「罪穢れの澱みを着せて」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「罪穢れの澱みを着せて」(2010/05/06 (木) 17:23:52) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*罪穢れの澱みを着せて ◆TPKO6O3QOM
(一)
太陽が昇り、月の光で冷えていた空気が温もりを取り戻してきた。そよぐ風を長い耳に受けながら、てゐは跳ねる様な足取りで道を進んでいた。
「“幻想郷”……、そんな土地の話は初めて聞きましたよ。てゐさんのお話は実に興味深い」
「てゐでいいわよ。しゃっちこばられると、こっちが肩凝るし」
肩に乗ったユーノと名乗る鼬を目の隅に捉えながら、てゐは気さくな風を装って笑った。
道中、てゐに興味を示したらしいユーノに、暇つぶしにと“幻想郷”の世界ことを少し教えてあげたのだが、それが彼の好奇心に火を付けてしまったらしい。
質問攻めにされ、少々面倒とは思ったものの知っている限りのことを虚実織り交ぜて教えてやると彼は面白いように丸呑みしてしまう。
ユーノもまた妖怪の類のはずだが、“幻想郷”を耳にしたこともないというのは多少疑問に思う。人間ですら知っている者がいるというのに。
てゐら二人から少し離れて、ギロロという赤い達磨のような妖怪が付いてくる。彼の鋭い眼が、時折てゐを貫くのを彼女は感じ取っていた。
ギロロは自分を信用していない。
それはそれでいい。少なくともユーノは彼女を疑ってはいないし、何より彼らと長く居るつもりはないのだ。無理に疑いを晴らすことはないだろう。
やがて、街並みが見えてきた。“幻想郷”と比べれば、酷く虚ろな生命力の途絶えた通りが北へと続いている。まだ墓地の方が生気を感じ取れるというものだ。
「大丈夫だよ。てゐのことは、ギロロさんが守ってくれる。僕も、囮ぐらいにはなれるしね」
てゐが立ち止ったのを、慄きによるものを勘違いしたのだろう。ユーノが優しく語りかけてくる。振り返れば、ギロロは嫌そうな顔でもしているだろうか。
てゐは弱弱しく頷いてみせると、通りに足を踏み入れた。
生き物の影は全く見えない。風音だけが耳を通り抜けていく。ぺたぺたと、足裏が路を叩いていく音だけが響く。
『さて、素晴らしい闇の時から忌々しい日の出を迎えることになったが……』
突然、吹き荒ぶ凶風のような声が通りに響き渡った――。
(二)
ふんふんと地面の匂いを嗅ぎながら先頭を歩いていた銀がふと立ち止まった。
駅へ向かっているうちに、カエルたちは大通りへと出ていた。軒を連ねる店舗に嵌められた窓硝子が、互いを虚構の世界に映しこんでいる。
彼の記憶にある“街”の風景とは、一つにも似ていない。敢えて言うならば、ロボの居た、クロノたちの時代よりも更に遠い時代の景色に多少似たものを感じ取れるだろうか。
それに、破壊痕はないものの、人の居ない荒廃した空気には近しいものがある。
さて、前方で立ち止った銀に顔を突き合わせたグレッグルが頬を膨らませた。それに対し、銀の耳や尻尾が小刻みに揺れる。何事か会話しているのだろう。銀はしきりに頭を左右に傾げ、ふんふんと小さく鼻を鳴らしている。
加わろうにも、こっちからの一方的な情報しか発信できないのだから仕方ない。ただ、銀の尻尾の張りつめた様子から何かしらの変化を感じ取ったらしい。
辺りを見渡していると、何処からか、キュウビの禍々しい声音が流れてきた。銀の感じた変化はこれのことだったのだろうか。
手始めに、キュウビは魔法を用いて禁止区域の説明の補足を始めた。
グレッグルと銀は、突然の暗闇にこそ驚いた様子だったが、内容には興味を持たなかったようだ。後々重要になるだろうと、カエルはとりあえず地図に印だけは付けておく。
『この六時間で目出度く殺され、喰われた畜生の名を呼ぶとするか』
キュウビがこう続けても、二匹は気にせずにどんどんと先へ進んでいく。グレッグルには連れがいたはずだが、絶対に死んでいないという確信でもあるのか――単に薄情なだけか。
キュウビは名前を告げていく。あの畜生がヒグマの大将と呼び挙げたときだ。銀が弾かれたように天を見上げ、悲鳴のような声を上げた。愕然とした表情で、髭がぴんと立っている。
狂ったように、銀はその場で回りながらわふわふと鳴いていた。それをグレッグルがはたき倒す。痛みで多少落ち着いたのか、銀は尻尾と耳を垂らし、くぅんと弱々しく鳴いた。
と、南東の空が一瞬明るくなり、爆音が響いた。
「あの鳥が居た方角だな……」
思わず漏らした言葉に、グレッグルが頷いた。グレッグルは銀の背中をぽんぽんと叩き、カエルに顎でしゃくって見せた。光った方へ向かおうとでも言いたげな面持ちだ。
「見に行くのか? たしかに、ただ駅に向かうよりは誰かに遭遇はしそうだが」
そう独りごちると、グレッグルは馬鹿にしたように小さく鳴いた。グレッグルは単に好奇心からなのだろう。
グレッグルは気だるげな歩調で店舗と店舗の間の細い路地に、こちらを振り向くことなく入っていく。当然付いてくるものと思っているらしい。
とりあえず、グレッグルの知り合いの名前は呼ばれなかったようだ。それを確認しておけば十分だろう。
カエルは一つ嘆息すると、まだ呆けた様子の銀を抱きかかえてグレッグルの後を追った。
路地を抜け、銀を下ろしてやる。先行していたグレッグルは道の真ん中を東に歩いていた。東の空の光はもう消えていて、薄い青空が広がっている。
足元の銀の耳がぴくと動き、おもむろに西に鼻を向けた。何かを嗅ぎつけたのか、ひくひくと鼻を蠢かしている。
釣られてカエルも首を動かした。背中にグレッグルの不満げな声がかかったが無視する。ようやく二人が付いてこないことに気づいたらしい。
しばし銀の見つめている先を眺めていると、曲がり角から二つの人影が歩いてきた。
桃色の衣を着た女の子と、その後ろに恐竜人を思わせる赤い肌の異人の二人組だ。遠目だが、女の子の髪の毛からウサギの耳のようなものが覗いている。
向こうも気づいたのだろう、歩みが止まっている。
銀が少し嬉しそうに尻尾を振り、二つ三つ吠えた。他人と組んでいるからといって殺し合いに乗っていないとは限らないのだが。
爪が路面を叩き、銀が彼女らに駆け寄ろうとしたとき――。
「あの犬よ! ヒグマさんを殺したのは!」
女の子が悲鳴のような大声を上げた。
(三)
てゐの言葉にギロロは訝しげな表情を刻んだ。
「てゐ、あの犬が銀で間違いないのか?」
爆音を追って来て遭遇したカエル型の異星人――異界人といった方がいいのかもしれないが――と日本犬、そしてカエル型の生物。見た目こそ怪しいが、危険な臭いはしない。
それは軍人として積んできたキャリア故の勘のようなものだ。土壇場以外でそれを信じきることもまた、愚行ではあるが、少なくとも彼らに敵意はない。犬の方は激しく吠えたてているが、雷に怯えたときのようなものだ。ただ戸惑っている。
