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禍福は糾える縄の如し ◆1eZNmJGbgM


唐突だが、この場において最も不運な参加者とは誰であろう。そもそも、いきなりこのような
殺し合いに呼び出されたこと自体が不運ともいえるが、その中でも選ぶとしたら?

例えば信じられる仲間がいない者は不運である。
その逆でかけがいのない仲間が殺し合いに参加させられている者も不運である。
あるいはあの妖孤が気紛れで支給した品が使えない、使いこなせない者も不運である。

だが少なくとも現状で最も不運な者、それは既に仲間の死を目撃してしまった者であるだろう。
それも至近距離で、その血を浴びるほどの距離で見てしまった二匹。
だが彼らの不運は終わらない。ここではその内の一匹の様子を紹介しよう――



場所はA-6とA-7の境界線、駅前。他の地とは隔絶されたこの場所にアライグマは転送された。未だ
あの場所で見てしまった光景に彼は現実味が持てない。少なくとも彼の日常では起こり得ない現象。
だが現実は彼に容赦なく知らせる。その嗅覚、触覚が毛皮に付着した液体が血液であると告げている。
それでも彼の心は否定する。いくら脳があの―シマリスの首が吹き飛んだ―光景を現実と受け止めよう
としても心が拒否する。アレを認めてしまったら自分達の日常に戻れない。あの楽しかった日常が
戻ってこなくなってしまう。それは認めない。認められない。認めたくない。認めてたまるか!

そうした頭と心の葛藤が続いているため彼はその場から動かない。その体から血生臭い匂いを発した
ままで。それがどのような事態をもたらすか考え付かぬまま。仮にこの場に呼び出された動物が彼だけ
ならさほどの問題は無かったかも知れない。近くに転送されたのが知性が高い者なら警戒し、様子を
窺って現れるだろう。又は参加者の中でも温厚な者、正義感の強い者、ひ弱な者…これらに当てはまる者
なら多少は安全な出会い方をしたであろう。しかし現実は非情である。彼の葛藤など切り捨てて
強引にも現実と向き合わせる。
血の匂いに誘われてその場に現れたのは肉食獣。それも他の動物はおろか人間さえも襲い、喰らい、
一時的とはいえ人の手から自らの領地を勝ち取り、牙城を築きあげた規格外の存在。
猟銃で撃たれ、片目を失ったがそのダメージと引き換えに冬眠を拒否し、
熊としての成長の限界を超えることに成功した化け物。

二子峠の魔王―赤カブト。それがアライグマが最初に出会った参加者である。


「あ、あ、あああ…」


言葉が出ない。いや出せない。アライグマは対峙した瞬間に本能で理解してしまった。
人間ですら自分が絶対に敵わない存在と命を脅かされている瞬間が解るという。ならば人間より
数段野生、感性に優れている動物ならなおのことである。たしかにアライグマは森では苛めっ子である
とか粗暴な性格で知られているし、熊ならヒグマの大将のような存在も知っている。しかし目の前にいる
熊は自分の知っているそれらとは違いすぎる。臭うのだ。ただ歩く、呼吸をする、それだけのことなのに
血の臭いがする。それは錯覚なのかもしれないがそう思い込ませることが出来るほどの
『凄味』や『殺気』を体中から漂わせている。なにより目の前でシマリスの首が飛ぶというショッキングな
光景を見てしまい、軽度の錯乱状態であったところにこの化け物に出くわし、場の空気に飲まれた事も仕方なきことである。

「グボオオォーーー!!」

この唸り声一つでアライグマの戦意は完全に喪失した。無理もない、かの奥羽軍精鋭750匹の男達
ですら動揺をし、足元を尿で濡らす者まで現れるぐらいだ。それをたった一匹で浴びてしまったら…
その結果、金縛りに遭ったように動かない。
まるで手足が消えてしまったかのように彼の体は動かない。
ただ自分に向かってくる化け物熊と自分の心臓の鼓動だけが動いていて、それ以外は最初から
無かったのではないか?そんな他愛もないことをアライグマが考えている間にもゆっくりと赤カブトは
彼の元へ近づいてくる。
そして幾人、幾匹の生物を殺めたか分からなくなるぐらい血に染まった右腕を振り下ろし――
命中する直前でその動きを止められた。凶獣の手足四か所を拘束する光の輪。
リングバインド。拘束、捕獲系統の基本であり、速やかに発動する魔法。これがより拘束力の強い
チェーンバインドならば間に合わなかったかもしれない。
そしてこの術の使用者、紅毛の狼、アルフがこの場に舞い降りた。



