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039.愛する人へ 「……やはり、乗っている奴が居るな」 当然といえば当然だが、と、♂ウィザードは溜息を吐いた。 放送で発表された死者は5人。早いうちに死ぬと予想していたハンターや商人、マジシャンが死んでいた。 そしてやはりプリーストやアサシン、騎士などは死んでいない。 ウィザードは数刻前に隠れ家になりそうな廃屋を見つけていたが、離れなくてはならなかった。 なぜならそこは、GM秋菜の放送で”禁止区域”と指定されたフェイヨンだったのだ。 折角街の中まで入ったというのについていない。 ウィザードは頭の中によく知った”本当の世界”の地図を思い浮かべる。 南のアルベルタには逃げれない。 必然的に目的地はプロンテラの周辺になった。 東の森に逃げるという手もあったが、仮にその森に繋がる区域を禁止されてしまったら…閉じ込められて終わりだ。 「…砂漠越えか」 見渡す限り身を隠せそうな物は何もない、砂漠を通る事はウィザードにとって予定外だった。 しかし此処を越えなければ身を隠せそうな森には辿りつけない。 なるべく急いでウィザードは砂漠を掛けていく。 その途中、声が聞こえた。 「布団がふっとんだ!!」 あまりにも場違いなギャグにウィザードは思わず脱力してしまった。 寒い、とても寒いが走っていたウィザードにとってはちょうどいいくらいの冷却材だった。 「ちょっとウィーズさーん!!無視しないで!!」 ウィザードを追ってくるのはやはりバードだった。 一体どういうつもりで追っているのかはわからなかったがウィザードはそのまま逃げ続けた。 しかし元々の足の速さと体力の違いなのか、徐々に距離が縮まり、やがてバードはウィザードに追いついた。 その頃には既に砂漠も終わり、プロンテラの南にまで二人は近づいていた。 「ぜーぜーぜー、に、にげなくても…いいジャマイカ…」 「………ぜーはー…ジョークは…やめろ……」 ウィザードはバードを木の陰に呼ぶ。バードはすぐに納得したのかウィザードと共に隠れた。 「…で、何で逃げるのさ。僕は見ての通り弓も楽器も持ってないよ」 「追ってこられたら逃げるのが普通だろう…、それに、短剣を持っていないという保障はあるのか?」 「……………やっぱ賢いね、ウィズって」 バードが腰から短剣を抜いた。そしてウィザードの首筋にピタリとあてがう。 「……………」 「動くと刺すよ」 ウィザードは木とバードの短剣に挟まれ身動きが取れなくなった。 「…このまま殺してもいいんだけど、ひとつ聞きたい事があってね」 「………何だ」 「ダンサー見なかった?」 「………………」 「どうなの?」 「見ていない。本当だ」 「そっか……じゃ、用はないからバイバイ」 バードが短剣を深く突き刺そうと振りかぶる。 鈍い音がして短剣が刺さった。 「!?」 しかし、そこにウィザードの姿はなかった。 あるのは深く深く短剣が突き刺さった木の幹のみ。 状況を把握できずにバードが辺りを見渡す。 「っ、何処だ…!?」 「此処だ」 上から頭を鷲掴みにされ、バードは動きを止めた。 ウィザードは逃げていなかった。 ウィザードの服に取り付けられたクリップを見てバードは気づく。 「ハイディング……!?」 「ファイヤーボルト」 ウィザードが手を振るとバードの頭上から炎の矢が降り注ぐ。 何本も、ウィザードが詠唱を続ける限り、バードが跡形もなくなるほど黒コゲになるまで。 やがて数回のボルトでバードは完全な像と化した。もっと焼けば灰にすることもできたが、そこまでする必要もなかった。 「…………くそ、魔力も制御されてるのか?」 ウィザードの計算では1回、もしくは2回のボルト詠唱でこうなる筈だった。 だが魔力が落ちている。目に見えて攻撃力が下がっている。 「…不味いな……」 魔法防御力がそこまで高い訳でもないバード相手にこれだけ苦戦してしまうとなると、接近戦はかなり辛い物になるだろう。 ウィザードは更に慎重に行動を取る事を決めると、木の幹から短剣を抜いた。 ウィザードにも扱う事のできる貴重な近接武器だ。 「マインゴーシュ……まあ、無いよりはマシか」 マインゴーシュを手に持つ。更にバードの荷物を探ると、彼がダンサーを探していた理由が少しだけ見えてきた。 しかしウィザードには不要な物。否、持っていってもどうしようもない物。 「…………」 ウィザードはそれを黒い残骸と化したバードの左手の指にそっと嵌めてその場を立ち去った。 <バード死亡 所持品:銀の指輪 残り43名> <♂ウィザード 所持品:バイブル[2]、ハイディング クリップ[1]、マインゴーシュ[3]、赤ポ、食料増加> <残り43名> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[038]] | [[目次]] | [[040]] |
