「二つの思惑」(2012/04/26 (木) 23:37:50) の最新版変更点
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*二つの思惑 ◆Tgv.obtSQA
雪原の片隅、山岳地帯の麓にその教会はひっそりと佇んでいた。
夜だというのに教会がほのかに明るく照らされているのは、周りにそっと積もった雪が月の光を反射しているからだ。
その雪の絨毯の上に、教会の入口から一人分の足跡が伸びている。良く見れば足跡の向く先は教会で、実際は雪原の真ん中で突然足跡が発生し教会へと伸びているのだった。
その教会の中、聖堂に並ぶ古めかしい長椅子の側に、足跡を残した張本人、ラルクはいた。
月光が差し込む教会の中は、深夜だというのにほんのり明るく、その神秘性と荘厳さを高めている。
「剣か」
床にデイバックを置き、中身を確かめていたラルクは、一振りの剣をデイバックから抜き出した。差し込む月明かりに照らされ、研ぎ澄まされた刃がキラリと輝く。
その剣の腹には何か文字が掘り込まれており、柄には穴が開いている。そこには何か宝石の類でも嵌まっていたのだろう。
ラルクが使い慣れている武器は剣ではなく斧だが、それでもこの剣は武器として十分役に立つだろう。
次にデイバックから取り出されたのは参加者の名簿だった。ずらりと並んだ文字列を上から順に目で追っていく。
静かに読み上げていた目が止まった。紙を持つ手に少しの力が加わり、クシャリと紙が音を立てた。
「シエラ……お前も居るのか」
そこに描かれた名はシエラ。知恵のドラゴンの紅一点ヴァディスのドラグーンであり、今のラルクとは敵対関係にある姉の名前。
ラルクがキュウビに呼び集められたのは、紅き堕帝ティアマットのドラグーンとして知恵のドラゴンを狩り、マナの力を集めている最中の事だった。
その時にもシエラが奇襲を仕掛けてきた事があった。ここでもシエラと出くわしたならば、彼女は秩序を乱す行為を続けてきたラルクを見逃さないだろう。
だが、ラルクはシエラと争うつもりはない。元より、彼女と戦う事はラルクの望む所ではなかった。
シエラは敵対する者ではあるが、それでもやはりラルクにとっては掛け替えのない、敬愛する姉なのだ。
今、この殺し合いという舞台でラルクの望む事は――姉が無事に解放される事。
その為ならば、ラルクは姉が生き残りになるよう他の命を奪い、自らの命を絶つ事も厭わなった。
しかし、何も自ら命を絶つのは姉への自己犠牲のみから生まれた考えではない。ラルクには一つの打算があった。
キュウビに呼び集められる前、ラルクがティアマットの悪事に加担していたのは、ティアマットの野望を利用して奈落から地上へと復活する為だった。
ラルクがマナパワーを集め、ティアマットがそれを増幅する。そして復活の時、ティアマットと戦い、勝利して地上復活を果たす。
これがキュウビに呼ばれる前、ティアマットのドラグーンとして動いていたラルクの思惑。
元々ラルクは奈落に落ちていた身。この殺し合いで殺され奈落に落ちたところで、こちらに呼ばれる前の状態に戻るだけの話。
シエラが最後の生き残りとなり、無事この殺し合いから解放されればそれでいいのだ。
ふと、決意を固めるラルクの耳にかすかに鳥の羽ばたく羽音が届いた。悟られないように目の端で音のする方を見やれば、カラスが一羽教会の中を飛んでいる。
警戒しているのか、数メートルほど距離を離し、ラルクの背の倍ほどの高さからこちらを伺っているようだ。
だがそれは、ラルクが攻撃を仕掛けるには十分な距離。
殺す相手の位置を確認したラルクの長躯が弾ける様に跳んだ。
不意を討った行動に、宙に浮かぶ黒い影は対応できていない。
カラスとの距離が狭まる。斧を振るう時の様に、手にした剣を大きく振りかぶった。
ようやく、カラスが慌てた様子で翼を動かし始めた。だがしかし、回避や逃走をするには遅すぎた。