(やはりケロン人はカエルなどとは一つも似ていないではないか。ああいうのをカエルというのだああいうのを)
内心唸っていると、てゐが憤然と振り返った。
「間違いないって! 出会い頭に名乗ってきたでしょう!?」
「そ、そうか……。いや、俺は犬の言葉は分からなくてな……」
告げると、てゐはきょとんとした表情を浮かべた。
「僕にも、わんわんとしか……」
「……そっか。貴方たちには分からないんだ」
てゐの肩の上のユーノにも言われ、てゐは顔を伏せて小さくつぶやいた。伊達にウサ耳ではないらしい。
しかし、とギロロは胸中で独白する。
ユーノの胆力は大したものだ。戦友の死を知らされた時もさして取り乱すこともなく、今も状況の変化についていき対応しようとしている。
軍人としては当然の対応だが、中々どうして出来ることではない。ただ、ギロロには彼女が無理をしていることが分かっている。それゆえに、少し痛々しく感じる。
てゐの慰めも多少効果はあったのか。そういう意味では、彼女の存在はありがたかったと言えるかもしれない。
完全に警戒を解いたわけではないが、てゐに対して、ある程度は安心していい相手という評価をするようになっていた。
「そこのお二人さん。貴方たちは彼が何をしたか知っていて、行動を共にしているわけ?」
びょうびょうという吠え声を無視して、てゐはカエル男とカエルに話しかけた。
「そう言われてもな。連れの言葉が何も分からないんでね」
こちらに聞こえるよう、カエル男が大声で答えると、カエルはそれを横目に三回ほど頬を膨らませた。カエル男の方は、犬とカエルとの会話ができないらしい。それで行動を共にしているのだから、彼らに何か相通じるもの――漢気とかそういう類のものを感じ取ったのだろう。
カエルに何か言われたのだろうか。てゐはカエルを一睨みすると、さっきから吠え続けている犬に目を向けた。
「銀さん。そこまで言うなら、貴方の話を聞くわ。ただ、二人っきりで。彼らにはあなたの言葉は通じないみたいだし」
そう言って、てゐは互いの中間ほどの位置にある喫茶店を指差した。その提案に犬は嬉しそうに尻尾を振る。
「いいのかい? そんな提案をして。それも二人きりだなんて、危険すぎる」
「これだけ人目があるんだし、彼も下手なことは起こさないでしょ。まあ、あっちの二人がグルでない保証はないんだけど」
肩に乗ったユーノを地面に下ろしながら、てゐは微笑んだ。
「それに、危なくなったら貴方が助けてくれるんでしょ?」
上目づかいで、てゐはギロロを見やった。
あの犬の様子からして、少なくとも故意にヒグマを殺した可能性は著しく低いと思われる。それが演技だという証もないのだが。
一先ず、てゐに了承してやる。
てゐは踵を返し、犬とともに喫茶店の中へと入って行った。
ガトリングガンの引き金に指を添えながら、二人が出てくるのを待つ。
「この間に向こうの方たちと情報交換だけでもしておいた方がよくありませんか?」
肩によじ登ったユーノを一瞥し、ギロロは首を横に振った。
「まだ敵でない確信が得られていない。万が一を甘く見れば、次の放送とやらで名前を呼ばれるのは俺たちだ。てゐが出てきてからでも遅くはない」
言いながら、カエル男たちを見やる。彼らは縁石に腰を下ろしていた。こちらを気にしてはいるようだが、歩み寄ってこようとはしない。カエルの方はこっちに全く興味を示してないようにも見えるが、何分カエルの顔というものは感情を読み取りにくい。
「………………」
黙ってしまったユーノを目にし、幾許かの罪悪感を覚えたが、現状でベストの選択には変わりない。死神は天地開闢以来の性差廃絶主義者なのだから。
それに、カエル男の方は、佇まいからして相当なキャリアを積んだ戦士だとわかる。敵として、戦場では出会いたくない類の人間だ。あの剣が抜かれたら、ガトリング一挺で対処しきれるかどうか――。
と、俄かにてゐたちが入って行った喫茶店が騒がしくなった。激しい吠え声が聞こえ、何かを争うような物音が断続的に聞こえる。悲鳴のようなものも混じっていた。
カエル男たちも、その変化に腰を浮かせた。
ばんと音を立てて扉が開け放たれ、てゐが転がり出てきた。
「た、たすけ――!」
その背中目掛けて、暴悪な吠え声を立てながら犬が襲い掛かる。先程とは表情が一変していた。鼻面にしわを寄せ、牙をむき出しにした犬は殺気に満ち溢れている。
自分は判断を誤っていたのか。
とにもかくにも、万が一が起こってしまった。
「しゃがめ!」
てゐが身を伏せたのを確認するか否かの内に、無意識に銃口は上げられ、何かが繋がった感覚と共に引き金を引く。
激しいマズルフラッシュと共に、轟音が路地に響き渡った。跳ね上がりそうになる砲身を必死に抑え、重心を落として姿勢を保持する。排出された空薬莢がばらばらに飛び散り、アスファルトの上で耳障りな音を奏でた。
その中に、犬の甲高い悲鳴が確かに聞こえた。
混乱しているのか、立ち上がったてゐはギロロたちの脇を駆け抜けて行ってしまった。
「ユー――!」
「ウォータガァッ!」
カエル男の叫びと共に、水の奔流がギロロに襲いかかった。その圧力に弾き飛ばされ、しばしの浮遊感を味わった後でギロロは背中を路面に打ち付けた。衝撃で息が詰まる。そのまま転がり、商店の壁にぶつかって漸く止まった。
致命的な隙を曝してしまった。舌打ちをする間もなく、止めの一撃がギロロに打ち込まれることだろう。
しかし、その一撃は訪れることはなかった。時間からすれば、ほんの数瞬だろう。目を開けると、カエル男とカエルの姿はどこにもない。
すぐ傍でのびていたユーノを拾い上げ、辺りを見渡す。
「てーゐっ!」
呼ぶも返事はない。
また、路上にも犬の姿はない。死体は彼らが持ち去ったのか。そうであるならば、尚更彼らがエゴのままに殺し合いに乗っているとは考えにくい。それはカエル男がギロロに止めを刺すことよりも、犬の回収を優先したことで補完される。
あのとき引き金を引いたのは間違いだったのではないか。その自問に、ギロロは口をゆがませた。
元居た場所に戻れば、アスファルトの上に血痕が残っている。だが、致死量とは程遠い。
「俺が外したというのか……」
愕然として、ギロロは自分の右手を見下ろした。直前、あの犬は回避行動のようなものを取っていたような覚えはある。だが、それを計算に入れていない自分ではない。
「あ、あのてゐさんは……?」
漸くユーノも気がついたらしい。
「分からん。近くにはいないようだ」
「あの人たちは?」
「……逃げられたよ。さて、てゐを探すか」
大きくため息をつき、ギロロは無人の路地を見渡した。
(四)
大通りを二つの影が躍るように駆けて行く。
カエルに抱きかかえられたまま伸びている銀を見上げながら、グレッグルは頬を膨らませた。
