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066.犬の首輪   「もう一つの箱からこんなものが出るなんてね――ま、諦めなよGMさん」   頑丈なロープの束を両手に持ち、♀ローグは可笑しそうに言い放った。 その足取りは軽く、この異様な光景をひときわ際立たせる。 ――くそっ…バルムンさえあれば…。 もう何度目かになる台詞を心の中で呟きながら、 ♂GMは自分を騙したGM秋菜への恨みをつのらせた。 彼は今、森から砂漠へと続くMAPを、半ば強制的に歩かされている。 腕、首――歩くために必要な足以外は、全てロープで固定され、 背中には♀ローグ愛用のダマスカスを突きつけられて。   逃げようにも、逃げられない。 首のロープは、ちょうどGM秋菜のつけた首輪に引っかかる形で巻きつけられている。 逃げようとしてロープを引っ張れば、♀ローグが手を下すまでもなく勝手にBAN、ということだ。 楽天的なようでぬかりない♀ローグの手に、♂GMは絶望的な表情を浮かべる。 今、こうやって歩いている間にも、彼女の頭の中では一体どんな殺人計画が練られているのか。 自分の行く末を知らせられないまま――いや、行く末などはとうに知れている。 肝心なのは、その方法なのだ。 素手で殴りかかったあの時、その場で殺されていたほうが、まだマシだったかもしれない。 ――命乞いなんかするんじゃなかった。 ♂GMは激しく後悔した。     あの時。 待ってくれ、と叫ぶ♂GMを縛り上げ、♀ローグは一言「高台に行こう」と言った。 「死体を運ぶのは一人じゃきついからね。自分で歩いてもらうよ」 楽しそうにそう言った♀ローグの目には狂気。 表立っては見えないが、それは確実に♀ローグの奥深くに宿っていた。 「秋菜め…精神に多少細工したってのはこれのことか」 低く呟く♂GMの言葉を無視し、♀ローグは彼を無理矢理立ち上がらせる。 犬の散歩みたいだねぇ。そんなことを言って笑いながら、自分の前を歩かせて。 まさか、秋菜は最初からこのつもりで自分をここに送ったのだろうか。 最初から、参加者に殺させるつもりで。 「ビクつかなくても大丈夫だよ。まだまだ、すぐには殺さないから」 微笑む♀ローグに、GM秋菜の残酷な笑みを重ね、♂GMは背筋をぞくりとさせた。   「さて、到着っと」 不意にそんな声が聞こえて、♂GMはハッと我に返った。 到着――では、いよいよ始まるのだ。 「その白い服見てるとね、どうにも気分が悪くてさ」 無防備に伸びをしながら、♀ローグは言う。 参加者は皆、強制的にGM秋菜につれて来られた。 秋菜と同じ立場である♂GMに嫌悪感を抱くのは、ごく当たり前のことだ。 「そうだ。殺す前に一応聞いておくよ」 ♂GMにゆっくりと近づき、♀ローグは囁いた。 「…あんた、私をここから元の場所へ戻せる?」 唇が触れそうなほど顔を近づけられ、♂GMはやや戸惑う。 「無理だ…ここは秋菜しか好きに扱えな――」 「そ。じゃぁ用はないね」 ♂GMが全て言い終わらぬうちに、♀ローグはいとも簡単に決断を下した。   「その首輪。私にもついてるけど――これを外そうとしたらどうなるのか、見せてもらうよ」   言って、彼女は♂GMの体のロープを解いてゆく。 首輪に巻きついたものと、腕を固定したもの以外は、全て。 ♂GMは崖の際まで連れてこられ、彼に巻きついたロープの反対側は、近くの木に括り付けられる。 これから何が起こるのか、見えた気がした。 「…クソっ…!」 最後の抵抗とばかりに、♂GMは固定された両腕で、♀ローグに殴りかかった。 さすがに油断していたのか、腕は完全にかわされることなく、彼女の肩元をかする。 「っく…往生際が悪いね!」 ♀ローグは、ほぼ身動きの取れない♂GMの鳩尾を、拳で強く殴りつけた。 そしてそのまま、有無を言わさずに崖下へと蹴り落とす。   一瞬、目の前が真っ白になるぐらいの閃光が走った。   続いて、焼け付くような匂いと、耳を裂く轟音。   あたりが静まり返るまで、♀ローグは両腕で頭を庇う姿勢で固まっていた。 音が消えたのを確認し、ゆっくりと目を開く。   あたりには砂煙が舞い、地面は焼け焦げ、それは酷い有様だった。 あと少し、自分と♂GMの距離が近ければ、巻き添えを食らっていただろう。 「はは…っ。やばいね、これは…」 半分呆けたように、♀ローグは呟いた。 はっと気が付いて手元のロープを手繰り寄せると、先は焼け焦げ、今でも燻っている。 崖下を覗くと、そこには♂GMのものだと思われる屍が、 いくらかの肉片になり、シュウシュウと音を立てて横たわっていた。 「血は残らないってわけね」 少し残念そうに、♀ローグは言う。 そして素早く残りのロープを巻き取ると、鞄に詰める。 あれだけの光と爆音だ。人が集まってくるかもしれない。 ♀ローグは、小走りでその場を後にした。     <♂GM死亡> <♀ローグ ダマスカス1個、小箱→ロープ、プレート1個、ロザリオ1個、赤P食料> <残り38名> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[065]] | [[目次]] | [[067]] |

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