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闇の梯子  ◆TPKO6O3QOM





 三つの影は砂浜の彼方へと小さくなっていく。それを見送るオーボウの目は名残惜しげに少し細められた。
 彼らと次に言葉を交わせる時はいつだろうか。いや、そんな時など来ないかもしれない。
 ここはそういう土地だ。妖魔王の用意した血みどろの盤面だ。盤上の駒でいる限り、殺し合いの渦から逃れることはできない。
 ずっと彼らを見送っているのも、目を離したら死んでしまうのではないか、そんな不安に駆られるからだ。
 足元のウマゴンも同じ思いなのか、ずっと彼らが去っていった方を見つめている。もう彼の目には三匹の影は見えなくなっているだろうが。
 風が幼子の柔らかそうな毛を撫でて行く。くすぐったかったのか、ウマゴンの耳がぴらと翻った。
 その様子に少し頬を緩めながら、オーボウは彼に話しかけた。

「ウマゴンや、本当にわしと一緒に行くのかの?」

 これから会いに行くのは、既に一匹を手に掛けた人殺しだ。そのことを意識するだけで、腹に石が詰まったような不快感を覚える。
 犠牲となったのは、オーボウが選択を間違えなければ死ぬことのなかった命だ。
 また間違えたのだ。あのときと同じように――。
 パンドラと出会わなければ、否、助けられた後すぐにでも去っていれば、あの娘を闘いの中に巻きこむことはなかった。彼女の清らかな心根に甘えることさえしなければ、辛い宿命を背負った二人の兄妹の誕生は避けられた。
 ハーメルンたちの誕生を厭うわけではない。だが、彼らには負い目を感じてしまうのだ。それらが重なり、己の判断一つ一つに恐れが生まれるようになりさえある。

「メ〜ウ?」

 ウマゴンがオーボウを見上げた。その円らな瞳には、吸い込まれそうな蒼穹が映り込んでいる。その中で闇を落とす自分の影に、オーボウは嘴をゆがめた。
「ラルクは……人殺しじゃ。説得はする。じゃが、通じぬかもしれぬ。いや、話すら聞かずに襲い掛かってくるかもしれんのじゃ。そうなれば、わしはおまえを……」
 守りきれないかもしれない。
 陰鬱なオーボウの声に、ウマゴンはぱちりと一つ瞬きをした。
 魔力を解放すれば――ラルクを“止”めることはできるだろう。だが、おそらく、そこで自分の寿命は尽きる。そうなれば、この広い土地に幼子が独り残されることとなる。
 殺し合いに乗ったものはラルクだけではない。強い意志を持つとはいえ、襲われればひとたまりもあるまい。
 いや、それは今この時も同じか。今の己に、ラルクを説得せねばならぬ自分に対抗手段はない。

「メ……メル?」
「今ならまだ、クズリたちに間に合おう。ウマゴン、わしの我儘に付き合うことはないんじゃよ」
「………………」

 オーボウは告げた。ウマゴンが同行の意思を見せてくれたのは心強いし、何よりも嬉しかった。ただ、それに甘えることに躊躇がある。また、取り返しの仕様もないことが起こってしまうのではないか、と。
 沈黙を、潮騒の音が埋めて行く。この地にそぐわない穏やかな旋律は、ともすれば酷く毒の強い皮肉のようにも感じられた。
 無言のまま、オーボウとウマゴンの瞳が交錯する。と、見る間にウマゴンの瞳には大粒の涙が溜まっていった。

「メゥ、メ……ルメ、メグメェウメ……」

 鼻をすすりながら、ウマゴンは砂の上で膝を抱えてぐずりだした。思わぬ反応に、オーボウも上手く言葉が出ない。

「いや、あのな、ウマゴン――」
「メール……! ヒグ、メゥメルメー……ル! メェェェェェ……!」

 ウマゴンは嗚咽混じりの鳴き声を上げた。声に非難の響きがある。どうも、拗ねたようだ。座りこんだまま、梃子でも動きそうにない。
 はて、こんなとき、ハーメルンらをどうあやしていたか。

「いや、だからの、その、ウマゴンが足手纏いとか、邪魔だとか、そういう意味じゃなくての。おまえの身を案じてじゃな……。おまえが一緒に来てくれるのは嬉しいんじゃよ? じゃけれどな……」
「………………」