――こうして彼は危機一髪の状況から抜け出したかのように思える。
しかし彼はこの場において未だ不運であった。そう、例えば他者にも不運を分け与えてしまうほどに――



「大丈夫かいアンタ!」

そういってアルフから話しかけられ、ようやくアライグマは金縛りから解放された。一気に気が緩んだ
のか、思わず尻餅をついてしまう。そんな自分の行動の気恥ずかしさを隠すためか、自分の目の前にいる
赤毛の狼についいつもより大声で話しかける。

「おう、助かったぜ!おれの名前はアライグマだ、お前の名前は何だ?」
「ああ、アタシの名前はアルフ。ところでこの馬鹿でかい熊のような動物は何なんだ?」

アルフがそう言いながら横目で睨みつけた先には四肢を拘束されもがく赤カブト。
しかし魔法なんぞ見たことが無いアライグマからすればいつまた動きだすか分からないので内心ビビり
まくりなのだがそこはなんとか隠し通している。本人的には。

「し、知らねえよ!それよりあの光の輪、丈夫なのか?あいつ、力強そうだから…」
「その辺は大丈夫。いくら図体がでかいようでも魔力を持っていないような奴には負けやしないよ。
このままあの状態で頭冷やしてもらうとしようかい。アタシ達はあっちで荷物の確認でもしようよ、たしか
ロープウェイ乗り場があったはず…」

そう答えながらアルフは自分が来た東南の方向を見ながら―赤カブトに背を向けて―アルフに今後の
提案をおこなう。
…しかしアライグマはいきなり石像になったかのように動かなくなった。
まるで死んだふりでもしているかのように動かない。
アルフがその理由を考えているうちに、彼の目だけが徐々におおきく開かれていき、目線が段々上に
移動していき、アルフが振り向いたときには――



彼女の不運は三つ。
一つ、赤カブトの唸り声に反応して現場に向かったため、自身と自身の魔法の制限、弱体化に気付く間が無かったこと。
一つ、魔力を持たないが為に無意識のうちに赤カブトの実力と、野生の底力を軽視してしまったこと。
これに関しては元凶の広間でキュウビの規格外の魔力を感じ取り、その警戒心の反動とも言えるだろう。
一つ、より拘束力の強いチェーンバインドを使用しなかったこと。これもチェーンバインドではアライグマの
危機に間に合わなかったかもしれないので仕方ないともいえる。
こうしてみると彼女のミスはどれも些細なことであり、情状酌量の余地は十分にある。
しかしこれらが三つも重なってしまう所が彼女の不運である。そしてその結果……




アライグマは走る。ただただ走る。いつあの化け物が後ろからやってくるか分からない。
そして捕まってしまう前に、食われる前に逃げる。彼女との最後の約束を守るために。
あの時、バインドを引き千切って襲いかかってきた赤カブトの一撃をアルフはもらってしまい、どうみても
致命傷な怪我を負ってしまった。
それでもアルフは立ち上がった。斜めに振り下ろされた鋭い爪は彼女から左目の視界を奪い、喉、右足
へと大きな傷跡を残した。それでも立ち上がり、会話する体力さえも惜しいと言いたげにアライグマと
視線を交差し、その後東南へと首を振る。何とか意味が通じたのだろう、アライグマは泣きそうな、
悔しそうな、申し訳なさそうな顔をして一目散にロープウェイ乗り場へ走って行った。

(確かに俺じゃあの化け物をどうこうすることはできねえ。でもあのアルフの魔法みたいな不思議な力を
持っている奴なら!助けてくれる奴を見つけて急いで戻って、アルフを助ける!)

こうして彼は走る。ひたすら走る。最大の不運に気付かぬまま。赤カブトに遭遇し、そのことで頭が一杯に
なってしまったため、傍らにあったディパックの存在を忘れてしまった事を。もしかしたらその中には
赤カブトを一撃で葬り去るような武器やアルフの傷をあっという間に治してしまう薬が入っていたかもしれないというのに…

【B-7北西/一日目/夜中】
【アライグマ@ぼのぼの】
【状態】:健康、赤カブトに対する恐怖心
【装備】:なし
【所持品】:なし
【思考】
基本:元の世界へ戻る。
1:ロープウェイ乗り場前へ急ぐ。
2:赤カブトを倒せそうな参加者を探してアルフの元へ戻る。
3:ぼのぼのに会いたい。

アルフには考える時間も余りなかった。自分でも今の怪我が致命傷であることはよく分かっている。
それでも今できる最大限の事をしなければならない。
とりあえずアライグマを逃がす時間は稼げた。
しかしその代償として残り少ない生命力が消費された。
もはや魔法を唱えている時間も体力も惜しい。
自身のディパックはロープウェイ乗り場の前に置いてきてしまった。
アライグマのディパックは二人の中間地点、開けている間に仕留められる。
ならば奴の戦闘力をできるだけ削いでおこう。狙いは奴の目。
残されている左目を潰してしまえばもはや危険な存在ではなくなるだろう。
ただ自分は間違いなく死ぬだろう。大切なあの優しい主人に会うことはできなくなる。
それでも、フェイト・テスタロッサの使い魔として恥ずかしくない最後を飾ろう。

そうして先手を取ったのはアルフ。残された力を振り絞り、赤カブトの喉笛へ矢のように襲いかかる。
もちろんこれは囮。予想通り赤カブトは右腕で迎撃に打ってでる。そしてその右腕が当たろうかという
瞬間、アルフの軌道が急激に変化する。もともと空を飛べるのだ、その程度のことはできて当然。
そして狙いは本命の左目へ。作戦通り。完璧な作戦。しかも相手はおそらく魔法を知らない。
この作戦が看破される可能性は皆無。目標は目と鼻の先。アルフは成功を確信し、薄れ行く意識を
手放していく。

「フェイト…」

最後に主人の名を呟き、満足げな表情を浮かべながらアルフは目を閉じる。



―彼女の最大の不運、いや幸運は作戦の結果を知らずに死んでいったことだろう―



赤カブトにとって幸運だったのは目を狙われたのが初めてではなかったこと。彼はここに呼び出される前に
一度死んでいる。その敗因の内で大きなウエイトを占めるのが視覚の消失。
魔犬・甲斐三兄弟の長男、赤虎が己の命と引き換えに赤カブトの左目を奪ったのだ。
その事を覚えているが為に右腕のみで対応し、残った左腕は守りの姿勢に入っていたのだ。
しかし先ほどの光の輪のような、見たこともない技を使われてはまずいのでぎりぎりまで防御を
しなかったのだ。そのことにアルフは最後まで気付くことはなかった。
そして敗者は肉となり、勝者に食われる。
野生の世界におけるたった一つのシンプルな答え。
弱肉強食の世界が繰り広げられていた。

人間ならば、思惑を巡らせ思考の海に沈んでいるとき、何か口寂しくなってついペンを咥えてしまったり、
食べ物がある時は軽食を摘んだりして口を動かしながら考え、作業を進める…珍しい事ではないだろう。
この場では動物も例外ではないようだ。

バギ
む、この肉の柔らかさからしてコレはメス、それも若いな。なかなか旨い。牝鹿よりも口に合う。
メキ
この首輪は邪魔だ。オレのは…後で考えるか。
ペッ、カランカラン…
そういえばこいつが使ってきたあの妙な光の輪、あれは拙かった。あの輪を一か所に集められていたら
おそらく引きちぎることは無理だったろう…
グチュ
そもそもオレは確かに死んだはずだ。あの忌々しいリキとジジイは道連れにしたはずだが、リキの息子、
確か名は銀とか言う犬―ああ、気がついたが目も元に戻っているな―に止めを刺された筈だ。
目が見えていないから確信はないが。
ズルッ
うむ、ハラワタも臭くない。いきなりこんな上物を喰えるとは、ここはいい場所だ。せっかく生き返らせて
もらったのだ、多少はあの化け狐に協力してやってもいいな。ただし、オレのやり方でだ。
ボキ
最初に飛ばされたあの建物を今回の牙城とするか。ここにある建物よりも最初の建物の方がデカい
からオレにふさわしい。こいつから零れた血でオレの向かった先もわかるだろう。おっと、あの小熊の
落とした袋、これも持っていくか。ニンゲンはこの中にも食い物を入れているからな、たまにニンゲンより
旨いのが入っていることもあるし。逃がした小熊がだれか連れてくるだろうからそれを待つか。

さて、そろそろ向かうか、新しい牙城へ……

【A-6/駅前/一日目/夜中】
【赤カブト@銀河―流れ星銀―】
【状態】:健康
【装備】:なし
【所持品】:ディパック(アライグマ、未開封)
【思考】
基本:研究所を拠点とし、他の参加者を待ち構える。
1:腹ふさぎにはなったか。
2:子、子、小熊来い、こっちの水はあーまいぞ

※原作死亡時からの参戦です。

※A-6駅前から研究所への道にアルフの血の跡が続いています。
※A-6駅前にアルフの首輪があります。
※研究所前に赤カブトのディパック(未開封)があります。
※ロープウェイ乗り場前にアルフのディパック(未開封)があります。

【アルフ@魔法少女リリカルなのはシリーズ 死亡】
【残り 45匹】




この結果は、彼の不運が彼女に移ったためなのかは分からない。なぜなら彼の不運がこれで
終わった、打ち止めという保証はどこにもないのだから……



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オープニング アライグマ 027アライグマくんの受難 
GAME START 赤カブト 040:熊王の城
GAME START アルフ 死亡




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