「命ゆくもの」(2009/09/16 (水) 16:12:59) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*命ゆくもの ◆TPKO6O3QOM
墓標の間を縫う血生臭い風の中に、山鳴りのような声が混じった。哀惜に満ちた咆哮は朔風の中で寸断され、墓場を通り過ぎる頃には風声にすっかり紛れてしまった。
墓地近くの草叢に首のない骸が二つ転がっている。その内の一つの腹部に、白虎が甘えるように鼻を押し付けていた。
「おばーちゃん……おばーちゃん……」
ムックルは同じ声を何度も何度も繰り返した。顔を腹部に擦り付けるが、何も応えてくれない。ムックルと呼んではくれない。それはそうだ。モロの頭は身体から遠く離れた所にあるのだから。
寄り添ってくれることも、遊んでくれることも、何かを教えてくれることもない。
さっきまで厳しくも力強く包んでくれていた温もりは、もうどこにもなかった。
ムックルはモロの胴体からそっと鼻を離した。
彼はまた独りぼっちになった。か細く鳴くが、それはすぐに蒼穹へと吸い込まれてしまう。
“母”のときのように、新たな保護者は近くにはいない。尻尾が不安にしな垂れ、身体も一回り小さくなったように見える。
鼻をぴすぴすと鳴らしながら、ムックルは首を回した。先ほど仕留めた、白い猿のような獣の死体と、その胴に食らいついたままのモロの首が目に入る。
モロを殺した仇。しかし、憎いという感情は浮かばなかった。これがまだ生きていれば別だったかもしれないが、もうこれはただの骸だ。拘る理由は何処にもない。
すぐに興味を失い、顔を動かした。その拍子に、風で飛んできた粉塵が目に入る。
「うぅ〜」
呻きながら前足で顔を擦っていると、ぐぅと腹の虫が鳴いた。
「おなか、すいた……」
つぶやく。そう意思表示さえすれば、母か、母の姉が食べ物を用意してくれた。足りない時は、母が食べ物の詰まった小屋に案内してくれた。この地に来ても、モロが干し肉を持って来てくれた。
だが、今は誰もいない。自分で食糧を調達しなくてはならない。一先ず袋を咥えて振り回し、入れて貰った食料を出してみる。がちゃがちゃと音を立て、“食べ物”が地面に転がった。その音にムックルの耳がそわと翻る。
臭いを嗅いでみるが、肉の臭いはしてこない。試しに舐めてみると、良く分からない味がした。
(これ、おいしくない)
食べる前に何かしろと言われた気がするが、なんだったか忘れてしまった。前足で缶詰を弾き飛ばす。缶詰が飛んだ先で、がさと草叢が音を立てた。
不満げに唸るムックルの目に、猿もどきの骸が再度目に入る。ほんの少しばかり渋ったが、結局食欲に負けてムックルは死骸に歩み寄った。
前足で軽く蹴り付けると、首のない死体の腕が力なく広がった。拍子にモロの顎が胴から外れ、草の上に落ちた。圧迫から解放されたからか、猿もどきの死体の傷口から粘り気をおびた血液が少量飛び散った。
血の臭いに触発されて、ムックルは前足の一撃で鎧を叩き壊してから、その腹部に食らいついた。血と共に新鮮な肉の味が一気に広がる。ぶちぶちという音を立てて肉を食い千切り、丸呑みする。
一口で、猿もどきの死体は背骨が露わになった。零れ出た腸が牙に引っ掛かかり、ずるりと音を立てて地面に落ちる。
次は胸肉だ。邪魔な鎧を爪で払い除ける。その際に白い肌に赤い爪痕が刻まれ、血が少量垂れた。そこに牙を突き立てる。
肋骨は飴細工のように粉々に噛み砕かれ、その奥に仕舞われていた肺と心臓を一口に納まった。口の中で肉塊が弾け、溢れた血がムックルの口腔から毀れて血の斑を作る。
右腕を肩から引き千切りながら、ムックルは考える。飛び散った血が、ムックルに赤い縞を描いていた。
モロは、彼が母の元へ帰るために他者を狩ることを否定しなかった。また、彼に牙剥くものは全て母の敵とも言った。
この二つを合わせると、彼が母の元に帰ることを邪魔するものは、母の敵と見ていいということだろうか。
きっとそうだとムックルは結論付けた。
母の元に帰るのに一番の近道は何か。
最初に考えた通り、目に付く全ての獣を食い殺すことだ。ツネ次郎も風雲再起も殺す。そうすれば、あの狐は自分の願いを叶えてくれる。
(おかーさんのとこ、帰るっ!)
