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「荒れ狂う稲光の――」(2010/08/29 (日) 13:20:08) の最新版変更点
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*荒れ狂う稲光の―― ◆EwVLYtcCbD23
クソッタレ。
チョッパーが立ち止まる。
ピカチュウが手を掴み、チョッパーを引きずる。
チョッパーが手を振り払い、立ち止まる。
再びピカチュウが手を掴み、チョッパーを引きずる。
そしてまたチョッパーが手を振り払い、立ち止まる。
一連の動作を繰り返しながら少しずつ進んでいる。
「チョッパー、行こう」
ピカチュウは、チョッパーを連れて行くことを諦めない。
「立ち止まったって、何も変わらない。
過去に縛られてちゃ、何にも出来ないよ」
どれだけ振り払われようと。
どれだけ拒否されようと。
どれだけ立ち止まろうと。
絶対に、諦めない。
「君の行動次第じゃないのかい? 少なくとも、ぼくは君のことを信じてる。
過去のチョッパーがどういうことをしてきたのか、そんなことはどうでもいいよ。
それが本当なのかどうか知ることは僕には出来ないから」
チョッパーを引きずりながら、ピカチュウは言葉を続ける。
俯いたまま、前を見ようともしないチョッパーを。
その目にの中心に、見据えながら。
「大事なのは、これからのチョッパーなんじゃないかな。
イギーみたいな意地悪な奴はそれでも信じてくれないかもしれない。
でも僕はそうじゃない、さっきも言ったけど僕はチョッパーのことを信じてる。
僕みたいにチョッパーのことを信じてくれる人も、絶対居る」
ピカチュウの目は、揺らぐことはない。
真っ直ぐすぎる視線が、チョッパーへと突き刺さる。
「だから、行こう。
イギーが言ってたことを、違うってことを証明しなくちゃ」
再び、ピカチュウは手を差し伸べる。
弾かれてもいい、もう一度差し出すだけだ。
チョッパーは医者だ。
傷ついた人を治し、その後も癒しを与える役目の存在だ。
だが、彼がこの場に来てから取った行動は違う。
その気は無かったとはいえ、人を傷つけ、その命を奪った。
「医者」の名が聞いて呆れる行動だ。
これではただの「人殺し」と変わりないではないか。
今、ピカチュウが差し出してくれているのは逃げ道だ。
「人殺し」という事実が消えるわけではない。
イギーの言うとおり、これからどんなことをしようと。それだけは消えることはない。
これからどれだけ善人ぶろうが、絶対に消えることはない。
どうだ、それでも自分は。
「人殺し」を「医者」という皮で隠していくのか?
「……分かったよ」
チョッパーは、ピカチュウの小さな手を握り締めた。
ピカチュウの言葉に同意したわけではない。
ハッキリさせたかったのだ。
自分が人殺しなのか、医者なのかを。
本当のことを見極めるために、チョッパーは前へと進むことを選んだ。
チョッパーが前を向き自力で足を進めるようになってから、すっかり忘れていた自己紹介を両者は済ませることにした。
お互いのこと、お互いの仲間、お互いの世界。
チョッパーが話したのは全てではなかった。
人殺しと医者の中間に居る今の自分が、ルフィたちのことを喋る資格などない。
そう思い、自分の過去を掻い摘んで話し、あとは悪魔のみの説明だけに押さえた。
チョッパーが知っている全ての情報ではなかったが、それでもピカチュウが「違う」と認識するには十分のことだった。
「D-4のホテルは……あれかな?」
チョッパーが話し終え、ピカチュウの話も終わりに近づいた頃。
一件の建物が二匹の視界へと入る。
地図の位置から察するに、そこが目当てのホテルと見て間違いないだろう。
「ラクシュンさんを探さなくっちゃ」
ピカチュウはホテルの入り口へと駆けていく、チョッパーも遅れながらピカチュウの後を追う。
