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番外編! あの世だよ! 全員集合っ!」(2007/07/16 (月) 00:52:24) の最新版変更点

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番外編! あの世だよ! 全員集合っ! ---- ♂ハンターは一人呟く。 「……俺にもっと注意力があれば……俺も力になれたのに……」 一次職にも関わらず精一杯自分の役割を果たそうとする♂アーチャーを見て、自らの不甲斐なさを恥じる♂ハンター。 そこに三人が総つっこみ。 「おーまえにそんな事言う資格は無いっ! 俺なんか悪党扱いでいきなり爆死だぞ!」 「おーれなんて、あぶら自爆死だぜべいべー!」 「僕なんてそこらのザコMOB扱いだったよ!(いってやった、いってやった)」 自らのセリフに絶望したのか、泣きながら跪く♂商人、♂セージ、禿ちゃん。 「あ~、君達は頑張ったよ、うん。良くやったさ」 何故かフォロー役の♂ハンター。 そんな彼の肩を叩く♀マジが叩く。 「あの~、あちらで『♀商人被害者友の会』が結成されてますので、あちらに行かれてはいかがですか?」 ♀マジが指さす先で、♀シーフと♀アーチャーが肩を組んで声を上げている。 『♀商人の横暴断固許すまーじ!』 ときらぐ主人公が、大声張り上げる♀シーフに言う。 「もう、終わった事なんだからそんないつまでも……」 最後まで言わせずに♀シーフと♀アーチャーが同時に抗議する。 『終わったって何よ! 私達がどんな目に遭わされたと思ってるの!?』 余りの息の合いっぷりにときらぐ主人公が呟く。 「……君達、キャラ被りすぎ」 ぴしっ ♀アーチャーが頬をひくつらせながら言う。 「そ、そんな事無いわよ。だって私は後半まできちーっと戦ってたし。そんな中盤であっさり消えるような子と一緒にされてもね~」 ぴしっ ♀シーフも同じような顔になる。 「な、何言ってるのよ。序盤は『恐いよー助けてー』とか逃げ回ってる腰抜けキャラだったのが、ちょーっとまともになった程度で私と似てるとか言われてもね~」 ぴししっ 「あー、二人共~。その……仲良くね……」 『あんたは黙ってなさい!』 二人はときらぐ主人公を一喝すると、もぬすごい女の戦いが始まった。 ♂ハンターは首を横に振る。 「は、はははっ。俺は遠慮しとく。君は♀ローグ被害者友の会とか入らないのかい?」 ♀マジは顔を引きつらせて言う。 「だって♀ローグさん……あれですから」 ♀マジが指さした先に、♀ローグが居た。 「ちょ、ちょっと待って下さい! どうしてここでまで、そんなにやる気なんですか!」 悪魔プリが悲鳴をあげながら逃げ回る。 その後ろを全速力でおっかける♀ローグ。 「決まってるじゃない! あんたとの勝負が面白かったからよ!」 「迷惑です!」 「それを私が気にするとでも思ったかーーー!!」 ♂マジは座りながら嘆息する。 「あの子もエライのに気に入られたものよね~」 隣でロープに縛られた♂剣士が答える。 「僕のセリフだよそれ……いい加減これ解いてくれよー」 「ヤ」 「…………」 そんな二人を物陰から見ている影。 「ねー、あれ無理矢理奪ったらダメかな~」 隣にいるエクスキューショナーに訊ねる月夜花。 「ダメだろ。お前さんは魔物なんだから、諦めて俺と一緒になれ」 「ごめん。君、形状的に論外だよ」 「なんだと! この俺のそそりたち黒光りする刀身に不満でも……」 そこでいきなり現われるは♂モンク。 「あしゅらはおーけーん!」 ぼかーんと吹っ飛ぶエクスキューショナー。その飛んだ先には、剣を構えた♂クルセが居た。 「あの世の風紀を乱す者! 我らあの世風紀委員の罰を受けよっ!」 かきーんと打ち込んだ先は、川の中。 「ば! ばかやろう! 俺は水だけはダメなんだ錆びちま(略)」 ♂クルセと♂モンクはがっしと握手をかわす。 「そういえば、隊員三号♀モンクはどうしたんだ♂モンク?」 「ああ、彼女は『ごめんね行脚』に行ってくると言っていたが……ややっ! あそこにもあの世の風紀を乱す者達が!」 あ~い~♪ それは~あーまーくー♪ 「やっと二人っきりになれたねダンサー」 あ~い~♪ それは~せつなくー♪ 「ええ、バード。私達は永遠に一緒よ……あ、そこは……」 「ぴぴー! 危険度赤! 限界水域を越えました!」 「あ、いや、それはそれとして、少し様子を見るというのはどうだ♂クルセ?」 「うむむむ、確かに慎重に事を運ばなければいけないからな……どれどれ」 やはり頭痛の止まらない♀剣士。 「♂ウィズ……頼む」 「メテオ」 四人まとめて吹っ飛ばした所で、冷静に言う。 「あれが処罰の対象なのは良くわかる。だが、私としては、それ以上に許せない事があるのだが」 「なんだ?」 「あの無様な連中は一体なんだ? 放置するには余りに不愉快なんだが……」 「あはははー! バドスケさーんこっちこっちー!」 「待てよアラームー!」 何故かこの場にある砂浜を駆けるアラームとバドスケの二人。 ガイコツ剥き出しのバドスケが、少女であるアラームを追いかける様はまるで、出来の悪いホラー映画のようだ。 「あははははー! ♂プリこっちよー!」 「待て待てー! お兄さん♀アサの事捕まえちゃうぞー! ……ってなんだって俺がこんな事しなきゃなんねーんだよ」 同じく砂浜を駆ける♀アサと♂プリ。 いい年の大人が、バックに花とか飛ばしながら砂浜を駆ける様は、無様を通り越して最早滑稽の域である。 返答に窮する♀剣士に♂ウィズは続ける。 「アラームは辛うじて許す。だが、残りの三人は万死に値すると思うのだが……」 「そ、そう言うな。そうだ、向こうにDOP達が居たはずだ。あそこならお前とも話が合うと思うぞ」 そう言う♀剣士の薦めに従って、大きな岩の向こうに居るDOP達の元に向かう♂ウィズ。 「だーから! そのハアハアを止めろと何度言わせる気だ貴様は!」 「ムキになる騎士子タン(*´Д`)ハァハァ」 「……で、こいつがお前が言っていた会わせたい奴とやらか?」 「ち! 違う! 全然全く別人だー! ええいまとわりつくな! 離れんかバカモンがーーーー!!」 「(*´Д`)ハァハァ (*´Д`)ハァハァ (*´Д`)ハァハァ 」 「……ふむ、その表現手法はさておき、並々ならぬ想いを寄せているのは理解出来たぞ。後は腕さえあればゲフェンに招くのも悪くは無いか……」 「あっさりと理解を示すなどっぺるげんがーーーーーーーー!!」 ♀剣士は顔中を引きつらせながら謝る。 「……すまん、私が悪かった」 「もういい。所詮私は一人が似合う身だ……ハイド」 ひゅんとその場に消える♂ウィズ。 「ここまでハイドクリップ持ってきてたのかお前は……もしかして  ハイドが気に入ったのか?」 「ほっとけ」 ぼそっと呟く♀剣士と即答する♂ウィズ。 「……図星か」 「だからほうっておけと言っている!」 その返答の速さに確信を得た♀剣士。 深淵の騎士子の泣き声が響く。 「びえーーーーーーーーーーん!!」 その周りで♂アコと♂ケミが困った顔をしている。 「ねえ、もう泣きやんでよ」 「うはwwwwwもう一時間以上経つwwwwwアリエナサスwwwww」 二人が頭を撫でてやると、少しづつ落ち着いてくる深淵の騎士子。 「ひぐっ……ぐしっ……うっく…………」 そんな深淵の騎士子を見て、にぱーっと笑う♂アコと♂ケミ。 そして、その笑みが深淵の騎士子には眩しすぎて、嬉しくて、申し訳なくて、また胸がいっぱいになっていく。 「うぅ……ぐすすっ……うぅっ……うわーーーーん!!」 顔を見合わせて苦笑する♂ケミと♂アコ。 「ま、いっか。気が済むまで泣かせてあげよっか」 「おけwwwwついでにwwww砂漠の岩場でwwww深淵さんにwwwww何してたか吐けwwwうぇ」 「い、いや別にやましい事なんて何も……ああ、深淵さんって見た目よりずーっと柔らかくって良い香りがしたな~」 「…………極殺wwwww」 「ぬおっ! やる気かアコ! 国のお父さんお母さん妹その他に賭けて今日こそたたきのめーす!」 崖の上から暢気に眼下のアホ騒ぎを見つめる視線が二つ。 「なんかこー……私混ざりにくいんだけど、本気で」 「混ざりたいの?」 そう訊ねる♀ウィズに、首を横に振る♀ハンター。 「もうちょっとこー私好みの大騒ぎとかあれば、無理にでも混ざるんだけどね~」 「私も、♀セージが行方不明なもんで、なんかこー手持ちぶさたというかなんというか……」 そこに♀アーチャーが駆けてくる。 「あ、居た居た。♀ウィズさんも行かない? すんごいおもしろいもの見れますよー」 「おもしろいもの? ……それより♀アーチャー、あなたその顔中のひっかき傷は一体何?」 「戦いの勲章。さー行きましょー。そこの♀ハンターさんも行く?」 「何があるの?」 「女の戦い。修羅場。女系家族」 「行くっ! そーいうの待ってたのよ!」 「……なんでそれに私も巻き込もうとするのよ……」 なんやかやと引きずられてきた♀ウィズ。 辿り着いた先に居た人物を見て、苦々しい顔になる。 「♀セージ……あなた一体そこで何をしてるのよ」 「ジャッジを頼まれた。ああ、そこ、商品が動くんじゃない」 ♀セージに注意された♂ローグは仏頂面で怒鳴り返す。 「動きたくてもこれじゃ動けねーだろうが!」 無駄に飾ったイスに縛り付けられている♂ローグ。 そんな♂ローグを更に大声で怒鳴る♀アルケミ。 「ええい男がぐちゃぐちゃと鬱陶しい! ええから商品はそこで静かにしとき!」 そんな♀アルケミの後ろで、♀クルセと♀プリの二人が困った顔で立ち尽くしている。 「あの……私はその……」 「わ、わたしもそんな大騒ぎにするつもりは無かった……」 そして顔を見合わせる二人。 「えっと、私は、その少し♂ローグさんとお話がしたかったもので……」 「あ、ああそうか。わ、わたしも……その……や、やくそくが……その」 もごもごと口ごもる♀クルセだったが、その言葉に♀プリの心臓が跳ね上がりそうになる。 「や! やくそく……ですか?」 「ええ! あ! いやその……その……約束はどうなったのかなと……♂ローグに……その」 突然♀セージが口を挟む。 「ふむ、ではその約束とやらを♂ローグに説明させよう。それ次第では、先に出会った権を行使出来る♀プリの優位性が崩れるやもしれぬ」 頬をびみょーに赤らめながら♂ローグが喚く。 「知るか! なんだって俺がここでんな事言わなきゃなんねーんだよ! てーかいい加減これほどけてめーら!」 速攻で♂ローグの口にさるぐつわを噛ませる♀ハンター。 その早業の妙に大きく頷く♀セージ。 「♂ローグは証言を拒否。となると約束とやらの信憑性を証明する物が無くなってしまったという事か……」 おっそろしく衝撃を受けた顔をする♀クルセ。 「では弁護人♀アーチャー、他に♀クルセ優位を訴える材料はあるか?」 「もっちろん! ♀クルセさんの女性的魅力たるや! あのもんのすごいスタイル見ればどんな男も……」 「わーーー! わーーーー! なんて事言い出すのだ♀アーチャー!!」 慌てて♀アーチャーの口を塞ぐ♀クルセ。 それに感心したように肯く♀セージ。 「ほほう、外見以上に体型に自信があると? では確認の為にここで脱いで……」 「出来るかーーーー!」 「そうか、ではそれもまた証明出来ずと。では♀プリ側の弁護人……」 そこまで言って辺りを見渡すが、♀剣士の姿が見えない。 