 伏せたまま、ウマゴンが横目でじぃっとこちらを見ている。曇りなき眼でこちらの真偽を探るように。
 下手に言い繕えば、また泣き出すことだろう。しばらくは泣きやむまい。その声に惹かれて殺し合いに乗ったものが集ってくるだろうし、時間を費やせばラルクの足取りも分からなくなる。
 ぱたぱた飛びながら思案し、結局――折れることにした。

「……一緒に行くか、ウマゴン」
「メル!」

 言うと、ウマゴンはぱっと顔を上げた。反応の速さに、どうも謀られたような気がしてくる。嘴を曲げながら、オーボウは付けくわえた。

「じゃが、わしの言うことはちゃんと聞くんじゃぞ。聞かぬ時は、この沙漠に置いて行くからの。おまえとの縁もそれまでじゃと思え」
「メール!」

 力強くウマゴンが頷く。どこまで分かっているのか知る由もないが。幼子特有の、無責任な承諾か。
 ウマゴンはすくと立ち上がると、尻尾を上機嫌に振りながら砂浜を歩きだした。

「メールメルメー、メールメルメールメルメールメルメー」

 終いには鼻歌まで歌いだした。何がそんなに嬉しいのか、オーボウには見当も付かない。
 溜息をついて、オーボウはウマゴンを追った。その溜息が、諦めか、それとも安堵によるものなのか、自分にも分からなかった。
「メルゥ?」
 溜息に気付いたのか、ウマゴンがオーボウを見上げた。
「いや、なんでもないわい」
 オーボウは苦笑を零し、首を横に振った。
 ただ、この雰囲気は少し懐かしくもある。オーボウにとって、まだ幸せに満ちていた時代、ハーメルンたちが小さかった頃と今が重なる。
 ハーメルンたちはどうしているのか。連れの者たちに、ふと思いを馳せる。彼らと離れ離れになって幾時も経っていないというのに、途方もない寂寥感が胸に沁みて行く。


 しばらく海辺を東に行くと橋が見えてきた。ウマゴンに停止を促し、オーボウは高度を上げた。
 橋から少し離れて、北へと歩みを進める人影が見える。悪趣味なマントのようなものを纏っているが、ラルクに間違いない。
 オーボウはすぐに高度を下げ、伏せていたウマゴンの肩に止まった。

「ウマゴンはここで待っておるんじゃ。安全と分かるまで、わしがラルクを説得したと分かるまで、決して来てはならんぞ。よいな?」

 念を押すオーボウに、ウマゴンが耳をぴろぴろさせながら頷いた。
 少し不安に思うも、オーボウはウマゴンの頭を撫でて誤魔化した。嬉しそうにウマゴンが目を細める。
 オーボウは一つ気を吐くと、意を決して飛び立った。海の方へ大回りしてから、ラルクへと近づいていく。

「ラルク」

 クロから聞いていた投げナイフ。その間合いの外と思われる距離で声をかけた。
 弾けるように――と表現するには些か緩慢な動きでラルクは振り向いた。

「……あんたか」

 振り向いたラルクは幽鬼めいた印象を受けた。とても憔悴しているようだ。また、どういうわけか、前部でぴたりとマントを抑えている。
 と、海風を受けて大きくはためいた布の隙間にきらと光るものが垣間見えた。ナイフのようだ。しかし、それを使って襲い掛かってくる様子はない。
 オーボウは一度舌を濡らして、言葉を紡いだ。

「また、会えたの……。先程、クロから聞いたよ。クロというのはおまえと対峙した黒猫じゃ。おまえさん、トカゲを殺したそうじゃな?」

 黒猫とトカゲという単語に、ラルクの瞳に険がこもる。

「……ああ。とはいえ、奴はゾンビだったようだがな」
「ゾンビ?」
「急所を貫いたはずが、動いて俺に攻撃してきた」
 悔しげに口吻が歪んだ。ゾンビとは、イカルゴの寄生のことらしい。たしかに、彼の能力を知らなければ死体が生き返ったと思っても不思議はない。
 オーボウは静かに否定の言葉を口にする。
「……いや、あのトカゲは死んでおったよ。動いた理由も知っておるが、今教える気はない」
「そうか……死んでいたか」

 事実を耳にして呟いたラルクの口端が少し上がる。笑ったらしい。苦虫を噛みつぶしたような思いが、オーボウの胸に広がっていく。
 オーボウはひとつ息を吸った。これからだ。

「殺したのは、仕方なくか?」

 重要な点だ。
 クロたちの話では、殺されたトカゲも殺し合いに乗っていたそうだ。正当防衛であるなら、説得の余地は大いにある。
 しかし、ラルクは首を横に振った。

「いや、俺の意志だ。殺すべくして、殺した」
「なぜ――」
「ところで、陽が大分高くなっているが、キュウビによる報せというのはまだなのか?」

 言いながら、ラルクは首を周囲に巡らせた。特に意味はないのだろうが。
 今の今まで気を失っていたということだろう。イカルゴの技の威力は相当なもののようだ。雪原に放置されていたのだとすれば、マントは保温のためか。
 不自然にならないようにラルクを観察する。

「それならば、もう終わったぞ」
「終わった? それなら……シエラの、あいつの名は呼ばれたのかっ?」


 告げると、初めてラルクの瞳に感情が仄かに宿った。不安に彩られた瞳は、浮いたように揺らいでいる。
 その様子にオーボウはもどかしさを覚えた。出会ったときとラルクは変わってはいない。

「……いや、呼ばれなんだよ」

 その返答に、ラルクからあからさまな安堵の吐息が漏れる。他者を慮る心。魔族が持たない、温かき精神がこの男にはある。それなのに――。
「続きじゃ。なぜ殺し合いに乗った?」
 鋭く問いを突き付ける。
 それに対し、ラルクは鼻で小さく嗤った。
「そういうお前こそ、殺し合いに乗ったんじゃないのか? あの黒猫と言葉を交わせたのだ。手を組みでもしたのだろう?」
 最初はラルクの言っていることの意味が分からなかった。二呼吸ほどした後で、彼がクロを殺し合いに乗った参加者と勘違いしているらしいことに気付く。
「……クロが殺し合いに乗っておると? あれは少しばかり気が短くて、喧嘩っ早いだけじゃ。善人とは素直に言い難いが、殺し合いに乗る男ではない。頼りに出来る猫じゃよ」
「……まあ、あんたがそう言うのならそれでいい」
 特に拘るわけでもないのか、ラルクは話を打ち切った。思い出したように、彼は一度閉じた口を開く。
「俺があいつを殺した理由だったな。シエラの障害になるからだ。シエラはキュウビを倒すために動いていることだろう。俺は、あいつの負担を少なくしてやりたい」
「……トカゲが殺し合いに乗っていたから、悪であったから殺した、と?」
 心持少し安心して、オーボウは息を吐いた。褒められたことではないが、ラルクの行動は正義感から来ていると思ったのだ。
 だが、ラルクの返答がその考えを裏切る。

「いや、あのトカゲも殺し合いには乗っていなかった」
「なん――?」
「……ただ、甘っちょろい幻想に囚われていた。殺さず戦わず、殺し合いに乗った者さえどうにかできるとな。何かを切り捨てねば、戦場では生き残れん。あいつの思想は、それを邪魔する枷となる」
「そ……そんなことで、殺したというのか!?」

 オーボウは声を荒げた。あまりにも歪んでいる。だが、それ以上に憐れみの情が膨らんでいく。同じような思いを、かつてしたことがある――。

「言っただろう? 俺はシエラを生き残らせたい。あいつを助けてやりたい。それ以外はどうなろうと知るものか」

 静かな口調だが、ラルクの表情には苦渋が垣間見える。それは殺しそのものでなく、シエラの身を案じるが故のものだろうが。

(ああ、そうか。サイザーに……似ておるんじゃ)

 母への思慕のために、手と翼を血に染めてきた健気な少女と今のラルクが重なって見えた。魔族の中で、孤独に闘ってきた魔王の娘に――。
 そのサイザーが、今はハーメルンらと共に償いの道を歩み始めようとしている。殺してきた命と真正面から向かい合おうとしている。だから、ラルクにもまだ説得の余地は残っているはずだ。
 オーボウは己を奮い立たせた。
 オーボウが一緒に行動していれば、ラルクもまたここまで思いつめなかったかもしれないのだ。その過ちは自分が雪がねばならない。


「ラルクよ。キュウビに刃向かう意志を同じくする者たちは他にもおるぞ。シエラと同じ目的を持つ者たちが。そういった者たちとわしは出会えた」
「…………?」

 訝しげに眉を動かしたラルクを見据え、オーボウは続けた。

「わしはな、おまえを説得しに来たのじゃよ。キュウビを倒すための仲間に、おまえも入ってもらいたくてな。わしには、おまえの行動はシエラのためになるとは思えん。誰が何の役を担うか、そんなことは神とて知らんのじゃ」
「………………」
「戦場ではすべては抱えきれぬ。何かを捨てねばならぬというおまえの言葉は正しい。じゃが、それも一つの側面でしかない。なにより、そいつを判断してよいのはおまえではない」

 ラルクの瞳が剣呑に輝く。オーボウもまた、甘い幻想に囚われているとでも判断したか。それとも、単なる敵としてか。マントの下で、ラルクが小さく身じろぎをする。

「誰かを殺せば、誰かに怨まれよう。憎しみの連鎖は止まらぬ」
「……それが分かっていて、俺に手を貸せと?」

 オーボウは苦笑を零した。そうだ、怨みは消えない。オーボウの身とて、人間の、同胞たちの、幾重もの憎しみに包まれている。

「この殺し合いに巻き込まれる前、わしの連れにな、サイザーという娘がいた。その娘は、母を救うために数多くの人間を殺してきた。二十歳にもならぬ娘には、あまりにも深すぎる罪業じゃ。だがの、その娘は今生きて罪を償おうとしておるよ」
 “ハーメルンの赤い魔女”という呼称は口に出さなかった。あの娘に申し訳のないような気がして。
「トカゲを殺した罪は消えぬ。じゃが、おまえがこれからも無差別な殺しを続けるのならば、憎しみはお前だけでなく、シエラにも向けられよう。シエラもまた、おまえを探しているだろうからな。となれば、おまえの行動はシエラのためになるどころか、害にしかならん」
「殺すのはシエラの邪魔になる者だけだ」
「その判断をどうやってする? どうして分かる? それに、おまえ自身がシエラのためになろうとは思わんのか? 誰かを助ければ、その感謝はシエラにも向かう。さっきと逆じゃよ。おまえの縁者じゃと、無条件にシエラを助けてくれるかもしれんのじゃぞ」
「………………」
「取り返しのつかぬことはある。じゃが、引き返しのつかぬことはないんじゃ。未来は定まってはおらん。決まっていると、勝手に諦めているだけじゃ」

 協力してほしいのも本音だが、それよりもこの若者に魔道を歩ませたくなかった。己と同じ過ちを、これ以上犯してほしない。
 ラルクの瞳が時折苦しげに揺れるのをオーボウは見逃していなかった。彼もまた己の行為に苛まれているのだ。
 もう、罪業に苦しむものたちの姿を瞳に映したくない。
 ラルクは思案するように顎に左手を当てて黙している。閉じられていた口が、静かに開かれた。

「聞いておくが、おまえの作った仲間は皆強いものたちか?」
「ああ、強い」

 オーボウは頷いた。この地で出会った協力者たちは変わってはいるが、強い意志を持つものたちだ。それは剣や魔法よりも重要なことだ。
 これまでだって、強い心が、想いが危機を救ってきた。サイザーが死にかけた時も、ハーメルンが魔王の血に支配された時も――。

「ラルク、共に戦ってくれるかの?」
「シエラのためになるなら、多少手を貸すのに吝かではない」

 平坦な口調ではあるが、ラルクはそう答えてくれた。
 ある程度、考えを改めたらしい。表情を緩め、オーボウは大きく息を吐く。
 一先ずはこれでいい。後は道中で、少しずつ諭していけばいいのだ。何より、今度は自分という歯止めが居る。

「それでもいい。分かって貰えて嬉しいぞい。実はの、既に一人は来ておってな。おーい。安心じゃ、出ておいで」

 オーボウは西に身体を向けて、ウマゴンを呼んだ。伏せていたウマゴンがぴょこんと頭を上げ、こちらへ嬉しそうに駆け寄ってくる。
 またもや反応が早い。こちらのやり取りが聞こえていたのかもしれない。

 ばさぁと衣擦れの音が背後でしたが、オーボウは気にしなかった。

「あの子はウマゴンと言ってな、まだ幼いが――」

 頬を緩めて紹介するオーボウの眼下を一条の銀光が通り過ぎて行った。

「メルッ――!?」

 短い声がオーボウの耳に届いた。ウマゴンが走るのをやめ、つんのめるように大きく倒れる。砂に足を取られたのだろうか。
 どういうわけか――ウマゴンは痙攣するだけで立ち上がろうとしない。よく見れば、ウマゴンの額に何かが突き立っている。
 オーボウは振り向いた。ラルクはさっきと同じ姿で立っている。だが、マントは跳ねあげられ、ぶらりと下げられた右手にはナイフの姿はなかった。
 ようやく思考が現状に追い付く。ウマゴンがラルクに殺された――。
 ぼそりとラルクは呟いた。

「子供はシエラの役には立たんな」

「――貴様ぁぁあっ!」
 慟哭が、オーボウの喉から迸った。それを気にした風もなく、失望したようにラルクが眼を細める。

「あれがお前の仲間か。……どうやら、俺はあんたを見誤っていたらしい」

 たった今幼子を殺したというのに、ラルクは平静な口調を崩さなかった。もう、ウマゴンのことなど眼中にないようだ。オーボウの怒りもまた、彼には届いていない。

 ラルクは、もう一本のナイフを鎧の隙間から取り出すと、オーボウに向かって逆袈裟に斬り上げてきた。その斬撃を寸でのところで避けながら、オーボウもまた胸中で毒づいていた。
 まったくの見当違いをしていた。
 ラルクはサイザーとは似ていない。似ても似つかない。サイザーは罪の意識を母への思慕へ転換することで隠していたが、しっかりと自分の身に刻んでいた。だが、ラルクは命を奪う行為に頓着などしていない。彼は――魔族と同じだ。
 また、自分は間違えたのだ。
 説得は始めから無意味だった。されど、ラルクは止めねばならないことに変わりはない。これ以上、犠牲者を増やすわけにはいかない。

 違うとすれば、彼の生死に拘っていない点ぐらいか。


 海からの風を翼にはらんだオーボウは上空へと高く舞いあがり――魔力を解放した。
 見上げたラルクの瞳に、風に舞い散る黒い羽毛が映る。
 翼の緞帳の中から現れたのは、筋骨隆々とした壮年の偉丈夫だ。翼の一振りに突風が巻き起こり、砂塵がラルクに叩きつけられる。
 これこそ、魔界軍王の二番手として地上に血の海を作った“妖鳳王”の真の姿だ。
 オーボウは荒い息を吐いた。予想以上に負荷が大きい。早くせねば、何もかもが手遅れになる。オーボウは両手を天高く掲げた。そこに魔風が集い、大きな渦を作っていく。
 その唸りは、あたかも魔王の咆哮のようだ。オーボウは殺気の籠った眼差しで地上を見下ろした。そして、腕を振り下ろす――。

「鳳凰千――!?」

 呪文は半ばで中断された。オーボウの目の前を、砕けた両手が落ちて行ったのだ。集められた魔力の風は霧散し、海風にまぎれて行く。
 腕だけではない。翼が音を立てて砕け、揚力を失ったオーボウの身体は地上へと落下を始めた。その最中にも、足が、肩が、全身が次々と砕けて、風に攫われていく。

 魔族の寿命が尽きたのだ。ざんと音を立て、オーボウは砂上に転がった。既に上半身しか残ってはいない。それも見る間に砂の中にまじって見分けがつかなくなっていく。
 足音がオーボウに近付いた。

