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怪談牡丹燈籠 第十一回


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怪談牡丹燈籠第五編
第十一回
|乗二盗難一巧誣二忠良一《じようじてとうなんにたくみにしゆちゆうりようを》
|呑二寃罪《のんでべんざいを》一|将《まさに》レ|訐二奸悪噌《あばかんとかんあくを》
    す

 二十四日は飯島様はお泊り番で、お国はただ寝ても覚めても考えるには、どうがなして宮野辺の次男源次郎とひとつになりたい。ついては来月の四日に、殿様と源次郎と中川へ釣に行く約束があるゆえ、源次郎に殿様を川の中へ突き落させ、殺してしまえば、源次郎は飯島の家の養子になるまでの工夫はついたものの、この密談を孝助に立ち聞かれましたから、どうがな工夫をして孝助に|暇《いとま》を出すか、殿様のお手打ちにでもさせる工夫はないかと、いろいろと考え、しまいには疲れてとろとろまどろむかと思うと、フト目が覚めて、と見れば、二間隔たっている襖がスウーとあきます。以前は屋敷方にては暑中でも|簾障子《すだれしようじ》はなかったもので、縁側はやはり障子、中は襖で立てきってありまするのが、サラサラとあいたかと思うと、スラリスラリと忍び足で歩いて参り、また次のお居間の襖をスラリスラリとあけるから、お国はハテナ誰かまだ起きているかと思っていると、地袋の戸がガタガタと音がしたかと思うと、錠をあける音がガチガチと聞えましたから、ハテナと思ううちスウーットソと襖をしめ、ピシャリピシャリと裾を引くような塩梅で台所の方へ出て行きますから、ハテ変なことだと思い、お国は気丈な女でありますから起き上り、雪洞をつけ行って見ると、誰もいないから、地袋の方身見ると、戸があけ放してあって、お|納戸縮緬《なんどちりめん》の胴巻が外の方へ流れ出していたのに驚いて調べて見ると、殿様のお手文庫の錠前を捻じ切り胴巻の中にあった百目の金子が紛失いたしたに、さては泥坊と思うとあとが|怖気《こわけ》立って臆するものだて。お国も一時驚いたが、たちまち一計を考え出し、この胴巻の金子の|紛失《ふんじつ》したるを幸いに、これを証拠として、孝助を泥坊に落し、殿様にたきつけて、お手打ちにさせるか|暇《いとま》を出すか、どの道かにしようと、その胴巻を袂に入れおき、|臥床《ふしど》に帰って寝てしまい、翌日になっても知らぬ顔をしており、孝助には弁当を持たせて殿様のお迎いに出してやり、その後へ源助という若党が箒を提げてお庭の掃除に出て参
りました。
「源助どん。」
「ヘイヘイお早うございます。いつも御機嫌ようしゅう。この節は日中はたいそういきれて凌ぎかねます。今年のようなきびしいことはございません。どうも暑中よりきびしいようでございます。」
「源助どん、お茶がはいったから一杯呑みな。」
「ヘイありがとうございます。お屋敷様は高台でございますから、よほど風通しもよくて、ヘイ御門はどうもことごとく暑うございまする。ヘイ、これはどうもありがとうございまする。私は御酒をいただきませんからお茶はまことに結構で、時々お茶を戴きまするのは何よりの楽みでございまする。」
「源助どん、お前は八ヵ年前御当家へ来てなかなかの正直者だ。孝助は三月の二十一日に当家へ御奉公に来たが、孝助は殿様の|御意《ぎよい》に入りを鼻にかけて、この節は増長して我
儘になったから、お前も一つ部屋にいて、時々は腹の立つこともあるだろうネエ。」