代りにその気配に気付いた♀ハンターが思いっきり自分を指さしてアピールしている。 「いいだろう。弁護人♀ハンター口述を始めてくれ」 きらーんと♀ハンターの目が輝く。 「OKじゃあね……上から85-59-83って所かしら?」 あまりの正確さに目を見張る♀プリ。 「ふふふん、そしてあなた……その年でこれって結構希少価値よ……あなたは処女ね。間違い無いわっ!」 顔中真っ赤にしてあたふたしだす♀プリ。 「絶妙ともいうべきスリーサイズ、聖職者という肩書き、発言の少ない控えめな性格、身持ちも堅く恋愛経験に疎い、それでいてその全身から漂う守ってオーラ!」 「ちょ、ちょっと……その……」 「無敵よ彼女は。これだけの逸材、物件はそうそう無いわね」 自信満々でそう言い放つ♀ハンターに、♀セージは隣の♀ウィズに訊ねる。 「そうなのか?」 「そうなのか? って……まあ確かに魅力的よね、それも相当高いレベルでバランスが取れてる子よ」 「そうか、では…………というか♀プリ、♀クルセよ。一つ聞いて良いか?」 「……なんだ?」 「はははははい、なんでしょう?」 「一体私はお前達の何をどうジャッジすれば良いのだ?」 『それも知らないでやってたんかい!』 速攻で♀アルケミ、♀ハンター、♀アーチャーがつっこむ。 ちょっと痛かったなーとか思いつつ、さりげなく拳でツッコミ入れてきた♀アーチャーに非難の目線を向けながら言い返す♀セージ。 「そうは言うが、何故この二人が争っているのかもわからないのに、どうやってそれを判定しろというのだ」 ♀ハンターが毅然として言い放つ。 「決まってるじゃない! 男を奪い合う女同士、血で血を洗う大抗争よ!」 ♀アーチャーもくわっと睨み付けながら言う。 「そうよ! 例え破れても草場の影からお百度参りじゃ済みませんバトル! これこそ女の生きる道!」 全然意味のわからない二人をほおっておいて、♀アルケミが前向きに話を進めてみる。 「あ~、とりあえずやな。この♂ローグの良い所をそれぞれで挙げてみ? まずは♀プリからや」 先ほどの♀ハンターのトークから赤面しっぱなしの♀プリは、相変わらずもじもじとしながら言う。 「え、……えっと……その、♂ローグさんはとても優しい人です」 「ほうほう、んでも優しいだけやったらそこら中にいくらでもおるやろ?」 「そんな事ありません。♂ローグさんは、弱い相手に決してその力を振るったりせず、その上で、きちっと誠意には誠意で応えてくれる方なんです」 「ふ~む、わかりずらいな~。こんの悪党面が何をどーしたら誠意なんて話になるんや?」 「悪党面なんかじゃありません! ♂ローグさんはとっても優しそうな顔してるじゃないですか!」 ♀ハンターと♀アーチャーが揃って『1』と書かれた札を上げる。 「おーけい、♀プリーストはん二ポイントげっとや。うんうん、恋は盲目言うしな~」 すんごい色々言いたそうな♂ローグを放置で♀クルセへと質問は移る。 「では、♀クルセはん。♂ローグの良い所って何処や?」 「あ、ああ……そうだな。♂ローグは仲間想いで、女子供を決して見捨てない、男の中の男だ」 「ほうほう、それはなんや、えろうかっこええ奴やな。んでもそれ下心でもあったんちゃうん?」 「そんな事は無い! ♂ローグは私の想いを知った時も、きちっと自分の気持ちを言って、私を都合良く使うなぞという真似はしなかった!」 沈黙が場を支配する。 「……えっと、♀クルセはん、もしかして♂ローグに告ったん?」 「へ?」 そこで始めて自分が言った言葉の意味に気付く。 「わーーーー!! わーーーー!! い、今のは無しだ! 待て! 私は何も知らないぞ!」 しゅざっと♀アーチャーが『2』のポイントを、♀ハンターが『-1』のポイントを上げる。 「ちょっとちょっと♀ハンターさん。なんでマイナスポイントなのよ」 「それはこっちのセリフよ。あそこまで言っておきながら当人前にして否定するなんてどうかしら?」 ♀ハンターのセリフに♀クルセが更に慌て出す。 「え? ええ!? こ! これは違うのだ♂ローグ! これはだな! ええと……あ~う~」 進退窮まる♀クルセに♀ハンターが追い打ちをかける。 「恋する乙女の鉄則よ。男の前で晒す醜態は常に計算づくであれ。醜態すら利用する心意気の無いあなたに恋をする資格は無いわっ!」 がーーーーーーーん とショックを受けてしまった♀クルセを置いておいて、♀セージがぼそっと呟く。 「そうか、やっと理解したぞ」 ♀ウィズがバカバカしそうに♀セージを見る。 「何をよ」 うんうんと肯きながら♀セージは言った。 「つまりはだ、♀プリも♀クルセも、♂ローグと生殖行為に及びたいという事だな」 『途中経過をすっとばすなーーーーーーーーー!!』 ♀ウィズ、♀アルケミ、♀ハンター、♀アーチャーの四人総ツッコミを受けて派手に後ろに吹っ飛ぶ♀セージ。 微妙に鼻血を出しながら、倒れた隣にぽつんと立っていた子バフォに聞く。 「……何か間違ったか?」 「何故我に聞く?」 「解決策として、♂ローグが二人を交互に相手取るという手も考えたのだが。物理的には可能だろう?」 「お主は人間社会の常識から学び直すべきであろう。それだけは我にもわかった」 小さく縮こまってしまっている♀クルセを見て、流石にやりすぎたと思ったのか、♀ハンターが新たな申し出をした。 「そうね、こうなったらあの手しかないわ」 「あの手ってなんや?」 「もちろん、二人を♂ローグが『試して』みて『良い』方を選ぶというストレート一直線な手。とりあえずそこの林の奥でも使って……」 ♀ハンターの背後に迫る怨念に満ちた黒い影。 「何を言ってるのあなたはーーーーーーーー!!」 ♀騎士の鉄拳が♀ハンターの後頭部を捉え、♀ハンターはあっさりと昏倒した。 「ようやく見つけたと思えばあなたは……ごめんなさい、このバカが色々と迷惑をかけたでしょ?」 つい肯いてしまう♀クルセと♀プリの二人。 「ごめんなさいね。この悪党には私がきつーーーーーーーーくお仕置きしておくから」 そう言った際の♀騎士の表情がシャレになってなかったので、誰も反論はしなかった。 「そうね、深淵の騎士子も誘ってあげようかしら……良くもいろいろいろいろいろいろやりたい放題やってくれたわね……」 ♂ローグは、一人あの世の不条理についてぶつぶつと口の中だけで文句を言っていた。 『なんだって俺は、ここに来てまでこんな目に……大体だな、俺も好き放題暴れてりゃこんな扱い受ける事も……』 思考が陰に篭っていく。 『くっそ、やっぱり俺もローグ姐さんに付き合って無法の限りを尽くしておけば……』 不意に、♂ローグの視界にとても珍しい物が入る。 『腹? それもこりゃ……女の腹か? なんだってこんなもんが俺の目の前に……』 ごすっっっっっ!! そりゃもう鈍すぎる音がそこら中に響く。 いつのまにか駆け寄っていた♀ローグが、思いっきり高く飛び上がり、両肘を、♂ローグの頭の上に叩き落とした模様。 あまりの衝撃に猿ぐつわは外れてくれたが、びしーっと縛ったロープは全く外れる気配すら無い。 相手が♂ローグという事で、念入りにとの♀セージの指示であった。適切な処置である。 「あら? 何よそれ。油断させて反撃する手じゃないの?」 「……その前に、いきなり肘打ち喰らわす理由を説明……しやがれ」 「あんたも結構ヤルし。楽しそうだからケンカ売ってみたのよん♪」 すぐさま周囲を女達に囲まれる♀ローグ。 「貴様っ! よりにもよって♂ローグに手を出すとは……許せん!」 「なんて事を……♂ローグさん! しっかりしてください!」 「このお人ってどないな人なん?」 「♂ローグの話では、悪党の中の悪党という事らしいが……」 「不意打ちで全体重乗せた肘打ち喰らわす辺り、その評価は正しいようにも思えるわね」 五人に囲まれ、しかし不敵に笑う♀ローグ。 肘を曲げ、脇を締め、両腕を前に出しながら、片膝を心持ち上げ、体を揺すり出す♀ローグ。 ♀セージがその構えを見て警戒を強める。 「むう、その構えは……」 「知ってるんか♀セージ!?」 「ああ、これぞまさしく霧獲蛇射(ムエタイ)の構え。まさかこの技の継承者が残っていようとは……」 『霧獲蛇射』(むえたい) かつて隆盛を誇ったグラストヘイム城から数千キロ離れた大地 そこにある侘唖吐瑠=亞維嵐怒(たあとる=あいらんど)と呼ばれる島に伝わる一子相伝の必殺拳法 それを真似て喪賂九の商人が見よう見まねで作り上げ 街の道場で売り出したのがそもそもの起源と言われている ちなみにかの商人は詐欺の容疑で既に所轄署に書類送検されている 当人はコメントで 「これは健康に良いのです。老いも病も無い国に行きたければ頑張る事です」 と残していたという       民萌書房刊 『喪賂九烈士伝 第856980章』より抜粋 ♀ウィズがすんごい真顔で言う。 「バカにしてんの?」 「私は今までお前をバカにした事なぞ一度も無いぞ」 「わかった。じゃああなたがとんでもないバカなのね」 「私はお前をバカ扱いした事は無いというのに、お前は私をそう扱うのか。ひどい奴だな」 「……だーれーかー、私をこの空間から救い出してー」 ♀ローグは、懐から鉢巻きを取り出し頭にはめる。戦闘準備完了だ。 バックに巨大な文字が浮き出てくる。 一つ、武器防具を使いません! 二つ、死んでも、回復アイテムは使いません! 絶対に! 三つ、主役は私、パーティーは組みません! 四つ、狂気ポーションも使いません! 五つ、最強の、ローグスキルを使います!       『 ローグ!!!!!!!! 』 ♀ローグの余りの気迫に全員言葉も無い。 しかし、ひっくり返った♂ローグは一人、ぼそっと呟いた。 「……それだと、俺まで含まれちまうからヤメレ」 まずは第一撃、足下に転がる♂ローグに踵の一撃を振り下ろして黙らせると、激怒した♀クルセが襲いかかってくる。 ♀アルケミも同時に踏み込み、その後ろで♀セージが詠唱を始める。 ♀ローグはそれを見るなり、♂ローグが張り付いたままのイスを蹴り上げてその場に立てる。 ちなみに♂ローグは白目剥いた状態で、なすがままである。 そうして立ち上がったイスの上に♀ローグは飛び上がり、それを蹴って、踏み込んでくる♀クルセの肩の上に飛び乗る。 「なっ!?」 ♀クルセが反応するより早く、今度は♀アルケミの肩に飛び乗り、更に奥へと飛び込んだ。 空中から片肘を振り上げて迫るは♀セージ。 「くっ!」 辛うじてのけぞってその肘をかわしたが、すぐさま放たれた♀ローグの後ろ回し蹴りをまともに喰らう。 鳩尾にまともに入ったそれに、苦悶の表情を浮かべる♀セージ。 「何をしている♀ウィズ!」 一人、端っこで座り込んでる♀ウィズ。 「……私は花よ。野に咲く名もない花。だから話しかけても返事なんてしないわよ」 「何?」 「そーんな世界に巻き込まれるのはまっぴらって言ってるのよーーーーーっ!!」 半泣きになりながらそう叫ぶ♀ウィズの肩を、♀プリーストが肯きながら叩いたりしている。 しかたが無いので、自分でなんとかするべく考える♀セージ。 その間に♀ローグは、♀アルケミと♀クルセの二人相手に死闘を演じていたりする。 「往生せーや!! 事後回収用紐付きメマーナイトーーー!!」 「正義剣! ジャスティス乱れ打ち!」 「なんの! アルティメット極殺技! 爆裂究極すくりゅーあっぱーーーーー!!」 ふと思いつく♀セージ。 「そういえば、♀ローグはアンデッド歴があるんだったな……ならば」 地味ーに、ぽっとファイアーウィールを出してみる♀セージ。 