「……本当にあんたを見誤っていたらしいな」

 侮蔑するようにラルクが呟いたのが残った方の耳に入る。
「あんな子供を迎えるとはな。他の連中もシエラの枷にしかならんような者たちだろう。臭いを辿れば、居場所は容易に知れるな」
 ラルクはクズリたちも手に掛けるつもりか。だが、オーボウにはどうすることもできない。肩を掴む手もなく、追いかける足も翼もない。残った手段は、己の舌のみ。
 オーボウは力を振り絞って喉を震わせた。一つ声を発するたびに、自分が擦り減っていくのが分かる。
「ラル…ク、闇に……沈めば、光はないぞ。ただ奈落に……転がり落ちるほかない。思い止まれ……」
 命を削った言葉に、見下ろしていたラルクが皮肉気に口端を上げた。

「ああ、よく知っている」

 ラルクの言葉の意味がよく分からなかった。しかし、それを問おうにも、オーボウの舌は砕け散ってしまっていた。ラルクが踵を返してウマゴンの死体からデイバッグをはぎ取るのを、ただ眼球に納めることしかできない。
 ナイフは一旦引き抜いたが、使い物にならないと判断したのか、捨てたようだ。
 ラルクは少しふらつきながら立ち上がった。

「オーボウ、奈落で逢おう」


 そう言い残して、ラルクは去っていった。もっとも、彼がいい終わる前にオーボウの耳は使い物にならなくなっていたが。
 オーボウは砕けていない方の瞳でウマゴンの遺体を見た。
 彼の決意を支えようとしてくれた心優しき子の身体が砂に少しずつ覆われて行く。母が子を抱くように、優しく穏やかに――。
 あのとき、張ってでもクズリたちの元へ還しておけばよかったのだ。無邪気な表情を見せてくれた幼子の瞳が蒼穹を映すことは永劫に失われてしまった。オーボウが甘えたばかりに、あの子の未来は閉ざされてしまった。
 ついに残った眼も砕け散った。背も凍るような静寂と常闇が訪れる。果たして、自分は生きているのだろうか、それともすでに死んでいるのだろうか。

(すまぬ、ウマゴン……すまぬ、クズリ……すまぬ――)

 暗闇の中、オーボウは最期の一欠けらとなるまで懺悔の言葉を繰り返していた。


【F-6/一日目/午前】

【ラルク@聖剣伝説Legend of Mana】
【状態】軽度の凍傷、左腕に銃創(小)、低温状態
【装備】スティンガー@魔法少女リリカルなのはシリーズ×1、派手な外套@うたわれるもの
【道具】支給品一式、不明支給品0~2(確認、武器は無し) 、オーボウの支給品(食料、水を除いた支給品一式、不明支給品0~1(確認、武器は無し))、ウマゴンの支給品一式、巨大キノコ@スーパーマリオシリーズ
【思考】
基本:キュウビの打倒に対し、シエラの障害になる者は殺す。役に立ちそうな相手なら、場合によっては多少協力する。
0:寒いし、身体も痛い。
1:シエラが無事であってほしい
2:ウマゴンの臭いを辿ってオーボウの仲間を追う。
3:武器が欲しい。出来れば斧
4:シエラとは戦いたくない。そうなる可能性があるので、会うのも避けたい。
5:派手なマントは目立つし何より恥ずかしいので、さっさと代わりの物を見つけて捨てたい。
※参戦時期はドラグーン編の「群青の守護神」開始より後、「真紅なる竜帝」より前です。
※ここが自分の世界(ファ・ディール)ではないと気付いていません。
※また、死ねば奈落に落ち、自分は元あった状態に戻るだけだと考えています。
※伝説の剣@ハーメルン が武器として使い物にならないことを知りました
※第1放送を完全に聞き逃しました。禁止エリアの場所について知りません。


※魔本@金色のガッシュは、ウマゴンの死亡により消滅しました。
※ウマゴンの死体の傍にスティンガー@魔法少女リリカルなのはシリーズが落ちています。


【派手な外套@うたわれるもの】
ヤマユラ周辺の村々を納める藩主ササンテ愛用の豪奢なマント。生地は一級品だが派手。


【ウマゴン@金色のガッシュ 死亡】
【オーボウ@ハーメルンのバイオリン弾き 死亡】
【残り 27匹】



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070:朝日と共に去りぬ オーボウ 死亡
073:雪上断温 ラルク 080:Crossfire
070:朝日と共に去りぬ ウマゴン 死亡




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