「終端の宴と異世界の騎士」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「終端の宴と異世界の騎士」(2008/09/18 (木) 14:04:47) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*終端の宴と異世界の騎士 ◆w2G/OW/em6
エリアE―1……そこに建つ城。
城という言葉から連想される豪奢かつ荘厳な雰囲気も、この殺し合いの遊戯では意味をなさない物となる。
森の中にひっそりと存在する古城は、月光を浴びてただ……静かにそびえるのみ。
その城のバルコニーにて、彼女は月を見上げていた。
美しい白銀の毛並みに、紫色の鬣に、柔らかい月の光は降り注ぐ。
白く、微かに青みがかった満月……それは、彼女の敬愛する主を思い出させた。
慈愛に満ちた知恵のドラゴンが紅一点……白妙の竜姫・ヴァディス。
かつて死の淵にあった自分の命を救い、今は仕えている者ではなく対等な話し合い手として見てくれている存在。
ああ……この殺し合いを主が知ったらどのような事を思うだろう?
きっと、自らの命を賭してでも止めようとするだろう。
キュウビと名乗ったあの魔獣を決して許しはしないだろう。
過去には実の姉と弟の戦いを止めるため、自らの使命たるマナストーンの守護を放棄しようとまでしたのだ。
竜に仕え、守護する戦士――ドラグーン――として、長い時を共に過ごした自分だからこそ、その優しさは誰よりもよく分かる。
――――――だが、それでも。
――――――大事な主が、望まないと知っていても。
「申し訳ありません……ヴァディス様」
バルコニーから見下ろした先……そこを進む青い獣を見つけ。
彼女――シエラは跳んだ。
◇
「本能の赴くまま殺し合え、か……随分と舐められたものだな」
青白い月の光に照らされ、そびえ立つ古城の近くの線路沿い。
夜天の主に仕えし守護騎士が一人、盾の守護獣ザフィーラは苦々しく呟く。
外見こそ青い毛並みを持つ巨躯の狼ではあるが、彼の実態は何千年もの時を生きた魔道書のプログラムだ。
無論、本能のままに動くただの獣とは違う……殺し合えという理不尽な命令と、それを命じたキュウビという獣に歯向かう意思が彼にはある。
幸い、この場に招かれた者は獣の姿を持つ者だけであるらしい。
彼が守るべき主や、仲間の守護騎士達は巻き込まれていないということだ。
だが、同時に巻き込まれた仲間も存在する、主の友人フェイトの使い魔アルフ。同じく主の友人である魔導士ユーノ。
フェレットに変化できるとはいえ、人間であるユーノがどうしているのか疑問だが……まさか、本当にフェレットと間違えたという訳ではないだろう。
まずは彼らと合流……その道中で、殺し合いへの抵抗を試みる他の動物を探す。
今後の行動方針を大ざっぱに決めると、支給されたデイパックを首にかけ………大きく後ろへと飛び退く。
直後、ザフィーラが数秒前までいた場所へと白刃が振り下ろされた。
(殺し合いに乗った獣……いや、違うな。獣人か?)
衝撃で舞い上がった土煙が晴れ、眼前に襲撃者の姿が現れる。
先ほど振り下ろされた片手斧に月光を反射させ、冷たい瞳で自分を睨みつける姿。
人間形体の自分やアルフよりも、若干獣に近い姿をしているが……白い毛並みを持つ、狼によく似た獣人。
「……こちらには、殺し合いに乗る意思はないが?」
無駄な事と思いつつも、確認のために襲撃者へと声をかける。
「そちらにその意思が無くとも、私にはある」
ろくな感情のこもっていない声を返される。
顔つきや体型から予想はついていたが、やはり女か。
だからと言って、加減するつもりは毛頭ないが。
「すまないが……死んでもらうッ!」
裂迫の気合と共に、獣人が突っ込んでくる。
……どうやら戦いは避けられないらしい。
◇
シエラは焦り始めていた。
ただの獣と見て襲いかかったはいいが、この狼……なかなかに手強い。
彼女がヴァディスと共に暮らしていた白の森にも凶暴な獣はいくらかいたが、それを束にしてもこの狼にはかなうまい。
鋭い牙と爪、巨体に似合わず俊敏な動き、魔楽器なしで魔法を行使できる能力。何より狼のくせに空を飛ぶ。
実力としては互角……いや、こちらが若干不利。
せめて愛用する2本の短剣があれば……と思うが、無いものは仕方がない。
―――轟!
