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「雨の降る昼、いったいどうする」(2011/06/09 (木) 22:02:31) の最新版変更点
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*雨の降る昼、いったいどうする ◆TPKO6O3QOM
キュウビの忌々しい声が聞こえなくなったのを確認して、カエルは横線の引かれた名簿に目を落とした。十五の命が新たに散り、丁度半分の者が命を落としたことになる。あと二十ニの命が消えれば、このふざけた呪法は終わる。
それを面白がっているキュウビの首を討ち落としたい衝動を、カエルは深い吐息と共に抑え込んだ。とはいえ、この地での知り合いの全てを目の前で失った彼にとっては、今回の放送は単なる事実確認以上の意味合いは無かった。他者から比べれば、大分楽な身の上だろう。死者の読み上げが死亡した順番らしいことに気づけたのも、己が精神的に余裕があったためだ。
雨はまだまだ続きそうであった。ただ、雷を伴うような代物ではないらしい。放送の直前、大地を揺るがすような雷音が轟いたが、それ以降は静かなものである。
しかし、だからといって、目的もないのに外出するのは自殺行為でしかない。地下の鍾乳洞の探索も保留せねばならないだろう。水没の危険は勿論のこと、自分の位置が地図で確認できない以上、闇雲に進むことはできない。近くに禁止区域が設けられたのだから尚更だ。
一先ず、カエルは腹ごしらえをすることにした。とはいえ、事前に確認した食料はあまり食が進むような代物ではなかった。しかしながら、贅沢を言っていられる状況でもない。
カエルは数個の硬いパンと共に、蛙の腿肉を香草と一緒に焼いたものを取りだした。今の姿の己にこんなものを与えてくるとは、やはり、あのキュウビの根性は修復不可能なほどにねじくれているようだ。
冷えた油が白く固まっているそれを摘み、食い千切る。
それらとパンを水で流しこんだ時、小屋の扉が音を立てた。軋みと共に扉が引かれ、外の雨音と冷気が小屋の中に入り込んでくる。
骨を投げ捨て、剣の柄に手を掛けたカエルの眼に入ってきたのは、柔らかそうな体毛を雨に濡らした子供の獣だった。毛の脂のせいだろうか。雨に濡れても、獣の体毛は膨らみを保っている。
「こんにちはー。カエルさんはひとりなの?」
子供はカエルの存在に気付くと、円らな瞳を一、二回瞬かせてから、唇毛をふぁさと揺らし、のんびりとした口調で挨拶をしてきた。
子供に続いて入ってきたのは、白い狼だ。幾つか戦闘を繰り広げて来たのか、所々に巻かれた布は泥水に汚れ、後ろ足を引きずっている。最初の場所でキュウビに躍りかかって行った、アマテラスという狼だろう。詳細名簿とやらには白い狼が他にも認められたが、大きさからみて間違いないはずだ。
しかし、だからといって、こちらに無害とは限らない。探していた相手ではあるが、それがこちらに友好的である必然は無い。脳裏に浮かぶのはギロロたちの姿だ。カエルは気付かれないよう重心を僅かに移動させる。
と、アマテラスはその大きな体躯に似合わない、人懐こい動作で尻尾を振って見せた。敵ではないと、安心しろとでも言うように。その間の抜けた表情に気勢を殺がれ、カエルは構えを解いた。
こちらの返事がないことを不思議に思ったのか、子供が首を捻りながら、少し大きな声で同じ言葉を繰り返してきた。聞こえなかったとでも思ったのだろう。こちらが警戒していたことにも気付いていない様子だ。これまで生き残ってきたのが不思議なほどに警戒心がない。よく言えば純真無垢、悪く言えば盆暗だ。
胸中で苦みを掻き消し、カエルは肩を竦めた。
「見ての通りさ。俺は……名前もカエルだ。そっちは?」
「ぼくはぼのぼの。こっちはオオカミさん」
ぼのぼのの言葉にアマテラスが一声咆えた。ぼのぼのはアマテラスの名を言わなかった。アマテラスに言うなとでも釘を刺されているのだろうか。
そのアマテラスはというと、後ろ足の痛々しい傷をぺろぺろと舐めている。
見かねて、カエルはアマテラスにケアルガを掛けた。柔らかい光が身体を包む。
しかし、その身に刻まれた傷は全く治った様子がない。魔法の発動はしたが、その効果は発現していない。
一方で、カエルは不愉快な倦怠感が身体に纏わりつくのを感じていた。思えば、ウォータガを使ったときにも同様の違和感はあったのだ。
どうやら、今の身体は、理由は分からないが、本調子とはいえないようだ。もっとも、魔法の効能がないのは、相手にも問題があるのかもしれないが。
仕方なく、カエルは支給品にあった栄養剤を皿に注いで、アマテラスの前に置いた。気休めではあるが、回復魔法の効果が見込めない以上、体力を回復させるより他に法がない。
液体の臭いに鼻を動かしているアマテラスから目を逸らし、カエルはぼのぼのに向き合った。
「よし、じゃあ、ぼのぼの。休む暇なくて申し訳ないが、幾つか話をしよう。まず、ここまでどうしてきたか、教えてくれ」
ぼのぼのは、いいよ。と頷いた。
「あのね。ぼく、ガッコウに戻ろうとしたんだけど、そうしたら、このオオカミさんと、大きなスナドリネコさんみたいな子がね、喧嘩してたの。それで色々あって、気付いたら崖の上だったんだ。まだ大きなスナドリネコさんは居たから、オオカミさんとここに逃げて来たの」
ぼのぼのは茫洋とした口調で、滔々と喋った。カエルが聞きたかったのはこれまでの経緯なのだが、そうは受け取ってもらえなかったらしい。今の言葉から分かったのは、ぼのぼのとアマテラスが出会って間もないということのみだ。名前を言わなかったのは、単にまだ知らなかっただけのようだ。
質問の仕方を変えるか。しかし、ぼのぼのの様子から、こちらの意図する情報を引き出すのは困難に思えた。簡単な質問から先に片づけて行った方がいいだろう。カエルはデイバッグから詳細名簿を取り出し、床に座ったぼのぼのの前に広げた。
「知り合いや、見たことがある奴はいるか?」
ぼのぼのの告げた者達の中にアライグマが居た。直接は知らないが、ツネ次郎の仲間だった参加者だ。仲の良い友達であったらしく、研究所に墓を作ったことを教えると、ぼのぼのは僅かに表情を曇らせた。変化に乏しいが、それが多分彼なりの哀しみなのだろう。
また、警戒していた因幡てゐという女は、彼に良くしてくれたらしい。意外とここに書かれていることは当てにならないのかもしれない。仮に事実であっても、その者の本質ではない可能性が高いと見た方がいい。
ムックルの項目に警戒とだけ付け加え、カエルはぼのぼのとの情報交換を切り上げた。知り合いを絡めれば、カエルが欲しい情報を引き出せるだろう。ただし、彼は今回の放送で、親しい知り合いを二人失っている。そして、訊き出そうとすれば、否が応にも、その二人に触れることになる。死を知って間もない子供にはきついだろう。
カエルはアマテラスに視線を移した。横になっていたアマテラスは、視線に気づいたか、ぱっと顔を上げた。その深い色の瞳を見つめるが、それでオオカミの思考が伝わってくるわけではない。神様と書かれていたのでひょっとしたらと思ったのだが、そういった便利な能力はないらしい。
貝を石で割り出したぼのぼのに声をかける。
「……ぼのぼの。悪いが、通訳してくれないか? 俺には狼の言葉が分からなくてな」
ぼのぼのは貝を食べるの止め、しばし中空を見つめた後で応えた。
「ぼくもわかんないよ」
「な、なんだと?」
思わぬ返答に、カエルの声は高くなった。ぼのぼのは、ツネ次郎と同じように獣と人の両方の言葉が分かる存在とカエルは考えていたのだが、違うのだろうか。ぼのぼのは続ける。