モロが死に、母への思慕はより一層強いものとなっていた。その想いの大波にツネ次郎と風雲再起のことは呑込まれて沈んでしまっていた。
モロの教えを反芻する。風向きに気を払って行動し、獲物を捕捉したら気配を消して忍び寄る。間合いを詰めたら、隙が生まれるまで草叢の中で待ち、獲物が隙を見せたら迷いなく飛び掛かり、一撃の元に仕留める。
相手が格上であっても、首をやられて生きていられるものなどいない。そして、ムックルの体重のかかった一撃に耐えられるものもまた――いない。
瞬く間に猿もどきの胴体はムックルの胃の中に消え、鎧の残骸と血だまりだけが残された。
ムックルは?気を一つし、大きく伸びをする。
行く先を変えた風が獣の臭いを運んできた。それを嗅ぎ取ったムックルは、ゆったりとした動作で草叢から出た。墓場に足を踏み入れると、墓石が密集している場所を選び、そこに身を潜めた。
獲物の動向は風が知らせてくれる。
それにあたりは血の臭いが立ち込めている。自分の臭いもそれにまぎれ、目立たないはずだ。血に引き寄せられる獣もいることだろう。
独りぼっちの幼獣は、ひたすらに獲物を待つ。胸裏に母の温もりを求めながら――。
【E-3/墓場/一日目/朝】
【ムックル@うたわれるもの】
【状態】:全身にダメージ(小)、精神的疲労(大)、母への強い思慕、顔や前足が血まみれ
【装備】:鋼鉄の牙@ドラゴンクエスト5
【道具】:なし
【思考】
基本:殺し合いに乗る。
1:風などから情報を得ながら、墓場で近づく動物を待ち構える。
2:来ないようなら、場所を移動する。
【備考】
※ムックルの参戦時期はアニメ第5話で、食料庫に盗み食いに入る直前です。
※ツネ次郎に懐きました。缶詰をツネ次郎がくれたものだと勘違いしたため。
※風雲再起に苦手意識を持っています。
※モロから一連の狩りの仕方(気配の殺し方等)を教わっています。
※E-3北部にムックルのデイバック、支給品一式、缶詰×10が散らばっています
※ミュウツーの死体は頭部以外ムックルに食べられました。
※E-3北部と周辺に血の臭いが漂っています。
*時系列順で読む
Back:[[乱暴者タヌキは今日も行く]] Next:[[へんたいトリロジー ~爪とヒマワリの章~]]
*投下順で読む
Back:[[在りし日の夢は散り散りに毀れる]] Next:[[へんたいトリロジー ~爪とヒマワリの章~]]
|060:[[残すものは言葉だけとは限らず]]|ムックル|:[[]]|
*命ゆくもの ◆TPKO6O3QOM
墓標の間を縫う血生臭い風の中に、山鳴りのような声が混じった。哀惜に満ちた咆哮は朔風の中で寸断され、墓場を通り過ぎる頃には風声にすっかり紛れてしまった。
墓地近くの草叢に首のない骸が二つ転がっている。その内の一つの腹部に、白虎が甘えるように鼻を押し付けていた。
「おばーちゃん……おばーちゃん……」
ムックルは同じ声を何度も何度も繰り返した。顔を腹部に擦り付けるが、何も応えてくれない。ムックルと呼んではくれない。それはそうだ。モロの頭は身体から遠く離れた所にあるのだから。
寄り添ってくれることも、遊んでくれることも、何かを教えてくれることもない。
さっきまで厳しくも力強く包んでくれていた温もりは、もうどこにもなかった。
ムックルはモロの胴体からそっと鼻を離した。
彼はまた独りぼっちになった。か細く鳴くが、それはすぐに蒼穹へと吸い込まれてしまう。
“母”のときのように、新たな保護者は近くにはいない。尻尾が不安にしな垂れ、身体も一回り小さくなったように見える。
鼻をぴすぴすと鳴らしながら、ムックルは首を回した。先ほど仕留めた、白い猿のような獣の死体と、その胴に食らいついたままのモロの首が目に入る。
モロを殺した仇。しかし、憎いという感情は浮かばなかった。これがまだ生きていれば別だったかもしれないが、もうこれはただの骸だ。拘る理由は何処にもない。
すぐに興味を失い、顔を動かした。その拍子に、風で飛んできた粉塵が目に入る。
「うぅ〜」
呻きながら前足で顔を擦っていると、ぐぅと腹の虫が鳴いた。
「おなか、すいた……」
つぶやく。そう意思表示さえすれば、母か、母の姉が食べ物を用意してくれた。足りない時は、母が食べ物の詰まった小屋に案内してくれた。この地に来ても、モロが干し肉を持って来てくれた。
だが、今は誰もいない。自分で食糧を調達しなくてはならない。一先ず袋を咥えて振り回し、入れて貰った食料を出してみる。がちゃがちゃと音を立て、“食べ物”が地面に転がった。その音にムックルの耳がそわと翻る。
