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043.山羊鍋  よぉ、ローグだ。  他の奴ぁ、どうか知らねぇが、俺は今、とても困っている。  何故かって?隣を見りゃ、直ぐわかる。 「すぅ…すぅ…むにゃ…」  …見てのとおりさ。あれから、疲れ切ったアラームとかいうガキは、すぐに俺の偽装毛布に包まって寝やがった。  ああクソ。俺はお守じゃねーんだぞ、この野朗。どうにもヤキが回っちまったもんだ。  思わず、頭を抱え込みそうだ。気を紛らわそうにも、煙草はとっくの昔に全部吸っちまったし。 「お主、起こしてやるなよ?よく眠っておる」  などと、子バフォが、苛々して枯れ葉を蹴っ飛ばしていた俺に、そんな事を言ってくる。  全くその通りだよ。こっちゃの苦労なんざ、何も知りゃしないんだろう。  ふと脇を見ると…子バフォが、胸中で愚痴っていた俺をじっと見ていた。 「何をそんなに苛立っておる?」  そして、心を読んだかのように、んなことを言いやがった。 「…うるせぇ」 「しかし…お主、表情にありありと苛立ちが出ておるぞ」 「当たり前だろうが…っ!!」  今の状況に腹を立てずに、何に立てろというのか。 「すると、主はこのゲームとやらに参加したいのか?」 「そうだよ。俺ゃ、何時だってやる気だ」  今までは、あのプリーストの馬鹿が伝染ってただけだ。  第一、そうしなけりゃ、帰れないだろうが。  不機嫌になって、俺は子バフォを睨みつける。  子バフォは…そんな俺を見て、肩を竦め、鼻で笑いやがった。  この山羊がっ…黙って俺は、鍋の材料を作るべく、腰のツルギに手を伸ばした。 「むにゃ…」  そんな時だった。ガキが、寝言でそれを言ったのは。 「…さん…皆、皆…幸せに…なれたらいいのに… どうして…争ってばかりで…むにゃ…」  なんたって、ここに来てからこの手の馬鹿によく出会う?  俺は、思わず脱力してしまいそうだった。  毛布に包まって寝てるガキの目には、涙まで浮かんでいやがる。  …というか、このタイミングにその寝言は無いだろ。実は起きてやがるんじゃ無ぇか?  俺は、盛大に溜息を吐いた。そして、ツルギに伸ばしかけていた手を引っ込める。  なんか、この場所に来てから、ロクな事が無い気がする。 「……ふふ」  子バフォが、赤い目で俺を見ている。というか…何笑ってやがるんだよゴルァ。  俺は、ツルギの代わりに子バフォに手を伸ばす。 「むぐ…ひゃめぬか(むぐ…止めぬか)」  うるせぇ。俺は、びろーんと子バフォの口に手を突っ込んで、横に伸ばしてやった。  山羊は寸詰まりの手足をジタバタさせているが、だが残念ながら俺の方が圧倒的にリーチか長い。  この戦いは、ハナから勝敗が決まっている。どうだ、人間様の知恵に参ったか、畜生め。 「ひゃめろとひってふぉる!!(止めろと言っておる!!)」  どごんっ!!鈍い音と、鳩尾に走る衝撃。訂正、それは認識不足だったらしい。  奴は、俺の指を支点にし、振り子の様に体を振って俺の鳩尾に蹴りをくれやがった。 「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」  腹を押さえ、激痛に呻き声を上げながらゴロゴロと転がりまわる。  たっぷり一分ほど、そのまま地面をのたうちまわる。クソッタレ。  …そして、俺が子バフォに対して反撃を開始、奴がその迎撃を始めようとした時。 「…ふにゃ?」  騒音に目を覚ましたらしいガキが、目を擦りながら、こっちを見ていた。  俺達は、二人してそっちを見る。きっと、間抜けな顔をしていた事だろう。  それから。 「……」「……」  俺と子バフォは、二人してガキの前に天津伝来の座り方…正座とかいうらしい…をしていた。 「……」  俺達の前には、目に涙なんか溜めてるガキ。これまた、正座している。  そして、敵でも見るかの様な目でこっちを睨んでやがる。喧嘩をするな、ということらしかった。  完全な膠着状態。その証拠に、段々足が痺れて来た。  子バフォが鎌の柄で、急かすように俺の脇腹を突く。覚悟を決めた。 