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運命の糸車


 「お、無事復活してきたな。」
 結局週末一杯を寝て過ごして、ようやく調子が戻って職場に顔を出した俺を見つけて最初にそう言ってきたのは栗原だった。
 「あぁ、お蔭さんでな。助かったぜ。」
 せっかくの週末を半分程俺の為に潰してくれた栗原だ。一応の礼は言っておく。
 すると、
 「別にお前の為にしたわけじゃねぇよ。もう来週は戦競だしな。風邪治ったんなら、気合入れていくぞ!」
 俺から礼を言われた事に照れたのか、それをごまかすようにそう言った栗原だったが、俺はまだその時栗原の様子がいつもと違うことに気づいていなかった。
 それに気づいたのはその日のフライトが終わった後のことで。
 訓練後のデブリーフィングをしながら、次第に栗原の顔が青ざめていくのに気づいた俺は、それでもちょっと疲れがたまっているくらいだろうと安易に考えて、
 「ん?どった?調子悪そうだな、栗。」
 と聞いたのだけれども、栗原のほうも、
 「いや、何でもない・・・。ちょっと疲れが出たかな・・・。」
 とそう答えるだけだったから、それ程気にすることもないのだと俺は勝手にそう考えた。
 それを聞きつけた周囲からは、
 「あー、わかった。神田さん風邪うつしたでしょー。」
 「うわー、やらしー。」
 と、いつもの冗談まじりの野次が飛んできたが、
 「るせぇ、てめぇらは黙ってろっ。」
 と俺も栗原も笑いながらそんな声を一蹴して、なんとなくその話題もそこで終わってしまったのだったが・・・。
 だから、まさかこんな事になるとはその時は予想だにしなかったのだった