空気を震わせ、狼が雄たけびをあげる。
そこらの小動物なら間近で聴いただけで卒倒しそうな声だが、咆哮の目的はそんなものではない。
狼の足元に三角形の魔法陣が展開……直後、シエラの足元からいくつもの青白い楔がせり上がる。
素早くかわすが、やはり何本かは身をかすめ体に細かい切り傷を刻む。
「……っ!」
楔の林から転がる様に離れる。―――いつの間にか城からは離れ、鉄と砂利で出来た道の様な場所に出ていた。
先ほどまで城と道の間にあった木の柵は、すでに戦いの影響でバラバラになっている。
「まだやる気か? できれば、殺したくはないのだが」
少し離れた所に立つ狼が問いかける。
自分が優勢であることを自覚しているであろうその言葉が、焦りに加えて怒りを湧き起こらせる。
「情けをかけるつもりか? 獣の分際で、余計な知恵を持っている物だな」
「獣の分際とは心外だな……ただ、俺が仕えている主は殺し合いなど望まんお方だ」
「主……だと、貴様も主を持つ者なのか?」
シエラの言葉に、狼は少しだけ眉をひそめる。
「俺の名はザフィーラ、夜天の書の守護騎士にして、夜天の王・八神はやてに仕える盾の守護獣。
……貴様『も』ということはお前も主を持つ騎士なのだな?」
主という言葉に心苦しい思いがシエラの胸の内に疼く。
「……名乗られたからには、こちらも名乗らない訳にはいかないな。
私はシエラ……知恵のドラゴンが一人、白妙の竜姫・ヴァディスに仕えるドラグーンだ」
「そうか、ではひとつ訊くが……そのヴァディスというお前の主は、殺し合いを肯定する様な輩か?」
「違う!」
即座に上げられるシエラの否定の声。
「ヴァディス様は……ヴァディス様は、その様な事を認める方ではない!」
「ならば、何故お前は殺し合いに乗った?
ヴァディスという名は名簿には無かったはずだ……一刻も早く主の元へと帰るためか?
それとも、ただ単に生きたいがためか?」
挑発にも似た、ザフィーラという狼……いや、騎士たる者の問いかけ。
それに対してシエラが返すのは。
「こちらからもひとつ訊こう、盾の守護獣。
貴様にとって守るべき存在は……主だけか?」
「……何だと?」
同じ様な、問いかけ。
「ヴァディス様は私にとってかけがえのない方だ……主が大切なのは貴様も同じだろうな?
だが私にとって、失いたくない存在というのはヴァディス様だけではない」
正確には一度失った存在だがな、とシエラは続ける。
「だが、それだからこそ二度と失う訳にはいかない。
例えこの場にいる全ての命を奪ってでも……私の命に代えても、絶対にだ!」
片手斧を構え―――シエラは、己が想いを叫ぶ。
「そのためにも、死んでもらうぞ! 盾の守護獣!」
「……痴れ者が!」
再び片手斧を振りかざし、ザフィーラへと斬りかかるシエラ。
対するザフィーラは怒りを露にした咆哮をもってそれに応える。
「失いたくない者がいるのは貴様だけではない!
キュウビに殺された仔リスを! そしてその周りにいた者達の悲しみに満ちた顔を! 見なかったのか貴様は!」
「私も見なかったわけではない! だが、その時に思い出したんだ! 失う痛みを!
