平行回路
「なー、伊達。さっきの写真くれよ。」
「アホ、あれは俺んだ。誰がお前なんかにくれてやるかよ。」
「えー、ケチ。いいじゃん、写真の一枚や二枚・・・。」
と、「すすきの」までは程近い札幌市内の飲み屋で、まだ夜も暮れないうちから飲みモードに入りつつおおはしゃぎしているのは、言うまでもなく神田と伊達の二人だった。
「くれたら、俺の秘蔵の『栗ちゃんお着替えシーン』の写真をやる。」
と、どこかで話題にされている当人が聞いていたら、激しい制裁をくらいそうな会話をかわしながら、次第に酒の量も増えていき、日も暮れて周囲は仕事帰りのサラリーマンで一杯になってきている。
「混んできたな。」
「そろそろ出るか。」
「次はどこ行くんだー?」
と、そうなるともう神田は遊びモードに入っていて、伊達に次の店の選定を求める。
「そーだな、ひと汗流すのはもうちょっと後にして、とりあえずキレイなオネエチャンのいる店で楽しく飲みなおすか。」
と伊達がそう言うのへ、
「んー、どっちかって言うと、カワイイお嬢さんが好きだな、俺は。」
とそう神田がリクエストするので、
「ちょっと待ってな。」
そう言うと伊達は店のレジの方へに向かってそこに居た店員と何か話していたと思ったら、手に厚目のパンフレットを手にして戻ってきた。
「ほれ、ここから探せよ。」
パンフレットの表紙には『攻略、すすきのガイド』と印刷されていて、中身はどこをめくっても、服を着ていても着ていなくても、いずれも肌も露なお姉さん達が派手な装飾で書かれた店の名前と簡単な地図とともに印刷されている。
「おぉ、すげぇ。」
「お前に合わせるからよ、早く決めろよな。」
「お、伊達、これどうよ、これ。セーラー服だぜ。」
「フツーの店はねぇのかよ・・・。」
余りにマニアックな趣向の店は女の子の質がよろしくない、とさんざん遊び倒した伊達はそう苦情を言う。
そんあ事を言い合いながら、ようやく数軒店の候補が決まって、二人は最初に入った飲み屋を出て大通りの方へ向かった。
「あ、なんだお前。そんな薄着で北海道に着たのかよ。」
自分は厚手のコートをはおりながら伊達は、神田が寒空に制服姿なのに気づいた。
「いやー、だってこんなに外寒いと思わなくてさ。それに荷物の中に入ってなかったし・・・。」
「荷物くらい自分でちゃんと準備しろよ。ほんとムカツクくらい愛されてんな、お前。」
「へへへー。でも、栗の奴、コートくらいいれといてくれても良さそうなモンなのに・・・。」
「何がへへへー、だ。・・・夜遊びするなってこったろ。まぁいい。歩いて行こうと思ったが、地下鉄にするか。」
そんな会話を交わしながら、二人はすすきのに向けて地下鉄の階段を下っていった。
「アホ、あれは俺んだ。誰がお前なんかにくれてやるかよ。」
「えー、ケチ。いいじゃん、写真の一枚や二枚・・・。」
と、「すすきの」までは程近い札幌市内の飲み屋で、まだ夜も暮れないうちから飲みモードに入りつつおおはしゃぎしているのは、言うまでもなく神田と伊達の二人だった。
「くれたら、俺の秘蔵の『栗ちゃんお着替えシーン』の写真をやる。」
と、どこかで話題にされている当人が聞いていたら、激しい制裁をくらいそうな会話をかわしながら、次第に酒の量も増えていき、日も暮れて周囲は仕事帰りのサラリーマンで一杯になってきている。
「混んできたな。」
「そろそろ出るか。」
「次はどこ行くんだー?」
と、そうなるともう神田は遊びモードに入っていて、伊達に次の店の選定を求める。
「そーだな、ひと汗流すのはもうちょっと後にして、とりあえずキレイなオネエチャンのいる店で楽しく飲みなおすか。」
と伊達がそう言うのへ、
「んー、どっちかって言うと、カワイイお嬢さんが好きだな、俺は。」
とそう神田がリクエストするので、
「ちょっと待ってな。」
そう言うと伊達は店のレジの方へに向かってそこに居た店員と何か話していたと思ったら、手に厚目のパンフレットを手にして戻ってきた。
「ほれ、ここから探せよ。」
パンフレットの表紙には『攻略、すすきのガイド』と印刷されていて、中身はどこをめくっても、服を着ていても着ていなくても、いずれも肌も露なお姉さん達が派手な装飾で書かれた店の名前と簡単な地図とともに印刷されている。
「おぉ、すげぇ。」
「お前に合わせるからよ、早く決めろよな。」
「お、伊達、これどうよ、これ。セーラー服だぜ。」
「フツーの店はねぇのかよ・・・。」
余りにマニアックな趣向の店は女の子の質がよろしくない、とさんざん遊び倒した伊達はそう苦情を言う。
そんあ事を言い合いながら、ようやく数軒店の候補が決まって、二人は最初に入った飲み屋を出て大通りの方へ向かった。
「あ、なんだお前。そんな薄着で北海道に着たのかよ。」
自分は厚手のコートをはおりながら伊達は、神田が寒空に制服姿なのに気づいた。
「いやー、だってこんなに外寒いと思わなくてさ。それに荷物の中に入ってなかったし・・・。」
「荷物くらい自分でちゃんと準備しろよ。ほんとムカツクくらい愛されてんな、お前。」
「へへへー。でも、栗の奴、コートくらいいれといてくれても良さそうなモンなのに・・・。」
「何がへへへー、だ。・・・夜遊びするなってこったろ。まぁいい。歩いて行こうと思ったが、地下鉄にするか。」
そんな会話を交わしながら、二人はすすきのに向けて地下鉄の階段を下っていった。
と、話は遡って丁度二人が札幌で飲み始めた頃合のこと。
千歳基地には百里から一機のファントムが舞い降りていた。
操縦しているのはもちろん先刻百里を発った栗原だ。着陸後、整備小隊に機体を引き渡すと、栗原はトラベルポッドからお土産品を回収してそれを遠い所のものは言付けて、近場のものは自分で配ろうと昔馴染んだ千歳の飛行隊へと向かう。
栗原にとってはそれ程居心地のいい場所でもなかったのだが、それでも知った顔が居るのと居ないのとでは随分と違う。
案の定、
「お、栗原。」
「栗原2尉、お久しぶりです。」
丁度セカンドのデブリーフィングが終わったばかりらしく、大勢人が居て、その中には栗原が覚えている顔もちらほらとある。もちろんメンバーの入れ替わりは激しいのだが。
その中で、栗原は多少は気心の知れた人間を数人捕まえると、百里から言付けられたお土産を配分先リストと共に渡して、配ってくれるように頼んだ。実際に一つの飛行隊の中だけでも配布先はいっぱいあって、一人で配り歩くには骨の折れる作業だったからだ。
そんな中、
「栗原2尉、宿泊と喫食なんですけど・・・。」
とまた見知った顔が話しかけてきて、事務的な滞在手続きの話になった。
「部屋はBOQで外来がとれました。食事なんですけど、今晩はちょっと申請が間に合わなくて、明日の朝だけになります。」
「悪いな、手間かけさせて。ん?お前昇任出来たんだ、良かったな。」
と栗原がそう言うと、話掛けていた3曹の階級賞をつけた整備係はうれしそうな顔をする。丁度、栗原がこの千歳で伊達と組んでいた頃に、その機体を担当していて、機付き長から怒鳴られながら走り回っていた士長だった。
「ええ、お陰様で。あ、BOQまで案内・・・しなくても別にいいんでしょうけど、荷物くらい持ちますよ。俺も早番だったんで、今から営内戻るんで。」
「軽いから別にいいんだけどな。」
「んーと、ここじゃちょっとマズイ話があるんで・・・聞いて欲しいんスけど、いいですか?」
と、そう言われて栗原も、なんだろうと首をかしげながらもその隊員と連れ立って飛行隊の外にでた。BOQまでは結構遠くて、その途中で、
「実は昼過ぎくらいなんスけど、外線から電話がかかって来てですね、俺宛に。」
「変な電話なのか?」
「いや、えーと・・・その伊達さんからなんスよ。で、隊の車で民航のターミナルに向かえに行かされてですね、それでそのままゲート通らずに中移動してコッチ側に抜けてBOQまで送れってんですよ。」
「伊達ぇ?」
「何で突然?って思ったんスけど、今じゃ一応民間人ですし、一応昔のよしみで送り届けましたけど・・・、かなりマズイんで誰にも聞けなくてですね。」
「相変わらず、アイツに弱いんだな、お前・・・。」
「いやー、そしたら栗原さんまでコッチに来るって聞いたんで、何かあんのかなーとか思ってですね。」
「いや、伊達の事は知らないよ。そっか伊達がね・・・。」
「あ、いえ、何もないんなら別にいいんです。ちょっと気になってただけなんで。」
そしてBOQの入り口まで来て、隊員は手にしていた栗原の荷物を返して、
「じゃあ、ここで失礼します。明日出発まで時間あったら整備の方にも顔出して下さい。」
とそう言って去っていった。
そこから栗原は与えられた部屋へと向かう。2日前に来た神田もそこに宿泊している筈だった。特別な行事でもない限り外来用の部屋なんて3部屋くらいしか用意していない筈だから、神田の部屋を探しだすのくらい容易な事で、それに外来の部屋はドアの外に名札表を兼ねたホワイトボードがかかっていて、そこにベッドの位置と宿泊者の名前を書き込むようになっている。
「変らないな・・・ここもホント。それに昔の俺の部屋だし。」
そんな事を言いながら扉の前に立つ。そして、規約通りにホワイトボードに自分の名前を書こうとして、そこに非常に読みづらい文字で『神田2尉』と書かれているのを見て、
「なんだ、同じ部屋なんじゃないか。」
と、言いながら自分の名前を横に書き込んで栗原は扉を開けたのだが・・・、
・・・そこに神田の姿はなかった。
ご丁寧に神田にしてはめずらしく寝具はきっちり整え直されていたし、ベッドの脇には室内用のスリッパが揃えて置かれている。つまり風呂でもトイレでもなく、まだ食堂が開いてる時間でもない。
なんで居ないんだ?とそう思いながらベッドサイドの貴重品入れの扉を引くと、そこに鍵はかかってなくて中はからっぽだった。通常隊内にいる時はしまったままにしておく身分証や財布、時計なんかの貴重品も持ったまま移動している事になる。つまり基地内には居ないのだ。
そこで栗原は、伊達が来ていたという事を思い出して・・・、
「あいつら・・・絶対どっかで遊んでるな・・・。」
と独り言ついでに溜め息がもれる。
とその時に国旗降下と課業の終了を告げるラッパが鳴った。それで5時になったのを確認して、栗原は持ってきていた荷物の中から官給品の外套を取り出した。それからちょっと考えて、同じように神田のロッカーの中から持ってきていた神田の分の外套を取り出した。
それから、部屋を出ようとして思い直して栗原は自分が使うベッドメイキングを始めた。もちろん帰ってきたらすぐ眠れるようにする為だ。
栗原も基地の外へ出かけるつもりだった。神田の外套を手にしているという事はそれを届ける為でもある。神田と伊達の行き先は知らないが、栗原には大体の見当は付いていた。
自分が居ないと思って、世間の人は働いている時間から思い切り羽を伸ばそうとしているであろう二人を多少驚かせてやるのも悪くない、と栗原はそんな事を考えていた。
そして、札幌市内の地下鉄の駅へと千歳から電車を乗りついで向かっていた。
千歳基地には百里から一機のファントムが舞い降りていた。
操縦しているのはもちろん先刻百里を発った栗原だ。着陸後、整備小隊に機体を引き渡すと、栗原はトラベルポッドからお土産品を回収してそれを遠い所のものは言付けて、近場のものは自分で配ろうと昔馴染んだ千歳の飛行隊へと向かう。
栗原にとってはそれ程居心地のいい場所でもなかったのだが、それでも知った顔が居るのと居ないのとでは随分と違う。
案の定、
「お、栗原。」
「栗原2尉、お久しぶりです。」
丁度セカンドのデブリーフィングが終わったばかりらしく、大勢人が居て、その中には栗原が覚えている顔もちらほらとある。もちろんメンバーの入れ替わりは激しいのだが。
その中で、栗原は多少は気心の知れた人間を数人捕まえると、百里から言付けられたお土産を配分先リストと共に渡して、配ってくれるように頼んだ。実際に一つの飛行隊の中だけでも配布先はいっぱいあって、一人で配り歩くには骨の折れる作業だったからだ。
そんな中、
「栗原2尉、宿泊と喫食なんですけど・・・。」
とまた見知った顔が話しかけてきて、事務的な滞在手続きの話になった。
「部屋はBOQで外来がとれました。食事なんですけど、今晩はちょっと申請が間に合わなくて、明日の朝だけになります。」
「悪いな、手間かけさせて。ん?お前昇任出来たんだ、良かったな。」
と栗原がそう言うと、話掛けていた3曹の階級賞をつけた整備係はうれしそうな顔をする。丁度、栗原がこの千歳で伊達と組んでいた頃に、その機体を担当していて、機付き長から怒鳴られながら走り回っていた士長だった。
「ええ、お陰様で。あ、BOQまで案内・・・しなくても別にいいんでしょうけど、荷物くらい持ちますよ。俺も早番だったんで、今から営内戻るんで。」
「軽いから別にいいんだけどな。」
