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074.悪夢   訳が分からない。 地にへたり込んだまま、♀BSは呆然と前を眺めていた。 いや、正確には目の前に存在する男。 ―――斧を携えた♂BSの姿を見ていた。   事の経緯は少し前にさかのぼる。 山小屋を出た♀BSは、当てもなく♂BSを探して歩き回っていた。 その途中、偶然森の近くを歩いている時に、地響きのような音を聞いたのだった。 人がいる。そう思った瞬間、♀BSは森の中へ走り出した。 ゲームに乗った人間がいる可能性はあったが、そう近づかなければ逃げることも十分可能だと思ったし、何より♂BSがいるかもしれないという可能性を捨てきれなかった。 そして、辿り着いた先で彼女が見たものは……… (あの人だ!!) 見間違いではなかった。 あの髪、あの顔立ち。少々遠目ではあったが、憧れ、密かに焦がれてさえいた彼を、彼女が見間違えるはずは無かった。 ただ一つ、何かが違うとすれば。 いつも感じていた優しげな雰囲気を、今日は纏っていない事ぐらい………。 「♂BSさん!」 半ば叫ぶように彼の名を呼ぶと、彼女は走り出した。 彼に会えた。ただその嬉しさだけが胸に広がっていて。 今ここで殺し合いをさせられている事なんてすっかり消えていた。 「………」 ゆらり―――と、♂BSは彼女に目を向けた。 その目に正気の光が無いことなど、彼女は気づかなかった。 動きはあくまでゆっくりと。しかしその腕にだけは人にあるまじき力が込められ。 ♂BSは血濡れの斧を振り下ろした。 ズガッ………!! 鈍い音が彼女の耳に届いた。 地を強烈に打ち据える刃の音。 彼女を真っ二つに断ち切るはずだったそれは、幸運にも前髪数本だけを連れ、地に刺さっていた。 「ぁ………え………?」 彼女の思考は完全に止まっていた。 何故彼が自分を斬ろうとしたのか。 自分は生きているのか。 何もかも理解できない。 ただ、彼が自分を殺そうとしたという事実だけが、頭の中をグルグルと回っていた。   「………?」 彼の中には何の感慨も無かった。 何故外れたのか。 何故目の前の獲物を見ると心が騒ぐのか。   ―――分からない。 考えるのも面倒だった。 ―――殺せば済む。   結論はそれだ。 殺せ。 ただ一つの、単純にして明快な真理。 もう一度、彼は斧を持ち上げた。   あの人が、斧を持ち上げている。 心には何も浮かんでこない。 恐怖も、悲しみも、何もかも。 先の一閃が、彼女を全てを刈り取ったかの様に。 そして何の抵抗も無いまま。 斧が振り下ろされ、彼女の命をも刈り取る………。   ―――筈だった。   キィィィンッ!! 甲高い金属音が、辺りに響き渡る。 青い長い髪が、彼の姿の代わりに♀BSの視界に広がった。 「大の男が戦意の無い女性に斬りかかるとは………恥を知れ!!」 一声叫んで♂BSの斧を弾き返す。 間一髪二人の間に入り込んだのは、♀クルセイダーであった。   <♂BS、♀BS、♀クルセ遭遇 所持品変化なし> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[073]] | [[目次]] | [[075]] |

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