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「フロッグ・スタイル」(2008/10/11 (土) 11:24:45) の最新版変更点
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*フロッグ・スタイル ◆aAaY.9Pvg2
暗い空の下、唸る剣士が一人。
剣士として一般的であろう人間という種族に例えるなら眉を顰めてとか、眉間に皺を寄せてとか、そういった表情を彼はしている。
他種族には読み取り難いかも知れないが、彼としてはそういう、苦悩を滲ませた表情のつもりだ。
そして今現在彼の目の前にいて、対峙している相手にもその表情は伝わると彼は期待している。
剣士の名はカエル。
いや、昔はもっと立派な、固有名詞の名前もあったものだが、そのことは今はさて置く。
重要なのは今の彼はカエルであり、それも名前だけがカエルというのでなく、人型をしたカエルそのものの姿だということだ。
尤も生まれ付いてのカエルではない彼としては正直、キュウビなる魔物は彼を動物として認識しているらしいという事実は些か不本意である。
しかし、それはこの際どうでも良かった。
動物扱い以上に不本意な命令が、キュウビからは言い渡された。
殺し合え。まるで集められた者達が全て血に飢えた、理性を持たぬ獣であるかのような口振りで煽られた戦い。
そちらの方が、カエルにとっては許せない。
集められたのが彼の他は全て凶暴な野獣で、生きるために殺し喰らうことを日常とする者であったのならば憤りはしなかったろう。
もしそうならば、あのキュウビなる魔物の目には自分もそのような獣に堕ちたと見えるのか、と自嘲しただけだ。
しかし現実は違う。戦いを拒み、殺されたのは小さな栗鼠だった。
生物の持つ力は見た目だけでは測れないことはカエルとてよく知っている。そもそも自分が見た目とはかなり異なる生き物だ。
だが、あの栗鼠は明らかに戦いを日常とする獣ではなかった。そもそも殺し合えと言われた、その意味さえ理解していないかのようだった。
森で木の実を齧って暮らし、狩るとしても小さな昆虫がいいところ。そんな小動物に殺し合いができるはずがない。
そしてあの栗鼠は言葉を話し、はっきりと争いを拒絶したのだ。
ただ生存のために争いから逃げようとしたのではなく、友達と遊びたいという、幼いが確かな意思を持って。
集められたのは、キュウビの言うような本能のままにしか動かない獣だけではない。
奴が望んでいるのは自然界の食物連鎖の再現などでなく、意思と感情と理性とを持った者達による殺戮なのだ。
カエルには無論、ここで誰かと殺し合う気はない。
かと言って襲われても無抵抗でいるつもりはない。降り掛かる火の粉を払うために戦うつもりならある。
キュウビはこの殺戮によって呪法を完成させると言っていた。このような狂気じみた儀式を必要とする呪術がろくなものであるはずもない。
その正体を突き止め、阻止するためにも生き残らなければならないとカエルは考えている。
――だから、戦う必要のない相手とはできれば戦いたくない。
目の前の相手がそれに該当するのか否か、彼は測りかねていた。戦いの構えを取る相手に戸惑う表情が伝わればいいのだが、伝わっているかはどうも怪しい。
言葉が通じるかどうかも未知数ではあるが、話し掛けてみるのも一つの手だ。しかし少しでも隙を作れば飛び掛かられる危険を冒すことになる。
相手の構えに隙はない。自分のことを棚上げにして、大したものだとカエルは思う。
彼の前に立っているのは、人間の腰ほどまでの身長で、やや前屈みながら二本の足で立ち、毒々しいダークブルーの皮膚を持つ――少なくとも外見の上では彼の同類。
つまるところ、カエルである。
拳闘士に似たファイティングポーズを取った青蛙は頬を膨らまし、唸るような低い声で鳴いた。
睨むような目は、真っ直ぐカエルに向けられている。
対するカエルは、使い慣れた剣の代わりに木の棒を正眼に構えて青蛙を睨み返している。
こんな棒では武器としては心許ないが、無手よりはましだ。デイパックに入っていた物である。
尤も考えてみれば、キュウビに呼び集められた者の多くは動物だ。カエルのようにデイパックを開けられる者がどれだけいるかも怪しい。
武器を使える者もほとんどいないのだから、キュウビも積極的に武器を配ろうとはしなかったのかも知れない。
しかし鋭い爪や牙を持つ肉食獣と違い、カエルはカエルだ。戦闘の技術は身に着けていても、武器なしで相手に効果的なダメージを与えることは難しい。
水の魔法も使えないことはないが、消耗を考えると軽々しくは使えない。
それに魔法は相手によって効果の差も大きい。例えば今目の前にいる相手にウォーターを使ったとしよう。
果たして魔法は効果的に働くか。多分、そうはいかない。文字通り蛙の面に水だろう。
もう少しましな武器を、木や石を使って即席でこしらえることも考えておいた方が良さそうだ。
いずれにしても、この状況を乗り切ることができてからの話だが。
しばしの睨み合いの後――青蛙が跳躍した。
振り上げられた腕の先、青蛙の揃えた指先がぬらりと光る。
月をバックに、青蛙の小柄な体が宙に吸い込まれんばかりに高く舞う。カエルも跳躍力には自信があるが、体格差の分向こうの方が身軽なようだ。
カエル目掛けて落下しながら、青蛙は振り上げた腕を垂直に振り下ろす。
カエルは体を引き、振り下ろされた手を棒で受け止めた。手応えは予想以上に重い。木の棒が音を立てて軋んだ。
体重は軽くとも込められた力は相当のものだ。それに跳躍の勢いと落下する重力が加わっているのだから、その威力は馬鹿にできない。
力に力をぶつけては、こんな木の棒など容易く折れてしまうだろう。掛けられた力を逃がそうと、受け流すように手首を返す。
青蛙は空中で器用に体勢を立て直し、後ろへ飛び退いて着地する。
笑った、ように見える。再びいつでも飛び掛かれそうな構えを取りながら、青蛙は満足げな顔をしていた。
この地で生き延びられる勝者はただ一人、とキュウビは言った。しかしこの青蛙は、それゆえに戦うのではない。
戦うこと自体に楽しみを見出している、そんな顔だ。
それはつまり、この戦いには正義も意味もないと諭したところで聞く耳を持つ相手ではないということだ。
話が通じるかも知れない、と躊躇う必要は最早ない。
次はこちらから仕掛ける番だ。カエルは地を蹴り、一気に青蛙との間合いを詰める。
踏み込みすぎてはならない。どこまで距離を詰めればいいか、どこからが危険か彼は知っていた。
自分がそうであるからよく知っているのだが、カエルの四肢というのは意外に長い。
カエルといえばずんぐりしているという印象を持つ人間が多いだろうが、それは普通のカエルは四肢を折り曲げているからである。
彼らが跳躍するのを見れば一目瞭然。カエルの足は、伸ばせば長いのだ。
二足歩行ができ、前足を手のように使えるカエルが戦うにあたってはそれは大きなアドバンテージである。
よく伸びる手があるからこそ、カエルは人間であった時と同じように剣を使える。
そして己の体そのものを武器とするこの青蛙にとっても、それは同じこと。
小柄な体格と肘を曲げて構えた姿から想像できるより、その手はずっと遠くまで届くのだ。
それを知っていたから、カエルは観察していた。先の一撃を受け止めながら、青蛙の腕の長さを。
見た目以上に長く伸びる腕を戦いに利用することに、この青蛙は慣れている。慣れていればこそ、今もそれを利用しようとするはずだ。
対峙したのがカエルでなければ、その間合いは見抜けなかったかも知れない。
踏み込みながら、カエルは棒を握り直した。カエルの腕と棒の長さが、丁度ぎりぎりで青蛙の腕の長さを上回るように。
青蛙の指先が、また濡れたように輝く。
渾身の力で、カエルは突きを繰り出す。それを待ち構えていたかのように青蛙が腕を伸ばした。
あと僅かでも深く踏み込んでいたら、青蛙のカウンターパンチがカエルの胴を捉えていただろう。
――読み合いに勝ったのは、カエルだった。
突き出した棒の先が青蛙の腹を捉える。青蛙の伸ばした指先は、カエルの体には僅かに届かず彼の腕を掠めた。
直撃した突きの勢いに、青蛙は軽々と吹っ飛ばされて宙に浮く。
「……やれやれ」
剣を収めるような仕草で棒を引き、カエルは苦笑する。
「相手が悪かったな。俺がカエルじゃなかったら、お前の勝ちだった」
青蛙が仰向けに、びたんと音を立てて地面に落ちた。
倒れた青蛙に、カエルは歩み寄る。
さて、こいつをどうしたものか。同族だからという訳ではないが、殺してしまうのも気が引ける。
しかしこの調子で出会った相手に手当たり次第に襲い掛かるようでは放置してはおけない。多少は大人しくなってもらう必要がある。
ひとまず縛ってでもおくか、と更に一歩近付く。
その時、青蛙が目を開けた。睨み付けるような鋭い眼光がカエルを射る。
青蛙は笑っていた。今も、つい先刻と同じように、口の端を吊り上げて意地の悪い笑みを浮かべている。
四肢はだらりと地面に投げ出したまま、起き上がる様子はない。
何故笑っているのか、カエルにはわからなかった。その時は。
理解したのは、更に一歩を踏み出そうとした時だ。
最初に気付いたのは腕の痺れ。青蛙の反撃が掠った剥き出しの腕の辺りがじんじんと熱い。
摩擦で擦過傷を負っただけかと思っていたが、気付けば痺れは次第に強くなり、腕から指先へ、また肩へと広がっている。
踏み出しかけた足に力が入らず、カエルは勢い余って地面に膝をつく。既に痺れは足にまで伝わっていた。
嫌味な笑みを浮かべた青蛙が、ふらつきながら起き上がる。
ひょろりと長い手を、青蛙はカエルの前に突き出した。さながら、喉元に刃を突き付ける仕草のように。
その指先がぬらりと濡れて光った。間近で見て初めて気付く。青蛙の指から紫色の液体が染み出し、その薄い膜が指先を覆っててらてらと輝いている。
(毒……!)
いかに機敏な動きとはいえ爪も牙も持たないカエル、それもかなりの小柄な体格では破壊力には劣る。
小さな生物が戦いの力を身に着けている、即ち狩りを生業としているならば、獲物を仕留めるための決め手があって然るべき。
もっと早く気付くべきだったのだ。この青蛙の手はただ殴るだけの武器ではないことに。
毒液に覆われた指は、カエルの腕を掠めただけだった。しかしそれだけでも充分だったのだ。
カエルの皮膚は粘膜に覆われている。人間の皮膚や獣の毛皮よりも容易く毒を吸収してしまう造りだ。
間合いの読み合いに勝利したのは、ひとえに彼がカエルであるゆえだ。
しかし毒の効果がこれほど強く現れることも、彼がカエルでなければなかっただろう。
カエルは深く息を吐く。木の棒で体を支えながら、今は自分を見下ろして立っている小さな青蛙を見上げる。
「――俺の負け、だったか」
自嘲の笑みが浮かんだ。勝ったつもりで、足元を掬われていることにも気付かなかったことが情けない。
結局、殺戮を止めようなどと大それたことを考えてはみても、何も成し遂げられはしなかった。
まだカエルではなかった頃の苦い経験が甦る。強大すぎる敵を前に身動きも取れなかった、臆病者だった自分。
あの日よりも今は強くなっている、そう思っていた。
しかし強くなろうとも、その力で何も為せないならば弱かった日から変わっていないも同然ではないか。
あの時、動けない自分を蔑みの目で見て、憎き敵はこう言った――まるで、蛇に睨まれたカエルだと。
それに相応しい姿に、彼は変えられたのだ。
「俺は結局、カエルでしかなかった……なんて言っちゃあ、お前に失礼か」
青蛙を見上げて笑い、止めの一撃が来るのを待つ。
いや――既に、見上げる必要はなかった。
カエルを見下ろすように立っていた青蛙はいつしかしゃがみ込み、同じ視線の高さでカエルの顔を見ていた。
毒々しくも鮮やかな橙色の頬が風船のように膨らむ。隈のような模様に縁取られた小さな目が、カエルをじっと見つめる。
その表情はやはり意地の悪いにやにや笑いに見えて、カエルは戸惑う。
「……お前」
呼び掛けに応えるように、頬を鳴らして青蛙が鳴く。
目付きは相変わらず睨むように鋭いが、敵意も、殺意も感じられない。
おぼろげにカエルは理解し始める。やはりこの青蛙は、戦いを楽しんでいたのだ。
それ自体が目的であり、戦って破った相手をどうするという気もなかったのだろう。
「戦いたかっただけ、なのか?」
唸るような鳴き声と共に、青蛙は頷いた。
その反応は予測の裏付けとなると同時に、この青蛙に言葉が通じているという証拠でもある。
元々人語を解する生き物なのか、キュウビがあつらえた首輪の力なのか。いずれにしても、話のわからない相手ではないのだ。
ならば、とカエルは期待を抱く。この青蛙の有り余る闘志と力。それはただの脅威ではなく、違う形で活かすこともできるものではないか。
そう、例えば、キュウビに牙を剥くというような。
考えを口にしようとカエルが口を開きかけた、その時。青蛙がふと空を見上げる。
まだ体が痺れ、うまく動かないが辛うじて頭は上がる。青蛙の視線の先をカエルは追った。
しかし、暗い空には何も見えない。ただ虚空を、青蛙は見つめているようだった。
しばらくそのままじっとしていた青蛙が、突然カエルに向き直る。――かと思うと、唐突にカエルの手を掴んだ。
訳もわからず面食らうカエルの様子に構いもせずに、青蛙はそのまま走り出す。
「お、おい!」
制止の声にも青蛙は止まらない。手を引っ張ってカエルを引きずったまま、一直線にどこかへ走る、走る、走る。
マントが頭の下に入ってくれたお陰で擦り傷だらけになるのは免れたが、摩擦熱で背中や後頭部が猛烈に熱い。
声にならない悲鳴を上げながら、カエルはされるがままに運ばれてゆく。
これだけの速度で引きずっていても掴んだ手が離れないところを見ると、青蛙の三本指の手は意外に器用らしい。
握力も相当のもので、掴まれて引っ張られている手も痛い。
仰向けで見上げた夜の空が、引っ張られてゆく内にやがて隠れる。空を覆うのは大きく枝を伸ばした木々。
そのまましばらく走り、外から見れば二人の姿が完全に森に隠れたであろう頃、やっと青蛙は立ち止まる。
まだ事態を飲み込めないまま、カエルは倒れたまま肩で息をする。
カエルの手を離し、傍らに再びしゃがみ込んだ青蛙が、情けないなとでも言うようににやりと笑った。
自分も高速で引きずられてみてから笑え、と思うが言い返しても現状、負け惜しみにしかならない。
やっと呼吸が落ち着き、ひとつ溜息をついてカエルは身を起こす。
いつの間にか、体の痺れはほとんど抜けていた。毒の効果はあまり長くは続かなかったらしい。掠っただけだったせいかも知れないが。
何のつもりだ、と問おうと口を開く――と、それを制するように青蛙がカエルの口に手を当てる。
一瞬毒を警戒したが、手を引いている内にカエルの手袋に拭われたのだろう、その指は今は毒液に濡れてはいない。
黙れ、と言いたいのだろう。青蛙は促すように、斜め上を見上げた。
カエルもその方向を見上げる。森の外、先程までいた平地をちょうど見下ろせる崖の上に何かの影がある。
鳥だ。今まさにどこからか飛んできて着地したかのように、崖の上で大きな翼を畳む。
いつの間に、とカエルは不審に思う。カエルは鳥の影を見た覚えも、羽音を聞いた覚えもない。
走り出す前に青蛙は空を見上げていたが、その時もカエルには何も見えてはいなかった。
まさか青蛙は、自分達が森に隠れた後にあの鳥が飛んでくるのを見越して走り出したとでもいうのか。
鳥はしばし崖の上でじっとして、眼下の光景を見下ろしているようだった。
森の木々に隠れたカエル達の姿は、あの高さと距離では見付からないだろう。
しかし、それにしても妙だ。月があるにしても夜の帳の下、鳥が活動することができるのか。
鳥目とも言われるように、鳥類は夜目が利かないことで有名である。景色を見渡したところで、鳥の目にそれは見えているのだろうか。
それとも、梟のような夜行性の鳥か。
頭を捻りながらカエルが観察する中、鳥が再び翼を開く。
その姿に、カエルは息を飲む。
いや、正確には鳥自身の姿ではなく、その背後に浮かび上がった異形の姿に。
翼を開いた鳥の背に寄り添うように、氷のような質感の鳥の骸骨、或いは翼竜の骸骨のような姿が見える。
それは鳥とそっくり同じ格好をし、骨組みだけの翼を開き、月光に煌めいていた。
(何だ、アレは……?)
その異様な姿から、カエルは目を離せなかった。あの鳥がただの鳥類ではなく、魔物の類であることは確かだ。
どんな力を持っているかは、完全に未知数。
しかし確かなことが一つある。あの鳥を敵に回すのは、極めて危険だ。
相手が飛行能力を持っている以上、空からヒット&アウェイを繰り返されれば飛ぶ術のないこちらからの反撃は難しい。
魔法にも射程はあるし、かえるおとしで押し潰そうにも猛禽の飛行速度を考えると下を潜り抜けられる危険すらある。
鳥が戦意を持っているかは今のところ定かではないが、安全だと確証が持てるまで近付かない方が良さそうだ。
鳥とその背後の異形が、同時に崖の上から飛び立った。
ぴったりと重なり合った二対の翼が夜の風に乗る。ゆっくりと、鳥は空中で旋回を始めた。
眼下に獲物を探すように、そして威風堂々たるその翼と、背後の異形を誇らしげに見せ付けるように。
カエルは青蛙を振り向いた。顔を見合わせて、二人は息を潜める。
聞こえるのは鳥の羽音と、森を吹き抜けてゆく微かな風の音、少し遠くから聞こえる流れる水の音。
その他の物音を少しでも立てたら見付かってしまうのではないか。そんな緊張感が走る。
森にいる限り密生した木々が鳥の急降下からは守ってくれそうに思えるが、何も攻撃手段が爪と嘴だけとは限らないのだ。
「……しばらく様子を見るぞ」
極限まで声を落として、青蛙に囁く。鳥にいかに鋭敏な聴覚があろうと、この距離でここまでの小声なら聞き取れないだろう。
青蛙は頷き、また空を見上げる。
優雅に宙を舞う鳥を見る苦々しげな表情は、己の手ではその翼には届かないという歯痒さを噛み締めているように見えた。
手が届きさえすれば、あの得体の知れない魔物とも戦うつもりだったのだろうか。
全くカエルらしからぬカエルだ。カエルは呆れカエル、もとい呆れ返る。
と、同時に言い忘れていたことに気付いた。
空を見上げた青蛙の肩を、軽く指で突く。苦虫を丸呑みし損ねたような顔のまま、青蛙は振り向いた。
「奴に気付いて、俺をここまで連れてきてくれたんだろう。恩に着る」
抑えた声で告げると、青蛙は皮肉っぽい、憎たらしい表情を浮かべて頬を膨らます。
そして小さく一声、吐き捨てるように。
「……ケッ」
――と、鳴いた。
【B-5/森/一日目/深夜】
【カエル@クロノトリガー】
【状態】:手足にごく軽い痺れ
【装備】:ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5
【所持品】:支給品一式、モンスターボール@ポケットモンスター、マッスルドリンコ@真・女神転生
【思考】
基本:キュウビに対抗し、殺し合いと呪法を阻止する
1:鳥の様子を見て対処を考える
2:青蛙を対主催の仲間にしたい
【グレッグル@ポケットモンスター】
【状態】:腹に打撲、ちょっと痛い
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:面白そうな奴と戦う(命は取らない)
1:あの鳥はやばい、関わるのは避けたい
2:カエルにちょっと親近感+連帯感
3:ピカチュウとニャースは一応ピンチに陥ってたら助ける
【備考】:特性「きけんよち」によりペット・ショップを大きな脅威と認識しました。
【B-6/崖上/一日目/深夜】
【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】:健康、ホルス神発現中
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:優勝してDIOの館に帰る
1:空から様子を窺う。目に付いた奴は殺す
【備考】:ホルス神発現中はスタンド視覚により夜でも目が見えます。
ただし見えているのは本体の視界ではなくスタンドの視界内です。
【ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5】
お馴染み最弱武器。ただの棒。
【モンスターボール@ポケットモンスター】
ポケモンを収納できるボール。もちろん今は空。
ポケモンは衰弱すると自己を収縮させ狭い場所に入り込む性質がある(ゲーム設定だがアニメでも多分同じ)ため
それを利用してポケモンの捕獲・持ち運びに使われる。
人間が片手で握れるサイズで、真ん中にあるスイッチを押しながら投げるとポケモンが飛び出す。
ボールの中にいる間、ポケモンの重量は無視されるらしい。
ポケモンは中からも外の様子がわかり、自分の意思で外に出ることも可能。
弱ったポケモンに投げ付けることで閉じ込めて捕まえることも可能だが、既に主人のいるポケモンには無効。
本ロワ内では、捕まる意思のないポケモンは抵抗不能状態でなければ捕まえられず、
捕まえても一時的なものでトレーナーになったとは見なさないものとする。
【マッスルドリンコ@真・女神転生】
強力な栄養ドリンク。上限を超えてHPを回復させることが可能だが、回復量は中程度。
ただし飲みすぎると(ゲームではHPが上限の2倍を超えると)副作用でHPが激減する。
*時系列順で読む
Back:[[シロとケットシーの偽典・黙示録だゾ]] Next:[[禍福は糾える縄の如し]]
*投下順で読む
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|&color(cyan){GAME START}|グレッグル| |
|&color(cyan){GAME START}|ペット・ショップ|027[[アライグマくんの受難]]|
|&color(cyan){GAME START}|カエル| |
*フロッグ・スタイル ◆aAaY.9Pvg2
暗い空の下、唸る剣士が一人。
剣士として一般的であろう人間という種族に例えるなら眉を顰めてとか、眉間に皺を寄せてとか、そういった表情を彼はしている。
他種族には読み取り難いかも知れないが、彼としてはそういう、苦悩を滲ませた表情のつもりだ。
そして今現在彼の目の前にいて、対峙している相手にもその表情は伝わると彼は期待している。
剣士の名はカエル。
いや、昔はもっと立派な、固有名詞の名前もあったものだが、そのことは今はさて置く。
重要なのは今の彼はカエルであり、それも名前だけがカエルというのでなく、人型をしたカエルそのものの姿だということだ。
尤も生まれ付いてのカエルではない彼としては正直、キュウビなる魔物は彼を動物として認識しているらしいという事実は些か不本意である。
しかし、それはこの際どうでも良かった。
動物扱い以上に不本意な命令が、キュウビからは言い渡された。
殺し合え。まるで集められた者達が全て血に飢えた、理性を持たぬ獣であるかのような口振りで煽られた戦い。
そちらの方が、カエルにとっては許せない。
集められたのが彼の他は全て凶暴な野獣で、生きるために殺し喰らうことを日常とする者であったのならば憤りはしなかったろう。
もしそうならば、あのキュウビなる魔物の目には自分もそのような獣に堕ちたと見えるのか、と自嘲しただけだ。
しかし現実は違う。戦いを拒み、殺されたのは小さな栗鼠だった。
生物の持つ力は見た目だけでは測れないことはカエルとてよく知っている。そもそも自分が見た目とはかなり異なる生き物だ。
だが、あの栗鼠は明らかに戦いを日常とする獣ではなかった。そもそも殺し合えと言われた、その意味さえ理解していないかのようだった。
森で木の実を齧って暮らし、狩るとしても小さな昆虫がいいところ。そんな小動物に殺し合いができるはずがない。
そしてあの栗鼠は言葉を話し、はっきりと争いを拒絶したのだ。
ただ生存のために争いから逃げようとしたのではなく、友達と遊びたいという、幼いが確かな意思を持って。
集められたのは、キュウビの言うような本能のままにしか動かない獣だけではない。
奴が望んでいるのは自然界の食物連鎖の再現などでなく、意思と感情と理性とを持った者達による殺戮なのだ。
カエルには無論、ここで誰かと殺し合う気はない。
かと言って襲われても無抵抗でいるつもりはない。降り掛かる火の粉を払うために戦うつもりならある。
キュウビはこの殺戮によって呪法を完成させると言っていた。このような狂気じみた儀式を必要とする呪術がろくなものであるはずもない。
その正体を突き止め、阻止するためにも生き残らなければならないとカエルは考えている。
――だから、戦う必要のない相手とはできれば戦いたくない。
目の前の相手がそれに該当するのか否か、彼は測りかねていた。戦いの構えを取る相手に戸惑う表情が伝わればいいのだが、伝わっているかはどうも怪しい。
言葉が通じるかどうかも未知数ではあるが、話し掛けてみるのも一つの手だ。しかし少しでも隙を作れば飛び掛かられる危険を冒すことになる。
相手の構えに隙はない。自分のことを棚上げにして、大したものだとカエルは思う。
彼の前に立っているのは、人間の腰ほどまでの身長で、やや前屈みながら二本の足で立ち、毒々しいダークブルーの皮膚を持つ――少なくとも外見の上では彼の同類。
つまるところ、カエルである。
拳闘士に似たファイティングポーズを取った青蛙は頬を膨らまし、唸るような低い声で鳴いた。
睨むような目は、真っ直ぐカエルに向けられている。
対するカエルは、使い慣れた剣の代わりに木の棒を正眼に構えて青蛙を睨み返している。
こんな棒では武器としては心許ないが、無手よりはましだ。デイパックに入っていた物である。
尤も考えてみれば、キュウビに呼び集められた者の多くは動物だ。カエルのようにデイパックを開けられる者がどれだけいるかも怪しい。
武器を使える者もほとんどいないのだから、キュウビも積極的に武器を配ろうとはしなかったのかも知れない。
しかし鋭い爪や牙を持つ肉食獣と違い、カエルはカエルだ。戦闘の技術は身に着けていても、武器なしで相手に効果的なダメージを与えることは難しい。
水の魔法も使えないことはないが、消耗を考えると軽々しくは使えない。
それに魔法は相手によって効果の差も大きい。例えば今目の前にいる相手にウォーターを使ったとしよう。
果たして魔法は効果的に働くか。多分、そうはいかない。文字通り蛙の面に水だろう。
もう少しましな武器を、木や石を使って即席でこしらえることも考えておいた方が良さそうだ。
いずれにしても、この状況を乗り切ることができてからの話だが。
しばしの睨み合いの後――青蛙が跳躍した。
振り上げられた腕の先、青蛙の揃えた指先がぬらりと光る。
月をバックに、青蛙の小柄な体が宙に吸い込まれんばかりに高く舞う。カエルも跳躍力には自信があるが、体格差の分向こうの方が身軽なようだ。
カエル目掛けて落下しながら、青蛙は振り上げた腕を垂直に振り下ろす。
カエルは体を引き、振り下ろされた手を棒で受け止めた。手応えは予想以上に重い。木の棒が音を立てて軋んだ。
体重は軽くとも込められた力は相当のものだ。それに跳躍の勢いと落下する重力が加わっているのだから、その威力は馬鹿にできない。
力に力をぶつけては、こんな木の棒など容易く折れてしまうだろう。掛けられた力を逃がそうと、受け流すように手首を返す。
青蛙は空中で器用に体勢を立て直し、後ろへ飛び退いて着地する。
笑った、ように見える。再びいつでも飛び掛かれそうな構えを取りながら、青蛙は満足げな顔をしていた。
この地で生き延びられる勝者はただ一人、とキュウビは言った。しかしこの青蛙は、それゆえに戦うのではない。
戦うこと自体に楽しみを見出している、そんな顔だ。
それはつまり、この戦いには正義も意味もないと諭したところで聞く耳を持つ相手ではないということだ。
話が通じるかも知れない、と躊躇う必要は最早ない。
次はこちらから仕掛ける番だ。カエルは地を蹴り、一気に青蛙との間合いを詰める。
踏み込みすぎてはならない。どこまで距離を詰めればいいか、どこからが危険か彼は知っていた。
自分がそうであるからよく知っているのだが、カエルの四肢というのは意外に長い。
カエルといえばずんぐりしているという印象を持つ人間が多いだろうが、それは普通のカエルは四肢を折り曲げているからである。
彼らが跳躍するのを見れば一目瞭然。カエルの足は、伸ばせば長いのだ。
二足歩行ができ、前足を手のように使えるカエルが戦うにあたってはそれは大きなアドバンテージである。
よく伸びる手があるからこそ、カエルは人間であった時と同じように剣を使える。
そして己の体そのものを武器とするこの青蛙にとっても、それは同じこと。
小柄な体格と肘を曲げて構えた姿から想像できるより、その手はずっと遠くまで届くのだ。
それを知っていたから、カエルは観察していた。先の一撃を受け止めながら、青蛙の腕の長さを。
見た目以上に長く伸びる腕を戦いに利用することに、この青蛙は慣れている。慣れていればこそ、今もそれを利用しようとするはずだ。
対峙したのがカエルでなければ、その間合いは見抜けなかったかも知れない。
踏み込みながら、カエルは棒を握り直した。カエルの腕と棒の長さが、丁度ぎりぎりで青蛙の腕の長さを上回るように。
青蛙の指先が、また濡れたように輝く。
渾身の力で、カエルは突きを繰り出す。それを待ち構えていたかのように青蛙が腕を伸ばした。
あと僅かでも深く踏み込んでいたら、青蛙のカウンターパンチがカエルの胴を捉えていただろう。
――読み合いに勝ったのは、カエルだった。
突き出した棒の先が青蛙の腹を捉える。青蛙の伸ばした指先は、カエルの体には僅かに届かず彼の腕を掠めた。
直撃した突きの勢いに、青蛙は軽々と吹っ飛ばされて宙に浮く。
「……やれやれ」
剣を収めるような仕草で棒を引き、カエルは苦笑する。
「相手が悪かったな。俺がカエルじゃなかったら、お前の勝ちだった」
青蛙が仰向けに、びたんと音を立てて地面に落ちた。
倒れた青蛙に、カエルは歩み寄る。
さて、こいつをどうしたものか。同族だからという訳ではないが、殺してしまうのも気が引ける。
しかしこの調子で出会った相手に手当たり次第に襲い掛かるようでは放置してはおけない。多少は大人しくなってもらう必要がある。
ひとまず縛ってでもおくか、と更に一歩近付く。
その時、青蛙が目を開けた。睨み付けるような鋭い眼光がカエルを射る。
青蛙は笑っていた。今も、つい先刻と同じように、口の端を吊り上げて意地の悪い笑みを浮かべている。
四肢はだらりと地面に投げ出したまま、起き上がる様子はない。
何故笑っているのか、カエルにはわからなかった。その時は。
理解したのは、更に一歩を踏み出そうとした時だ。
最初に気付いたのは腕の痺れ。青蛙の反撃が掠った剥き出しの腕の辺りがじんじんと熱い。
摩擦で擦過傷を負っただけかと思っていたが、気付けば痺れは次第に強くなり、腕から指先へ、また肩へと広がっている。
踏み出しかけた足に力が入らず、カエルは勢い余って地面に膝をつく。既に痺れは足にまで伝わっていた。
嫌味な笑みを浮かべた青蛙が、ふらつきながら起き上がる。
ひょろりと長い手を、青蛙はカエルの前に突き出した。さながら、喉元に刃を突き付ける仕草のように。
その指先がぬらりと濡れて光った。間近で見て初めて気付く。青蛙の指から紫色の液体が染み出し、その薄い膜が指先を覆っててらてらと輝いている。
(毒……!)
いかに機敏な動きとはいえ爪も牙も持たないカエル、それもかなりの小柄な体格では破壊力には劣る。
小さな生物が戦いの力を身に着けている、即ち狩りを生業としているならば、獲物を仕留めるための決め手があって然るべき。
もっと早く気付くべきだったのだ。この青蛙の手はただ殴るだけの武器ではないことに。
毒液に覆われた指は、カエルの腕を掠めただけだった。しかしそれだけでも充分だったのだ。
カエルの皮膚は粘膜に覆われている。人間の皮膚や獣の毛皮よりも容易く毒を吸収してしまう造りだ。
間合いの読み合いに勝利したのは、ひとえに彼がカエルであるゆえだ。
しかし毒の効果がこれほど強く現れることも、彼がカエルでなければなかっただろう。
カエルは深く息を吐く。木の棒で体を支えながら、今は自分を見下ろして立っている小さな青蛙を見上げる。
「――俺の負け、だったか」
自嘲の笑みが浮かんだ。勝ったつもりで、足元を掬われていることにも気付かなかったことが情けない。
結局、殺戮を止めようなどと大それたことを考えてはみても、何も成し遂げられはしなかった。
まだカエルではなかった頃の苦い経験が甦る。強大すぎる敵を前に身動きも取れなかった、臆病者だった自分。
あの日よりも今は強くなっている、そう思っていた。
しかし強くなろうとも、その力で何も為せないならば弱かった日から変わっていないも同然ではないか。
あの時、動けない自分を蔑みの目で見て、憎き敵はこう言った――まるで、蛇に睨まれたカエルだと。
それに相応しい姿に、彼は変えられたのだ。
「俺は結局、カエルでしかなかった……なんて言っちゃあ、お前に失礼か」
青蛙を見上げて笑い、止めの一撃が来るのを待つ。
いや――既に、見上げる必要はなかった。
カエルを見下ろすように立っていた青蛙はいつしかしゃがみ込み、同じ視線の高さでカエルの顔を見ていた。
毒々しくも鮮やかな橙色の頬が風船のように膨らむ。隈のような模様に縁取られた小さな目が、カエルをじっと見つめる。
その表情はやはり意地の悪いにやにや笑いに見えて、カエルは戸惑う。
「……お前」
呼び掛けに応えるように、頬を鳴らして青蛙が鳴く。
目付きは相変わらず睨むように鋭いが、敵意も、殺意も感じられない。
おぼろげにカエルは理解し始める。やはりこの青蛙は、戦いを楽しんでいたのだ。
それ自体が目的であり、戦って破った相手をどうするという気もなかったのだろう。
「戦いたかっただけ、なのか?」
唸るような鳴き声と共に、青蛙は頷いた。
その反応は予測の裏付けとなると同時に、この青蛙に言葉が通じているという証拠でもある。
元々人語を解する生き物なのか、キュウビがあつらえた首輪の力なのか。いずれにしても、話のわからない相手ではないのだ。
ならば、とカエルは期待を抱く。この青蛙の有り余る闘志と力。それはただの脅威ではなく、違う形で活かすこともできるものではないか。
そう、例えば、キュウビに牙を剥くというような。
考えを口にしようとカエルが口を開きかけた、その時。青蛙がふと空を見上げる。
まだ体が痺れ、うまく動かないが辛うじて頭は上がる。青蛙の視線の先をカエルは追った。
しかし、暗い空には何も見えない。ただ虚空を、青蛙は見つめているようだった。
しばらくそのままじっとしていた青蛙が、突然カエルに向き直る。――かと思うと、唐突にカエルの手を掴んだ。
訳もわからず面食らうカエルの様子に構いもせずに、青蛙はそのまま走り出す。
「お、おい!」
制止の声にも青蛙は止まらない。手を引っ張ってカエルを引きずったまま、一直線にどこかへ走る、走る、走る。
マントが頭の下に入ってくれたお陰で擦り傷だらけになるのは免れたが、摩擦熱で背中や後頭部が猛烈に熱い。
声にならない悲鳴を上げながら、カエルはされるがままに運ばれてゆく。
これだけの速度で引きずっていても掴んだ手が離れないところを見ると、青蛙の三本指の手は意外に器用らしい。
握力も相当のもので、掴まれて引っ張られている手も痛い。
仰向けで見上げた夜の空が、引っ張られてゆく内にやがて隠れる。空を覆うのは大きく枝を伸ばした木々。
そのまましばらく走り、外から見れば二人の姿が完全に森に隠れたであろう頃、やっと青蛙は立ち止まる。
まだ事態を飲み込めないまま、カエルは倒れたまま肩で息をする。
カエルの手を離し、傍らに再びしゃがみ込んだ青蛙が、情けないなとでも言うようににやりと笑った。
自分も高速で引きずられてみてから笑え、と思うが言い返しても現状、負け惜しみにしかならない。
やっと呼吸が落ち着き、ひとつ溜息をついてカエルは身を起こす。
いつの間にか、体の痺れはほとんど抜けていた。毒の効果はあまり長くは続かなかったらしい。掠っただけだったせいかも知れないが。
何のつもりだ、と問おうと口を開く――と、それを制するように青蛙がカエルの口に手を当てる。
一瞬毒を警戒したが、手を引いている内にカエルの手袋に拭われたのだろう、その指は今は毒液に濡れてはいない。
黙れ、と言いたいのだろう。青蛙は促すように、斜め上を見上げた。
カエルもその方向を見上げる。森の外、先程までいた平地をちょうど見下ろせる崖の上に何かの影がある。
鳥だ。今まさにどこからか飛んできて着地したかのように、崖の上で大きな翼を畳む。
いつの間に、とカエルは不審に思う。カエルは鳥の影を見た覚えも、羽音を聞いた覚えもない。
走り出す前に青蛙は空を見上げていたが、その時もカエルには何も見えてはいなかった。
まさか青蛙は、自分達が森に隠れた後にあの鳥が飛んでくるのを見越して走り出したとでもいうのか。
鳥はしばし崖の上でじっとして、眼下の光景を見下ろしているようだった。
森の木々に隠れたカエル達の姿は、あの高さと距離では見付からないだろう。
しかし、それにしても妙だ。月があるにしても夜の帳の下、鳥が活動することができるのか。
鳥目とも言われるように、鳥類は夜目が利かないことで有名である。景色を見渡したところで、鳥の目にそれは見えているのだろうか。
それとも、梟のような夜行性の鳥か。
頭を捻りながらカエルが観察する中、鳥が再び翼を開く。
その姿に、カエルは息を飲む。
いや、正確には鳥自身の姿ではなく、その背後に浮かび上がった異形の姿に。
翼を開いた鳥の背に寄り添うように、氷のような質感の鳥の骸骨、或いは翼竜の骸骨のような姿が見える。
それは鳥とそっくり同じ格好をし、骨組みだけの翼を開き、月光に煌めいていた。
(何だ、アレは……?)
その異様な姿から、カエルは目を離せなかった。あの鳥がただの鳥類ではなく、魔物の類であることは確かだ。
どんな力を持っているかは、完全に未知数。
しかし確かなことが一つある。あの鳥を敵に回すのは、極めて危険だ。
相手が飛行能力を持っている以上、空からヒット&アウェイを繰り返されれば飛ぶ術のないこちらからの反撃は難しい。
魔法にも射程はあるし、かえるおとしで押し潰そうにも猛禽の飛行速度を考えると下を潜り抜けられる危険すらある。
鳥が戦意を持っているかは今のところ定かではないが、安全だと確証が持てるまで近付かない方が良さそうだ。
鳥とその背後の異形が、同時に崖の上から飛び立った。
ぴったりと重なり合った二対の翼が夜の風に乗る。ゆっくりと、鳥は空中で旋回を始めた。
眼下に獲物を探すように、そして威風堂々たるその翼と、背後の異形を誇らしげに見せ付けるように。
カエルは青蛙を振り向いた。顔を見合わせて、二人は息を潜める。
聞こえるのは鳥の羽音と、森を吹き抜けてゆく微かな風の音、少し遠くから聞こえる流れる水の音。
その他の物音を少しでも立てたら見付かってしまうのではないか。そんな緊張感が走る。
森にいる限り密生した木々が鳥の急降下からは守ってくれそうに思えるが、何も攻撃手段が爪と嘴だけとは限らないのだ。
「……しばらく様子を見るぞ」
極限まで声を落として、青蛙に囁く。鳥にいかに鋭敏な聴覚があろうと、この距離でここまでの小声なら聞き取れないだろう。
青蛙は頷き、また空を見上げる。
優雅に宙を舞う鳥を見る苦々しげな表情は、己の手ではその翼には届かないという歯痒さを噛み締めているように見えた。
手が届きさえすれば、あの得体の知れない魔物とも戦うつもりだったのだろうか。
全くカエルらしからぬカエルだ。カエルは呆れカエル、もとい呆れ返る。
と、同時に言い忘れていたことに気付いた。
空を見上げた青蛙の肩を、軽く指で突く。苦虫を丸呑みし損ねたような顔のまま、青蛙は振り向いた。
「奴に気付いて、俺をここまで連れてきてくれたんだろう。恩に着る」
抑えた声で告げると、青蛙は皮肉っぽい、憎たらしい表情を浮かべて頬を膨らます。
そして小さく一声、吐き捨てるように。
「……ケッ」
――と、鳴いた。
【B-5/森/一日目/深夜】
【カエル@クロノトリガー】
【状態】:手足にごく軽い痺れ
【装備】:ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5
【所持品】:支給品一式、モンスターボール@ポケットモンスター、マッスルドリンコ@真・女神転生
【思考】
基本:キュウビに対抗し、殺し合いと呪法を阻止する
1:鳥の様子を見て対処を考える
2:青蛙を対主催の仲間にしたい
【グレッグル@ポケットモンスター】
【状態】:腹に打撲、ちょっと痛い
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:面白そうな奴と戦う(命は取らない)
1:あの鳥はやばい、関わるのは避けたい
2:カエルにちょっと親近感+連帯感
3:ピカチュウとニャースは一応ピンチに陥ってたら助ける
【備考】:特性「きけんよち」によりペット・ショップを大きな脅威と認識しました。
【B-6/崖上/一日目/深夜】
【ペット・ショップ@ジョジョの奇妙な冒険】
【状態】:健康、ホルス神発現中
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:優勝してDIOの館に帰る
1:空から様子を窺う。目に付いた奴は殺す
【備考】:ホルス神発現中はスタンド視覚により夜でも目が見えます。
ただし見えているのは本体の視界ではなくスタンドの視界内です。
【ひのきのぼう@ドラゴンクエスト5】
お馴染み最弱武器。ただの棒。
【モンスターボール@ポケットモンスター】
ポケモンを収納できるボール。もちろん今は空。
ポケモンは衰弱すると自己を収縮させ狭い場所に入り込む性質がある(ゲーム設定だがアニメでも多分同じ)ため
それを利用してポケモンの捕獲・持ち運びに使われる。
人間が片手で握れるサイズで、真ん中にあるスイッチを押しながら投げるとポケモンが飛び出す。
ボールの中にいる間、ポケモンの重量は無視されるらしい。
ポケモンは中からも外の様子がわかり、自分の意思で外に出ることも可能。
弱ったポケモンに投げ付けることで閉じ込めて捕まえることも可能だが、既に主人のいるポケモンには無効。
本ロワ内では、捕まる意思のないポケモンは抵抗不能状態でなければ捕まえられず、
捕まえても一時的なものでトレーナーになったとは見なさないものとする。
【マッスルドリンコ@真・女神転生】
強力な栄養ドリンク。上限を超えてHPを回復させることが可能だが、回復量は中程度。
ただし飲みすぎると(ゲームではHPが上限の2倍を超えると)副作用でHPが激減する。
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|&color(cyan){GAME START}|グレッグル|036[[暴走ポケモン特急]]|
|&color(cyan){GAME START}|ペット・ショップ|027[[アライグマくんの受難]]|
|&color(cyan){GAME START}|カエル|036[[暴走ポケモン特急]]|
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