「…悪かったよ。だから」  とりあえず、この座り方は勘弁してくれ。  が、ガキは、まだ同じ様な表情でこっちを見ている。 「…握手」  握手。ああ、握手ね。俺は、痺れる足に鞭打って子バフォの方に向き直ると寸詰まりの手を握ってやる。  何となく、手を差し出したお互いが、腹に一物持った様な顔なのは、気のせいと言うことにしておこう。  引きつったような顔、といえばぴったりくるだろうか。 「顔…変」  …うるせぇ、ほっとけよ。  そんな事をぼやきそうになるが、言葉の変わりに出たのは腹の音だった。 「だぁっ!! んな事より飯だ、飯にするぞ!!」  そうして、俺と子バフォとガキは飯を食う事になったのだが… 「……ぅぅ」  ガキが、保存食の余りの不味さに顔しかめながら、懸命にそれを咀嚼していた。  …まぁ、気持ちは判らんでもない。冒険者でも、食ってると悲しくなってくるような味だしな、コレ。  とはいえ、贅沢を言ってられるような状況でもない。  俺は、子バフォに半分分けてやった(因みに、子バフォも食ってる間は何も言わなかった)靴底の様な干し肉のもう半分を口に放る。  それから、水筒を取り出すと口に水を少し含んで、柔らかくしながら噛み砕いた。  ガキは、と言うと唾液でふにゃふにゃにしてから、干し肉をゆっくり口に入れている。  俺は、後ろ頭の辺りで手のひらを組むとその辺の木にもたれる。 「よく噛んで食えよ?」  というか、よく噛まないと食えないんだが。 「…うん」  ガキが、答える。  その答えを聞いてから、俺は立ち上がる。 「?」  食事を終えた子バフォが、不審げな顔を浮かべてこっちを見ていた。  子バフォには何も言わずに、その辺に放っていた鞄を拾う。 「ちょいと、この辺見回りたい」  そして、言った。  途端、ガキは不安そうにこっちを見、子バフォは、呆れた様な目をする。 「お主…アラーム殿は、かなり疲れている様だが」 「だったら、ここで待ってりゃいいさ」  俺のその言葉に、二人の視線が集中する。…考え無しな野朗共だ。 「主…アラーム殿を襲撃する輩が居たらどうする積りだ?」  予想通りの反論を言ってきた子バフォに対して、返事をくれてやる事にする。 「隠れてりゃいいだろ。どの道、いつかは回りを調べにゃならん」  言って、俺はアラームの包まってた毛布を持ち上げてみせる。 「…それだけか? なんとも頼りないな」 「人の説明は最後まで聞けっての。少し待ってな」  俺は、腰からツルギを抜くと手近な木の太い枝を切り落とす。  それから、それの先っぽを鋭く削っていく。…良し、出来た。  それから、その作業を見ていたガキと子バフォに、それを示してみせる。 「こいつで、地面を深めに掘りぬいて、穴ぼこを作る。 穴の上は、木の枝なんかで俺が偽装を組む。こいつか…」  俺は、さっきから文句ばかり言いやがる子バフォの頭を拳骨で小突いた。 「ルアフなんかでもない限り、まず見つけられん。 即席の隠れ家だ。俺達が帰ってくるまで、じっとしてろ」 「我も行くのか?」  などと、戯けたことを山羊が言う。俺は、その頭をもう一回小突く。 「痛いぞ」 「お前の目なら、隠れてる奴がいてもすぐ判るだろうがよ」 「…」  俺の言葉に、子バフォは黙り込む。…ざまぁみろ。  と…勝利の余韻に酔っていた俺の服が、ぴょこ、と引かれる。 「……」  見ると…ガキが、俺の服の裾を持ってじーっ、とこっちを見ている。 「どうしたよ?」  怖がって、ダダでもこねるんじゃねーだろうな?  まぁ…どうしても言うことを聞かないなら、何かでふん縛って転がしときゃあ、いい。 「…怪我しないで。ちゃんと帰ってきてください」  ……ケッ。  地面に唾を吐き棄てると、俺は作業を再開し始めた。 ・ ・ ・ アラームというあの少女は無事やり過ごせているだろうか。 全く、俺とした事が赤の他人の心配をするなんざ、やっぱりあの♀プリーストに毒されちまったに違いねぇ・・・ ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[042]] | [[目次]] | [[044]] |
043.山羊鍋  よぉ、ローグだ。  他の奴ぁ、どうか知らねぇが、俺は今、とても困っている。  何故かって?隣を見りゃ、直ぐわかる。 「すぅ…すぅ…むにゃ…」  …見てのとおりさ。あれから、疲れ切ったアラームとかいうガキは、すぐに俺の偽装毛布に包まって寝やがった。  ああクソ。俺はお守じゃねーんだぞ、この野朗。どうにもヤキが回っちまったもんだ。  思わず、頭を抱え込みそうだ。気を紛らわそうにも、煙草はとっくの昔に全部吸っちまったし。 「お主、起こしてやるなよ?よく眠っておる」  などと、子バフォが、苛々して枯れ葉を蹴っ飛ばしていた俺に、そんな事を言ってくる。  全くその通りだよ。こっちの苦労なんざ、何も知りゃしないんだろう。  ふと脇を見ると…子バフォが、胸中で愚痴っていた俺をじっと見ていた。 「何をそんなに苛立っておる?」  そして、心を読んだかのように、んなことを言いやがった。 「…うるせぇ」 「しかし…お主、表情にありありと苛立ちが出ておるぞ」 「当たり前だろうが…っ!!」  今の状況に腹を立てずに、何に立てろというのか。 「すると、主はこのゲームとやらに参加したいのか?」 「そうだよ。俺ゃ、何時だってやる気だ」  今までは、あのプリーストの馬鹿が伝染ってただけだ。  第一、そうしなけりゃ、帰れないだろうが。  不機嫌になって、俺は子バフォを睨みつける。  子バフォは…そんな俺を見て、肩を竦め、鼻で笑いやがった。  この山羊がっ…黙って俺は、鍋の材料を作るべく、腰のツルギに手を伸ばした。 「むにゃ…」  そんな時だった。ガキが、寝言でそれを言ったのは。 「…さん…皆、皆…幸せに…なれたらいいのに… どうして…争ってばかりで…むにゃ…」  なんたって、ここに来てからこの手の馬鹿によく出会う?  俺は、思わず脱力してしまいそうだった。  毛布に包まって寝てるガキの目には、涙まで浮かんでいやがる。  …というか、このタイミングにその寝言は無いだろ。実は起きてやがるんじゃ無ぇか?  俺は、盛大に溜息を吐いた。そして、ツルギに伸ばしかけていた手を引っ込める。  なんか、この場所に来てから、ロクな事が無い気がする。 「……ふふ」  子バフォが、赤い目で俺を見ている。というか…何笑ってやがるんだよゴルァ。  俺は、ツルギの代わりに子バフォに手を伸ばす。 「むぐ…ひゃめぬか(むぐ…止めぬか)」  うるせぇ。俺は、びろーんと子バフォの口に手を突っ込んで、横に伸ばしてやった。  山羊は寸詰まりの手足をジタバタさせているが、だが残念ながら俺の方が圧倒的にリーチか長い。  この戦いは、ハナから勝敗が決まっている。どうだ、人間様の知恵に参ったか、畜生め。 「ひゃめろとひってふぉる!!(止めろと言っておる!!)」  どごんっ!!鈍い音と、鳩尾に走る衝撃。訂正、それは認識不足だったらしい。  奴は、俺の指を支点にし、振り子の様に体を振って俺の鳩尾に蹴りをくれやがった。 「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!!」  腹を押さえ、激痛に呻き声を上げながらゴロゴロと転がりまわる。  たっぷり一分ほど、そのまま地面をのたうちまわる。クソッタレ。  …そして、俺が子バフォに対して反撃を開始、奴がその迎撃を始めようとした時。 「…ふにゃ?」  騒音に目を覚ましたらしいガキが、目を擦りながら、こっちを見ていた。  俺達は、二人してそっちを見る。きっと、間抜けな顔をしていた事だろう。  それから。 「……」「……」  俺と子バフォは、二人してガキの前に天津伝来の座り方…正座とかいうらしい…をしていた。 「……」  俺達の前には、目に涙なんか溜めてるガキ。これまた、正座している。  そして、敵でも見るかの様な目でこっちを睨んでやがる。喧嘩をするな、ということらしかった。  完全な膠着状態。その証拠に、段々足が痺れて来た。  子バフォが鎌の柄で、急かすように俺の脇腹を突く。覚悟を決めた。 「…悪かったよ。だから」  とりあえず、この座り方は勘弁してくれ。  が、ガキは、まだ同じ様な表情でこっちを見ている。 「…握手」  握手。ああ、握手ね。俺は、痺れる足に鞭打って子バフォの方に向き直ると寸詰まりの手を握ってやる。  何となく、手を差し出したお互いが、腹に一物持った様な顔なのは、気のせいと言うことにしておこう。  引きつったような顔、といえばぴったりくるだろうか。 「顔…変」  …うるせぇ、ほっとけよ。  そんな事をぼやきそうになるが、言葉の変わりに出たのは腹の音だった。 「だぁっ!! んな事より飯だ、飯にするぞ!!」  そうして、俺と子バフォとガキは飯を食う事になったのだが… 「……ぅぅ」  ガキが、保存食の余りの不味さに顔しかめながら、懸命にそれを咀嚼していた。  …まぁ、気持ちは判らんでもない。冒険者でも、食ってると悲しくなってくるような味だしな、コレ。  とはいえ、贅沢を言ってられるような状況でもない。  俺は、子バフォに半分分けてやった(因みに、子バフォも食ってる間は何も言わなかった)靴底の様な干し肉のもう半分を口に放る。  それから、水筒を取り出すと口に水を少し含んで、柔らかくしながら噛み砕いた。  ガキは、と言うと唾液でふにゃふにゃにしてから、干し肉をゆっくり口に入れている。  俺は、後ろ頭の辺りで手のひらを組むとその辺の木にもたれる。 「よく噛んで食えよ?」  というか、よく噛まないと食えないんだが。 「…うん」  ガキが、答える。  その答えを聞いてから、俺は立ち上がる。 「?」  食事を終えた子バフォが、不審げな顔を浮かべてこっちを見ていた。  子バフォには何も言わずに、その辺に放っていた鞄を拾う。 「ちょいと、この辺見回りたい」  そして、言った。  途端、ガキは不安そうにこっちを見、子バフォは、呆れた様な目をする。 「お主…アラーム殿は、かなり疲れている様だが」 「だったら、ここで待ってりゃいいさ」  俺のその言葉に、二人の視線が集中する。…考え無しな野朗共だ。 「主…アラーム殿を襲撃する輩が居たらどうする積りだ?」  予想通りの反論を言ってきた子バフォに対して、返事をくれてやる事にする。 「隠れてりゃいいだろ。どの道、いつかは回りを調べにゃならん」  言って、俺はアラームの包まってた毛布を持ち上げてみせる。 「…それだけか? なんとも頼りないな」 「人の説明は最後まで聞けっての。少し待ってな」  俺は、腰からツルギを抜くと手近な木の太い枝を切り落とす。  それから、それの先っぽを鋭く削っていく。…良し、出来た。  それから、その作業を見ていたガキと子バフォに、それを示してみせる。 「こいつで、地面を深めに掘りぬいて、穴ぼこを作る。 穴の上は、木の枝なんかで俺が偽装を組む。こいつか…」  俺は、さっきから文句ばかり言いやがる子バフォの頭を拳骨で小突いた。 「ルアフなんかでもない限り、まず見つけられん。 即席の隠れ家だ。俺達が帰ってくるまで、じっとしてろ」 「我も行くのか?」  などと、戯けたことを山羊が言う。俺は、その頭をもう一回小突く。 「痛いぞ」 「お前の目なら、隠れてる奴がいてもすぐ判るだろうがよ」 「…」  俺の言葉に、子バフォは黙り込む。…ざまぁみろ。  と…勝利の余韻に酔っていた俺の服が、ぴょこ、と引かれる。 「……」  見ると…ガキが、俺の服の裾を持ってじーっ、とこっちを見ている。 「どうしたよ?」  怖がって、ダダでもこねるんじゃねーだろうな?  まぁ…どうしても言うことを聞かないなら、何かでふん縛って転がしときゃあ、いい。 「…怪我しないで。ちゃんと帰ってきてください」  ……ケッ。  地面に唾を吐き棄てると、俺は作業を再開し始めた。 ・ ・ ・ アラームというあの少女は無事やり過ごせているだろうか。 全く、俺とした事が赤の他人の心配をするなんざ、やっぱりあの♀プリーストに毒されちまったに違いねぇ・・・ ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[042]] | [[目次]] | [[044]] |

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