入り口のドアをゆっくりと開け、中へと入る。
当然だが、人などいない。
フロントマンを初めとした勤務者はおろか、宿泊客など居るはずもない。
突如、轟音が鳴り響く。
その後、壁が崩れるような音がホテルへと鳴り響く。
楽俊以外、ピカチュウたちはこの建物に居る人物を知らない。
それらの情報から結びつく結論は一つ。
「行こう、チョッパー!」
ここで、戦闘が起こっている。
だとすれば楽俊が巻き込まれているという可能性がかなり高い。
助けなければいけない、その気持ちだけを抱えてピカチュウたちは階段を駆け上る。
根本を覆す、大きなミスにも気がつかないまま。
ほぼ一定周期で鳴り響く音が一段、また一段と駆け上るごとに近づいていく。
加えて地面の揺れまでがピカチュウたちに伝えられていく。
その二つがかみ合った三階にたどり着いた彼等は、意識を集中させる。
鳴り響いく音、伝わる振動、それらからその正体を掴んだとき。
「ピカチュウ、左だ!!」
チョッパーの声と共に、ピカチュウの左の壁が弾け飛ぶ。
「大丈夫かい?!」
「なんとか、ね」
弾けとんだ無数の壁の破片は、ピカチュウを傷つけることはなかった。
チョッパーの声に即座に反応したピカチュウが瞬時にその場を離れたからだ。
電光石火。常人では捕らえきれない速度を瞬間的に出すことができるピカチュウだからこその芸当である。
大きく空いた穴から、一つの影が現れる。
「そんな!!」
その姿を見たピカチュウは、驚きの表情を隠すことが出来ない。
二本足で立つ、大きなネズミの姿。電話で聞いた楽俊の外見そのものだ。
では襲撃主が楽俊だったとすれば、先ほど電話に出たのは誰だったのか?
いや、それとも楽俊の巧妙な罠だったのだろうか?
一瞬の間に、幾つかの思考を走らせる。
しかし、それは襲撃者にとって十分すぎる一瞬だった。
「ぐぃっしゅりぃぃぃやあああああるぁぁぁぁういぃぃぃ!!」
襲い掛かってきた楽俊は、先ほどのピカチュウをも上回りかねない速度で拳を振るった。
しっかりと楽俊を見据えていたチョッパーはそれに反応することが出来たが、思考に気を取られていたピカチュウはその拳に直撃した。
黄色い線が一本、真横に描かれる。
「ピカチュウ!!」
線の行き着いた先には大きな穴があるだけで、ピカチュウの姿は見えない。
すぐにでも助けに行きたかったが楽俊がそれをさせない。
襲い掛かってきた彼に対し、人型変形で応対する。
「がッ……なんて力だ!!」
襲い掛かる楽俊の両腕を掴むが、予想以上の力に圧倒されそうになる。
即座に腕を振り解き、体をすれ違わせるように回避するのがやっとのことだった。
「真っ向勝負じゃ勝てない……」
腕力でぶつかったところで、あの圧倒的な力を前にやられてしまうのがオチだ。
ランブルボールでもあれば、話は別なのだが。無いものに頼っても仕方がない。
一刻も早く決着をつけてこの場から逃げるしかない。
ピカチュウを探すためにも、急がなければいけない。
回避しやすい人獣型へと変形し、楽俊の一撃一撃を確実に避けていく。
パワーとスピードはあるが、技の精度が伴っていない一撃を避けることは難しくはない。
数回にわたり避けた後、楽俊に大きな隙が生まれる。
その隙を逃さずチョッパーは人型へと変形し、渾身の一撃を叩き込む。
一撃を受けてよろめく楽俊に対し、立て続けに大振りの一撃を叩き込んでいく。
この間、楽俊は一切の回避行動を取らなかったのだが。チョッパーにそれを気に留めるだけの余裕などあるはずもない。
数撃目で、楽俊の体がとても大きくよろめき。その無防備な体へと全力の一撃を叩き込む。
初撃の力からは考えられないほど楽俊の体は軽く、全力の一撃を受けて大きく吹き飛んだ。
が、トドメにはなっていない。
吹き飛んだ先の楽俊が起き上がり始めていることを確認し、距離を詰めていく。
そして、拳が届く距離になり。起き上がって間もない楽俊の頬へとその拳を一気に振り抜いた。
「はっきり言ってやる。てめえは絶対に赦されることはねえ」
