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三遊亭円朝 怪談乳房榎 二十七


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二十七

「まことに子供を持ちますと御同然に。」
 と世辞を云いながら乳を飲ませますと、子供は罪のないもので、しばらく乳をしゃぶっておりましたが、腹がくちくなったからすやすや眠ります。
「はアまことに坊さまが、あれ……腹アくちくなったと見えて現金だよ、そら眠っただ。」
「ほんとうに、まア呆れたものですね、あれ御覧なさい、すやすやと鼾をかいてさ。」
「子供衆はお乳が何よりか一番でございます、寝んねなさいましたら御免なさい。」
 と泊り合せました女房はわが座敷へ帰ってゆきましたが、正介は人に人鬼はないと喜んで、真与太郎を抱きましてその夜は眠りに就きました。その|翌朝《よくあさ》のことで、正介は自分も手水に行き、また真与太郎にも小便をさせようと下へ降りてまいりますと、便所の傍の流しに、お|定《さだま》りの|塩笊《しおざる》が片っぽにありまして、もう九月でございますから、|銅壷《どうこ》のある風呂へ湯が湧いてあるという、小さな金盥が三つばかりありまして、顔を洗っておりました五十近い男が、正介がいま真与太郎に|小便《ちようず》をやりながら、しい……そら出た、たいそうしょぐりなすったなどと云っております顔を見まして、
「もし、そこにおいでのは真与島さんの正介さんじゃアないかえ。」
 と名を呼ばれましたから、疵持つ足の正介びっくりいたしました。
「誰だえ、名を呼ばるのは。」
「わしだよ。」
「誰だえ。」
「正介さん、まア変なところで逢ったね、高田の南蔵院でお心易くした原町の新兵衛、万屋新兵衛だよ。」
「え、新兵衛さまだえ。」
「あい、新兵衛だが、見れば乳呑み子を連れて、|昨夜《ゆうべ》ここへ泊んなすったのかえ。」
「あゝ新兵衛様か、おれ誰だと思ってびっくりしただ。」
「まアここで互いに逢おうとは思わなんだ、そうしてお前どこへ行きなすって。」
「わしい十二|社《そう》へ、いえ滝へ、なに滝浴びに行っただ。」
「なに滝を浴びにおいでだって..」
「なにそうじゃアねえ、十二、十三。」
「相変わらず面白い人だ、ともかくもちょっと私の座敷ヘおいで、そのお子は……ああ|昨夜《ゆうべ》うちのが夜中に乳を呑まして上げたと云ったお子はお前のお連れのそのお子だろう、
どうも不思議な。」
「はアそれでは夜中に乳い呑ましてくらしやったお|内儀《かみ》さんはあなたのとこだって、それは不思議、大方旦那様の幽霊……。」
「なんだとえ。」
「なに南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」
と念仏を唱え、両人はわが座敷へ参りました。

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