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LABYRINTH ~午前二時の迷宮~ ◆EGv2prCtI




パスカルは、元はただのハスキー犬であった。
 飼い主に忠実な、ただの、ハスキー犬。
 今のような姿になるには吉祥寺の空気が悪魔の吐息で満たされ始めてから、そう時間はかからなかった。
 悪魔の手によって母親を失った(その様子を、パスカルは窓から最後まで見てしまっていた。何も出来ない自分が腹立たしかった)主人に同行し――そして、パスカルは、悪魔と合体させられたのだ。
 パスカルにとって、それはある種裏切られた形にはなったし、けれども、それは同じく、戦う力を得たことになったのだった。
 かくして――魔獣ケルベロスとなったパスカルは、短い間(そう、本当に短かった、あれは)だったが、主人を守り、恩に報いることが出来た。
 主人の母親を助けられなかったと言う自責を晴らすかのように、パスカルはただ必死に戦った。
 しかし、あの忌まわしい妙な機械――ターミナルの暴走。
 ターミナルが放つ異質の雰囲気と強烈な邪気。
 危険だと気づき、主人とその友人達を巻き込まないために自分が飛び込んだはよかったが――

 気付けば、いつの間にか周辺がさも爆撃にあったのかのような状況の都市が佇む荒れた土地にかかるT.D.L.(トウキョウディスティニーランド。行ったことも聞いたこともなかった筈なのに、なぜかそれだけ覚えていた)の橋で番犬をしていた。
 薄く、精神の深いところでは薄く意識はあった筈なのだけれど、ほとんど混同しかけていたと言ってもいい悪魔の意識、そして何者か、誰かの外部からマインド・コントロールが、パスカルの自由と認識能力を縛っていた、らしかった。
 そして、次に完全に覚醒した時に、目の前にはあの主人の姿があった。
 パスカルはその主人の無事を何より喜び、それからまた主人を悪魔から守ってやれると思っていた――筈だった。

――ここまでがパスカルがあのキュウビに拉致されるまでに記憶している全てだ。
 キュウビは言っていた。
 殺し合い――そう、他の動物やら悪魔を皆殺しにすれば帰れる、と。
 自分は――まだあの人に十分に恩を返していない。多分それはずっと返しきれないものだと思う。
 そして、再び仲魔として守っても戦ってすらもしていない。
 なら――自分はどうしても帰らなければいけない。
 あの人の元へ。そう、それなら、犠牲など辞さない――そもそも自分が飛ばされ、気がついたときのあの世界は既に弱肉強食の世界と化していた筈だ。
 これは、いつもと――あの時と、何ら変わらないのではないのだろうか。
 これから、それを行うことを決意しようとしていることも、――何も変わらないのでは?

 結局はそれ以外にどうすることは出来ないのだ。
 キュウビを倒したところで元の世界へ帰れる保証はなかったし、そしてそれは――このろくでもない見世物のルールでもあった。

 もっとも、パスカルはそれを気に入らなかったが。
 気に入るはずもない。
 こんなことが起きなければ直ぐにでも目的が果たせた筈なのに。
 しかし、この首輪を付けられていた以上どうしようもないこともある。
 あのリスを死に至らしめたその呪いの首輪はきちんとパスカルの首にもはめられていた。
 それも相俟って、パスカルが出した結論は――

不意に、気配がした。
 今パスカルが居る、広い砂漠にぽつんと建てられた駅の前、夜の闇でまるで黒の炭の山に見える砂漠に動く影は無い。
 パスカルは駅のホームの内側も一瞥し誰も居ないことを確認すると、その薄青の髦が僅かにかかった白い巨躯をゆっくりと動かし始めた。
 駅の脇――その死角にも、誰も潜んでなどいない。
 各感覚器官の神経を研ぎ澄ませ、パスカルは辺りを見回す。
 何者かが近くに居るのは確かだった。
 何処か。何処かに――

 ――風が、僅かに膨れ上がったように靡いた気がした。

 それは突然だった。
 パスカル自身は、それは驚きだったし、そして、それを避けることはほとんど奇跡だったと言ってもいい。
 星の形を模った光が、超高速でパスカルに向かってきていたのだ。
 身を伏せ、少しの間、突風が凄まじいスピードで通り過ぎたのを確認すると、それから数瞬の内にその方向へパスカルは飛びかかっていた。
 さっきの光線程ではなかったにせよ、それでも素早い動きで飛び込んだパスカルの目の前に、ほんの一瞬、何かの姿が現れた。
 その姿はその一瞬でさやかな光を放ち、そして最初から何もなかったかのように、消えた。
 しかし、それでパスカルは確認したのだ。
 白い――恐らく、悪魔の姿が。
 少なくとも自分を殺しにかかった、悪魔の姿。
 紛れもなく――これは変わらない。あの世界――あの時代、あのトウキョウと。
 砂に捕られていた前足を直ぐにでも走り出せる体勢に正し、パスカルは再び気配を捉えることに集中した。
 次はもう、かわせないだろう。
 敵が狙撃してきた以上自分の場所はとうに分かっているのだろうし、そして、もうすっかり接近してしまっているのだ。
 相手がテレポートでも何でも、そんな手段を用いる以上、攻撃するには姿を現す一瞬しかない。
 その一瞬で、決まる。
 相手が魔法を使ってこなければ、の話だが。
 悪魔である以上、まず魔法を所持していると考えていいだろう(その部分は、かつて悪魔と戦ったことで十分理解していた)。
 もし呪殺の魔法――ムドなど唱えられて避けきれなかったら、それでもうお終いだ。
 そんな事態などあってはならない。
 一層パスカルは周囲を警戒し、――そして、再び、気配のした方向へ飛びかかった。

 ビンゴだった。
 目を見開いた相手の右肩にパスカルの牙が食らいつき、確かに右腕を肩ごと食い千切った。
 闇夜の中、血が出ているのか出ていないのか、もう確認する余裕もパスカルには無かったのだけれど。
 ――しかしそのとうの悪魔は少しみじろぎしただけで、即座に左手をまだ着地してもいないパスカルに向けていたのは、分かった。
 何故立っていられるのか――その理由は、もうパスカルの理解の範疇には及ばなかった。

 ――!

 左手が、強烈な光を放った。
 念動波が正確にパスカルの腹部を抉り、内臓に相当なダメージを与えると、そのままパスカルは仰向けの体勢で砂地に沈んだ。
 喉の奥から大量の吐瀉物が漏れだしたが、それをいっぺんに吐き出し、パスカルは激痛の中で身体を半回転させて再び飛び掛かろうとした。
 しかし、第二撃が、そのままパスカルに向けて、既に放たれていた。

 サイコカッター。
 パスカルが白い悪魔と称していたポケモン、ミュウツーが重傷の身で放ったその技は、パスカルの脇腹を真横一直線に切り裂き、そして、吹き飛ばした。
 今度こそパスカルの身体は宙を舞い、地面にどっと倒れて砂煙を撒き散らした時には、事切れていた。そう、見えた。
 いや、その前にもう死んでいたのかも知れない。
 もはや、この犬型のポケモンは執念だけで動いていた――ミュウツーは、それを感じ取っていた。

「――ぐうっ!」
 思い出したかのように右腕が存在していたその断面から少なからず痺れも混じったような強烈な痛みが、ミュウツーを襲った。
 戦闘による、大なり小なりの興奮が醒め目の前が霞み始める中で、ミュウツーはごろりと転がっていた右腕を拾い上げ、血が噴き出し始めたばかりのそこに、押しつけた。
 そして自己再生――を試みたが、右腕は断面と僅かな細胞繊維が表面で繋がっただけだった。
 恐らく、と言うかやはりキュウビによって、力を抑えられているのだろう。
 とにかく、このまま動かすのは到底無理そうだ。

 ――油断した。


 人間を排除し、ポケモンだけの世界を作る。
 それは彼の理念であったし、それは今でも変わらない。
 或いは――それが自らの存在意義の主張だったのかも、知れない。
 自分が何者なのか、何故ここに居るのか、と言う疑問を投げ掛け続ける彼にとって。