フラッシュバック。
「他人の命を助けたからって、どうして赦せるんだよ?」
先ほどのイギーの声がチョッパーの脳内へと響く。
「てめえが殺したって言う事実は変えられねえ」
そしてイギーは先ほどとは違う言葉を放ち続ける。
「もう一度言う、てめえはな」
無慈悲に、そこに居るはずのないイギーは。
「殺し屋だよ」
最悪の一言を放った。
ああ、そうだ。
彼がどういう理由で自分達に襲い掛かってきているのかは分からない。
だが、襲い掛かられたからといって。
それに反撃すればどうだ、結果として襲撃者の命を奪うことになればどうだ。
やっぱり立派な「人殺し」じゃないか。
オレは医者だ。
人の命を救わなきゃいけないのに。
「人殺し」じゃいけないのに。
その思考が、進み行く拳を止める。
あの無防備な頭に拳を振りぬけば楽俊とて無事ではいられないだろう。
最悪のケース、楽俊は死ぬ。「人殺し」の完成だ。
そこまで考えたところで、チョッパーの体が大きく吹き飛んだ。
壁を数枚突き破り、チョッパーの体が止まる。
傷だらけになりながらも意識だけはなんとか手放さずに居た。
吹き飛ばされてたどり着いた所には、見覚えのある一匹の姿が。
「ピカ、チュウ! ぶじだ、ったのか!」
「……なんとかね」
一息ついてから、ピカチュウはチョッパーの方へと振向く。
「チョッパー、お願いがあるんだ」
ゆっくりと起き上がったチョッパーに、ピカチュウは立て続けに話しかける。
「僕が聞いたラクシュンさんの外見と、今闘ってるあいつの外見がぴったり一致してるんだ。
もし、あれがラクシュンさんなら、こんなくだらないことをやめてもらわなきゃいけない」
ピカチュウの目は、襲撃者のほうを向いている。
どこか、物悲しさを漂わせながら。
「ぼくに考えがあるんだ、チョッパー。ほんの少しでいい。隙を作ってくれないかな?」
「ピカチュウ……?」
「……あの人がラクシュンさんなら、ぼくはあの人をそのままにしておけない。だから、お願いだ」
ピカチュウが、真っ直ぐにチョッパーを見つめる。
ルフィのようなその真っ直ぐな目に見られては、チョッパーも断ることが出来なかった。
「わかった」
重く、ゆっくりと返事をする。
ありがとう、と小さく呟きピカチュウはチョッパーの後を追うように駆け出した。
再び、楽俊の前に立ちはだかるチョッパー。
標的を見つけた楽俊は、獣のような咆哮を撒き散らしながらチョッパーへと襲い掛かる。
ダメージの所為か、自分自身の動きにキレが無くなっているのが分かる。
ギリギリで避け続けていられるものの、そう長くは続かないだろう。
だが、それでいい。
攻撃を避け続けることで大きな隙が生まれるのは知っている。
一撃、一撃とギリギリで避けるうちに。先ほどと同じように楽俊は大きく耐性を崩す。
はっきりと見える隙が生まれたときだった。
ピカチュウが硬化した尾により神速の一撃を楽俊の脳天に叩き込む。
もちろん、それで気絶するわけではない。
「ありがとう、チョッパー」
ピカチュウの全身から、電気が迸る。
「それと、ごめん」
青白い光と一体となったピカチュウは、チョッパーを穴へ弾き飛ばした後に一直線に楽俊へと駆ける。
「ビィィィィィィ」
弾き飛ばされたチョッパーは思う。
何故ピカチュウは謝ったのか?
そのことを考える時間すら与えてくれず。
「カァァァァァァ」
楽俊へ肉薄したピカチュウは、その胸部を掴み。
力の限りを振り絞る。
「ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
天雷が、ピカチュウの元へと降り注ぐ。
チョッパーの視界が、白一色に染まる。
最後に聞こえたのは雷の轟音と、獣の咆哮だった。
しばらくしてから、目が覚めた。
ホテルはその姿をとどめておらず、天井に大きな穴を開けて半壊していた。
崩壊の中心地、そうピカチュウが雷を呼んだ場所には。
黒焦げの肉塊が、三つ転がっていた。
なぜ? 三つなのか?
