「074」(2005/11/04 (金) 02:12:34) の最新版変更点
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074.悪夢
訳が分からない。
地にへたり込んだまま、♀BSは呆然と前を眺めていた。
いや、正確には目の前に存在する男。
―――斧を携えた♂BSの姿を見ていた。
事の経緯は少し前にさかのぼる。
山小屋を出た♀BSは、当てもなく♂BSを探して歩き回っていた。
その途中、偶然森の近くを歩いている時に、地響きのような音を聞いたのだった。
人がいる。そう思った瞬間、♀BSは森の中へ走り出した。
ゲームに乗った人間がいる可能性はあったが、そう近づかなければ逃げることも十分可能だと思ったし、何より♂BSがいるかもしれないという可能性を捨てきれなかった。
そして、辿り着いた先で彼女が見たものは………
(あの人だ!!)
見間違いではなかった。
あの髪、あの顔立ち。少々遠目ではあったが、憧れ、密かに焦がれてさえいた彼を、彼女が見間違えるはずは無かった。
ただ一つ、何かが違うとすれば。
いつも感じていた優しげな雰囲気を、今日は纏っていない事ぐらい………。
「♂BSさん!」
半ば叫ぶように彼の名を呼ぶと、彼女は走り出した。
彼に会えた。ただその嬉しさだけが胸に広がっていて。
今ここで殺し合いをさせられている事なんてすっかり消えていた。
「………」
ゆらり―――と、♂BSは彼女に目を向けた。
その目に正気の光が無いことなど、彼女は気づかなかった。
動きはあくまでゆっくりと。しかしその腕にだけは人にあるまじき力が込められ。
♂BSは血濡れの斧を振り下ろした。
ズガッ………!!
鈍い音が彼女の耳に届いた。
地を強烈に打ち据える刃の音。
彼女を真っ二つに断ち切るはずだったそれは、幸運にも前髪数本だけを連れ、地に刺さっていた。
「ぁ………え………?」
彼女の思考は完全に止まっていた。
何故彼が自分を斬ろうとしたのか。
自分は生きているのか。
何もかも理解できない。
ただ、彼が自分を殺そうとしたという事実だけが、頭の中をグルグルと回っていた。
「………?」
彼の中には何の感慨も無かった。
何故外れたのか。
何故目の前の獲物を見ると心が騒ぐのか。
―――分からない。
考えるのも面倒だった。
―――殺せば済む。
結論はそれだ。
殺せ。
ただ一つの、単純にして明快な真理。
もう一度、彼は斧を持ち上げた。
あの人が、斧を持ち上げている。
心には何も浮かんでこない。
恐怖も、悲しみも、何もかも。
先の一閃が、彼女を全てを刈り取ったかの様に。
そして何の抵抗も無いまま。
斧が振り下ろされ、彼女の命をも刈り取る………。
―――筈だった。
キィィィンッ!!
甲高い金属音が、辺りに響き渡る。
青い長い髪が、彼の姿の代わりに♀BSの視界に広がった。
「大の男が戦意の無い女性に斬りかかるとは………恥を知れ!!」
一声叫んで♂BSの斧を弾き返す。
間一髪二人の間に入り込んだのは、♀クルセイダーであった。
<♂BS、♀BS、♀クルセ遭遇 所持品変化なし>
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