「イエイエどういたしまして、アノ孝助ぐらいなよくできた人間はございません。その上殿様思いで、殿様のことというと気狂いのようになって働きます。年はまだ二十一だそうですが、なかなか届いた者でございます。そしてまことに親切なことは私も感心いたしました。さぎだって私の病気の時も孝助が夜っぴて寝ないで看病をしてくれまして、朝も眠むがらず早くから起きて殿様のお供をいたし、あのくらいな情合いのある男はないと私は実に感心をしております。」
「それだからお前は孝助にばかされているのだヨ。孝助はお前のことを殿様にどんなに胡麻をするだろう。」
「ヘエー胡麻をすりますか。」
「お前は知らないのかえ、このあいだ孝助が殿様にいっつけるのを聞いていたら、源助はどうも意地が悪くて奉公がしにくい。一つ部屋にいる者だから、源助が新参者とあなどり、いろいろにいじめ、私に何も教えてくれませんでしくじるようにばかりいたし、お茶がはいっておいしい物をいただいても、源助が一人で食べてしまって私にはくれません。ほんとうに意地の悪い男だというものだから、殿様もお腹をお立ちあそばして、源助は年甲斐もない憎いやつだ。今に|暇《いとま》を出そうと思っているとおっしゃったヨ。」
「ヘイ、これはどうも、孝助はとほうもないことを云ったもので、これはどうも、私は孝助にそんなことを云われる覚えはございません。おいしい物をたくさんに戴いた時は、孝助殿お前は若いから腹がへるだろうと云って、みんな孝助にやって食べさせるくらいにしているのになんたることでしょう。」
「そればかりじゃないヨ。孝助は殿様の物をくすねるから、お前孝助と一緒にいると今にかかり合いだヨ。」
「ヘイ何かとりましたか。」
「ヘイたって、お前は何も知らないから今にかかり合いになるヨ。たしかに殿様の物を取ったことをわたしは知っているヨ。わたしはさっきから女部屋の者まであらためているくらいだから、お前はちょっと孝助の文庫をここへ持って来ておくれ。」
「かかり合いになっては困ります。」
「それはわたしがよいように殿様に申し上げて置いたから、そっと孝助の文庫を持って来な。」
 ト云われて源助は、もとより人がいいからお国の悪だくみあるとは知らず、部屋へ参りて孝助の文庫を持ってまいってお国の前へ差しだすと、お国は文庫の蓋をあけ、中をあらためる振りをしてそっとかのお納戸縮緬の胴巻を袂から取り出して中ヘズッと差し込んでおいて、
「呆れたヨ。殿様の大事な品がここに入っているんだもの。今に殿様がお帰りの上で|目張《めつぱ》りこで皆なの物をあらためなけれげ、わたしのお預りの品がなくなったのだから、わたしがすまないヨ。きっと詮議をいたします。」
「ヘイ、人は見かけによらないものでございますネー。」
「この文庫を見たことを黙っておいでヨ。」
「ヘイよろしゅうございます。」
 と文庫を持って立ち帰り、元の棚へ上げておきました。すると八ツ時、今の三時半頃殿様がお帰りになりましたから、玄関まで皆々お出迎いをいたし、殿様は奥へ涌りお|褥《しとね》
の上にお坐りなされたから、いつもならばできたてのおそなえのようにお国が側から団扇であおぎ立て、ちやほやいうのだが、いつもと違ってふさいでいるゆえ、
「お国だいぶすまん顔をしているが、気分でもわるいのか、どうした。」
「殿様中訳のないことができました。昨晩お留守に泥坊が入り、金子が百目|紛失《ふんじつ》いたしました。あのお納戸縮緬の胴巻に入れておいたのを胴巻ぐるみ|紛失《ふんじつ》いたしました。何でも昨晩の様子で見ると、台所口の障子があいたようで、外は締りは厳重にしてあって、誰もおりませんから、よくあらためますと、お居間の地袋の中にあるお文庫の錠前が捻じ切ってありました。それから驚いて|毘沙門《びしやもん》様に願がけをしたり、占い|者《しや》に見て貰うと、これは|内々《うちうち》の者が取ったに違いないと申しましたから、皆なの文庫や|葛籠《つづら》をあらためようと思っております。」