「初めて会ったときにもアマテラスさんとお話しできなくて、おかしいなあって思ったの。他の皆とはお話できるのに、どうしてなんだろう……?」
彼自身、不思議に思っているようだ。カエルは問いを重ねた。
「……他の、その、なんだ。獣たちとは会話できるものなのか? 熊とか、猪とか」
「できるよー。今だって、カエルさんとお話してるじゃない」
「いや、まあ、それはそうだが……それでも、こいつの言葉は分からんと?」
「うん。……ごはん、食べていい?」
「……ああ。食べるといい。ゆっくりとな」
嘆息を溢し、カエルはアマテラスの前にしゃがみ込んだ。アマテラスは瞳を輝かせている。犬が何か面白いことを期待しているときの、あの瞳だ。
通訳もないとなると、複雑な意思疎通は不可能だし、得られる情報も限られてくる。キュウビが何者であるかなど、最も知りたかった情報をアマテラスから聞くことは出来ないということだ。
可能なのは、知り合いの確認だけか。カエルは詳細名簿を広げ、アマテラスに知り合いが居たら教えてくれ。と伝えた。アマテラスは、最初の頁にあるぼのぼのに対し、一つ吼えた。これが返事らしい。グレッグル同様、こちらの言葉は理解してくれているようだ。
アマテラスの知り合いは、ぼのぼの、アライグマ、ニャース、楽俊、シロ、ムックルだけだった。内、手を組めそうなのはニャースのみだ。
知り合いの確認だけで済んでしまった情報交換に肩を落とし、カエルは名簿を仕舞った。貝を食べ終わって満足げなぼのぼのにアライグマのことを伝えてやる。
「ぼのぼの。アマテラスはアライグマと会ったそうだぞ」
「そうだよ。アマテラスさんと初めて会ったとき、アライグマくんと一緒だったんだよ」
「ん? おまえ、アライグマとは再会できなかったと言っていなかったか?」
「言ったよ。最初の真っ暗い所で別れたあと、アライグマくんとは会えなかったんだよ」
「……そういうことか」
キュウビのデモンストレーションの場で、既にぼのぼのはアマテラスと逢っていたということらしい。もしかすると殺された栗鼠も、ぼのぼのの知り合いだったのかもしれない。それを訊く気にはなれないが。
他にすることはあるだろうか。少々多すぎる荷物を、彼らに譲るくらいであろうか。こちらの情報を明かした所で、彼らには話のタネになる以上の意味はなさそうだ。首を振って、頭を掻く。
ふと、ぼのぼのがアマテラスに語りかけている言葉が耳に入る。
「――ラスさん。ぼく、ガッコウに戻らなくちゃ。多分、あの大きなスナドリネコさんはいないよ。ケロロさん待ってるし、ニンゲンさんが死んじゃうかもしれないし。アマテラスさんも一緒に行こうよ」
ニンゲン――ぼのぼのはそう言った。そのことを考える前にカエルは訊き返していた。
「ぼのぼの! ニンゲンが死ぬってのは、どういうことだ?」
ぼのぼのはきょとんとしながら、ゆったりと答えて来た。
「ガッコウにね、ニンゲンさんがいたんだよ。いたそうな傷がいっぱいあって、ケロロさんがてゐさんを呼んでこいってぼくに言ったの。てゐさんはコヒグマくんのおとうさんの傷も診てくれたんだよ。でも……てゐさん、キツネさんに名前を呼ばれちゃった」
俯いたぼのぼのに、アマテラスが気遣うように鼻を鳴らした。
それを横目に、カエルは思案する。ニンゲンという参加者は居ない。ニンゲンとは、すなわち人間と見て間違いないだろう。この地に、"人間"がいる。それも、名簿にも載っていない存在がだ。
ここから脱出する鍵になるか。それとも、キュウビの罠か。
しかし、足を踏み入れねば両者を判別することすら出来ない。
「ぼのぼの、俺も一緒に行こう。その人間に俺も会ってみたい」
カエルの申し出に、ぼのぼのは二三首を捻った。
「カエルさんは、ケガとか分かるの?」
