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162.2人の悪党   ♀ローグは♀アサシンの行き先を読む。 「この北にあるもんって言ったらアルデバランぐらいだけど……禁止区域の事もあるしね~……さてどうしたもんかね」 そもそも奴が北に向かう理由すらわからないのだ、正確な判断なぞ望むべくもない。 「ふん、それじゃ事実優先といくかね」 今の♀ローグが知りうる知識の中では、♀アサシンは北に向かっているという事だけだ。 奴の行動目的はマーダーの抹殺だ。いや、殺してはいないが。 「そいつが私を殺さないで、何か別の事をしている。そもそもあの手の手練れで、殺し屋稼業にどっぷりつかったタイプが殺しに乗らないってなどう考えてもおかしいわね、しかも複数人で行動してるみたいだし」 いくつかの予測は立つ。だが断定は出来ない。 「アルデバランに何かある? ……それは、皆殺し以上にこの状況を脱するに適した方法……って事?」 情報が少なすぎて考えがまとまらない。♀ローグは乱暴に自分の髪の毛を掻く。 「あーもう! いらいらするねぇ!」 ♀ローグは気分転換とばかりにバックから青箱を取り出す。 「こういう時は派手にギャンブル! あっくまぷりちゃん♪ あんたの青箱に期待してるわよ~♪」 ぱかっ 中に入ってる物を一目見た時、♀ローグの頭にふと、危険すぎるギャンブルが浮かんだ。 「……流石の私でも、こいつはねぇ……最後の切り札とでもしましょうか」 それを懐にしまうと、そこらに落ちている木の枝を拾う。 「さて、いつまでもうだうだやっててもしょうがないし……当るも八卦、当らぬも八卦ってね」 そう言うと枝を空中に放り投げる。 それはくるくる回って地面に落ちると、ちょうどとある名所を指していた。 ♀ローグは感嘆の声をあげる。 「おやおや……なるほど、その手があったかい。確かにこれなら先回りにもなるしうってつけだね。いいわよいいわよ、行ってやろうじゃない……迷宮の森へ」 ♀アーチャーは迷宮の森を抜けると安堵の吐息を漏らす。 「ふう、なんとか迷わないですんだわね」 ♂ローグが不機嫌そうに言う。 「だから俺が覚えてるって言ったろ。そもそも通ったばっかじゃねえか。忘れる方がどうかしてるぜ」 「何よ~。大体ね……」 ♀アーチャーの言葉を♂ローグが制する。 「……待て。誰か居る」 そんな♂ローグに答える声は背後、上方から聞こえた。 「うん。ここよ、ここ」 ぎょっとなった一同が、入り口になってる石碑の上を見るとそこには♀ローグが座っていた。 すぐに♂ローグの後ろに隠れる♀アーチャーとアラーム。いい加減このPTでの動き方にも慣れてきたようだ。 そんな二人に、♂ローグは小声で言った。 「……俺が合図したら、二人共さっきの連中の所に向かって逃げろ。いいか、全力でだ。息が止まっても足は止めるんじゃねえぞ」 そして♂ローグが♀ローグに問いかける。 「ようご同業。俺達に何か用かい?」 ♀ローグは座ったまま言う。 「おっどろいた、なんだってローグのあんたがそんな小娘引き連れてるんだい? 慰み者にするとしちゃ趣味がえらく幅広すぎでないかい?」 ♂ローグは心の中で毒づく。 『慰み者にされてるのは俺の方だ、クソッタレ』 「成り行きだよ」 実際口にはぶっきらぼうそうにそう呟いただけだが。 しかしそれを聞いた♀ローグは眉をひそめる。 「成り行き? ばっかじゃないのアンタ。そんな小娘なんざ盾にもなりゃしない。さっさと殺して次に行った方が楽に決まってるじゃない」 簡単に殺すという単語が出た事で、♀アーチャーとアラームは体を堅くする。 「知らねえな。俺のやる事をてめえが指図するんじゃねえよ」 取り付くしまも無い♂ローグの返答に、♀ローグはぴんと来たらしい。 「あ……あはは……もしかして……あんた騎士の真似事でもしてるつもりかい?」 「知らねえって言ってんだろクソ女!」 ♂ローグの即答に、♀ローグは確信を持ったらしい。 「は、はははははは! こりゃおかしい、傑作だね! やっぱり男の子として生まれたからには女を守ってこそってかい? バーカ! あんたみたいなクソ悪党にそんな真似似合うとでも思ってるのかい!」 ♀ローグの言葉にも♂ローグは反応しない。 「バカね! 外道は外道らしくしてりゃいいんだよ! 敵の背後をつく、姿を隠して奇襲する、武器防具を剥ぎとってすっぱだかにする、そんな騎士様居てたまるかい! いや~、片腹痛いたーこの事さね」 なおも言いたい放題の♀ローグに、♀アーチャーがキレた。 「ちょっとアンタ! 黙って聞いてれば言いたい放題言ってくれてさ! あんたにこいつの何がわかるのさ!?」 ♂ローグの制止の手も振りきっての言葉だ。 それを聞いた♀ローグは更に大ウケする。 「あーっはっは! 大した調教っぷりだね! あんたその悪党面で女を口説くなんざよっぽどアコギな真似でもしたんじゃないのかい?」 その言葉に♀アーチャーは完全にキレた。 「ふっざけんじゃないわよこの年増! あんたみたいに世の中全部真っ黒みたいな生き方しか出来ない人と私達を一緒にしないでよね! こいつはね! 命がけで既に何人も助けてきてるのよ! ローグの全部が全部悪党なんて発想、ひねたバーサンの妄想の中だけにしてよね!」 ♀アーチャーの怒声を、♂ローグの怒鳴り声が制する。 「バカヤロウ! あっさり乗せられてるんじゃねえ! いいから今のてめーの役割思い出しやがれ!」 言われて気付く♀アーチャー、♂ローグの後ろに居たはずの自分がいつのまにか♂ローグの隣にまで出てきてしまっていた。 「ご、ごめん……」 ♂ローグは♀ローグから目を離さないまま♀アーチャーに言う。 「この女はゲームに乗ってる、間違いねぇ。その上でここまで生き延びて来たんだ……その意味を考えろ!」 ♀ローグはゆらりと立ち上がる。 それを見た瞬間♂ローグは叫んだ。 「逃げろっ!」 ♂ローグの言葉に、アラームと♀アーチャーはその場を走り去ろうとする。 ♀ローグは石碑の上から飛び降りると、♂ローグに向かって短剣を振るう。 自身のツルギでそれを受け止めるが、短剣ならではの、素早い切り返しを繰り返して♀ローグは♂ローグを翻弄する。 そんな♂ローグの後ろから聞こえる音。 ずべっ 「アラーム!?」 そして背後から聞こえる♀アーチャーの悲鳴にも似た声。 『あんのクソチビ! よりにもよってここでボケかますかっ!?』 果たして♂ローグの予想通り、アラームは思いっきりすっころんでいた。 「アラーム! 早く起きて走って!」 ♀アーチャーとは、少し距離が離れてるらしい。 なんとか今は♀ローグを押さえる事が出来ている。まだここで立ち上がれば間に合う。 ♂ローグはそう計算していたが、後ろから聞こえてくる音は、起きあがって軽快に走り出す音とはまるで違う、地面を這いずるような音と♀アーチャーの青ざめたような声であった。 「アラーム足くじいたの!? ああっもう! 今から行くからね!」 『だー! お前まで戻ってくるんじゃねー!』 そんな悲鳴を心で上げる♂ローグ。口を開いてる余裕すら無いのが口惜しい。 心が千々に乱れる♂ローグ。そんな隙を♀ローグが見逃すはずもない。 「ぬるいのよアンタ!」 手を狙った♀ローグの一撃をかわしそこねて、手の甲に傷を負う♂ローグ。危うくツルギを落してしまう所であった。 それと同時に♂ローグの横をすり抜け、♀ローグは戻ってきた♀アーチャーへと向かう。 「え? え? うそ嘘ーーーっ!!」 慌てて回れ右して逃げ出す♀アーチャー。 だが、既に走り出していて勢いのついている♀ローグはすぐに♀アーチャーに追いつく。 「おばさんすらーっしゅ♪」 嫌味満載かつ、ちょっとキュートにを演出しながらの♀ローグの一撃は、確実に♀アーチャーの命を奪うに足る攻撃であった。 「わっ! わわっ!」 慌ててすぐ隣の木を掴んで、急ブレーキをかける♀アーチャー。 それが幸いしたのか、なんとかその一撃はかわす事が出来たが、更なる問題が発生する。 「うっそー! なんで何がどーしてここに崖があるのよー!」 おっそろしく勾配のきつい斜面、いわゆる崖が♀アーチャーの更なる逃げ道の先にあったのだ。 「さて、おばさんぶれーどでトドメね♪」 根に持っているのか、おばさんを連呼する♀ローグ。 そこに♂ローグの声が響く。 「崖に飛べ!」 問い返す暇も無い。♀アーチャーはその声に、躊躇無く崖を飛び降り、滑り落ちていった。 ♀ローグは後を追っても、怪我をせずに斜面を降りきる自信はあった。 だが…… 「へ~。案外信用あるじゃないアンタ。でも、奇襲の機会を潰してまで助けたい子なのかいあれ?」 ♂ローグは♀ローグの前に立ち、一足飛びに飛びかかれる間合いを維持しつつ、♀ローグの出方を待っていた。 先ほどから♂ローグは一切♀ローグの言葉に反論しない。 一々もっともだと肯いているだけの話で、別段腹も立たない。 ♀ローグはそんな♂ローグの様子が気に食わないのか、機嫌悪そうにその場を走り去ろうとする。 すぐさま追撃に入る♂ローグ。その進む先が予想出来ただけに、放っておく事も出来なかったのだ。 そして♀ローグがその目的地にたどり着く直前に♀ローグを攻撃範囲内に捉え、ツルギを横凪ぎに振るう。 ♀ローグはそれをしゃがんでかわすが、♂ローグはすぐに今度は逆側からツルギを横凪ぎに振るって頭を下げたローグを狙う。 『切り返しが早いっ!?』 ♀ローグは予想外の♂ローグの攻撃精度にダマスカスでそれを受け止める事しか出来なかった。 それを♂ローグは力押しで押すのではなく、軽くジャンプして体を宙に浮かし、かみ合ったツルギとダマスカスを起点に両腕の力だけでツルギを振るって体を入れ替え、♀ローグの目的地に一足早くたどり着いたのだ。 「アラーム! 動けるか!?」 そこでは、アラームが涙目になったままうずくまっていたのだった。 「えぐ……足が動かない……うぅっ……ご、ごめんなさぁい」 かなり怪我はひどいらしい。 「ええい鬱陶しいから泣くな! ……こーすりゃ問題ねーだろ!」 こちらを伺う♀ローグに♂ローグは両手で持ったありったけの砂を叩きつけると、一挙動でアラームをおんぶして、その場から一目散に逃げ出したのだった。 「しつこいんだてめーはよ!」 ♀ローグは張り付くように♂ローグの隣を走る。 「ははっ! そのままかわしてみな!」 ♀ローグのダマスカスが♂ローグを切り裂く。 ♂ローグは防戦に徹して一切手を出さないが、♀ローグは走りながら♂ローグの前後左右から好き放題攻撃をしかけてくる。 しかもそれは致命的な一撃になりそうな攻撃ではなく、四肢を狙った攻撃ばかりでだ。 見る見る間に全身を切り刻まれる♂ローグ。だが、♂ローグの走る速度は決して落ちなかった。 『くそっ! なんて用心深いんだコイツ! カウンター狙う事さえできねえじゃねえか!』 大振りを期待しての防戦であったが、♀ローグは♂ローグが考えている以上に狡猾であった。 決してアラームは狙わない。わざわざやっかいな敵が弱くなってくれてるのに、その原因を取り除いたりはしないのである。 アラームは♂ローグにおんぶされながら♂ローグが切り刻まれる様を延々見続ける事となっていた。 「あぁ……お兄ちゃん! お兄ちゃん!」 自分の失敗のせいで♂ローグがこんな目に遭ってるのだ。そして激しい自責と後悔の念に苛まれながらもアラームには何をする事も出来ないのだ。 「お願いします! おにいちゃんを殺さないで! お願いしますっ! お兄ちゃんが死んじゃうよっ!」 わけもわからなくなりそう叫ぶアラーム。 そして今度は♂ローグの背中の上でじたばたと動き出す。 「こ、こらバカ喚くな! 動くな!」 「降ろしてお兄ちゃん! 私はいいからお兄ちゃん死なないでっ!」 「いいから黙ってそこで……」 そんな隙を♀ローグは見逃さない。 しかし、それは♂ローグも同様であった。 『来たなこの野郎!』 ♀ローグのダマスカスが♂ローグの首筋に迫る。だが、そのタイミングさえ読めればどんなに体勢がわるくともよけるだけなら可能だ。 ぎりぎりのタイミングでハイドをしかけ、ダマスカスをやり過ごすと♂ローグは片手でツルギを突き上げる。 ♀ローグは万全の体勢でそれをかわす事が出来るとふんで、ハイドを仕掛けるのを見送ったが、直後背筋に悪寒が走りその場からバックステップで大きく飛び下がる。 ♂ローグは、逆の腕でスチールレートを振るっていたのだ。♀ローグの足めがけて。 いつのまにやら、♀クルセが持っていたスチールレートを拝借していたらしい。 『クソッタレ! なんて勘の良い奴だ!』 ♀ローグは少し離れた場所で、ダマスカスを目線に構える。 ♂ローグは切り札をあっさりとかわされ、正直万策尽きていた。 立ち止まって♀ローグとにらみ合う♂ローグ。 アラームは♂ローグの背中で泣きながら謝り続けていた。 「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいでお兄ちゃんが……ごめんなさい」 ♂ローグは目線を♀ローグに向けたまま言う。 「あのなアラーム。俺はお前に頼まれたからこんな真似してんじゃねぇ。こりゃ俺の意地だ。だから謝る事ぁねえのさ」 「で、でも! お兄ちゃんこんなに血が出てる! お兄ちゃん死んじゃうよ! そんなのヤだよぅ!!」 既に会話になって無い気がする♂ローグだったが、これ以上騒がれてはたまらんとばかりにぴしゃっと言う。 「いいからお前はそこで黙って見てろ。今から俺が鬼みたいに強いって所見せてやるからよ」 息が荒い、全身が痛くてたまらない、そろそろ出血による影響も出始める頃だ。 逃げ回りながら、なんとか利用できる地形は無いものかと探し続けていたのだが、そんな都合の良い物も見つけられなかった。 『万事休す……なんだけどな~。なんだって俺は諦めてねぇんだろ?』 おそらく以前の自分がこの状況になっていたらあっさりと負けを認めていたであろう。 