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亀井勝一郎『美貌の皇后』後記」(2017/01/19 (木) 10:05:43) の最新版変更点

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『美貌の皇后』(新潮社版)後記  この本に収めた八篇は、いずれも今年の二月から人月にわたって旅行しながらかいたものであ る。私はかねてから日本の歴史と風景と、それに古蹟や古美術が一つとなって残っている場所を 巡ってみたいと思っていた。こういう旅は自発的にはなかなか出来ないものだが、幸いに「藝術     しようよう 新潮」の慫慂があって、その希みを幾分でも果しえたのは非常な悦びであった。  私達は祖国のほんとうのすがたを知らなすぎる。隠れた美しさに無関心でありすぎる。私はあ ちこち旅行して、自分の無智を改めて思い知らされた。ここに扱ったものは、いかにもすべて過 去のすがただ。しかし私達は一貫した生命体としての歴史を負うて生きている。歴史と古典を その実際の地に臨んで眺め調べることは、やがては日本人という自己を知るよすがともなるであ ろう。過去の歴史の裡には、未来の生の秘密も横わっている筈だ。それをさぐりあてなければな らない。眼を凝らしてみれば、歴史というものは無限に深いのである。一首の歌、一つのささや かな句すら、かりそめによまれたものではない。古典の地にひそむ古人の息吹は深く大きい。私 はそれに接したいと思った。  古い建造物や美術の中には、刻々と崩れて行くものが少からずある。偶ー焼けたりすると、そ のときだけ世間は騒ぐが、平生から私達が愛着をもち、擁って行かねばならぬのは当然のこと だ。これは単なる美術愛好癖とか趣味の問題でなく、根本は歴史的精神の問題である。西洋化の 激しい今日、彼を学ぶためにも我の実体を知らなければならぬ。そこに独自の把握力と判断力が 養われる筈であり、究極には民族的自信の問題にもつながるであろう。私はこの本で、そういう 議論を述べたわけではない。一個の旅人として歴史古典の地を巡り、祖先の栄光と苦悩と荒廃の 跡を記して、読者の判断に委ねんとしたのである。  歴史と風景と古蹟古美術のそろったところと云えば、大抵は関西に集中している。結局奈良、 京都、あるいはその周辺に止るのはやむをえないが、私は成るべく全国にわたってそういう地を 歩いてみたいと思った。改めて日本を知りたかったのである。ここに収めたのはわずかな一部に すぎないが、しかしこんな慾望に深入りすれば、一生を旅人として過す以外にあるまい。それも わるくないが、私は甚だものぐさだ。半年のほぼ半分を旅に暮し、その印象をまとめて行くこと はかなり疲れる仕事であった。  それにしてもこの本が出来あがるまでに、私はどれほど多くの人々のお世話になったかわから ない。未知の土地の案内、普通ではみられない場所の拝観、史料の蒐集から写真の撮影に至るま で、私は今度の旅ほど多くの人のお世話をうけたことはない。一々のお名前は略するが、ここに 厚く感謝の意を表したい。   昭和二十五年晩秋              著者 『亀井勝一郎選集』第四巻(講談社版)後記  ここに収めた八篇は、昭和二十五年の二月から八月にわたって旅行しながら書いたものであ る。ちょうど新潮社から「藝術新潮」が創刊され、そのすすめによって同誌に連載した。日本の 歴史と風景と、それに古蹟や古美術が一つになって残っているところを巡ってみ允いと思ってい たが、新潮社のすすめで幾分でも果すことが出来て嬉しかった。戦後の混乱の未だ激しかった頃 で、今日のようないわゆる「観光ブーム」はなく、実に静かであった。こういう時期に、改めて 日本の歴史とその遺蹟や美術等に深く学ぼうとしたことを私は大へんよかったと思っている。  全国にわたってそういう土地を歩きたいと思ったが、しかしこんな慾望に深入りすれば、一生 を旅人として過すことになろう。それもわるく,圃ないが、私は甚だものぐさで、半年を旅に暮し ながら、印象をまとめていくのはかなり疲れる仕事であった。それにしてもこういう本が出来あ がるまでに、私はどれほど多くの人々のお世話になったかわからない。未知の土地の案内、普通 ではみられない場所の拝観、史料の蒐集から写真の撮影に至るまで、実に多くの人々のお世話に なった。 「大和古寺風物誌」も絶えず念頭にあって、そこで書き足りなかったところを補ったり、また同 じ対象を別の角度から書いたもの(たとえば「美貌の皇后」「古塔の天女」等)もここに収めてあ る。また史実や私の解釈についてあやまりを指摘して下さった読者もあり、改版ごとに訂正し、 文章も推敲してきた。                              (昭和四十年六月十六日刊)

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