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ここはび~いち、キュウビの湯  ◆TPKO6O3QOM




木立の隙間縫うように、薄っすらと生暖かい夜霧が漂っている。それに紛れて、デイバッグを背負った小柄な白い獣が慎重に歩を進めていた。
 羽飾りのついた特徴的な服を着た柴犬だ。名をコロマルという。普段であればくるりと見事に巻いているはずの尾っぽは、今は垂れてしまっていた。
 時折、首を左右に傾げては、周囲の物音の位置を確認する。辺りには異臭が漂っており、彼の鼻の機能を妨害していた。スンスンというくしゃみが霧の中に紛れて行く。

 影時間――1日と1日の狭間にある、影が跋扈せし失われた刻。

 丁度そのぐらいの時間だと、彼の五感が告げている。しかし、彼の耳にとどく風音や水の轟きが、それを否定していた。また、彼には感知できないが、本来であるならば青緑色を放っていなければならない満月が蒼褪めた光を天上から降らしている。

 影時間でなければならないのに、今、影時間は存在していない。
 その事実にコロマルは愕然とした。

 自分が知らない間に、仲間たちがニュクスを倒し、影時間を消したのだろうか。しかし、彼の記憶が正しければ、予定されていた決戦のときまでの日にちはまだあったはずだ。
 見知らぬ風景と途切れている記憶への戸惑いが呼吸を浅く、荒いものにする。
 少なくとも言えることは、今この地に彼の仲間たちは来ていないということだ。それは暗転する直前の地で確認している。そのことへの安堵と、幾許かの心細さが彼の足取りに表れていた。

 しかし、それ以上に彼の胸を占めているのはキュウビと名乗った狐への怒りだ。
 あの狐は力を誇示するために子リスを殺した。その知り合いらしい、アライグマとラッコの打ちひしがれた姿は忘れられない。それは、かつて主人をシャドウに殺された己自身の姿そのものだったからだ。
 だからこそ、コロマルは彼らの仇討ちを手伝ってやりたいと思っていた。この気持ちに、彼の仲間たちもきっと賛同してくれることだろう。男には戦わねばならないときがあるのだ。

しかし一方で、仲間たちの下へと戻りたいという気持ちも強くあった。命を救ってくれた人間たちへの恩返しは、まだ済んでいない。
 だからといって、キュウビの意に従って殺し合いに乗るなど彼の誇りに反する。何より、それでは胸を張って帰れるはずもない。
 帰還のための近道は、やはりキュウビを倒すことなのだ。
 そのためには、また新たに頼れる仲間を作らなくてはならない。たとえ大勢でも烏合の衆では強敵に対抗できないのは経験から分かっている。コロマルの脳裏に、的確な指示を出し、自身も勇敢に戦う黒髪の少年の姿が浮かんでいた。

 やがて、霧の中から瓦屋根を据えた門が姿を現した。日に焼けて黒ずみ、亀裂が入った門には薄っすらと苔が生えている。その年季の入った佇まいは、ふと彼に郷愁を喚起させた。主人と一緒に過ごした幸せな日々が胸を駆け巡る。
 誰かが居るかもしれない。
 そう思って、彼はその門を潜った。その門には、墨で大きく「キュウビ温泉」と書かれていた。


「良~い湯だなあ~っとなあ」

 声が湧き立つ湯気とともに満天の星空へと吸い込まれていく。アライグマの父はなんともなしに、薄靄の向こうに瞬く星を眺めていた。

 何処かで鳴る鹿威しの深遠な音が、周囲の静けさを更に引き立てている。湯気の向こうに小屋の影が薄っすらと見えていた。しゃくりと、芋をかじる音が水音に紛れて消える。
 ごつごつとした岩を組み合わせて作られた湯船には白緑色の湯が溢れていた。毀れ落ちる少し熱めの湯が岩盤の上で弾け、まるで上質な音楽のような音色を響かせている。
 それに耳を傾けながら、彼は湧き立つ湯に身を任せていた。肩まで浸かった肢体に、適度に粘り気のある湯がじんわりと染み込んでいくのがはっきりと感じられる。
 辺りを包む、毛に纏わり付く湿気と鼻を突く硫黄の香りは、普段であれば不快でしかないものだが、温泉という場においては心地よさを助長する要素へと姿を変えてしまう。
 突然、森の中に放り出された時の怒りはすっかりと治まってしまっていた。

