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川路柳虹「跋」


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 先驅者の仕事はその當時にあつてはいつも不幸だ。故平戸廉吉君の詩集の如きもその一つである。君の詩に於ける建設は今日から見て單なる詩の手法上の新意以上の或るものを有つてゐたのである。君は最初伊太利藝術界に端を發した未來主義の名のもとにその創作を發表した。しかしそれは最も獨創に富む君自身の創設であつた。それから第四側面の詩、即ち詩に於ける第四次元的宇宙の展開を意圖する時から何人もが提唱するをえなかつた新しき詩論に立て籠つて『アナロジスムの詩』の樹立に向つた。不幸その創作半ばで君は肺患のために倒れた。がその新しき詩論はとりもなほさず君の新しき宇宙觀であり、そこに立脚する詩の創造である。アルス・ポエチカといふ語が單なる詩の技法を示すのでなく詩人の宇宙觀を示す意味に往古から使はれてゐる如く君のアルス・ポエチカも又單なる詩のテクノロジー以外の大きな背景から發足してゐる。それを回顧することは決して今日の詩を語るものにとつて徒爾でないばかりか偉大な明目を豫知すべき示唆となるものである。
 それのみでない、君の熱意そのものの力づよさは何ものにも増して今日の吾らが周園に最も缺如してゐるものの一つであることを暗示しないか。君は君の肉體のために若き生涯を滅したが君の熟意はそのままに今日の吾らに強力なマグネツトの如き力を感じさす。
 新時代よ! それは決して無爲にして到來しない。あの全身をもつてぶつ突かつた君の詩に謝する熱意こそ即ち君の人生に對する重要な意志表示ではなかつたか。かかるが散にその詩業が今日の吾等に預言的動力を持つて働きかけるのではないか。君の詩業が君の最も親しかつた友人逹によつて一册の詩集に纒められる歡びを地下の君と分つ日の來たことはただその歡びのためのみでない、もつと大きい意義ある生活への回顧であり、進展である意味に於てこの詩集が多くの知己を有つであらうことを私は確信するものである。君の非凡な知能と才華があの輝かしい新詩形を吾らに示したことについては此の詩集を一度でも手にとる電のは容易に首肯出來ることである。私はそのことがもつとも重大な使命を今日に於て有つてゐることを特にここに切言しておきたいのである。
  一九三一年四月
            川路柳虹
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