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200.激闘プロンテラ南フィールド 中編 ♀ローグは目標目がけて一直線に走る。 それを少し遅れて追う♂ローグ。 その行き先に気付いて♂ローグは♀ローグの真意を測りかねた。 ♀ローグの走る先、そこには♂BSが居たのだった。 ♂BS、そして対する深淵の騎士子もバドスケもかなり消耗しているように見えた。 ♀ローグはそんな♂BSに向かって駆け、その足音に気付いたそちらを見もせずに当てずっぽうでブラッドアックスを振る。 もちろんそんな甘い攻撃の通用する♀ローグではない。 スライディングの要領であっさりとそれをかわして♂BSの横をすり抜ける。 ♂BSにとってはそれだけで済んだ。 だがそれだけで済まないのは深淵の騎士子だ。 ♂BSの体が邪魔になって♀ローグの姿は完全に死角になっていたのだ。 『♀ローグだとっ!?』 スライディングから立ち上がり、勢いそのままに深淵の騎士子に斬りつける♀ローグ。 ツヴァイハンターを盾代りになんとかその一撃を受け止めるが、すぐに打ち込んだ短剣の軌道が変化する。 それはなめるようにツヴァイハンターの表面を滑り降り、深淵の騎士子の膝を切り裂く。 『ぐっ!』 ツヴァイハンターをその位置から力任せに振るって、♀ローグを振り飛ばそうと深淵の騎士子は試みるが、既にその位置には♀ローグは居なかった。 懐深くまで踏み込んだ♀ローグは、深淵の騎士子の肩に手を置くと、信じられない脚力で宙に飛び上がっていたのだ。 そして、振るわれるツヴァイハンターの柄の部分に足を置き、その動きを制する。 あまりの芸当に、深淵の騎士子も驚愕に目を見開く。 しかし、体は同時に動いてくれた。 ツヴァイハンターを全力で振り上げ、後ろに向けて♀ローグを放り出そうとする深淵の騎士子。 ♀ローグはその動きを読んでいたのか、振り上げられる勢いを利用して、深淵の騎士子の肩に置いた手を起点に、更に高く逆立ちの要領で足を振り上げる。 この隙に残った左手で短剣を振るえれば、深淵の騎士子も容易く討ち取れたのであろうが、左腕はバランスを取るのに手一杯でそれ以外の事は流石に出来なかった。 そして空中で半回転し、♀ローグが手を置いた肩とは逆の肩に着地すると、すぐに深淵の騎士子をその足で蹴飛ばしながら飛び上がる。 更にその先にも目当ての人物が居たのだ。 「バドスケーーーーッ!!」 空中から飛び降りざまにダマスカスを突き立てる♀ローグ。 バドスケはマンドリンを盾に、♀ローグの体重ごとそれを受け止める。 ♀ローグはマンドリンに弾かれた勢いと重力にその身を任せて、体を後ろに倒しながら片手を地面につく。 そして無防備なバドスケの下半身に、低い体勢から足刀蹴りを食らわせた。 ほんの一瞬、♀ローグが♂BSの脇から飛び出してからほんの一瞬で、深淵の騎士子、バドスケの二人は♀ローグに張り倒されてしまったのだ。 蹴飛ばされ、よろめいていた深淵の騎士子も体勢を整え♀ローグに対するが、既に♀ローグもダマスカスを構えた状態で、その場に立ち上がっている。 バドスケもすぐに立ち上がり、♀ローグを二人で囲むように位置するが迂闊に踏み込めないでいた。 『バケモノかこやつ……』 『人間じゃねえよこの動き……』 ♀ローグは、視線の片隅で望み通りの展開が繰り広げられている事に満足しつつ、なんとかこの二人を押さえる方法を考えていた。 真横をすり抜け、深淵の騎士子に向かっていった♀ローグの姿を一瞬視界隅に捉えた後、♂BSは振り向き、その視線の先に居る♂ローグに狙いを定めた。 ♀ローグが♂BSを簡単にスルーした事に驚いた♂ローグは、♂BSの動きに反応が遅れる。 ブラッドアックスの魔力を活かし、驚異のスピードで♂ローグに迫る♂BS。 そこから繰り出されるブラッドアックスの一撃は、小手先の技なぞ不要である。 ただ全力で打ち降ろす。それを繰り返すだけでよほどの手練れでも無い限りあっさりとカタがつく。 ましてや得物が短剣しかない♂ローグなぞ、物の数ではなかった。 