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ローグは素っ頓狂な声をあげる。 「は? いきなり何言い出すんだお前?」 「私達がこうして今、居られるのも皆お前のおかげだ。 そして先の見えないこの現状に絶望していないのも……お前がお前のままで居てくれるから。 何処までいっても、何をしててもお前がお前で居てくれるから」 ♂ローグは目を大きく見開いて言葉も出ない。 ♀クルセは柔和な顔で♂ローグを見つめる。 「お前は♂BSが相手の時も、そしてこうして皆で騒いでいる時も、変わらずずっとお前のままでいてくれる。 それが、とても安心出来る……」 ふいっと後ろを向く♂ローグ。 「お前の感想なんて知るかよ。俺は俺、いつだってそーだ。んなもん当り前じゃねーか」 小さく吹き出す♀クルセ。 「照れ屋な所も、お前だな」 「どやかましい!」 そんな♂ローグの背中、そして突き放すような話し方。 それは、かつて自分が憧れた聖騎士のそれとはまるで違う物であるが、その時に似た感情を♀クルセにもたらす。 『……なんであろう? 胸が……少し苦しい……だが、それは……決して不快なものではない』 <ローグPT迷宮の森を抜ける> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[131]] | [[目次]] | [[133]] |
132.迷宮の森 ----   プロンテラ北に位置するそのダンジョンは通称「迷宮の森」と呼ばれている。 どんなに方向感覚に優れている者でも、自らの位置を把握しそこねる。 それは例え何らかの手段で自身の現在位置を正確に把握出来る者でもだ。 ♂BSはとても迷っていた。 「…………」 そこに何者かが入るのに気付いた♂BSは、迷うことなく森に入り、見事完全に迷ってしまった。 「…………」 困った。彼はこのゲームに参加して以来初めてそう思ったのであった。 バフォメットJrが先行して案内する迷宮の森は、極めて快適な旅となった。 「ほっほ~。お前でも役に立つ事あるんだな」 珍しく感心した♂ローグの言葉にバフォメットJrはJTで答える。 すぐ側の木が轟音と共に倒れ、♂ローグは表情をひきつらせる。 「ふむ、確かにここを迷うこと無く突破出来たのは私も初めてだ。見事だぞバフォメットJr」 追撃を考えていたバフォメットJrだが、♀クルセのフォローだかなんだかわからない言葉にあっさりと機嫌を直す。 「無論だ。我の力を持ってすればこの程度の事、下品な♂ローグを粉砕するより容易いわ」 ♂ローグは瞬時に反撃に出ようとするが、今度は♀アチャが口を出す。 「ねえねえ、ここって君の庭なんでしょ? そしたら何かおもしろい所とか知らない?」 ♀アチャのその不真面目な態度は♂ローグを憤慨させるが、機嫌の良いバフォメットJrは気分良く答える。 「ふむ。では水浴び場というのはどうか?  そこの水は不思議でな、見た目は普通の泉なのだが、なんとそこからは暖かい水がわき出て来るのだ」 バフォメットJrの言葉に♀アチャは飛び上がって喜ぶ。 「温泉!? 本当にあるの!」 わからないという顔をしているアラームに♀クルセが丁寧に説明してやると、アラームも興味津々の模様だ。 「そうかそうか、気に入ったか。ならば道すがらだ、案内しようぞ」 今にも罵声を上げそうな♂ローグを♀クルセがなだめる。 曰く、皆疲れが溜まっている。 ♀アチャの怪我の事もあるし、今休憩を取るのは悪い事ではない、と。 「わーい! 本当にあったか~い♪」 温泉は初めてというアラームがはしゃぎながら泉の中を駆け回る。 「ん~、きっもちいい~。ここ来てお風呂なんて入った事無かったからもーさいっこう♪ Jr君に大感謝♪」 お湯に浸かりながら♀アチャは抱えているバフォメットJrの頭を撫でそう言うと、バフォメットJrも嬉しそうに答えた。 「ははははは、我も久しぶりである。懐かしいな……おお、♀クルセ殿も遠慮せずに入るが良い。敵への備えはあの者がしておるゆえ気にするでない」 もちろん、♂ローグは離れた所でお留守番である。♀クルセは苦笑しながら、泉に入る。 スカートを降ろし、上着を脱ぐ。 一々きちんと畳んでいる辺りとても几帳面なその性格が伺える。 そんな♀クルセを見て、♀アチャは感嘆の声を上げる。 「うっわ~。♀クルセさん着やせするタイプだったんだ~。いいな~いいな~いいな~……そ、それに引き替え私は……」 ♀クルセはそういう♀アチャに苦笑いで返す。 「勘弁してくれ。訓練の時、同僚に散々それでからかわれたのだから」 泉に入ると、すぐにアラームが♀クルセに飛びついてくる。 「わーい! ♀クルセさんもー!」 簡単にそれを抱き止める♀クルセ。 「こらこら、はしたないぞ。ほら、ゆっくり湯船につかって……じっとして数を数えるのだ。い~ち、に~……」 アラームは♀クルセの真似をして、湯船に肩までつかると元気に数を数える。 「さ~ん♪ し~♪ ご~♪」 ♀アチャも楽しそうにそれに続く。 「ろ~く♪ しーち♪」 バフォメットJrが♀アチャの腕の中で幸せそーに言う。 「はーち、きゅー」 『じゅー!』 ♂ローグは大層不満気にたばこをふかしていた。 「……大体だな、なんだって子バフォの奴ぁOKで俺はダメなんだ?」 すぐに頭をぶるんぶるん振る。 「ちっげーだろ! 俺はそもそも覗くなんてヘボな真似するぐらいだったら速攻押し倒してだな!」 そして頭を抱える。 「……あんな面倒な奴ら押し倒すなんざゴメン被る。商売女相手の方が遙かに楽だ」 そんな事をぶつぶつと言っている♂ローグは不意に自らの気配を消す。 森の奥、そこに一瞬見えたその姿を忘れる事なぞ出来ようはずもない。 「嘘だろ? なんだってあのクソ墨がこんな所に……」 ♂BSもすぐに♂ローグに気付き、♂ローグ目指して駆け寄ってくるが、ここは迷いの森である。 視界が通っているにも関わらず、♂BSは♂ローグをあっさりと見失ってしまった。 温泉のある場所は奥まった所にある。 今♂ローグが居る場所からでないと近づく事は出来ない。 ならば、♂BSが近くに現われた時に♂ローグが別の方向へ誘導すれば、あいつらは無事にやり過ごせるであろう。 腹をくくった♂ローグは周囲への警戒を強めながら、その場に立ち上がる。 いつ来るか? その瞬間を見誤れば♂ローグの命は無い。 一瞬たりとも気を抜けない。時間が過ぎるのが妙に長く感じる♂ローグだったが、幸い♂BSが♂ローグを捕捉する事は無かった。 温泉を満喫した女達が戻り、♀アチャが陽気に♂ローグに声をかける。 「やっほー♪ 温泉最高だったわよ~。こっちは終わったからあんたも入ってきなさいよ♪」 その声で、♂ローグは脱力したようにその場にへたりこんでしまった。 事情を説明した♂ローグの指示に従って、全員すぐに迷宮の森を抜け出した。 今日はここまでと、出た先でキャンプを張り、♀アチャはたきぎを集めに行き、バフォメットJrもそれに付き合ってこの場を離れる。 ♀クルセも、少し周囲を探ってくると言いその場を離れる。 全員、♂ローグが貧乏くじを引いた事に負い目を感じているらしい。 「……ふん」 温泉に興味はなかったが、楽が出来るというのであればそれに越した事は無い。 そう考えた♂ローグはたばこに火を付けて、のんびりさせてもらう事にした。 そのすぐ隣にアラームがちょこんと座る。 「ねえお兄ちゃん、怒ってる? 温泉入れなかったから怒ってる?」 迷宮の森の中からアラームはずーっとこの調子だ。 「温泉きもちいいから、お兄ちゃんも入りたかったよね? ごめんね、ごめんね」 面倒なので放っておいているが、いつまでもいつまでも繰り返すので、しょうがなく返事する。 「別に怒ってねえよ。温泉なんぞ興味もねえしな」 「温泉きもちいいよ? でも、♀アチャのおねえちゃんがおにいちゃんと一緒に入ったらダメだって……」 返事してもこの調子である。 鬱陶しさの余り、怒鳴りつけてやろうかと♂ローグが考えていると、アラームは不意に何かを思いついたようだ。 「そうだ! 今度私とお兄ちゃんの二人でお風呂入ろうよ! それなら♀アチャのおねえちゃんも怒らないよ♪」 吸いかけのタバコを吹き出す♂ローグ。 「えへへ、私♀クルセのおねえちゃんにお背中流してもらったから、おにいちゃんのお背中は私が流してあげるね♪」 目眩が止まらない♂ローグ。 思いっきり怒鳴りつけて二度とこんなふざけた事言わないようにしてやりたいが、それをやると後が恐いので必死に堪える。 「あ、ああ。そうだな。もし仮に何かの間違いで次なんてもんがあったら頼むわ」 すんげー適当にあいづちを打つ。 同時に近くで物音がする。 ふと振り向くと、たきぎを足下に落している♀アチャの姿がそこにあった。 「おう、やっと戻ったか。いいから早くこいつの相手を代って……」 みなまで言わせず猛然とダッシュしてくる♀アチャ。 「こんのド変態がーーーーーーーー!!」 勢いをつけての鉄拳制裁。♂ローグは縦に転がりながら、木の幹に激突。 そこから垂れている蔦に逆さまにからまって身動きが取れなくなってしまった。 色んな意味で頭に血が上る♂ローグ。だが、動けない上に、痛すぎて言葉が出ない。 ふとその体勢の♂ローグが見下ろすと同じく見下ろしている♀クルセと目線があった。 「……そこに居たのかてめぇ。どっから見てやがった?」 笑いを堪えきれない様子の♀クルセ。 「一緒にお風呂云々の所か。しかし、お前も災難が続くな」 「人事みたいに言うんじゃねえ。見てたんなら助けろバカヤロウ」 「いやはや、子供をあやすのも大人の仕事だ。なかなか達者になってきたではないか」 「褒めてるつもりかそりゃ。ケンカ売ってるようにしか聞こえねーぞ」 ♂ローグに絡まってる蔦を外しながら、♀クルセは言う。 「♂ローグよ、お前には感謝の言葉も無い」 ♀クルセの不意打ちに、♂ローグは素っ頓狂な声をあげる。 「は? いきなり何言い出すんだお前?」 「私達がこうして今、居られるのも皆お前のおかげだ。 そして先の見えないこの現状に絶望していないのも……お前がお前のままで居てくれるから。 何処までいっても、何をしててもお前がお前で居てくれるから」 ♂ローグは目を大きく見開いて言葉も出ない。 ♀クルセは柔和な顔で♂ローグを見つめる。 「お前は♂BSが相手の時も、そしてこうして皆で騒いでいる時も、変わらずずっとお前のままでいてくれる。 それが、とても安心出来る……」 ふいっと後ろを向く♂ローグ。 「お前の感想なんて知るかよ。俺は俺、いつだってそーだ。んなもん当り前じゃねーか」 小さく吹き出す♀クルセ。 「照れ屋な所も、お前だな」 「どやかましい!」 そんな♂ローグの背中、そして突き放すような話し方。 それは、かつて自分が憧れた聖騎士のそれとはまるで違う物であるが、その時に似た感情を♀クルセにもたらす。 『……なんであろう? 胸が……少し苦しい……だが、それは……決して不快なものではない』 <ローグPT迷宮の森を抜ける> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[131]] | [[目次]] | [[133]] |

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