「003」(2006/06/13 (火) 11:35:27) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
003.嘘付きは商人の始まり
----
薄暗い森の中を、一人の少女が走っていた。
長いスカートと、首からかけた大きなズタ袋。♀商人であった。
彼女は、走る。時折、枯れ枝を踏み折るパキリ、という音を聞きながら。
草を書き分け、時には足に擦り傷を作りながらも。
木々の隙間に、彼女は白い外套の端を見た。
ぱっ、と安堵したような表情を作る。目を潤ませ、鼻をぐずつかせる。
そう、それはまるで、誰かに助けを請う幼子の様に。
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
叫ぶ。出来るだけ、哀れみを請う様に。
白い外套の主…♂ハンターが、こちらを向き、驚いた様に動きを止めていた。
それめがけて、更に走り…そのすこし前で、木の根に足を引っ掛けて、転ぶ。
…彼女は、狩人が自分のほうに急いで近づいてくる音を聞いていた。
「おいっ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫ですぅ…痛たたた…」
うずくまった、まーちゃんが見上げると、そこには心配そうに彼女を見ている、狩人の姿。
鞄を肩から掛け、手に武器は無い。
「もー、服が埃だらけ…どろどろですぅ」
立ち上がり、ぱんぱんと、衣服を払う。
それから、はっ、とした様にハンターに対して向き直った。
まるで、小動物が見せるような、行動に見えた。
「ははは…」
思わず、その様子にハンターは笑っていた。
笑われて、商人はきょとんとした風に、男を見る。
「…?」
「ははは…っと、お嬢ちゃん笑ったりしてごめんな」
「お兄さんには、まーちゃんが、そうみえるですか?」
商人は、言う。
「ああ」
「そうですか…」
狩人の問いに、商人は答える。
不意に、狩人は、そんな彼女に違和感を覚えた。
理由は、わからなかったが。
彼は、自らの前に居る幼さを色濃く残した少女を見つめる。その目じりには、薄らとにじむ涙。
気のせいだろう。男は、自分に言い聞かせる。
こんな状況で、おかしくならない方がずっとおかしい。
そして、彼は、少女から、視線をずらした。
「あの…お兄さん」
「…?」
「……」
ふわ、と男は自分にもたれかかる、余りにも軽い体重を感じていた。
その正体は、すぐにわかった。♀商人が、顔を狩人の胸に体を預けるようにして抱きついていたから。
「え…あ…う」
これまで、まるで縁が無かった女の子の感触。内心の高まりを、隠すことが出来ず。
そして、抱きついた商人は、冷静に、その音の高まりを聞いていた。
どくん、どくん。音が聞こえる。それは、致命的なタイミングを知らせる、鐘の音だった。
「死んでね。私は、生き残りたいの」
「えっ…?」
狩人は、その言葉の意味を理解できなかった。
その代わりに感じたのは、熱。何処からかかなんて判らない。
けれど、それは熱い、熱い、命を溶かし込んだ赤い水の熱だ。
びくん、と男の体が跳ねる。しかし、商人の腕は、しっかりと抱きしめたまま、彼を離そうとしない。
男はもがき…しかし、生まれてこの方、弓ばかり扱ってきたその腕は、余りにもその作業にはむいていなかった。
ああ。そうか。
狩人は、徐々に暗くなる視界の中で悟った。
こんな状況で、おかしくならないほうが、ずっとおかしいのだ。
ただ、自分と商人との間で、その方向にズレがあっただけで。
自分も、彼女も、おかしくなっていたんだ。
そして、黒が、彼の世界を支配した。
<♂ハンター死亡>
<残り47名>
----
| 戻る | 目次 | 進む |
| [[002]] | [[目次]] | [[004]] |
003.嘘付きは商人の始まり
----
薄暗い森の中を、一人の少女が走っていた。
長いスカートと、首からかけた大きなズタ袋。♀商人であった。
彼女は、走る。時折、枯れ枝を踏み折るパキリ、という音を聞きながら。
草を書き分け、時には足に擦り傷を作りながらも。
木々の隙間に、彼女は白い外套の端を見た。
ぱっ、と安堵したような表情を作る。目を潤ませ、鼻をぐずつかせる。
そう、それはまるで、誰かに助けを請う幼子の様に。
「たぁすけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
叫ぶ。出来るだけ、哀れみを請う様に。
白い外套の主…♂ハンターが、こちらを向き、驚いた様に動きを止めていた。
それめがけて、更に走り…そのすこし前で、木の根に足を引っ掛けて、転ぶ。
…彼女は、狩人が自分のほうに急いで近づいてくる音を聞いていた。
「おいっ、大丈夫か!?」
「だ、大丈夫ですぅ…痛たたた…」
うずくまった、まーちゃんが見上げると、そこには心配そうに彼女を見ている、狩人の姿。
鞄を肩から掛け、手に武器は無い。
「もー、服が埃だらけ…どろどろですぅ」
立ち上がり、ぱんぱんと、衣服を払う。
それから、はっ、とした様にハンターに対して向き直った。
まるで、小動物が見せるような、行動に見えた。
「ははは…」
思わず、その様子にハンターは笑っていた。
笑われて、商人はきょとんとした風に、男を見る。
「…?」
「ははは…っと、お嬢ちゃん笑ったりしてごめんな」
「お兄さんには、まーちゃんが、そうみえるですか?」
商人は、言う。
「ああ」
「そうですか…」
狩人の問いに、商人は答える。
不意に、狩人は、そんな彼女に違和感を覚えた。
理由は、わからなかったが。
彼は、自らの前に居る幼さを色濃く残した少女を見つめる。その目じりには、薄らとにじむ涙。
気のせいだろう。男は、自分に言い聞かせる。
こんな状況で、おかしくならない方がずっとおかしい。
そして、彼は、少女から、視線をずらした。
「あの…お兄さん」
「…?」
「……」
ふわ、と男は自分にもたれかかる、余りにも軽い体重を感じていた。
その正体は、すぐにわかった。♀商人が、顔を狩人の胸に体を預けるようにして抱きついていたから。
「え…あ…う」
これまで、まるで縁が無かった女の子の感触。内心の高まりを、隠すことが出来ず。
そして、抱きついた商人は、冷静に、その音の高まりを聞いていた。
どくん、どくん。音が聞こえる。それは、致命的なタイミングを知らせる、鐘の音だった。
「死んでね。私は、生き残りたいの」
「えっ…?」
狩人は、その言葉の意味を理解できなかった。
その代わりに感じたのは、熱。何処からかかなんて判らない。
けれど、それは熱い、熱い、命を溶かし込んだ赤い水の熱だ。
びくん、と男の体が跳ねる。しかし、商人の腕は、しっかりと抱きしめたまま、彼を離そうとしない。
男はもがき…しかし、生まれてこの方、弓ばかり扱ってきたその腕は、余りにもその作業にはむいていなかった。
ああ。そうか。
狩人は、徐々に暗くなる視界の中で悟った。
こんな状況で、おかしくならないほうが、ずっとおかしいのだ。
ただ、自分と商人との間で、その方向にズレがあっただけで。
自分も、彼女も、おかしくなっていたんだ。
そして、黒が、彼の世界を支配した。
<♂ハンター死亡>
<残り49名>
----
| 戻る | 目次 | 進む |
| [[002]] | [[目次]] | [[004]] |
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: