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Raccoon Over The Castle ◆1eZNmJGbgM




バンッっと威勢の良い音と共に、アライグマの父は足元のスイッチを踏み抜いた。
その音を合図にして、正面の格子がガラガラと引き上げられていく。
上空に漂っている疾飛丸が動き出せない間に、体を丸めてアライグマの父は格子をくぐり抜け、目の前のコースを見渡す。
――やっぱり特に妙なしかけは無えようだな――
レース前に格子の間から見たコースの様子と、実際のコースとのズレが無いことを確認し、続いて軽く後ろを振り返る。
格子は今まさに引き上げ終わる直前で、そのすぐ後ろで疾飛丸が二、三回その身を震わせている。
はやる気持ちを押えきれないのか、その動きはまるで闘牛場の牛が突撃する時に後ろ足で地面をこする仕草にどこか似ていた。
そんなやる気充分の疾飛丸を視界の端に捉えて再びアライグマの父が前を向くのと、
格子が上がりきって疾飛丸の前を遮るものが無くなるのは、ほぼ同じタイミングだった。



アライグマの父が走りだす。
疾飛丸も文字通り飛びだす。

アライグマの父はドタドタと音を立てながら走る。
疾飛丸はスーッと風に流されているように飛ぶ。

アライグマの父は走り続ける。
疾飛丸ももちろん飛び続ける。

アライグマの父が疾飛丸の方に振り向く。その分スピードは遅くなる。
疾飛丸にはアライグマの父は見えている。スピードも遅くはならない。

アライグマの父が疾飛丸に抜かれる。
疾飛丸がアライグマの父を追い抜く。


ちょうどコースの半分を過ぎた時、順位が入れ替わった。


疾飛丸が先頭におどり出る。
アライグマの父が後退する。

疾飛丸は変わらぬペースで飛び続ける。
アライグマの父のペースが一段上がる。

疾飛丸からは特に何の音も聞こえない。
アライグマの父の呼吸音が大きくなる。

疾飛丸の表情は変わらない。もとい変えようが無い。
アライグマの父が歯をくいしばる。顔の赤みが増す。

疾飛丸のスピードは最初と変わらない。常に一定のペースで飛ぶ。
アライグマの父が走るスピードを上げる。足音のテンポが短くなる。

疾飛丸がアライグマの父に追いつかれる。それでもスパートをかけたりはしない。
アライグマの父が疾飛丸に追いつく。さらにギアを一段上げ腕をふり腿を上げる。

その結果。

入り口と同じ形のゴールに先に着いたのは、アライグマの父。
三本勝負の一本目を制した格好となった。



「旦那ア、中々ノ走リップリデシタゼ。トテモ一児ノ父親ニャ見エマセンナ」
「うる、せえ、よ、テメエ、が、チンタラ飛んで、やがるから、だ、ろうが!」
「ソリャ最初ハ、アッシノ速サガドンナモンカ相手ニ知ッテオイテモラワント、公平タァ言エヤシマセンシ」
「けっ、妙に、りちぎ、な、紙っペラ、だな、おい」

二本目のコースを目指す途中の階段を登りながら、試合後の感想をぶつけ合う対戦者たち。
勝者であるはずのアライグマの父が息を切らしながら毒づくのに対して、
敗者であるはずの疾飛丸が全く変わらず淀みなく返答している姿を見ていると、どちらが勝者なのか一目では分かりづらい。
ギシ、ギシと先に進む度に木製の階段から音が鳴る。アライグマの父には、その音は安心できる音だ。
彼にとって、今まで見てきたこのユウエンチは訳の分からないものが多すぎる。
やたらと硬く、ざらざらしているのに石ころの一つも見当たらない地面――アスファルト――や、
首が痛くなるほど上を見なければ先端が見えない輪っか――観覧車――や、
それよりもさらに大きく、横にも奥にも広い現在地――キュービー城――。
しかしその中にあるここは、仕組みなどはさっぱり分からずとも木の匂いがする。木の音もある。
近くに居るのはシマリスでもなくアザラシでもなくスナドリネコでもなく、吹けば飛び千切れば破れそうな紙ではあるが。
ただでさえ、空腹と貧血が重なった状況で一心不乱に走り呼吸が荒くなっている所に、
さらに意味の分からない匂いや音を聞かされるよりはこの音はまだマシだ。
そうアライグマの父が息を整えながら内心考えていると、上のほうから光が差してきた。階段の終りが見えたのだ。

「サテ旦那ア、ココガ二本目ノコースデスゼ。スタートハ一本目ト同ジ、ルールモ勝敗ノ付ケ方モ同ジ。違ウノハコースノ中身ダケデサァ」
「おい、中身が違うってのは、どういうこった」
「ソコハ見テノオ楽シミ。実際ニ走ッテミテ感ジテクダセエ」

そう言われ、アライグマの父は格子の間からコースの先を見るが、既に違いが見てとれる。
先程のコースでは確認出来たゴールが見えない。かといって、距離がとても長いわけではない。つまり……