ボルテッカーによる電気を帯びた体当たりにより、楽俊の体には強烈な電流が流れ込んだ。
たまらず、楽俊はピカチュウを引き剥がそうとした。
しかし、それこそがピカチュウの狙い。
しがみついたと同時に呼び寄せていた雷を当てることが彼の目的だったのだ。
でんきプレートによって増幅された天の雷はいとも容易く楽俊を黒焦げの肉塊へと変えた。
同時に、二つに引き裂かれたピカチュウの体も黒焦げの肉塊へと変えた。
作戦は成功した。
彼の願いである、楽俊を止めるということは成功したのだ。
彼の、命と引き換えに。
「なんでだよ」
物言わぬ肉塊となったピカチュウを見つめながら、チョッパーは吐き捨てる。
「何で皆そうやって平気で殺せるんだよ!!」
結果はどうあれ、襲撃者はピカチュウの命を奪い。
ピカチュウは襲撃者の命を奪った。
故意でもなんでもない、ある種明確な殺意を持ってやったことだ。
イギーの話に当てはめるなら、二人ともが「人殺し」だ。
「……もうイヤだ」
結局ここに居るのは人殺しだらけだ。
積極的に誰かを殺そうとするもの。
殺されたくないから刃向かい、殺すもの。
どちらに立ったとしても、結局は人殺しじゃないか。
「……誰かを殺す奴が現れるなら、オレが代わりに殺してやる」
だったら、もうこれ以上誰かがそんなコトを背負うぐらいなら。
その全てを、「殺し屋」という汚名を自分ひとりで背負おうじゃないか。
「もう、オレは医者なんかじゃない」
赦される事がないなら、堕ちてやる。
片道切符じゃ、もう戻れない。
だったら、一人でも多く幸せになるために。
オレが、殺す。
死者を告げる放送と共に。
己の手を血に染めることを覚悟したトナカイは。
一本の道を進む。
それは修羅か、道化か。
殺し屋は、自分ひとりでいい。
&color(red){【ピカチュウ@ポケットモンスター 死亡確認】}
&color(red){【残り 23匹】}
※支給品は消し炭になりました。
【D-4/ホテル跡/1日目/正午(放送直前)】
【トニートニー・チョッパー@ONE PIECE】
【状態】重傷(自前の応急処置済み)、自己嫌悪
【装備】なし
【所持品】支給品一式*2 、応急処置用の医療品、担架
【思考】
基本:人殺しを殺す、そうでない人からは逃げる。
1:人殺しを探す。誰かに会えばまずそれから聞く。
2:最終的には――――?
※参戦時期は少なくともフランキーを仲間にしてからです。
※ザフィーラ(名前は知らない)を動物系悪魔の実の能力者と誤解しています。また、自分のせいで海に落ちてしまったと思っています。
※イッスンには気づいていません。剣(グランドリオン)が喋ると思っています。
チョッパーは気がついていない。
彼が立ち去った後。
瓦礫の一つが音を立てて転げ落ちたことを。
チップは、生きている。
【D-4/ホテル跡、瓦礫下/1日目/正午(放送直前)】
【楽俊@十二国記】
【状態】:自我崩壊、全身黒こげ、重傷、再生中、動けない
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考】
基本:見カケタ奴、殺ス
0:再生中
1:誰かを見つけたら問答無用で殺す
【備考】
※一度死んだあとDG細胞に浸食されたため、自我が崩壊しています。
※DG細胞により戦闘力と再生力が強化されています。強化の程度に関しては次回以降の書き手にお任せします。
※楽俊の基本支給品(食料除く)が部屋中に散らかっています。
※D-4ホテルに向け、大きな雷が落ちました。影響を受けホテルは半壊しています。
放送直前に周囲に大きな音が響いたと思われます。
*時系列順で読む
Back:[[GREN~誤解の手記と鍾乳洞~]] Next:[[第二回放送]]
*投下順で読む
Back:[[背なの上のぼの]] Next:[[第二回放送]]
|072:[[赦されざる者]]|ピカチュウ|&color(red){死亡}|
|072:[[赦されざる者]]|トニートニー・チョッパー||
*荒れ狂う稲光の―― ◆EwVLYtcCbD23
クソッタレ。
チョッパーが立ち止まる。
ピカチュウが手を掴み、チョッパーを引きずる。
チョッパーが手を振り払い、立ち止まる。
再びピカチュウが手を掴み、チョッパーを引きずる。
そしてまたチョッパーが手を振り払い、立ち止まる。
一連の動作を繰り返しながら少しずつ進んでいる。
「チョッパー、行こう」
ピカチュウは、チョッパーを連れて行くことを諦めない。
「立ち止まったって、何も変わらない。
過去に縛られてちゃ、何にも出来ないよ」
どれだけ振り払われようと。
どれだけ拒否されようと。
どれだけ立ち止まろうと。
絶対に、諦めない。
「君の行動次第じゃないのかい? 少なくとも、ぼくは君のことを信じてる。
過去のチョッパーがどういうことをしてきたのか、そんなことはどうでもいいよ。
それが本当なのかどうか知ることは僕には出来ないから」
チョッパーを引きずりながら、ピカチュウは言葉を続ける。
俯いたまま、前を見ようともしないチョッパーを。
その目にの中心に、見据えながら。
「大事なのは、これからのチョッパーなんじゃないかな。
イギーみたいな意地悪な奴はそれでも信じてくれないかもしれない。
でも僕はそうじゃない、さっきも言ったけど僕はチョッパーのことを信じてる。
僕みたいにチョッパーのことを信じてくれる人も、絶対居る」
ピカチュウの目は、揺らぐことはない。
真っ直ぐすぎる視線が、チョッパーへと突き刺さる。
「だから、行こう。
イギーが言ってたことを、違うってことを証明しなくちゃ」
再び、ピカチュウは手を差し伸べる。
弾かれてもいい、もう一度差し出すだけだ。
チョッパーは医者だ。
傷ついた人を治し、その後も癒しを与える役目の存在だ。
だが、彼がこの場に来てから取った行動は違う。
その気は無かったとはいえ、人を傷つけ、その命を奪った。
「医者」の名が聞いて呆れる行動だ。
これではただの「人殺し」と変わりないではないか。
今、ピカチュウが差し出してくれているのは逃げ道だ。
「人殺し」という事実が消えるわけではない。
イギーの言うとおり、これからどんなことをしようと。それだけは消えることはない。
これからどれだけ善人ぶろうが、絶対に消えることはない。
どうだ、それでも自分は。
「人殺し」を「医者」という皮で隠していくのか?
「……分かったよ」
チョッパーは、ピカチュウの小さな手を握り締めた。
ピカチュウの言葉に同意したわけではない。
ハッキリさせたかったのだ。
自分が人殺しなのか、医者なのかを。
本当のことを見極めるために、チョッパーは前へと進むことを選んだ。
チョッパーが前を向き自力で足を進めるようになってから、すっかり忘れていた自己紹介を両者は済ませることにした。
お互いのこと、お互いの仲間、お互いの世界。
チョッパーが話したのは全てではなかった。
人殺しと医者の中間に居る今の自分が、ルフィたちのことを喋る資格などない。
そう思い、自分の過去を掻い摘んで話し、あとは悪魔のみの説明だけに押さえた。
チョッパーが知っている全ての情報ではなかったが、それでもピカチュウが「違う」と認識するには十分のことだった。
「D-4のホテルは……あれかな?」
チョッパーが話し終え、ピカチュウの話も終わりに近づいた頃。
一件の建物が二匹の視界へと入る。
地図の位置から察するに、そこが目当てのホテルと見て間違いないだろう。
「ラクシュンさんを探さなくっちゃ」
ピカチュウはホテルの入り口へと駆けていく、チョッパーも遅れながらピカチュウの後を追う。
入り口のドアをゆっくりと開け、中へと入る。
当然だが、人などいない。
フロントマンを初めとした勤務者はおろか、宿泊客など居るはずもない。
突如、轟音が鳴り響く。
その後、壁が崩れるような音がホテルへと鳴り響く。
楽俊以外、ピカチュウたちはこの建物に居る人物を知らない。
それらの情報から結びつく結論は一つ。
「行こう、チョッパー!」
ここで、戦闘が起こっている。
だとすれば楽俊が巻き込まれているという可能性がかなり高い。
助けなければいけない、その気持ちだけを抱えてピカチュウたちは階段を駆け上る。
根本を覆す、大きなミスにも気がつかないまま。
ほぼ一定周期で鳴り響く音が一段、また一段と駆け上るごとに近づいていく。
加えて地面の揺れまでがピカチュウたちに伝えられていく。
その二つがかみ合った三階にたどり着いた彼等は、意識を集中させる。
鳴り響いく音、伝わる振動、それらからその正体を掴んだとき。
「ピカチュウ、左だ!!」
チョッパーの声と共に、ピカチュウの左の壁が弾け飛ぶ。
「大丈夫かい?!」
「なんとか、ね」
弾けとんだ無数の壁の破片は、ピカチュウを傷つけることはなかった。
チョッパーの声に即座に反応したピカチュウが瞬時にその場を離れたからだ。
電光石火。常人では捕らえきれない速度を瞬間的に出すことができるピカチュウだからこその芸当である。
大きく空いた穴から、一つの影が現れる。
「そんな!!」
その姿を見たピカチュウは、驚きの表情を隠すことが出来ない。
二本足で立つ、大きなネズミの姿。電話で聞いた楽俊の外見そのものだ。
では襲撃主が楽俊だったとすれば、先ほど電話に出たのは誰だったのか?
いや、それとも楽俊の巧妙な罠だったのだろうか?
一瞬の間に、幾つかの思考を走らせる。
しかし、それは襲撃者にとって十分すぎる一瞬だった。
「ぐぃっしゅりぃぃぃやあああああるぁぁぁぁういぃぃぃ!!」
襲い掛かってきた楽俊は、先ほどのピカチュウをも上回りかねない速度で拳を振るった。
しっかりと楽俊を見据えていたチョッパーはそれに反応することが出来たが、思考に気を取られていたピカチュウはその拳に直撃した。
黄色い線が一本、真横に描かれる。
「ピカチュウ!!」
線の行き着いた先には大きな穴があるだけで、ピカチュウの姿は見えない。
すぐにでも助けに行きたかったが楽俊がそれをさせない。
襲い掛かってきた彼に対し、人型変形で応対する。
「がッ……なんて力だ!!」
襲い掛かる楽俊の両腕を掴むが、予想以上の力に圧倒されそうになる。
即座に腕を振り解き、体をすれ違わせるように回避するのがやっとのことだった。
「真っ向勝負じゃ勝てない……」
腕力でぶつかったところで、あの圧倒的な力を前にやられてしまうのがオチだ。
ランブルボールでもあれば、話は別なのだが。無いものに頼っても仕方がない。
一刻も早く決着をつけてこの場から逃げるしかない。
ピカチュウを探すためにも、急がなければいけない。
回避しやすい人獣型へと変形し、楽俊の一撃一撃を確実に避けていく。
パワーとスピードはあるが、技の精度が伴っていない一撃を避けることは難しくはない。
数回にわたり避けた後、楽俊に大きな隙が生まれる。
その隙を逃さずチョッパーは人型へと変形し、渾身の一撃を叩き込む。
一撃を受けてよろめく楽俊に対し、立て続けに大振りの一撃を叩き込んでいく。
この間、楽俊は一切の回避行動を取らなかったのだが。チョッパーにそれを気に留めるだけの余裕などあるはずもない。
数撃目で、楽俊の体がとても大きくよろめき。その無防備な体へと全力の一撃を叩き込む。
初撃の力からは考えられないほど楽俊の体は軽く、全力の一撃を受けて大きく吹き飛んだ。
が、トドメにはなっていない。
吹き飛んだ先の楽俊が起き上がり始めていることを確認し、距離を詰めていく。
そして、拳が届く距離になり。起き上がって間もない楽俊の頬へとその拳を一気に振り抜いた。
「はっきり言ってやる。てめえは絶対に赦されることはねえ」
フラッシュバック。
「他人の命を助けたからって、どうして赦せるんだよ?」
先ほどのイギーの声がチョッパーの脳内へと響く。
「てめえが殺したって言う事実は変えられねえ」
そしてイギーは先ほどとは違う言葉を放ち続ける。
「もう一度言う、てめえはな」
無慈悲に、そこに居るはずのないイギーは。
「殺し屋だよ」
最悪の一言を放った。
ああ、そうだ。
彼がどういう理由で自分達に襲い掛かってきているのかは分からない。
だが、襲い掛かられたからといって。
それに反撃すればどうだ、結果として襲撃者の命を奪うことになればどうだ。
やっぱり立派な「人殺し」じゃないか。
オレは医者だ。
人の命を救わなきゃいけないのに。
「人殺し」じゃいけないのに。
その思考が、進み行く拳を止める。
あの無防備な頭に拳を振りぬけば楽俊とて無事ではいられないだろう。
最悪のケース、楽俊は死ぬ。「人殺し」の完成だ。
そこまで考えたところで、チョッパーの体が大きく吹き飛んだ。
壁を数枚突き破り、チョッパーの体が止まる。
傷だらけになりながらも意識だけはなんとか手放さずに居た。
吹き飛ばされてたどり着いた所には、見覚えのある一匹の姿が。
「ピカ、チュウ! ぶじだ、ったのか!」
「……なんとかね」
一息ついてから、ピカチュウはチョッパーの方へと振向く。
「チョッパー、お願いがあるんだ」
ゆっくりと起き上がったチョッパーに、ピカチュウは立て続けに話しかける。
「僕が聞いたラクシュンさんの外見と、今闘ってるあいつの外見がぴったり一致してるんだ。
もし、あれがラクシュンさんなら、こんなくだらないことをやめてもらわなきゃいけない」
ピカチュウの目は、襲撃者のほうを向いている。
どこか、物悲しさを漂わせながら。
「ぼくに考えがあるんだ、チョッパー。ほんの少しでいい。隙を作ってくれないかな?」
「ピカチュウ……?」
「……あの人がラクシュンさんなら、ぼくはあの人をそのままにしておけない。だから、お願いだ」
ピカチュウが、真っ直ぐにチョッパーを見つめる。
ルフィのようなその真っ直ぐな目に見られては、チョッパーも断ることが出来なかった。
「わかった」
重く、ゆっくりと返事をする。
ありがとう、と小さく呟きピカチュウはチョッパーの後を追うように駆け出した。
再び、楽俊の前に立ちはだかるチョッパー。
標的を見つけた楽俊は、獣のような咆哮を撒き散らしながらチョッパーへと襲い掛かる。
ダメージの所為か、自分自身の動きにキレが無くなっているのが分かる。
ギリギリで避け続けていられるものの、そう長くは続かないだろう。
だが、それでいい。
攻撃を避け続けることで大きな隙が生まれるのは知っている。
一撃、一撃とギリギリで避けるうちに。先ほどと同じように楽俊は大きく耐性を崩す。
はっきりと見える隙が生まれたときだった。
ピカチュウが硬化した尾により神速の一撃を楽俊の脳天に叩き込む。
もちろん、それで気絶するわけではない。
「ありがとう、チョッパー」
ピカチュウの全身から、電気が迸る。
「それと、ごめん」
青白い光と一体となったピカチュウは、チョッパーを穴へ弾き飛ばした後に一直線に楽俊へと駆ける。
「ビィィィィィィ」
弾き飛ばされたチョッパーは思う。
何故ピカチュウは謝ったのか?
そのことを考える時間すら与えてくれず。
「カァァァァァァ」
楽俊へ肉薄したピカチュウは、その胸部を掴み。
力の限りを振り絞る。
「ジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!」
天雷が、ピカチュウの元へと降り注ぐ。
チョッパーの視界が、白一色に染まる。
最後に聞こえたのは雷の轟音と、獣の咆哮だった。
しばらくしてから、目が覚めた。
ホテルはその姿をとどめておらず、天井に大きな穴を開けて半壊していた。
崩壊の中心地、そうピカチュウが雷を呼んだ場所には。
黒焦げの肉塊が、三つ転がっていた。
なぜ? 三つなのか?
ボルテッカーによる電気を帯びた体当たりにより、楽俊の体には強烈な電流が流れ込んだ。
たまらず、楽俊はピカチュウを引き剥がそうとした。
しかし、それこそがピカチュウの狙い。
しがみついたと同時に呼び寄せていた雷を当てることが彼の目的だったのだ。
でんきプレートによって増幅された天の雷はいとも容易く楽俊を黒焦げの肉塊へと変えた。
同時に、二つに引き裂かれたピカチュウの体も黒焦げの肉塊へと変えた。
作戦は成功した。
彼の願いである、楽俊を止めるということは成功したのだ。
彼の、命と引き換えに。
「なんでだよ」
物言わぬ肉塊となったピカチュウを見つめながら、チョッパーは吐き捨てる。
「何で皆そうやって平気で殺せるんだよ!!」
結果はどうあれ、襲撃者はピカチュウの命を奪い。
ピカチュウは襲撃者の命を奪った。
故意でもなんでもない、ある種明確な殺意を持ってやったことだ。
イギーの話に当てはめるなら、二人ともが「人殺し」だ。
「……もうイヤだ」
結局ここに居るのは人殺しだらけだ。
積極的に誰かを殺そうとするもの。
殺されたくないから刃向かい、殺すもの。
どちらに立ったとしても、結局は人殺しじゃないか。
「……誰かを殺す奴が現れるなら、オレが代わりに殺してやる」
だったら、もうこれ以上誰かがそんなコトを背負うぐらいなら。
その全てを、「殺し屋」という汚名を自分ひとりで背負おうじゃないか。
「もう、オレは医者なんかじゃない」
赦される事がないなら、堕ちてやる。
片道切符じゃ、もう戻れない。
だったら、一人でも多く幸せになるために。
オレが、殺す。
死者を告げる放送と共に。
己の手を血に染めることを覚悟したトナカイは。
一本の道を進む。
それは修羅か、道化か。
殺し屋は、自分ひとりでいい。
&color(red){【ピカチュウ@ポケットモンスター 死亡確認】}
&color(red){【残り 23匹】}
※支給品は消し炭になりました。
【D-4/ホテル跡/1日目/正午(放送直前)】
【トニートニー・チョッパー@ONE PIECE】
【状態】重傷(自前の応急処置済み)、自己嫌悪
【装備】なし
【所持品】支給品一式*2 、応急処置用の医療品、担架
【思考】
基本:人殺しを殺す、そうでない人からは逃げる。
1:人殺しを探す。誰かに会えばまずそれから聞く。
2:最終的には――――?
※参戦時期は少なくともフランキーを仲間にしてからです。
※ザフィーラ(名前は知らない)を動物系悪魔の実の能力者と誤解しています。また、自分のせいで海に落ちてしまったと思っています。
※イッスンには気づいていません。剣(グランドリオン)が喋ると思っています。
チョッパーは気がついていない。
彼が立ち去った後。
瓦礫の一つが音を立てて転げ落ちたことを。
チップは、生きている。
【D-4/ホテル跡、瓦礫下/1日目/正午(放送直前)】
【楽俊@十二国記】
【状態】:自我崩壊、全身黒こげ、重傷、再生中、動けない
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考】
基本:見カケタ奴、殺ス
0:再生中
1:誰かを見つけたら問答無用で殺す
【備考】
※一度死んだあとDG細胞に浸食されたため、自我が崩壊しています。
※DG細胞により戦闘力と再生力が強化されています。強化の程度に関しては次回以降の書き手にお任せします。
※楽俊の基本支給品(食料除く)が部屋中に散らかっています。
※D-4ホテルに向け、大きな雷が落ちました。影響を受けホテルは半壊しています。
放送直前に周囲に大きな音が響いたと思われます。
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