ここにきて♂ローグは♀ローグの企みに気付く。 『あのクソ女! 対戦相手の交換たーやってくれるぜ!』 相性のより悪い♂BSを♂ローグにぶつけ、自分は時間稼ぎでもして♂ローグが殺され、形勢が変わるのを待つつもりなのだ。 ♂BSもあの深淵の騎士子を♀ローグが抱えていてくれるというのであれば、文句も無い。 「やべぇな……こりゃ」 ♂BSの間合いに入らぬよう、ブラッドアックスを捌きながら後退する♂ローグ。 足の速さは相当な物だが、それでもいざ攻撃を仕掛けようとする時は前進が止まる。 そのタイミングを外さなければ、攻撃の瞬間に間合いの外に逃げる事も可能だが、それは♂BSの動きの速さ故、とんでもない労力を必要とする作業であった。 ♂ケミはアラームの手伝いのおかげで、なんとか包帯を巻き終える。 「ありがとう、二人だと簡単に出来たよ」 ♂ケミの感謝の言葉に、アラームは照れた笑いを浮かべた。 そして♂ケミはすぐに立ち上がると、黒馬とぺこぺこの二匹に向かって言う。 「僕達も行こう! 深淵の騎士子さんを助けるんだ!」 駆け出す♂ケミに二匹は付いていく。 「はいっ!」 そして何故かアラームも後をついていった。 根がとても素直に出来ているらしい。 じりじりと、距離を詰める深淵の騎士子とバドスケ。 それを見ながら心の中で呟く♀ローグ。 『それが必要なら手段を選ぶな……あんたにはそう教えたよ』 ♀ローグはバドスケに向かって言う。 「なんだいあんた。人殺しは嫌だのなんだの言っておいて、私の事はエラクあっさりと殺してくれたもんだね~」 憎しみの篭った目でバドスケは言い返す。 「あんたがアラームに手を出すからだろうが! 大体姐さんばりばり元気炸裂パワーじゃねえか! どうなってんだ一体!」 深淵の騎士子に油断の無い目線を送りつつ♀ローグは答える。 「ふ~ん、じゃあその勢いで他の連中も殺したらどうだい? あんたが最初に言ってた通りじゃないかい。無抵抗のノビ君もアリスちゃんも、そして私も殺したんだ。まだまだイケるよあんた♪」 「ふざけんな! それはアラームの為にならないって俺はわかったんだよ! あんたがそう教えてくれたんじゃ……」 「待てっ!」 バドスケの言葉を遮って深淵の騎士子が叫ぶ。 ♀ローグはそれを見てほくそ笑む。 『ん~。やっぱり前からの仲間じゃないんだね~。なら、バドスケが無抵抗の人を殺したって聞いて心穏やかじゃいられないだろうね~』 にしても、バドスケが深淵の騎士子を説得するまでの間だけの話であろうが、それで♀ローグには充分な時間稼ぎになる。 そう考えていたのだが、事態は思わぬ方向に進み始める。 「お主……今アリスと言ったか?」 ♀ローグに訊ねる深淵の騎士子。 ♀ローグは肩をすくめる。 「ああ、言ったさ。バドスケが殺した相手って聞いてるけどね……知り合いかい?」 深淵の騎士子は憤怒の表情でバドスケを見る。 「……それは真かバドスケよ?」 バドスケは、アリスを殺した事を罪と自覚していた。 そして出来ればそれを償いたいと考えていた。 そんなバドスケが、この言葉に偽りを吐けるはずが無かった。 「ああ、そうだ。アリスは……俺が殺した」 突然、激昂した深淵の騎士子がバドスケに斬りかかる。 バドスケはマンドリンでそれを受け止めるが、深淵の騎士子の力にマンドリンごとはじき飛ばされる。 「貴様……アリスは無抵抗であったと? それを貴様が殺したというのかっ!?」 今の一撃から欠片の容赦も感じ無かった事から、深淵の騎士子はこの件を血を見ずに済ませる気は無いとわかった。 しかし、それでもバドスケは嘘はつけなかった。 「そうだ。俺は……無抵抗のアリスを殺したんだ……」 罪の意識はバドスケの心の奥底に根ざしている。それは理屈ではどうにもならない部分であった。 「外道めがっ! 死して償えっ!」 深淵の騎士子の言葉は納得の出来る事だ。バドスケもそうするべきだと心から思っていた。 だが、体はそうは簡単に納得してくれない。 必死になって身をよじり、ツヴァイハンターの重い一撃を辛うじてかわす。 冷静さを欠いている深淵の騎士子の剣は深く地面をえぐり、その隙にバドスケは立ち上がってマンドリンを構える。 「待ってくれ! 俺はそれでもアラームを……」 「これ以上貴様は何もしゃべるでないわーーーーー!!」 ♀ローグは仕掛けた罠が思わぬ効果を発揮した事に内心で喝采を送っていた。 『ここまで都合の良い事態は考えて無かったわね~。こりゃ、しばらくほっといても平気そうね。んじゃー私もローグ君殺しに参加するとしましょうか』 コレ幸いと♀ローグはこの場を二人だけにして、♂ローグと♂BSを追う。 ♂ローグは♂BSと交戦しながら、とうの昔にこの場から後退していたのだった。 ♂ケミ、黒馬、ペコ、アラームの二人と二匹が現場にたどり着いた時、二人の決着はつかんとしていた。 マンドリンを跳ね飛ばされ、大地に両手両膝を付くバドスケ。 立ち上がろうともがくが、打ち据えられた全身はまるで言うことを聞いてくれない。 そんなバドスケを冷ややかに見下ろす深淵の騎士子。 「地獄でアリスに詫びよ。ゲスめがっ!」 ♂ケミはバドスケが何者なのか知らない。ただ♀ローグが居ない事を不思議に思っただけだ。 だが、アラームはそうではなかった。 「バドスケさんっ!」 つい先ほどの話だ。 アラームの目の前で大事な人が殺されそうになった。 ここでは、アラームの知らない理由でいきなり大事な人が死んでしまうかもしれないのだ。 幼いアラームにもその時、その事がわかったのだ。 だから、今回もこのままであったなら、きっとバドスケは死んでしまう。 そうアラームは考えて、走った。 深淵の騎士子は加減も隙も無しの一撃を振り下ろす。 駆け寄るアラームに気づけなかったのは、それが復讐を成す最後の一撃であったからかもしれない。 この時、深淵の騎士子の脳裏には無惨に殺されたであろうアリスの悲しそうな顔と、惨めに倒れ伏すバドスケが粉々になる姿しか無かったのだ。 そんな深淵の騎士子の視界にアラームが飛び込んできたのは、ツヴァイハンターがバドスケを捉えるコンマ数秒前であった。 バドスケは自分の名を呼ぶアラームの声に顔を上げる。 一直線にこちらに向かうアラームに、バドスケは声を上げて言いたかった。 『来るなっ!』 だが、その声は打撃による衝撃と疲労のせいで音を作らず、ただ掠れた空気の擦過音にしか成り得なかった。 そんなバドスケに抱きつくアラーム。 直後に襲ってきたツヴァイハンターによる衝撃は、予想していたよりも遙かに小さい物であった。 二人で抱き合って転がり、それが止まるなりバドスケは体を起こし、アラームを抱える。 「おいアラーム! お前なんて事を……」 そこでバドスケの言葉が止まる。 アラームの脇腹から湯水のように血が噴き出している事に気付いたから。 慌てて傷口を上に向ける。 「アラーム! おい! なんてこった……ちくしょう!」 アラームは必死に振るえる手を上げる。 すぐにそれに気付いたバドスケはその手を握った。 「バドスケさぁん……死んじゃヤだよう……バドスケさんが死んじゃうのはヤだよぅ」 それだけ呟くと、アラームの全身から力が抜けた。 バドスケは振るえる手で、アラームの手を握り返す。 「おい、アラーム。何言ってんだよ……なあ、何寝てんだよお前……」 二人の様子を見た深淵の騎士子は、何かに圧されるようにその場から後ずさる。 その音を聞いたバドスケは、アラームを大地に横たえると、数歩先にあるマンドリンを拾う。 そして抑揚の利かない調子で深淵の騎士子に言う。 「なあ、アラームがお前に何をした?」 マンドリンを片手に持ち、それを引きずりながら一歩づつ近づく。 「アラームが、お前に、何をした? って聞いてるんだよ。答えろクソ野郎」 深淵の騎士子はツヴァイハンターを構え、バドスケをにらみ返す。 「飛び出してくるそやつが悪い。文句でもあるか屑」 「アラームが悪いだぁ? 言うに事欠いてこの野郎が……殺してやらぁーーーー!!」 疲労と怪我で動かなかったはずのバドスケが、鬼気迫る勢いで深淵の騎士子に迫る。 対する深淵の騎士子も、先ほどから微塵も怒りが消える様子は無い。 そして二人は激突した。 ♂ケミには事態が全く飲み込めない。 だが、深淵の騎士子が傷つけたこの子に罪があるとも思えなかった。 だから、♂ケミはアラームに駆け寄り、微かな可能性に賭けて治療を始めたのだ。 もう十回目になろうか、バドスケは深淵の騎士子のツヴァイハンターに跳ね飛ばされて、すぐに飛び起きる。 今のバドスケには深淵の騎士子しか見えていない。 そんなバドスケだったが、跳ね飛ばされ転がる間に見えた物の中で、とても見過ごせない物を見つけてしまった。 そいつは事もあろうに、倒れたアラームに何やらしているのだ。 「何してんだてめーーーーーー!!」 突然振り返ってアラームの治療に務める♂ケミに駆け寄る。 それを見た深淵の騎士子は頭から冷水をぶっかけられた様に我に返った。 アリスと同じくらい大切な♂ケミに危険が迫っている。 最後まで残って一緒に居てくれる大事な仲間に、バドスケは武器をかざして走り寄っているのだ。 「ま、待て! 逃げろアルケミ!」 悲鳴にも似た叫び声をあげる深淵の騎士子だったが、バドスケは止まらない。 ♂ケミもそんなバドスケに気付くが、その場から逃げようとしない。 奥歯をぐっと噛みしめて、大地に足を伸ばして待ちかまえる。 そうして振り下ろされたマンドリンは、♂ケミの頭部に叩きつけられるが、バドスケが全力で振るったそれを、♂ケミは頭で受け止め、全身で堪える。 再度マンドリンを振り上げるバドスケを♂ケミは怒鳴りつけた。 「治療の邪魔をするな! 今僕が動けないのが見えないのか!」 怒鳴り声もさる事ながら、言葉の内容に動きが止まるバドスケ。 その背後から深淵の騎士子が駆け寄ってくる。 大きくツヴァイハンターを振り上げ、バドスケを狙う深淵の騎士子に、やはり♂ケミは怒鳴った。 「深淵さん! そんな事は後にしてこっちを手伝え! 何よりも優先するのはこの子の命だろう!」 ♂ケミの怒鳴り声に、深淵の騎士子はびくっと身を震わせてその場に止まる。 それを見計らって♂ケミは指示を出す。 「深淵さんは水筒から水をありったけ持ってきて! そこの骨さん! あなたはリュックからタオルの代りになるものをなんでもいいから山ほど用意して!」 考える事が多すぎて、いきなり行動に移せない二人。 そんな二人を更に怒鳴りつける♂ケミ。 「さっさとしろ! この子が死んでもいいのか!」 有無を言わさぬ迫力に、二人は同時に♂ケミの指示に従って行動を始めたのだった。 <♂ローグ 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )所持品:ツルギ、 スティレット、山程の食料> <アラーム 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )所持品:大小青箱、山程の食料 備考:瀕死の重傷を負う> <バドスケ 現在地/プロ南 ( prt_fild08 )所持品:マンドリン、アラーム仮面 アリスの大小青箱 山程の食料 備考:特別枠、アラームのため皆殺し→焦燥→落ち着き> <♂BS 現在位置/プロ南 ( prt_fild08 ) 所持品:ブラッドアックス(罅あり)、ゴスリン挿しロンコ 備考/目的はGM秋菜への復讐の一撃> <♂アルケミ 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品/ハーブ類青×50、白×40、緑×90、赤×100、黄×100、石をつめこんだ即席フレイル、無形剣> <深遠の騎士子 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品/折れた大剣(大鉈として使用可能)、ツヴァイハンター、遺された最高のペコペコ 備考:アリスの復讐> <♀ローグ 現在位置/プロ南 (prt_fild08)所持品:ダマスカス、ロープ 備考:首輪無し・アンデッド> ---- | 戻る | 目次 | 進む | | [[199]] | [[目次]] | [[201]] |

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