ラルクの体重を乗せられた剣が、その小さな黒い影に真っ直ぐ振り下ろされた。
聖堂に響いた音は、カラスの断末魔でもなく血が滴る音でもでもない。まるで金属同士がぶつかりあったかのような、キィンッという甲高い音だった。
剣を持つラルクの顔が驚愕に染まり、そして焦りが湧き上がる。完全な不意打ちではなかったとはいえ渾身の一撃であった攻撃を、いとも簡単に受け止められたのだ。
さらに、今ラルクは宙にいて、防御も回避もままならない。この状態でなんらかの攻撃を受ければ、十分致命傷になりうる。
重力に引かれラルクは落ちてゆく。焦燥感のせいか、落ちる速度がひどくゆっくりに感じた。
そして、ラルクは何事もなく床に着地した。
攻撃を仕掛けた以上、反撃をしてくると考えていたが、何故かカラスは攻撃を仕掛けて来なかった。
あの一撃を受けきるほどの力を持っていたのだ、自由落下するラルクを攻撃できなかったとは思えない。
不可解に思い見上げれば、カラスは先ほどより高い位置の窓枠に止まってラルクを見下ろしている。
「パンドラの箱の封印を破ることの出来る剣も、聖なる者の魂と宝石がなければ何も切れぬか……」
ラルクの剣を一瞥しカラス呟いた。まるで顎に手を当てるように、嘴に翼を添えた姿が妙に人間臭い。
「何の話だ?」
「その剣は武器としては使い物にならんということじゃよ」
パタパタと何度か翼を開く動作をしてカラスが答えた。どうやらカラスはこの剣の事を知っているらしい。
もし、カラスの言う事が本当であれば、大したぬか喜びだ。最初からハズレであるよりもタチが悪い。
内心舌打ちしつつも、カラスのいるその高さを確認する。決して低くはないが、壁を使えば届かない高さではない。
――剣が使いものにならないならば、素手で殺せばいい話だ。
「おまえは……この殺し合いに乗るつもりかのう?」
ラルクの殺意を知ってか知らずかカラスは尋ねる。
答える必要はない。足に力を加えると、じり、と靴と床が擦れる音がした。
「無論、ワシは乗るつもりはない。ワシの娘がおるからというのもあるが、それ以上にこのような行いに意味があるとは到底思えぬからのう」
もっとも殺し合いに乗ってもすぐに脱落するのがオチじゃろうしのう、とカラスが冗談めいた。
――このカラスが自分の娘の存在を明らかにしたのは、我々は似た者同士だとでも思っているのだろうが、実際は違う。
カラスは自分の娘を殺してまで殺し合いに乗るつもりはないと言いたいようだが、ラルクは姉を生き残らせたい為に殺し合いに乗るのだ。
「……シエラというのは、おまえの親しい者か?」
「!!」
その言葉に、再び跳躍しようとしたラルクの身体が強張った。
「やはりそうか。すまんのう……盗み聞きするわけではなかったのだが、聞こえてしまったのでな」
パタパタと羽を動かしてカラスが謝罪し、その首を天井へ向ける。
「石とドームで作られた教会は、非常に音が響きやすい……これは説法や賛美歌、楽器の音を美しく響かせるためなのじゃろう。この教会も、本来ならば美しい音色が響いていたのかもしれん」
そう話すカラスの言葉は、現に程よく聖堂内に響いている。これだけ音が響くのならば、あるいはあの呟きもカラスの耳に届いたのかもしれない。
カラスが見上げていた視線をゆっくりラルクに戻す。一拍置いて、再び口を開いた。
「……親しい者を手にかけてまで、おまえは生き残るつもりでいるのか?」
「生き残るつもりはない」
初めてラルクが返した言葉に、カラスが眉を顰める。
「何じゃと?」
「俺はシエラが生き残り、無事元の場所に戻れるなら……それで構わん」
無意識に、剣を持つ手に力が入る。そうか、とカラスが目を細めた。
「しかし、この殺し合いに勝ち残ったとして、あのキュウビという輩がただで帰すとは到底思えぬ……おそらく、利用されるだけ利用された挙句、奴に始末されるじゃろう」
キュウビの手に掛かり、姉が殺される――カラスの言葉に、そんな不吉なイメージが脳裏を過ぎった。
