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090.其(ソレ)を思ふ曲~序、夜の帳   さて。此処よりは一つの詩。 とある夜長に、とある箱庭で開かれたる演目で御座います。 さあさあ。しかと御一見。再上演は御座いません。 今、ここでしか見られぬ詩を、どうか楽しんで下さいませ。 しからば、この道化めは、皆様の為。笑って幕を上げると致しましょう。 … 道無き道を歩いていた。 先頭には、甲冑姿の女と、悪漢。その後ろに、弓手、子バフォに付き添われたアラームと続く。 既に夜の帳はすっかり降り切って、行軍の速度はめっきり遅くなっていた。 「随分歩いたが…まだまだ、目的地までは遠いな」 今の場所からだと、大人の足で数時間、といったところか。 「ま、俺やアンタは大丈夫だろうが…後ろの連中はそうもいかねぇ。今日は、この辺で野宿だわな」 「相判った。これ以上無理をして、はぐれる者が出ても困る」 クルセイダーの的確な答えに、悪漢は満足して頷く。 「…なんつーかな。ここ来てから、初めて人間とマトモな会話した気がするぜ。っと」 後ろを向き、おい、手前ぇら止まれ、と歩いている少女二人と子バフォに言った。 「うん…」 力なく萎れた声で、アラーム。子バフォに先導されて歩いてはいるが、随分消耗している様子だった。 「ぜぇーはぁー…ぜぇーはぁ…」 すぐ前では、結局荷物を二つ持たされたままの弓手が、荒い息を付いている。 まぁ、こっちは大丈夫だろうな。特に明確な根拠は無いが、悪漢は思う。 何せ、手負いであの馬鹿力。 少なくとも、ビックフットと同程度の耐久力はあるだろう、などと考えていたりする。 「大丈夫か? アラーム殿」 一方で、つぶさに様子を見守っていたであろう子バフォが、心配そうに尋ねかけた。 「うん…」 返事は返す。しかし、矢張りぼんやりとした目。 「…本当であろうな?」 二度目。今度は、幾分疑わしげに。 「うん…」 しかし、全く同じ様子で、全く同じ答えだ。ローグは、その様子にぼりぼりと頭を掻く。 「あんまし大丈夫そうじゃねぇなぁ…」 「うん…」 三度、矢張り同じような調子の声が返ってきた。 アラームは、というと立ったまま、ふらふらと不安定な様子。 今にも、そのまま卒倒しそうに感じられる。というか、マトモに言葉を判別していない様にも思える。 「ちょっと…アタシは無視…っ!?」 肩で息をしている弓手が言った。 額には青筋なんかが浮かんでいる。 「いや、お前なら大丈夫だろ」 何せ、Ms.ビックフットだし。頑丈さは折り紙つき。 「んなわけあるかっ!!誰かさんが遣した鞄が重いのよっ!!」 悪党は肩を竦め、アラームはぼんやりとした目に何とも申し訳なさそうな光。 「ま、兎も角お疲れさんな」 男は軽口を叩くのを止めて、自分の水筒を投げ渡した。 「…ふんっ」 器用にそれを捕まえて、弓手はごくごくとその中身を飲み干す。 まぁ、疲れていた、と言えば矢張り彼女も疲れていて。 何より、あの形相を浮かべた時ぐらい元気であるならば。 「あの水筒、素手で引き千切るくらいの芸当はしてくれる筈だしな」 「…それは幾らなんでも無理だとおもうぞ、ローグ殿」 少し、離れた場所まで移動してから、ぼそりと戯言を零した悪漢に、彼に続いた子バフォの冷静な指摘。 やれやれ。彼は、少女等に見せているより貌より少しばかり真面目になって、息を吐いた。 表情は闇に紛れて見えないが、きっとそれは苦笑。 「おい、子バフォ。少し手伝え。鳴子を仕掛けるからよ」 「御意」 言って、開けた重い男の鞄の中からは、一巻きの細くて丈夫な糸。それから、数個の鈴。 …どちらも、開始直後に男が拝借してきたものだ。 他にも、包帯を初めとした簡単な医療品や、幾つかの物品が雑然と詰められている。 アラームや弓手は、その中身を一度だって見た事は無いし、ローグもまた、見せた事は無い。 そして、それっきり男は、自分の作業を終えるまで、一度も喋らなかった。 ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[089]] | [[目次]] | [[091]] |

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