「よォ、連中追ってこねェみたいだぜ?」
「………………」
「このまま駅までランデヴーする気かよ? ……ったく、こっちの言葉が通じねェっなァ、面倒で仕方がねェ。あんとき、テメェがあの達磨に止め刺しときゃ、こうして逃げる必要はなかったンじゃねェか? 水鉄砲じゃ、たかが知れてるんだしよ」
受け取り手の居ない毒を零す。銀が目を覚ましてくれなければ、八つ当たりする相手もいない。
そうこうする内に駅前の広場に付いた。ロータリーを抜け、駅舎の中に入る。そうして漸く、カエルは足をとめた。
券売機の前に、彼は銀を横たえた。そして、すぐさま、彼は銀の負傷の確認に移った。
出血は銀の左前足の付け根からだ。しかし、浅い。銃弾は一発だけ、銀の足を掠っただけだったようだ。
カエルがマントを割いて、その傷に巻いていく。それを見ながら、グレッグルは感心したように呟いた。
「……あんだけ撃たれて、足の肉を少し削られたぐらいで済んだのかよ。あのボンクラ、歴史に残るヘボだな。赤ん坊に持たせた方がマシなんじゃねェか?」
あの赤達磨が嵌めていた武器はとても魅力的だったが、あのキュウコンは支給先を間違えたようだ。
「水を探してくる」
「あいよ……しっかし、よく眠ってやがるなァ、おい。ケツに溶けた鉛でも流し込んでやろうか?」
立ち上がったカエルに生返事を返しながら、グレッグルは銀の頬を引っ叩いた。
「おい、何してるんだっ!?」
「気付けだよ、気付け。つか、言葉分かンねェくせに疑問形で喋るんじゃねェよ、ボケ」
三発目で、銀の瞼が動いた。
アーモンド形の瞳が開かれるのを待って、グレッグルはその寝ぼけ眼に笑いかけた。
「惜しかったなあ、旦那。あれか? 発情期か? 見境なしだな。ウサ耳アマの次はドンファンでも襲うのか? ブーバーはやめとけよ。二重の意味でヤケドすっか――」
「あの人間の女――! あの女、言ったんだ! 嗤いながら、あいつ……!」
銀が突然激しく吠えた。いや、自分がウサギ耳の人間を話題に出したからか。
「落ち着きな。さっきも言っただろ? クールに行こうぜ、ボス。激したまンまじゃ回るもんも回らねェ。あのアマがどうしたって? あんたのママでも馬鹿にしたか?」
「あの女だったんだよ。あの女が、大将を殺したんだ! 勝ち誇ったように、あいつがそう言ったんだ」
「ありゃ、人間のメスガキだぜ? あんたが会ったクマってな、手乗りか?」
グレッグルは鼻を鳴らした。リングマは人間の男ですらどうこうできる相手ではない。グレッグルの言葉に、銀は耳を垂らして小さく鳴いた。
「俺が大将に怪我をさせたから、きっとまともに動けなかったんだ……」
「ふぅん。ま、素直にゃ受け取れねェが、この状況であのアマが偽る理由もねェ。どうにかして、大将とやらを殺し、その罪をあんたに着せようって腹なわけだ。中々、太ェガキだな。そうすっと、赤達磨たちもあのアマに妙なこと吹き込まれていたのかもしれねェ」
頭を掻きながら、グレッグルは頬を膨らます。銀は立ち上がると、痛むのか、少し顔を歪ませた。
巻かれた布を口で弄くりながら、訊いてくる。
「……あのてゐっていう人間はどうなったんだ?」
「んー? 逃げたよ。ンで、オレたちはあの赤達磨から逃げてきた。ここはあんたが行きたがってた橋の入り口だ。電車ってもんを待って、それに乗りゃ崖の上まで連れてってくれる」
「……そうか」
「で、どうするよ? クマ公の仇を探すのか。仇のクマ公に会いに行くのか。オレらはどっちも部外者だ。正直、どうでもいい。だから、あんたの判断に任せるよ」
言うと、銀は少し考えて、当初の予定通り行くと答えた。言ってから、彼は溜息のような声を上げた。
「ただ、仲間を増やせなかったのが気がかりだ」
「駄目だったもんは仕方がねェ。それに、こっちの色男が中々面白い飛び道具を持ってやがった。戦術によっちゃ、犬ッころ百匹よりも有効だ」
言いながら、カエルを見やる。彼は、疲れたように外を見ていた。疎外されているのだから仕方ないかもしれないが。一つ鳴くと、カエルがこちらを向いた。
改札口の方を指し、行くぞと伝える。カエルは肩をすくめると、ゆっくり立ち上がった。
「カエルは、俺たちの言葉が分からないんだろ? なのに、どうして付き合ってくれるんだ? 彼にとっての情報は、てゐの言葉だけのはずだ」
改札口に向かいながら、銀が問う。たしかに、銀と言葉を交わせないカエルがまだ付き合っているのは不思議だ。言葉が通じるのだから、向こうに行ってもおかしくなかった。
ただ、真っ先に銀を助けに行ったのもカエルだ。疑問に思うが、知る術はなく、あったとしても訊くのは嫌だ。恥ずかしくて訊けるものではない。
だから――。
「知るかよ」
結局そう吐き捨てて、グレッグルはホームへと向かった。
(五)
使用済みのキメラの翼を握りつぶし、てゐは安堵の吐息をついた。
目の前には、あの小学校がある。
綱渡りのような危うい状況になってしまったが、結果としては構想の通りになった。今頃、ギロロたちとカエルたちは殺し合っていることだろう。
共倒れが一番だが、まあ、それは望みすぎというものか。武器からして、ギロロたちの圧勝と見るべきだろう。
そうなれば、今度はギロロたちがカエルたちと殺し合っていたという情報を流布させようか。少し色を付けて、無抵抗の獣を襲っていたとでも加えた方が効果的かもしれない。
先程の放送では死んだ獣は九匹と言っていた。自分が生き残るには、まだ残りが多すぎる。キュウビの言葉の通り、もっと積極的に殺し合ってほしいものだ。
しかし――と、てゐは笑みを零した。
銀は実に扱いやすかった。彼女が彼の言葉に納得したフリをした途端、同行者のこと、赤カブトという危険な獣こととペラペラと喋ってくれた。最後に、彼女がヒグマの大将を殺したと告げた時の表情も傑作だった。犬というのは、実に表情豊かな獣だと初めて知った。
計算違いとしては、その後、彼が見せた身体能力が犬の域を優に超えていた点か。最初の一撃を避けられたのは偶然に他ならない。実のところ、驚いて転んだだけだ。
喫茶店から脱出し、ギロロが発砲するまでのことを思い出すだけで、未だに冷たい汗が出てくる。
とはいえ、銀は死んだ。死んだ獣のことを考えるのは、もうやめよう。
さて、次はどこへ向かおうか。
【B-4/B‐4駅ホーム/一日目/朝】
【カエル@クロノトリガー】
【状態】:健康、多少の擦り傷、疲労(小)、魔力消費(小)
【装備】:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん
【所持品】:支給品一式、ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5、マッスルドリンコ@真・女神転生
【思考】
基本:キュウビに対抗し、殺し合いと呪法を阻止する
1:グレッグルの動向に従う?
2:赤カブト退治に付き合う?
3:アマテラス、ピカチュウ、ニャースの捜索。
4:撃退手段を思いついた後に深夜に見かけた鳥を倒しに行く。
※グレッグルの様子から、ペット・ショップを危険生物と判断しました。
※銀の様子から赤カブトを危険な生物と判断しました。
※銀がヒグマの大将を殺したというてゐの言葉を聞きました。
※てゐを人間だと思っています。
【グレッグル@ポケットモンスター】
【状態】:健康
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、モンスターボール@ポケットモンスター、しらたま@ポケットモンスター 、シロモクバ一号@ワンピース(多少破損。使用に支障なし)
【思考】
基本:当面はカエルに付き合う。でもできれば面白そうな奴と戦いたい(命は取らない)
1:電車を待ってA-6に移動。
2:赤カブト退治を早くやりたい。
3:カエルにちょっと親近感+連帯感
4:ピカチュウとニャースは一応ピンチに陥っていたら助ける
5:あの玉、どこかで見た気が…
※しらたまについて何か覚えているかもしれません
※銀と情報交換しました
※てゐが暗躍していることを知りました
※放送を真面目に聞いていません。
【銀@銀牙 -流れ星 銀-】
【状態】:使命感、精神的疲労(小)、左前足の付け根に銃創(小)、無念
【装備】:包帯
【所持品】:支給品一式、不明支給品1〜3個(確認済・治療系のものはなし)
【思考】
基本:赤カブトとキュウビを斃す。
1:A-6へ向かう。
2:仲間を集め、軍団を作る。
3:高架橋を渡って赤カブトの元へと赴く
【備考】
※参戦時期は赤カブト編終了直後です。
※ヒグマの大将と情報交換しました。大将の知り合いの性格と特徴を把握しました。グレッグルと情報交換しました
※会場を日本のどこかだと思っています。
※他種の獣の言葉が分かるのは首輪のせいだと考えています。
※小熊(アライグマ)、雌の狼(アルフ)は既に死亡したと考えています。
※放送をまともに聞いていません。
【B-5/商店街/一日目/朝】
【ユーノ・スクライア@リリカルなのはシリーズ】
【状態】健康、びしょ濡れ、悲しみ
【装備】:なし
【道具】:支給品一式、手榴弾(11/12)@ケロロ軍曹、消化器数本
【思考】
基本:打倒主催。
1:てゐの捜索
2:B-4の駅へ向かう。
3:対主催のメンバーを集める。
4:ケロロ、ザフィーラとの合流。
【備考】
※参加者を使い魔か変身魔法を用いた人間だと思っています。
※会場はミッドチルダではないが、そこよりそう遠くない世界だと思っています。
※首輪について
人間化は魔力を流し込むことによって、
結界魔法などは魔力を吸収することによって妨害されています。
※銀、カエル、グレッグルを危険な獣と認識しました。
※東方世界の幻想郷について知りました。しかし、てゐのせいで正確性には欠いています。
【ギロロ伍長@ケロロ軍曹】
【状態】健康、びしょ濡れ、戸惑い
【装備】:ガトリングガン@サイボーグクロちゃん(残り89%)、ベルト@ケロロ軍曹
【道具】:支給品一式、バターナイフ、テーブル、キュービル博物館公式ガイドブック・世界編
【思考】
基本:死ぬ気はさらさらないが、襲ってくるものには容赦しない。
1:てゐの捜索
2:B-4の駅へ向かう。
3:ケロロ、ザフィーラとの合流。
4:てゐに少し違和感
【備考】
※銀、カエル、グレッグルを危険な動物かどうか、判別しかねています。
※ユーノを女と思っています。
【C-4/小学校前/一日目/朝】
【因幡てゐ@東方project】
[状態]:健康
[装備]:なし。
[道具]:支給品一式、きずぐすり×3@ポケットモンスター、ヒョウヘンダケ×3@ぼのぼの、キメラのつばさ×2@DQ5、
エルルゥの毒薬@うたわれるもの(テクヌプイの香煙×5、ネコンの香煙×5、紅皇バチの蜜蝋×5、ケスパゥの香煙×5)、不明支給品0?個(ギロロ、本人確認済)、ニンジン×20
[思考]
基本:参加者の情報を集めて、それを利用して同士討ちさせる。殺し合いに乗っている参加者に対しては協力してもらうか、協力してもらえず、自分より実力が上なら逃げる
1:小学校で一度休憩するか、町とは反対の方向に行って情報を集める
2:参加者に会ったらギロロたちの悪評を広める
3:ぼのぼのと遭遇したらヒョウヘンダケを渡す
【備考】
※銀、赤カブト、カエル、グレッグルの情報を得ました。
※銀、カエル、グレッグルは死んだと思っています。
*時系列順で読む
Back:[[本日の特選素材]] Next:[[朝日と共に去りぬ]]
*投下順で読む
Back:[[本日の特選素材]] Next:[[朝日と共に去りぬ]]
|051:[[白兎は秘かに笑う]]|ギロロ伍長|075:[[異界の車窓から]]|
|051:[[白兎は秘かに笑う]]|ユーノ|075:[[異界の車窓から]]|
|051:[[白兎は秘かに笑う]]|因幡てゐ||
|043:[[蛙は意外と速く走る]]|グレッグル|074:[[熊嵐]]|
|043:[[蛙は意外と速く走る]]|銀|074:[[熊嵐]]|
|043:[[蛙は意外と速く走る]]|カエル|074:[[熊嵐]]|
*罪穢れの澱みを着せて ◆TPKO6O3QOM
(一)
太陽が昇り、月の光で冷えていた空気が温もりを取り戻してきた。そよぐ風を長い耳に受けながら、てゐは跳ねる様な足取りで道を進んでいた。
「“幻想郷”……、そんな土地の話は初めて聞きましたよ。てゐさんのお話は実に興味深い」
「てゐでいいわよ。しゃっちこばられると、こっちが肩凝るし」
肩に乗ったユーノと名乗る鼬を目の隅に捉えながら、てゐは気さくな風を装って笑った。
道中、てゐに興味を示したらしいユーノに、暇つぶしにと“幻想郷”の世界ことを少し教えてあげたのだが、それが彼の好奇心に火を付けてしまったらしい。
質問攻めにされ、少々面倒とは思ったものの知っている限りのことを虚実織り交ぜて教えてやると彼は面白いように丸呑みしてしまう。
ユーノもまた妖怪の類のはずだが、“幻想郷”を耳にしたこともないというのは多少疑問に思う。人間ですら知っている者がいるというのに。
てゐら二人から少し離れて、ギロロという赤い達磨のような妖怪が付いてくる。彼の鋭い眼が、時折てゐを貫くのを彼女は感じ取っていた。
ギロロは自分を信用していない。
それはそれでいい。少なくともユーノは彼女を疑ってはいないし、何より彼らと長く居るつもりはないのだ。無理に疑いを晴らすことはないだろう。
やがて、街並みが見えてきた。“幻想郷”と比べれば、酷く虚ろな生命力の途絶えた通りが北へと続いている。まだ墓地の方が生気を感じ取れるというものだ。
「大丈夫だよ。てゐのことは、ギロロさんが守ってくれる。僕も、囮ぐらいにはなれるしね」
てゐが立ち止ったのを、慄きによるものを勘違いしたのだろう。ユーノが優しく語りかけてくる。振り返れば、ギロロは嫌そうな顔でもしているだろうか。
てゐは弱弱しく頷いてみせると、通りに足を踏み入れた。
生き物の影は全く見えない。風音だけが耳を通り抜けていく。ぺたぺたと、足裏が路を叩いていく音だけが響く。
『さて、素晴らしい闇の時から忌々しい日の出を迎えることになったが……』
突然、吹き荒ぶ凶風のような声が通りに響き渡った――。
(二)
ふんふんと地面の匂いを嗅ぎながら先頭を歩いていた銀がふと立ち止まった。
駅へ向かっているうちに、カエルたちは大通りへと出ていた。軒を連ねる店舗に嵌められた窓硝子が、互いを虚構の世界に映しこんでいる。
彼の記憶にある“街”の風景とは、一つにも似ていない。敢えて言うならば、ロボの居た、クロノたちの時代よりも更に遠い時代の景色に多少似たものを感じ取れるだろうか。
それに、破壊痕はないものの、人の居ない荒廃した空気には近しいものがある。
さて、前方で立ち止った銀に顔を突き合わせたグレッグルが頬を膨らませた。それに対し、銀の耳や尻尾が小刻みに揺れる。何事か会話しているのだろう。銀はしきりに頭を左右に傾げ、ふんふんと小さく鼻を鳴らしている。
加わろうにも、こっちからの一方的な情報しか発信できないのだから仕方ない。ただ、銀の尻尾の張りつめた様子から何かしらの変化を感じ取ったらしい。
辺りを見渡していると、何処からか、キュウビの禍々しい声音が流れてきた。銀の感じた変化はこれのことだったのだろうか。
手始めに、キュウビは魔法を用いて禁止区域の説明の補足を始めた。
グレッグルと銀は、突然の暗闇にこそ驚いた様子だったが、内容には興味を持たなかったようだ。後々重要になるだろうと、カエルはとりあえず地図に印だけは付けておく。
『この六時間で目出度く殺され、喰われた畜生の名を呼ぶとするか』
キュウビがこう続けても、二匹は気にせずにどんどんと先へ進んでいく。グレッグルには連れがいたはずだが、絶対に死んでいないという確信でもあるのか――単に薄情なだけか。
キュウビは名前を告げていく。あの畜生がヒグマの大将と呼び挙げたときだ。銀が弾かれたように天を見上げ、悲鳴のような声を上げた。愕然とした表情で、髭がぴんと立っている。
狂ったように、銀はその場で回りながらわふわふと鳴いていた。それをグレッグルがはたき倒す。痛みで多少落ち着いたのか、銀は尻尾と耳を垂らし、くぅんと弱々しく鳴いた。
と、南東の空が一瞬明るくなり、爆音が響いた。
「あの鳥が居た方角だな……」
思わず漏らした言葉に、グレッグルが頷いた。グレッグルは銀の背中をぽんぽんと叩き、カエルに顎でしゃくって見せた。光った方へ向かおうとでも言いたげな面持ちだ。
「見に行くのか? たしかに、ただ駅に向かうよりは誰かに遭遇はしそうだが」
そう独りごちると、グレッグルは馬鹿にしたように小さく鳴いた。グレッグルは単に好奇心からなのだろう。
グレッグルは気だるげな歩調で店舗と店舗の間の細い路地に、こちらを振り向くことなく入っていく。当然付いてくるものと思っているらしい。
とりあえず、グレッグルの知り合いの名前は呼ばれなかったようだ。それを確認しておけば十分だろう。
カエルは一つ嘆息すると、まだ呆けた様子の銀を抱きかかえてグレッグルの後を追った。
路地を抜け、銀を下ろしてやる。先行していたグレッグルは道の真ん中を東に歩いていた。東の空の光はもう消えていて、薄い青空が広がっている。
足元の銀の耳がぴくと動き、おもむろに西に鼻を向けた。何かを嗅ぎつけたのか、ひくひくと鼻を蠢かしている。
釣られてカエルも首を動かした。背中にグレッグルの不満げな声がかかったが無視する。ようやく二人が付いてこないことに気づいたらしい。
しばし銀の見つめている先を眺めていると、曲がり角から二つの人影が歩いてきた。
桃色の衣を着た女の子と、その後ろに恐竜人を思わせる赤い肌の異人の二人組だ。遠目だが、女の子の髪の毛からウサギの耳のようなものが覗いている。
向こうも気づいたのだろう、歩みが止まっている。
銀が少し嬉しそうに尻尾を振り、二つ三つ吠えた。他人と組んでいるからといって殺し合いに乗っていないとは限らないのだが。
爪が路面を叩き、銀が彼女らに駆け寄ろうとしたとき――。
「あの犬よ! ヒグマさんを殺したのは!」
女の子が悲鳴のような大声を上げた。
(三)
てゐの言葉にギロロは訝しげな表情を刻んだ。
「てゐ、あの犬が銀で間違いないのか?」
爆音を追って来て遭遇したカエル型の異星人――異界人といった方がいいのかもしれないが――と日本犬、そしてカエル型の生物。見た目こそ怪しいが、危険な臭いはしない。
それは軍人として積んできたキャリア故の勘のようなものだ。土壇場以外でそれを信じきることもまた、愚行ではあるが、少なくとも彼らに敵意はない。犬の方は激しく吠えたてているが、雷に怯えたときのようなものだ。ただ戸惑っている。
(やはりケロン人はカエルなどとは一つも似ていないではないか。ああいうのをカエルというのだああいうのを)
内心唸っていると、てゐが憤然と振り返った。
「間違いないって! 出会い頭に名乗ってきたでしょう!?」
「そ、そうか……。いや、俺は犬の言葉は分からなくてな……」
告げると、てゐはきょとんとした表情を浮かべた。
「僕にも、わんわんとしか……」
「……そっか。貴方たちには分からないんだ」
てゐの肩の上のユーノにも言われ、てゐは顔を伏せて小さくつぶやいた。伊達にウサ耳ではないらしい。
しかし、とギロロは胸中で独白する。
ユーノの胆力は大したものだ。戦友の死を知らされた時もさして取り乱すこともなく、今も状況の変化についていき対応しようとしている。
軍人としては当然の対応だが、中々どうして出来ることではない。ただ、ギロロには彼女が無理をしていることが分かっている。それゆえに、少し痛々しく感じる。
てゐの慰めも多少効果はあったのか。そういう意味では、彼女の存在はありがたかったと言えるかもしれない。
完全に警戒を解いたわけではないが、てゐに対して、ある程度は安心していい相手という評価をするようになっていた。
「そこのお二人さん。貴方たちは彼が何をしたか知っていて、行動を共にしているわけ?」
びょうびょうという吠え声を無視して、てゐはカエル男とカエルに話しかけた。
「そう言われてもな。連れの言葉が何も分からないんでね」
こちらに聞こえるよう、カエル男が大声で答えると、カエルはそれを横目に三回ほど頬を膨らませた。カエル男の方は、犬とカエルとの会話ができないらしい。それで行動を共にしているのだから、彼らに何か相通じるもの――漢気とかそういう類のものを感じ取ったのだろう。
カエルに何か言われたのだろうか。てゐはカエルを一睨みすると、さっきから吠え続けている犬に目を向けた。
「銀さん。そこまで言うなら、貴方の話を聞くわ。ただ、二人っきりで。彼らにはあなたの言葉は通じないみたいだし」
そう言って、てゐは互いの中間ほどの位置にある喫茶店を指差した。その提案に犬は嬉しそうに尻尾を振る。
「いいのかい? そんな提案をして。それも二人きりだなんて、危険すぎる」
「これだけ人目があるんだし、彼も下手なことは起こさないでしょ。まあ、あっちの二人がグルでない保証はないんだけど」
肩に乗ったユーノを地面に下ろしながら、てゐは微笑んだ。
「それに、危なくなったら貴方が助けてくれるんでしょ?」
上目づかいで、てゐはギロロを見やった。
あの犬の様子からして、少なくとも故意にヒグマを殺した可能性は著しく低いと思われる。それが演技だという証もないのだが。
一先ず、てゐに了承してやる。
てゐは踵を返し、犬とともに喫茶店の中へと入って行った。
ガトリングガンの引き金に指を添えながら、二人が出てくるのを待つ。
「この間に向こうの方たちと情報交換だけでもしておいた方がよくありませんか?」
肩によじ登ったユーノを一瞥し、ギロロは首を横に振った。
「まだ敵でない確信が得られていない。万が一を甘く見れば、次の放送とやらで名前を呼ばれるのは俺たちだ。てゐが出てきてからでも遅くはない」
言いながら、カエル男たちを見やる。彼らは縁石に腰を下ろしていた。こちらを気にしてはいるようだが、歩み寄ってこようとはしない。カエルの方はこっちに全く興味を示してないようにも見えるが、何分カエルの顔というものは感情を読み取りにくい。
「………………」
黙ってしまったユーノを目にし、幾許かの罪悪感を覚えたが、現状でベストの選択には変わりない。死神は天地開闢以来の性差廃絶主義者なのだから。
それに、カエル男の方は、佇まいからして相当なキャリアを積んだ戦士だとわかる。敵として、戦場では出会いたくない類の人間だ。あの剣が抜かれたら、ガトリング一挺で対処しきれるかどうか――。
と、俄かにてゐたちが入って行った喫茶店が騒がしくなった。激しい吠え声が聞こえ、何かを争うような物音が断続的に聞こえる。悲鳴のようなものも混じっていた。
カエル男たちも、その変化に腰を浮かせた。
ばんと音を立てて扉が開け放たれ、てゐが転がり出てきた。
「た、たすけ――!」
その背中目掛けて、暴悪な吠え声を立てながら犬が襲い掛かる。先程とは表情が一変していた。鼻面にしわを寄せ、牙をむき出しにした犬は殺気に満ち溢れている。
自分は判断を誤っていたのか。
とにもかくにも、万が一が起こってしまった。
「しゃがめ!」
てゐが身を伏せたのを確認するか否かの内に、無意識に銃口は上げられ、何かが繋がった感覚と共に引き金を引く。
激しいマズルフラッシュと共に、轟音が路地に響き渡った。跳ね上がりそうになる砲身を必死に抑え、重心を落として姿勢を保持する。排出された空薬莢がばらばらに飛び散り、アスファルトの上で耳障りな音を奏でた。
その中に、犬の甲高い悲鳴が確かに聞こえた。
混乱しているのか、立ち上がったてゐはギロロたちの脇を駆け抜けて行ってしまった。
「ユー――!」
「ウォータガァッ!」
カエル男の叫びと共に、水の奔流がギロロに襲いかかった。その圧力に弾き飛ばされ、しばしの浮遊感を味わった後でギロロは背中を路面に打ち付けた。衝撃で息が詰まる。そのまま転がり、商店の壁にぶつかって漸く止まった。
致命的な隙を曝してしまった。舌打ちをする間もなく、止めの一撃がギロロに打ち込まれることだろう。
しかし、その一撃は訪れることはなかった。時間からすれば、ほんの数瞬だろう。目を開けると、カエル男とカエルの姿はどこにもない。
すぐ傍でのびていたユーノを拾い上げ、辺りを見渡す。
「てーゐっ!」
呼ぶも返事はない。
また、路上にも犬の姿はない。死体は彼らが持ち去ったのか。そうであるならば、尚更彼らがエゴのままに殺し合いに乗っているとは考えにくい。それはカエル男がギロロに止めを刺すことよりも、犬の回収を優先したことで補完される。
あのとき引き金を引いたのは間違いだったのではないか。その自問に、ギロロは口をゆがませた。
元居た場所に戻れば、アスファルトの上に血痕が残っている。だが、致死量とは程遠い。
「俺が外したというのか……」
愕然として、ギロロは自分の右手を見下ろした。直前、あの犬は回避行動のようなものを取っていたような覚えはある。だが、それを計算に入れていない自分ではない。
「あ、あのてゐさんは……?」
漸くユーノも気がついたらしい。
「分からん。近くにはいないようだ」
「あの人たちは?」
「……逃げられたよ。さて、てゐを探すか」
大きくため息をつき、ギロロは無人の路地を見渡した。
(四)
大通りを二つの影が躍るように駆けて行く。
カエルに抱きかかえられたまま伸びている銀を見上げながら、グレッグルは頬を膨らませた。
「よォ、連中追ってこねェみたいだぜ?」
「………………」
「このまま駅までランデヴーする気かよ? ……ったく、こっちの言葉が通じねェっなァ、面倒で仕方がねェ。あんとき、テメェがあの達磨に止め刺しときゃ、こうして逃げる必要はなかったンじゃねェか? 水鉄砲じゃ、たかが知れてるんだしよ」
受け取り手の居ない毒を零す。銀が目を覚ましてくれなければ、八つ当たりする相手もいない。