視界がぐらりと揺れる。考えるより先に、言葉が出た。
「奴は願いを何でも叶えると言った!」
「それはおそらく殺し合いに扇動させる為の嘘じゃ。扇動させるのは欲の深いものだけでない。友人、恋人、家族……大切な何かを失った者を闘いに促す為ののう。そうした手を使う者達を……ワシは良く知っておる」
忌まわしそうに語るカラスの顔に、怒りや苦しみの表情が浮かんだ。それを飲み込んで、カラスが続ける。
「いかなる理由があったとしても、殺し合いに乗ってしまえばキュウビの思う壺じゃ。おまえが殺戮を好むわけでないならば、殺し合いに乗って誰かを生き残らせるよりも、互いに協力し合いあやつを討つ事を考えるべきじゃろう」
諭すように言って、窓の向こうを覗く。月は先ほどより少し西に傾いただろうが、夜はまだまだ続くだろう。
「この争いに連れてこられた者の中には、あの白い狼のようにキュウビに反抗する者も少なくないじゃろう。ワシはそうした者たちを呼び集め、協力し合おうと考えておる」
そしてカラスは視線を戻す。真摯な目で、じっとラルクを見据える。
「おまえも、奴を討つ為に協力してくれぬじゃろうか?」
それはつまり、共にキュウビに反旗を翻そうという事。おそらく、これがカラスがラルクに接触した目的。
殺し合いに乗らず、またここで死に絶えるつもりがないのならば、自然キュウビを討つ考えが浮かび上がるだろう。
しかし、キュウビが最初に見せた力は並大抵のものではない。となれば、一人よりも徒党を組み立ち向かうべきだというのはラルクにもわかる。
――だが、ラルクは答えを返せない。
……おそらくシエラはキュウビに反抗する。ヴァディスのドラグーンとして、世界の秩序を守る者として恥じぬように。
そして、キュウビを倒す為に協力を求められれば、それに答えるに違いない。
協力者として自分が動けば、必ず何時か彼女と会う事になるだろう。
例えこの場で殺し合いに乗らなくとも、ラルクが知恵のドラゴン達と敵対している事に変わりはない。
一時休戦という形で手を取り合えるかもしれないが、取り合うのはお互いの手でなく武器であるかもしれないのだ。
殺し合いに乗れば、姉がキュウビに殺されるかもしれない。
キュウビに歯向かい徒党を組めば、敬愛し敵対している姉との邂逅は免れない。
どちらを選んでも、リスクがある。だからこそ、どちらを選ぶにも躊躇いが生まれる。
決断できずにいるラルクの姿をしばらくカラスは見つめていたが、やがて目を伏せた。
「……そうじゃのう、この首輪の事もある、今すぐには決められぬか」
シエラが彼の姉であり敵であるという、複雑な関係を知らないカラスが、その首に掛けられた戒めを翼で撫でて呟いた。
「ワシは他の参加者を探しに行く。奥の部屋にワシの分の荷物がある、あれはおまえが持っていくと良い」
この姿では荷物全部を持ち運ぶ事もままならんくてのう、と翼を開いて苦笑いした。
「別れる前に名前だけは名乗っておこうかのう。ワシの名はオーボウ……おまえは?」
カラスが飛び立とうと身構え、首をラルクに向け、尋ねた。
「……ラルク」
ラルクか、とオーボウと名乗ったカラスが頷く。
「お互いが死なずにいれば、また会うこともあるじゃろう。今度は突然斬りかかられずに会える事を祈っておるよ」
そうしてオーボウは飛び立った。空を切り扉の隙間を器用に通り、教会に羽ばたく音を残して見えなくなる。
残されたラルクは、未だ進むべき道を選べず、ただただ聖堂に響く翼の音を聞いていた。
【ラルク@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】健康
【装備】伝説の剣@ハーメルン
【道具】:支給品一式、不明支給品0~2(未確認) 、オーボウの支給品(食料、水を除いた支給品一式、不明支給品1~3(未確認))
【思考】
基本:ゲームに乗るかどうか、キュウビに反抗するかどうか揺らいでいる
1:どちらにしてもシエラが無事であってほしい
2:武器が欲しい。出来れば斧
3:シエラとは戦いたくない。そうなる可能性があるので、会うのも避けたい。
※参戦時期はドラグーン編の「群青の守護神」開始より後、「真紅なる竜帝」より前です。
※ここが自分の世界(ファ・ディール)ではないと気付いていません。
※また、死ねば奈落に落ち、自分は元あった状態に戻るだけだと考えています。
※伝説の剣@ハーメルン が武器として使い物にならないことを知りました
【オーボウ@ハーメルンのバイオリン弾き】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】:食料(詳細不明、本人確認済)、水
【思考】
基本:ゲームには乗らない。キュウビに反抗する
1:周囲に同じ志を持つ者がいないか探す
2:オカリナを探す
3:狼(アマテラス)を見つけ、キュウビの情報を得る
※参戦時期は、少なくとも「なんでも斬れる伝説の剣」を知っている20巻以降です。
※自分の制限について把握していません。
【伝説の剣@ハーメルンのバイオリン弾き】
桃カンを開けるという、珍妙な経緯で開発された剣。
ダル・セーニョの王族が守っている宝石(ルビー)に聖なる者の魂を取り込ませたものを剣の柄の穴に入れると、何でも斬り裂く剣になる。
しかし、宝石あるいは聖なる者の魂がなければ、何も斬ることができない(逆に、何をしても斬られる事もないらしい)。
ちなみに、桃カンを開けた時には、聖なるカブトムシの魂を宝石に取り込ませたらしい。
なお、出典自体は18巻。詳しいことが解るのは19巻前後。
*時系列順で読む
Back:[[おさかな天国?]] Next:[[好奇心は身を滅ぼす]]
*投下順で読む
Back:[[おさかな天国?]] Next:[[好奇心は身を滅ぼす]]
|&color(cyan){GAME START}|ラルク|039:[[流れ行くものたち]]||
|&color(cyan){GAME START}|オーボウ|037:[[Night Bird Flying]]||
*二つの思惑 ◆Tgv.obtSQA
雪原の片隅、山岳地帯の麓にその教会はひっそりと佇んでいた。
夜だというのに教会がほのかに明るく照らされているのは、周りにそっと積もった雪が月の光を反射しているからだ。
その雪の絨毯の上に、教会の入口から一人分の足跡が伸びている。良く見れば足跡の向く先は教会で、実際は雪原の真ん中で突然足跡が発生し教会へと伸びているのだった。
その教会の中、聖堂に並ぶ古めかしい長椅子の側に、足跡を残した張本人、ラルクはいた。
月光が差し込む教会の中は、深夜だというのにほんのり明るく、その神秘性と荘厳さを高めている。
「剣か」
床にデイバックを置き、中身を確かめていたラルクは、一振りの剣をデイバックから抜き出した。差し込む月明かりに照らされ、研ぎ澄まされた刃がキラリと輝く。
その剣の腹には何か文字が掘り込まれており、柄には穴が開いている。そこには何か宝石の類でも嵌まっていたのだろう。
ラルクが使い慣れている武器は剣ではなく斧だが、それでもこの剣は武器として十分役に立つだろう。
次にデイバックから取り出されたのは参加者の名簿だった。ずらりと並んだ文字列を上から順に目で追っていく。
静かに読み上げていた目が止まった。紙を持つ手に少しの力が加わり、クシャリと紙が音を立てた。
「シエラ……お前も居るのか」
そこに描かれた名はシエラ。知恵のドラゴンの紅一点ヴァディスのドラグーンであり、今のラルクとは敵対関係にある姉の名前。
ラルクがキュウビに呼び集められたのは、紅き堕帝ティアマットのドラグーンとして知恵のドラゴンを狩り、マナの力を集めている最中の事だった。
その時にもシエラが奇襲を仕掛けてきた事があった。ここでもシエラと出くわしたならば、彼女は秩序を乱す行為を続けてきたラルクを見逃さないだろう。