「そんなことをするにはおよばない。内々の者に、百両の金を取るほどの器量のある者は一人もいない。ほかから入った賊であろう。」
「それでも御門の締りは厳重に付いておりますし、ただ台所口があいていたのですから、内々の者を一ト通り詮議をいたします。アノ竹どん、おきみどん、皆なこちらへ来ておくれ。」
「とんだことでございました。」
「わたくしはお居間などにはお掃除のほかまいったことはございませんが、さぞ御心配なことでございましょう。わたくしなぞは昨晩のことはさっぱり存じませんでございます。まことに驚き入りました。」
「|手前《てまえ》たちを疑ぐるわけではないが、おれが留守で、国が預り中のことゆえ心配をいたしておるものだから。」
 女中は、
「恐れいります、どうぞおあらため下さいまし。」
 と銘々|葛籠《つづら》を縁側へ出す。
「たけの文庫にはどういう物が入っているか見たいナ。なるほどたまかな女だ。|一昨年《おととし》つかわした手拭がチャンとしてあるな。女という者は|小裂《こぎれ》の端でもチャンと|畳紙《たとう》へ入れておくくらいでなければいかん。おきみや、手前の文庫をひとつ見てやるからここへ出せ。」
「わたくしのはどうぞ御免あそばして、殿様がじかに御覧あそばさないで下さい。」
「そうはいかん。竹のをあらためて手前のばかり見ずにいては怨みっこになる。」
「どうぞお勘弁おそれいります。」
「何も隠すことはない。なるほど、ハハァたいそう枕草紙をためたな。」
「おそれいります。ためたのではございません。親類内から到来をいたしたので。」
「言訳をするな。着物が増えると云うからいいわ。」
「アノ男部屋の孝助と源助の文庫をあらためて見とうございます。お竹どんちょっと二人を呼んでおくれ。」
「孝助どん、源助どん、殿様のお召しでございますヨ。」
「ヘイヘイお竹どん、なんだえ。」
「お金が百両紛失して、内々の者へお疑いがかかり、今お調べのところだヨ。」
「どこから入ったろう。何しろたいへんなことだ。なにしろ行って見よう。」
 と両人、飯島の前へ出て来て、
「うけたまわりびっくりいたしました。百両の|金子《ぎんす》が御紛失になりましたそうでございますが、孝助と私と御門を堅く守っておりましたに、どういうことでございましょう。さぞ御心配なことで。」
「ナニ国が預り中で、たいそう心配をするからちょっとあらためるのだ。」
「孝助どん、源助どん、お気の毒だがお前方二人はどうも疑ぐられますヨ。葛籠をここへ持っておいで。」
源助「おあらためを願います。」
「これぎりかえ。」
「一さいがっさい一|世帯《せたい》これきりでございます。」
「オヤオヤマア、着物を袖畳みにして入れておくものではないヨ。チャンと畳んでおおきな。これは何だえ。ナニねまきだとえ。相変らず無精をして丸めておいてきたないネえ。この紐は何だえ。|虱紐《しらみひも》だとえ。きたないネえ。孝助どん、お前のをお出し。この文庫きりか。」
 とこれからだんだん|披露《ひろ》ちゃくいたしましたが、元より入れておいた胴巻ゆえあるに違いない。お国はこれ見よがしに団扇の柄に引っかけて、スッと差し上げ、
「オイ孝助どん、この胴巻はどうしてお前の文庫のうちに入っていたのだ。」
「オヤナヤオヤ、さっぱり存じません。どういたしたのでしょう。」
「おとげけでないヨ。百両のお金がこの胴巻ぐるみ|紛失《ふんじつ》したから、|御神籤《おみくじ》の占いのと心配をしているのです。これがなくなってはどうもわたしが殿様にすまないからお金を返しておくれヨ。」
「わたくしは取った覚えはありません。どんなことがあっても覚えはありません。ヘイヘイどういうわけでこの胴巻が入っていたか存じません。ヘイ。」
