその後はキスくらいいいだろ?って言うんだろ?」
「えーと・・・その。」
「ダメだとは言わんけどね。」
「え、いいの?」
「・・・お好きにどうぞ。どうせそうでもしてなきゃ、朝には凍死しそうだもんね。」
言いながら、くすっと笑って栗原は神田の肩に頭を預けた。
計画通りに首尾よくそこに飛び込んだ二人だったが、状況は何も変わっていない事に気づく。入ったはいいが、出るに出られないのだ。なかなか旨く作られたタコ壷で、上から偽装網をはってしまえば、夜のうちはそこに穴があることすら気づく者も少ないのだろう。
「・・・誰のせいかな・・・?」
「・・・は・・・はは・・・俺?」
暗がりでほとんど見えないが、栗原の目が冷たく光っているであろうことは神田には容易に想像できた。笑ってごまかせるとも思えないのだが、とりあえず笑うしかない。
「わかってるんなら、いい。」
「栗、怒ってない?」
「・・・俺も悪ノリしたんだから、同罪だろう。バカな相棒にゃ付き合うもんじゃねぇな。」
「そっか・・・、怒ってないなら良かった・・・。」
と、神田は安堵の息を漏らしたのだが・・・。
「・・・神田、お前は何をしようとしてるんだ。」
その次の瞬間、またもや栗原の冷たい声を聞く羽目になった。
それもその筈、そう広くもない場所でお互いの体がくっついてしまうのは仕方がないが、神田はそれを通りこして腕を栗原の腰にまわして引き寄せようとしているのだ。
「だって、昨夜おあずけくらわされたもんで・・・。」
「そんなもの、おあずけのうちに入るか!所構わずくっつくな、節操ってもんがないのかねぇ。」
「いいじゃんかよ、何も、やろうって言ってるんじゃないんだし。」
「当たり前だ、バカ!」
「くっつくくらいいいいだろ?」
「どうせその後はキスくらいいいだろ?って言うんだろ?」
「えーと・・・その。」
「ダメだとは言わんけどね。」
「え、いいの?」
「・・・お好きにどうぞ。どうせそうでもしてなきゃ、朝には凍死しそうだもんね。」
言いながら、くすっと笑って栗原は神田の肩に頭を預けた。