だが、ラルクはシエラと争うつもりはない。元より、彼女と戦う事はラルクの望む所ではなかった。
シエラは敵対する者ではあるが、それでもやはりラルクにとっては掛け替えのない、敬愛する姉なのだ。
今、この殺し合いという舞台でラルクの望む事は――姉が無事に解放される事。
その為ならば、ラルクは姉が生き残りになるよう他の命を奪い、自らの命を絶つ事も厭わなった。
しかし、何も自ら命を絶つのは姉への自己犠牲のみから生まれた考えではない。ラルクには一つの打算があった。
キュウビに呼び集められる前、ラルクがティアマットの悪事に加担していたのは、ティアマットの野望を利用して奈落から地上へと復活する為だった。
ラルクがマナパワーを集め、ティアマットがそれを増幅する。そして復活の時、ティアマットと戦い、勝利して地上復活を果たす。
これがキュウビに呼ばれる前、ティアマットのドラグーンとして動いていたラルクの思惑。
元々ラルクは奈落に落ちていた身。この殺し合いで殺され奈落に落ちたところで、こちらに呼ばれる前の状態に戻るだけの話。
シエラが最後の生き残りとなり、無事この殺し合いから解放されればそれでいいのだ。
ふと、決意を固めるラルクの耳にかすかに鳥の羽ばたく羽音が届いた。悟られないように目の端で音のする方を見やれば、カラスが一羽教会の中を飛んでいる。
警戒しているのか、数メートルほど距離を離し、ラルクの背の倍ほどの高さからこちらを伺っているようだ。
だがそれは、ラルクが攻撃を仕掛けるには十分な距離。
殺す相手の位置を確認したラルクの長躯が弾ける様に跳んだ。
不意を討った行動に、宙に浮かぶ黒い影は対応できていない。
カラスとの距離が狭まる。斧を振るう時の様に、手にした剣を大きく振りかぶった。
ようやく、カラスが慌てた様子で翼を動かし始めた。だがしかし、回避や逃走をするには遅すぎた。
ラルクの体重を乗せられた剣が、その小さな黒い影に真っ直ぐ振り下ろされた。
聖堂に響いた音は、カラスの断末魔でもなく血が滴る音でもでもない。まるで金属同士がぶつかりあったかのような、キィンッという甲高い音だった。
剣を持つラルクの顔が驚愕に染まり、そして焦りが湧き上がる。完全な不意打ちではなかったとはいえ渾身の一撃であった攻撃を、いとも簡単に受け止められたのだ。
さらに、今ラルクは宙にいて、防御も回避もままならない。この状態でなんらかの攻撃を受ければ、十分致命傷になりうる。
重力に引かれラルクは落ちてゆく。焦燥感のせいか、落ちる速度がひどくゆっくりに感じた。
そして、ラルクは何事もなく床に着地した。
攻撃を仕掛けた以上、反撃をしてくると考えていたが、何故かカラスは攻撃を仕掛けて来なかった。
あの一撃を受けきるほどの力を持っていたのだ、自由落下するラルクを攻撃できなかったとは思えない。
不可解に思い見上げれば、カラスは先ほどより高い位置の窓枠に止まってラルクを見下ろしている。
「パンドラの箱の封印を破ることの出来る剣も、聖なる者の魂と宝石がなければ何も切れぬか……」
ラルクの剣を一瞥しカラス呟いた。まるで顎に手を当てるように、嘴に翼を添えた姿が妙に人間臭い。
「何の話だ?」
「その剣は武器としては使い物にならんということじゃよ」
パタパタと何度か翼を開く動作をしてカラスが答えた。どうやらカラスはこの剣の事を知っているらしい。
もし、カラスの言う事が本当であれば、大したぬか喜びだ。最初からハズレであるよりもタチが悪い。
内心舌打ちしつつも、カラスのいるその高さを確認する。決して低くはないが、壁を使えば届かない高さではない。
――剣が使いものにならないならば、素手で殺せばいい話だ。
「おまえは……この殺し合いに乗るつもりかのう?」
ラルクの殺意を知ってか知らずかカラスは尋ねる。
答える必要はない。足に力を加えると、じり、と靴と床が擦れる音がした。