「んーと、ここじゃちょっとマズイ話があるんで・・・聞いて欲しいんスけど、いいですか?」
と、そう言われて栗原も、なんだろうと首をかしげながらもその隊員と連れ立って飛行隊の外にでた。BOQまでは結構遠くて、その途中で、
「実は昼過ぎくらいなんスけど、外線から電話がかかって来てですね、俺宛に。」
「変な電話なのか?」
「いや、えーと・・・その伊達さんからなんスよ。で、隊の車で民航のターミナルに向かえに行かされてですね、それでそのままゲート通らずに中移動してコッチ側に抜けてBOQまで送れってんですよ。」
「伊達ぇ?」
「何で突然?って思ったんスけど、今じゃ一応民間人ですし、一応昔のよしみで送り届けましたけど・・・、かなりマズイんで誰にも聞けなくてですね。」
「相変わらず、アイツに弱いんだな、お前・・・。」
「いやー、そしたら栗原さんまでコッチに来るって聞いたんで、何かあんのかなーとか思ってですね。」
「いや、伊達の事は知らないよ。そっか伊達がね・・・。」
「あ、いえ、何もないんなら別にいいんです。ちょっと気になってただけなんで。」
そしてBOQの入り口まで来て、隊員は手にしていた栗原の荷物を返して、
「じゃあ、ここで失礼します。明日出発まで時間あったら整備の方にも顔出して下さい。」
とそう言って去っていった。
そこから栗原は与えられた部屋へと向かう。2日前に来た神田もそこに宿泊している筈だった。特別な行事でもない限り外来用の部屋なんて3部屋くらいしか用意していない筈だから、神田の部屋を探しだすのくらい容易な事で、それに外来の部屋はドアの外に名札表を兼ねたホワイトボードがかかっていて、そこにベッドの位置と宿泊者の名前を書き込むようになっている。
「変らないな・・・ここもホント。それに昔の俺の部屋だし。」
そんな事を言いながら扉の前に立つ。そして、規約通りにホワイトボードに自分の名前を書こうとして、そこに非常に読みづらい文字で『神田2尉』と書かれているのを見て、
「なんだ、同じ部屋なんじゃないか。」
と、言いながら自分の名前を横に書き込んで栗原は扉を開けたのだが・・・、
・・・そこに神田の姿はなかった。
ご丁寧に神田にしてはめずらしく寝具はきっちり整え直されていたし、ベッドの脇には室内用のスリッパが揃えて置かれている。つまり風呂でもトイレでもなく、まだ食堂が開いてる時間でもない。
なんで居ないんだ?とそう思いながらベッドサイドの貴重品入れの扉を引くと、そこに鍵はかかってなくて中はからっぽだった。通常隊内にいる時はしまったままにしておく身分証や財布、時計なんかの貴重品も持ったまま移動している事になる。つまり基地内には居ないのだ。
そこで栗原は、伊達が来ていたという事を思い出して・・・、
「あいつら・・・絶対どっかで遊んでるな・・・。」
と独り言ついでに溜め息がもれる。
とその時に国旗降下と課業の終了を告げるラッパが鳴った。それで5時になったのを確認して、栗原は持ってきていた荷物の中から官給品の外套を取り出した。それからちょっと考えて、同じように神田のロッカーの中から持ってきていた神田の分の外套を取り出した。
それから、部屋を出ようとして思い直して栗原は自分が使うベッドメイキングを始めた。もちろん帰ってきたらすぐ眠れるようにする為だ。
栗原も基地の外へ出かけるつもりだった。神田の外套を手にしているという事はそれを届ける為でもある。神田と伊達の行き先は知らないが、栗原には大体の見当は付いていた。
自分が居ないと思って、世間の人は働いている時間から思い切り羽を伸ばそうとしているであろう二人を多少驚かせてやるのも悪くない、と栗原はそんな事を考えていた。
そして、札幌市内の地下鉄の駅へと千歳から電車を乗りついで向かっていた。
そして、栗原がそうやって出かけてから1時間くらいが過ぎた頃、札幌から神田と伊達を乗せた地下鉄は「すすきの駅」に到着していた。
「いやー、寒い、寒いわ。」
そう言いながら神田は首をすくめた。
「まぁ、店に入っちゃうまでの辛抱よ。」
そこは地上に向かう階段の途中で、大きい通りに平行に階段と降り口が作られていて、丁度風が吹くと、ビルで増大されてそこに一方向に流れ込んでくる。今の神田には階段を上がり切るまでがかなり過酷だった。
「そだなー、後は人肌で。」
「お、神田、いい事言うねぇ。それよ、それ。」
とほろ酔い気分で声の響く階段を二人が登りきって外に出た時・・・。
「ふぅん、じゃあこのコートはもう要らないかな。」
と、非常に良く聞き慣れた声が背後から聞こえてきて、二人は思わず後ろを振り返った。
「げっ・・・。」
「く・・・栗っ・・・。」
振り返ると、そこには神田の分の外套を手にした栗原が、普段滅多に見せないくらいにこやかに微笑んでいた。
「防寒具が要るかなーって思って届けに来たんだけど、どうやら要らないみたいだね、神さん。」
「あ・・・いや、えっと、その・・・。」
と、突然栗原がそこに現れたのに驚いて言い訳もままならない神田を置いて伊達は、
「お前・・・よくここがわかったな・・・。」
と半分感心したように、栗原に向かってそう言った。
「伊達が一緒だって知ったからさ。神さんのこっちでの行動は読めなかったけど、伊達の行動パターンならまだ一通り記憶してるからね。伊達が良く行く店とか、そこの客の入れ替えの時間とか、それに合わせるならこの時間だとか、この駅ならこの階段を使って外に出るだろうとか。そういう事、全部。だからここで張ってたのさ。」
栗原のその言葉には多少揶揄するような、非難するような響きがこもっていて、伊達はすぐにそれを感じとって、それを栗原の嫉妬だと解釈する。
「お前・・・、神田がどこで何しようと自分には関係ないみたいな事言ってたクセによ。」
と、そう伊達がこれもまた揶揄するようにそう返すと、
「俺は神さんにコートを届けに来ただけだよ。」
と、ちょっとムっとしたように栗原はそう言って手にしていた外套をバサっと神田に向かって投げつけて、そしてくるっと二人に背を向ける。
「じゃあね、ごゆっくり。」
とそう言い捨てて、スタスタと階段を下って行こうとする栗原に、
「あ、おい待て、栗原っ。」
「栗ぃ~。」
と、二人の声だけが虚しく階段に響いていた・・・。
「いやー、寒い、寒いわ。」
そう言いながら神田は首をすくめた。
「まぁ、店に入っちゃうまでの辛抱よ。」
そこは地上に向かう階段の途中で、大きい通りに平行に階段と降り口が作られていて、丁度風が吹くと、ビルで増大されてそこに一方向に流れ込んでくる。今の神田には階段を上がり切るまでがかなり過酷だった。
「そだなー、後は人肌で。」
「お、神田、いい事言うねぇ。それよ、それ。」
とほろ酔い気分で声の響く階段を二人が登りきって外に出た時・・・。
「ふぅん、じゃあこのコートはもう要らないかな。」
と、非常に良く聞き慣れた声が背後から聞こえてきて、二人は思わず後ろを振り返った。
「げっ・・・。」
「く・・・栗っ・・・。」
振り返ると、そこには神田の分の外套を手にした栗原が、普段滅多に見せないくらいにこやかに微笑んでいた。
「防寒具が要るかなーって思って届けに来たんだけど、どうやら要らないみたいだね、神さん。」
「あ・・・いや、えっと、その・・・。」
と、突然栗原がそこに現れたのに驚いて言い訳もままならない神田を置いて伊達は、
「お前・・・よくここがわかったな・・・。」
と半分感心したように、栗原に向かってそう言った。
「伊達が一緒だって知ったからさ。神さんのこっちでの行動は読めなかったけど、伊達の行動パターンならまだ一通り記憶してるからね。伊達が良く行く店とか、そこの客の入れ替えの時間とか、それに合わせるならこの時間だとか、この駅ならこの階段を使って外に出るだろうとか。そういう事、全部。だからここで張ってたのさ。」
栗原のその言葉には多少揶揄するような、非難するような響きがこもっていて、伊達はすぐにそれを感じとって、それを栗原の嫉妬だと解釈する。
「お前・・・、神田がどこで何しようと自分には関係ないみたいな事言ってたクセによ。」
と、そう伊達がこれもまた揶揄するようにそう返すと、
「俺は神さんにコートを届けに来ただけだよ。」
と、ちょっとムっとしたように栗原はそう言って手にしていた外套をバサっと神田に向かって投げつけて、そしてくるっと二人に背を向ける。
「じゃあね、ごゆっくり。」
とそう言い捨てて、スタスタと階段を下って行こうとする栗原に、
「あ、おい待て、栗原っ。」
「栗ぃ~。」
と、二人の声だけが虚しく階段に響いていた・・・。