 俺はエマージェンシーをかけて滑走路に680号機を降ろした。まだ周囲は戦技協議会の真っ最中だ。フィジカルエマーをコールして、俺は誘導路までタキシングしてそこで一旦エンジンをきった。管制塔やベースオペレーションに連絡するのももどかしくて、俺は地上無線の周波数で直接待機している衛生隊のアンビュランスを呼びつけた。
 キャノピーをはねのけて後部座席側に回り込んで直接栗原に声をかけるが、もう意識は混沌としていて、Gスーツの上から下腹部を押さえている。すぐに運び出せるようにと、シートに固定しているベルトを外して、救命装備品のハーネスを緩めて脱がせる。Gスーツの下腿部のファスナーを下げて緩めてやるが、腰の部分は緩めるとそのまま内臓が出てきそうな気がして、それはそのままにしておく。
 アンビからストレッチャーが降ろされて680に横付けされるまで1分とはかからなかったのだろうが、俺には長い時間に感じられた。最後には気が動転したかのように救護員を呼びつけてしまったけれど、今から思えば結構冷静だったのかもしれない。
 そのまま栗原に付き添ってそのままアンビで病院まで行きたかったけど、680号機をそのままにしておくわけにもいかず、報告書だとか、低高度で音速をかました始末書やら何やらで結局病院に行けたのはその日の夜遅くになってからだった。
 でも結局のところそうやって焦って病院にいったところで面会謝絶で会えはしなかったのだけれども。病院で聞いたところによると、栗原はそのまま開いた傷口の再縫合処置を受けて、様態が安定するまではICUに入っているという事だった。無理を言って面会室で明け方まで待たせて貰って、ようやく状態が落ち着いて普通の病棟に移ってきた栗原と会うことができた。
 親切な看護婦さんから連絡を受けて、栗原が移された病室に行ってみると、ICUから出てきたばかりの栗原は点滴につながれたまま、まだ眠り続けていた。無表情な寝顔は人形みたいで、このまま目覚めてこないような錯覚にとらわれる。
 ストレッチャーからベッドへと移されるときにちらりと見えた限りでは、腹のあたりには厳重に包帯がまかれていて、それがやけに痛々しかった。病室で見るとどんな人間でも弱く見えるものだ。
 だから、しばらくそうやって寝顔を見ていて、そうして栗原がようやくうっすらと瞼を上げて俺を見たときには本当に安心した。
 「よう。」
 目を開けた栗原にそう声をかけると、栗原は顔だけを俺のほうにむけて、そして俺と目が合うと、ふと笑って、
 「なんだ、神さんか。」
 と、そう言ってまた顔を天井の方へと向ける。目覚めてみるといつもの栗原だった。けれどそこに安心して俺も軽口が叩ける。
 「なんだとはなんだ。目ぇ覚めるまでついててやったのに。」
 ちょっとムっとしたように俺がそう言うと、
 「・・・マジで死ぬかと思った。んで目覚めたらお前の顔だぜ?俺もよくよく運のねぇ男だなと。」
 と、そんな憎まれ口まで叩くようになって、それから俺の方に向き直ろうとして体をよじろうとする、その瞬間だった。
 「ってぇ・・・。」
 と、苦しげに呻いて起こしかけていた体を、また諦めてまっすぐに戻す。そのまま天井を睨みつけている所を見ると、自分の体が思い通りにならないのが余程悔しいのだろう。俺は栗原が話をしやすいように、ベッドの脇に近づいた。面会者用の丸椅子をそのすぐ脇に置いて腰掛ける、天井を向いたままの栗原の顔がすぐ近くに覗き込めるようになった。
 そして、その顔を見ながら、
 「動くなよ、バカ。まだ完全にふさがったわけじゃねぇんだから。」
 とそう諭すと、
 「何針くらい縫った?」
 不意に栗原は俺を見上げてそんな事を尋ねてきた。
 「俺が知るかよ。」
 再縫合をやった事は聞いたけれど、何針かまでは俺は聞いていない。傷口そのものがどんな状態になったかも知らない。いや、知りたくないというのが本音だったのだけれど。
 だから知るわけもなくて、素直にそう答えると、栗原はその答えが気に入らないのか、俺の方を見ながら自分の腹に巻かれた包帯を指差して、
 「これ、取っちゃだめかな。」
 とそんな事を聞いてくる。
 「ダメに決まってんだろ。お前ってほんと、時たまとてつもないバカやろうとすんのな。」
 「だって傷口どうなったか見てみたいと思わね?」
 「見たくねぇよ。くっつくまでおとなしくしてろ。」
 栗原のほうもそれほど本気で言ったのではなかったんだろう。そんな掛け合いのようなやりとりをしばらく俺と続けていて、そしてまた不意に、
 「・・・眠・・・。」
 ふわっと、欠伸を一つしながらそう呟く。
 そう言えば、目の前に居るのは寝てなければいけない病人だったことに今更ながらに気づいて、
 「眠いんなら寝ちまえ。」
 とそう栗原に言った。そして心なしか安心する。
 多分点滴の中にそういう成分が入っているのだろう。しばらく睡魔に抵抗して俺に何か話そうとしていた栗原だったが、そのまままた瞼が落ちて眠りに引き込まれていったみたいだった。
 不思議なものでさっきは、ずっと眠り続けている姿が怖くて、早く目覚めて欲しいと願ったのに、目覚めてまた無茶ばかりしようとする栗原を見ていると、ずっと眠ってて欲しいと思うのだった。
 ついこの間、俺の私生活が無茶苦茶だと栗原になじられたばっかりだったが、栗原のほうが無茶苦茶だ。生活はきっちりしてんのかもしれないけど、自分の生命とか能力とか、そういうものを限界ギリギリに晒すことに関して何とも思っちゃいない。
 一人で放っておいて一番危ねぇのは俺よりコイツの方じゃないのか?とかそんな事を思ったり。
 栗原の寝顔を見ながらそんな事を考えていると、
 「失礼しまーす。包帯を替える時間なんですけれど、よろしいですか?」
 と、そんな言葉とともに病室を区切っている扉が開いて、包交車を引いた看護師が入ってきた。これから傷口のガーゼを替えて包帯を巻き直して固定すると言う。
じゃあ、と思って出て行こうとすると、そのまま居て貰って結構ですよ、というので俺はそのままその様子を見ていた。
 包帯を外していくと、丁度傷口の上になる部分に数枚のガーゼが重ねられていて、それが一枚ずつ注意深くはがされていく。一番下のガーゼにわずかに血液の混じった黄色っぽい液体の浸潤が見える。
 看護師は何の感慨もないように事務的に古いガーゼを取り除いていく。術後の患者なんていくらでも居る、栗原もその他大勢と同じで、彼女にとっては、その縫合部を消毒をして新しいガーゼに代えて、また包帯を巻きなおす、ただそれだけの一連の作業にすぎないのだろう。
 だが、それが栗原だというだけで、掛け替えのない自分の相棒だというだけで、俺にとってはそれは特別の意味のある事で、俺はその傷口を見ることが怖くて、見ていられなくて、そのまま目を覆いたい気持ちになるのだった。
 罪悪感が俺を襲うのだ。
 無茶をやらかしたのは栗原だったが、戦競に勝ちたいと願ったのは自分だった。そして結果的に栗原にこうやって生死の境を彷徨わせて、そして深い傷を負わせてしまった。
 見たくなかったけれど、これから一生そこから目を逸らし続けるわけにもいかないのだ。自分の行為に背を向けるわけにもいかない。
 俺は意を決してそこに視線を向けた。
 手術の痕は、想像していたもの程酷いものでもなかったが、以前に見せて貰った、最初の接着痕よりもかなり大きくなっていて、明らかに縫合したことがわかる痕跡となって残っている。
 うっすらと細い線が残る程度で完治する筈だった手術痕は、結局は状態の悪くなった接着面を覆うように縫合したせいで、大きな傷痕としてそこに残ることになった。縫合痕はケロイド状にこそならなかったが、完治したところで、縫合部は隆起した痕として残るだろう。周囲の皮膚の引き攣れもそのまま残ってしまうのだろう。
 看護師が消毒を終えてまたガーゼで傷口をふさいでしまうまでの間、俺はそんな思いにとらわれながらそこから目が離せなかった。
 それからまた栗原と二人きりになって、その寝顔を見ていて、そしてまた切ない気分になる。ガーゼを替えている間も、薬のせいか栗原は目を覚ますことなく、安らかとも言える寝顔を見せていて、俺の罪悪感がほんの少し救われた。そして、その時初めて、その眠り続ける寝顔を見てキレイな顔だと感じた。顔や体の造りもそうだけれど、その肌そのものも白くて滑らかそうで。
 けれど、それだけに先刻見たその傷痕が余計にグロテスクなものに感じられた。そこに存在するイビツさが卑猥にさえ感じられる程に。
 さっきどうして栗原が自分の傷痕を見たいと口にしたのか、その理由がわかる気がした。
 栗原は・・・、目覚めてその傷を見てどう思うのだろう、とも。




 いつのまにか、そのまま俺も栗原の傍らで座ったまま眠り込んでいたのか、気づいたときにはもう完全に朝と言える時間になっていた。基地に戻らなくてはいけない時間だ。まだ事後処理だって全部済んではいない。
 栗原にずっとそのまま付いていてやりたかったが、栗原が居ない分、俺は自分の後始末をちゃんと自分でつけなければいけない。
 それでも、なんとなく後ろ髪をひかれるような。
 そんな複雑な思いを残したまま、俺はそのまま病室を後にした。




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