もっとも、治まった怒りは放り出されたことに対するものだけで、彼の抱える怒り全てが湯に溶け出してしまったわけではない。
 今、彼の最大の怒りの矛先はキュウビと名乗った狐だ。
 殺し合えと告げた、キュウビの声が胸中に繰り返される。
「ああ、くそ。また腹立ってきたぜ。せっかく、温泉に入っているのによ」
 腹に溜まった毒が独白となって吐き出される。
 ただ、殺し合い自体は取り立てて変わったことではない。いつもどこかで、何かが死に、何かが生を得ている。これは想像も出来ないような永い年月の中で繰り返されてきた営みだ。

(運が良けりゃ生き残るし、運が悪けりゃ死ぬ。ようするに、いつものことじゃねえか)

 それをさも偉そうに言い放ったことに対して腹が立つのだ。
 勿論、生き残る可能性を高めるために巣に防衛のための仕掛けを施し、常に逃げ道を知っている場所で行動する。五感と土地勘を総動員してだ。
 だが、もしも見も知らぬ地に放り込まれてしまったらどうするか。
(ラッコの坊主じゃねえが、運に任せるしかねえわな)
 シマリスの子供の首が弾け飛び、それを目にしたラッコと息子の顔が思い出される。理不尽な死を見せ付けられ、幽鬼のような瞳をしたラッコと恐怖に縛られた息子。あの二人はこの見知らぬ地でどうしているのか。

 苛立ちから漏れた荒い吐息が、一瞬だけ湯気を散らしていく。
 以前、彼はラッコの子供に訊いた事があった。外敵に襲われたとき、おまえはどうするのかと。
 それに対する答えは、彼にとって呆れるより他にないものであった。
 あのラッコは、たとえ自分が襲われても大人が助けてくれると根拠も無く信じていた。子供は死なないのだとも言っていた。

 それを目の前で裏切られ、ラッコは何を思ったのだろうか。絶対的な守護者など存在しないと悟ったか。それでもまだ、大人が助けてくれるという甘い考えに縋っているのか。

 ただ、あのラッコは強運で生き残ってきた口だ。その運がまだ続いているのならば、ヒグマの大将やクズリあたりとさっさと合流しているのかもしれない。もっとも、こんな場に連れて来られてはその運も怪しいが。
 一方、自分の息子にそんな運は無い。それは親の自分が保証する。だが、危険に対する鼻は利く方だ。早々に食べられてしまうなんてことはないと思いたい。
 しかし、それでも死ぬときは死ぬ。あのヒグマの大将や、いけ好かないスナドリネコでさえも例外ではない。

「……やっぱり、捜してやるしかねえか。面倒だな、チクショウ」

 彼がそう独りごちて湯から上がろうとしたとき、カラカラと引き戸が動く音がした。何かが入って来たらしい。
 アライグマの父は湯船の外に放っておいたデイバッグを引き寄せ、湯船に身を沈めた。湯気が自分の姿を、硫黄が自分の体臭を隠してくれるはずだ。下手に動かず、様子を見ていたほうがいい。
 やがて、ぺたぺたと岩盤を叩く足音が聞こえてきた。
 そして、湯気の中から小柄な真っ白い狼が姿を現した。一際目を惹く、血の様に赤い瞳はまっすぐにアライグマの父を見据えている。

 アライグマの父は湯の中で気付かれないように両足を広げ、重心を落とした。補足されてしまった以上、水中にいる方が不利だ。
 だが、初撃さえかわせれば五分となる。体格はこちらの方が上のようだから、上手く行けば優位に立てるかもしれない。濡れた体毛が緊張で逆立っていく。
 狼はすでに風呂縁にまで来ていた。狼は黒い首輪の他にもう一つ、左側に大きな膨らみのある首輪をしている。前足で湯を確かめるようにつついたあと、狼はアライグマの父に向かって口吻を向けた。その動作にアライグマの父は湯の中で迎撃の体勢を取る。
 しかし、狼の瞳に微笑のようなものが浮かんでいた。

「オレはコロマル。お前の名は?」

 予想に反し、コロマルと名乗った狼の声に荒々しさはなく、落ち着きすら感じさせるものであった。コロマルは襲い掛かるでもなく、湯を前足で弄びながら、アライグマの父を静かに見つめている。
 その素振りは単にこちらをただ警戒しているだけのように思われた。
 無論、あくまで推測だ。それを信じるに足るだけの根拠は無い。
「……アライグマだ」
 名乗ると、コロマルは小さく首を傾げた。
「たしか、お前、子リスの傍に――」
「そいつの親父だ。名簿じゃあ、アライグマの父で載ってる」
 逆に彼の声には険が滲んでいる。自分ではなく息子の方を優先する書き方に対して、苛立ちが募ったためだ。
「あれは子供の方、か……アライグマのオヤジ、確認したいんだが、お前は殺し合いに乗っているのか?」
 独白の後、少し間を置いてコロマルは質問を重ねる。その直前、彼の赤い瞳がほんの少しだけ揺らいだ。

 殺し合いに乗っているのか。

 アライグマの父は思案する。奇妙な質問だった。生きるということは、常にこういった場に身を置いているということだ。死を望んでいない以上、殺し合いに乗っていると答えるほかない。
 ただし、だからといって相手を選ばないというわけではない。勝てそうにない相手に挑まないのは当然として、彼がラッコの子供やシマリスの子供を襲ったことはない。それはひとえに彼らが息子の友達だからだ。
 コロマルの問いは、誰彼構わず襲い、殺すのかという意味なのだろう。まったくもって、分かり難い問い掛けだ。

「おめえをどうこうする気はねえよ」

 苛立ち混じりの答えに、コロマルは表情を緩めた。後ろに引かれていた耳がピンと前を向く。ハッハッハと、嬉しそうに舌を出して短い呼吸を繰り返した。

「そうか」

 そう言うが早いか、コロマルは湯船に飛び込んだ。飛沫が月へと降りかかり、星屑のように夜空に舞う。その飛沫は当然、アライグマの父の顔にも飛び散った。
「静かに入ぇりやがれってんだよっ!」
 毒づくが、コロマルは気に留めなかったようだ。嬉しそうに湯船の中を泳いでいる。

 殴り飛ばしにいく気力もなくし、アライグマの父は抱えていたデイバッグの中身を見ることにした。名簿と芋だけに興味が行き、他のものを確認していなかったのだ。デイバッグは湯の中に入れているのに、中はまったく濡れていない。
 次々に中身を取り出しては戻していき、最後に束になった二種類の紙切れが出てきた。一つは正方形で、赤や黄など、様々な種類の色がある。もう一つは、細長い長方形で、赤い模様と「随身保命」という文字が描かれていた。
 こんな薄っぺらいもので何をしろというのか。指で掴みながら、アライグマの父は奥歯を噛んだ。ようするに外れだ。キュウビは下らないものしか寄越さなかったのだ。
 頭の中で何かが弾け、拳は思い切り水面を叩いていた。その音にコロマルが何事かという視線を向けてくるが、無視する。もっとも、コロマルもすぐに興味を無くしたようで、今度は岩に飛び乗ろうとしていた。

 しばらくして、泳ぐのにも飽きたのか、コロマルはアライグマの父から少し離れた場所で身を落ち着かせたようだ。熱いのだろう、少し荒い息を吐いていた。

 時折、コンという鹿威しの音が岩場に木霊する。その音だけが浮世の時の流れを知らせていた。
 お互いをちらりと見るだけで、湯に浸かる二匹の間に会話はない。
 ただ、二匹の顔には同様の表情が浮かんでいる。それはまるで、苦行に耐える僧侶のようであった。

 そんな二匹を気にも留めず、宿を囲む竹林を通る風は軽やかな調と共に静寂の中を踊っていた。


【B-1/温泉/1日目/深夜】

【アライグマの父@ぼのぼの】
【状態】:健康、入浴中
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式(食料:いも 残り25個)、魔除けの札@大神×20、折り紙×40
【思考】
基本:積極的に誰かを襲うつもりはない。
1:コロマルが音をあげるまで風呂から出ない
2:ぼのぼのとアライグマを探す
3:ヒグマの大将、クズリの父と合流する
【備考】
※折り紙と札は少し湿っています。
※アイテムの説明は読んでいません。

【コロマル@ペルソナ3】
【状態】:健康、入浴中
【装備】:召喚機@ペルソナ3
【所持品】:支給品一式、不明支給品1~3個
【思考】
基本:仲間を集めてキュウビを倒す
1:アライグマの父が音を上げるまで風呂から出ない
2:1によって上下関係をはっきりさせ、アライグマの父を仲間に加える
3:他の参加者も、同様に上下関係をはっきりさせて仲間に加える
【備考】
※コロマルの参戦時期は8月8日~1月30日までのどこかです。
※ペルソナの制限に気付いていません。

【備考】
※温泉について
  • 硫黄温泉ですが、切り傷の他に打撲傷や疲労の治癒にも好影響があります。
  • しかし、金や白金以外の金属は、長時間浸けておくと特別な加護でもない限り変質してしまいます。
  • お湯は少し熱めです。
  • 入り口部分は小屋になっています。
※硫化水素ガスが漂っているため、温泉周辺で倒れると命に危険が及ぶ場合があります。また、同様の理由により周辺で詳しい臭いを確認することは難しいです。


【魔除けの札@大神】
尼僧ツヅラオの法力が篭った護符。直接貼ることで、呪術による封印を解いたり妖怪に手傷を負わせたりすることができる。

【折り紙】
各色揃い踏み。40枚セット。


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