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三遊亭円朝 怪談乳房榎 十九


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十九

 竹六が請け合いましたから、しすましたりと心中に浪江は笑みを含み、
「それではお前に任せるが、まア師匠の跡を弟子の私が継げば、冥加に叶ったことだから、首尾よくこれが整えば礼をいたすよ。」
「なにお礼などはけっして頂戴しません、平生御恩になるこちら様のことなに造作もないことで。」
「いえいえそれはそれ、これはこれだから、少しだが十両進ぜるよ、それにそれ不断お前が褒めておいでの羽織ね。」
「へ、あの糸織のですか。」
「糸織の|万筋《まんすじ》の方。」
「え、あれを下さるって。」
「あれをお礼に上げるつもりさ。」
「頂戴してはすまないが、下さる物なら夏も小袖、下さるならそれにこしたことはございません。」
「それではどうか頼むよ。」
「よろしい、よろしゅうございます、細工はりゅうりゆう仕上げを御覧なさい。」
 と請け合いまして竹六は|暇《いとま》を告げ、すぐに柳島のおきせのところへやって来ました。
「へい御免あそばせ、私で、へい、竹六で、御機嫌よう。」
 と|内玄関《ないげんかん》から上りまして、|葭戸《よしど》を開けまして入ります。おきせは真与太郎を今寝かしつけておりましたが、竹六が参ったと聞きましたから起き返りまして、
「おゝ竹六さん、ようおいでなさいました。」
「ヘエ御新造、しだいにお淋しゅういらっしゃいましょう、先日はお|門《かど》多い中を、私へまでお志の|蒸物《むしもの》を頂戴いたしまして、なんともはやお礼の申し上げようもない。」
「いえまことに粗末な物で、もう手がないものですから、何かと行ぎ届かないで、それにお前さんには葬式から引き続いて、いろいろまアお使い立て申してろくろくお礼もいたさないで。」
「いえいえどういたしまして、お礼どころではございません、毎度お手伝いに上るのはよいが、後で頂くとぼろを出して、いつでもお花どんの御厄介、いえ頂いてはいけません、御酒を頂く者は人間の屑で。」
「まアそこは敷居越しですから、まアこっちへまアずっとお入りなさい。」
「いえお構い下さいますな、へえこれはお茶を。」
「悪いので只今入れますよ。」
「いえもうこれでよろしゅう、坊ちゃまはお寝んねでおとなしい、じつに坊ちゃまのお顔を見ますと思い出しますよ。先生様のことを……」
「もうこれがせめて五つぐらいでおったら、少しはお|父様《とつさま》のお顔を覚えておろうかと存じますが、まだ当年生まれましたばかり、親の顔も存じないかと思いますと、つい胸が一杯に……」
「イヤこれはとんだことを申してお思い出させ申しました、いえこれは皆約束事で、どうしてあなたまだまだこれよりひどい泣きをいたす人がございますよ、まアまアお諦めがかんじんで、お嘆きあそばすとかえって仏様のおためによろしくありません。」
 とおきせが涙を浮めましたから、こいつはとんだことをいったと、これから世間話を面白く、ちょっと|幇間《ほうかん》もやるという竹六でございますから、ようようおきせが元気回復いたした。
「え御新造、私が今日出ましたのは、じつはちと御相談がありまして。」
「私へ御相談とはなんのことで。」
「いえほかではございませんが、こう申すと叱られますか知れません、まだ日柄もたたないのにそんなことをと、叱られたらそれまで、いえなにこちら様のお跡目のことで、え、あなた様だってまだお若くいらっしゃるし、ことに坊ちゃまという御心棒がお残りで、田地や旦那様が御丹精あそばしたお家作などもございますから、月々のお世話を焼く男の手がなくっては、そりゃアお困りなさるよ、しかしそれは人をお頼みなさるとしたところが、他人というやつはちょっとは好いが、不実が多いもので、それより私はあなたのお話相手……いえお後添えをお貰いあそばすのが、へえ……一番お家のお為によいかと思います、そこでこれをあなた様へお勧め申しに上ったので、ねえあなた。」
 とそろそろと勧めかけました。おきせは涙を拭いまして、
「まことにお前さん御親切にそうおっしゃって下すって。」
「へ、なに御親切とおっしゃっては痛みいるわけで。」
「いえもう本当ならばそういたすのが、順当かも知れませんが、旦那もああいう非業な御最期をあそばしましたし、後へ私独り残りましたなら、そういたしてもよいが、痩せても枯れても男の子の真与太郎が一人ございますから、これを大きくいたして成人を待ちまして嫁でも取りまして、この真与島の跡目を|嗣《つが》せます私は了簡で、私はもう生涯後家をたてまして旦那の菩提を弔いますのが望みで。」
 と後は涙に声を|潤《うる》ませて、何か口のうちで云うが分りません。
「なゝなるほど、それは御貞女で、竹六大感心、そうなくってはなりませんわけで、だが失礼ながらお利口でいらっしゃっても、またそこが御婦人でお心がお狭い、え、なぜだと云って御|覧《ろう》じませ、坊ちゃまがお嫁をおとりあそばすように御成人なさるのは、そら今年が御当歳で、それからお二つ三つ四つ……お十七八におなりあそばしても、まだあなたはお四十ですよ、その長いうちには男でなくってはいけない御心配があるもので。」
「いえ、それは承知しております。」

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