そうこうする内に駅前の広場に付いた。ロータリーを抜け、駅舎の中に入る。そうして漸く、カエルは足をとめた。
券売機の前に、彼は銀を横たえた。そして、すぐさま、彼は銀の負傷の確認に移った。
出血は銀の左前足の付け根からだ。しかし、浅い。銃弾は一発だけ、銀の足を掠っただけだったようだ。
カエルがマントを割いて、その傷に巻いていく。それを見ながら、グレッグルは感心したように呟いた。
「……あんだけ撃たれて、足の肉を少し削られたぐらいで済んだのかよ。あのボンクラ、歴史に残るヘボだな。赤ん坊に持たせた方がマシなんじゃねェか?」
あの赤達磨が嵌めていた武器はとても魅力的だったが、あのキュウコンは支給先を間違えたようだ。
「水を探してくる」
「あいよ……しっかし、よく眠ってやがるなァ、おい。ケツに溶けた鉛でも流し込んでやろうか?」
立ち上がったカエルに生返事を返しながら、グレッグルは銀の頬を引っ叩いた。
「おい、何してるんだっ!?」
「気付けだよ、気付け。つか、言葉分かンねェくせに疑問形で喋るんじゃねェよ、ボケ」
三発目で、銀の瞼が動いた。
アーモンド形の瞳が開かれるのを待って、グレッグルはその寝ぼけ眼に笑いかけた。
「惜しかったなあ、旦那。あれか? 発情期か? 見境なしだな。ウサ耳アマの次はドンファンでも襲うのか? ブーバーはやめとけよ。二重の意味でヤケドすっか――」
「あの人間の女――! あの女、言ったんだ! 嗤いながら、あいつ……!」
銀が突然激しく吠えた。いや、自分がウサギ耳の人間を話題に出したからか。
「落ち着きな。さっきも言っただろ? クールに行こうぜ、ボス。激したまンまじゃ回るもんも回らねェ。あのアマがどうしたって? あんたのママでも馬鹿にしたか?」
「あの女だったんだよ。あの女が、大将を殺したんだ! 勝ち誇ったように、あいつがそう言ったんだ」
「ありゃ、人間のメスガキだぜ? あんたが会ったクマってな、手乗りか?」
グレッグルは鼻を鳴らした。リングマは人間の男ですらどうこうできる相手ではない。グレッグルの言葉に、銀は耳を垂らして小さく鳴いた。
「俺が大将に怪我をさせたから、きっとまともに動けなかったんだ……」
「ふぅん。ま、素直にゃ受け取れねェが、この状況であのアマが偽る理由もねェ。どうにかして、大将とやらを殺し、その罪をあんたに着せようって腹なわけだ。中々、太ェガキだな。そうすっと、赤達磨たちもあのアマに妙なこと吹き込まれていたのかもしれねェ」
頭を掻きながら、グレッグルは頬を膨らます。銀は立ち上がると、痛むのか、少し顔を歪ませた。
巻かれた布を口で弄くりながら、訊いてくる。
「……あのてゐっていう人間はどうなったんだ?」
「んー? 逃げたよ。ンで、オレたちはあの赤達磨から逃げてきた。ここはあんたが行きたがってた橋の入り口だ。電車ってもんを待って、それに乗りゃ崖の上まで連れてってくれる」
「……そうか」
「で、どうするよ? クマ公の仇を探すのか。仇のクマ公に会いに行くのか。オレらはどっちも部外者だ。正直、どうでもいい。だから、あんたの判断に任せるよ」
言うと、銀は少し考えて、当初の予定通り行くと答えた。言ってから、彼は溜息のような声を上げた。
「ただ、仲間を増やせなかったのが気がかりだ」
「駄目だったもんは仕方がねェ。それに、こっちの色男が中々面白い飛び道具を持ってやがった。戦術によっちゃ、犬ッころ百匹よりも有効だ」
言いながら、カエルを見やる。彼は、疲れたように外を見ていた。疎外されているのだから仕方ないかもしれないが。一つ鳴くと、カエルがこちらを向いた。
改札口の方を指し、行くぞと伝える。カエルは肩をすくめると、ゆっくり立ち上がった。
「カエルは、俺たちの言葉が分からないんだろ? なのに、どうして付き合ってくれるんだ? 彼にとっての情報は、てゐの言葉だけのはずだ」
改札口に向かいながら、銀が問う。たしかに、銀と言葉を交わせないカエルがまだ付き合っているのは不思議だ。言葉が通じるのだから、向こうに行ってもおかしくなかった。
ただ、真っ先に銀を助けに行ったのもカエルだ。疑問に思うが、知る術はなく、あったとしても訊くのは嫌だ。恥ずかしくて訊けるものではない。
だから――。
「知るかよ」
結局そう吐き捨てて、グレッグルはホームへと向かった。
(五)
使用済みのキメラの翼を握りつぶし、てゐは安堵の吐息をついた。
目の前には、あの小学校がある。
綱渡りのような危うい状況になってしまったが、結果としては構想の通りになった。今頃、ギロロたちとカエルたちは殺し合っていることだろう。
共倒れが一番だが、まあ、それは望みすぎというものか。武器からして、ギロロたちの圧勝と見るべきだろう。
そうなれば、今度はギロロたちがカエルたちと殺し合っていたという情報を流布させようか。少し色を付けて、無抵抗の獣を襲っていたとでも加えた方が効果的かもしれない。
先程の放送では死んだ獣は九匹と言っていた。自分が生き残るには、まだ残りが多すぎる。キュウビの言葉の通り、もっと積極的に殺し合ってほしいものだ。
しかし――と、てゐは笑みを零した。
銀は実に扱いやすかった。彼女が彼の言葉に納得したフリをした途端、同行者のこと、赤カブトという危険な獣こととペラペラと喋ってくれた。最後に、彼女がヒグマの大将を殺したと告げた時の表情も傑作だった。犬というのは、実に表情豊かな獣だと初めて知った。
計算違いとしては、その後、彼が見せた身体能力が犬の域を優に超えていた点か。最初の一撃を避けられたのは偶然に他ならない。実のところ、驚いて転んだだけだ。
喫茶店から脱出し、ギロロが発砲するまでのことを思い出すだけで、未だに冷たい汗が出てくる。
とはいえ、銀は死んだ。死んだ獣のことを考えるのは、もうやめよう。
さて、次はどこへ向かおうか。
【B-4/B‐4駅ホーム/一日目/朝】
【カエル@クロノトリガー】
【状態】:健康、多少の擦り傷、疲労(小)、魔力消費(小)
【装備】:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん
【所持品】:支給品一式、ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5、マッスルドリンコ@真・女神転生
【思考】
基本:キュウビに対抗し、殺し合いと呪法を阻止する
1:グレッグルの動向に従う?
2:赤カブト退治に付き合う?
3:アマテラス、ピカチュウ、ニャースの捜索。
4:撃退手段を思いついた後に深夜に見かけた鳥を倒しに行く。
※グレッグルの様子から、ペット・ショップを危険生物と判断しました。
※銀の様子から赤カブトを危険な生物と判断しました。
※銀がヒグマの大将を殺したというてゐの言葉を聞きました。
※てゐを人間だと思っています。
【グレッグル@ポケットモンスター】
【状態】:健康
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、モンスターボール@ポケットモンスター、しらたま@ポケットモンスター 、シロモクバ一号@ワンピース(多少破損。使用に支障なし)
【思考】
基本:当面はカエルに付き合う。でもできれば面白そうな奴と戦いたい(命は取らない)
1:電車を待ってA-6に移動。
2:赤カブト退治を早くやりたい。
3:カエルにちょっと親近感+連帯感
4:ピカチュウとニャースは一応ピンチに陥っていたら助ける
5:あの玉、どこかで見た気が…
※しらたまについて何か覚えているかもしれません
※銀と情報交換しました
※てゐが暗躍していることを知りました
※放送を真面目に聞いていません。
【銀@銀牙 -流れ星 銀-】
【状態】:使命感、精神的疲労(小)、左前足の付け根に銃創(小)、無念
【装備】:包帯
【所持品】:支給品一式、不明支給品1〜3個(確認済・治療系のものはなし)
【思考】
基本:赤カブトとキュウビを斃す。
1:A-6へ向かう。
2:仲間を集め、軍団を作る。
3:高架橋を渡って赤カブトの元へと赴く
【備考】
※参戦時期は赤カブト編終了直後です。
※ヒグマの大将と情報交換しました。大将の知り合いの性格と特徴を把握しました。グレッグルと情報交換しました
※会場を日本のどこかだと思っています。
※他種の獣の言葉が分かるのは首輪のせいだと考えています。
※小熊(アライグマ)、雌の狼(アルフ)は既に死亡したと考えています。
※放送をまともに聞いていません。
【B-5/商店街/一日目/朝】
【ユーノ・スクライア@リリカルなのはシリーズ】
【状態】健康、びしょ濡れ、悲しみ
【装備】:なし
【道具】:支給品一式、手榴弾(11/12)@ケロロ軍曹、消化器数本
【思考】
基本:打倒主催。
1:てゐの捜索
2:B-4の駅へ向かう。
3:対主催のメンバーを集める。
4:ケロロ、ザフィーラとの合流。
【備考】
※参加者を使い魔か変身魔法を用いた人間だと思っています。
※会場はミッドチルダではないが、そこよりそう遠くない世界だと思っています。
※首輪について
人間化は魔力を流し込むことによって、
結界魔法などは魔力を吸収することによって妨害されています。
※銀、カエル、グレッグルを危険な獣と認識しました。
※東方世界の幻想郷について知りました。しかし、てゐのせいで正確性には欠いています。
【ギロロ伍長@ケロロ軍曹】
【状態】健康、びしょ濡れ、戸惑い
【装備】:ガトリングガン@サイボーグクロちゃん(残り89%)、ベルト@ケロロ軍曹
【道具】:支給品一式、バターナイフ、テーブル、キュービル博物館公式ガイドブック・世界編
【思考】
基本:死ぬ気はさらさらないが、襲ってくるものには容赦しない。
1:てゐの捜索
2:B-4の駅へ向かう。
3:ケロロ、ザフィーラとの合流。
4:てゐに少し違和感
【備考】
※銀、カエル、グレッグルを危険な動物かどうか、判別しかねています。
※ユーノを女と思っています。
【C-4/小学校前/一日目/朝】
【因幡てゐ@東方project】
[状態]:健康
[装備]:なし。
[道具]:支給品一式、きずぐすり×3@ポケットモンスター、ヒョウヘンダケ×3@ぼのぼの、キメラのつばさ×2@DQ5、
エルルゥの毒薬@うたわれるもの(テクヌプイの香煙×5、ネコンの香煙×5、紅皇バチの蜜蝋×5、ケスパゥの香煙×5)、不明支給品0?個(ギロロ、本人確認済)、ニンジン×20
[思考]
基本:参加者の情報を集めて、それを利用して同士討ちさせる。殺し合いに乗っている参加者に対しては協力してもらうか、協力してもらえず、自分より実力が上なら逃げる
1:小学校で一度休憩するか、町とは反対の方向に行って情報を集める
2:参加者に会ったらギロロたちの悪評を広める
3:ぼのぼのと遭遇したらヒョウヘンダケを渡す
【備考】
※銀、赤カブト、カエル、グレッグルの情報を得ました。
※銀、カエル、グレッグルは死んだと思っています。
*時系列順で読む
Back:[[本日の特選素材]] Next:[[朝日と共に去りぬ]]
*投下順で読む
Back:[[本日の特選素材]] Next:[[朝日と共に去りぬ]]
|051:[[白兎は秘かに笑う]]|ギロロ伍長|075:[[異界の車窓から]]|
|051:[[白兎は秘かに笑う]]|ユーノ|075:[[異界の車窓から]]|
|051:[[白兎は秘かに笑う]]|因幡てゐ|088:[[白い兎は歌う]]|
|043:[[蛙は意外と速く走る]]|グレッグル|074:[[熊嵐]]|
|043:[[蛙は意外と速く走る]]|銀|074:[[熊嵐]]|
|043:[[蛙は意外と速く走る]]|カエル|074:[[熊嵐]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: