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俺の背丈追い越して、いつかはお前もいっちょ前  ◆TPKO6O3QOM




 周囲を弾力性のある幕が覆い包んでいる。空気が入り込むような隙間は無いのに、不思議と呼吸は苦しくない。仄かに湿り気のある空間は、温泉に浸かっているような心地よさすら感じられる。
 と、真っ暗闇であった視界が段々と色を帯びて来た。視界一面に、雨に濡れた大通りが広がっていた。雨粒が全身を叩き、耳障りな音を奏でている。いつの間にか、疾飛丸によって外に追い出されたらしい。
 首を巡らせると、背後に城が聳え立っていた。しかし、最初に目にしたときほどの迫力は感じない。
 彼は己の両腕を見下ろした。黒い装甲に覆われた、頑強で無骨な二本の腕(かいな)。その先についている掌を何度か握ったり開いたりしてみる。節くれ立った指は、その見た目に反して滑らかに動いた。手首を返し、何度かそれを繰り返す。
 一度大きく息を吐き、彼はゆっくりと立ち上がった。見えていた風景が大きく変わる。地面は遙か下となり、そのあまりの変化に彼は立ちくらみを覚えた。景色がぐるりと回り、踏鞴を踏む。どうにか左足を素早く少し引いて踏ん張り、重心を落として体勢を整えた。
 転倒しなかったことに安堵し、彼は大きく肩を竦めた。視界には、遊園地の敷地の大部分が広がっている。目を付けていた観覧車は今も、雨の中でゆっくりと回転を続けていた。
 しかし、あの輪っかを使うのは今でも難しそうだ。この場所からでも見上げるしかない代物をどう扱えばいいのか、見当がつかない。
 落胆に首を振ってから、足元に落ちていた長刀を拾う。これも一緒に放り出されてきたらしい。連れの首を落とした刀の輝きには大きく劣るものの、雨水に濡れた刀身は不気味な剣呑さを湛えていた。
 刀を右手から左手へと移しながら、彼は首を捻った。遊びで作ったことはあっても、実際に使用したことはない。
 蘇るのは、連れが殺された時の光景だ。あの女のように肉を綺麗に両断するにはどのようにすればよいのか。ただ振り回すだけでいいのか。何度か振ってみるものの、使いあぐねて、彼は刀を一旦地面に突き刺した。
 と、雨音に混じって、あの狐の声が流れ始めた。それを無視して思案していると、彼の息子の名前が読み上げられた。
 彼は顔を上げた。天にあの狐の姿があるはずなどなく、大粒の雨が顔を叩くだけである。最初は、名前を読み上げられたことと、それが意味する事柄をくっつけることが出来なかった。
 そはいえ、それもほんの刹那の間だ。やがて、呼吸が大きくなり、鼓動が痛いほどに速くなる。足から力が抜け、彼は刀の柄に手を掛けて身体を支えた。
 狐はまだ何事か告げていた。されど、その内容はまったく頭に入ってこなかった。

 本当に息子の名は呼ばれたのか――。

 彼が確かめたいのはそのことだけだ。やがて、狐の声は聞こえなくなった。狐は、彼が一番聞きたいことを繰り返しはしなかった。雨音だけの静謐が戻る。
 聞き間違い。
 そうだと思いたかった。しかし、己の耳がそんな粗末な代物でないことを、他ならぬ彼自身が知っている。
 この地にて、彼の関心事は己と息子、その知り合いの命だけだ。それ以外で、彼の意思を中断させるものはない。
 つまり己の耳は、確かに聞いたということだ。息子の名が呼ばれるのを。

 彼の息子は――死んだのだ。

 雨音がやけに大きく、身体の奥底まで響いていた。

 息子――。
 生まれた時、弱々しく、触れれば崩れてしまいそうだったことを覚えている。妻の乳を吸い、彼にさえ無邪気に甘えて来た。それがこそばがゆく、邪見に扱いもした。
 狩り場、木の実の生る土地、生きるための術と知恵――色々と教えた。しかし、息子は馬鹿だった。控え目に言っても、出来はよくはなかった。早く一人前にならないものかと、苛立ちもした。
 けれども、それでいいのだ。手がかかり、煩わしい――それが子供なのだ。
 それに、息子が居る日々は退屈しなかった。必ず何かをしでかした。殴りつけたこともあったが、何も変わらぬ日々に鮮やかな彩を加えてくれていた。
 ただ――生きてくれているだけで充分だった。
 自慢の、とは言わない。だが、妻と己の宝であったことには変わりない。好いた女と一緒になり、そして――生まれた我が子だ。

 たった一人の、ただ一人の、彼の息子だ。

 いずれは大きくなり、好いた女と共に巣立っていくはずだった。事と次第では、己が巣を出て行ってもいい。孫の顔など見る必要はない。そんなことは面倒だ。己は只、息子が立派に独り立ちするのを見届けられれば、それでいい。
 旅から無事に帰って来た時、誇らしさと共に、幾許かの寂しさがあったことを思い出す。息子が自分の手から離れつつあることを、あのとき悟ったものだ。

 己を追い越して、少しずつ離れていく息子の背中を見送る。それが父親の役割だ。時が来れば、もうそれしか出来なくなるのだ。
 だけれども――もう、見届けるべき背中は何処にも見えない。息子は独りで、あまりにも速く先に行ってしまった。父親に、見送る暇すら与えずに。

 己が立ち入れぬ未来へと、足を踏み入れていく息子の姿を見たかった。毒づきながらも、門出を祝ってやりたかった。悔しさが、煮え立つ澱みとなって腹の内に蓄積されていく。

 誰もが死ぬ。いつでも死ぬ。いつかは死ぬ。子が親より先に死ぬこともある。
 それは知っていた。だが、分かってはいなかった。
 呼吸をするのが困難なほどの苦しみが身を包むのか。身を引き裂かれた方がましなほどの痛みを覚えるのか。何も分かってはいなかった。
 息子を失ったことなど、今までなかったのだから――。

 彼は徐に刀を引っ掴むと、衝動のままにそれで周囲を薙ぎ払った。傍に在った施設から破片が鮮血のように舞い散り、大きな傷跡が刻まれる。
 彼は大きく肩で息をしながら、先の施設に対し、もう一度刀を振るった。悲鳴を上げながら、施設はゆっくりと崩れて行った。
 その光景を視界に納め、彼は刀を肩に担いだ。何を悩んでいたのか。何も、斬る必要はないのだ。ただ、これで殴りつければ事足りる。殴りつけるだけで、生き物は死ぬ。

 もう、己を縛りつけるものは何もない。己の命以外に気に掛けるものは何もないのだ。ならば、これからすることは一つだった。
 何が何でも生き残り、妻に詫びねばならない。信用して息子を託してくれた、あの心優しい女を支えてやらねばならない。同時に、親として息子の仇も討ってやりたかった。

 そのために彼は――全員を殺すことした。



【A-2/遊園地/一日目/日中】

【アライグマの父@ぼのぼの】
【状態】:頭部に怪我、尻尾に切創(止血)、疲労(中)、軽度の貧血、アヴ・カムゥ内
【装備】:アヴ・カムゥ@うたわれるもの、アヴ・カムゥ専用の長刀@うたわれるもの、デイバッグ
【所持品】:地図、空飛ぶ靴@DQ5、魔除けの札@大神
【思考】
基本:全員を始末して、仇を取る。
1:参加者を探す。
【備考】
※札は少し湿っています。
※アイテムの説明は読んでいません。
※イギーと情報交換をしました。
※空飛ぶ靴は遊園地の入り口前が指定されていました。
※B-1からA-2の遊園地入り口までの間にアライグマの父の支給品が落ちている可能性があります。
※空を飛んだ時、月が地上よりも大きく見える気がしました。
※ボニーの考察は獣の卍参照。
※デイバッグは、コクピット内のアライグマの父が背負っています。
※第二回放送の内容を、アライグマが死んだこと以外聞いていません。

※遊園地の城付近の施設が倒壊しています。


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089:黒い牙 アライグマの父 101:空が別れを告げている




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