「まあ、多少はな」
「それじゃあ、カエルさんも一緒に行こう」
言うが早いか、ぼのぼのはアマテラスの背に乗った。アマテラスはカエルへ顔を向けると、一つ吼えた。そして、誘うように尻尾を揺り動かす。
「……乗れっていうのか?」
もう一度、アマテラスが吼える。カエルはデイバッグを抱え、アマテラスの背に跨った。意外にもアマテラスは二人の重みに砕けることなく、雨の中に割としっかりとした足取りで踏み出していった。
【C-6/一日目/日中】
【カエル@クロノトリガー】
【状態】:健康、多少の擦り傷、疲労(小)、魔力消費(小~中)、びしょ濡れ、アマテラスの背の上
【装備】:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、マントなし
【所持品】:支給品一式(食料:パンと蛙の腿肉料理)、ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5、モンスターボール@ポケットモンスター、しらたま@ポケットモンスター 、銀の不明支給品(0~2、確認済)、石火矢の弾丸と火薬の予備×9@もののけ姫 、マハラギストーン×3@真・女神転生if、風雲再起の不明支給品(0~2、確認済)、参加者詳細名簿、ペット・ショップの不明支給品(1~3、確認済)、スピーダー@ポケットモンスター×6、グリンガムのムチ@ドラゴンクエスト5、ユーノのメモ
【思考】
基本:キュウビに対抗し、殺し合いと呪法を阻止する
1:学校へ行く。
2:ニャースの捜索。
3:ギロロにあったら話をつけて誤解を解く。
4:余裕があれば鍾乳洞内を調べる。
※ツネ次郎と情報交換をしました。ぼのぼのとアマテラスの知り合いを把握しています。
※異世界から参加者は集められたという説を知りました。
※参加者は同一世界の違う時間軸から集められたと考えています。
※天容の笛@忍ペンまん丸、しらたま@ポケットモンスターとパルキア@ポケットモンスターの存在を知りました。
※ペット・ショップ、ミュウツー、クロコダイン、クロ、チョッパー、ケットシー、因幡てゐ、ラルク、ムックルを危険ないし要警戒と認識しました。
※ログハウスの下にある鍾乳洞は抜け道のようなものと推測しています。
※死者の読み上げが、死亡した順番であることに気付きました。
※アマテラスがオープニングの時点で意思疎通が出来なかったことを知っています。
※制限に気が付きました。
※回復魔法の効果の発現が遅くなっています。しかし、本人は回復魔法の効果がなくなっているかもと思っています。
【ぼのぼの@ぼのぼの】
[状態]:健康、戸惑い、アマテラスの背の上
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER、貝割り用の石@ぼのぼの、貝×4
[思考]
基本:殺し合いはしない。
1:学校に戻る。
2:てゐについていきシマリスとヒグマの大将が生き返る者の所まで案内してもらうはずだったのに。
3:殺し合いに乗っている者がいたら、このナイフを使ってとめる
[備考]
※アニメ最終話48話後からの参戦です
※支給品の説明書は読んでいません。
※銀に不信感を持ちましたが悩んでいます。
※ケロロ軍曹と情報交換をしました。
※体を洗ったので、血の臭いは殆ど落ちました。
※第一回放送、第二回放送を聞きましたが、あまり理解していません。
※ムックルを危険人物と認識しました。
【アマテラス@大神】
【状態】:全身打撲(中・治療済) 、胴に裂傷(小)、後ろ足に裂傷(中)、体力回復・治癒促進中
【装備】:所々に布が巻かれている。ぼのぼの、カエル
【道具】:なし。
【思考】
基本:打倒キュウビ。絶対に参加者を傷つけるつもりはない。
0:??????