「源助どん、お前は一番古くこのお屋敷にいるし、年かさも多いことだから、これは孝助どんはかりのしわざではなかろう。お前と二人で心を合せてしたことに違いたい、源助どんお前から先へ白状しておしまい。」
「これは、私はどうも、コレ孝助々々、どうしたんだ。おれが迷惑を受けるだろうじゃないか。私はこのお屋敷に八カ年も御奉公をして、殿様から正直といわれているのに、年かさだものだから御疑念をうける、孝助どうしたかいわねえか。」
「わたくしは覚えはないヨ。」
「覚えはないといったって、胴巻の出たのはどうしたのだ。」
「どうして出たかわたくしゃ、知らないヨ。胴巻はひとりでに出て来たのだもの。」
「ひとりでに出たと云ってすむかえ。胴巻の方から文庫の中へ駆け込むやつがあるものか。そらぞらしい。そんな優しい顔つきをしてほんとうに怖い人だヨ。恩も義理も知らない犬畜生とはお前のことだ。わたしが殿様にすまない。」
 と孝助の膝をグッと突く。
「何をなさいます。わたくしは覚えはございません。どんなことがあっても覚えはございませんございません。」
「源助どん、お前から先へ自状おしヨ。」
「孝助、おれが困る。おれが知恵でもつけたようにお疑ぐりがかかり、困るから早く白状しろヨ。」
「わたくしゃ覚えはない。そんな無理なことを云ってもいけないよ。ほかのことと違って、大それた、家来が御主人様のお金を百両取ったなんぞと、そんな覚えはない。」
「覚えがないとばかり云っても、それじゃア胴巻の出た趣意が立たねえ。おれまで御疑念がかかり困るから、早く白状して殿様の御疑念を晴してくれろ。」
 とこづかれて、孝助は泣きながら、ただ残念でございますと云っていると、お国は先夜の意趣を晴すはこの時なり。今日こそ孝助が殿様にお手打ちになるか追い出されるかと思えば、心地よく、わざと、
「孝助どん云わないか。」
 と云いながら力に任せて孝助の膝をつねるから、孝助は身にちっとも覚えなきことなれど、証拠があれば云い解くすべもなく、口惜し涙を流し、
「痛うございます。どんなに突かれてもつねられても、覚えのないことは云いようがありません。」
「源助どん、お前から先へ云ってしまいな。」
「孝助云わネーか。」
 と云いながら、ドンと突き飛ばす。
「何を突き飛ばすのだネ。」
「いつまでも云わずにいちゃアおれが迷惑する。云いなヨ。」
 とまた突き飛ばす。孝助は両方からつねられ突き飛ばされたりして、残念でたまらない。
「突き飛ばしたって覚えはない。お前もあんまりだ。一つ部屋にいておれの気性も知っているじゃアないか。お庭の掃除をするにも草花一本も折らないように気を付け、釘一本落ちていてもすぐに拾って来て、お前に見せるようにしているじゃアないか。おいらの心も知っていながら、人を泥坊と疑ぐるとはあんまりひどいじゃアないか。そんなにキャアヤヤアいうと殿様までが私を疑ぐります。」
 始終を聞いていた飯島は大声をあげて、
「黙れ孝助、主人の前もはばからず、大声を発してけしからぬやつ、覚えがなければどうして胴巻が貴様の文庫のうちにあったか、それを申せ。どうして胴巻があった。」
「どうしてありましたか、さっぱり存じません。」
「ただ存ぜぬ知らんと云ってすむと思うかえ。不埓なやつだ。おれがこれほど目をかけてやるにサ。その恩義を打ち忘れ、金子を盗むとは不届者め。手前ばかりではよもあるまい。ほかに同類があるだろう。サア申訳が立つか。申訳が立たんければ手打ちにしてしまうから、さよう心得ろ。」
 と云い放つ。源助は驚いて、
「どうかお手打ちのところは御勘弁を願います。ヘイまた何者にかだまされましたか知れませんから、とくと源助が取り調べ御挨拶を申し上げまするまで、お手打ちのところはお日延べを願いとう存じます。」
