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052.鬼ごっこ 走り出した♂クルセを、♀ローグはすぐには追わないでいた。 全力で逃げてゆく後姿が親指大になるまで放っておいて、それから尾行を開始する。 ♀ローグの目は獣じみて鋭い。口元には笑み。明らかに♂クルセを再び捕らえる事を楽しんでいるのだ。 まるで一度捕らえた獲物を無理に放し、もてあそぶ獣のように。 「どこまで逃げる気ー?」 走りながら、前方の♂クルセに向かって問いかける。 相手が遊び疲れてしまえば、そのときは―――。 そんなことを考え、心を躍らせながら。   ♂クルセにとって、この状況は悪夢そのものだった。 こちらの攻撃は通用しない。クルセイダーの防御スキルも、まだ完成していない。 ペコペコや盾さえあれば、あるいは活路が見出されたのかもしれないが。   逃げる♂クルセの目前に、小ぢんまりした林と、高い崖が立ちはだかる。 振り返ると、♀ローグの姿はすぐ近くまで迫ってきていた。絶体絶命だ。 「さぁ、鬼ごっこは終わりだよボウヤ」 意外にも穏やかな笑みを浮かべ、♀ローグがゆっくりと近づいてくる。 ♂クルセは構える。無抵抗で殺されるのは癪だ。 「そう来なくっちゃ」 まずは一撃。 それは、♀ローグのほうから繰り出された。 ♂クルセの腕をダマスカスが切り裂く。 背後だけは取られまいと、♂クルセは素手で抵抗を続ける。 こちらの攻撃はことごとく避けられ、当たったと思っても、所詮は素手。 全く意に介さないといった様子で、♀ローグはクルセの隙を狙い続ける。 その刃は彼の体に徐々に傷を増やしてゆくが、プレートがあるため、致命傷までは至らなかった。 このまま耐えて、隙を突きもう一度逃げるか―――。 ♂クルセが、そう思ったときだった。 「ストリップアーマー」 今まで体を覆い致命傷を避けていたプレートが、一瞬でその重量を失う。 「・・・なっ・・・」 思わず声を上げる♂クルセ。 背後を見ると、そこには満面の笑みを浮かべた♀ローグ。  「お疲れ様」  その言葉と同時に、♂クルセの背中に冷たい衝撃が走った。 がくんと膝を折り、前のめりに倒れこむ。 スローモーションのように薄れ行く意識の中で、彼は思い描いた。 転職を終え、これからめきめきと力をつけて行く筈だった、自分の姿を。  その顔に一筋、涙が伝ったのを見、♀ローグは一瞬だけ笑みを消した。   <♂クルセ死亡> <♀ローグ ダマスカス1個、小箱(未開封)1個、プレート1個、ロザリオ1個、赤P食料> <残り40名> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[051]] | [[目次]] | [[053]] |

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