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三遊亭円朝 怪談乳房榎 十八」(2007/09/12 (水) 23:28:36) の最新版変更点

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十八<br> <br>  正介が委細の話を聞きましてお住持は驚ぎまして、すぐに村方の世話人へ知らせます。提灯を点けろ、六尺棒を持って来いなどと、喧嘩過ぎての棒ちぎりとやらで、上を下へと騒ぎまして、正介を案内にして六七人|弓張提灯《ゆみはりちようちん》を|点《とも》して落合へ行って見ますと、無残や正介が申した通り、重信は朱に染って倒れております。お住持はそこは商売柄だけすぐにオンアボギャアをやらかします。正介は主人の死骸を見るにつけても、おのれが手伝ったと思いますから慄えながら口のうちで念仏を唱えております。<br> 「まアとんだことだった、可哀そうに、えいお人だった、お年は三十八だ、なに七だって、やれやれ、だがさすが武士、お武家様だから死んでも刀へ手をかけて放さねえのは感心だよ、なに頭にぶたれた痕があるって、あゝえらく何かでぶったか、憎いやつだ。」<br>  などと云われますたびに.正介は胸へ釘を打たるる思いで、まアなにしろ死骸を用意して参った棺桶へ収めまして、南蔵院へ一時引き取りましにが、旧幕様の頃でございますから、この由を書面に認めまして、お奉行所へ訴え御検視を受けるという手数で、柳島へは四、五人でこの由を知らせますと、例のおきせはびッくりいたしたのなんのと、自分が夫の留守に悪いことをいたしておりますから、いわゆる疵持つ足で、いろいろな取越し苦労をいたして涙に暮れております。<br>  そのうち御検視も済みましたので、重信の死骸を高田砂利場村より柳島へ引き取りましたが、六月六日という、土用の入りから三日目だという暑さでございますから長くは置けません。おきせは泣きの涙で、まず菩提所へ野辺送りをいたしましたが元より夫を殺したのは誰が仕業ともかいくれ分りません。浪江もおのれが重信を殺したとは云いかねますから、口を拭いて、さっそく人が参ったから駈けつけまして、空涙をこぼしまして、いずれ私が師匠の|敵《かたき》は草を分けても尋ねて真与太郎さんに討たせます、私がお助太刀をいたす。などとごまかして、ともに葬式の世話をしておりましたが、待たぬ日は来ますもので、日柄もたちまして早くも三十五日もすみ、ある日のことでございましたが、撞木橋の磯貝浪江の宅へかの地紙折りの竹六を招きまして、馳走などいたして、<br> 「さて、竹六さん、今日お前をお呼び立て申したは、別のことではないが、私もお前の世話で、いったん師匠といたした重信先生も、今度不慮たことで横死を遂げられ、申しようもない訳じゃが、お前も知ってのとおりまだ御新造が二十四でいらっしゃるから、今から後家を立てるの、尼になって夫の菩提を弔うなどとおっしゃっても、世間でそれは許さぬ、私が思うには、どうかあの先生の|遺子《わすれご》の真与太郎さんを可愛がるような気の優しい人を|入夫《にゆうふ》にして、真与島の家名を相続させたいと思うがお前はまアどう後のことを思っておいでか、腹蔵なく聞きたいのだが、まア竹六さんどう思うえ。」<br>  と横着者の浪江でございますから、竹六にお前さんがいいと云わせようという計略、<br> 「なるほど、今度の一件では私も肝をつぶしましたが、あの先生がああいう非業な死にようなんぞをなさるとは、私ア天道様が聞えないと私ア思います、だがおっしゃるとおり御新造がまだお若いし、好い御器量ときているから、どうせお独りでいようと思し召したってそうはいかない、もし御馳走になって……いえこれまで私アあなたにはいろいろ頂戴した物もあり、別段に御懇命を頂いた、それでいうのじゃアけっしてございませんが、いっそ他から御入夫をお入れなさるなら私アあなたがいい。」<br> 「冗談を云っては相談にならないよ。」<br> 「え、冗談、なんで竹六冗談を申しましょう、御酒を頂戴いたしたって、まだこれで|二銚子《ふたちようし》、まだ酔うというところへはいきません、|素面《しらふ》でございますよ、こう申すとおかしいが、御新造様だってあなたを|常不断《じようふだん》お褒めだ、あなたならお二つ返事。」<br> 「イヤ私のような届かない者を、嘘にもそう云っておくれのは嬉しいが、それは私がいっそ見ず知らずで、門弟でなければよい、私が真与太郎さんがせめて十五になるまで後見をいたして成人を待って引き下るが、どうも弟子師匠の間柄ではなんだかそこが変でな。」<br> 「なに変て、そりゃアお気が咎めるというのだね、あなたが坊ちゃんをお可愛がんなさるから、御新造大喜び、またあなたが先生のお跡目をお継ぎなさればこの竹六も大喜び、大変に都合がよい。」<br> 「イヤそれは止しな。」<br> 「イエよしません、私がこのことは引き受けていたします、人のことは人がお世話をしないではいけません、まア私に黙って……お任せなさい。」<br>  とこちらから頼まないでも、竹六がしきりと世話をしようという様子を見まして、心中にしめたと思いました。<br> <br>

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