「あっつーーーーーーーー!!」 殊の外効果的であったようで、♀ローグは凄まじい勢いでその場を走り去っていった。 「あらら、なんやエラク火の付きええなあの人。両足ばりばり燃えてるでアレ」 そう言う♀アルケミだったが、返事は無い。 ふと見ると、♀クルセと♀プリーストは二人揃って♂ローグの介抱をしていた。 「ひーる! け、怪我は大丈夫ですか?」 「ああ、怪我はな……」 「そうか、何か欲しい物とかあるか? 食事でもなんでも用意するぞ?」 「いや食事はいい……だがな、お前等。一つ言わせてくれ」 「はい?」 「なんだ?」 「この期に及んで! なんでまだ俺の縄解かねーんだよ!」 「いや、その……それ外しますと♂ローグさんはきっと……」 「そ、そうだな……多分逃げてしまうような気が……その……」 「……変な所で、勘良すぎだお前等……」 「弱ったな~。♀アコさん何処にも居ないよ……」 ♀モンクは一人、途方に暮れていた。 ごめんなさい優先度ダントツトップの彼女に謝らずして、ごめんなさい行脚は始まらない。 とりあえずそこらに居る人に聞いてみる事にした。 「あの~。♀アコさん見なかった?」 その声に振り返った彼女は、メイド服に身を包んだアリスだった。 「はい? ええ、見ましたよ」 「ほんと!? 何処に居るかな?」 「ええっと、先ほど♂シーフさんとあの川を渡って行かれました。お二人ともとても楽しそうでした……まるで金の野原を駆けているように……」 らん♪ らんらららんらんらん♪ らん♪ らんららら~ん♪ 「わあ、♀アコさん、川が金色に光ってるよ~」 「すごい……これがあるぎおぺの……ステキね、♂シーフさん」 「さあ、あっちまで一緒に走ろう♪」 「ええ♪」 らん♪ らんらららんらんらん♪ らららんらんらんらん♪ ジト目の♀モンク。 「二人の服、めっちゃ青そー」 その光景を思い出したのか、何やら夢見るよーなアリス。 敢えてツッコまずにいると、奥から人が会話する声が聞こえてくる。 「……ほら、早く行かないとアリスさん待ってるよ」 「うっさいわね~。大体私の方が荷物多いって何かおかしくない?」 何やら聞き覚えのある声だと♀モンクが思っていると、すぐに会話している二人が姿を現した。 その姿を見た♀モンクが硬直する。 「何言ってるんだい。秋菜でもなきゃそんな大荷物持てる訳ないじゃないか」 「そりゃそうだけど……何かこー不条理よ、この荷物配分」 ぶちぶち言いながらアリスの前に山ほどの食べ物を置く秋菜。 「まあまあ、そう言わないで……あれ? そちらは♀モンクさん? 良かったら一緒に食べない?」 ♀モンクはバカみたいな口をぱくぱくさせるだけだ。 秋菜はそんな♀モンクを見て、足下に置いた食べ物から、アンパンを一個取り出す。 「ほい」 「むぐ? ……むぐむぐむぐ……ごっくん。ってちがーーーーーう!」 「何よ騒々しいわね~。心配しなくても牛乳もあるから一緒に飲めば」 妙に食い合わせに詳しい秋菜に驚きつつも、♀モンクは後ろに飛び下がって構える。 「なんであんたがココに居るのよ!」 そう言われた瞬間秋菜のこめかみに青筋が浮き出る。 「……うっさいわね。ヤられたのよ。ああーーーーー!! ありえない! なんだって私があいつらなんかに! うがーーーーー!!」 大声あげる秋菜の口に、今度は♂GMがアンパンを差し込む。 「あーーーもがっ……んぐんぐ……ごっくん」 一息に食べると、牛乳を取って腰に手を当てる。 「ごきゅ……ごきゅ……ごきゅ……ぷはー!」 満足したのか、満面の笑みを見せる秋菜。 ♀モンクは見たままの感想を述べる。 「おっさんくさっ」 「何よーーーー!!」 ムキになる秋菜を♂GMがなだめてる間に、いつのまにかアリスがビニールシートを広げて、その上に食事を広げている。 「さ、準備出来ましたよ。みなさんいただきましょう……早々につまみ食いしてる悪い子も、今日だけは見逃してあげますから」 なし崩しに山と積まれた食料を囲んで四人が座る。 「では、いただきます」 アリスの号令に、♂GM、秋菜、♀モンクが続く。 『いただきます』 そう言うなりアリス、♂GM、秋菜の三人は揃って好きな物を手にとって口にする。 好きな物ばかり食べているのだから、自然三人の顔は笑顔になった。 そんな三人を横目に見ながら、♀モンクはおずおずと、中のチーズトーストを取る。 腕が震えるのが自分でもわかった。 それを横目で見ていた秋菜の目が光る。 「隙ありー!」 ♀モンクの手からひょいっとチーズトーストをひったくると、即座に自分の口に入れる秋菜。 「あーー! 何するのよ!」 「ひゅひあるほーがわるひー」 「口の中の物食べてからしゃべりなさいよ!」 ぶちぶちと文句言いながら♀モンクは、メロンパンを手に取る。 「全くもう、油断も隙もあったもんじゃない……」 今度はすぐに口に入れた。 メロンパンの甘い味と、ほんのり香るメロンの風味。 ついつい、顔に出てしまったのか、それを見たアリスが嬉しそうに聞いた。 「おいしいですか♪」 ♀モンクは、すぐに肯定しようとして口を開きかけるが、うまくそれが出来なかった。 ぼろぼろと涙がこぼれるのを止める事が出来なかった。 心配そうに、みんながこちらを見ている。 だから、♀モンクは涙を一生懸命堪えながら言った。 「ぐすっ……おいしいよ。これ、すっごくおいしい。ありがとう」 ♀ウィズは、一人さっさとあの忌まわしい場所を離れて放浪を始めた。 そしてすぐに声をかけられる。 「災難だったな」 無駄にさわやかスマイルなのは、♀剣士だ。 「……あなた、わかってて逃げたわね」 「はっはっはっはっは」 「笑って誤魔化さないの。どうして一声かけてくれなかったのよ……」 「そう恨みがましい目で見るな、私だって苦手な事ぐらいある」 「脳味噌沸騰するかと思ったわよ……しばらく会わない間に♀セージの天然にも磨きがかかってるし」 「ああいう、大騒ぎは苦手か?」 「勘弁してちょうだい、私ああいうの本気でダメなのよ」 心底嫌そうな顔をする♀ウィズを見て、流石に可哀想に思えてきた♀剣士。 その目が、ある人物を見つけると自然鋭くなる。 ♀剣士の気配を感じ取った♀ウィズも、緊張した顔で、♀剣士の視線の先を見ると、そこには♂アサシンが居た。 二人の気配に気付くと、♂アサシンは振り向いた。 「あんたか……色々迷惑かけたな」 まともな言葉が返ってきた事に驚く♀剣士。 そんな♀剣士の様子に気付かないのか、♂アサシンは歩み寄りながら言う。 「だが、誰よりもヘコんでいるのは俺自身だ……察してくれ」 「まさか、元に戻ったのか?」 「ああ……正直、泣きたい気分だ」 理由はわからない、だがまともに戻ったというのは本当らしい。 「だとしても、私も恨み言の一つも言いたい気分だ。散々手こずらせてくれたからな、お前は」 苦々しい顔で♀剣士を見る♂アサシン。 「覚えている。よりにもよって……狩り専とはいえ、アサシンの俺が剣士に……ぐあー、俺のプライドを返せー」 「当人を前にしてそういう事を言うな」 とか言いながらも、♂アサシンの身の上には同情を禁じ得ない♀剣士。 ♀ウィズは、これを黙って聞いていては不毛な会話にしかならないとふんで、不意に話題を変えてみる。 「へ~。狩り専なんだ。いつもは何処で狩りしてるの?」 「ん? 俺は……そうだな、最近は時計上4とかか。亀地上は……まあ、色々あってな」 それを聞いた♀剣士が大きく目を見開く。 「上4? 鍵が必要なあそこを狩り場にしているのか?」 「ああ、どうせ重量過多になるまで篭るしな。その間に鍵の一本や二本ぐらいは出るさ」 「いや、それ以前にどうやってあんなキツイ狩り場に……」 「そうか? 太陽剣とQマシリャスカッターがあれば、永遠に篭ってられるぞ?」 その言葉に♀剣士は吹き出す。 「太陽剣!? そんなものまで持ってるのかお前は?」 興を引かれたのか、♀ウィズが訊ねる。 「ねえ、他の装備は?」 「ああ、時計上4行く時なら、TBrグラ、QBfマイン、DADBfマイン、HyDtiジュルに、鎧各種って所か」 「へ~。結構揃ってるじゃない。もしかしてかなりブルジョア?」 「時計行く前は、死ぬほどコンロン通ってたからな。あんたは何処で狩りを?」 「私? 私は……最近は監獄が多いかな?」 再度吹き出す♀剣士。 「こ、こら♀ウィズ。監獄ってお前あんな沸きの良い所でどうやって……」 「ん? 立ち回りうまくやればなんとかなるわよ」 そして♂アサシンと♀ウィズの二人で上級狩り場ソロ狩り談義で盛り上がる。 もちろん、どちらの狩り場も即死の危険が目一杯なので、♀剣士は絶対に近づいたりしない場所だ。 何かこー突然二人が別世界の生き物に見えてきて、それを確認すべく♀剣士は一つの質問をした。 「なあ、二人は防具精錬どこまで進んでいるんだ?」 「オール+7だな」 「オール+8ね」 くらっと目眩に襲われる♀剣士を余所に、二人は更に盛り上がる。 「ほ~。オール+8とはなかなかやるじゃないか」 「あなたと違って武器はいらないからね。そもそもウィズが被弾前提で戦う訳にもいかないんだけど、ほら、一応安心したいじゃない」 「そうだな、カリッツ盾やらティアラやらは揃えたのか?」 「一応ね。もうちょっと良い防具使えれば楽なんだけどね~。そういう所はあなたが羨ましいわよ」 「そうか? 確かに防御力はあるが、マントの+7とかは他に類を見ない程金かかるぞ。俺はお前の金かけなくても得られる無法な殲滅力が羨ましくてしかたがないぞ」 最早異次元の会話と化した二人を見て♀剣士は思った。 『……こいつら、装備ありでこのゲームやってたら一体どうなっていたのだろうな……』 聞いてるだけで、とんでもなく空しくなってきた♀剣士は、足早にその場を去ろうとしたが、突然二人の声が大きくなった事に気付き、その足を止める。 「待て。それは誤解だ。お前はアサシンという職業を甚だしく誤解している」 「そうかしら? 殺しを生業にしてる職なんでしょ? だったら対人戦なんてお手の物じゃない」 「ふざけるな! 俺達アサシンはな、モンスター相手にしてる時が一番輝くんだよ! それもPTなんか組まないで一人でやってる時にな!」 何やら鬱屈しているものがあるのか、声を荒げる♂アサシン。 「くそう、そんな俺に殺し合いなんてさせやがって……俺なんてな、ヤワだし、バッシュよけられないし、スタンしたらいつまでもぴよりっぱなしだし、範囲攻撃無いし、囲まれるとボコスカ殴られるし、どんなに早く動いても禿にゃーずばーっとぶった斬られるし、武器には金かかるし、かといって防具疎かにすると5%の壁に泣く事になるし……よっぽどローグの方が人殺しには向いてるんだよ!」 「……まあ、確かにローグは男も女も終盤まで元気だったけどね」 「黒蛇王なんて大っ嫌いだ! MVPボスなんざ狩りの障害以外の何者でもねーやばっきゃろー!!」 隣の芝は青く見える。そんな事を考えながら♀剣士はさっさとその場を離れた。 『これ以上あの場に居たら、あの二人殴りたくなってくるからな……』 最早同情する気すら起きなくなった♀剣士はそんなことを考えていた。 ドッペルゲンガーは、彼方で何やら揉めている三人を見つけ、ふと興が乗ったのかそちらに行ってみる事にした。 ♀騎士♂騎士の二人が、♀ハンターへの仕置きタイムでドッペルゲンガーに全く構ってくれないのは、全然関係無いが。 「一体何を揉めておるのだ?」 ドッペルゲンガーを見た月夜花は嬉しそうに飛び上がる。 「ドッペルゲンガー! ねえ聞いてよ! この子が♂剣士君を独り占めするんだよ!」 