「黙れ源助、さようなことを申すと手前まで疑念がかかるぞ。孝助を庇いだてをすると手前も手打ちにするからさよう心得ろ。」
「これ孝助、お詫びを願わないか。」
「私け何もお詫びをするような不埓をしたことはない。殿様にお手打ちになるのはありがたいことだ。家来が殿様のお手にかかって死ぬのはあたりまえのことだ。御奉公に米た時から、身体は元より命まで殿様に差し上げている気だから、死ぬのは元より覚悟だけれど、これまで殿様の御恩になったその御恩を孝助が忘れたとおっしゃった殿様のお言葉、そればかりが|冥途《よみじ》のさわりだ。しかしこれも|無実《むじつ》の難でいたしかたがない。後でその金を盗んだやつが出て、アヽ孝助が盗んだのではない。孝助は無実の罪であったということが分るだろうから、今お手おちになっても構わない。サア殿様スッパリお願い申します。お手打ちになさいまし。」
 とすり寄ると、
「今は日のあるうち血を見せては|穢《けが》れる恐れがあるから、|夕景《ゆうけい》になったら手打ちにするから、部屋へ参って|蟄居《ちっきょ》しておれ。コレ源助、孝助を取り逃さんように手前に預けたぞ。」
「孝助お詫びを願え。」
「お詫びすることはない。お早くお手打ちを願います。」
「孝助よく聞け。|匹夫《ひつぶ》下郎という者はおのれの悪いことをよそにして、主人を怨み、|酷《むご》い分らんと|我《が》を張って自ら舌なぞを噛み切り、あるいは首を|縊《くく》って死ぬ者があるが、汝は武士の種だということだからよもさような死にようはいたすまいな。手打ちになるまでぎっと待っていろ。」
 と云われて、孝助は口惜し涙の声をふるわせ、
「そんな死にようはいたしません。早くお手打ちになすって下さいまし。」
「これ孝助お詫びを願わないか。」
「どうしても取った覚えはない。」
「殿様は荒い言葉もおかけかすったこともなかったが、|大《だい》まいの百両の金が|紛失《ふんじつ》したので、金ずくだからごもっとものことだ。お隣の宮野辺の御次男様をお頼み申して、お詫び言を願っていただけ。」
「隣りの次男なんぞに、たとえ舌を喰って死んでも詫び言なぞは頼まねえ。」
「そんなら相川様へ願え。新五兵衛様ヘサ。」
「何もしくじりの|廉《かど》がないものを、何も覚えがないのだから、後で金の|盗人《ぬすみて》が知れるに違いない。天誠を照すというから、その時殿様が御ご|一言《いちげん》でも、アヽ孝助は可哀想なことをしたと云って下されば、そればっかりが私へのよい|手向《たむけ》だ。源助どん、お前にも長らく御厄介になったから、相川様へ養子に行くようになったら、小遣でも上げようと心がけていたのも、今となっては水の泡。どうぞ私がない後は、お前が一人で二人前の働きをして、殿様を大切に気をつけ、忠義を尽して上げて下さい。そればかりがお願いだ。それに源助どん、お前は病身だから体を大事にいとって御奉公をし、丈夫でいておくれ。私は身に覚えのない泥坊に落されたのが残念だ。」
 と声を放って泣き伏しましたから、源助も同じく鼻をすすり、涙をこぼして眼をこすりながら、
「詫び事を頼めよ詫び事を頼めよ。」
「心配おしでないヨ。」
 と孝助はいよいよ手打ちになる時は、隣りの次男源次郎とお国と姦通し、あまつさえ来月の四日、中川で殿様を殺そうというたくみの一部始終をくわしく殿様の前へ並べ立て、そしてお手打ちになろうという気でありますから、少しも臆する色もなく、ふだんの通りでいる。そのうちに|燈《あかり》がちらちらつく時刻となりますと、飯島の声で、
「孝助庭先へ回れ。」
 という。この後はどうなりますか、次までお預り。

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