「無論、ワシは乗るつもりはない。ワシの娘がおるからというのもあるが、それ以上にこのような行いに意味があるとは到底思えぬからのう」
もっとも殺し合いに乗ってもすぐに脱落するのがオチじゃろうしのう、とカラスが冗談めいた。
――このカラスが自分の娘の存在を明らかにしたのは、我々は似た者同士だとでも思っているのだろうが、実際は違う。
カラスは自分の娘を殺してまで殺し合いに乗るつもりはないと言いたいようだが、ラルクは姉を生き残らせたい為に殺し合いに乗るのだ。
「……シエラというのは、おまえの親しい者か?」
「!!」
その言葉に、再び跳躍しようとしたラルクの身体が強張った。
「やはりそうか。すまんのう……盗み聞きするわけではなかったのだが、聞こえてしまったのでな」
パタパタと羽を動かしてカラスが謝罪し、その首を天井へ向ける。
「石とドームで作られた教会は、非常に音が響きやすい……これは説法や賛美歌、楽器の音を美しく響かせるためなのじゃろう。この教会も、本来ならば美しい音色が響いていたのかもしれん」
そう話すカラスの言葉は、現に程よく聖堂内に響いている。これだけ音が響くのならば、あるいはあの呟きもカラスの耳に届いたのかもしれない。
カラスが見上げていた視線をゆっくりラルクに戻す。一拍置いて、再び口を開いた。
「……親しい者を手にかけてまで、おまえは生き残るつもりでいるのか?」
「生き残るつもりはない」
初めてラルクが返した言葉に、カラスが眉を顰める。
「何じゃと?」
「俺はシエラが生き残り、無事元の場所に戻れるなら……それで構わん」
無意識に、剣を持つ手に力が入る。そうか、とカラスが目を細めた。
「しかし、この殺し合いに勝ち残ったとして、あのキュウビという輩がただで帰すとは到底思えぬ……おそらく、利用されるだけ利用された挙句、奴に始末されるじゃろう」
キュウビの手に掛かり、姉が殺される――カラスの言葉に、そんな不吉なイメージが脳裏を過ぎった。
視界がぐらりと揺れる。考えるより先に、言葉が出た。
「奴は願いを何でも叶えると言った!」
「それはおそらく殺し合いに扇動させる為の嘘じゃ。扇動させるのは欲の深いものだけでない。友人、恋人、家族……大切な何かを失った者を闘いに促す為ののう。そうした手を使う者達を……ワシは良く知っておる」
忌まわしそうに語るカラスの顔に、怒りや苦しみの表情が浮かんだ。それを飲み込んで、カラスが続ける。
「いかなる理由があったとしても、殺し合いに乗ってしまえばキュウビの思う壺じゃ。おまえが殺戮を好むわけでないならば、殺し合いに乗って誰かを生き残らせるよりも、互いに協力し合いあやつを討つ事を考えるべきじゃろう」
諭すように言って、窓の向こうを覗く。月は先ほどより少し西に傾いただろうが、夜はまだまだ続くだろう。
「この争いに連れてこられた者の中には、あの白い狼のようにキュウビに反抗する者も少なくないじゃろう。ワシはそうした者たちを呼び集め、協力し合おうと考えておる」
そしてカラスは視線を戻す。真摯な目で、じっとラルクを見据える。
「おまえも、奴を討つ為に協力してくれぬじゃろうか?」
それはつまり、共にキュウビに反旗を翻そうという事。おそらく、これがカラスがラルクに接触した目的。
殺し合いに乗らず、またここで死に絶えるつもりがないのならば、自然キュウビを討つ考えが浮かび上がるだろう。
しかし、キュウビが最初に見せた力は並大抵のものではない。となれば、一人よりも徒党を組み立ち向かうべきだというのはラルクにもわかる。
――だが、ラルクは答えを返せない。
……おそらくシエラはキュウビに反抗する。ヴァディスのドラグーンとして、世界の秩序を守る者として恥じぬように。
そして、キュウビを倒す為に協力を求められれば、それに答えるに違いない。
協力者として自分が動けば、必ず何時か彼女と会う事になるだろう。
例えこの場で殺し合いに乗らなくとも、ラルクが知恵のドラゴン達と敵対している事に変わりはない。
一時休戦という形で手を取り合えるかもしれないが、取り合うのはお互いの手でなく武器であるかもしれないのだ。
殺し合いに乗れば、姉がキュウビに殺されるかもしれない。
キュウビに歯向かい徒党を組めば、敬愛し敵対している姉との邂逅は免れない。
どちらを選んでも、リスクがある。だからこそ、どちらを選ぶにも躊躇いが生まれる。
決断できずにいるラルクの姿をしばらくカラスは見つめていたが、やがて目を伏せた。
「……そうじゃのう、この首輪の事もある、今すぐには決められぬか」
シエラが彼の姉であり敵であるという、複雑な関係を知らないカラスが、その首に掛けられた戒めを翼で撫でて呟いた。
「ワシは他の参加者を探しに行く。奥の部屋にワシの分の荷物がある、あれはおまえが持っていくと良い」
この姿では荷物全部を持ち運ぶ事もままならんくてのう、と翼を開いて苦笑いした。
「別れる前に名前だけは名乗っておこうかのう。ワシの名はオーボウ……おまえは?」
カラスが飛び立とうと身構え、首をラルクに向け、尋ねた。
「……ラルク」
ラルクか、とオーボウと名乗ったカラスが頷く。
「お互いが死なずにいれば、また会うこともあるじゃろう。今度は突然斬りかかられずに会える事を祈っておるよ」
そうしてオーボウは飛び立った。空を切り扉の隙間を器用に通り、教会に羽ばたく音を残して見えなくなる。
残されたラルクは、未だ進むべき道を選べず、ただただ聖堂に響く翼の音を聞いていた。
【ラルク@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】健康
【装備】伝説の剣@ハーメルン
【道具】:支給品一式、不明支給品0~2(未確認) 、オーボウの支給品(食料、水を除いた支給品一式、不明支給品1~3(未確認))
【思考】
基本:ゲームに乗るかどうか、キュウビに反抗するかどうか揺らいでいる
1:どちらにしてもシエラが無事であってほしい
2:武器が欲しい。出来れば斧
3:シエラとは戦いたくない。そうなる可能性があるので、会うのも避けたい。
※参戦時期はドラグーン編の「群青の守護神」開始より後、「真紅なる竜帝」より前です。
※ここが自分の世界(ファ・ディール)ではないと気付いていません。
※また、死ねば奈落に落ち、自分は元あった状態に戻るだけだと考えています。
※伝説の剣@ハーメルン が武器として使い物にならないことを知りました
【オーボウ@ハーメルンのバイオリン弾き】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】:食料(詳細不明、本人確認済)、水
【思考】
基本:ゲームには乗らない。キュウビに反抗する
1:周囲に同じ志を持つ者がいないか探す
2:オカリナを探す
3:狼(アマテラス)を見つけ、キュウビの情報を得る
※参戦時期は、少なくとも「なんでも斬れる伝説の剣」を知っている20巻以降です。
※自分の制限について把握していません。
【伝説の剣@ハーメルンのバイオリン弾き】
桃カンを開けるという、珍妙な経緯で開発された剣。
ダル・セーニョの王族が守っている宝石(ルビー)に聖なる者の魂を取り込ませたものを剣の柄の穴に入れると、何でも斬り裂く剣になる。
しかし、宝石あるいは聖なる者の魂がなければ、何も斬ることができない(逆に、何をしても斬られる事もないらしい)。
ちなみに、桃カンを開けた時には、聖なるカブトムシの魂を宝石に取り込ませたらしい。
なお、出典自体は18巻。詳しいことが解るのは19巻前後。
*時系列順で読む
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*投下順で読む
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