「おい、なんで坂道があんだよコラ」
「タダ走ルダケジャ面白クネエデショウ?」
「答えになってねえぞテメエ!」

アライグマの父が思いっきりガンを飛ばしても、疾飛丸は何処吹く風と言わんばかりに
フヨフヨと移動し、格子の前に立ってその時を待つ。
それを見ていたアライグマの父もはぁ~、と一際大きなため息をつき、呼吸を整える。

そして、二本目のレースが始まった。



けっ、さっきは出発も一緒だったからな、今回は先に差を広げておかねえと。
にしてもいきなり坂道かよ。
あの紙は飛んでやがるから関係ねえが、こっちは二本の足で登るんだぞこら。
メンドクセえもの拵えやがって……って、もう下りか!
ああくそう、こんなビミョーな坂道なら無くてもいいじゃねえかよ。
大体、何で俺はこんなことしてんだ。
よくよく考えてみりゃあ、腹が空いたから何かしら食い物を探してたのによお。
なんで走り回ってんだおい。
余計に腹が減るだけだろが。
かといって、今後ろを飛んでやがるハズのアイツに負けるのも気に入らねえ。
クソったれ、それもこれも腹が減ってるからだ。
あの丸太に頭ぶつけた時に、食いものが落ちたのがなあ……
あれは俺のもんだろう?誰かが拾って食ってたら承知しねえ。
あの猿だろうがワニだろうが思いっきりケツを蹴っ飛ばしてやる!

多分あの丸太もあの野郎たちがはぁ!?
痛てえ!何だ一体!?
頭?頭をぶつけたのか俺は!
何に?特に何も無いはずだろう?
こりゃあ丸太!?何でこんなところにって……下からかよ!
ああくそう、腹減ってるせいで余計なこと考えてる間に出てきたのか!
それに気がつかず、俺はそのまま激突した、と。
とんだ間抜けじゃねえかおりゃあ。
ああくそ、今度は頭が痛てえ。
畜生、あの野郎先に行きやがった!
待ちやがれ、ふん捕まえてとっちめてやる。
なぁにが「ヨク分カリヤセン」だ。
しっかり丸太の先っぽのちょっと上を飛んでるじゃねえかよ。
どうみても仕掛けを知ってる飛び方だぜありゃ。
っと、アブねえアブねえ。
二度も三度も同じ手に引っかかる訳ねえだろう。
俺が近づくと下からニョッキリというわけか。
仕掛けが分かれば、あとは脇を通りゃ済む話だ。
にしても、あれが直前に出てくる仕掛けで良かったぜ。
足元からあんなのが飛び出てきたら、足や股がエライ目にあっちまう。
特に股に当たってみろ、身動きが取れなくなるに決まってる。
それを考えりゃ、少しはマシなのか。
まぁとっ捕まえてひっぱたくのは変わらねえがな。

よっしゃあ、あの紙に追いついてきたぜ。
よく見りゃ上のほうにも妙な出っ張りがあるみてえだな。
野郎も一応は速さを出せないようにされてんのか。
そういや最初の場所に鳥もいた気がする。
てコトは、あの猿やワニもここを走ることがあるかもしれねえのか。
アイツらなら格子をぶち壊して、先に進みそうだがなあ。
ん?何だこのゴゴゴゴって音は?
上から聞こえてくるぞ、まさか今度は丸太が降ってくるのか!?
いや違え、上の方で丸太が横に動いてるんだ!
何であんなよく解らんことを……と思ってたらこっちにも来たぜ。
今度はちゃんと前を確認してるからな、さっきのような下手はうたねえ。
せーの、おりゃあ!
へっ、飛び越せば何てことは無いぜ。
つーことは、上のヤツは飛んでいる連中向けの仕掛けか。
色々考えてやがるな、コレを作った奴も。
飛んだり跳ねたり、いちいち面倒くせえ動きをさせやがる。
お、アイツも足止めか。
ざまーみろ、この間に抜き返してやる。
本当ならこの時に怒鳴りつけてやるんだが、流石に息がやばくなってきやがった。
畜生、年は取りたくねえなあ。
足の方はまだ大丈夫だが、息が苦しくなってきてるぜ。
こうやって、丸太を飛んだ、り、屈んでかわし、たりするから、余計に疲れる。
野郎は飛んでいるから疲れねえだろうけどよ。

っと、やっと最後が見えてきたか。
この下のほうの丸太を飛び越えりゃ、この先には何もねえ。俺の勝ちだ。
テンシュカクとやらにある『良い物』は後回しにして、まずは食い物だ。
空きっ腹で血も足りない俺をここまで走り回らせたんだぞ。
たらふく飯を食わなきゃやってらんねえぜ。
あの紙をとっちめるのはその後だ。
さあ飛ぶぞ、いち、にの、さんっ!
………………。
…………。
……。
ああ、そういう事をするのかテメエらは。
最後に上と下、両方の丸太をずらして出してきやがった。
このままじゃ、上の丸太に頭をぶつけちまう。
でも、俺にゃそれを防ぐことは出来ねえ。
こうやって考えてる間にもどんどん近づいてくる。
ああくそ、痛てえんだろうなあ。
せめて歯ぁ食いしばっ!!
クソったれ、やっぱりいってえ!
いてえ!いてえよ!
頭の中でグワングワン響いてるぞ畜生!
しかも上向いて倒れてるからあの野郎が先に行くのが見えやがる!
そんなに見せつけてえのかよコラァ!
覚えてやがれ、只じゃ済まさねえぞあの野郎……


二本目を制したのは疾飛丸。
アライグマの父は、落ち着いて走っていれば勝てたレースだが、後の祭りである。



「おい、俺はもう帰る」
「旦那ア、キュウビ様の話聞イテ無カッタンデ?」
「そうじゃねえ、このキュービー城から出て行くってんだ!!」

怒り心頭と言わんばかりに眉間に皺を寄せながら宣言するアライグマの父。
顔が赤いのは先程ぶつけただけではあるまい。

「大体よお、なんで俺がこんなに飛んだり跳ねたりしなきゃなんねえんだ!
そういうのはガキがするべきことだろうが!別に獲物を追っかけてるわけでもねえのにこれ以上やってられるかああ!!」
「ソウハ言ッテモ旦那ア、ココジャソウイウ決マリニ……」

アライグマの父のまさかのリタイア宣言に疾飛丸も困惑を隠せない。
彼からすれば、一勝一敗で迎えた三本目を楽しみにしていたところに冷や水を浴びせられた格好である。

「うるせえええ!いいから食い物よこしてさっさと帰らせろ!!」

しかし、アライグマの父がこれから三本目を走ってくれるとは到底思えないのも事実であり、疾飛丸は考える。
このまま三本目を走るように説得するか。
参加賞の食べ物を渡してお引き取り願うか。
いざ考えを比べてみれば、答えを出すのは簡単であった。

「ワカリヤシタ、旦那ガ三本目ヲ走ッテクレソウニナイノハ、アッシモ理解シヤシタ。
今カラ食イ物持ッテクルンデオ待チクダセエ」
「判ったんならとっとと持って来い!」

そうしてしばしの後、参加賞として疾飛丸が持ってきたのは梅干とお粥と炭酸の抜けきったコーラの三つ。
とある世界では試合前に食べるには最適の食事とされている。
アライグマの父も、梅干は論外としてコーラとお粥は文句も言わず全て平らげた。
食事のあとの盛大なゲップが出た所で、疾飛丸が話を切り出す。

「サテ旦那ア、少シ目ヲツブッテクレマセンカネエ」
「あ?何でだよ」
「コレカラ旦那ヲ転送、ツマリ他ノ所ヘ飛バスカラデサア」
「ちょっと待て、いきなりそんなこと言うな」
「オ、準備出来タヨウデ。ソンジャオ達者デ~」
「ふざけんなああぁぁぁ」

こうしてまたもやアライグマの父は大移動を開始する。
心の準備が整わないうちに転送されるはめになったのは、三本目を楽しみにしていた疾飛丸の腹いせか。
それを確認する術も、自分がどこに行くのかもアライグマの父が知ることは出来ない。
今はただ、空腹が癒えた代わりに頭痛がひどくなっていくのを感じるばかりである。



【???/???/一日目/正午】

【アライグマの父@ぼのぼの】
【状態】:頭部に怪我、尻尾に切創(止血)、疲労(中)、軽度の貧血、
【装備】:ディバック
【所持品】:地図、空飛ぶ靴@DQ5、魔除けの札@大神
【思考】
基本:積極的に誰かを襲うつもりはない……?
1:ふざけんなああぁぁぁ
2:自分がどこへ行くのか不安。
3:観覧車を自由に動かす方法を探す。
4:息子たちが心配。
5:疾飛丸はあとでシバく。
【備考】
※札は少し湿っています。
※アイテムの説明は読んでいません。
※イギーと情報交換をしました。
※空飛ぶ靴は遊園地の入り口前が指定されていました。
※B-1からA-2の遊園地入り口までの間にアライグマの父の支給品が落ちている可能性があります。
※空を飛んだ時、月が地上よりも大きく見える気がしました。
※ボニーの考察は獣の卍参照。
※疾飛丸はキュービー城から出られません。また、キュービー城に関すること以外は答えられません。
※疾飛丸との三本勝負で二本先取すると、“良い物”が貰えるようです。また、負けても菓子が貰えるようです。
※レース場のイメージはアライグマの父の主観です。参加者によっては他のことに気付くかも知れません。
※参加賞は梅干とお粥と炭酸の抜けきったコーラ@グラップラー刃牙でした。しかし他の参加者も同じものとは限りません。
※アライグマの父が何処に転送されたかは次回の書き手さんにお任せします。




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078:戯守奇譚 アライグマの父 089:黒い牙




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