臭いを嗅いでみるが、肉の臭いはしてこない。試しに舐めてみると、良く分からない味がした。
(これ、おいしくない)
食べる前に何かしろと言われた気がするが、なんだったか忘れてしまった。前足で缶詰を弾き飛ばす。缶詰が飛んだ先で、がさと草叢が音を立てた。
不満げに唸るムックルの目に、猿もどきの骸が再度目に入る。ほんの少しばかり渋ったが、結局食欲に負けてムックルは死骸に歩み寄った。
前足で軽く蹴り付けると、首のない死体の腕が力なく広がった。拍子にモロの顎が胴から外れ、草の上に落ちた。圧迫から解放されたからか、猿もどきの死体の傷口から粘り気をおびた血液が少量飛び散った。
血の臭いに触発されて、ムックルは前足の一撃で鎧を叩き壊してから、その腹部に食らいついた。血と共に新鮮な肉の味が一気に広がる。ぶちぶちという音を立てて肉を食い千切り、丸呑みする。
一口で、猿もどきの死体は背骨が露わになった。零れ出た腸が牙に引っ掛かかり、ずるりと音を立てて地面に落ちる。
次は胸肉だ。邪魔な鎧を爪で払い除ける。その際に白い肌に赤い爪痕が刻まれ、血が少量垂れた。そこに牙を突き立てる。
肋骨は飴細工のように粉々に噛み砕かれ、その奥に仕舞われていた肺と心臓を一口に納まった。口の中で肉塊が弾け、溢れた血がムックルの口腔から毀れて血の斑を作る。
右腕を肩から引き千切りながら、ムックルは考える。飛び散った血が、ムックルに赤い縞を描いていた。
モロは、彼が母の元へ帰るために他者を狩ることを否定しなかった。また、彼に牙剥くものは全て母の敵とも言った。
この二つを合わせると、彼が母の元に帰ることを邪魔するものは、母の敵と見ていいということだろうか。
きっとそうだとムックルは結論付けた。
母の元に帰るのに一番の近道は何か。
最初に考えた通り、目に付く全ての獣を食い殺すことだ。ツネ次郎も風雲再起も殺す。そうすれば、あの狐は自分の願いを叶えてくれる。
(おかーさんのとこ、帰るっ!)
モロが死に、母への思慕はより一層強いものとなっていた。その想いの大波にツネ次郎と風雲再起のことは呑込まれて沈んでしまっていた。
モロの教えを反芻する。風向きに気を払って行動し、獲物を捕捉したら気配を消して忍び寄る。間合いを詰めたら、隙が生まれるまで草叢の中で待ち、獲物が隙を見せたら迷いなく飛び掛かり、一撃の元に仕留める。
相手が格上であっても、首をやられて生きていられるものなどいない。そして、ムックルの体重のかかった一撃に耐えられるものもまた――いない。
瞬く間に猿もどきの胴体はムックルの胃の中に消え、鎧の残骸と血だまりだけが残された。
ムックルは?気を一つし、大きく伸びをする。
行く先を変えた風が獣の臭いを運んできた。それを嗅ぎ取ったムックルは、ゆったりとした動作で草叢から出た。墓場に足を踏み入れると、墓石が密集している場所を選び、そこに身を潜めた。
獲物の動向は風が知らせてくれる。
それにあたりは血の臭いが立ち込めている。自分の臭いもそれにまぎれ、目立たないはずだ。血に引き寄せられる獣もいることだろう。
独りぼっちの幼獣は、ひたすらに獲物を待つ。胸裏に母の温もりを求めながら――。
【E-3/墓場/一日目/朝】
【ムックル@うたわれるもの】
【状態】:全身にダメージ(小)、精神的疲労(大)、母への強い思慕、顔や前足が血まみれ
【装備】:鋼鉄の牙@ドラゴンクエスト5
【道具】:なし
【思考】
基本:殺し合いに乗る。
1:風などから情報を得ながら、墓場で近づく動物を待ち構える。
2:来ないようなら、場所を移動する。
【備考】
※ムックルの参戦時期はアニメ第5話で、食料庫に盗み食いに入る直前です。
※ツネ次郎に懐きました。缶詰をツネ次郎がくれたものだと勘違いしたため。
※風雲再起に苦手意識を持っています。
※モロから一連の狩りの仕方(気配の殺し方等)を教わっています。
※E-3北部にムックルのデイバック、支給品一式、缶詰×10が散らばっています
※ミュウツーの死体は頭部以外ムックルに食べられました。
※E-3北部と周辺に血の臭いが漂っています。
*時系列順で読む
Back:[[乱暴者タヌキは今日も行く]] Next:[[へんたいトリロジー ~爪とヒマワリの章~]]
*投下順で読む
Back:[[在りし日の夢は散り散りに毀れる]] Next:[[へんたいトリロジー ~爪とヒマワリの章~]]
|060:[[残すものは言葉だけとは限らず]]|ムックル|071:[[Dances with the Goddess]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: