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黄昏の宿 暁の空  ◆TPKO6O3QOM





 咆哮が木魂した。手負いの獣が避けられぬ運命から逃れようともがき、四肢を振り回す。それは必殺の凶器となり、拘束者の急所を抉った。
 絶叫と共に悶絶した拘束者を尻目に獣は脱兎のごとく駆け出した。しかし、それを更なる敵の腕が阻もうとする。獣は意を決したように更に力強く足を駆る。
 弾き飛ばされた妨害者が床に倒れ、どす黒い染みが床に広がった。
 危機を脱した獣は安堵の吐息を吐く。その首に斃したはずの拘束者の腕が回された。身を捩って振り解こうとした獣の後ろ足を、床に倒れた妨害者が抑える。しとどに濡れた毛皮の中に覗く拘束者の瞳に浮かぶは明確な殺意。
 捕らわれた獣は持ち上げられ、狭い匡体の中へと押し込められた。迸った飛沫が壁を濡らし、零れた液体が床にゆっくりと広がっていく。
 悲痛な声は拘束者の得物が発する禍々しい音にかき消されてしまった。



 ニャースは力なく身体をベッドの上に投げ出していた。テレビ画面には疲労に毛並みの荒れた猫の顔が映っている。
 窓際のスタッキングチェアにはニャースと同様、疲れ切った表情の楽俊が腰掛けていた。窓から映る西の空はまだ夜闇を残している。そして床にはアマテラスが寝息を立てていた。

「……金輪際、どんにゃことがあろうとおみゃあと風呂ににゃんて入るか」

 ニャースの呟きに、アマテラスの鼾が大きくなった――ような気がした。
 ニャースらは子犬を埋めた後、身体を休める為に南のホテルに入った。その頃には空は明け色に染まりつつあった。客室階の最下層である三階の、非常口の傍にある部屋に入り、一先ず血を落とそうということになったのだが――。

 ずぶぬれのカーペットと壁、落ちてへこんだポッド、そして破れたベッドカバーがぐちゃぐちゃになって床に広がっている。
 全部、アマテラスの抵抗の爪痕だ。風呂嫌いもここまで徹底すれば大したものだが、当事者としては憎たらしいだけだ。
 子犬の墓に突如咲いた花々は、もしかしたらアマテラスの仕業かと思ったのだが考えすぎかもしれない。

 アマテラスから目を逸らし、ニャースはホテルの案内書を手に取った。ホテルの構造紹介に目を通す。三階から上は全部客間で、二階に宴会場、地下と一階にレストランがあるようだ。
 レストランに包丁くらいはあるだろう。ほんの少しリーチが長くなるだけだが、ないよりはマシだ。
 自身のデイバッグに入っていた、真空パックに入れられた野原ひろしなる人物の靴下とやらを思い出し、ニャースはため息をついた。
 ジャスミンの香りがどうとか書かれていたが、ようするに何の役にも立たないものだ。麦の入った皮袋も同様だ。

 案内書には大学や保健所、駅などの施設の電話番号も書かれていた。
 ベッドの脇にある電話機に目をやる。運が良ければ殺し合いに乗っていない参加者と合流することができるかもしれない。それには電話機というものが存在している世界の住人であるという第一の条件をクリアしなければならないが。

「火事、治まったみてえだな」
 外を見ていた楽俊が独りごちた。ホテルの近くにある電波塔は黒煙を上げていた。小火という様子ではなかったが、中にいた誰かが消したのだろうか。

「ニャースも寝とけ。何か動きがあったら起こしてやるから」
「そうしたいが、まぁだ怒りがおさまらにゃくてなー」
 案内書のページをパラパラ捲りながら鼻を鳴らす。
「そう言うなって。誰にだって好き嫌いがあらぁ。誤解を受けるからってのも、おいらたちの勝手だ。受けても、おいらたちが解いてやりゃあよかったんだ。キュウビに飛び掛かって行った様は皆見てるんだしな」

 もふと頬をふくらませて笑った楽俊を見て、羨ましい奴だと独りごちた。

「それに、天照なりに気を利かせてくれたのかもしれねえ」
「そりゃまたどういうことにゃ?」
 楽俊は髭を右手で梳いた。
「大騒ぎして、少しは気が紛れたろ」
「……それは都合よく考えすぎにゃ」
 ニャースは口を尖らせた。手間取ったせいで、監視のない時間が長くなった。既に誰かがホテルの中に入り込んでいるかもしれない。先客がいなうことはアマテラスの鼻で確かめたのだが、今となってはそれも怪しそうだ。
 ニャースの様子を見て、楽俊の耳がぴろりと動いた。