もう二度とあんな思いはしたくない! それだけだ!」
斧の刃が、爪と牙が。
互いの得物が月夜に閃き、ぶつかり合う。
「ならば、貴様の主はどうする! 殺し合いを望まぬであろう主の意思を踏みにじる気か!
守るべき存在がいくつもあるのなら、全て守ろうとは思わんのか!」
「私とてヴァディス様の意思を汚す事などしたくない!
だが、その事で迷っている内にあいつを失ってからでは遅いんだ!」
相容れぬ意思を持つ騎士達の、幾度とない衝突。
その戦いに、終わりを告げたのは。
―――ガタン、ガタン、ガタン
ふいに二人の横から、眩い光が射す。
月光とは明らかに違うその光を放ち、こちらへと猛スピードで向かって来るのは……
「―――電車か!?」
ザフィーラが言った聞きなれない言葉が、シエラの耳に届いた。
◇
「……逃げた、か」
目の前の線路を電車が通り過ぎた後、ザフィーラは呟いた。
戦いの最中に線路の上に来てしまっている事には気づいていたが、まさかああもタイミング悪く電車が来るとは考えなかった。
轢き殺されてはたまらないと、自分もシエラも線路上から飛び退いた……自分は東側、シエラは西側。
反対側へと避けたシエラはどうやら、電車が通り過ぎるまでに退却したようだが……
「しかし油断をした……まさか武器を捨てるとはな」
ザフィーラの足元には、シエラの使っていた片手斧が落ちていた。その刃は血で濡れている。
電車を避けるために生じた、一瞬の隙。
その隙をついてシエラは、斧を自分へと向けて投擲したのだ。
武器を失ってまでの攻撃は確かな功績を残した……斧は左前足に見事に命中。
傷自体はそんなに深くないが、出血している。早めに手当てしなければ動きに支障が出るだろう。
(さて、とりあえずはどこかで傷の手当か……)
ふと、足元の片手斧に目を落とす。
これを振るっていた戦士……それは、嘗ての自分―――はやてのために、魔道士からリンカーコアを狩っていた頃―――を思い出させた。
(全てに変えても、守るべき者がいる……その気持ち、分からないでもないがな)
【E-2/線路付近/一日目/夜中】
【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
【状態】:疲労(小)魔力消費(小)左前足に裂傷
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(不明支給品1~3)、ブロンズハチェット@聖剣伝説Legend of Mana
【思考】
基本:キュウビの打倒。殺し合いからの脱出
0:どこかで怪我の治療
1:アルフ、ユーノの捜索
2:殺し合いに乗っていない動物の保護
3:シエラを警戒。可能なら説得する?
※参戦時期はAs本編終了後、エピローグ前です。
※シエラが別の参加者のために殺し合いに乗ったと知りました。
※E-2の線路周辺の木柵が破壊されています。線路には傷はついていないようです。
「『デンシャ』とか言ったか、あのゴーレムは……随分と物騒なトラップだな。」
鉄の道を走ってくる巨大なゴーレムをかわした後、シエラは再び城へと戻ってきていた。
どうやらキュウビは、参加者同士の殺し合いでは物足りないらしい。
(化け狐の思惑などどうでもいいが……それよりも、今は武器を調達するべきだな)
ザフィーラへと投げてしまった斧については、少し惜しかったかもしれない。
あのタイミングでは避けれはしないだろう。多少痛手を負わすことは出来たと思うが……
「やはり、斧はお前が持つべきだな……ラルク」
この場のどこかにいるであろう、弟の名を呟く。
彼女が今、最も失いたくない存在。
ラルクは、一度死んだ身だった。
だが彼は生き返るために、奈落に幽閉されていた紅のドラゴン・ティアマットと手を組んだ。
そして完全なる復活を遂げるために他のドラゴンを殺しマナストーンを集め……
―――最後はティアマットに利用され、異形の化け物にされてしまった。
その時の光景を思い出し、唇を噛み締める。
忘れるはずもない……異形となったラルクを殺したのは、他でもない彼女なのだから。
だから彼がティアマットの呪いから開放され、再び地上に出ることができるようになった時……
彼女は、本当に嬉しかったのだ。
もう二度と、姉弟で戦うことなどないと。
あのような悲劇は、これ以上無いのだと。
(だが……悲劇は、起きた。何が殺し合いだ! 何が……何がいけなかったんだ!)
生き残るのはただ一人。他は全て死ぬ。
死んだ者の行き着く先は、ティアマットが嘗ていた、あの奈落……!
(ラルク、もうお前をあんな場所へは行かせない。今度こそ姉として……お前を助けてみせる!)
ラルクも自分と同じ、立派な戦士だ。
簡単には死にはしないだろう……ならば、自分は一匹でも多くこの場の獣を殺す。
何より、弟は自分がこんなやり方で生き残るのを望まないだろう。彼に合わせる顔がない。
(申し訳ありません、ヴァディス様……私はきっと、もう貴女に会えないでしょう)
夜空に輝く満月を見て、優しき主へと思いをはせる。
(ですから……この場では貴女の戦士ではなく、一人の『姉』でいさせては貰えないでしょうか?)
【E-1/城/一日目/夜中】
【シエラ@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】:疲労(小)全身に細かい裂傷
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(不明支給品0~2)
【思考】
基本:ラルクを最後まで生き残らせる
0:とりあえず怪我の手当て
1:使えそうな武器を探す
2:他の動物を殺す
3:ラルクには出来れば会いたくない
※参戦時期はドラグーン編のシナリオ終了後です。
※電車を知りません。キュウビの用意したトラップだと思っています。
【ブロンズハチェット@聖剣伝説Legend of Mana】
メノス銅製の片手斧。
*時系列順で読む
Back:[[主に仕えし魔物の道は]] Next:[[クズリくんのお父さんとコウマくん]]
*投下順で読む
Back:[[主に仕えし魔物の道は]] Next:[[クズリくんのお父さんとコウマくん]]
|&color(cyan){GAME START}|ザフィーラ|025:[[それは不幸な出会いなの?]]|
|&color(cyan){GAME START}|シエラ| |
*終端の宴と異世界の騎士 ◆w2G/OW/em6
エリアE―1……そこに建つ城。
城という言葉から連想される豪奢かつ荘厳な雰囲気も、この殺し合いの遊戯では意味をなさない物となる。
森の中にひっそりと存在する古城は、月光を浴びてただ……静かにそびえるのみ。
その城のバルコニーにて、彼女は月を見上げていた。
美しい白銀の毛並みに、紫色の鬣に、柔らかい月の光は降り注ぐ。
白く、微かに青みがかった満月……それは、彼女の敬愛する主を思い出させた。
慈愛に満ちた知恵のドラゴンが紅一点……白妙の竜姫・ヴァディス。
かつて死の淵にあった自分の命を救い、今は仕えている者ではなく対等な話し合い手として見てくれている存在。
ああ……この殺し合いを主が知ったらどのような事を思うだろう?
きっと、自らの命を賭してでも止めようとするだろう。
キュウビと名乗ったあの魔獣を決して許しはしないだろう。
過去には実の姉と弟の戦いを止めるため、自らの使命たるマナストーンの守護を放棄しようとまでしたのだ。
竜に仕え、守護する戦士――ドラグーン――として、長い時を共に過ごした自分だからこそ、その優しさは誰よりもよく分かる。
――――――だが、それでも。
――――――大事な主が、望まないと知っていても。
「申し訳ありません……ヴァディス様」
バルコニーから見下ろした先……そこを進む青い獣を見つけ。
彼女――シエラは跳んだ。
◇
「本能の赴くまま殺し合え、か……随分と舐められたものだな」
青白い月の光に照らされ、そびえ立つ古城の近くの線路沿い。
夜天の主に仕えし守護騎士が一人、盾の守護獣ザフィーラは苦々しく呟く。
外見こそ青い毛並みを持つ巨躯の狼ではあるが、彼の実態は何千年もの時を生きた魔道書のプログラムだ。
無論、本能のままに動くただの獣とは違う……殺し合えという理不尽な命令と、それを命じたキュウビという獣に歯向かう意思が彼にはある。
幸い、この場に招かれた者は獣の姿を持つ者だけであるらしい。
彼が守るべき主や、仲間の守護騎士達は巻き込まれていないということだ。
だが、同時に巻き込まれた仲間も存在する、主の友人フェイトの使い魔アルフ。同じく主の友人である魔導士ユーノ。
フェレットに変化できるとはいえ、人間であるユーノがどうしているのか疑問だが……まさか、本当にフェレットと間違えたという訳ではないだろう。
まずは彼らと合流……その道中で、殺し合いへの抵抗を試みる他の動物を探す。
今後の行動方針を大ざっぱに決めると、支給されたデイパックを首にかけ………大きく後ろへと飛び退く。
直後、ザフィーラが数秒前までいた場所へと白刃が振り下ろされた。
(殺し合いに乗った獣……いや、違うな。獣人か?)
衝撃で舞い上がった土煙が晴れ、眼前に襲撃者の姿が現れる。
先ほど振り下ろされた片手斧に月光を反射させ、冷たい瞳で自分を睨みつける姿。
人間形体の自分やアルフよりも、若干獣に近い姿をしているが……白い毛並みを持つ、狼によく似た獣人。
「……こちらには、殺し合いに乗る意思はないが?」
無駄な事と思いつつも、確認のために襲撃者へと声をかける。
「そちらにその意思が無くとも、私にはある」
ろくな感情のこもっていない声を返される。
顔つきや体型から予想はついていたが、やはり女か。
だからと言って、加減するつもりは毛頭ないが。
「すまないが……死んでもらうッ!」
裂迫の気合と共に、獣人が突っ込んでくる。
……どうやら戦いは避けられないらしい。
◇
シエラは焦り始めていた。
ただの獣と見て襲いかかったはいいが、この狼……なかなかに手強い。
彼女がヴァディスと共に暮らしていた白の森にも凶暴な獣はいくらかいたが、それを束にしてもこの狼にはかなうまい。
鋭い牙と爪、巨体に似合わず俊敏な動き、魔楽器なしで魔法を行使できる能力。何より狼のくせに空を飛ぶ。
実力としては互角……いや、こちらが若干不利。
せめて愛用する2本の短剣があれば……と思うが、無いものは仕方がない。
―――轟!
空気を震わせ、狼が雄たけびをあげる。
そこらの小動物なら間近で聴いただけで卒倒しそうな声だが、咆哮の目的はそんなものではない。
狼の足元に三角形の魔法陣が展開……直後、シエラの足元からいくつもの青白い楔がせり上がる。
素早くかわすが、やはり何本かは身をかすめ体に細かい切り傷を刻む。
「……っ!」
楔の林から転がる様に離れる。―――いつの間にか城からは離れ、鉄と砂利で出来た道の様な場所に出ていた。
先ほどまで城と道の間にあった木の柵は、すでに戦いの影響でバラバラになっている。
「まだやる気か? できれば、殺したくはないのだが」
少し離れた所に立つ狼が問いかける。
自分が優勢であることを自覚しているであろうその言葉が、焦りに加えて怒りを湧き起こらせる。
「情けをかけるつもりか? 獣の分際で、余計な知恵を持っている物だな」
「獣の分際とは心外だな……ただ、俺が仕えている主は殺し合いなど望まんお方だ」
「主……だと、貴様も主を持つ者なのか?」
シエラの言葉に、狼は少しだけ眉をひそめる。
「俺の名はザフィーラ、夜天の書の守護騎士にして、夜天の王・八神はやてに仕える盾の守護獣。
……貴様『も』ということはお前も主を持つ騎士なのだな?」
主という言葉に心苦しい思いがシエラの胸の内に疼く。
「……名乗られたからには、こちらも名乗らない訳にはいかないな。
私はシエラ……知恵のドラゴンが一人、白妙の竜姫・ヴァディスに仕えるドラグーンだ」
「そうか、ではひとつ訊くが……そのヴァディスというお前の主は、殺し合いを肯定する様な輩か?」
「違う!」
即座に上げられるシエラの否定の声。
「ヴァディス様は……ヴァディス様は、その様な事を認める方ではない!」
「ならば、何故お前は殺し合いに乗った?