しかし、今はまるでそんな気になれない。 こんな事を考えている間も、僅かな望みを賭けて♀ローグに挑む策を探し続けている。 『……俺は変わった? 俺は変わらない? ……くそっ、わかんねーよ! 俺にもわかんねーんだよ!』 真正面から飛び込んでくる♀ローグ。 ♂ローグは既に充分弱っている。さっきのスチールレートを当てられなかったのが何よりの証拠だ。 それでも、とツルギを構える♂ローグ。 つっこみ所満載の声が聞こえたのはその時だった。 「てめえ! 俺のアラームに何してくれてんだーーーーーーーー!!」 横合いからそう叫びながら飛び込んで来た者は、横殴りにマンドリンを振るう。 ♀ローグはそれをしゃがんでかわしながらダマスカスをそいつの胴に突き立てるが、そいつは全く動じずに♀ローグの顔面に頭突きをかます。 「バドスケさん!?」 アラームの声が聞こえる。 その一撃で一瞬怯んだ♀ローグの脳天にバドスケはマンドリンを振り下ろす。 『ぐうっ! あのクソプリにどつかれた傷っ!』 ♀ローグの頭頂が大きく割け、血しぶきが舞う。 それでほぼ動きを止めた♀ローグだったが、そこにバドスケはとどめのマンドリンを同じく頭頂に向けて叩き込んだのだった。 ♀ローグを見下ろすバドスケ。 「なんでだよ……なんだってこんな事すんだよローグ姐さん!」 ♀ローグは俯せに倒れて身動き一つしない。 「あんたはさ! やれば良い人出来るじゃねーか! 俺あんたに助けてもらったじゃねーか! なのになんでこんな事を!」 微かに♀ローグの声が聞こえてくる。 「……クソクラエよ」 バドスケの目に涙が浮かぶ。 「ばっかやろーーーーーー!!」 ♀ローグはそれ以後、全く動かなくなった。 バドスケは二人を促すとその場を離れる。 これ以上♀ローグの姿を見ていたくないというバドスケの言葉に、♂ローグもアラームも黙ってそれに従った。 少し離れた場所で、不意に♂ローグがしゃがみ込む。 「お兄ちゃん!?」 アラームが駆け寄るのを片手で制する♂ローグ。 だが、バドスケも立ち止まると、バッグから赤ポーションを取り出す。 「確かに傷の手当てはした方がいいな。おら、俺がやってやるから痛い所言え」 ♂ローグは吐き捨てるように言った。 「何処もかしこも痛ぇーんだよ。あー! くそっ! なんだって俺は好き好んでこんな貧乏くじ引いてるんだちくしょうめ!」 それを見て、バドスケは心配するアラームに言う。 「とりあえず、命に別状は無さそうだ。ああ、それとアラーム……」 「ん?」 「挨拶がまだだったな。久しぶり、元気だったか?」 アラームはまだ♂ローグが心配だったが、バドスケに会えた事は嬉しい、この上無く嬉しい事であったので、笑みを見せる事が出来た。 「うん! ひさしぶりですバドスケさん! 私は元気でしたよ!」 バドスケのマンドリン二撃目を喰らった♀ローグは、最早これまでと覚悟を決めた。 『よりにもよってバドスケとはね……あ~、やっぱり神様は私が嫌いなんだろうねぇ』 俯せに倒れ伏す♀ローグ。度重なる脳への強い衝撃は♀ローグの運動神経を麻痺させていたが、それでも強靱な意志の力で体を動かす。 『早々に使うハメになるたー思わなかったわよ……色々と失う事になりそうだけど……』 青箱から出た切り札。使うことを躊躇していたそれを♀ローグは自らの額に貼り付ける。 「なんでこんな事を!」 バドスケの声が微かに聞こえる。 「……クソクラエよ」 ♀ローグが気が付いた時には、既に周囲には誰も残っていなかった。 四肢の動きをチェックすると、全て良好。それらを確認した後で立ち上がる♀ローグ。 ふと、視界を覆う一枚の札が目に入った。 「ふん、返魂の札とはね。いきなり人間辞める事になるなんざ、やっぱり日頃の行いだね~」 そう言って一人で笑う♀ローグ。 「さて、事ここに至った以上やんなきゃなんないわね~……一世一代の大博打!」 そう言うとダマスカスを取り出して自らの首輪に当て、一気にそれを切り裂いた。 ♀ローグも♀ノービス一刀両断の件で死体は爆発せずの可能性に気付いてはいたのだ。 そして返魂の札を使用した今の♀ローグは既に生者では無かった。 ……爆音はしなかった。 首輪を投げ捨てると、♀ローグは大きく高笑いを上げる。 開放感と高揚感、それらが一緒くたになって♀ローグは飽きる事無く高笑いを続けるのであった。   <♀ローグ、首輪から解放> <♂ローグ&アラーム、バドスケと合流> <♂ローグ、全身に切り傷> <♀アーチャー、離脱> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[161]] | [[目次]] | [[163]]
162.2人の悪党   ♀ローグは♀アサシンの行き先を読む。 「この北にあるもんって言ったらアルデバランぐらいだけど……禁止区域の事もあるしね~……さてどうしたもんかね」 そもそも奴が北に向かう理由すらわからないのだ、正確な判断なぞ望むべくもない。 「ふん、それじゃ事実優先といくかね」 今の♀ローグが知りうる知識の中では、♀アサシンは北に向かっているという事だけだ。 奴の行動目的はマーダーの抹殺だ。いや、殺してはいないが。 「そいつが私を殺さないで、何か別の事をしている。そもそもあの手の手練れで、殺し屋稼業にどっぷりつかったタイプが殺しに乗らないってなどう考えてもおかしいわね、しかも複数人で行動してるみたいだし」 いくつかの予測は立つ。だが断定は出来ない。 「アルデバランに何かある? ……それは、皆殺し以上にこの状況を脱するに適した方法……って事?」 情報が少なすぎて考えがまとまらない。♀ローグは乱暴に自分の髪の毛を掻く。 「あーもう! いらいらするねぇ!」 ♀ローグは気分転換とばかりにバックから青箱を取り出す。 「こういう時は派手にギャンブル! あっくまぷりちゃん♪ あんたの青箱に期待してるわよ~♪」 ぱかっ 中に入ってる物を一目見た時、♀ローグの頭にふと、危険すぎるギャンブルが浮かんだ。 「……流石の私でも、こいつはねぇ……最後の切り札とでもしましょうか」 それを懐にしまうと、そこらに落ちている木の枝を拾う。 「さて、いつまでもうだうだやっててもしょうがないし……当るも八卦、当らぬも八卦ってね」 そう言うと枝を空中に放り投げる。 それはくるくる回って地面に落ちると、ちょうどとある名所を指していた。 ♀ローグは感嘆の声をあげる。 「おやおや……なるほど、その手があったかい。確かにこれなら先回りにもなるしうってつけだね。いいわよいいわよ、行ってやろうじゃない……迷宮の森へ」 ♀アーチャーは迷宮の森を抜けると安堵の吐息を漏らす。 「ふう、なんとか迷わないですんだわね」 ♂ローグが不機嫌そうに言う。 「だから俺が覚えてるって言ったろ。そもそも通ったばっかじゃねえか。忘れる方がどうかしてるぜ」 「何よ~。大体ね……」 ♀アーチャーの言葉を♂ローグが制する。 「……待て。誰か居る」 そんな♂ローグに答える声は背後、上方から聞こえた。 「うん。ここよ、ここ」 ぎょっとなった一同が、入り口になってる石碑の上を見るとそこには♀ローグが座っていた。 すぐに♂ローグの後ろに隠れる♀アーチャーとアラーム。いい加減このPTでの動き方にも慣れてきたようだ。 そんな二人に、♂ローグは小声で言った。 「……俺が合図したら、二人共さっきの連中の所に向かって逃げろ。いいか、全力でだ。息が止まっても足は止めるんじゃねえぞ」 そして♂ローグが♀ローグに問いかける。 「ようご同業。俺達に何か用かい?」 ♀ローグは座ったまま言う。 「おっどろいた、なんだってローグのあんたがそんな小娘引き連れてるんだい? 慰み者にするとしちゃ趣味がえらく幅広すぎでないかい?」 ♂ローグは心の中で毒づく。 『慰み者にされてるのは俺の方だ、クソッタレ』 「成り行きだよ」 実際口にはぶっきらぼうそうにそう呟いただけだが。 しかしそれを聞いた♀ローグは眉をひそめる。 「成り行き? ばっかじゃないのアンタ。そんな小娘なんざ盾にもなりゃしない。さっさと殺して次に行った方が楽に決まってるじゃない」 簡単に殺すという単語が出た事で、♀アーチャーとアラームは体を堅くする。 「知らねえな。俺のやる事をてめえが指図するんじゃねえよ」 取り付くしまも無い♂ローグの返答に、♀ローグはぴんと来たらしい。 「あ……あはは……もしかして……あんた騎士の真似事でもしてるつもりかい?」 「知らねえって言ってんだろクソ女!」 ♂ローグの即答に、♀ローグは確信を持ったらしい。 「は、はははははは! こりゃおかしい、傑作だね! やっぱり男の子として生まれたからには女を守ってこそってかい? バーカ! あんたみたいなクソ悪党にそんな真似似合うとでも思ってるのかい!」 ♀ローグの言葉にも♂ローグは反応しない。 「バカね! 外道は外道らしくしてりゃいいんだよ! 敵の背後をつく、姿を隠して奇襲する、武器防具を剥ぎとってすっぱだかにする、そんな騎士様居てたまるかい! いや~、片腹痛いたーこの事さね」 なおも言いたい放題の♀ローグに、♀アーチャーがキレた。 「ちょっとアンタ! 黙って聞いてれば言いたい放題言ってくれてさ! あんたにこいつの何がわかるのさ!?」 ♂ローグの制止の手も振りきっての言葉だ。 それを聞いた♀ローグは更に大ウケする。 「あーっはっは! 大した調教っぷりだね! あんたその悪党面で女を口説くなんざよっぽどアコギな真似でもしたんじゃないのかい?」 その言葉に♀アーチャーは完全にキレた。 「ふっざけんじゃないわよこの年増! あんたみたいに世の中全部真っ黒みたいな生き方しか出来ない人と私達を一緒にしないでよね! こいつはね! 命がけで既に何人も助けてきてるのよ! ローグの全部が全部悪党なんて発想、ひねたバーサンの妄想の中だけにしてよね!」 ♀アーチャーの怒声を、♂ローグの怒鳴り声が制する。 「バカヤロウ! あっさり乗せられてるんじゃねえ! いいから今のてめーの役割思い出しやがれ!」 言われて気付く♀アーチャー、♂ローグの後ろに居たはずの自分がいつのまにか♂ローグの隣にまで出てきてしまっていた。 「ご、ごめん……」 ♂ローグは♀ローグから目を離さないまま♀アーチャーに言う。 「この女はゲームに乗ってる、間違いねぇ。その上でここまで生き延びて来たんだ……その意味を考えろ!」 ♀ローグはゆらりと立ち上がる。 それを見た瞬間♂ローグは叫んだ。 「逃げろっ!」 ♂ローグの言葉に、アラームと♀アーチャーはその場を走り去ろうとする。 ♀ローグは石碑の上から飛び降りると、♂ローグに向かって短剣を振るう。 自身のツルギでそれを受け止めるが、短剣ならではの、素早い切り返しを繰り返して♀ローグは♂ローグを翻弄する。 そんな♂ローグの後ろから聞こえる音。 ずべっ 「アラーム!?」 そして背後から聞こえる♀アーチャーの悲鳴にも似た声。 『あんのクソチビ! よりにもよってここでボケかますかっ!?』 果たして♂ローグの予想通り、アラームは思いっきりすっころんでいた。 「アラーム! 早く起きて走って!」 ♀アーチャーとは、少し距離が離れてるらしい。 なんとか今は♀ローグを押さえる事が出来ている。まだここで立ち上がれば間に合う。 ♂ローグはそう計算していたが、後ろから聞こえてくる音は、起きあがって軽快に走り出す音とはまるで違う、地面を這いずるような音と♀アーチャーの青ざめたような声であった。 「アラーム足くじいたの!? ああっもう! 今から行くからね!」 『だー! お前まで戻ってくるんじゃねー!』 そんな悲鳴を心で上げる♂ローグ。口を開いてる余裕すら無いのが口惜しい。 心が千々に乱れる♂ローグ。そんな隙を♀ローグが見逃すはずもない。 「ぬるいのよアンタ!」 手を狙った♀ローグの一撃をかわしそこねて、手の甲に傷を負う♂ローグ。危うくツルギを落してしまう所であった。 それと同時に♂ローグの横をすり抜け、♀ローグは戻ってきた♀アーチャーへと向かう。 「え? え? うそ嘘ーーーっ!!」 慌てて回れ右して逃げ出す♀アーチャー。 だが、既に走り出していて勢いのついている♀ローグはすぐに♀アーチャーに追いつく。 「おばさんすらーっしゅ♪」 嫌味満載かつ、ちょっとキュートにを演出しながらの♀ローグの一撃は、確実に♀アーチャーの命を奪うに足る攻撃であった。 「わっ! わわっ!」 慌ててすぐ隣の木を掴んで、急ブレーキをかける♀アーチャー。 それが幸いしたのか、なんとかその一撃はかわす事が出来たが、更なる問題が発生する。 「うっそー! なんで何がどーしてここに崖があるのよー!」 おっそろしく勾配のきつい斜面、いわゆる崖が♀アーチャーの更なる逃げ道の先にあったのだ。 「さて、おばさんぶれーどでトドメね♪」 根に持っているのか、おばさんを連呼する♀ローグ。 そこに♂ローグの声が響く。 「崖に飛べ!」 問い返す暇も無い。♀アーチャーはその声に、躊躇無く崖を飛び降り、滑り落ちていった。 ♀ローグは後を追っても、怪我をせずに斜面を降りきる自信はあった。 だが…… 「へ~。案外信用あるじゃないアンタ。でも、奇襲の機会を潰してまで助けたい子なのかいあれ?」 ♂ローグは♀ローグの前に立ち、一足飛びに飛びかかれる間合いを維持しつつ、♀ローグの出方を待っていた。 先ほどから♂ローグは一切♀ローグの言葉に反論しない。 一々もっともだと肯いているだけの話で、別段腹も立たない。 ♀ローグはそんな♂ローグの様子が気に食わないのか、機嫌悪そうにその場を走り去ろうとする。 すぐさま追撃に入る♂ローグ。その進む先が予想出来ただけに、放っておく事も出来なかったのだ。 そして♀ローグがその目的地にたどり着く直前に♀ローグを攻撃範囲内に捉え、ツルギを横凪ぎに振るう。 ♀ローグはそれをしゃがんでかわすが、♂ローグはすぐに今度は逆側からツルギを横凪ぎに振るって頭を下げたローグを狙う。 『切り返しが早いっ!?』 ♀ローグは予想外の♂ローグの攻撃精度にダマスカスでそれを受け止める事しか出来なかった。 それを♂ローグは力押しで押すのではなく、軽くジャンプして体を宙に浮かし、かみ合ったツルギとダマスカスを起点に両腕の力だけでツルギを振るって体を入れ替え、♀ローグの目的地に一足早くたどり着いたのだ。 「アラーム! 動けるか!?」 そこでは、アラームが涙目になったままうずくまっていたのだった。 「えぐ……足が動かない……うぅっ……ご、ごめんなさぁい」 かなり怪我はひどいらしい。 「ええい鬱陶しいから泣くな! ……こーすりゃ問題ねーだろ!」 こちらを伺う♀ローグに♂ローグは両手で持ったありったけの砂を叩きつけると、一挙動でアラームをおんぶして、その場から一目散に逃げ出したのだった。 「しつこいんだてめーはよ!」 ♀ローグは張り付くように♂ローグの隣を走る。 「ははっ! そのままかわしてみな!」 ♀ローグのダマスカスが♂ローグを切り裂く。 ♂ローグは防戦に徹して一切手を出さないが、♀ローグは走りながら♂ローグの前後左右から好き放題攻撃をしかけてくる。 しかもそれは致命的な一撃になりそうな攻撃ではなく、四肢を狙った攻撃ばかりでだ。 見る見る間に全身を切り刻まれる♂ローグ。だが、♂ローグの走る速度は決して落ちなかった。 『くそっ! なんて用心深いんだコイツ! カウンター狙う事さえできねえじゃねえか!』 大振りを期待しての防戦であったが、♀ローグは♂ローグが考えている以上に狡猾であった。 決してアラームは狙わない。わざわざやっかいな敵が弱くなってくれてるのに、その原因を取り除いたりはしないのである。 アラームは♂ローグにおんぶされながら♂ローグが切り刻まれる様を延々見続ける事となっていた。 「あぁ……お兄ちゃん! お兄ちゃん!」 自分の失敗のせいで♂ローグがこんな目に遭ってるのだ。そして激しい自責と後悔の念に苛まれながらもアラームには何をする事も出来ないのだ。 「お願いします! おにいちゃんを殺さないで! お願いしますっ! お兄ちゃんが死んじゃうよっ!」 わけもわからなくなりそう叫ぶアラーム。 そして今度は♂ローグの背中の上でじたばたと動き出す。 「こ、こらバカ喚くな! 動くな!」 「降ろしてお兄ちゃん! 私はいいからお兄ちゃん死なないでっ!」 「いいから黙ってそこで……」 そんな隙を♀ローグは見逃さない。 しかし、それは♂ローグも同様であった。 『来たなこの野郎!』 ♀ローグのダマスカスが♂ローグの首筋に迫る。だが、そのタイミングさえ読めればどんなに体勢がわるくともよけるだけなら可能だ。 ぎりぎりのタイミングでハイドをしかけ、ダマスカスをやり過ごすと♂ローグは片手でツルギを突き上げる。 ♀ローグは万全の体勢でそれをかわす事が出来るとふんで、ハイドを仕掛けるのを見送ったが、直後背筋に悪寒が走りその場からバックステップで大きく飛び下がる。 ♂ローグは、逆の腕でスチレを振るっていたのだ。♀ローグの足めがけて。 いつのまにやら、♀クルセが持っていたスチレを拝借していたらしい。 『クソッタレ! なんて勘の良い奴だ!』 ♀ローグは少し離れた場所で、ダマスカスを目線に構える。 ♂ローグは切り札をあっさりとかわされ、正直万策尽きていた。 立ち止まって♀ローグとにらみ合う♂ローグ。 アラームは♂ローグの背中で泣きながら謝り続けていた。 「ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいでお兄ちゃんが……ごめんなさい」 ♂ローグは目線を♀ローグに向けたまま言う。 「あのなアラーム。俺はお前に頼まれたからこんな真似してんじゃねぇ。こりゃ俺の意地だ。だから謝る事ぁねえのさ」 「で、でも! お兄ちゃんこんなに血が出てる! お兄ちゃん死んじゃうよ! そんなのヤだよぅ!!」 既に会話になって無い気がする♂ローグだったが、これ以上騒がれてはたまらんとばかりにぴしゃっと言う。 「いいからお前はそこで黙って見てろ。今から俺が鬼みたいに強いって所見せてやるからよ」 息が荒い、全身が痛くてたまらない、そろそろ出血による影響も出始める頃だ。 逃げ回りながら、なんとか利用できる地形は無いものかと探し続けていたのだが、そんな都合の良い物も見つけられなかった。 『万事休す……なんだけどな~。なんだって俺は諦めてねぇんだろ?』 おそらく以前の自分がこの状況になっていたらあっさりと負けを認めていたであろう。 しかし、今はまるでそんな気になれない。 こんな事を考えている間も、僅かな望みを賭けて♀ローグに挑む策を探し続けている。 『……俺は変わった? 俺は変わらない? ……くそっ、わかんねーよ! 俺にもわかんねーんだよ!』 真正面から飛び込んでくる♀ローグ。 ♂ローグは既に充分弱っている。さっきのスチレを当てられなかったのが何よりの証拠だ。 それでも、とツルギを構える♂ローグ。 つっこみ所満載の声が聞こえたのはその時だった。 「てめえ! 俺のアラームに何してくれてんだーーーーーーーー!!」 横合いからそう叫びながら飛び込んで来た者は、横殴りにマンドリンを振るう。 ♀ローグはそれをしゃがんでかわしながらダマスカスをそいつの胴に突き立てるが、そいつは全く動じずに♀ローグの顔面に頭突きをかます。 「バドスケさん!?」 アラームの声が聞こえる。 その一撃で一瞬怯んだ♀ローグの脳天にバドスケはマンドリンを振り下ろす。 『ぐうっ! あのクソプリにどつかれた傷っ!』 ♀ローグの頭頂が大きく割け、血しぶきが舞う。 それでほぼ動きを止めた♀ローグだったが、そこにバドスケはとどめのマンドリンを同じく頭頂に向けて叩き込んだのだった。 ♀ローグを見下ろすバドスケ。 「なんでだよ……なんだってこんな事すんだよローグ姐さん!」 ♀ローグは俯せに倒れて身動き一つしない。 「あんたはさ! やれば良い人出来るじゃねーか! 俺あんたに助けてもらったじゃねーか! なのになんでこんな事を!」 微かに♀ローグの声が聞こえてくる。 「……クソクラエよ」 バドスケの目に涙が浮かぶ。 「ばっかやろーーーーーー!!」 ♀ローグはそれ以後、全く動かなくなった。 バドスケは二人を促すとその場を離れる。 これ以上♀ローグの姿を見ていたくないというバドスケの言葉に、♂ローグもアラームも黙ってそれに従った。 少し離れた場所で、不意に♂ローグがしゃがみ込む。 「お兄ちゃん!?」 アラームが駆け寄るのを片手で制する♂ローグ。 だが、バドスケも立ち止まると、バッグから赤ポーションを取り出す。 「確かに傷の手当てはした方がいいな。おら、俺がやってやるから痛い所言え」 ♂ローグは吐き捨てるように言った。 「何処もかしこも痛ぇーんだよ。あー! くそっ! なんだって俺は好き好んでこんな貧乏くじ引いてるんだちくしょうめ!」 それを見て、バドスケは心配するアラームに言う。 「とりあえず、命に別状は無さそうだ。ああ、それとアラーム……」 「ん?」 「挨拶がまだだったな。久しぶり、元気だったか?」 アラームはまだ♂ローグが心配だったが、バドスケに会えた事は嬉しい、この上無く嬉しい事であったので、笑みを見せる事が出来た。 「うん! ひさしぶりですバドスケさん! 私は元気でしたよ!」 バドスケのマンドリン二撃目を喰らった♀ローグは、最早これまでと覚悟を決めた。 『よりにもよってバドスケとはね……あ~、やっぱり神様は私が嫌いなんだろうねぇ』 俯せに倒れ伏す♀ローグ。度重なる脳への強い衝撃は♀ローグの運動神経を麻痺させていたが、それでも強靱な意志の力で体を動かす。 『早々に使うハメになるたー思わなかったわよ……色々と失う事になりそうだけど……』 青箱から出た切り札。使うことを躊躇していたそれを♀ローグは自らの額に貼り付ける。 「なんでこんな事を!」 バドスケの声が微かに聞こえる。 「……クソクラエよ」 ♀ローグが気が付いた時には、既に周囲には誰も残っていなかった。 四肢の動きをチェックすると、全て良好。それらを確認した後で立ち上がる♀ローグ。 ふと、視界を覆う一枚の札が目に入った。 「ふん、返魂の札とはね。いきなり人間辞める事になるなんざ、やっぱり日頃の行いだね~」 そう言って一人で笑う♀ローグ。 「さて、事ここに至った以上やんなきゃなんないわね~……一世一代の大博打!」 そう言うとダマスカスを取り出して自らの首輪に当て、一気にそれを切り裂いた。 ♀ローグも♀ノービス一刀両断の件で死体は爆発せずの可能性に気付いてはいたのだ。 そして返魂の札を使用した今の♀ローグは既に生者では無かった。 ……爆音はしなかった。 首輪を投げ捨てると、♀ローグは大きく高笑いを上げる。 開放感と高揚感、それらが一緒くたになって♀ローグは飽きる事無く高笑いを続けるのであった。   <♀ローグ、首輪から解放> <♂ローグ&アラーム、バドスケと合流> <♂ローグ、全身に切り傷> <♀アーチャー、離脱> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[161]] | [[目次]] | [[163]]

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