【備考】
※アマテラスの参戦時期は鬼ヶ島突入直前です。そのため、筆しらべの吹雪、迅雷の力は取り戻していません。
※筆しらべの制限に気付いているかもしれません。
※キュウビの目的について、何か勘付いているかもしれません。
※筆しらべ「光明」と「月光」で昼夜を変えることはできないようです。
※筆しらべ「桜花」で花は咲かせられるようです。
※筆しらべは短期間に三回使うと、しばし使えなくなるようです。爆炎などの大技だと、また変わってくるかもしれません。
*時系列順で読む
Back:[[RAINLIT DUST/――に捧ぐ]] Next:[[蛙人乱れし修羅となりて]]
*投下順で読む
Back:[[RAINLIT DUST/――に捧ぐ]] Next:[[とても優しい瞳をしてたあなたが歌う――]]
|093:[[背なの上のぼの]]|ぼのぼの||
|093:[[背なの上のぼの]]|アマテラス||
|087:[[GREN~誤解の手記と鍾乳洞~]]|カエル||
*雨の降る昼、いったいどうする ◆TPKO6O3QOM
キュウビの忌々しい声が聞こえなくなったのを確認して、カエルは横線の引かれた名簿に目を落とした。十五の命が新たに散り、丁度半分の者が命を落としたことになる。あと二十ニの命が消えれば、このふざけた呪法は終わる。
それを面白がっているキュウビの首を討ち落としたい衝動を、カエルは深い吐息と共に抑え込んだ。とはいえ、この地での知り合いの全てを目の前で失った彼にとっては、今回の放送は単なる事実確認以上の意味合いは無かった。他者から比べれば、大分楽な身の上だろう。死者の読み上げが死亡した順番らしいことに気づけたのも、己が精神的に余裕があったためだ。
雨はまだまだ続きそうであった。ただ、雷を伴うような代物ではないらしい。放送の直前、大地を揺るがすような雷音が轟いたが、それ以降は静かなものである。
しかし、だからといって、目的もないのに外出するのは自殺行為でしかない。地下の鍾乳洞の探索も保留せねばならないだろう。水没の危険は勿論のこと、自分の位置が地図で確認できない以上、闇雲に進むことはできない。近くに禁止区域が設けられたのだから尚更だ。
一先ず、カエルは腹ごしらえをすることにした。とはいえ、事前に確認した食料はあまり食が進むような代物ではなかった。しかしながら、贅沢を言っていられる状況でもない。
カエルは数個の硬いパンと共に、蛙の腿肉を香草と一緒に焼いたものを取りだした。今の姿の己にこんなものを与えてくるとは、やはり、あのキュウビの根性は修復不可能なほどにねじくれているようだ。
冷えた油が白く固まっているそれを摘み、食い千切る。
それらとパンを水で流しこんだ時、小屋の扉が音を立てた。軋みと共に扉が引かれ、外の雨音と冷気が小屋の中に入り込んでくる。
骨を投げ捨て、剣の柄に手を掛けたカエルの眼に入ってきたのは、柔らかそうな体毛を雨に濡らした子供の獣だった。毛の脂のせいだろうか。雨に濡れても、獣の体毛は膨らみを保っている。
「こんにちはー。カエルさんはひとりなの?」
子供はカエルの存在に気付くと、円らな瞳を一、二回瞬かせてから、唇毛をふぁさと揺らし、のんびりとした口調で挨拶をしてきた。
子供に続いて入ってきたのは、白い狼だ。幾つか戦闘を繰り広げて来たのか、所々に巻かれた布は泥水に汚れ、後ろ足を引きずっている。最初の場所でキュウビに躍りかかって行った、アマテラスという狼だろう。詳細名簿とやらには白い狼が他にも認められたが、大きさからみて間違いないはずだ。
しかし、だからといって、こちらに無害とは限らない。探していた相手ではあるが、それがこちらに友好的である必然は無い。脳裏に浮かぶのはギロロたちの姿だ。カエルは気付かれないよう重心を僅かに移動させる。
と、アマテラスはその大きな体躯に似合わない、人懐こい動作で尻尾を振って見せた。敵ではないと、安心しろとでも言うように。その間の抜けた表情に気勢を殺がれ、カエルは構えを解いた。
こちらの返事がないことを不思議に思ったのか、子供が首を捻りながら、少し大きな声で同じ言葉を繰り返してきた。聞こえなかったとでも思ったのだろう。こちらが警戒していたことにも気付いていない様子だ。これまで生き残ってきたのが不思議なほどに警戒心がない。よく言えば純真無垢、悪く言えば盆暗だ。
胸中で苦みを掻き消し、カエルは肩を竦めた。
「見ての通りさ。俺は……名前もカエルだ。そっちは?」
「ぼくはぼのぼの。こっちはオオカミさん」
ぼのぼのの言葉にアマテラスが一声咆えた。ぼのぼのはアマテラスの名を言わなかった。アマテラスに言うなとでも釘を刺されているのだろうか。
そのアマテラスはというと、後ろ足の痛々しい傷をぺろぺろと舐めている。
見かねて、カエルはアマテラスにケアルガを掛けた。柔らかい光が身体を包む。
しかし、その身に刻まれた傷は全く治った様子がない。魔法の発動はしたが、その効果は発現していない。
一方で、カエルは不愉快な倦怠感が身体に纏わりつくのを感じていた。思えば、ウォータガを使ったときにも同様の違和感はあったのだ。
どうやら、今の身体は、理由は分からないが、本調子とはいえないようだ。もっとも、魔法の効能がないのは、相手にも問題があるのかもしれないが。
仕方なく、カエルは支給品にあった栄養剤を皿に注いで、アマテラスの前に置いた。気休めではあるが、回復魔法の効果が見込めない以上、体力を回復させるより他に法がない。
液体の臭いに鼻を動かしているアマテラスから目を逸らし、カエルはぼのぼのに向き合った。
「よし、じゃあ、ぼのぼの。休む暇なくて申し訳ないが、幾つか話をしよう。まず、ここまでどうしてきたか、教えてくれ」
ぼのぼのは、いいよ。と頷いた。
「あのね。ぼく、ガッコウに戻ろうとしたんだけど、そうしたら、このオオカミさんと、大きなスナドリネコさんみたいな子がね、喧嘩してたの。それで色々あって、気付いたら崖の上だったんだ。まだ大きなスナドリネコさんは居たから、オオカミさんとここに逃げて来たの」
ぼのぼのは茫洋とした口調で、滔々と喋った。カエルが聞きたかったのはこれまでの経緯なのだが、そうは受け取ってもらえなかったらしい。今の言葉から分かったのは、ぼのぼのとアマテラスが出会って間もないということのみだ。名前を言わなかったのは、単にまだ知らなかっただけのようだ。
質問の仕方を変えるか。しかし、ぼのぼのの様子から、こちらの意図する情報を引き出すのは困難に思えた。簡単な質問から先に片づけて行った方がいいだろう。カエルはデイバッグから詳細名簿を取り出し、床に座ったぼのぼのの前に広げた。
「知り合いや、見たことがある奴はいるか?」
ぼのぼのの告げた者達の中にアライグマが居た。直接は知らないが、ツネ次郎の仲間だった参加者だ。仲の良い友達であったらしく、研究所に墓を作ったことを教えると、ぼのぼのは僅かに表情を曇らせた。変化に乏しいが、それが多分彼なりの哀しみなのだろう。
また、警戒していた因幡てゐという女は、彼に良くしてくれたらしい。意外とここに書かれていることは当てにならないのかもしれない。仮に事実であっても、その者の本質ではない可能性が高いと見た方がいい。
ムックルの項目に警戒とだけ付け加え、カエルはぼのぼのとの情報交換を切り上げた。知り合いを絡めれば、カエルが欲しい情報を引き出せるだろう。ただし、彼は今回の放送で、親しい知り合いを二人失っている。そして、訊き出そうとすれば、否が応にも、その二人に触れることになる。死を知って間もない子供にはきついだろう。
カエルはアマテラスに視線を移した。横になっていたアマテラスは、視線に気づいたか、ぱっと顔を上げた。その深い色の瞳を見つめるが、それでオオカミの思考が伝わってくるわけではない。神様と書かれていたのでひょっとしたらと思ったのだが、そういった便利な能力はないらしい。
貝を石で割り出したぼのぼのに声をかける。
「……ぼのぼの。悪いが、通訳してくれないか? 俺には狼の言葉が分からなくてな」
ぼのぼのは貝を食べるの止め、しばし中空を見つめた後で応えた。
「ぼくもわかんないよ」
「な、なんだと?」
思わぬ返答に、カエルの声は高くなった。ぼのぼのは、ツネ次郎と同じように獣と人の両方の言葉が分かる存在とカエルは考えていたのだが、違うのだろうか。ぼのぼのは続ける。
「初めて会ったときにもアマテラスさんとお話しできなくて、おかしいなあって思ったの。他の皆とはお話できるのに、どうしてなんだろう……?」
彼自身、不思議に思っているようだ。カエルは問いを重ねた。
「……他の、その、なんだ。獣たちとは会話できるものなのか? 熊とか、猪とか」
「できるよー。今だって、カエルさんとお話してるじゃない」
「いや、まあ、それはそうだが……それでも、こいつの言葉は分からんと?」
「うん。……ごはん、食べていい?」
「……ああ。食べるといい。ゆっくりとな」
嘆息を溢し、カエルはアマテラスの前にしゃがみ込んだ。アマテラスは瞳を輝かせている。犬が何か面白いことを期待しているときの、あの瞳だ。
通訳もないとなると、複雑な意思疎通は不可能だし、得られる情報も限られてくる。キュウビが何者であるかなど、最も知りたかった情報をアマテラスから聞くことは出来ないということだ。
可能なのは、知り合いの確認だけか。カエルは詳細名簿を広げ、アマテラスに知り合いが居たら教えてくれ。と伝えた。アマテラスは、最初の頁にあるぼのぼのに対し、一つ吼えた。これが返事らしい。グレッグル同様、こちらの言葉は理解してくれているようだ。
アマテラスの知り合いは、ぼのぼの、アライグマ、ニャース、楽俊、シロ、ムックルだけだった。内、手を組めそうなのはニャースのみだ。
知り合いの確認だけで済んでしまった情報交換に肩を落とし、カエルは名簿を仕舞った。貝を食べ終わって満足げなぼのぼのにアライグマのことを伝えてやる。
「ぼのぼの。アマテラスはアライグマと会ったそうだぞ」
「そうだよ。アマテラスさんと初めて会ったとき、アライグマくんと一緒だったんだよ」
「ん? おまえ、アライグマとは再会できなかったと言っていなかったか?」
「言ったよ。最初の真っ暗い所で別れたあと、アライグマくんとは会えなかったんだよ」
「……そういうことか」
キュウビのデモンストレーションの場で、既にぼのぼのはアマテラスと逢っていたということらしい。もしかすると殺された栗鼠も、ぼのぼのの知り合いだったのかもしれない。それを訊く気にはなれないが。
他にすることはあるだろうか。少々多すぎる荷物を、彼らに譲るくらいであろうか。こちらの情報を明かした所で、彼らには話のタネになる以上の意味はなさそうだ。首を振って、頭を掻く。
ふと、ぼのぼのがアマテラスに語りかけている言葉が耳に入る。
「――ラスさん。ぼく、ガッコウに戻らなくちゃ。多分、あの大きなスナドリネコさんはいないよ。ケロロさん待ってるし、ニンゲンさんが死んじゃうかもしれないし。アマテラスさんも一緒に行こうよ」
ニンゲン――ぼのぼのはそう言った。そのことを考える前にカエルは訊き返していた。
「ぼのぼの! ニンゲンが死ぬってのは、どういうことだ?」
ぼのぼのはきょとんとしながら、ゆったりと答えて来た。
「ガッコウにね、ニンゲンさんがいたんだよ。いたそうな傷がいっぱいあって、ケロロさんがてゐさんを呼んでこいってぼくに言ったの。てゐさんはコヒグマくんのおとうさんの傷も診てくれたんだよ。でも……てゐさん、キツネさんに名前を呼ばれちゃった」
俯いたぼのぼのに、アマテラスが気遣うように鼻を鳴らした。
それを横目に、カエルは思案する。ニンゲンという参加者は居ない。ニンゲンとは、すなわち人間と見て間違いないだろう。この地に、"人間"がいる。それも、名簿にも載っていない存在がだ。
ここから脱出する鍵になるか。それとも、キュウビの罠か。
しかし、足を踏み入れねば両者を判別することすら出来ない。
「ぼのぼの、俺も一緒に行こう。その人間に俺も会ってみたい」
カエルの申し出に、ぼのぼのは二三首を捻った。
「カエルさんは、ケガとか分かるの?」
「まあ、多少はな」
「それじゃあ、カエルさんも一緒に行こう」
言うが早いか、ぼのぼのはアマテラスの背に乗った。アマテラスはカエルへ顔を向けると、一つ吼えた。そして、誘うように尻尾を揺り動かす。
「……乗れっていうのか?」
もう一度、アマテラスが吼える。カエルはデイバッグを抱え、アマテラスの背に跨った。意外にもアマテラスは二人の重みに砕けることなく、雨の中に割としっかりとした足取りで踏み出していった。
【C-6/一日目/日中】
【カエル@クロノトリガー】
【状態】:健康、多少の擦り傷、疲労(小)、魔力消費(小~中)、びしょ濡れ、アマテラスの背の上
【装備】:なんでも切れる剣@サイボーグクロちゃん、マントなし
【所持品】:支給品一式(食料:パンと蛙の腿肉料理)、ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5、モンスターボール@ポケットモンスター、しらたま@ポケットモンスター 、銀の不明支給品(0~2、確認済)、石火矢の弾丸と火薬の予備×9@もののけ姫 、マハラギストーン×3@真・女神転生if、風雲再起の不明支給品(0~2、確認済)、参加者詳細名簿、ペット・ショップの不明支給品(1~3、確認済)、スピーダー@ポケットモンスター×6、グリンガムのムチ@ドラゴンクエスト5、ユーノのメモ
【思考】
基本:キュウビに対抗し、殺し合いと呪法を阻止する
1:学校へ行く。
2:ニャースの捜索。
3:ギロロにあったら話をつけて誤解を解く。
4:余裕があれば鍾乳洞内を調べる。
※ツネ次郎と情報交換をしました。ぼのぼのとアマテラスの知り合いを把握しています。
※異世界から参加者は集められたという説を知りました。
※参加者は同一世界の違う時間軸から集められたと考えています。
※天容の笛@忍ペンまん丸、しらたま@ポケットモンスターとパルキア@ポケットモンスターの存在を知りました。
※ペット・ショップ、ミュウツー、クロコダイン、クロ、チョッパー、ケットシー、因幡てゐ、ラルク、ムックルを危険ないし要警戒と認識しました。
※ログハウスの下にある鍾乳洞は抜け道のようなものと推測しています。
※死者の読み上げが、死亡した順番であることに気付きました。
※アマテラスがオープニングの時点で意思疎通が出来なかったことを知っています。
※制限に気が付きました。
※回復魔法の効果の発現が遅くなっています。しかし、本人は回復魔法の効果がなくなっているかもと思っています。
【ぼのぼの@ぼのぼの】
[状態]:健康、戸惑い、アマテラスの背の上
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ベンズナイフ@HUNTER×HUNTER、貝割り用の石@ぼのぼの、貝×4
[思考]
基本:殺し合いはしない。
1:学校に戻る。
2:てゐについていきシマリスとヒグマの大将が生き返る者の所まで案内してもらうはずだったのに。
3:殺し合いに乗っている者がいたら、このナイフを使ってとめる
[備考]
※アニメ最終話48話後からの参戦です
※支給品の説明書は読んでいません。
※銀に不信感を持ちましたが悩んでいます。
※ケロロ軍曹と情報交換をしました。
※体を洗ったので、血の臭いは殆ど落ちました。
※第一回放送、第二回放送を聞きましたが、あまり理解していません。
※ムックルを危険人物と認識しました。
【アマテラス@大神】
【状態】:全身打撲(中・治療済) 、胴に裂傷(小)、後ろ足に裂傷(中)、体力回復・治癒促進中
【装備】:所々に布が巻かれている。ぼのぼの、カエル
【道具】:なし。
【思考】
基本:打倒キュウビ。絶対に参加者を傷つけるつもりはない。
0:??????
【備考】
※アマテラスの参戦時期は鬼ヶ島突入直前です。そのため、筆しらべの吹雪、迅雷の力は取り戻していません。
※筆しらべの制限に気付いているかもしれません。
※キュウビの目的について、何か勘付いているかもしれません。
※筆しらべ「光明」と「月光」で昼夜を変えることはできないようです。
※筆しらべ「桜花」で花は咲かせられるようです。
※筆しらべは短期間に三回使うと、しばし使えなくなるようです。爆炎などの大技だと、また変わってくるかもしれません。
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