 何れにせよ、此処で朽ち果てる訳にはいかないのだ。
 たった今倒したポケモンにも、そう、――これから倒すであろうポケモン達にも恨みは無い。
 それがあるのは愚かな人間達だけ。
 しかし――命を握られた状態、そして、抵抗も難しい。
 それならば此処は優勝した方が有益なのでは無いだろうか?
 自分を捕まえる事が出来る程に、キュウビ(キュウコンの亜種か何かだろうか?)には実力がある。
 ――利用、出来るのではないのだろうか。
 ポケモンだけの世界を創る為に。
 キュウビは願いを叶えると言っていた筈だ。
 もし偽りならば、首輪を外した後に葬ればいい。

 ――それだけの話だった。
 此処に呼ばれてしまったポケモンには少なからずも申し訳無く思ったが、しかし、この機会を逃す訳にもいかなかった。 
 故に――ミュウツーは、それを始めた。


 その決意を固めたばかりだと言うのに、いきなり深手を負わされてしまった。
 自分の力を過信していた訳ではなかったし、けれども余力は残しておきたいという思考も存在はしていた。
 ――やはり一筋縄ではいかない、と言うことだろう。

 パスカルの死体から視線を外し、まだ痛む右肩を押さえながら、ミュウツーはその場を立ち去った。

――

 サイコキネシスの直撃を受けたのにも関わらず、脇腹をサイコカッターで切り裂かれ、大量に出血していたにも関わらず、パスカルはまだ生きていた。
 元から一方的なゲーム展開を避けるためにキュウビの手によりミュウツーの力が制限されていたこともあったし、それにケルベロスとなっていたパスカル自身、生命力が非常に強くなっていたのだ。
 しかし――到底、動けるような状態ではなかったのだけれど。

 かなり致命的だった。
 ほとんど身体の自由は効かなかったし、即死には至らなくてもやはり、かなり傷は深かった。
 パスカル――ケルベロスが持つ魔法には癒しの魔法など無い。
 唯一、サマリカームという魔法が使えたが、それはもう虫の息の相手や死体に対して使う蘇生魔法なのだ。
 生者には効果を示さない。
 どうしようもなかった。

 ――自分はここで、死ぬのか? ここで死ぬのか?
 それはあまりに、多くの死を目前とした生き物が考えてきた思考そのもので、パスカルは内心そんなことを考えてしまった自分を嘲笑した。
 しかし、それは笑い事ではない――もう事はそんな次元では済まされない。
 こんな世界で動くことも何も出来なくなったら、もうそれは他の捕食者の絶好の獲物になった、ということだ。
 もう、パスカルはそんな事項を考える力もなく、ただ脱力して、その場に横たわっていた。
 白い毛皮を色で染めていく血が、何故か痛みの他に、寧ろ開放感すら感じられるそこから流れ出る感覚だけはこれまた何故かよく分かった。
 主人の元へ帰る――そう、自分は決意した、筈だったのをパスカルは思い出した。
 ぼかしが入りながらも脳裏に浮かぶ僅かな光景――
 まだかつてハスキー犬だった頃の、光景。
 主人との散歩。
 構ってほしくて吠えたりもした。
 無視された時に、寂しくていじけたりもした。
 それも、もう――


「――おい」
 高い音調の声が聞こえた。
 重く感じられる首を残った力を総動員して動かし、その向きへ視線を回した。
 そして、認めた。
 ――目の前に、黒猫が座り込んでいたのを。
 そして、その黒猫の手には、銃が握られている。
 そもそも、見た目普通の黒猫が喋ったり通常前足に当たる部分で銃を持っていること自体がおかしかったのだけれど、もうそこまでの思考に及ぶ余裕は無かった。
 パスカルは目を見開いた。
 やられる――

「これを舐めろよ」
 瞬間に訪れる呆然。
 黒猫は銃の引き金を引かずに、パスカルの目の前にもう片手に持っていた幾つかの飴を差し出した。
「舐めれば元気が出るまんまるドロップだってさ。ほんとなら包帯でも巻かないといけないと思うけどな」

 本当なら今すぐ黒猫の腕を噛み千切りたいところだったが、しかし、当座の状況からそれが無理だとは分かっていたのでそのままその飴を舌で舐め取り口内に運んだ。
 不思議と、舐めてる間は安心していられて、冷たくなりかけていた身体の奥から、僅かながら温かい力の集まりが湧きだしてくるようだった。

「後は面倒を見切れないから自分でなんとかしろよ。それと代わりにそっちの武器はオイラがもらうぜ」
 そう言うと、黒猫はその大型の銃と、何か、長方形の箱がくっついたグローブを見せ、パスカルに確認を取った。
 それは――そう、パスカルの鞄から取出したのだろう。きっと。
 元々銃などパスカルに扱える代物ではなかったし、もう一方のグローブは、それはパスカルの主人が付けていた――形こそは違うけれど、あのコンピュータだった。

「暴れるには武器が要るからなー。いつものアレとかは無くなってたし」
 黒猫は、とても喜ばしそうに語った。
 いつものアレとはその前に言った単語で何のことかは大胆把握したし、それを聞いて、パスカルは思った。
 もしや――この猫は、自分と同じく乗ったのだろうか?
 しかしそれならば何故自分にとどめを刺さない?


 結局それは、うやむやのままだった。
 それから黒猫は「じゃあな」と左手を上げながら一言言って、そのまま闇に消えた。
 闇に消えるまでの間、パスカルはその後ろ姿をずっと見つめていた。

 それからパスカルは、貰った飴をひたすら舐め続けた。
 ――これならしばらく休めば、動ける。
 この点では、あの黒猫に感謝すべきかも知れない。
 パスカルは身体の力を抜くと、そのまま重力に身を委ねた。
 大丈夫、まだ意識はある。

 休憩している間、パスカルは思った。
 動けるようになったら今度こそ、確実に仕留めよう。全てを――あの猫も。
 私は、必ず貴方の元へ帰ります。
 我が主人――


【F-5駅前/一日目/夜中】
【パスカル(ケルベロス)@真女神転生】
【状態】:腹部裂傷、内臓負傷、疲労
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、まんまるドロップ@聖剣伝説Legend of Mana(二個)、ラスタキャンディ@真女神転生if...(一個)
【思考】
基本:ゲームに乗る
1:しばらく休む
2:積極的に参加者を殺し、優勝を目指す
【備考】まんまるドロップ@聖剣伝説Legend of Mana(三個)を服用しました

【クロ@サイボーグクロちゃん】
【状態】:良好
【装備】:メガブラスター@クロノトリガー
【所持品】:支給品一式、アームターミナル@真女神転生if...、まんまるドロップ@聖剣伝説Legend of Mana(四個)、
      ラスタキャンディ@真女神転生if...(二個)、パスカルの不明支給品(0~1)
【思考】
基本:積極的に優勝する気は無いが大暴れする
1:とにかくゲームに乗った相手を捜し、戦う(暴れる為)
2:出来れば他にも武器が欲しい

【F-5/一日目/夜中】
【ミュウツー@ポケットモンスター】
【状態】:右腕重傷(動かす事は不可能)、PP消費(小)
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式、不明支給品(1~3)
【思考】
基本:ゲームに乗る
1:相手が誰だろうと容赦なく殺し、優勝する
2:万が一人間を見掛けた場合、用いる限りの手段を使って惨殺する
【備考】:自分の力が制限されていることに気がつきました。
     パスカルを殺したと思っています


【まんまるドロップ】
僅かだが体力を回復させる飴

【ラスタキャンディ】
タルカジャ(攻撃力上昇)、ラクカジャ(防御力上昇)、スクカジャ(命中力上昇)の効果を持った飴。
ケットシーのタルカジャと同じく制限により重ね掛けは出来ない

【メガブラスター】
強力な威力を持つ銃

【アームターミナル】
左肘から先を覆うグローブと一体化した本体&キーボードと、左目又は両目に装着するHMDがセットになっているコンピュータ。支給されたのはとある教師がハスキー犬の散歩をしていたとあるヲタ少年が付けていたこれを真似して作ったモデル。
悪魔召喚プログラムは入っていないが以下の機能が付属している。

デビルアナライズ…一度会った参加者の能力を見ることが出来る。認証に時間がかかる為、出会ったばかりの参加者には使えない。
オートマッピング…一度歩いた場所を簡易に表示する。
アイテム解析…簡単な支給品の解析を行う。

もちろん身につけて電源を入れなければデビルアナライズやオートマッピングは記録されないし、そもそもコンピュータの知識が無ければ扱えない


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GAME START パスカル 044:飴と機知
GAME START ミュウツー 041:孤鬼
GAME START クロ 029:陸の上のタコ




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