「何よ! ♂剣士は私のなの! それを横からしゃしゃり出てえらそうに言わないでよね!」 何よりもまず、♂マジの女言葉に面食らったドッペルゲンガーだが、おくびにも出さずに答える。 「ふむ、二人で仲良く分ければ良いのではないのか?」 悲鳴を上げる♂剣士。 「さらっと無茶な事言わないでくれー!」 無理との事なので、更に考え込むドッペルゲンガー。そして、ふと妙案を思いつき手を叩く。 「では、こういうのはどうだ? 外見も一緒であるし、私が代りにどちらかの相手をしよう」 『ヤだ』 月夜花と♂マジの二人に速攻で拒否された。 「ふむ……そうか」 他に案も思いつかず、またまた考え込むドッペルゲンガー。 「もーいいもん! こーなったら力ずくだー!」 そう叫ぶやいなや月夜花は♂剣士を抱えて、猛ダッシュで逃げ出した。 「こらー! 待ちなさい! 絶対許さないわよ!」 凄い勢いで追いかける♂マジ。 「……せめて人間扱いをぷりーず……」 ♂剣士の主張は綺麗に二人に無視されたようだ。 一人、取り残されたドッペルゲンガーは再度呟く。 「そうか、私ではダメか……そうか」 またとぼとぼと歩き出すドッペルゲンガー。 ふと河原の側に、ペコペコ管理兵の二人を見つけた。 二人は、何やら川に向けて石を投げて居た。 「くそっ! どーしてもあたらねー!」 「今度は俺が! ……ってあんな遠くの狙おうなんて言ったの誰だよ。当たる訳ねーじゃん」 ドッペルゲンガーは声をかけてみる事にした。 「どうした?」 「おうドッペルゲンガーの旦那。実はな、ペコがさっさと川渡っちまったんで、俺達する事無くてさ」 「悔しいから、川の中州にある変な形した石目がけて石投げたんだけど、当たらねんだこれが」 「当たらないってなると絶対当てたくなるのが人間ってもんでな」 「さっきからずーーーーーーーっと狙ってるんだが、一回も当たらねんだ」 妙にテンポと歯切れの良い二人の会話にやっぱりドッペルゲンガーは驚いたが、顔には出さなかった。 「ふむ……では私がやってみよう。当たれば良いのだな?」 『おう!』 ここまで息の合った話し方をされると、何やら小気味よい。 そんな事を考えながら、ドッペルゲンガーは石を拾って狙いを定め、投げた。 「すっげーーーー!! 一発命中!」 「さっすが旦那! よっ! ゲフェンの魔王!」 「ふむ。別に特別な事でも無いと思うが……」 無表情のままで、もう一個石を拾うドッペルゲンガー。 今度はアンダースローの要領でそれを投げる。 投げ込まれた石は、水面を跳ねながら目指す石へと向かって行き、見事命中。 「おおおっ! 今度は大技混じり!」 「はらしょーどっぺる! 神業? 魔技? かっこいー!」 「ふむ。では次は……」 その表情からは全く察する事が出来ないが、ドッペルゲンガーは、何やら嬉しい様子であった。 「さーんばーにあわっせて♪ おっどりだすぅー♪」 BGMに合わせて見つめ合う♂BSと♀BS。 「ああ……俺さ、その……なんて言っていいか……」 そこまで言った♂BSの唇に♀BSは自分の指先で触れる。 「こうして、二人で居られるんだからいいの。私には……それで充分」 「そか……ありがとう」 「きゃんゆーせれぶれーいと♪ きゃんゆーきすみーとぅなーい♪ うぃーうぃるろーんぐ♪」 突然むすっとした顔になる♂BS。 「空気読んでくれよ、ここはBGMいらない所だろ」 ♀BSも口をへの字に曲げる。 「そうよ。気を効かせてこの場を離れるぐらいして欲しいわね~」 文句を言われた♀商人は目の幅涙を流しながら言った。 「うぅ~。私だって好きでやってるんじゃないんですぅ~」 ♂♀BSは揃ってジト目だ。 「じゃあ、また♀シーフさん達の所で折檻される? 商売柄、声出すのは得意だからって言ったの君だよ?」 「そうよそうよ、それが嫌だからってBGM役引き受けたんじゃない。文句なんて言ったらバチ当たるわよ」 「うぇーん、わかりましたぁー。歌いますよー。次の曲は……えっと……のーばでぃのーず?」 ♀BSが嬉しそうに言う。 「それ私大好きなの! ほわっとごーいんおん! 気付いたのさ♪ 越えよう!」 「いや……ちょっとこれ一人じゃ無理が……」 「じゃあ、次の俺のリクエストよろしくっ」 「はーい。次は何かな~」 そうして手元のリストを見た♀商人の表情が変わる。 「……せっくすましんがんずって本気ですかぁ?」 「おっけーい! 俺の心の糧、1stアルバム全曲一気でごー!」 「……死にます。絶対確実に。吠えきれません、私じゃ」 バドスケは少し疲れたので、砂浜で一休み。 その間にもアラームと♀アサシンは楽しそうに川ではしゃいでいる。 「あははー! バドスケさーん! 川のお水冷たいよー!」 「えへへー、ほーらアラームー!」 ばしゃーっと水をかける♀アサシン。 「きゃっ。もーお返しですー!」 ばしゃばしゃーっと水をかけ返すアラーム。 二人は心底楽しそうであった。 そんな二人を微笑ましい表情で見守るバドスケ、そしてその隣に、色んな事に絶望しきった♂プリーストが居た。 「……何をどうしたら俺がこんな目に遭うハメになるんだ?」 「なんだ♂プリ。何か嫌な事でもあったのか?」 全然応えてないバドスケに、♂プリは魂の底から叫んだ。 「お前なー! 砂浜で『あははーまてまてー』なんて大技かましちまった挙げ句! 水のかけっことかもー自殺もんのイベント突破しちまったんだぞ! どーやって生きていきゃいいんだ俺はこの先!」 「……いや既に容赦なく死んでるだろお前。てか、そんなに嫌だったのか?」 「それ以前の問題だ! 人としての尊厳に関わる程の重大な危機を迎えてるんだ俺は! この上♀アサが俺の事呼んで更なるイベント強要してきたらと思うと……」 「♂プリ見て見てー! 砂のお城ーお城ー! ほらアラームはそっちから穴開けて、トンネルよー」 「はいー。うっせ、うっせ……わあ、繋がりましたー」 「繋がった繋がった~♪ アラームの手ってちっちゃくて可愛いね~」 「♀アサさんの手は、とっても柔らかいです♪」 跪いてしまった♂プリに声をかけるバドスケ。 「あの満面の笑みに逆らえるかお前?」 「㍉……いくら掟が無くなったからって、童心に返るにも程があるだろ♀アサ……」 ごく自然にトンネルに水を通す事になり、その水を掬ってくる大役を仰せつかった♂プリは秋菜との決戦に向かった時以上に悲壮な表情を浮かべ、とぼとぼとそちらに向かって行った。 「まったく。素直にあいつも楽しめば……」 そこまで言ったバドスケは、真後ろに何やら殺気を感じた。 座っていたバドスケは、即座に立ち上がり振り返る。 「火?」 「ファイアーーーーーーーーー!!」 バドスケの顔面に、燃えさかる♀ローグの足による飛び回し蹴りが炸裂した。 「っだーーーー! 顔っ! 顔が燃えるっ!」 顔面中から炎を吹き出しながら、バドスケは川に駆け込む。 同時に♀ローグも川に飛び込むと、ようやく一息付けた。 「はふ~、熱かった~。もーいきなり炎なんて卑怯じゃない……」 ざばーっと勢いよく川から顔を出すバドスケ。 「熱かったーじゃねーだろ! いきなり何しやがんだローグ姐さん!」 「いや、なんか走ってたらバドスケが居たからつい」 「ついじゃねー! 俺もアンデッドで燃えやすいんだから火なんて使うな!」 むすっとした顔で♀ローグは言う。 「何よ、文句ならファイアーウォールなんて使った♀セージに言いなさい……ってあら?」 これだけの大騒ぎながら、アラームも♀アサシンも砂のお城に夢中で全然こちらに気付いて居ない。 そんな♀アサシンを見た♀ローグの表情が猛禽類のそれになる。 「あらあらあらあら♀アサシンちゃん、こんな所に居たのね……」 軽く手を振ると、その手にダマスカスが握られる。 水から上がり、一歩一歩と♀アサシンに近づく♀ローグ。 「お、おいローグ姐さん。今は……」 ♀ローグにはバドスケの声なぞ届いていない。 ♂プリーストがすぐに気付いて、♀ローグの前に立ち塞がる。 「おい、あんた何する気だ?」 「もちろん♀アサとケリ付けるのよ……邪魔する気?」 「おおよ。グダグダ言ってるのは性に合わねえ。とっとと来な」 ♂プリーストの話の早さに、♀ローグはやはり、笑う。 最早口を開く気も無い。お互い隙を伺い、その一瞬を待つ。 「あはははっ、じゃあ今度は私がお姫様~」 「はいー、じゃあ私が王子様やりますー。ああ、私の愛しの姫は何処に居るのかな……」 「王子様、私は一日千秋の想いで待ち続けております~……ってきゃー恥ずかしいー!」 「ね、やっぱり恥ずかしいですよ~。じゃあ今度は……」 バドスケは、♀ローグのこんな顔を見た事が無かった。 「ローグ姐さん、大丈夫か?」 「……バドスケ。あれは一体何?」 「いや、遊んでるだけじゃねーの?」 イマイチ♀ローグの望む内容ではなかったので、今度は♂プリーストに訊ねる♀ローグ。 「ねえ♂プリ。あの♀アサシンのザマは一体何?」 「あいつさ……ずーーーーーーーーーっと遊んだ事無かったんだってさ。だからああやって遊べるのが楽しくてしょうがないんだそうだ」 「そう……ごめん♂プリ。私死ぬほどヤル気無くなったわ」 「俺もだ。てかあんた早く逃げないと……」 「あーー!! ♀ローグじゃない! 一緒にこっち来なよー! 今度は砂でダム作るのよー!」 「一緒にやりましょう♀ローグさん! ♀アサシンさんは、そっちから水引っ張ってきてくださいー」 「はーい、んじゃ、んじゃ、♀ローグはダムに穴開ける役やらせたげるね。けっかいだーって」 「うんうん、一番楽しい所ですよー♪」 ふと、♀ローグは♀アサシンと一緒に砂遊びをしている自分を想像してみた。 「……………………。」 恐怖、そんな感情がまだ自分に残っていようとは。 ♀ローグは、心底♀アサシンを恐れ、そしてこの誘いをいかに断るかに全身全霊を傾けた。 「わ、私は、その……」 その横で、意を決した♂プリーストが言う。 「おいおい、待てよ。決壊なら俺にやらせろよ。そーいうの俺得意なんだぜ♪」 その言葉に♀ローグが驚愕する。 そんな♀ローグに、♂プリーストは覚悟を決めた顔で一度肯くと、親指を立てて見せた。 「おーし、俺に任せろい!」 そう言いながら走り去る♂プリーストの背中。♀ローグにはそれがとてつもなく大きく見えたのだった。 「良い男だねぇ……あんた。最高にかっこいいよ」 感動の余り涙までこぼす♀ローグ。 そう、♀ローグの魂は♂プリーストの身を挺した犠牲により救われたのだ。 二人のやりとりを見ていたバドスケはぼそっと呟いた。 「お前等もお前等でなんだかんだ言いつつ、結構楽しんでるんじゃね?」 昼寝から♂ノービスが目覚める。 周囲を見渡しても、誰も居ない事がわかると、何処へともなくてくてくと歩き出した。 すぐに一人の人物が見つかった。 「あ、♀プリーストさーん」 手を振る♂ノビ。だが、その声に気付いて振り返った♀プリーストの顔を見て表情が凍り付く。 死の際でさえも絶える事の無かった、♀プリーストの慈愛の心、それの現れである穏和な表情が消え、魂が抜けたかのように彼女は立ち尽くしていた。 「ど! どうしたんですか♀プリーストさん!」 駆け寄る♂ノビに、♀プリは掠れる声で応えた。 「……いえ、それよりノービスさんは良く眠れましたか?」 この期に及んで♂ノビを気遣うその姿勢には頭が下がる。 「ぼ、ぼくより♀プリーストさんの方が大変そうじゃないですか! 何かあったんですか?」 顔をそむける♀プリースト。 「何も……ただ……♂ローグさんとお話が出来なかっただけですよ」 「そうなんですか? それなら僕が探してきま……」 「いいんです!」 即座に返って来た♀プリーストの返事は、彼女らしからぬ強い口調で、その声に♂ノビは驚いた顔になる。 ♀プリーストも♂ノビの表情に気付いたのか、慌てて言い直す。 「♀クルセさんが、今お話してる最中ですから……お邪魔してはと席を外しているのです」 「そ、そうですか」 「ずっと一緒にいらした方ですから、積る話もあると思いますし……私は♂ローグさんとは少し言葉を交わしただけですし……」 話を聞く限りでは、そんなに問題のある事に思えなかった♂ノビは、少し安心した。 「そうですか、ずっと一緒に居たんならしょうがないですよ。あ、もしかして♂ローグさんと♀クルセさん、恋人同士とか? それじゃあ確かに席を外した方が……」 それ以上は言えなくなってしまう♂ノービス。 ♀プリーストが顔を両手で覆って泣き出してしまったからだ。 「どどどどどーしたんですか!?」 「そうですよね……♂ローグさんと♀クルセさんの二人で交わした約束、私の入り込む余地なんて無かったんです。それなのに私、バカみたいに期待して、それで勝手に落ち込んで……」 ようやく鈍い♂ノービスにも事態が把握出来た。 そして、自分がとんでもなくデリカシーに欠けていた事に気付き慌てる。 「そそそそそ、そんな事無いですよ。そ、その、ほら、約束なんて普通にしますし。そんな……」 「♀クルセさんは女の私から見ても、とても可愛らしい、素敵な方です。♂ローグさんが惹かれるのも……わかります」 「そんな事無いですよ! ♀プリーストさんだってそんなに綺麗じゃないですか!」 「私なんて……」 自虐に入る♀プリーストに、♂ノービスは力説する。 「綺麗だし、優しいし、どんなに苦しくても他人の事を思いやれる♀プリーストさんが魅力的でないなんて事あるわけないですよ!」 「……ノービスさん」 「そんな♀プリーストさんが見守っててくれてるって事が、どれだけ僕を勇気づけたか、僕が頑張れたのも♀プリーストさんのおかげですよ!」 必死に主張する♂ノービスに、♀プリーストが笑みを取り戻していく。 「♀プリーストさん、僕が今まで会った女の人の中で、一番綺麗ですよ。絶対です!」 からんからーん 少し離れた場所で何か大きい物が落ちる音がした。 「あれ? あ、師匠! 師匠も……」 みなまで言わせず♀剣士は何故か慌てた口調で、言った。 「しょ、食事を作ったので持ってきたのだが、居なかったので探していたのだ。じゃ、邪魔をしたな……失礼する」 そう言い捨てると、即座にその場から走り去る♀剣士。 「へ? あ、師匠?」 ♀プリーストも一緒に呆気に取られていたが、状況を脳内で整理すると、とてもまずい事態であると気付く。 「あああ! もしかして誤解してます!?」 「へ?」 呆気に取られっぱなしの♂ノービスの両肩を掴む♀プリースト。 「すぐに追いかけてください!」 「へ? へ? あの、一体何が?」 「とにかく追いかけて誤解を解くんです! 早く!」 「は、はい」 ♀プリーストの勢いに、♂ノービスは肯いて、後を追っていった。 一人取り残された♀プリーストは、木の幹に寄りかかりながらその場に腰掛ける。 「は~~~。何処もうまくいかないもんですね~」 『何故逃げる必要がある? どうして私は走っているのだ?』 自問自答する♀剣士。だが、どんな理屈をこねようと、♀剣士はあの場にあれ以上居たいとは思わなかった。 二人が見えなくなる場所まで走り、立ち止まると息を整える。 こんなにまで息の切れる走り方をしたのは、いつぶりであろうか? 今この時、敵に襲われでもしたら、♀剣士は全力を出す事すら出来ずに打ち倒されるであろう。 そんな隙を見せてしまう、♀剣士にとって許し難い事であった。 近くの木の幹に拳を叩きつける。 『何をしているのだ私は!』 「師匠!」 突然聞こえてきた♂ノビの声に、♀剣士は心臓がひっくり返る程驚いた。 「しょ、少年……」 そして、その事に心から安堵している自分に戸惑っていた。 「どうしたんですか師匠……はぁ、はぁ……いきなり走り出すなんて……追っかけるこっちの身にもなってくださいよ~」 息を切らして歩み寄る♂ノービス。 「少年こそ、そちらの話はいいのか?」 「いやそれがですね。♀プリーストさんが誤解を解いて来いって……僕にも良くわかんないんですけど、どういう事なんでしょう?」 その言葉に♀剣士は目を大きく開いて、絶句する。 「……師匠? どうかしたんですか?」 ♀剣士の腹の底から、笑いがこみ上げてくる。 「くっくっく……はっはっは、そうか誤解か……はっはっはっはっは」 「師匠?」 「いや、私もまだまだ修行が足りないと思ってな。そうかそうか……♀プリーストにも気を遣わせてしまったな」 「あ、あの師匠。僕良く話が見えないんですけど……」 「いいんだ、少年は今はそれでいいんだ」 首を傾げる♂ノービス。二人には分っているようだが、自分には全くわからないのが悔しくて、少し考えてみた。 「ん~。誤解誤解……」 「こらこら、あまり深く考えるんじゃない」 「そうだ! もしかして師匠!」 ♂ノビの思いつきに、一瞬びくっと体を震わせる♀剣士。 「師匠も♂ローグさんが好きとか!?」 「……何?」 「いや、だから師匠も♂ローグさんが好きなのかなーって。ほら、あの人かっこよかったですし」 「何故私が、話もした事の無い男に惚れねばならんのだ」 「む~。じゃあ……♂プリーストさんとか! ほら、なんかああいう感じの人って師匠のタイプっぽいし!」 「そもそも、少年は私の好むタイプを知らんだろう」 「そりゃまあそうですけど……じゃあヒント下さい! 師匠のタイプってどんな人なんですか!?」 「だから、何をどうしてそういう話になるんだ……」 「そうですね~。後は……奇をてらって♂アサシンさんとか!」 ♀剣士は最早応えず、そっぽを向いてこめかみを押さえる。 『何故そこで自分という選択肢が出ぬのだ少年!』 まだ色々候補を上げ続ける♂ノービスを見ながら、深く溜息を付く♀剣士であった。 ♂ハンターは河原の岩に腰掛け、♀マジと談笑していた。 礼儀正しく、折り目のきちっとした♂ハンターの言動は、♀マジにとってとても好感の持てるものであった。 ふと、♀マジは気になって♂ハンターに訊ねた。 「♂ハンターさんって素敵ですね。きっと彼女さんとかも可愛いらしい方なんでしょうね」 「ん? 俺、彼女は居ないよ。ハンターってそんなにモテないから……」 ♀マジは♂ハンターの言葉にムキになって言う。 「そんな事無いですよ! ♂ハンターさんかっこいいですから、きっと素敵な彼女が出来ますよ!」 勢いこんでそう言う♀マジに♂ハンターはさわやか満点スマイルで応えた。 「はは、ありがとう。君みたいに可愛い子がそう言ってくれると自信つくよ」 間髪入れない切り返しに、♀マジは頬を染めて俯く。 『か、可愛い……って私? やだ、どうしよう!』 そーっと顔を上げて♂ハンターを覗き見る♀マジ。 「ん?」 やはり、先ほど同様の笑みを見せてこちらを見ている♂ハンター。 まともに顔が見れなくなった♀マジは更に俯いてしまった。 『こ、こっち見てる! どーしよっ! 照れ
番外編! あの世だよ! 全員集合っ! ---- ♂ハンターは一人呟く。 「……俺にもっと注意力があれば……俺も力になれたのに……」 一次職にも関わらず精一杯自分の役割を果たそうとする♂アーチャーを見て、自らの不甲斐なさを恥じる♂ハンター。 そこに三人が総つっこみ。 「おーまえにそんな事言う資格は無いっ! 俺なんか悪党扱いでいきなり爆死だぞ!」 「おーれなんて、あぶら自爆死だぜべいべー!」 「僕なんてそこらのザコMOB扱いだったよ!(いってやった、いってやった)」 自らのセリフに絶望したのか、泣きながら跪く♂商人、♂セージ、禿ちゃん。 「あ~、君達は頑張ったよ、うん。良くやったさ」 何故かフォロー役の♂ハンター。 そんな彼の肩を叩く♀マジが叩く。 「あの~、あちらで『♀商人被害者友の会』が結成されてますので、あちらに行かれてはいかがですか?」 ♀マジが指さす先で、♀シーフと♀アーチャーが肩を組んで声を上げている。 『♀商人の横暴断固許すまーじ!』 ときらぐ主人公が、大声張り上げる♀シーフに言う。 「もう、終わった事なんだからそんないつまでも……」 最後まで言わせずに♀シーフと♀アーチャーが同時に抗議する。 『終わったって何よ! 私達がどんな目に遭わされたと思ってるの!?』 余りの息の合いっぷりにときらぐ主人公が呟く。 「……君達、キャラ被りすぎ」 ぴしっ ♀アーチャーが頬をひくつらせながら言う。 「そ、そんな事無いわよ。だって私は後半まできちーっと戦ってたし。そんな中盤であっさり消えるような子と一緒にされてもね~」 ぴしっ ♀シーフも同じような顔になる。 「な、何言ってるのよ。序盤は『恐いよー助けてー』とか逃げ回ってる腰抜けキャラだったのが、ちょーっとまともになった程度で私と似てるとか言われてもね~」 ぴししっ 「あー、二人共~。その……仲良くね……」 『あんたは黙ってなさい!』 二人はときらぐ主人公を一喝すると、もぬすごい女の戦いが始まった。 ♂ハンターは首を横に振る。 「は、はははっ。俺は遠慮しとく。君は♀ローグ被害者友の会とか入らないのかい?」 ♀マジは顔を引きつらせて言う。 「だって♀ローグさん……あれですから」 ♀マジが指さした先に、♀ローグが居た。 「ちょ、ちょっと待って下さい! どうしてここでまで、そんなにやる気なんですか!」 悪魔プリが悲鳴をあげながら逃げ回る。 その後ろを全速力でおっかける♀ローグ。 「決まってるじゃない! あんたとの勝負が面白かったからよ!」 「迷惑です!」 「それを私が気にするとでも思ったかーーー!!」 ♂マジは座りながら嘆息する。 「あの子もエライのに気に入られたものよね~」 隣でロープに縛られた♂剣士が答える。 「僕のセリフだよそれ……いい加減これ解いてくれよー」 「ヤ」 「…………」 そんな二人を物陰から見ている影。 「ねー、あれ無理矢理奪ったらダメかな~」 隣にいるエクスキューショナーに訊ねる月夜花。 「ダメだろ。お前さんは魔物なんだから、諦めて俺と一緒になれ」 「ごめん。君、形状的に論外だよ」 「なんだと! この俺のそそりたち黒光りする刀身に不満でも……」 そこでいきなり現われるは♂モンク。 「あしゅらはおーけーん!」 ぼかーんと吹っ飛ぶエクスキューショナー。その飛んだ先には、剣を構えた♂クルセが居た。 「あの世の風紀を乱す者! 我らあの世風紀委員の罰を受けよっ!」 かきーんと打ち込んだ先は、川の中。 「ば! ばかやろう! 俺は水だけはダメなんだ錆びちま(略)」 ♂クルセと♂モンクはがっしと握手をかわす。 「そういえば、隊員三号♀モンクはどうしたんだ♂モンク?」 「ああ、彼女は『ごめんね行脚』に行ってくると言っていたが……ややっ! あそこにもあの世の風紀を乱す者達が!」 あ~い~♪ それは~あーまーくー♪ 「やっと二人っきりになれたねダンサー」 あ~い~♪ それは~せつなくー♪ 「ええ、バード。私達は永遠に一緒よ……あ、そこは……」 「ぴぴー! 危険度赤! 限界水域を越えました!」 「あ、いや、それはそれとして、少し様子を見るというのはどうだ♂クルセ?」 「うむむむ、確かに慎重に事を運ばなければいけないからな……どれどれ」 やはり頭痛の止まらない♀剣士。 「♂ウィズ……頼む」 「メテオ」 四人まとめて吹っ飛ばした所で、冷静に言う。 「あれが処罰の対象なのは良くわかる。だが、私としては、それ以上に許せない事があるのだが」 「なんだ?」 「あの無様な連中は一体なんだ? 放置するには余りに不愉快なんだが……」 「あはははー! バドスケさーんこっちこっちー!」 「待てよアラームー!」 何故かこの場にある砂浜を駆けるアラームとバドスケの二人。 ガイコツ剥き出しのバドスケが、少女であるアラームを追いかける様はまるで、出来の悪いホラー映画のようだ。 「あははははー! ♂プリこっちよー!」 「待て待てー! お兄さん♀アサの事捕まえちゃうぞー! ……ってなんだって俺がこんな事しなきゃなんねーんだよ」 同じく砂浜を駆ける♀アサと♂プリ。 いい年の大人が、バックに花とか飛ばしながら砂浜を駆ける様は、無様を通り越して最早滑稽の域である。 返答に窮する♀剣士に♂ウィズは続ける。 「アラームは辛うじて許す。だが、残りの三人は万死に値すると思うのだが……」 「そ、そう言うな。そうだ、向こうにDOP達が居たはずだ。あそこならお前とも話が合うと思うぞ」 そう言う♀剣士の薦めに従って、大きな岩の向こうに居るDOP達の元に向かう♂ウィズ。 「だーから! そのハアハアを止めろと何度言わせる気だ貴様は!」 「ムキになる騎士子タン(*´Д`)ハァハァ」 「……で、こいつがお前が言っていた会わせたい奴とやらか?」 「ち! 違う! 全然全く別人だー! ええいまとわりつくな! 離れんかバカモンがーーーー!!」 「(*´Д`)ハァハァ (*´Д`)ハァハァ (*´Д`)ハァハァ 」 「……ふむ、その表現手法はさておき、並々ならぬ想いを寄せているのは理解出来たぞ。後は腕さえあればゲフェンに招くのも悪くは無いか……」 「あっさりと理解を示すなどっぺるげんがーーーーーーーー!!」 ♀剣士は顔中を引きつらせながら謝る。 「……すまん、私が悪かった」 「もういい。所詮私は一人が似合う身だ……ハイド」 ひゅんとその場に消える♂ウィズ。 「ここまでハイドクリップ持ってきてたのかお前は……もしかして  ハイドが気に入ったのか?」 「ほっとけ」 ぼそっと呟く♀剣士と即答する♂ウィズ。 「……図星か」 「だからほうっておけと言っている!」 その返答の速さに確信を得た♀剣士。 深淵の騎士子の泣き声が響く。 「びえーーーーーーーーーーん!!」 その周りで♂アコと♂ケミが困った顔をしている。 「ねえ、もう泣きやんでよ」 「うはwwwwwもう一時間以上経つwwwwwアリエナサスwwwww」 二人が頭を撫でてやると、少しづつ落ち着いてくる深淵の騎士子。 「ひぐっ……ぐしっ……うっく…………」 そんな深淵の騎士子を見て、にぱーっと笑う♂アコと♂ケミ。 そして、その笑みが深淵の騎士子には眩しすぎて、嬉しくて、申し訳なくて、また胸がいっぱいになっていく。 「うぅ……ぐすすっ……うぅっ……うわーーーーん!!」 顔を見合わせて苦笑する♂ケミと♂アコ。 「ま、いっか。気が済むまで泣かせてあげよっか」 「おけwwwwついでにwwww砂漠の岩場でwwww深淵さんにwwwww何してたか吐けwwwうぇ」 「い、いや別にやましい事なんて何も……ああ、深淵さんって見た目よりずーっと柔らかくって良い香りがしたな~」 「…………極殺wwwww」 「ぬおっ! やる気かアコ! 国のお父さんお母さん妹その他に賭けて今日こそたたきのめーす!」 崖の上から暢気に眼下のアホ騒ぎを見つめる視線が二つ。 「なんかこー……私混ざりにくいんだけど、本気で」 「混ざりたいの?」 そう訊ねる♀ウィズに、首を横に振る♀ハンター。 「もうちょっとこー私好みの大騒ぎとかあれば、無理にでも混ざるんだけどね~」 「私も、♀セージが行方不明なもんで、なんかこー手持ちぶさたというかなんというか……」 そこに♀アーチャーが駆けてくる。 「あ、居た居た。♀ウィズさんも行かない? すんごいおもしろいもの見れますよー」 「おもしろいもの? ……それより♀アーチャー、あなたその顔中のひっかき傷は一体何?」 「戦いの勲章。さー行きましょー。そこの♀ハンターさんも行く?」 「何があるの?」 「女の戦い。修羅場。女系家族」 「行くっ! そーいうの待ってたのよ!」 「……なんでそれに私も巻き込もうとするのよ……」 なんやかやと引きずられてきた♀ウィズ。 辿り着いた先に居た人物を見て、苦々しい顔になる。 「♀セージ……あなた一体そこで何をしてるのよ」 「ジャッジを頼まれた。ああ、そこ、商品が動くんじゃない」 ♀セージに注意された♂ローグは仏頂面で怒鳴り返す。 「動きたくてもこれじゃ動けねーだろうが!」 無駄に飾ったイスに縛り付けられている♂ローグ。 そんな♂ローグを更に大声で怒鳴る♀アルケミ。 「ええい男がぐちゃぐちゃと鬱陶しい! ええから商品はそこで静かにしとき!」 そんな♀アルケミの後ろで、♀クルセと♀プリの二人が困った顔で立ち尽くしている。 「あの……私はその……」 「わ、わたしもそんな大騒ぎにするつもりは無かった……」 そして顔を見合わせる二人。 「えっと、私は、その少し♂ローグさんとお話がしたかったもので……」 「あ、ああそうか。わ、わたしも……その……や、やくそくが……その」 もごもごと口ごもる♀クルセだったが、その言葉に♀プリの心臓が跳ね上がりそうになる。 「や! やくそく……ですか?」 「ええ! あ! いやその……その……約束はどうなったのかなと……♂ローグに……その」 突然♀セージが口を挟む。 「ふむ、ではその約束とやらを♂ローグに説明させよう。それ次第では、先に出会った権を行使出来る♀プリの優位性が崩れるやもしれぬ」 頬をびみょーに赤らめながら♂ローグが喚く。 「知るか! なんだって俺がここでんな事言わなきゃなんねーんだよ! てーかいい加減これほどけてめーら!」 速攻で♂ローグの口にさるぐつわを噛ませる♀ハンター。 その早業の妙に大きく頷く♀セージ。 「♂ローグは証言を拒否。となると約束とやらの信憑性を証明する物が無くなってしまったという事か……」 おっそろしく衝撃を受けた顔をする♀クルセ。 「では弁護人♀アーチャー、他に♀クルセ優位を訴える材料はあるか?」 「もっちろん! ♀クルセさんの女性的魅力たるや! あのもんのすごいスタイル見ればどんな男も……」 「わーーー! わーーーー! なんて事言い出すのだ♀アーチャー!!」 慌てて♀アーチャーの口を塞ぐ♀クルセ。 それに感心したように肯く♀セージ。 「ほほう、外見以上に体型に自信があると? では確認の為にここで脱いで……」 「出来るかーーーー!」 「そうか、ではそれもまた証明出来ずと。では♀プリ側の弁護人……」 そこまで言って辺りを見渡すが、♀剣士の姿が見えない。 代りにその気配に気付いた♀ハンターが思いっきり自分を指さしてアピールしている。 「いいだろう。弁護人♀ハンター口述を始めてくれ」 きらーんと♀ハンターの目が輝く。 「OKじゃあね……上から85-59-83って所かしら?」 あまりの正確さに目を見張る♀プリ。 「ふふふん、そしてあなた……その年でこれって結構希少価値よ……あなたは処女ね。間違い無いわっ!」 顔中真っ赤にしてあたふたしだす♀プリ。 「絶妙ともいうべきスリーサイズ、聖職者という肩書き、発言の少ない控えめな性格、身持ちも堅く恋愛経験に疎い、それでいてその全身から漂う守ってオーラ!」 「ちょ、ちょっと……その……」 「無敵よ彼女は。これだけの逸材、物件はそうそう無いわね」 自信満々でそう言い放つ♀ハンターに、♀セージは隣の♀ウィズに訊ねる。 「そうなのか?」 「そうなのか? って……まあ確かに魅力的よね、それも相当高いレベルでバランスが取れてる子よ」 「そうか、では…………というか♀プリ、♀クルセよ。一つ聞いて良いか?」 「……なんだ?」 「はははははい、なんでしょう?」 「一体私はお前達の何をどうジャッジすれば良いのだ?」 『それも知らないでやってたんかい!』 速攻で♀アルケミ、♀ハンター、♀アーチャーがつっこむ。 ちょっと痛かったなーとか思いつつ、さりげなく拳でツッコミ入れてきた♀アーチャーに非難の目線を向けながら言い返す♀セージ。 「そうは言うが、何故この二人が争っているのかもわからないのに、どうやってそれを判定しろというのだ」 ♀ハンターが毅然として言い放つ。 「決まってるじゃない! 男を奪い合う女同士、血で血を洗う大抗争よ!」 ♀アーチャーもくわっと睨み付けながら言う。 「そうよ! 例え破れても草場の影からお百度参りじゃ済みませんバトル! これこそ女の生きる道!」 全然意味のわからない二人をほおっておいて、♀アルケミが前向きに話を進めてみる。 「あ~、とりあえずやな。この♂ローグの良い所をそれぞれで挙げてみ? まずは♀プリからや」 先ほどの♀ハンターのトークから赤面しっぱなしの♀プリは、相変わらずもじもじとしながら言う。 「え、……えっと……その、♂ローグさんはとても優しい人です」 「ほうほう、んでも優しいだけやったらそこら中にいくらでもおるやろ?」 「そんな事ありません。♂ローグさんは、弱い相手に決してその力を振るったりせず、その上で、きちっと誠意には誠意で応えてくれる方なんです」 「ふ~む、わかりずらいな~。こんの悪党面が何をどーしたら誠意なんて話になるんや?」 「悪党面なんかじゃありません! ♂ローグさんはとっても優しそうな顔してるじゃないですか!」 ♀ハンターと♀アーチャーが揃って『1』と書かれた札を上げる。 「おーけい、♀プリーストはん二ポイントげっとや。うんうん、恋は盲目言うしな~」 すんごい色々言いたそうな♂ローグを放置で♀クルセへと質問は移る。 「では、♀クルセはん。♂ローグの良い所って何処や?」 「あ、ああ……そうだな。♂ローグは仲間想いで、女子供を決して見捨てない、男の中の男だ」 「ほうほう、それはなんや、えろうかっこええ奴やな。んでもそれ下心でもあったんちゃうん?」 「そんな事は無い! ♂ローグは私の想いを知った時も、きちっと自分の気持ちを言って、私を都合良く使うなぞという真似はしなかった!」 沈黙が場を支配する。 「……えっと、♀クルセはん、もしかして♂ローグに告ったん?」 「へ?」 そこで始めて自分が言った言葉の意味に気付く。 「わーーーー!! わーーーー!! い、今のは無しだ! 待て! 私は何も知らないぞ!」 しゅざっと♀アーチャーが『2』のポイントを、♀ハンターが『-1』のポイントを上げる。 「ちょっとちょっと♀ハンターさん。なんでマイナスポイントなのよ」 「それはこっちのセリフよ。あそこまで言っておきながら当人前にして否定するなんてどうかしら?」 ♀ハンターのセリフに♀クルセが更に慌て出す。 「え? ええ!? こ! これは違うのだ♂ローグ! これはだな! ええと……あ~う~」 進退窮まる♀クルセに♀ハンターが追い打ちをかける。 「恋する乙女の鉄則よ。男の前で晒す醜態は常に計算づくであれ。醜態すら利用する心意気の無いあなたに恋をする資格は無いわっ!」 がーーーーーーーん とショックを受けてしまった♀クルセを置いておいて、♀セージがぼそっと呟く。 「そうか、やっと理解したぞ」 ♀ウィズがバカバカしそうに♀セージを見る。 「何をよ」 うんうんと肯きながら♀セージは言った。 「つまりはだ、♀プリも♀クルセも、♂ローグと生殖行為に及びたいという事だな」 『途中経過をすっとばすなーーーーーーーーー!!』 ♀ウィズ、♀アルケミ、♀ハンター、♀アーチャーの四人総ツッコミを受けて派手に後ろに吹っ飛ぶ♀セージ。 微妙に鼻血を出しながら、倒れた隣にぽつんと立っていた子バフォに聞く。 「……何か間違ったか?」 「何故我に聞く?」 「解決策として、♂ローグが二人を交互に相手取るという手も考えたのだが。物理的には可能だろう?」 「お主は人間社会の常識から学び直すべきであろう。それだけは我にもわかった」 小さく縮こまってしまっている♀クルセを見て、流石にやりすぎたと思ったのか、♀ハンターが新たな申し出をした。 「そうね、こうなったらあの手しかないわ」 「あの手ってなんや?」 「もちろん、二人を♂ローグが『試して』みて『良い』方を選ぶというストレート一直線な手。とりあえずそこの林の奥でも使って……」 ♀ハンターの背後に迫る怨念に満ちた黒い影。 「何を言ってるのあなたはーーーーーーーー!!」 ♀騎士の鉄拳が♀ハンターの後頭部を捉え、♀ハンターはあっさりと昏倒した。 「ようやく見つけたと思えばあなたは……ごめんなさい、このバカが色々と迷惑をかけたでしょ?」 つい肯いてしまう♀クルセと♀プリの二人。 「ごめんなさいね。この悪党には私がきつーーーーーーーーくお仕置きしておくから」 そう言った際の♀騎士の表情がシャレになってなかったので、誰も反論はしなかった。 「そうね、深淵の騎士子も誘ってあげようかしら……良くもいろいろいろいろいろいろやりたい放題やってくれたわね……」 ♂ローグは、一人あの世の不条理についてぶつぶつと口の中だけで文句を言っていた。 『なんだって俺は、ここに来てまでこんな目に……大体だな、俺も好き放題暴れてりゃこんな扱い受ける事も……』 思考が陰に篭っていく。 『くっそ、やっぱり俺もローグ姐さんに付き合って無法の限りを尽くしておけば……』 不意に、♂ローグの視界にとても珍しい物が入る。 『腹? それもこりゃ……女の腹か? なんだってこんなもんが俺の目の前に……』 ごすっっっっっ!! そりゃもう鈍すぎる音がそこら中に響く。 いつのまにか駆け寄っていた♀ローグが、思いっきり高く飛び上がり、両肘を、♂ローグの頭の上に叩き落とした模様。 あまりの衝撃に猿ぐつわは外れてくれたが、びしーっと縛ったロープは全く外れる気配すら無い。 相手が♂ローグという事で、念入りにとの♀セージの指示であった。適切な処置である。 「あら? 何よそれ。油断させて反撃する手じゃないの?」 「……その前に、いきなり肘打ち喰らわす理由を説明……しやがれ」 「あんたも結構ヤルし。楽しそうだからケンカ売ってみたのよん♪」 すぐさま周囲を女達に囲まれる♀ローグ。 「貴様っ! よりにもよって♂ローグに手を出すとは……許せん!」 「なんて事を……♂ローグさん! しっかりしてください!」 「このお人ってどないな人なん?」 「♂ローグの話では、悪党の中の悪党という事らしいが……」 「不意打ちで全体重乗せた肘打ち喰らわす辺り、その評価は正しいようにも思えるわね」 五人に囲まれ、しかし不敵に笑う♀ローグ。 肘を曲げ、脇を締め、両腕を前に出しながら、片膝を心持ち上げ、体を揺すり出す♀ローグ。 ♀セージがその構えを見て警戒を強める。 「むう、その構えは……」 「知ってるんか♀セージ!?」 「ああ、これぞまさしく霧獲蛇射(ムエタイ)の構え。まさかこの技の継承者が残っていようとは……」 『霧獲蛇射』(むえたい) かつて隆盛を誇ったグラストヘイム城から数千キロ離れた大地 そこにある侘唖吐瑠=亞維嵐怒(たあとる=あいらんど)と呼ばれる島に伝わる一子相伝の必殺拳法 それを真似て喪賂九の商人が見よう見まねで作り上げ 街の道場で売り出したのがそもそもの起源と言われている ちなみにかの商人は詐欺の容疑で既に所轄署に書類送検されている 当人はコメントで 「これは健康に良いのです。老いも病も無い国に行きたければ頑張る事です」 と残していたという       民萌書房刊 『喪賂九烈士伝 第856980章』より抜粋 ♀ウィズがすんごい真顔で言う。 「バカにしてんの?」 「私は今までお前をバカにした事なぞ一度も無いぞ」 「わかった。じゃああなたがとんでもないバカなのね」 「私はお前をバカ扱いした事は無いというのに、お前は私をそう扱うのか。ひどい奴だな」 「……だーれーかー、私をこの空間から救い出してー」 ♀ローグは、懐から鉢巻きを取り出し頭にはめる。戦闘準備完了だ。 バックに巨大な文字が浮き出てくる。 一つ、武器防具を使いません! 二つ、死んでも、回復アイテムは使いません! 絶対に! 三つ、主役は私、パーティーは組みません! 四つ、狂気ポーションも使いません! 五つ、最強の、ローグスキルを使います!       『 ローグ!!!!!!!! 』 ♀ローグの余りの気迫に全員言葉も無い。 しかし、ひっくり返った♂ローグは一人、ぼそっと呟いた。 「……それだと、俺まで含まれちまうからヤメレ」 まずは第一撃、足下に転がる♂ローグに踵の一撃を振り下ろして黙らせると、激怒した♀クルセが襲いかかってくる。 ♀アルケミも同時に踏み込み、その後ろで♀セージが詠唱を始める。 ♀ローグはそれを見るなり、♂ローグが張り付いたままのイスを蹴り上げてその場に立てる。 ちなみに♂ローグは白目剥いた状態で、なすがままである。 そうして立ち上がったイスの上に♀ローグは飛び上がり、それを蹴って、踏み込んでくる♀クルセの肩の上に飛び乗る。 「なっ!?」 ♀クルセが反応するより早く、今度は♀アルケミの肩に飛び乗り、更に奥へと飛び込んだ。 空中から片肘を振り上げて迫るは♀セージ。 「くっ!」 辛うじてのけぞってその肘をかわしたが、すぐさま放たれた♀ローグの後ろ回し蹴りをまともに喰らう。 鳩尾にまともに入ったそれに、苦悶の表情を浮かべる♀セージ。 「何をしている♀ウィズ!」 一人、端っこで座り込んでる♀ウィズ。 「……私は花よ。野に咲く名もない花。だから話しかけても返事なんてしないわよ」 「何?」 「そーんな世界に巻き込まれるのはまっぴらって言ってるのよーーーーーっ!!」 半泣きになりながらそう叫ぶ♀ウィズの肩を、♀プリーストが肯きながら叩いたりしている。 しかたが無いので、自分でなんとかするべく考える♀セージ。 その間に♀ローグは、♀アルケミと♀クルセの二人相手に死闘を演じていたりする。 「往生せーや!! 事後回収用紐付きメマーナイトーーー!!」 「正義剣! ジャスティス乱れ打ち!」 「なんの! アルティメット極殺技! 爆裂究極すくりゅーあっぱーーーーー!!」 ふと思いつく♀セージ。 「そういえば、♀ローグはアンデッド歴があるんだったな……ならば」 地味ーに、ぽっとファイアーウィールを出してみる♀セージ。 「あっつーーーーーーーー!!」 殊の外効果的であったようで、♀ローグは凄まじい勢いでその場を走り去っていった。 「あらら、なんやエラク火の付きええなあの人。両足ばりばり燃えてるでアレ」 そう言う♀アルケミだったが、返事は無い。 ふと見ると、♀クルセと♀プリーストは二人揃って♂ローグの介抱をしていた。 「ひーる! け、怪我は大丈夫ですか?」 「ああ、怪我はな……」 「そうか、何か欲しい物とかあるか? 食事でもなんでも用意するぞ?」 「いや食事はいい……だがな、お前等。一つ言わせてくれ」 「はい?」 「なんだ?」 「この期に及んで! なんでまだ俺の縄解かねーんだよ!」 「いや、その……それ外しますと♂ローグさんはきっと……」 「そ、そうだな……多分逃げてしまうような気が……その……」 「……変な所で、勘良すぎだお前等……」 「弱ったな~。♀アコさん何処にも居ないよ……」 ♀モンクは一人、途方に暮れていた。 ごめんなさい優先度ダントツトップの彼女に謝らずして、ごめんなさい行脚は始まらない。 とりあえずそこらに居る人に聞いてみる事にした。 「あの~。♀アコさん見なかった?」 その声に振り返った彼女は、メイド服に身を包んだアリスだった。 「はい? ええ、見ましたよ」 「ほんと!? 何処に居るかな?」 「ええっと、先ほど♂シーフさんとあの川を渡って行かれました。お二人ともとても楽しそうでした……まるで金の野原を駆けているように……」 らん♪ らんらららんらんらん♪ らん♪ らんららら~ん♪ 「わあ、♀アコさん、川が金色に光ってるよ~」 「すごい……これがあるぎおぺの……ステキね、♂シーフさん」 「さあ、あっちまで一緒に走ろう♪」 「ええ♪」 らん♪ らんらららんらんらん♪ らららんらんらんらん♪ ジト目の♀モンク。 「二人の服、めっちゃ青そー」 その光景を思い出したのか、何やら夢見るよーなアリス。 敢えてツッコまずにいると、奥から人が会話する声が聞こえてくる。 「……ほら、早く行かないとアリスさん待ってるよ」 「うっさいわね~。大体私の方が荷物多いって何かおかしくない?」 何やら聞き覚えのある声だと♀モンクが思っていると、すぐに会話している二人が姿を現した。 その姿を見た♀モンクが硬直する。 「何言ってるんだい。秋菜でもなきゃそんな大荷物持てる訳ないじゃないか」 「そりゃそうだけど……何かこー不条理よ、この荷物配分」 ぶちぶち言いながらアリスの前に山ほどの食べ物を置く秋菜。 「まあまあ、そう言わないで……あれ? そちらは♀モンクさん? 良かったら一緒に食べない?」 ♀モンクはバカみたいな口をぱくぱくさせるだけだ。 秋菜はそんな♀モンクを見て、足下に置いた食べ物から、アンパンを一個取り出す。 「ほい」 「むぐ? ……むぐむぐむぐ……ごっくん。ってちがーーーーーう!」 「何よ騒々しいわね~。心配しなくても牛乳もあるから一緒に飲めば」 妙に食い合わせに詳しい秋菜に驚きつつも、♀モンクは後ろに飛び下がって構える。 「なんであんたがココに居るのよ!」 そう言われた瞬間秋菜のこめかみに青筋が浮き出る。 「……うっさいわね。ヤられたのよ。ああーーーーー!! ありえない! なんだって私があいつらなんかに! うがーーーーー!!」 大声あげる秋菜の口に、今度は♂GMがアンパンを差し込む。 「あーーーもがっ……んぐんぐ……ごっくん」 一息に食べると、牛乳を取って腰に手を当てる。 「ごきゅ……ごきゅ……ごきゅ……ぷはー!」 満足したのか、満面の笑みを見せる秋菜。 ♀モンクは見たままの感想を述べる。 「おっさんくさっ」 「何よーーーー!!」 ムキになる秋菜を♂GMがなだめてる間に、いつのまにかアリスがビニールシートを広げて、その上に食事を広げている。 「さ、準備出来ましたよ。みなさんいただきましょう……早々につまみ食いしてる悪い子も、今日だけは見逃してあげますから」 なし崩しに山と積まれた食料を囲んで四人が座る。 「では、いただきます」 アリスの号令に、♂GM、秋菜、♀モンクが続く。 『いただきます』 そう言うなりアリス、♂GM、秋菜の三人は揃って好きな物を手にとって口にする。 好きな物ばかり食べているのだから、自然三人の顔は笑顔になった。 そんな三人を横目に見ながら、♀モンクはおずおずと、中のチーズトーストを取る。 腕が震えるのが自分でもわかった。 それを横目で見ていた秋菜の目が光る。 「隙ありー!」 ♀モンクの手からひょいっとチーズトーストをひったくると、即座に自分の口に入れる秋菜。 「あーー! 何するのよ!」 「ひゅひあるほーがわるひー」 「口の中の物食べてからしゃべりなさいよ!」 ぶちぶちと文句言いながら♀モンクは、メロンパンを手に取る。 「全くもう、油断も隙もあったもんじゃない……」 今度はすぐに口に入れた。 メロンパンの甘い味と、ほんのり香るメロンの風味。 ついつい、顔に出てしまったのか、それを見たアリスが嬉しそうに聞いた。 「おいしいですか♪」 ♀モンクは、すぐに肯定しようとして口を開きかけるが、うまくそれが出来なかった。 ぼろぼろと涙がこぼれるのを止める事が出来なかった。 心配そうに、みんながこちらを見ている。 だから、♀モンクは涙を一生懸命堪えながら言った。 「ぐすっ……おいしいよ。これ、すっごくおいしい。ありがとう」 ♀ウィズは、一人さっさとあの忌まわしい場所を離れて放浪を始めた。 そしてすぐに声をかけられる。 「災難だったな」 無駄にさわやかスマイルなのは、♀剣士だ。 「……あなた、わかってて逃げたわね」 「はっはっはっはっは」 「笑って誤魔化さないの。どうして一声かけてくれなかったのよ……」 「そう恨みがましい目で見るな、私だって苦手な事ぐらいある」 「脳味噌沸騰するかと思ったわよ……しばらく会わない間に♀セージの天然にも磨きがかかってるし」 「ああいう、大騒ぎは苦手か?」 「勘弁してちょうだい、私ああいうの本気でダメなのよ」 心底嫌そうな顔をする♀ウィズを見て、流石に可哀想に思えてきた♀剣士。 その目が、ある人物を見つけると自然鋭くなる。 ♀剣士の気配を感じ取った♀ウィズも、緊張した顔で、♀剣士の視線の先を見ると、そこには♂アサシンが居た。 二人の気配に気付くと、♂アサシンは振り向いた。 「あんたか……色々迷惑かけたな」 まともな言葉が返ってきた事に驚く♀剣士。 そんな♀剣士の様子に気付かないのか、♂アサシンは歩み寄りながら言う。 「だが、誰よりもヘコんでいるのは俺自身だ……察してくれ」 「まさか、元に戻ったのか?」 「ああ……正直、泣きたい気分だ」 理由はわからない、だがまともに戻ったというのは本当らしい。 「だとしても、私も恨み言の一つも言いたい気分だ。散々手こずらせてくれたからな、お前は」 苦々しい顔で♀剣士を見る♂アサシン。 「覚えている。よりにもよって……狩り専とはいえ、アサシンの俺が剣士に……ぐあー、俺のプライドを返せー」 「当人を前にしてそういう事を言うな」 とか言いながらも、♂アサシンの身の上には同情を禁じ得ない♀剣士。 ♀ウィズは、これを黙って聞いていては不毛な会話にしかならないとふんで、不意に話題を変えてみる。 「へ~。狩り専なんだ。いつもは何処で狩りしてるの?」 「ん? 俺は……そうだな、最近は時計上4とかか。亀地上は……まあ、色々あってな」 それを聞いた♀剣士が大きく目を見開く。 「上4? 鍵が必要なあそこを狩り場にしているのか?」 「ああ、どうせ重量過多になるまで篭るしな。その間に鍵の一本や二本ぐらいは出るさ」 「いや、それ以前にどうやってあんなキツイ狩り場に……」 「そうか? 太陽剣とQマシリャスカッターがあれば、永遠に篭ってられるぞ?」 その言葉に♀剣士は吹き出す。 「太陽剣!? そんなものまで持ってるのかお前は?」 興を引かれたのか、♀ウィズが訊ねる。 「ねえ、他の装備は?」 「ああ、時計上4行く時なら、TBrグラ、QBfマイン、DADBfマイン、HyDtiジュルに、鎧各種って所か」 「へ~。結構揃ってるじゃない。もしかしてかなりブルジョア?」 「時計行く前は、死ぬほどコンロン通ってたからな。あんたは何処で狩りを?」 「私? 私は……最近は監獄が多いかな?」 再度吹き出す♀剣士。 「こ、こら♀ウィズ。監獄ってお前あんな沸きの良い所でどうやって……」 「ん? 立ち回りうまくやればなんとかなるわよ」 そして♂アサシンと♀ウィズの二人で上級狩り場ソロ狩り談義で盛り上がる。 もちろん、どちらの狩り場も即死の危険が目一杯なので、♀剣士は絶対に近づいたりしない場所だ。 何かこー突然二人が別世界の生き物に見えてきて、それを確認すべく♀剣士は一つの質問をした。 「なあ、二人は防具精錬どこまで進んでいるんだ?」 「オール+7だな」 「オール+8ね」 くらっと目眩に襲われる♀剣士を余所に、二人は更に盛り上がる。 「ほ~。オール+8とはなかなかやるじゃないか」 「あなたと違って武器はいらないからね。そもそもウィズが被弾前提で戦う訳にもいかないんだけど、ほら、一応安心したいじゃない」 「そうだな、カリッツ盾やらティアラやらは揃えたのか?」 「一応ね。もうちょっと良い防具使えれば楽なんだけどね~。そういう所はあなたが羨ましいわよ」 「そうか? 確かに防御力はあるが、マントの+7とかは他に類を見ない程金かかるぞ。俺はお前の金かけなくても得られる無法な殲滅力が羨ましくてしかたがないぞ」 最早異次元の会話と化した二人を見て♀剣士は思った。 『……こいつら、装備ありでこのゲームやってたら一体どうなっていたのだろうな……』 聞いてるだけで、とんでもなく空しくなってきた♀剣士は、足早にその場を去ろうとしたが、突然二人の声が大きくなった事に気付き、その足を止める。 「待て。それは誤解だ。お前はアサシンという職業を甚だしく誤解している」 「そうかしら? 殺しを生業にしてる職なんでしょ? だったら対人戦なんてお手の物じゃない」 「ふざけるな! 俺達アサシンはな、モンスター相手にしてる時が一番輝くんだよ! それもPTなんか組まないで一人でやってる時にな!」 何やら鬱屈しているものがあるのか、声を荒げる♂アサシン。 「くそう、そんな俺に殺し合いなんてさせやがって……俺なんてな、ヤワだし、バッシュよけられないし、スタンしたらいつまでもぴよりっぱなしだし、範囲攻撃無いし、囲まれるとボコスカ殴られるし、どんなに早く動いても禿にゃーずばーっとぶった斬られるし、武器には金かかるし、かといって防具疎かにすると5%の壁に泣く事になるし……よっぽどローグの方が人殺しには向いてるんだよ!」 「……まあ、確かにローグは男も女も終盤まで元気だったけどね」 「黒蛇王なんて大っ嫌いだ! MVPボスなんざ狩りの障害以外の何者でもねーやばっきゃろー!!」 隣の芝は青く見える。そんな事を考えながら♀剣士はさっさとその場を離れた。 『これ以上あの場に居たら、あの二人殴りたくなってくるからな……』 最早同情する気すら起きなくなった♀剣士はそんなことを考えていた。 ドッペルゲンガーは、彼方で何やら揉めている三人を見つけ、ふと興が乗ったのかそちらに行ってみる事にした。 ♀騎士♂騎士の二人が、♀ハンターへの仕置きタイムでドッペルゲンガーに全く構ってくれないのは、全然関係無いが。 「一体何を揉めておるのだ?」 ドッペルゲンガーを見た月夜花は嬉しそうに飛び上がる。 「ドッペルゲンガー! ねえ聞いてよ! この子が♂剣士君を独り占めするんだよ!」 「何よ! ♂剣士は私のなの! それを横からしゃしゃり出てえらそうに言わないでよね!」 何よりもまず、♂マジの女言葉に面食らったドッペルゲンガーだが、おくびにも出さずに答える。 「ふむ、二人で仲良く分ければ良いのではないのか?」 悲鳴を上げる♂剣士。 「さらっと無茶な事言わないでくれー!」 無理との事なので、更に考え込むドッペルゲンガー。そして、ふと妙案を思いつき手を叩く。 「では、こういうのはどうだ? 外見も一緒であるし、私が代りにどちらかの相手をしよう」 『ヤだ』 月夜花と♂マジの二人に速攻で拒否された。 「ふむ……そうか」 他に案も思いつかず、またまた考え込むドッペルゲンガー。 「もーいいもん! こーなったら力ずくだー!」 そう叫ぶやいなや月夜花は♂剣士を抱えて、猛ダッシュで逃げ出した。 「こらー! 待ちなさい! 絶対許さないわよ!」 凄い勢いで追いかける♂マジ。 「……せめて人間扱いをぷりーず……」 ♂剣士の主張は綺麗に二人に無視されたようだ。 一人、取り残されたドッペルゲンガーは再度呟く。 「そうか、私ではダメか……そうか」 またとぼとぼと歩き出すドッペルゲンガー。 ふと河原の側に、ペコペコ管理兵の二人を見つけた。 二人は、何やら川に向けて石を投げて居た。 「くそっ! どーしてもあたらねー!」 「今度は俺が! ……ってあんな遠くの狙おうなんて言ったの誰だよ。当たる訳ねーじゃん」 ドッペルゲンガーは声をかけてみる事にした。 「どうした?」 「おうドッペルゲンガーの旦那。実はな、ペコがさっさと川渡っちまったんで、俺達する事無くてさ」 「悔しいから、川の中州にある変な形した石目がけて石投げたんだけど、当たらねんだこれが」 「当たらないってなると絶対当てたくなるのが人間ってもんでな」 「さっきからずーーーーーーーっと狙ってるんだが、一回も当たらねんだ」 妙にテンポと歯切れの良い二人の会話にやっぱりドッペルゲンガーは驚いたが、顔には出さなかった。 「ふむ……では私がやってみよう。当たれば良いのだな?」 『おう!』 ここまで息の合った話し方をされると、何やら小気味よい。 そんな事を考えながら、ドッペルゲンガーは石を拾って狙いを定め、投げた。 「すっげーーーー!! 一発命中!」 「さっすが旦那! よっ! ゲフェンの魔王!」 「ふむ。別に特別な事でも無いと思うが……」 無表情のままで、もう一個石を拾うドッペルゲンガー。 今度はアンダースローの要領でそれを投げる。 投げ込まれた石は、水面を跳ねながら目指す石へと向かって行き、見事命中。 「おおおっ! 今度は大技混じり!」 「はらしょーどっぺる! 神業? 魔技? かっこいー!」 「ふむ。では次は……」 その表情からは全く察する事が出来ないが、ドッペルゲンガーは、何やら嬉しい様子であった。 「さーんばーにあわっせて♪ おっどりだすぅー♪」 BGMに合わせて見つめ合う♂BSと♀BS。 「ああ……俺さ、その……なんて言っていいか……」 そこまで言った♂BSの唇に♀BSは自分の指先で触れる。 「こうして、二人で居られるんだからいいの。私には……それで充分」 「そか……ありがとう」 「きゃんゆーせれぶれーいと♪ きゃんゆーきすみーとぅなーい♪ うぃーうぃるろーんぐ♪」 突然むすっとした顔になる♂BS。 「空気読んでくれよ、ここはBGMいらない所だろ」 ♀BSも口をへの字に曲げる。 「そうよ。気を効かせてこの場を離れるぐらいして欲しいわね~」 文句を言われた♀商人は目の幅涙を流しながら言った。 「うぅ~。私だって好きでやってるんじゃないんですぅ~」 ♂♀BSは揃ってジト目だ。 「じゃあ、また♀シーフさん達の所で折檻される? 商売柄、声出すのは得意だからって言ったの君だよ?」 「そうよそうよ、それが嫌だからってBGM役引き受けたんじゃない。文句なんて言ったらバチ当たるわよ」 「うぇーん、わかりましたぁー。歌いますよー。次の曲は……えっと……のーばでぃのーず?」 ♀BSが嬉しそうに言う。 「それ私大好きなの! ほわっとごーいんおん! 気付いたのさ♪ 越えよう!」 「いや……ちょっとこれ一人じゃ無理が……」 「じゃあ、次の俺のリクエストよろしくっ」 「はーい。次は何かな~」 そうして手元のリストを見た♀商人の表情が変わる。 「……せっくすましんがんずって本気ですかぁ?」 「おっけーい! 俺の心の糧、1stアルバム全曲一気でごー!」 「……死にます。絶対確実に。吠えきれません、私じゃ」

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