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とても優しい瞳をしてたあなたが歌う―― ◆TPKO6O3QOM




 滑走するザフィーラの顔面を雨粒が容赦なく叩きつけていく。勢いに乗った水滴は石つぶての如く露出した肌を穿ち、腕で保護していなければ目も開けていられない。
 地上を見下ろせば、風に煽られた草木による緑の大波が広げられていた。キュウビの放送はそろそろのはずだが、この雨音の中、それを聞きとれるか、些か不安になる。
 雨にけぶった視界の向こうに、ホテルらしき建物の影が見えてきた。それと同時に、肌がちりつくような違和感をザフィーラは覚えた。
 見上げると、ホテルの上空に重く暗い雲が幾重にも立ち込め、それ自体が一個の生き物のように蠢いている。その姿は、まるで雲が意思を持ってホテルに集っているようだ。
 ザフィーラは高度を下げ、地面を這うような軌道へと変えた。視界は狭まるが、空に居て雷に打たれては堪らない。
 ホテルの輪郭がはっきりと見えて来た時、上空が眩く耀いた。耳を劈くような轟音と共に、純白の光刃がホテルを斬り裂いた。その衝撃はザフィーラの臓腑にまで響き、視界が一瞬にして白一色に染まる。
 しばしして、ザフィーラは己が声を上げながら地面を転がっていることに気付いた。ほんの数瞬、気絶していたのかもしれない。泥を払いながら彼はホテルを確認し――思わず声を漏らした。

 ホテルの形が変わっていた。雨のために延焼することはないようだが、白煙をあげる建物の上半分が崩れてしまっている。一体どれほどの衝撃がホテルを襲ったのだろうか。先程のは、ただの雷ではなかったのかもしれない。
 近づくと、ホテルの壁には黒々とした雷の爪痕が刻まれていた。周囲には、雨で流しきれない焦げた臭いが漂っている。
 未だ雷の影が残る目を擦りながら辺りを見渡すと、ホテルからふらふらとした足取りで離れていく人影を見つけた。落雷の際、ホテルに居たのかもしれない。目の端で、不自然に瓦礫が動いたような気がしたが、一旦無視して人影に接触することを選んだ。
 トナカイの子のときの経験を踏まえて、空は飛ばず、徒歩で距離を縮めていく。ある程度近づいた所で、ザフィーラは声を張り上げて呼び掛けた。
 雨の帳の中、人影がびくりと震えて立ち止まるのが分かった。その反応を多少訝しく思うものの、ザフィーラは名前を告げながら歩みを進めた。
 相手を確認し、ザフィーラは己の頬が緩むのを止められなかった。全身の毛をしとどに濡らしているものの、人影はあのトナカイの子供であったのだ。
 トナカイの子供も、こちらの姿を認めたらしい。厳しかった表情が崩れ、愛らしい円らな瞳を大きく見開き――、

「うきゃあ!」

 と悲鳴を上げた。そのまま駆けだそうとするのを、寸での所で腕を掴み、引きとめる。トナカイの子供は余計にパニック状態になり、腕や足をぶんぶんと振り回し始めた。蹄がザフィーラの腕や足を掠めて行く。

「お、おい、落ち着け!」
「おばけ! ゆーれい! 助けてー祟られるー皿数えてくるーあくりょーたいさーん!」
「あ、暴れるな!」
「おれが悪かったよぉーちゃんといくから今は――」

 腰に手をまわして抱き上げながら、子供がどうやら己を幽霊か何かと勘違いしているらしいことに気付く。

「待て待て! 俺は生きてる。生きてるぞ! おばけじゃない!」
「おばけは皆そう言うんだー! ビームに当たって海に落ちたの、知ってんだぞー! びしょ濡れなのが証拠だー!」

 どうやら、トナカイの子供は、ザフィーラが海に落ちて死んだと思い込んでいるらしい。難儀しながら身体の位置を変えて、ザフィーラは子供と向き合った。その目を、できるだけ穏やかに見つめながら諭すように言葉を紡ぐ。

「俺は海に落ちてない。あのとき、鉄橋の下からおまえの同行を窺ってたんだ。俺が空を飛べるのは知っているだろう?」
「……落ちて、ない?」
「そうだ。落ちちゃいない」

 トナカイの子供が、瞳に怯えを浮かべながらも平静を取り戻しつつあるのを見て取り、ザフィーラは彼を地上に下ろした。腰をかがめ、視線を合わせる。

「お、おれ、あんたが海に落ちて……おれ、あんたを殺したとおもって……」

 子供はくしゃりと顔を歪め、俯いた。安堵とも取れるし、どこか怒っているようにも見える。ただ、その様子から、子供が余程思いつめていたことは伝わって来た。あれから大変な目にもあって来たのだろう。小さな身体の至る所に包帯が巻かれ、血が滲んでいる。

「すまなかった。あのときは、おまえのことを警戒していたんだ。すぐに出て行けば良かったな」

 詫びると、子供が口の中で何事か呟いた。しかし、雨音に紛れてザフィーラには聞きとれなかった。それを聞き返そうとしたとき、子供がきっと顔を上げた。表情は、先程の厳しいものに変わっている。

「ザフィーラは、この殺し合いに乗ってんのか?」

 問いの口調も、子供らしからぬ、とても緊張を帯びた物になっている。眼光も酷く鋭く、それは断罪者のように、一片の不義も見逃すまいとしているように見える。

「いいや。乗っていない」
「……誰かを殺したのか?」
「それも否だ」

 二つ目の答えに、子供の顔は歳相応のものへと戻った。

「そっかー……良かったあ。おれ、トニートニー・チョッパーっていうんだ。チョッパーでいいや」
「宜しくな、チョッパー」

 差し出された蹄を握ろうとしたそのとき――視界の外から飛び込んできた影がチョッパーを弾き飛ばした。雨音で、接近に気付けなかったようだ。地面に転がったチョッパーは目を回したのか、起き上がってこない。
 チョッパーに追撃しようとする襲撃者の前に、ザフィーラは半身を滑り込ませた。裂帛の気合と共に地面を踏みしめ、反対の足を蹴り上げる。それを襲撃者は毬のように跳んでかわし、四足で着地した。そこから一呼吸も置かずに、襲撃者は飛沫を飛ばしながらザフィーラに襲いかかって来た。
 そのあまりに速い挙動に目を見張りながら、ザフィーラは動きに合わせて拳を振り降ろした。拳は襲撃者の顔面に突き刺さる。地面に叩きつけられた襲撃者は、しかし、怯むことなく上半身を跳ね上げ、関節を無視した動きで抜き手を繰り出した。
 ザフィーラは身を捩ってその軌道から逃れるも、手刀は背負っていたデイバッグを切り裂いた。中身が地面に散らばる。
 それを無視し、ザフィーラは流れそうになる身体を踏みとどめ、更に小さく地面を蹴った。背筋だけで宙に躍った襲撃者に肉薄し、そこから半歩奥に踏み込んだ。それと同時に繰り出した掌底は胸板へと吸い込まれ、骨を砕いた感触が右腕を奔っていく。
 襲撃者は受け身も取れずに地面を転がった。何処からかキュウビの声が聞こえて来たが、それに構っている暇はない。案の定、襲撃者は身を起こしてきた。間合いと共に稼げたのはほんの一呼吸の時間――しかし、それで充分だった。
 ザフィーラは力ある言葉を高らかに叫び、魔力を展開した。

「縛れ! 鋼の軛!」

 魔力によって生成された光の拘束条が大地より飛び出し、襲撃者の四肢を貫き、その動きを止めた。襲撃者は口から泡を飛ばしながら身を捩っている。
 改めて、襲撃者の姿を確認する。おそらくはネズミか何かなのだろう。しかし、その身体を覆っているのは柔らかい毛皮ではなく、焼け焦げた皮膚の黒い残骸だ。その所々に、肉の朱が覗いている。右目は血だまりになっており、もう片方の瞳は白く澱んでいた。生物として、死んでいなくてはおかしい状態だ。
 襲撃者が大きく雄叫びを上げた――と、同時に襲撃者はザフィーラの目の前に立っていた。

「く――ッ!」

 相手の凄惨な姿に集中を乱したか。しかし、どうやって拘束を逃れたのかという疑問を思考の外に追いやり、ザフィーラは後ろへ跳んだ。しかし、すでに襲撃者は攻撃の体勢に入っている。ザフィーラの後退よりも、襲撃者が前進する方が――早い。
 襲撃者が左腕を打ち出した。拳ではない。腕の先に手はなかった。断面から、尖った骨が覗いている。襲撃者は四肢を引き千切って、拘束を解いたのだ。
 骨の槍はザフィーラの脇腹を深く抉った。同様に、右腕も腹に差し込まれる。ザフィーラの喉から苦鳴が漏れた。襲撃者は"両目"でザフィーラを見、嗤うように眦を蠢かした。
 ザフィーラの苦鳴が、絶叫へと変わる。刺された痛みからではない。傷口から異物が侵入し、根を張るようにして肉を裂き、身体を作り変えられていくような感触。
 彼は叫びながら、力いっぱい襲撃者を蹴り飛ばした。肉を裂く音と共に、激痛が全身を駆け廻った。思わず片膝をついたザフィーラの周りには、瞬く間に血だまりが出来ていく。
 弾け飛んだ襲撃者の両腕には、ザフィーラの血と肉がごっそりと纏わりついていた。その下から表れたのは、青い毛に覆われたオオカミの前足だ。いつの間にか、襲撃者の両足も元に戻っている。それどころか、黒焦げだった身体にうっすらと毛が生え始めていた。
 著しい速さで再生しているらしい。それに加えて、他者の肉体を侵食し、吸収する力もあるようだ。拘束するなど、甘い対処法では意味のない相手だったのだ。
 ザフィーラは乱れる呼吸を無理やり整えた。
 もし、ここで獲り逃せば、大事に至ることは火を見るより明らかだ。あの吸収能力が、肉体の再構成だけでなく、個々の持つ能力までも吸収できるのだとしたら――。既に、ザフィーラの魔法をも奪われているのだとしたら――。
 ザフィーラは掠れた声で――叫ぶ。

「縛れ、鋼の、軛――!」

 生成された幾本もの光の槍は、襲撃者の頭部や胸部を貫いた。しかし、襲撃者は止まらない。肉体を引き裂きながら、そして再生しながら、拘束を解こうとする。一本や二本では、致命傷にも至らないらしい。
 ならば、再生する部位がなくなるほどの傷を与えるより他に法はない。
 ザフィーラは込みあげる血塊を吐き捨て、力ある言葉を重ねた。魔法陣が構成され、光の奔流が襲撃者に襲い掛かる。奔流の正体は、無数の槍だ。それが襲撃者の全身を貫いていく。襲撃者の絶叫が響く。
 光が消え去ったとき、襲撃者の姿は何処にもなかった。一片の肉片も残さず、光の刃によって刺し貫かれたのだ。千切れていた四肢が泥の中に転がっているが、それが動く様子はない。
 ザフィーラは荒くため息を吐いた。脇腹を両腕で抑えながら、チョッパーが倒れていた方に首を巡らせる。
 彼は既に意識を取り戻し、立ち上がってこちらを凝視していた。一先ず、大した怪我もないらしい。そのことに、ザフィーラは小さく笑みを刻む。
 ゆっくりとした足取りで、チョッパーが近寄ってくる。と、デイバッグを投げ捨てながら、彼が何事か呟いたのが聞こえた。

「何、だ? 雨でよく、聞こえな――」

 チョッパーの上半身が膨れ上がり――。

「――い」

 叫びと共に、チョッパーのの蹄がザフィーラに叩き込まれた。






 蹄を振り下ろす。その度に朱色の飛沫が辺りに散った。

「やっぱりおまえもヒト殺しなんじゃないか!」

 蹄が肉を叩く。

「おまえもヒトを殺すんじゃないか!」

 蹄が骨を砕く。

「おまえも、あいつらと同じなんじゃないか!」

 蹄が地面を叩く。

「おまえが、早く出てきてくれてたら――!」

 イギーに意地悪をされることもなかったのに――。
 楽俊とやらと戦うことにならなかったかもしれないのに。
 ザフィーラがすぐ出てきてくれていれば、ピカチュウは死ななかったかもしれないのに――。

 チョッパーは腕を止めた。それと同時に、身体が元の大きさに戻る。ランブルボールの効果が切れたのだ。
 彼の眼前には赤い池が広がっていた。そこに倒れ伏す男には顔がなかった。あるべき場所には、ただ骨と肉片が泥の中に散らばっている。
 このヒト殺しに出会わなかったら、もっと違ったはずだ。己は万能薬でいられたはずだ。

 チョッパーは頬をぬぐった。それに沿って紅い線が引かれるも、すぐに雨が流れ落としていく。

 これで正真正銘、自分はヒト殺しだ。万能薬では完全になくなった。
 チョッパーは込み上げてくる笑いの衝動に任せて、肺を震わせた。泣くように、チョッパーは嗤った。その衝動が漸くおさまり、チョッパーはぽつりと呟いた。

「行こう……」

 南は嫌だった。イギーがいる。会えば、覚悟が鈍る気がした。そうなったら、ただ惨めな自分が残るだけだ。向かうなら北がいい。
 一先ず荷物を拾おうと、チョッパーは振り返った。

 目の前に深紅が広がっていた。





 ムックルは大きく嚥下し、桃色の被り物を吐きだした。キママウよりも小さい獣が身に着けていたものだ。朱に染まったそれは雨に打たれ、更に汚い色へと変じていく。
 ムックルの後方には、喰い千切った残りの半身が落ちていた。更に、その傍には人間の男の死体があるのだが、堅そうで食べる気にはなれなかった。
 ちらりと、彼は焼け焦げた城を見た。その臭いに、ムックルは口吻を歪めた。火は嫌な臭いだ。雷も同じだ。

 あそこは駄目だ。

 安全に雨宿りのできる場所を探し、ムックルは南への移動を再開した。




【ザフィーラ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 死亡】
【トニートニー・チョッパー@ワンピース 死亡】
【残り 19匹】


【D-4/ホテル跡/一日目/日中】

【ムックル@うたわれるもの】
【状態】:全身にダメージ(小)、精神的疲労(小)、母への強い思慕、興奮(大)、びしょびしょ、南に移動中
【装備】:鋼鉄の牙@ドラゴンクエスト5
【道具】:なし
【思考】
基本:殺し合いに乗る。
1:雨宿りできる場所を探す。
【備考】
※ムックルの参戦時期はアニメ第5話で、食料庫に盗み食いに入る直前です。
※ツネ次郎に懐きました。缶詰をツネ次郎がくれたものだと勘違いしたため。
※風雲再起に苦手意識を持っています。
※モロから一連の狩りの仕方(気配の殺し方等)を教わっています。
※アマテラスの本当の姿が見えています。
※筆しらべ『水郷』を浴びたため、血は大分洗い流されました。
※放送を聞きましたがあまり理解していません。特に禁止エリアの部分。
※チョッパーの首輪を丸のみしました。胃液によって首輪が機能するかどうか、消化されるかどうかは不明です。


※ザフィーラの支給品一式、ランブルボール@ワンピース×2、ブロンズハチェット@聖剣伝説Legend of Manaがホテル付近に散らばっています。
※チョッパーのデイバッグ(支給品一式*2 、応急処置用の医療品、担架)がホテル付近に放置されています。
※DG細胞は完全に消滅しました。 


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093:背なの上のぼの ムックル 未完成の自画像
094:荒れ狂う稲光の―― トニートニー・チョッパー 死亡
092:驟り雨 ザフィーラ 死亡




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