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10 YEARS


 「くっ、栗ぃ~っ、白手貸してくれっ。」
 と朝っぱらから栗原に泣きついているのは言うに及ばない神田だった。
 白手とは言うまでもなく、白い手袋の事である。自衛官が通常礼装をする時に欠かせないものだ。
 ここはいつもの飛行隊のロッカールーム。いつもなら着いてすぐに飛行服に着替える筈が、神田はさっきからロッカーの中をかき回して何かを探していたのだった。
 そしてとうとう探し物がそこにはないと判断して、栗原に助けを求めた次第である。
 だが、突然白手を貸せと言われても理由がわからない。
 「・・・なんで?」
 「だーかーらー、今日は司令のトコ行って賞詞もらわんといかんのだ。」
 「・・・6級賞詞か?」
 「あほぅ、俺は何も悪いこたしとらん。」
 6級賞詞は賞罰の「罰」のことだ。賞も罰も貰うときの服装が同じ事から皮肉った造語である。
 「じゃあ何かほめられるような事したの?」
 「別に何にもしてねぇよ。『赤いきつね』貰うだけだ。」
 「ほーぅ。年食ったんだね、神さんも。」
 「赤いきつね」は自衛隊に10年いたら貰える徽章の事で、つまりもう10年以上は在任したということで、つまり入隊してから10歳は年をとった事を意味するのだ。
 「18んときから自衛隊のメシ食ってんだ。まだそんな年食ったわけじゃねぇよ。それよりっ、白手だ、白手貸してくれよぅ。」
 「10年も自衛隊のメシ食ったヤツが、賞詞貰う当日の朝になって白手探すとはね。ほれ。貸してやるからちゃんと洗って返せ。」
 と、栗原がロッカーの中から真新しい白手を神田に投げる。
 「サンキュ!じゃなっ!」
 とそれを受け止めて、神田は振り返って扉のほうまで走っていこうとする。
 その後ろ姿を見て、
 「あーっ、待てっ神田っっ!!」
 と慌てて栗原が神田をひきとめた。
 「何だよっ、遅れちまうだろーが。」
 「お前っ、制服ほつれてるっ!!」
 「えぇぇぇ~~~~っ。」
 よく見れば、上着の後ろ側を纏り上げた糸が切れて、その部分だけが斜めにでろんと下がっている。よくよく見なくてもかなり情けない姿だ。
 「どーしよ、栗ぃ。」
 たかだか礼装をするだけに朝イチからこれだけ大騒ぎできる相棒に栗原は呆れ果てながらも、仕方なく解決策をおくってやる。
 どうせ神田がバカな事をして、怒られるのは栗原自身なのだ。
 「俺のを貸してやるから早く行けっ!」
 と、自分のロッカーにかかっている予備の制服の上着を神田に投げ渡した。
 「おー、さすが栗っ!よっしゃ、じゃあちょっくら行ってくらぁ。」
 受け取ると同時に自分の上着を栗原に投げてよこして、神田は今度こそ本当にバタバタと司令の部屋へと向かっていった。




 そして、無事になんとか賞詞を貰い終えて戻ってきた神田に、栗原はもう一度制服の上着を投げ与える。
 「ほれ、お前の。縫っといたからな。」
 「おお~~~、さすが俺の奥さん、気が利くぅ。」
 神田の上着の状態ははっきり言って良くなかった。
 裾がほつれていただけでなく、ボタンだってとれかけのがあったし、何より階級章の二つの桜の位置が微妙に0.2ミリ程ずれているのも気に食わなかった。
 何よりも、仕事の行き帰りだけとは言え毎日この制服を着ている姿を見ていた筈なのに、そんな事に気がつかなかった自分がふがいない、と栗原は思う。
 けれど、よくよく考えてみれば、どうして自分がそんな神田の身だしなみにまでいちいち気を使ってやらなければいけないのかがわからない。
 そこが一番栗原を苛立たせる所だ。
 ただ一緒に住んでいるってだけじゃないか。多少の紆余曲折はあるにしてもだ。
 「・・・なんで俺がこんな事をしなきゃならんのだ。それに、俺はお前の奥さんじゃないっ。」
 「愛されてるなぁ、俺も。」
 そんな栗原の思いは他所に、全然別の想像に耽りそうになっている神田に、栗原の右手が軽く炸裂した。
 「あほな事言ってないで、俺の上着返せっ。・・・よく着れたな、お前これ。」
 背丈はそれほど違わないものの、栗原のほうが幾分か横幅がない筈で、制服もそれに合わせて貰ったはずだ。それを意外にも神田はきっちりと着こなしている。
 「あー、ちょいキツかったけどな、これ。」
 「意外にしまった体してんのね、お前。」
 めずらしくも感心した顔でそう言う栗原に、
 「知らなかったのか、んじゃ今夜たっぷりと見せてやる。」
 とニヤリと笑って答える。
 その意味の深さに気づかない栗原ではなくて・・・。
 「るさいっ、とっとと飛行服に着替えろっ!」
 と声を荒げて背中を向けた。
 「10年だぜ?」
 けれど、そんな栗原の背中に向かって、神田が着替えながらめずらしくまじめに話しかけた。
 「俺も10年前は、今の栗と大して変わらねぇ体格してたよ。そっから10年、筋肉はついたけど横幅はまだ保ててるさ。なかなかすげぇもんだろ?」
 30を前にして通常は崩れてくる体型を維持し続けるのはなかなか大変な事なのだ。特に不規則極まりない環境で生活していれば。
 「そんなもん、自慢になるかよ。普通だろ?」
 「あほ、普通じゃねぇって。栗も気をつけたほうがいいぞ、老化はいつ襲ってくるかわからんのだから。」
 そんな神田の言葉に、栗原はうーんと悩んでから、
 「じゃあ、俺も鍛えてみるかな。神さんくらいまで。」
 と答える。その言葉に神田は動揺を見せた。
 「い・・・いや、やめとけ栗。そこまでしなくていい。」
 「・・・何で?」
 「今ケンカしたっていい勝負なのに、俺が勝てなくなるだろう・・・?」
 そんな情けない神田の言葉を背に、
 「よーし、じゃあ、がんばってみっか。」
 と笑って出て行く栗原。
 そんな背中を見つめて、神田は本日1回目の敗北を自覚したのだった。




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