039.愛する人へ 「……やはり、乗っている奴が居るな」 当然といえば当然だが、と、♂ウィザードは溜息を吐いた。 放送で発表された死者は5人。早いうちに死ぬと予想していたハンターや商人、マジシャンが死んでいた。 そしてやはりプリーストやアサシン、騎士などは死んでいない。 ウィザードは数刻前に隠れ家になりそうな廃屋を見つけていたが、離れなくてはならなかった。 なぜならそこは、GM秋菜の放送で”禁止区域”と指定されたフェイヨンだったのだ。 折角街の中まで入ったというのについていない。 ウィザードは頭の中によく知った”本当の世界”の地図を思い浮かべる。 南のアルベルタには逃げれない。 必然的に目的地はプロンテラの周辺になった。 東の森に逃げるという手もあったが、仮にその森に繋がる区域を禁止されてしまったら…閉じ込められて終わりだ。 「…砂漠越えか」 見渡す限り身を隠せそうな物は何もない、砂漠を通る事はウィザードにとって予定外だった。 しかし此処を越えなければ身を隠せそうな森には辿りつけない。 なるべく急いでウィザードは砂漠を掛けていく。 その途中、声が聞こえた。 「布団がふっとんだ!!」 あまりにも場違いなギャグにウィザードは思わず脱力してしまった。 寒い、とても寒いが走っていたウィザードにとってはちょうどいいくらいの冷却材だった。 「ちょっとウィーズさーん!!無視しないで!!」 ウィザードを追ってくるのはやはりバードだった。 一体どういうつもりで追っているのかはわからなかったがウィザードはそのまま走り続けた。 しかし元々の足の速さと体力の違いなのか、徐々に距離が縮まり、やがてバードはウィザードに追いついた。 その頃には既に砂漠も終わり、プロンテラの南にまで二人は近づいていた。 「ぜーぜーぜー、に、にげなくても…いいジャマイカ…」 「………ぜーはー…ジョークは…やめろ……」 ウィザードはバードを木の陰に呼ぶ。バードはすぐに納得したのかウィザードと共に隠れた。 「…で、何で逃げるのさ。僕は見ての通り弓も楽器も持ってないよ」 「追ってこられたら逃げるのが普通だろう…、それに、短剣を持っていないという保障はあるのか?」 「……………やっぱ賢いね、ウィズって」 バードが腰から短剣を抜いた。そしてウィザードの首筋にピタリとあてがう。 「……………」 「動くと刺すよ」 ウィザードは木とバードの短剣に挟まれ身動きが取れなくなった。 「…このまま殺してもいいんだけど、ひとつ聞きたい事があってね」 「………何だ」 「ダンサー見なかった?」 「………………」 「どうなの?」 「見ていない。本当だ」 「そっか……じゃ、用はないからバイバイ」 バードが短剣を深く突き刺そうと振りかぶる。 鈍い音がして短剣が刺さった。 「!?」 しかし、そこにウィザードの姿はなかった。 あるのは深く深く短剣が突き刺さった木の幹のみ。 状況を把握できずにバードが辺りを見渡す。 「っ、何処だ…!?」 「此処だ」 上から頭を鷲掴みにされ、バードは動きを止めた。 ウィザードは逃げていなかった。 ウィザードの服に取り付けられたクリップを見てバードは気づく。 「ハイディング……!?」 「ファイヤーボルト」 ウィザードが手を振るとバードの頭上から炎の矢が降り注ぐ。 何本も、ウィザードが詠唱を続ける限り、バードが跡形もなくなるほど黒コゲになるまで。 やがて数回のボルトでバードは完全な像と化した。もっと焼けば灰にすることもできたが、そこまでする必要もなかった。 「…………くそ、魔力も制御されてるのか?」 ウィザードの計算では1回、もしくは2回のボルト詠唱でこうなる筈だった。 だが魔力が落ちている。目に見えて攻撃力が下がっている。 「…不味いな……」 魔法防御力がそこまで高い訳でもないバード相手にこれだけ苦戦してしまうとなると、接近戦はかなり辛い物になるだろう。 ウィザードは更に慎重に行動を取る事を決めると、木の幹から短剣を抜いた。 ウィザードにも扱う事のできる貴重な近接武器だ。 「マインゴーシュ……まあ、無いよりはマシか」 マインゴーシュを手に持つ。更にバードの荷物を探ると、彼がダンサーを探していた理由が少しだけ見えてきた。 しかしウィザードには不要な物。否、持っていってもどうしようもない物。 「…………」 ウィザードはそれを黒い残骸と化したバードの左手の指にそっと嵌めてその場を立ち去った。 <バード死亡 所持品:銀の指輪 残り43名> <♂ウィザード 所持品:バイブル[2]、ハイディング クリップ[1]、マインゴーシュ[3]、赤ポ、食料増加> <残り43名> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[038]] | [[目次]] | [[040]] |

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