「天照の本意がどうかなんて、誰にも分からねえ。分からねえなら、都合よく受け取って腹も立たねえ方がいいだろ?」
 楽俊の話していると自分が小さく思えてくる。ニャースは荒だたしく頭を掻き、案内書を枕もとに置いた。
「あの花、おみゃあはまだアマ公の仕業かと思うのか?」
「ああ。思えばキュウビんときも、天照は尻尾を不自然に動かしてた。何かを描くようにしてな。あいつは尻尾を動かすことで何か――ああいう、不思議な現象を起こせるのかもしれねえ」
 そういえば子犬を治療していた時もアマテラスの尻尾は妙な動きを見せていた。しかし、何も起きなかったはずだとニャースは顎に手を当てた。

「でも、何か起こったのはさっきだけにゃ」
「起きなかったんじゃなくて、起こせなかったのかもしれねえな。キュウビの尻尾も妙な動きをしていたから」

 あいつが言葉を話せたらなあ。と楽俊が苦笑する。にゃーと呻き、ニャースはうつ伏せになった。デスクに備え付けられたデジタル時計が目に入る。

「もうすぐ六時にゃ……」
 六時なれば立ち入り禁止区域とここ六時間の死者の名が発表される。ピカチュウらの名が呼ばれるのか。不安にニャースの尻尾が力なく揺れる。

「一番いいのは一匹しか名が呼ばれないことだ。あの子犬の名前が分かるからな」
 楽俊がぽつと呟いた。
「あり得ないって口調だにゃ。にゃけど、獣は本来争いを避けるものにゃろ。腹が減ったり、縄張りを侵されたり――ようするに命を脅かされない限りは」
 自分の過去を思い出し、告げる。まあ、そうだな。と楽俊は耳の裏側を掻いた。

「キュウビが言ってたろ。何でも願いを叶えてやるって。あそこにゃ、ただの獣もいたが、おいらみたいな半獣らしきものたちもいた。誰かを殺してでも叶えたい願いなんてもんを持ってる奴がいないとも限らねえ」
「“何でも”っていうのが嘘臭いと思うんにゃが。まともな知性がある奴が釣られるか?」
「現に異界から獣を呼び寄せてるだろ? なら死人を生き返らせたり、過去を変えたりなんて無茶なことだって出来るかもしれねえ。出来るかどうかは別として、それに頼っちまいたくなる奴だっているだろう」
 それにキュウビが言葉通り願いを叶えてくれるかは妖しいがと、楽俊は付け加えた。
 叶ゃえたい願いか、とニャースは口の中で呟いた。自分ならばボスであるサカキの寵愛を取り戻してでも貰うだろうか。

「……楽俊にはにゃいのか? 叶えたい願いにゃんてのは」
「おいらに? なんで?」
「おみゃあの国じゃ、半獣は差別されるんにゃろ? なら、えーと、エンだったか? そこに生まれたことにしてくれーとか、普通の人間に生まれたことにしてくれーとか」
 楽俊は首を傾げた。
「んー、なんでそんなもん願わなきゃならねえんだ? 
 延の里木に実らなかったのなら、孵ってから延に行けばいい。それに、巧の里木に母ちゃんたちが祈ってくれなかったら、おいらは母ちゃんにも父ちゃんにも陽子にも会えなかった。
 人間だったら、少なくともニャースや天照、あの子犬にゃ会えなかったろう。どこで過去を変えても、必ず誰かを忘れなきゃなんねえ。そんなのは嫌だ」
 頬を膨らませた楽俊を横目で見る。耳を疑いたくなる話だが、楽俊の居た世界では人も獣も木に実るのだそうだ。逆に、どうやって子供が女性の腹に宿るのか訊かれて返事に窮したことを思い出す。
「今から人間に変えてもらうってのもあるにゃろ?」
「そうしたら、半獣で苦労してきたおいらの人生が全部無駄になっちまうじゃねえか。楽しいのも苦しいのも、全部おいらの一部だ。それを失ってまで人間になりてえとは思わねえ」
「……半獣でいいのか?」
「夏はバテるが、冬は重宝するんだな、これが」

 楽俊はおどけて笑った。分厚い毛皮を自分で掴み、皮を引っ張って見せる。

「おいらが半獣に生まれついたのは天が決めたことだ。おいらのせいじゃねえ。だけど、だからってそれを怨んで後ろばっかり向いてちゃ何も出来ねえだろ。第一、おいらはまだ出来ることをやりきっちゃいねえ。……そういうニャースにはあるのかい?」
「こうまで言われて、あるにゃんて言えると思うか?」

 半眼で呻くと、楽俊はぱちくりと瞬きをした。

「ありゃおいらの価値観だ。だから、もしお前が誰かを殺しでも叶えたい願いってのがあっても、それを否定するつもりはねえ。いや、出来やしねえ。ま、そんときゃ、必死で逃げるけどな。それに、おいらはニャースを信じてるから、そんときゃ心配すんな」
「……それ、矛盾してにゃいか? そりゃつまり、にゃーが裏切るってことにゃろ?」
「矛盾なもんか。裏切らないから信じられるんじゃなくて、裏切られても、騙されてもいいって思えるから信じられるんだよ。例えそうなっても、おいらは笑って済ます覚悟をした。ニャースにも、天照にもだ。だから、信じられるのさ。ま、これもおいらの勝手だ」
 当たり前のように、楽俊はさらりと言ってのけた。しばし、ニャースはあいた口がふさがらなかった。舌が乾き、ニャースは漸く口を閉じた。ゆっくりと下を湿らせる。

「……おみゃあは凄い奴だにゃ」

 自分の願いは言わず、ただそう伝える。第一サカキの寵愛は、珍しいポケモンを捕まえ続ければいいことだ。そうしてペルシアンを蹴落としてやった方が気持ちがいい。
「そうでもねえさ。おいらは半人前だ。これからもな」
 楽俊の言葉を耳に、ニャースは寝返りを打った。まずはピカチュウたちの無事を確かめてからだ。生きていることが分かれば、繋ぎの付けようはいくらでもある。
 ベージュの壁紙を見ながら、ニャースは時が来るのを待った。


【D-4/ホテル/1日目/早朝】
【チーム:三匹が行く!】
基本:殺し合いに乗っていない参加者を集める。
【備考】
※危険な獣「帽子のネコ(ケットシー)」の情報を得ました。


【楽俊@十二国記】
【状態】:健康、疲労(中)、無力感
【装備】:なし。
【道具】:支給品一式、フィジカルミラー@ペルソナ3、不明支給品0?個(本人は確認済)、アマテラスの支給品一式と不明支給品1?3種類(楽俊とアマテラスは確認済)
【思考】
基本:キュウビを人間の土俵で倒す。
1:六時になるのを待つ
2:ニャースのいた世界の話を聞いてみたい。
【備考】
※楽俊の参戦時期はアニメ第6話です。
※人間の姿になれないことに気付いています。
※会場が十二国以外の異世界であり、参加者にも異世界の住人がいることを認識しています。
※アマテラスの本当の姿が見えています。
※アマテラスに特殊能力があるのではと思っています。


【ニャース@ポケットモンスター】
【状態】:健康、疲労(中)、不安
【装備】:なし。
【道具】:支給品一式、エルルゥの薬箱@うたわれるもの(1/2ほど消費)、シルバー・ケープ@魔法少女リリカルなのはシリーズ、野原ひろしの靴下@クレヨンしんちゃん、麦の入った皮袋@狼と香辛料
【思考】
基本:殺し合いからの脱出。楽俊たちと一緒に行動する。
1:六時を待つ
2:ピカチュウたちが気になる。
3:部屋の電話で何処かの施設に電話をかけてみる
4:レストランの厨房を漁ってみる
[備考]
※異世界の存在について、疑わしいと思いつつも認識しました。
※キュウビや他の参加者をポケモンだと考えていますが、疑い始めています。
※ピカチュウが、サトシのピカチュウかどうか疑っています。
※アマテラスが、ただの白いオオカミに見えています。



【アマテラス@大神】
【状態】:全身打撲(中・治療済)、深い悲しみ、睡眠中
【装備】:所々に布が巻かれている。
【道具】:なし。
【思考】
基本:打倒キュウビ。
0:…………………
1:ぼのぼのとアライグマが心配。
【備考】
※アマテラスの参戦時期は鬼ヶ島突入直前です。そのため、筆しらべの吹雪、迅雷の力は取り戻していません。
※筆しらべの制限に気付いているかもしれません。
※キュウビの目的について、何か勘付いているかもしれません。
※筆しらべ「光明」と「月光」で昼夜を変えることはできないようです。
※筆しらべ「桜花」で花は咲かせられるようです。


【野原ひろしの靴下@クレヨンしんちゃん】
埼玉県春日部市在住のサラリーマン・野原ひろしの靴下。とてつもない悪臭を放つ。本人曰くジャスミンの香り。真空パックで厳重に封印されている。

【麦の入った皮袋@狼と香辛料】
ホロの宿った麦粒が入った皮袋。いつまでも腐ることがなく、不思議な温もりがある。


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047:鎮魂花 楽俊 059:距離を超えた遭遇
047:鎮魂花 ニャース 059:距離を超えた遭遇
047:鎮魂花 アマテラス 059:距離を超えた遭遇




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