ヴァディスという名は名簿には無かったはずだ……一刻も早く主の元へと帰るためか?
それとも、ただ単に生きたいがためか?」
挑発にも似た、ザフィーラという狼……いや、騎士たる者の問いかけ。
それに対してシエラが返すのは。
「こちらからもひとつ訊こう、盾の守護獣。
貴様にとって守るべき存在は……主だけか?」
「……何だと?」
同じ様な、問いかけ。
「ヴァディス様は私にとってかけがえのない方だ……主が大切なのは貴様も同じだろうな?
だが私にとって、失いたくない存在というのはヴァディス様だけではない」
正確には一度失った存在だがな、とシエラは続ける。
「だが、それだからこそ二度と失う訳にはいかない。
例えこの場にいる全ての命を奪ってでも……私の命に代えても、絶対にだ!」
片手斧を構え―――シエラは、己が想いを叫ぶ。
「そのためにも、死んでもらうぞ! 盾の守護獣!」
「……痴れ者が!」
再び片手斧を振りかざし、ザフィーラへと斬りかかるシエラ。
対するザフィーラは怒りを露にした咆哮をもってそれに応える。
「失いたくない者がいるのは貴様だけではない!
キュウビに殺された仔リスを! そしてその周りにいた者達の悲しみに満ちた顔を! 見なかったのか貴様は!」
「私も見なかったわけではない! だが、その時に思い出したんだ! 失う痛みを!
もう二度とあんな思いはしたくない! それだけだ!」
斧の刃が、爪と牙が。
互いの得物が月夜に閃き、ぶつかり合う。
「ならば、貴様の主はどうする! 殺し合いを望まぬであろう主の意思を踏みにじる気か!
守るべき存在がいくつもあるのなら、全て守ろうとは思わんのか!」
「私とてヴァディス様の意思を汚す事などしたくない!
だが、その事で迷っている内にあいつを失ってからでは遅いんだ!」
相容れぬ意思を持つ騎士達の、幾度とない衝突。
その戦いに、終わりを告げたのは。
―――ガタン、ガタン、ガタン
ふいに二人の横から、眩い光が射す。
月光とは明らかに違うその光を放ち、こちらへと猛スピードで向かって来るのは……
「―――電車か!?」
ザフィーラが言った聞きなれない言葉が、シエラの耳に届いた。
◇
「……逃げた、か」
目の前の線路を電車が通り過ぎた後、ザフィーラは呟いた。
戦いの最中に線路の上に来てしまっている事には気づいていたが、まさかああもタイミング悪く電車が来るとは考えなかった。
轢き殺されてはたまらないと、自分もシエラも線路上から飛び退いた……自分は東側、シエラは西側。
反対側へと避けたシエラはどうやら、電車が通り過ぎるまでに退却したようだが……
「しかし油断をした……まさか武器を捨てるとはな」
ザフィーラの足元には、シエラの使っていた片手斧が落ちていた。その刃は血で濡れている。
電車を避けるために生じた、一瞬の隙。
その隙をついてシエラは、斧を自分へと向けて投擲したのだ。
武器を失ってまでの攻撃は確かな功績を残した……斧は左前足に見事に命中。
傷自体はそんなに深くないが、出血している。早めに手当てしなければ動きに支障が出るだろう。
(さて、とりあえずはどこかで傷の手当か……)
ふと、足元の片手斧に目を落とす。
これを振るっていた戦士……それは、嘗ての自分―――はやてのために、魔道士からリンカーコアを狩っていた頃―――を思い出させた。
(全てに変えても、守るべき者がいる……その気持ち、分からないでもないがな)
【E-2/線路付近/一日目/夜中】
【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
【状態】:疲労(小)魔力消費(小)左前足に裂傷
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(不明支給品1~3)、ブロンズハチェット@聖剣伝説Legend of Mana
【思考】
基本:キュウビの打倒。殺し合いからの脱出
0:どこかで怪我の治療
1:アルフ、ユーノの捜索
2:殺し合いに乗っていない動物の保護
3:シエラを警戒。可能なら説得する?
※参戦時期はAs本編終了後、エピローグ前です。
※シエラが別の参加者のために殺し合いに乗ったと知りました。
※E-2の線路周辺の木柵が破壊されています。線路には傷はついていないようです。
「『デンシャ』とか言ったか、あのゴーレムは……随分と物騒なトラップだな。」
鉄の道を走ってくる巨大なゴーレムをかわした後、シエラは再び城へと戻ってきていた。
どうやらキュウビは、参加者同士の殺し合いでは物足りないらしい。
(化け狐の思惑などどうでもいいが……それよりも、今は武器を調達するべきだな)
ザフィーラへと投げてしまった斧については、少し惜しかったかもしれない。
あのタイミングでは避けれはしないだろう。多少痛手を負わすことは出来たと思うが……
「やはり、斧はお前が持つべきだな……ラルク」
この場のどこかにいるであろう、弟の名を呟く。
彼女が今、最も失いたくない存在。
ラルクは、一度死んだ身だった。
だが彼は生き返るために、奈落に幽閉されていた紅のドラゴン・ティアマットと手を組んだ。
そして完全なる復活を遂げるために他のドラゴンを殺しマナストーンを集め……
―――最後はティアマットに利用され、異形の化け物にされてしまった。
その時の光景を思い出し、唇を噛み締める。
忘れるはずもない……異形となったラルクを殺したのは、他でもない彼女なのだから。
だから彼がティアマットの呪いから開放され、再び地上に出ることができるようになった時……
彼女は、本当に嬉しかったのだ。
もう二度と、姉弟で戦うことなどないと。
あのような悲劇は、これ以上無いのだと。
(だが……悲劇は、起きた。何が殺し合いだ! 何が……何がいけなかったんだ!)
生き残るのはただ一人。他は全て死ぬ。
死んだ者の行き着く先は、ティアマットが嘗ていた、あの奈落……!
(ラルク、もうお前をあんな場所へは行かせない。今度こそ姉として……お前を助けてみせる!)
ラルクも自分と同じ、立派な戦士だ。
簡単には死にはしないだろう……ならば、自分は一匹でも多くこの場の獣を殺す。
何より、弟は自分がこんなやり方で生き残るのを望まないだろう。彼に合わせる顔がない。
(申し訳ありません、ヴァディス様……私はきっと、もう貴女に会えないでしょう)
夜空に輝く満月を見て、優しき主へと思いをはせる。
(ですから……この場では貴女の戦士ではなく、一人の『姉』でいさせては貰えないでしょうか?)
【E-1/城/一日目/夜中】
【シエラ@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】:疲労(小)全身に細かい裂傷
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(不明支給品0~2)
【思考】
基本:ラルクを最後まで生き残らせる
0:とりあえず怪我の手当て
1:使えそうな武器を探す
2:他の動物を殺す
3:ラルクには出来れば会いたくない
※参戦時期はドラグーン編のシナリオ終了後です。
※電車を知りません。キュウビの用意したトラップだと思っています。
【ブロンズハチェット@聖剣伝説Legend of Mana】
メノス銅製の片手斧。
*時系列順で読む
Back:[[主に仕えし魔物の道は]] Next:[[クズリくんのお父さんとコウマくん]]
*投下順で読む
Back:[[主に仕えし魔物の道は]] Next:[[クズリくんのお父さんとコウマくん]]
|&color(cyan){GAME START}|ザフィーラ|025:[[それは不幸な出会いなの?]]|
|&color(cyan){GAME START}|シエラ|028:[[暗い渦]]|
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: